説明

シートベルトリトラクタおよびこれを備えたシートベルト装置

【課題】静音性をより一層効果的に向上しつつ、しかも動力伝達をより安定して行う。
【解決手段】円環状のインターナルギヤ部材24は、強度が金属に比べて低い異音発生抑制材で形成される。また、円環状フランジからなる変形抑制部22dがキャリア22の外周縁に設けられる。したがって、遊星歯車機構の作動時、インターナルギヤ部材24が部分的に円環状の外方に向かって突出変形する。このとき、インターナルギヤ部材24の突出変形部分が変形抑制部22dの内周面に当接する。これにより、インターナルギヤ部材24の変形が効果的に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に装備されるとともに、モータの回転が遊星歯車機構を用いた動力伝達機構で減速されて伝達されるスプールで、乗員を拘束するためのシートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタおよびこれを備えたシートベルト装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車両に装備されているシートベルト装置は、衝突時等の車両に大きな減速度が作用した場合のような緊急時に、シートベルトで乗員を拘束することにより乗員のシートからの飛び出しを抑止している。
【0003】
このようなシートベルト装置においては、シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタが設けられている。このシートベルトリトラクタは、シートベルトを巻き取るスプールを常時シートベルト巻取り方向に付勢するうず巻きばね等のスプリング機構を備えている。このスプリング機構の付勢力により、シートベルトは非装着時には全量(自由状態のシートベルトをスプリング機構で巻取り可能な量:以下、同じ)をスプールに巻き取られている。また、シートベルトは装着時にはスプリング機構の付勢力に抗して引き出されて、乗員に装着される。そして、シートベルトリトラクタは、前述の緊急時にロック機構が作動してスプールの引出し方向の回転が阻止されることによりシートベルトの引出しが阻止される。これにより、緊急時にシートベルトは乗員を拘束する。
【0004】
ところで、このような従来のシートベルトリトラクタには、モータの回転を遊星歯車機構を用いた動力伝達機構で減速してスプールに伝達させ、モータの駆動トルクでシートベルトをスプールに巻き取ることで、シートベルトの張力を車両の走行状況等に応じて制御してシートベルトによる乗員の拘束力を制御するシートベルトリトラクタが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図14(A)に示すように、この特許文献1に記載のシートベルトリトラクタの動力伝達機構に用いられている遊星歯車機構100は、モータの回転が伝達されるサンギヤ101と、キャリア102と、所定数のプラネットギヤ103と、円環状のインターナルギヤ104とを備えている。この遊星歯車機構100では、モータの駆動トルクがサンギヤ101に伝達されるとともに、プラネットギヤ103を支持するキャリア102からシートベルトリトラクタのスプールに伝達される。その場合、遊星歯車機構100のインターナルギヤ104は回転可能に設けられる。また、動力伝達機構はインターナルギヤ104の回転を制御することで遊星歯車機構100の動力伝達経路を遮断または接続するクラッチパウル105を備えている。
【0006】
そして、このシートベルトリトラクタでは、クラッチパウル105の係止爪105aがインターナルギヤ104のラチェット歯104aに係止されないときはンターナルギヤ104が回転可能とされることで、動力伝達機構の動力伝達経路が遮断される。これにより、サンギヤ101に伝達されたモータの駆動トルクがキャリア102からスプールに伝達されない。また、図14(A)に示すようにクラッチパウル105の係止爪105Aがインターナルギヤ104のラチェット歯104aに係止されたときはインターナルギヤ104のシートベルト巻取り方向βの回転が阻止されることで、動力伝達機構の動力伝達経路が接続される。これにより、サンギヤ101に伝達されたモータの駆動トルクがキャリア102からスプールに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4458526号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来のシートベルトリトラクタに用いられている遊星歯車機構100の各構成部材は、一般に鉄やアルミニウム等の金属で形成されている。このように、遊星歯車機構100の各構成部材が金属で形成されると、遊星歯車機構100の作動時に金属どうしの衝接により異音が発生する。このため、従来のシートベルトリトラクタに用いられている遊星歯車機構100では、静音性が十分でないという問題がある。
【0009】
そこで、遊星歯車機構100の静音性をできるだけ向上させることが求められる。遊星歯車機構100の各構成部材のうち、静音性を向上することが可能な構成部材として、円環状のインターナルギヤ104が考えられる。すなわち、インターナルギヤ104を金属より異音の発生が抑制される例えば合成樹脂等の異音発生抑制材で形成することで、シートベルトリトラクタにおける遊星歯車機構100の静音性を向上することが可能となる。
【0010】
しかしながら、インターナルギヤ104を合成樹脂等の異音発生抑制材で形成した場合、インターナルギヤ104の強度が金属製のインターナルギヤ104に比べて低下する。このため、クラッチパウル104がインターナルギヤ104のシートベルト引出し方向と同方向の回転を阻止した状態で、乗員の慣性でシートベルトが引き出されようとすることで、図14(B)に示すようにプラネットギヤ103の外歯103aの歯先がインターナルギヤ104の内歯104bの歯先部に衝突する。すると、外歯103aが内歯104bを外方へ(図14(B)において略下方へ)押圧する力が内歯104bに加えられるため、インターナルギヤ104のクラッチパウル105との係合部およびその近傍部に応力集中が生じ、図14(A)に二点鎖線で示すように円環状のインターナルギヤ104が円環状の外方に向かう方向に突出するように弾性的にかつ部分的に変形する(歪む)ことがある。その場合、インターナルギヤ104とクラッチパウル105との係合部から、キャリア102のシートベルト巻取り方向βの回転方向で最も近い位置にあるプラネットギヤ103近傍で、インターナルギヤ104が最大に突出変形する。そして、このインターナルギヤ104の最大変形は、キャリア102のシートベルト巻取り方向βの回転方向に順次伝播していく。このように、インターナルギヤ104が変形すると、プラネットギヤ103の外歯103aおよびインターナルギヤ104の内歯104bの各位相が相対的にずれ、更にはプラネットギヤ103の外歯103aが対応するインターナルギヤ104の内歯104bを乗り越えて歯飛びが生じてしまい、遊星歯車機構において動力伝達が安定して行われなくなるという問題がある。
また、シートベルトリトラクタは車室内に設けられることから小型コンパクト性が求められるが、インターナルギヤ104の外方への変形を異音発生抑制材の強度のみで抑制しようとすると、インターナルギヤ104が非常に大型になり、シートベルトリトラクタのコンパクト性が損なわれてしまうという問題もある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、静音性をより一層効果的に向上しかつコンパクト性を保持しつつ、しかも動力伝達をより安定して行うことのできるシートベルトリトラクタおよびこれを備えたシートベルト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するために、本発明に係るシートベルトリトラクタは、シートベルトを巻取るスプールと、このスプールを回転させる駆動トルクを発生するモータと、前記モ
ータの駆動トルクを遊星歯車機構を介して前記スプールに伝達する動力伝達機構とを少なくとも備え、モータの駆動トルクにより前記シートベルトを前記スプールに巻き取るようになっているシートベルトリトラクタにおいて、前記遊星歯車機構が、前記モータの駆動トルクが伝達されるサンギヤと、回転可能に設けられるとともに、内周面に内歯を有しかつ外周面にラチェット歯を有するインターナルギヤ部材と、前記サンギヤおよび前記インターナルギヤ部材の内歯のいずれにも噛合する所定数のプラネットギヤと、前記所定数のプラネットギヤを回転可能に支持するとともに、前記スプールに前記モータの駆動力を伝達するキャリアとを有し、前記動力伝達機構が、前記インターナルギヤ部材のラチェット歯に係合しないことで前記インターナルギヤ部材の回転を可能にして動力伝達経路を遮断する非作動位置と前記インターナルギヤ部材のラチェット歯に係合することで前記インターナルギヤ部材の回転を阻止して前記動力伝達経路を接続する作動位置との間で移動可能に設けられるクラッチパウルを有し、前記インターナルギヤ部材が前記遊星歯車機構の作動時に発生する異音を抑制する異音発生抑制材で形成されており、前記インターナルギヤ部材が変形するのを抑制する変形抑制部を備えていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係るシートベルトリトラクタは、前記変形抑制部が前記キャリアに設けられていることを特徴としている。
更に、本発明に係るシートベルトリトラクタは、前記キャリアが円環状部を有しており、前記変形抑制部が前記キャリアの円環状部に形成され、前記インターナルギヤ部材がその変形時に当接することで前記インターナルギヤ部材が変形するのを抑制する円環状の変形抑制部であることを特徴としている。
【0014】
更に、本発明に係るシートベルトリトラクタは、前記円環状の変形抑制部が、前記変形抑制部の前記円環状の円周方向の全周にわたって連続して設けられるか、または前記プラネットギアにそれぞれ対向する前記キャリアの所定領域に前記変形抑制部の前記円環状の円周方向に沿って断続的に設けられることを特徴としている。
更に、本発明に係るシートベルトリトラクタは、前記円環状の変形抑制部が、円環状フランジまたは円環状突起で形成されていることを特徴としている。
更に、本発明に係るシートベルトリトラクタは、前記異音発生抑制材が合成樹脂であることを特徴としている。
【0015】
一方、本発明に係るシートベルト装置は、乗員を拘束するシートベルトと、前記シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタと、前記シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、このタングが挿入係合されるバックルとを少なくとも備え、前記タングを前記バックルに挿入係合することで前記シートベルトが乗員に装着されるシートベルト装置において、前記シートベルトリトラクタが前述の本発明のシートベルトリトラクタのいずれか1つからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明に係るシートベルトリトラクタによれば、動力伝達機構に用いられる遊星歯車機構のインターナルギヤ部材が異音発生抑制材で形成されるので、遊星歯車機構の作動時に異音の発生を抑制することができる。これにより、静音性が効果的に向上することができる。
【0017】
また、インターナルギヤ部材が異音発生抑制材で形成されることで、インターナルギヤ部材の強度が金属で形成される場合に比べて低下するため、インターナルギヤ部材は円環状の外方に向かって突出するように部分的に弾性変形する可能性がある。しかし、このようなインターナルギヤ部材の変形を抑制する変形抑制部が設けられているので、この変形抑制部によりインターナルギヤ部材の変形を効果的に抑制することができる。これにより、プラネットギヤの外歯とインターナルギヤ部材の内歯とを安定して噛合させることがで
きるので、プラネットギヤをスムーズに回転させることができる。このようにして、この動力伝達機構の遊星歯車機構では、静音性をより一層効果的に向上することができるとともに、動力伝達をより安定して行うことが可能となる。
更に、変形抑制部がインターナルギヤ部材の変形抑制の必要時にのみ変形抑制作用を行う。したがって、通常時はインターナルギヤ部材が変形抑制部に接触することはない。これにより、インターナルギヤ部材が比較的摩耗しやすい異音発生抑制材で形成されても変形抑制部に接触することによる摩耗を抑制できるとともに、インターナルギヤ部材と変形抑制部との接触による異音の発生も防止することができる。特に、変形抑制部がキャリアに円環状フランジまたは円環状突起で形成されることで、簡単な構造でこのようなインターナルギヤ部材の摩耗を効果的に抑制できるとともにインターナルギヤ部材と変形抑制部との接触による異音の発生を効果的に防止することができる。
更に、インターナルギヤ部材を異音発生抑制材で形成することによりインターナルギヤ部材の強度が低下しても、変形抑制部によりインターナルギヤ部材の変形を抑制できることから、インターナルギヤ部材を小型コンパクトに形成することができ、シートベルトリトラクタのコンパクト性を保持することができる。
【0018】
一方、本発明のシートベルトリトラクタを備えた本発明のシートベルト装置によれば、シートベルトリトラクタが静音性を向上しつつ、動力伝達を安定して行うことができることから、車室内の静粛性を一層良好にしつつ乗員の拘束性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の一例を備えるシートベルト装置を模式的に示す図である。
【図2】図2(A)はこの例のシートベルトリトラクタの左側面図、図2(B)は図2(A)におけるIIB−IIB線に沿う断面図である。
【図3】図3(A)は図2(A)におけるIIIA−IIIA線に沿う断面図、図3(B)は図2(A)におけるIIIB−IIIB線に沿う断面図である。
【図4】この例のシートベルトリトラクタに用いられる動力伝達機構を説明する図である。
【図5】図5(A)は図4におけるVA−VA線に沿う断面図、図5(B)は図4におけるVB−VB線に沿う断面図である。
【図6】図4に示す動力伝達機構のサンギヤ部材を示す図である。
【図7】図7(A)は図4に示す動力伝達機構のキャリアを示す平面図、図7(B)は図7(A)におけるVIIB−VIIB線に沿う断面図である。
【図8】図8(A)は図7(B)におけるVIIIA部でかつ図8(B)におけるVIIIA−VIIIA線に沿うの部分拡大断面図、図8(B)はキャリアとインターナルギヤ部材との部分拡大図、図8(C)は図8(B)におけるVIIC−VIIC線に沿う断面図である。
【図9】図9(A)は図4に示す動力伝達機構のインターナルギヤ部材を示す斜視図、図9(B)はインターナルギヤ部材の変形例を示す斜視図である。
【図10】図10(A)は本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の他の例を示す、図8(A)と同様の部分拡大断面図、図10(B)は本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の更に他の例を示す、図8(A)と同様の部分拡大断面図である。
【図11】本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の更に他の例を示す、図4と同様の図である。
【図12】図12(A)は本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の更に他の例におけるキャリアとインターナルギヤ部材とを示す図、図12(B)は図12(A)におけるXIIB−XIIB線に沿う部分拡大断面図である。
【図13】図13(A)は本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の更に他の例におけるキャリアとインターナルギヤ部材とを示す図、図13(B)は図13(A)におけるXIIIB−XIIIB線に沿う部分拡大断面図である。
【図14】図14(A)は従来のシートベルトリトラクタの動力伝達機構を部分的に示す図、図14(B)は図14(A)に示す動力伝達機構の作動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の一例を備えるシートベルト装置を模式的に示す図である。
【0021】
図1に示すように、この例のシートベルト装置は、基本的には従来公知の三点式シートベルト装置と同じである。図中、1はシートベルト装置、2は車両シート、3は車両シート2の近傍の車体に配設されたシートベルトリトラクタ、4はシートベルトリトラクタ3のスプールに引き出し可能に巻き取られかつ先端のベルトアンカー4aが車体の床あるいは車両シート2に固定されるシートベルト、5はシートベルトリトラクタ3から引き出されたシートベルト4を乗員のショルダーの方へガイドするベルトガイドアンカー、6はこのベルトガイドアンカー5からガイドされてきたシートベルト4に摺動自在に支持されたタング、7は車体の床あるいは車両シート2に固定されかつタング6が係脱可能に挿入係止されるバックルである。このシートベルト装置1におけるシートベルト4の装着操作および装着解除操作も、従来公知のシートベルト装置と同じである。
【0022】
図2(A),(B)および図3(A),(B)に示すように、この例のシートベルトリトラクタ3は、図2(B)において左右両側壁8a,8bを有するコ字状のフレーム8と、
シートベルト4を巻き取るスプール9と、通常時スプール9と一体的に回転するとともに衝突時等の所定減速度以上の大きな減速度が発生する緊急時にシートベルト引出し方向の回転が阻止されるロッキングベース10と、フレーム8の一方の側壁8aに設けられかつ前述の緊急時に作動してロッキングベース10のシートベルト引出し方向の回転を阻止するロック機構11と、スプール9およびロッキングベース10間に設けられかつエネルギ吸収部材であるトーションバー12と、フレーム8の一方の側壁8aに設けられかつ緊急時での大きな減速度を感知してロック機構11を作動する減速度感知機構13と、フレーム8に設けられかつ緊急時の初期に作動してスプール9をシートベルト巻取り方向に回転させるプリテンショナー14と、フレーム8の他方の側壁8bに設けられかつスプール9を常時シートベルト巻取り方向に付勢するスプリング機構15と、フレーム8の他方の側壁8bに設けられかつスプール9を回転するための駆動トルクを発生するモータ16と、フレーム8の他方の側壁8bに設けられかつモータ16の駆動トルクを減速してスプール9に伝達する動力伝達機構17とを備えている。したがって、この例のシートベルトリトラクタ3は、トーションバー12およびプリテンショナー14を有するとともにスプール9がモータ16の駆動トルクにより回転駆動されるモータリトラクタとして構成されている。
【0023】
図2(B)、図3(A),(B)、および図4に示すように、動力伝達機構17は、モ
ータギヤ18と、第1中間ギヤ19と、第2中間ギヤ20と、サンギヤ部材21と、キャリア22と、所定数のプラネットギヤ23と、円環状のインターナルギヤ部材24とを備えている。サンギヤ部材21、キャリア22、プラネットギヤ23、およびインターナルギヤ部材24により、遊星歯車機構が構成される。
【0024】
モータギヤ18はモータ16のモータ回転軸16aに一体回転可能に取り付けられている。このモータギヤ18の外歯18aは第1中間ギヤ19の外歯19aに常時噛合している。その場合、第1中間ギヤ19はモータギヤ18の回転で減速されて回転するようにされている。第2中間ギヤ20は第1中間ギヤ19に一体回転可能にかつ同心状に設けられる。
【0025】
図3(A),(B)、図4、図5(A),(B)、および図6に示すように、サンギヤ部材21は、中心部に配置された円環状のサンギヤ21aと、外周に形成された外歯21bとを有する。第2中間ギヤ20の外歯20aはサンギヤ部材21の外歯21bに常時噛合している。その場合、サンギヤ部材21は第2中間ギヤ20の回転で減速されて回転するようにされている。すなわち、サンギヤ20aも第2中間ギヤ20の回転で減速されて回転する。このサンギヤ部材21はトーションバー12に相対回転可能に支持される。なお、図4には、動力伝達機構の各構成要素を明確に理解することができるようにするために、サンギヤ部材21やキャリア22等の動力伝達機構の構成要素の一部は切り欠いて示されている。
【0026】
図2(B)、および図3(A),(B)に示すように、キャリア22は、第1および第
2中間部材25,26を介してスプール9と一体回転可能に設けられる。図7(A),(B)に示すように、このキャリア22は円環板状部22aを有する。この円環板状部22aは、その中心部に形成された比較的大きな円形の開口22bと、この開口22bの周囲に沿って円周方向に等間隔に形成されかつプラネットギヤ23を支持する6個の支持孔22cと、インターナルギヤ24の弾性変形を抑制するための円環状フランジで形成される変形抑制部22dとを有する。図8(A)に示すように、この例の変形抑制部22dは円環板状部22aの外周縁にその全周にわたってかつ円環板状部22aに対して直角または略直角に突出するようにして形成されている。その場合、変形抑制部22dの先端面22fが変形抑制部22dの内外周面に対して直角または略直角(つまり、後述するクラッチパウル27の一側面と平行または略平行)に形成されているとともに、変形抑制部22dの内周面と円環板状部22aの面とがエッジ状に当接されている。
【0027】
図2(B)、図3(A),(B)、図4、および図5(A),(B)に示すように、プラネットギヤ23は6個、円周方向に等間隔に配置されているとともに、いずれもキャリア22の支持孔22cに設けられた対応する軸22eに回転可能に支持されている。なお、キャリア22のプラネットギヤ23と反対側には回転センサ28が配設されている。
【0028】
図2(B)、図3(A),(B)、図4、図5(A),(B)、および図9(A)に示すように、インターナルギヤ部材24は、後述するクラッチパウル27がインターナルギヤ部材24に係合したとき加えられる外力で弾性変形可能な合成樹脂等の異音発生抑制材で円環状に形成されている。この異音発生抑制材としては、例えば、66ナイロンにガラス繊維を添加した材料等を用いることができるが、これに限定されるものではなく、金属より異音の発生を抑制することができかつインターナルギヤ部材24を形成することができる材料であれば、どのような材料も使用することが可能である。このインターナルギヤ部材24は、内周縁に形成された所定数の内歯24aと、外周縁に形成された所定数のラチェット歯24bとを有する。各プラネットギヤ23は、いずれもサンギヤ20aとインターナルギヤ部材24の内歯24aとに常時噛合している。
【0029】
図4に示すようにフレーム8の他方の側壁8bには、係止爪27aを有するクラッチパウル27が回転可能に支持されている。その場合、クラッチパウル27は、図4に二点鎖線で示す非作動位置と図4に実線で示す作動位置との間で回転可能とされている。クラッチパウル27の係止爪27aは非作動位置ではインターナルギヤ部材24のラチェット歯24bと係合不能とされ、また作動位置ではラチェット歯24bと係合可能とされる。そして、クラッチパウル27の係止爪27aがインターナルギヤ部材24のラチェット歯24bと係合しない状態では、インターナルギヤ部材24がシートベルト引出し方向αと同方向およびシートベルト巻取り方向βと同方向のいずれにも回転可能とされる。また、クラッチパウル27の係止爪27aがインターナルギヤ部材24のラチェット歯24bと係合した状態では、インターナルギヤ部材24のシートベルト引出し方向の回転が阻止され
る。このクラッチパウル27は図示しないモータ等のクラッチパウル駆動部材により回転駆動される。
【0030】
ところで、インターナルギヤ部材24が強度の比較的低い異音発生抑制材で形成されることから、前述と同様に、パウル17がラチェット歯24bに係合されてインターナルギヤ部材24のシートベルト引出し方向αと同方向の回転が阻止された状態で、乗員の慣性でシートベルトが引き出されようとすると、図8(B),(C)に拡大しかつ二点鎖線で
示すようにインターナルギヤ部材24が部分的に外方へ突出するように弾性変形する。そこで、この例の動力伝達機構17では、キャリア22の外周縁に前述のようにこのインターナルギヤ部材24の弾性変形を抑制するための変形抑制部22dがインターナルギヤ部材24の各ラチェット歯24bに対向するようにして設けられている。そして、インターナルギヤ部材24の各ラチェット歯24bの最外周端面と変形抑制部22dの内周面との間には、わずかな所定の隙間γが形成されている。各ラチェット歯24bに対する隙間γは通常状態(通常時)ではすべてのラチェット歯24bに対して一定または略一定とされている。これらの隙間γにより、通常状態にはインターナルギヤ部材24は変形抑制部22dの内周面に干渉(接触)することなくスムーズに回転可能となっている。また、前述のようにインターナルギヤ部材24が弾性変形するときは、ラチェット歯24bの外方へ突出変形する部分の最外周端面が変形抑制部22dの内周面に当接してインターナルギヤ部材24の弾性変形が抑制される。これにより、インターナルギヤ部材24の内歯24aの変形も抑制される。したがって、インターナルギヤ部材24は大きく変形しなく、プラネットギヤ23の歯とインターナルギヤ部材24の内歯24aとの位相ずれが抑制される。その結果、プラネットギヤ23の外歯23aはインターナルギヤ部材24の内歯24aに安定して噛合し、プラネットギヤ23がよりスムーズに回転するようになる。このように各隙間γは、前述のインターナルギヤ部材24の弾性変形を、外歯23aと内歯24aとが安定して噛合することができる程度に抑制可能な大きさに設定される。
【0031】
なお、前述の例のようにインターナルギヤ部材24の外周縁にラチェット歯24bのみを設けることに限定されなく、図9(B)に示すように、インターナルギヤ部材24の一側面側に、円板状部24cが、隣接するラチェット歯24b間の空間に位置するように設けられる。その場合、この円板状部24cの外径は、各ラチェット歯24bの最外周端面を結ぶ円の外径に等しいかまたは略等しく設定されている。このようにインターナルギヤ部材24の外周縁にラチェット歯24bに加えて円板状部24cが設けられることで、インターナルギヤ部材24が突出変形するとき、円板状部24cの外周面がラチェット歯24bの最外周端面とともに変形抑制部22dの内周面に当接してインターナルギヤ部材24の弾性変形が抑制される。したがって、インターナルギヤ部材24の弾性変形をより効果的に抑制することが可能となる。また、この円板状部24cにより、インターナルギヤ部材24の強度が増大するので、インターナルギヤ部材24の弾性変形を更に一層効果的に抑制することができる。
【0032】
モータ16およびクラッチパウル駆動部材は、いずれも図示しない電子制御装置(ECU)により駆動制御される。その場合、ECUは、各種センサからの出力信号に基づいて乗員に通常装着状態で装着されているシートベルト4の張力を制御する必要があると判断したとき、モータ16およびクラッチパウル駆動部材を駆動制御する。各種センサ、つまり、ECUがシートベルト4の張力を制御する必要があると判断するための情報としては、例えば、車両速度や車両加速度等の車両走行状態の情報、ブレーキペダル踏込速度やアクセルペダル踏込速度等の車両運転状態の情報、および車両の周囲の障害物との距離や相対速度等の車両周囲状態の情報等の車両に対する各種情報がある。
【0033】
このように構成されたこの例の動力伝達機構17の作動について説明する。
クラッチパウル27が非作動位置に設定されると、インターナルギヤ部材24がシート
ベルト引出し方向αと同方向およびシートベルト巻取り方向βと同方向のいずれの方向にも回転可能となる。そして、モータ16が駆動されると、モータ16の駆動トルクはモータギヤ18、第1中間ギヤ19、および第2中間ギヤ20を介してサンギヤ部材21に伝達される。これにより、サンギヤ21aが回転する。すると、各プラネットギヤ23が回転するとともにインターナルギヤ部材24が回転する。インターナルギヤ部材24が回転すると、各プラネットギヤ23がキャリア22の軸22eを中心に自転するだけでサンギヤ21aの周りを公転しない。すなわち、キャリア22が回転しなく、動力伝達機構17の動力伝達経路が遮断される。したがって、モータ16の駆動トルクはスプール9に伝達されない。
【0034】
また、クラッチパウル27が作動位置に設定されると、インターナルギヤ部材24がシートベルト引出し方向αと同方向に回転不能となる。そして、モータ16が駆動されると、前述と同様にモータ16の駆動トルクがサンギヤ部材21に伝達され、サンギヤ21aが回転するとともに、各プラネットギヤ23が自転する。一方、インターナルギヤ部材24はシートベルト引出し方向αと同方向には回転しないため、各プラネットギヤ23はサンギヤ21aの周りをシートベルト巻取り方向βと同方向に公転する。すると、キャリア22がシートベルト巻取り方向βにモータ26の回転より減速されて回転する。すなわち、動力伝達機構17の動力伝達経路が接続される。したがって、モータ16の駆動トルクがスプール9に伝達されるため、スプール9がシートベルト巻取り方向βに回転する。このモータ16の駆動トルクでシートベルト4がスプール9に巻き取られる。
【0035】
このように構成されたこの例のシートベルトリトラクタ3の作動について説明する。
(1)シートベルトリトラクタ3の非作動状態
シートベルトリトラクタ3の非作動状態では、スプリング機構15によってシートベルト4が全量スプール9に巻き取られている。また、減速度感知機構13が作動しなく、ロック機構11は非作動状態になっている。したがって、ロッキングベース10はスプール9と一体的に回転可能であるとともに、トーションバー12は捩られなくEA作動を行わない状態になっている。更に、モータ16は駆動しない状態に設定されている。更に、シートベルトリトラクタ3の非作動状態では、クラッチパウル27は係止爪27aがインターナルギヤ部材24のラチェット歯24bに係合しない非作動位置に設定され、インターナルギヤ部材24はシートベルト引出し方向αと同方向およびシートベルト巻取り方向βと同方向のいずれの方向にも回転可能となっている。したがって、動力伝達機構17の動力伝達経路が遮断されている。
【0036】
(2)通常時のシートベルト4の引出動作
シートベルトリトラクタ3の前述の非作動状態から、シートベルト4の装着等のためにシートベルト4がスプリング機構15の付勢力に抗して通常の引出し速度で引き出されると、スプール9がシートベルト引出し方向αに回転する。すると、トーションバー12およびロッキングベース10もスプール9と同方向αに一体的に回転する。したがって、トーションバー12は捩られずEA作動を行わない。また、トーションバー12の回転でキャリア22が回転するが、動力伝達機構17の動力伝達経路が遮断されているため、キャリア22の回転はサンギヤ21aに伝達されない。したがって、このときのスプール9のシートベルト引出し方向αの回転はモータ16には伝達されない。なお、スプール9のシートベルト引出し方向αの回転により、スプリング機構15の付勢力は次第に増大する。
【0037】
(3)シートベルト4の装着動作
シートベルト4の装着のため、乗員によりシートベルト4がシートベルトリトラクタ3から所定量引き出されてタング6がバックル7に係合される。その後、乗員がタング6を離すと、余分に引き出されたシートベルト4がシートベルトリトラクタ3のスプリング機構15の付勢力でスプール9に巻き取られる。こうして、シートベルト4が乗員に装着さ
れる。また、タング6がバックル7に係合されると、図示しないバックルスイッチがオンとなり、ECUがモータ16およびクラッチパウル駆動部材を駆動制御可能な状態となる。
【0038】
(4)シートベルト4の通常装着状態での引出動作
シートベルト4が乗員に装着された状態で、減速度感知機構13およびプリテンショナー14が作動しない通常時は、シートベルト4が引き出されるとスプール9がシートベルト引出し方向αに回転してシートベルト4が引き出される。この通常のシートベルト4の引出し時には、減速度感知機構13が作動しないのでロック機構11が作動しなく、スプール9がトーションバー12およびロッキングベース10とともに回転する。したがって、シートベルト4は容易に引き出される。このとき、ECUはシートベルト4の通常装着状態でかつ各センサからの出力信号に基づいてシートベルト4の張力制御が必要でないと判断することで、モータ16およびクラッチパウル駆動部材を駆動しない。したがって、インターナルギヤ部材24が回転自由であるため、動力伝達機構17は遮断された状態となっている。
【0039】
(5)シートベルト4の装着解除動作
シートベルト4の装着を解除するために、乗員がタング6をバックル7から解離して離すと、シートベルト4がシートベルトリトラクタ3のスプリング機構15の付勢力でスプール9に巻取り可能な量だけ巻き取られる。また、このときバックルスイッチがオフとなり、ECUがモータ16およびクラッチパウル駆動部材を駆動制御しない状態となる。
【0040】
(6)シートベルト4の装着状態での緊急時
シートベルト4の装着状態での緊急時には、プリテンショナー14が作動して、スプール9がシートベルト巻取り方向に回転しシートベルト4が巻き取られる。これにより、シートベルト4による乗員の拘束力が増大する。また、走行中の車両に減速度感知機構13が作動する大きさの減速度が加えられると、減速度感知機構13が作動してロック機構11が作動する。すると、ロッキングベース10に設けられた図示しないパウルが回動して、側壁8aに形成された図示しないロック歯に係合可能な状態となる。これにより、ロッキングベース10のシートベルト引出し方向αの回転がロック可能となる。プリテンショナー14の作動が終了した後、乗員の慣性でシートベルト4が引き出されようとして、スプール9およびロッキングベース10がシートベルト引出し方向αに回転しようとする。このとき、ロッキングベース10のシートベルト引出し方向αの回転がロック可能となっているため、すぐにロッキングベース10のシートベルト引出し方向αの回転がロックされ、スプール9がロッキングベース10に対して相対的にシートベルト引出し方向αに回転しようとする。その結果、スプール9はトーションバー12を捩りつつシートベルト引出し方向αに回転する。トーションバー12がねじり変形による抵抗でスプール9のシートベルト引出し方向αの回転が抑制される。乗員の運動エネルギがこのトーションバーのねじり変形により部分的に吸収されるので、シートベルト4から乗員に加えられる力が制限される。こうして、乗員はシートベルト4により拘束される。
【0041】
(7)モータ16の駆動トルクによるシートベルト4の巻取り動作
シートベルト4の通常装着状態においては、前述のようにバックルスイッチがオンとなるためECUがモータ16およびクラッチパウル駆動部材を駆動可能な状態となっている。この状態で、ECUは各センサからの出力信号に基づいてシートベルト4の張力制御が必要であると判断すると、モータ16をスプール9がシートベルト巻取り方向βとなるように回転駆動するとともに、クラッチパウル駆動部材を駆動して作動位置に設定した後、クラッチパウル駆動部材の駆動を停止する。すると、クラッチパウル27の係止爪27aがラチェット歯24bに係合してインターナルギヤ部材24のシートベルト引出し方向αと同方向の回転が阻止されるため、動力伝達機構17の動力伝達経路は接続状態となる。
また、ECUはモータ16をスプール9がシートベルト巻取り方向βとなるように駆動する。したがって、各センサからの出力信号に基づいてECUが決定した大きさのモータ16の駆動トルクがスプール9に伝達され、スプール9はシートベルト4をこの駆動トルクに基づいた量だけ巻き取る。これにより、シートベルト4の張力が増大制御され、シートベルト4による乗員の拘束力が増大する。
【0042】
ところで、インターナルギヤ部材24が弾性変形可能な異音発生抑制材で形成されているため、前述のようにインターナルギヤ部材24の回転が阻止された状態で乗員の慣性等によりシートベルト4が引き出されようとするとき、インターナルギヤ部材24が部分的に外方に向かって弾性変形する。しかし、前述のようにキャリア22の変形抑制部22dによりインターナルギヤ部材24の弾性変形が抑制される。これにより、プラネットギヤ23はインターナルギヤ部材24の内歯24aに安定して噛合し、プラネットギヤ23がスムーズに回転する。
【0043】
(8)モータ16の駆動トルクによるシートベルト4の巻取り解除動作
モータ16の駆動トルクによるシートベルト4の巻取り動作後、ECUは各センサからの出力信号に基づいてシートベルト4の張力制御が不要になったと判断すると、モータ16の駆動を停止するとともに、クラッチパウル駆動部材を逆駆動して非作動位置に設定した後クラッチパウル駆動部材の逆駆動を停止する。そして、クラッチパウル27が非作動位置となることで、インターナルギヤ部材24がシートベルト引出し方向αと同方向およびシートベルト巻取り方向βと同方向のいずれの方向にも回転可能となるため、動力伝達機構17の動力伝達経路は遮断状態となる。
【0044】
このように構成されたこの例のシートベルトリトラクタ3によれば、動力伝達機構17に用いられる遊星歯車機構のインターナルギヤ部材24が、弾性変形可能な合成樹脂等の異音発生抑制材で形成されるので、遊星歯車機構の作動時に異音の発生を抑制することができる。これにより、動力伝達機構17の作動時の静音性が効果的に向上することができる。
【0045】
また、インターナルギヤ部材24が異音発生抑制材で形成されることで、インターナルギヤ部材24の強度が金属に比べて低下するため、インターナルギヤ部材24は円環状の外方に向かって突出するように部分的に弾性変形する可能性がある。しかし、キャリア22の外周縁に円環状フランジからなる変形抑制部22dが設けられているので、この変形抑制部22dによりインターナルギヤ部材24の変形を効果的に抑制することができる。これにより、プラネットギヤ23の外歯23aとインターナルギヤ部材24の内歯24aとを安定して噛合させることができるので、プラネットギヤ23をスムーズに回転させることが可能となる。このようにして、シートベルトリトラクタ3の動力伝達機構17によれば、静音性をより一層効果的に向上することができるとともに、動力伝達をより安定して行うことが可能となる。
更に、変形抑制部22dはインターナルギヤ部材24の変形抑制の必要時にのみ変形抑制作用を行う。したがって、通常時はインターナルギヤ部材24が変形抑制部22dに接触することはない。これにより、インターナルギヤ部材24が比較的摩耗しやすい異音発生抑制材で形成されても変形抑制部22dに接触することによる摩耗を抑制できるとともに、インターナルギヤ部材24と変形抑制部22dとの接触による異音の発生も防止することができる。特に、変形抑制部22dがキャリア22に円環状フランジで形成されることで、簡単な構造でこのようなインターナルギヤ部材24の摩耗を効果的に抑制できるとともにインターナルギヤ部材24と変形抑制部22dとの接触による異音の発生を効果的に防止することができる。
更に、インターナルギヤ部材24を異音発生抑制材で形成することによりインターナルギヤ部材24の強度が低下しても、変形抑制部22dによりインターナルギヤ部材24の
変形を抑制できることから、インターナルギヤ部材24を小型コンパクトに形成することができ、シートベルトリトラクタ3のコンパクト性を保持することができる。
【0046】
一方、この例のシートベルトリトラクタ3を備えたシートベルト装置1によれば、シートベルトリトラクタ3が静音性を向上しつつ、動力伝達を安定して行うことができることから、車室内の静粛性を良好にしつつ乗員の拘束性を向上することができる。
【0047】
図10(A),(B)は、それぞれ、本発明のシートベルトリトラクタの実施の形態の
他の例を示す、図8(A)と同様の図である。
前述の例では、変形抑制部22dの先端面22fが変形抑制部22dの内、外周面に対して直角または略直角に形成され、かつ変形抑制部22dの内周面と円環板状部22aの面とがエッジ状に当接している。これに対して、図10(A)に示す例のシートベルトリトラクタ3では、キャリア22の変形抑制部22dの先端面22fが、変形抑制部22dの外周面から内周面に向かって高くなるように傾斜面にされている。この傾斜面により、クラッチパウル27が非作動位置から作動位置に変形抑制部22dの先端面22fを超えて移動する際に、クラッチパウル27は変形抑制部22dに干渉することなく、傾斜した先端面22fにガイドされてスムーズに移動することが可能とされている。すなわち、変形抑制部22dの先端面22fはクラッチパウル27のガイド面となっている。
【0048】
また、図10(A)に示す例のキャリア22は、変形抑制部22dの内周面と円環板状部22aの面との当接部が湾曲したR部22gとされている。このR部22gにより、インターナルギヤ部材24が突出変形して変形抑制部22dの内周面に当接したとき、変形抑制部22dの内周面と円環板状部22aの面との当接部での応力集中が抑制される。
【0049】
更に、図10(B)に示す例のキャリア22は、図10(A)に示す例のキャリア22のR部22gに対して、変形抑制部22dの内周面と円環板状部22aの面との当接部がほぼ円弧状の凹部22hの断面形状とされている。その場合、凹部22hは変形抑制部22dの内周面に沿って凹むように円環板状部22aに形成されている。この凹部22hによっても、前述の図10(A)に示す例と同様に当接部での応力集中が抑制される。
これらの図10(A),(B)に示す例のシートベルトリトラクタ3の他の構成および
他の作用効果は、前述の例と同じである。
【0050】
図11は、本発明のシートベルトリトラクタの実施の形態の更に他の例を示す、図4と同様の図である。
前述の図4に示す例では、変形抑制部22dがキャリア22の外周縁の全周にわたって連続的に設けられているが、図11に示すように、この例のシートベルトリトラクタ3の動力伝達機構17では、変形抑制部22dはキャリア22の外周縁に、各プラネットギア23にそれぞれ対向する所定領域に円周方向に沿って断続的にかつ円弧状に設けられている。このように変形抑制部22dが断続的に設けられる理由は、前述のインターナルギヤ部材24の突出変形が、ほぼプラネットギヤ23の外歯23aとインターナルギヤ部材24の内歯24aとの噛合領域およびその近傍領域に発生することから、インターナルギヤ部材24の突出変形をより効率よく抑制するためである。したがって、変形抑制部22dが設けられる所定領域は、プラネットギヤ23の外歯23aとインターナルギヤ部材24の内歯24aとの噛合領域を少なくとも含む所定の領域である。
この例のシートベルトリトラクタ3の他の構成および他の作用効果は、前述の例と同じである。
図12(A)は本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の更に他の例におけるキャリアとインターナルギヤ部材とを示す図、図12(B)は図12(A)におけるXIIB−XIIB線に沿う部分拡大断面図である。
前述の実施の形態の各例では、変形抑制部22dがキャリア22の外周縁に設けられか
つインターナルギヤ部材24の変形時に各ラチェット歯24bの最外周端面がキャリア22の外周縁に当接するようにされている。これに対して、図12(A)および(B)に示すようにこの例のシートベルトリトラクタ3の動力伝達機構17では、インターナルギヤ部材24の変形時に、ラチェット歯24b以外のインターナルギヤ部材24の部分が外周縁以外のキャリア22に設けられた変形抑制部22dに当接するようにされている。
すなわち、この例の変形抑制部22dはキャリア22の外周縁22iより内側の所定の位置に全周にわたって設けられた、キャリア22と同心円の円環状突起で形成されている。また、円環状のインターナルギヤ部材24のキャリア22に対向する側面には、インターナルギヤ部材24と同心の円環状溝24dが形成されている。その場合、キャリア22とインターナルギヤ部材24との組立状態では、円環状溝24dと変形抑制部22dの円環状突起とが対向するとともに、この円環状突起が円環状溝24d内に通常時にこの円環状溝24dを形成するキャリア22の部分に接触することがないように嵌合されている。そして、キャリア22とインターナルギヤ部材24との組立状態での通常時に、変形抑制部22dの円環状突起の内周面22jと、この内周面22jと対向する円環状溝24dの内周側壁面24eとの間に、前述の例と同様のわずかな所定の隙間γが形成されている。
この例の動力伝達機構17においては、前述のインターナルギヤ部材24の変形時に、円環状溝24dの内周側壁面24eが変形抑制部22dの内周面22jに当接することで、インターナルギヤ部材24の変形が抑制される。
この例の動力伝達機構17によれば、変形抑制部22dがキャリア22に円環状突起で形成されることで、簡単な構造でこのようなインターナルギヤ部材24の摩耗を効果的に抑制できるとともにインターナルギヤ部材24と変形抑制部22dとの接触による異音の発生を効果的に防止することができる。
この例のシートベルトリトラクタ3の他の構成および他の作用効果は、前述の図4に示す例と同じである。なお、変形抑制部22dの円環状突起は、図11に示す例と同様にプラネットギヤ23に対応して円周方向に断続的に設けることもできる。その場合、キャリア22の円環状溝24dは全周にわたって連続的に形成される。また、変形抑制部22dは円環状溝で形成するとともに、インターナルギヤ部材24にこの円環状溝に前述の間隙γを有するようにして嵌合する円環状突起を設けることもできる。
図13(A)は本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の更に他の例におけるキャリアとインターナルギヤ部材とを示す図、図13(B)は図13(A)におけるXIIIB−XIIIB線に沿う部分拡大断面図である。
前述の図4に示す実施の形態の例では、インターナルギヤ部材24の変形時に各ラチェット歯24bの最外周端面がキャリア22の外周縁に設けられた変形抑制部22dに当接することで、インターナルギヤ部材24の変形が抑制されるようにされている。これに対して、図13(A)および(B)に示すようにこの例のシートベルトリトラクタ3の動力伝達機構17では、インターナルギヤ部材24の変形時に、ラチェット歯24b以外のインターナルギヤ部材24の部分がキャリア22に設けられた変形抑制部22dに当接するようにされている。
すなわち、この例の円環状のインターナルギヤ部材24のキャリア22に対向する側面には、インターナルギヤ部材24と同心の円環状段部24fが形成されている。その場合、キャリア22とインターナルギヤ部材24との組立状態での通常時に、円環状フランジからなる変形抑制部22dと円環状段部24fの壁面24gとの間に、前述の例と同様のわずかな所定の隙間γが形成されている。これにより、キャリア22とインターナルギヤ部材24との組立状態での通常時に、この円環状段部24fが変形抑制部22dに接触することがないようにされている。
この例の動力伝達機構17においては、前述のインターナルギヤ部材24の変形時に、円環状段部24fの壁面24gが変形抑制部22dに当接することで、インターナルギヤ部材24の変形が抑制される。
この例のシートベルトリトラクタ3の他の構成および他の作用効果は、前述の図4に示す例と同じである。なお、変形抑制部22dは、図11に示す例と同様にプラネットギヤ
23に対応して円周方向に断続的に設けることもできる。その場合、キャリア22の円環状段部24fは全周にわたって連続的に形成される。また、変形抑制部22dは必ずしもキャリア22の外周縁に設けることはなく、図12に示す例と同様にキャリア22と同心円の円環状突起で円周方向に連続的にまたは断続的に設けることもできる。
【0051】
なお、本発明のシートベルトリトラクタおよびシートベルト装置は、前述の実施の形態の各例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のシートベルトリトラクタおよびシートベルト装置は、自動車等の車両に装備されるとともに、モータの回転が遊星歯車機構を用いた動力伝達機構で減速されて伝達されるスプールにより、乗員を拘束するためのシートベルトを巻取り可能なシートベルトリトラクタおよびこれを備えたシートベルト装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…シートベルト装置、3…シートベルトリトラクタ、4…シートベルト、6…タング、7…バックル、9…スプール、10…ロッキングベース、11…ロック機構、12…トーションバー、13…減速度感知機構、14…プリテンショナー、15…スプリング機構、16…モータ、17…動力伝達機構、21…サンギヤ部材、22…キャリア、22a…円環板状部、22d…変形抑制部、22f…先端面、22i…キャリア22の外周縁、22j…円環状突起の内周面、23…プラネットギヤ、24…インターナルギヤ部材、24a…内歯、24b…ラチェット歯、27…クラッチパウル、27a…係止爪、24c…円板状部、24d…円環状溝、24e…円環状溝24dの内周側壁面、24f…円環状段部、24g…円環状段部24fの壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトを巻取るスプールと、このスプールを回転させる駆動トルクを発生するモータと、前記モータの駆動トルクを遊星歯車機構を介して前記スプールに伝達する動力伝達機構とを少なくとも備え、モータの駆動トルクにより前記シートベルトを前記スプールに巻き取るようになっているシートベルトリトラクタにおいて、
前記遊星歯車機構は、前記モータの駆動トルクが伝達されるサンギヤと、回転可能に設けられるとともに、内周面に内歯を有しかつ外周面にラチェット歯を有するインターナルギヤ部材と、前記サンギヤおよび前記インターナルギヤ部材の内歯のいずれにも噛合する所定数のプラネットギヤと、前記所定数のプラネットギヤを回転可能に支持するとともに、前記スプールに前記モータの駆動力を伝達するキャリアとを有し、
前記動力伝達機構は、前記インターナルギヤ部材のラチェット歯に係合しないことで前記インターナルギヤ部材の回転を可能にして動力伝達経路を遮断する非作動位置と前記インターナルギヤ部材のラチェット歯に係合することで前記インターナルギヤ部材の回転を阻止して前記動力伝達経路を接続する作動位置との間で移動可能に設けられるクラッチパウルを有し、
前記インターナルギヤ部材は前記遊星歯車機構の作動時に発生する異音を抑制する異音発生抑制材で形成されており、
前記インターナルギヤ部材が変形するのを抑制する変形抑制部を備えていることを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項2】
前記変形抑制部は前記キャリアに設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項3】
前記キャリアは円環状部を有しており、
前記変形抑制部は前記キャリアの円環状部に形成され、前記インターナルギヤ部材がその変形時に当接することで前記インターナルギヤ部材が変形するのを抑制する円環状の変形抑制部であることを特徴とする請求項2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項4】
前記円環状の変形抑制部は、前記変形抑制部の前記円環状の円周方向の全周にわたって連続して設けられるか、または前記プラネットギアにそれぞれ対向する前記キャリアの所定領域に前記変形抑制部の前記円環状の円周方向に沿って断続的に設けられることを特徴とする請求項3に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項5】
前記円環状の変形抑制部は、円環状フランジまたは円環状突起で形成されていることを特徴とする請求項4に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項6】
前記異音発生抑制材は合成樹脂であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項7】
乗員を拘束するシートベルトと、前記シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタと、前記シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、このタングが挿入係合されるバックルとを少なくとも備え、前記タングを前記バックルに挿入係合することで前記シートベルトが乗員に装着されるシートベルト装置において、
前記シートベルトリトラクタが請求項1ないし6のいずれか1つに記載のシートベルトリトラクタからなることを特徴とするシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−67220(P2013−67220A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205620(P2011−205620)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】