説明

シートベルト巻取装置

【課題】 シートベルト巻取装置からウェビングを引き出し、あるいは巻き取る際のウェビングの摺動異音を低減させる。
【解決手段】 シートベルトの巻取装置本体の外形に設けられ、巻取装置本体を車体の固定部に固定するアッパステイ54の一部に、巻取装置本体内から引き出されるウェビングの通過するスリット11が形成された合成樹脂製のウェビングガイド10が設けられたシートベルト巻取装置において、ウェビングガイド10のスリット11の内周面に所定間隔をあけてウェビングの摺動方向に沿って延在する複数本の縦リブ12を形成し、縦リブ12の表面に接触しつつ、ウェビングの引き出し、巻き取りが行われるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシートベルト巻取装置に係り、巻取装置本体からウェビングを引き出し、あるいは巻き取る際に巻取装置本体のウェビング引き出し部位のガイドとしてのスリットで発生するウェビングの摺動異音を低減させたシートベルト巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートベルト巻取装置からシートベルトを引き出す際、あるいは巻取装置内に巻き取る際に、シートベルトの円滑な摺動を実現するために、シートベルト巻取装置からシートベルトが引き出される部位に各種スリット形状のガイドを設ける提案がなされている。特許文献1には、ベルトの出口部において、ガイド間隔部の両端に円弧状の端末ガイド部を設けて、ベルト摺動時にベルト端部のねじれ等を防止を図ったスリットの構成が開示されている。
【0003】
特許文献1は、巻取装置をガイドカバーで覆い、ガイドカバーにスリット状のベルト出口部が形成されたタイプであるが、現行のシートベルト巻取装置としては、たとえば図5に示したタイプが一般的である。図5は、乗用車等のBピラーの根元部の車体の一部に固定されるシートベルト巻取装置50の従来例を模式的に示した概略斜視図である。シートベルト52は、ドライバーあるいは助手席乗員が装着する際に、シートベルト巻取装置50の巻取装置本体51から引き出され、あるいは解装時に、巻取装置本体51内のスプール(図示せず)に巻き取られて収容される。なお、同図では、図の簡単化のためにプリテンショナ等の付帯機構は図示していない。また、以下の明細書等の記載において、乗員を拘束するためのシートベルトとして機能する織布製ベルトを「ウェビング」と呼ぶ。
【0004】
同図に示したように、巻取装置本体51の外形を構成するケーシング53の一部にはロアステイ53aが一体的に形成され、ケーシング53上端にはアッパステイ54の下部がケーシング53の外面に固定されている。巻取装置本体51は、ロアステイ53aとアッパステイ54とに形成された取付孔53b,54bを介して、図示しない車体の所定の固定部55にボルト等(図示せず)により堅固に固定されるようになっている。
【0005】
図5に示したアッパステイ54には、ウェビングガイド60が一体的に取り付けられている。アッパステイ54は、ケーシング53と同じ鋼製プレス加工品からなり、折り曲げ加工して形成された平坦部54aにウェビングガイド60が取り付けられている。ウェビングガイド60にはスリット61が形成されている。このスリット61は、ウェビング52が巻取装置本体51から引き出され、あるいは巻取装置本体内51に巻き取られる際のウェビング52の走行経路をガイドする役割を果たす。スリット61はウェビング52の幅よりわずかに広い長手開口寸法と、ウェビング52の厚みよりわずかに広い隙間寸法の長方形、長円形、あるいは楕円形状等の開口からなる。
【0006】
ウェビングガイド60のスリット61の内周面は、引き出しあるいは巻き取られるウェビング52とほぼ常に摺動することから、耐摩耗性等を有するポリプロピレン樹脂、アラミド樹脂等の合成樹脂製成形品が用いられている。
【0007】
ウェビングガイド60の単体形状は、図6に示したように、内部にスリット61が形成された胴部60aと、胴部60aの上端に一体的に形成された上面フランジ60bとからなる。このウェビングガイド60は、図5に示したように、アッパステイ54の平坦部54aに形成された取付孔54c(図1参照)にウェビングガイド60の胴部60aを嵌め込んだ状態で、ウェビングガイド60に設けられた係止爪(図示せず)で、平坦部54aの鋼板を挟むようにして固定される。そして平坦部54aに上面フランジ60bが位置し、この位置に胴部60aを貫通して形成されたスリット61が配置される。
【0008】
図7はウェビング52を中心に描いた巻取装置本体51の説明図である。同図には、ウェビング52の巻取装置本体51内での巻回されたウェビング52Aと、ウェビングガイド60を通じて外部に引き出されたウェビング52Bとが描かれている。同図に示したように、ウェビング52は巻取装置本体51内の図示しないスプールを回転させる巻き取りスプリングの巻回力により、スプールに巻回されて巻取装置本体51内に収容される。一方、乗員がシートベルトを装着する際には、乗員がウェビング52の所定位置に保持されているトングプレート(図示せず)を持って、ウェビング52を引き出すことにより、巻取装置内のウェビング52は適度な速度で引き出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭63−185767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示された巻取装置では、ベルトのねじれは軽減されるが、第3図に示されたように、ベルトの表面がガイド間隔部13で折れ曲がるようにして常に摺接した状態で走行する。このため、ベルト摺接時の異音発生が問題となる。また、摩耗によるベルト劣化も問題となる。
【0011】
これに対して、図5に示したシートベルト巻取装置50では、図7に示したように、ウェビング52は引き出し、巻き取り時に上下方向に、すなわちウェビングガイド60のスリット61を、ほぼ直交する角度で通過する。ところが、ウェビング52は引き出し量に応じて巻取装置本体51内での巻き径等が小さくなった場合、ウェビングガイド60のスリット61を通過するウェビング52がスリット61を形成するガイドの周縁の全幅にわたり接触しながら引き出され、あるいは巻き取りが行われる。このため、ウェビング52とウェビングガイド60のスリット61との接触位置で摺動異音が発生すると言う問題がある。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、従来のウェビングガイドにおいて、ウェビングの引き出し、巻き取り時の接触抵抗を低減し、摺動異音の発生を抑えたシートベルト巻取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、ウェビングを引き出し巻き取り可能に、内部に収容可能な巻取装置本体と、該巻取装置本体の外形に設けられ、巻取装置本体を車体の固定部に固定する固定部材とを備え、前記固定部材の一部に、前記巻取装置本体内から引き出される前記ウェビングのスリットが形成されたウェビングガイドが設けられたシートベルト巻取装置において、前記ウェビングガイドのスリットの内周面に所定間隔をあけて前記ウェビングの摺動方向に沿って延在する複数本の縦リブを形成し、該縦リブの表面に接触しつつ、前記ウェビングの引き出し、巻き取りが行われるようにしたことを特徴とする。
【0013】
前記ウェビングガイドは、前記縦リブが、対向するスリットの内周面から突設するように、一体成形された合成樹脂部材とすることが好ましい。これにより、前記縦リブを有する部材を、安価で耐摩耗性の優れた部材によって実現することができる。
【0014】
前記スリットの対向した内周面に形成された縦リブ間の隙間は、前記ウェビングがいずれかの縦リブに接触しつつ、前記スリットを通過できる幅に設定することが好ましい。これにより、前記ウェビングが前記スリット内を通過する際の摺動抵抗を低減し、異音発生を適正に低減できる。
【0015】
前記縦リブ間の隙間は、2.5mm以上とすることで、上述の異音発生低減効果をより確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来のシートベルト巻取装置に組み込まれるウェビングガイドにおいて、ウェビングの接触抵抗を低減したことにより、ウェビングの摺動時の摺動異音の発生を大幅に低減させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のシートベルト巻取装置の主構成としてのウェビングガイドの取り付け状態を示した概略斜視図。
【図2】図1に示したウェビングガイドの平面図、断面図、ウェビングの挿通状態を示した平面図。
【図3】ウェビングガイドのスリットの形状例を示した断面図(その1)。
【図4】ウェビングガイドのスリットの形状例を示した断面図(その2)。
【図5】従来のシートベルト巻取装置の一例を示した概略斜視図。
【図6】図5に示したシートベルト巻取装置に取り付けられたウェビングガイドの一例を示した斜視図。
【図7】図5に示したシートベルト巻取装置におけるウェビングの状態例を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のシートベルト巻取装置の実施するための形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0019】
図1は、図5に示したシートベルト巻取装置の全体構成のうち、アッパステイ54と、このアッパステイ54に取り付けられる前のウェビングガイド10とを示した模式斜視図である。このアッパステイ54は、図5を参照して上述したように、巻取装置本体51を構成するケーシング53の上端に一体的に取り付けられる。なお、本発明を説明する図1においても、アッパステイ54については同一部材を例としたことから、図5と同一符号を付す。
【0020】
アッパステイ54は、図示したように、車体の固定部に取り付けるための取付孔54bが形成された縦フランジ54dと、縦フランジ54dと連続する平坦部54aと、アッパステイ54をケーシング53(図5)に取り付けるための取付孔54eが形成された下部フランジ54fとを構成するように曲げ加工された鋼板部材である。そして、平坦部54a中央にはウェビングガイド10の取付孔54cが形成されている。この取付孔54cに、後述するウェビングガイド10の胴部10aを挿入し、ウェビングガイド10に形成された係止部13で、アッパステイ54の平坦部54aに固定するようになっている。ウェビングガイド10は従来品と同様に、耐摩耗性等を有するポリプロピレン樹脂、アラミド樹脂等の合成樹脂製成形品が用いられている。
【0021】
ウェビングガイド10の単体形状は、図2各図に示したように、内部にスリット11が形成された胴部10aと、胴部10aの上端に一体的に形成された上面フランジ10bとからなる。この上面フランジ10bにウェビングガイド10としてのスリット11が形成されている。この点は、図6に示したウェビングガイド60の構成と同等である。機能も図7に示した場合と同等に、スリット11により、ウェビング52は、巻取装置本体51から引き出され、あるいは巻取装置本体51内に巻き取られる際に、その経路が案内、保持される。
【0022】
スリット11内には、図1および図2各図に示したように、胴部10aのスリット11内面に沿った所定位置に縦リブ12が形成されている。本実施例では、スリット11の幅(長手方向)は約48〜50mmで、ウェビング(幅:約46〜48mm)が両側に隙間をもって通過できるように設定されている。また、対向して形成された縦リブ12の隙間d(図2(a))は、厚み約1.2mmのウェビングが通過する際の振れによる摺動を低減して安定した走行を確保するために、ウェビング厚よりわずかに広い隙間寸法以上、たとえば約2.5mm以上に設定することが好ましい。なお、本明細書では、ウェビングの走行方向に沿ってスリット内面に形成された突起を「縦リブ」と称したが、図1、図2に図示された突起形状構造であればよいことは言うまでもない。
【0023】
本実施例では、図2(a)で平面視したように、スリット11を形成する部位の長手方向内周面に所定間隔をあけて、対向した位置に3カ所ずつの合計6個の縦リブ12が形成されている。個々の縦リブ12は、平面視して扁平な長方形断面をなし、図2(b−1),(b−2)に示したように、上面フランジのスリット11上端に形成されたテーパ部10cより下側全長に所定の厚みを有するように形成されている。
【0024】
図2(c)は、ウェビング52がスリット11内の縦リブ12間を通過する状態を模式的に示した説明図(平面図)である。同図に示したように、ウェビング52は、このスリット11内を通過する際、いずれかの縦リブ12に接触するが、両端がフリーになっているため、ウェビング52がスリット11部分を通過する際に、ウェビング52は縦リブ12間の隙間で、いずかの縦リブ12の表面に接触して多少の振れを生じながら通過する。このため、ウェビング52と縦リブ12との接触タイミングは大変短時間となる。よって、従来、ウェビング52が摺接しながらスリット11間を通過していたのに比べ、その摺動異音の発生は大幅に低減される。このように従来のスリット11の内周面に所定間隔をあけて縦リブ12を設けることで、摺動異音の発生を低減させることができるという効果が得られる。
【0025】
図3各図は、スリット11の内周面に形成された縦リブ12の平断面形状を例示している。同図(a)は、図2(a)に示した長方形断面タイプであり、この形状を基準として、台形断面形状(b)、長方形頂点丸面取り形状(c)、扁平山形断面形状(d)、M型断面形状(e)、扁平円弧断面形状(f)、逆U字形断面(g)等各種の断面形状を採用することができる。以上の例では、片面に3個の縦リブ12が対向して合計6個が形成されているが、その個数は1個の縦リブ12の断面の大きさにもよるが、片面に2〜5個程度を形成することができる。多数になると、縦リブ12とウェビング52(図2(c))との接触摩擦が増加し、1個のみでは縦リブ12への接触負担が増すとともに、ウェビングの両端部がスリット11内周面に接触して異音が発生するため、縦リブ12を設けたことによる異音防止効果が低下する。
【0026】
図4各図は、縦リブ12配置例、断面形状の組み合わせ例を示している。図4(a)は、縦リブ12配置をスリット11対向面の交互位置にした例を示している。この例は巻取装置本体内でのウェビングの巻き取り状態に応じて、縦リブ12との接触パターンが決まってくる場合に、接触しやすい側の縦リブ12の数を減らした提案である。また、同様に、同図(b)に示したように、接触頻度の高い側の縦リブ12の断面積を減らすことも好ましい。同図(c)は、(a)、(b)を組み合わせた配置例を示している。同図(d)は、同図(b)と同様に接触頻度の少ない側の縦リブ12を扁平円弧形状とした例を示している。同図(e)は同図(a)、(d)を組み合わせた配置例を示している。
【0027】
以上の説明では、図1に示したアッパステイ54の平坦部54aに取り付けられるウェビングガイド10に形成されるスリット11に縦リブ12を設ける例について述べたが、アッパステイ54の形状は図1のタイプに限られず、巻取装置本体を固定する部材であれば、各種の固定部材であって、ウェビングガイド10を装着できるものであればよい。また、巻取装置本体のケーシングに直接ウェビングガイド10の支持部材を取り付けて、ウェビングガイド10を支持するだけの機能としてもよい。
【0028】
また、ウェビングガイド10についても、巻取装置本体からのウェビングの引き出し方向が確定できれば、取付対象となる部材によって、その外形形状、係止手段は適宜設計可能である。また、ウェビングガイド10の素材についても、成形適応性がよく、低コスト材料であって、所定の耐摩耗性、強度が確保できれば、ポリプロピレン樹脂、アラミド樹脂に限られず、各種の合成樹脂材料を使用することができる。
【0029】
また、明細書の記載に関しては、本発明は上述した実施例として記載されたものに限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した発明の技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0030】
10 ウェビングガイド
11 スリット
12 縦リブ
50 シートベルト巻取装置
51 巻取装置本体
52 ウェビング
54 アッパステイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングを引き出し巻き取り可能に、内部に収容可能な巻取装置本体と、該巻取装置本体の外形に設けられ、巻取装置本体を車体の固定部に固定する固定部材とを備え、前記固定部材の一部に、前記巻取装置本体内から引き出される前記ウェビングのスリットが形成されたウェビングガイドが設けられたシートベルト巻取装置において、
前記ウェビングガイドのスリットの内周面に所定間隔をあけて前記ウェビングの摺動方向に沿って延在する複数本の縦リブを形成し、該縦リブの表面に接触しつつ、前記ウェビングの引き出し、巻き取りが行われるようにしたことを特徴とするシートベルト巻取装置。
【請求項2】
前記ウェビングガイドは、前記縦リブが、対向するスリットの内周面から突設するように、一体成形された合成樹脂部材であることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト巻取装置。
【請求項3】
前記スリットの対向した内周面に形成された縦リブ間の隙間は、前記ウェビングがいずれかの縦リブに接触しつつ、前記スリットを通過できる幅に設定されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシートベルト巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−28256(P2013−28256A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165359(P2011−165359)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】