説明

シートベルト用リトラクタ

【課題】ピストンのラックがピニオンに対して初めに噛合する際の衝撃に対するラックの強度改善を、プリテンショナユニットの体格になるべく影響を与えずに実現すること。
【解決手段】シートベルト用リトラクタは、ウエビングを巻き取る巻取ドラムと、ウエビングの巻取方向に、巻取ドラムを回転させるプリテンショナユニット40とを備えている。プリテンショナユニット40は、巻取ドラムと連動回転可能なピニオンギヤ46と、ピニオンギヤ46に噛合可能なラック44を有して、ピニオンギヤ46を介して巻取ドラム30を巻取方向に回転させるピストン43と、ピストン43を移動可能に収容するパイプシリンダ42と、ピストン43を駆動するガス発生部とを有している。ピストン43の先端に設けられた先端側ラック歯44aは、基端側ラック歯44bより全歯たけが小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時にウエビングの弛みを除去するための機構を備えたシートベルト用リトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
シートベルト用リトラクタに関して、特許文献1には、ウエビング巻取装置が開示されている。特許文献1のウエビング巻取装置では、プリテンショナにおいて、シリンダ内部で発生したガスの圧力によりシリンダから押し出されるピストンにはラックが設けられている。また、ウエビング巻取軸に巻取方向の回転力を付与する回転力付与部材には、ラックに噛合可能な外歯歯車(ピニオンギヤ)が設けられている。
【0003】
プリテンショナ作動後に、初めにラックと外歯歯車が噛合する際には、ラック歯と外歯(ピニオンギヤ歯)とに衝撃が発生する。この衝撃によりラック歯もしくは外歯が変形する恐れがある。
【0004】
これに対して、特許文献1では、衝撃に対する強度を改善するため、プリテンショナ作動後に初めに噛合するラック歯もしくは外歯を、他の歯よりも外形(歯厚、全歯たけの双方)を大きくして機械的強度を高くして対応している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−233176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、プリテンショナ作動後に初めに噛合する歯を大きくすると、その分、ラック歯の歯厚や間隔が大きくなることによるピストンストローク量の増加や、ピニオンギヤ歯の歯先円直径の拡大によって、プリテンショナの体格が大きくなる問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、ピストンのラックがピニオンに対して初めに噛合する際の衝撃に対するラックの強度改善を、プリテンショナユニットの体格になるべく影響を与えずに実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様に係るシートベルト用リトラクタは、ウエビングを巻き取る巻取ドラムと、前記ウエビングの巻取方向に、前記巻取ドラムを回転させるプリテンショナユニットと、を備え、前記プリテンショナユニットは、前記巻取ドラムと連動回転可能なピニオンギヤと、前記ピニオンギヤに噛合可能なラックを有して、前記ピニオンギヤを介して前記巻取ドラムを巻取方向に回転させるピストンと、前記ピストンを移動可能に収容する筒状のシリンダと、前記ピストンを駆動する駆動機構と、を有し、前記ラックにおける複数のラック歯のうち、前記ピストンの先端に設けられたラック歯を含む前記ピストンの先端側の一部のラック歯は、前記ピストンの基端側のラック歯より全歯たけが小さく設定されている。
【0009】
第2の態様は、第1の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記ラックにおける複数のラック歯のうち、前記ピストンの先端に設けられた前記ラック歯を含む前記ピストンの先端側の一部の前記ラック歯は、前記ピストンの基端側の前記ラック歯より歯元のたけが小さく設定されている。
【0010】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記ラックにおける前記複数のラック歯のうち、前記ピストンの最も先端側の前記ラック歯の全歯たけが、それより前記ピストンの基端側の前記ラック歯より小さく設定されている。
【0011】
第4の態様は、第1〜第3のいずれか一態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記ピニオンギヤは、軸心方向側部に、少なくとも歯底円より大きい直径のフランジを有している。
【0012】
第5の態様は、第1〜第4の態様のいずれか一態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記ピストンは、前記ラックの背面側に、基端側に設けられて前記シリンダの内面に摺接する摺接面と、先端側に設けられて前記摺接面から前記ラック側に凹む形状に形成された凹み面とを有する段差部を有する。
【0013】
第6の態様は、第5の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記シリンダは、前記ピストンの進行方向側端部にストッパーピンを有し、前記凹み面は、前記ピストンの進出位置で前記ストッパーピンに当接可能に形成されている。
【0014】
第7の態様は、第5又は第6の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記ピストンは、前記ラックと前記段差部の前記摺接面との間に肉抜き部を有している。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様に係るシートベルト用リトラクタによると、ラックにおける複数のラック歯のうちピストンの先端に設けられたラック歯を含むピストンの先端側の一部のラック歯は、ピストンの基端側のラック歯より全歯たけが小さく設定されているため、ピニオンギヤとの噛合によってより大きな力が加わるピストンの先端側のラック歯の強度を向上させて変形を抑制することができる。これにより、初めに噛合する際の衝撃に対するラックの強度改善を、プリテンショナユニットの体格になるべく影響を与えずに実現することができる。
【0016】
第2の態様に係るシートベルト用リトラクタによると、ラックにおける複数のラック歯のうち、ピストンの先端に設けられたラック歯を含むピストンの先端側の一部のラック歯は、ピストンの基端側のラック歯より歯元のたけが小さくされることで歯底が浅く設定されているため、より確実にピストンとピニオンギヤとの噛合いを確保しつつ、ラックの強度改善を実現することができる。
【0017】
第3の態様に係るシートベルト用リトラクタによると、ラックにおける複数のラック歯のうち、ピストンの最も先端側のラック歯の全歯たけが、それよりピストンの基端側のラック歯より小さく設定されているため、ピストンとピニオンギヤとの噛合により最も大きな力が加わる最も先端側のラック歯の強度を向上させつつ、その他のラック歯ではより良好な噛合いを得ることができる。
【0018】
第4の態様に係るシートベルト用リトラクタによると、ピニオンギヤが、軸心方向側方に少なくとも歯底円より大きい直径のフランジを有しているため、ピニオンギヤのピニオンギヤ歯の変形を抑制することができ、ピニオンギヤの強度改善を、プリテンショナユニットの体格になるべく影響を与えずに実現することができる。
【0019】
第5の態様に係るシートベルト用リトラクタによると、ピストンが、ラックの背面側に、基端側に設けられてシリンダの内面に摺接する摺接面と、先端側に設けられて摺接面からラック側に凹む形状に形成された凹み面とを有する段差部を有するため、ピストンの先端側に設けられたラック歯が設けられた部分において、摺接面が設けられた部分よりピストンが肉薄となると共に、ラックの背面側でシリンダの内面との間に空間が確保されている。これにより、ピストンの先端部がピニオンから離間する向きに弾性変形することが可能となり、ラックが最初にピニオンギヤに噛合する際には、先端側に設けられたラック歯の基端部に作用する力を弾性変形により緩和することができる。また、先端側に設けられたラック歯とピニオンギヤ歯とが、歯の歯先と歯底とが当接する態様で噛合った場合等には、ラックとピニオンギヤ間に生ずる抵抗力を弾性変形により緩和することができる。そして、よりスムーズにプリテンショナユニットを作動させることができる。
【0020】
第6の態様に係るシートベルト用リトラクタによると、シリンダがピストンの進行方向端部にストッパーピンを有し、凹み面がピストンの進出位置でストッパーピンに当接可能に形成されているため、ストッパーピンが凹み面の内側に配設された状態でピストンをストッパーピンにより移動規制でき、プリテンショナユニットの体格になるべく影響を与えずにストッパーピンを設けることができる。
【0021】
第7の態様に係るシートベルト用リトラクタによると、ピストンがラックと摺接面との間に肉抜き部を有しているため、ピストンの軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】シートベルト用リトラクタの全体構成を示す斜視図である。
【図2】シートベルト用リトラクタの分解図である。
【図3】シートベルト用リトラクタのプリテンショナユニット側の分解斜視図である。
【図4】シートベルト用リトラクタのロックユニット側の分解斜視図である。
【図5】シートベルト用リトラクタのプリテンショナユニットを取外した状態の斜視図である。
【図6】プリテンショナユニットの内部構造を示す図である。
【図7】ピストンの斜視図である。
【図8】ピストンの側面図である。
【図9】ピストンの正面図である。
【図10】ピストンの背面図である。
【図11】ラック歯の説明図である。
【図12】プリテンショナユニットの動作を示す図である。
【図13】プリテンショナユニットの動作を示す図である。
【図14】ロックパウルの動作を示す図である。
【図15】ロックパウルの動作を示す図である。
【図16】ウエビング感応部を概略的に示す説明図である。
【図17】衝撃吸収構成部分を示す分解斜視図である。
【図18】ワイヤー式荷重発生機構の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係るシートベルト用リトラクタ10について説明する(図1参照)。
【0024】
<全体構成>
シートベルト用リトラクタ10は、車両等の座席に備えられるシートベルト装置に適用されるものである。このシートベルト用リトラクタ10は、車両のセンターピラー下部等に組込まれており、通常状態では、シートベルトとしてのウエビング12を引出及び巻取可能に収容している。このシートベルト用リトラクタ10は、車両の加減速時の非通常状態時には、乗員を効果的に拘束するため、ウエビング12の引出を規制する。特に、車両の衝突時或は急激な減速時等の緊急時には、シートベルト用リトラクタ10は、シートベルトの弛みを除去して乗員を効果的に拘束するようにウエビング12を巻取り、その後、乗員に加わる衝撃を緩和するようにウエビング12を徐々に繰出すように構成されている。
【0025】
このシートベルト用リトラクタ10は、ハウジング20と、巻取ドラム30と、プリテンショナユニット40と、ロックユニット60と、ワイヤー式荷重発生ユニット80と、巻取ユニット100とを備えている(図2参照)。巻取ドラム30は、ハウジング20内に収容されている。また、巻取ドラム30の一側部(図1の右側)にプリテンショナユニット40が設けられ、巻取ドラム30の他側部(図1の左側)にロックユニット60及び巻取ユニット100が設けられている。そして、巻取ユニット100が巻取ドラム30をウエビング12の巻取方向に付勢するように構成され、ロックユニット60が車両の減速時等の非通常状態時(車両の衝突時或は急激な減速時等の緊急時を含む)に、ウエビング12の引出方向への巻取ドラム30の回転を規制するように構成される。さらに、プリテンショナユニット40は、車両緊急時等に、ウエビング12の巻取方向に巻取ドラム30を回転させるように構成され、これにより乗員をより確実に拘束するようになっている。ワイヤー式荷重発生ユニット80は、プリテンショナユニット40が車両緊急時等にウエビング12の巻取方向に巻取ドラム30を回転させた後、ウエビング12を徐々に繰出すように巻取ドラム30の回転を許容するように構成されている。
【0026】
<ハウジング及び巻取ドラムについて>
ハウジング20は、金属板等によって形成された部材であり、図2に示すように、対向して設けられた一対の側板部21、22と、当該側板部21、22の縁部同士を連結する複数の連結板部23、24とを備えている。側板部21、22には、巻取ドラム30の端部を外部に臨ませる開口21h、22hが形成されている。また、連結板部23は、側板部21、22の他の縁部(図1では上側の縁部)間の位置に延出する部分23aを有しており、この部分23aにウエビング12を外部に引出すための開口23hが形成されている(図3、図4参照)。ここでは、開口23hには、ウエビング12を挿通可能なスリット状の開口が形成された樹脂製のガイド部材23bが装着されている。また、連結板部23の前記部分23aには、本シートベルト用リトラクタ10を車体等に取付けるためのねじ穴が形成されたねじ固定片23cが形成されている。
【0027】
そして、一対の側板部21、22間に巻取ドラム30を配設した状態で、一方の側板部21の外面にプリテンショナユニット40が取付けられると共に、他方の側板部22の外面にロックユニット60が取付けられる。
【0028】
巻取ドラム30は、ウエビング12を巻き取る部材であり、ウエビング12が巻回された状態でハウジング20内に回転可能に配設されている。より具体的には、巻取ドラム30は、アルミニウム等により形成されており、円柱状の巻取ドラム本体部31と、その巻取ドラム本体部31の軸芯方向両端部に径方向に張出すように形成されたフランジ部32、34を有している。ウエビング12は、両フランジ部32、34間で巻取ドラム本体部31に巻回収容される。
【0029】
また、巻取ドラム30には、その中心軸に沿って軸孔部36が形成されている。軸孔部36は、巻取ドラム30の一端部側では非貫通であり、巻取ドラム30の他端部側では開口している。この軸孔部36には、トーションバー38が挿入されている。トーションバー38の一端部38aは、軸孔部36内部において巻取ドラム30に相対回転不能に結合されている。ここでは、トーションバー38の一端部38aを断面非円形形状(ここではスプライン形状)に形成し、この一端部38aが、軸孔部36の最奥部の嵌合穴に相対回転不能な態様で嵌め込まれている。また、トーションバー38の他端部38bは、巻取ドラム30の他端側から外部に突出しており、後述するロックユニット60のラチェットギヤ61と相対回転不能に結合される。ここでは、トーションバー38の他端部38bが断面非円形形状(ここでは歯車形状)に形成され、この他端部38bがラチェットギヤ61に形成された嵌合穴62aに相対回転不能な態様で嵌め込まれている(図17参照)。
【0030】
<プリテンショナユニット>
プリテンショナユニット40は、車両の衝突時等の緊急時に、ウエビング12の巻取方向に巻取ドラム30を回転させることによって、ウエビング12の弛みを除去するための機構である。このように車両の衝突時等の緊急時において、ウエビング12の弛みを除去することによって、乗員をしっかりと座席に拘束することができる。
【0031】
より具体的には、プリテンショナユニット40は、図3に示すように、ガス発生部材41と、パイプシリンダ42と、ピストン43と、ピニオンギヤ46と、クラッチ機構50とを備えている。
【0032】
ガス発生部材41は、ピストン43を駆動する駆動機構としての部材であり、ガスを発生させることによりピストン43を駆動する。より具体的には、ガス発生部材41は、火薬等のガス発生剤を有しており、衝撃検知センサ等の出力に応じて前記ガス発生剤を着火させてガスを発生させる構成とされている。
【0033】
パイプシリンダ42は、ピストン43を移動可能に収容する直線状のピストン案内筒部42aの一端部にガス導入部42bが連設されたL字状の筒部材である。このガス導入部42bに上記ガス発生部材41が装着されている。従って、ガス発生部材41により発生されたガスは、パイプシリンダ42のガス導入部42b側(図6等で下側)からピストン案内筒部42a内に導入される。また、ピストン案内筒部42aの一側部における長手方向中間部には、開口部42hが形成されている。この開口部42hに、巻取ドラム30と連動回転可能な後述するピニオンギヤ46の一部分が配設される。すなわち、ピニオンギヤ46は、開口部42hを通じてピストン案内筒部42a内に突出し、ピストン案内筒部42a内に移動可能に収容されるピストン43の後述するラック44と噛合可能とされている(図6参照)。
【0034】
このパイプシリンダ42は、側板部21側のベースプレート48aと外側のカバープレート48bとによって挟持されると共に、これらの間でベースブロック49とカバープレート48bとによって挟持された状態で、タッピングネジPIN1等を用いて側板部21の外面に取付固定される。
【0035】
また、パイプシリンダ42は、ピストン43の進行方向側端部(ピストン案内筒部42aの上端部)にストッパーピンPIN2を有している。ストッパーピンPIN2は、プリテンショナユニット40をハウジング20に取付けるとともに、ピストン43の抜止及び、パイプシリンダ42の抜止、回転止として機能する部材である。このストッパーピンPIN2は、ピストン案内筒部42aの上端部に、ピストン案内筒部42aの長手方向に直交する方向に沿って形成された貫通孔42cに挿通されている。
【0036】
ピストン43は、パイプシリンダ42内にその長手方向に沿って移動可能に配設されている。このピストン43は、スチール材等で形成された部材であり、全体として長尺形状に形成されている(図7〜図10参照)。また、ピストン43は、一側部(図8で左側部)に、ピニオンギヤ46に噛合可能なラック44を有している。そして、ピストン43は、ピニオンギヤ46を介して巻取ドラム30を巻取方向に回転させるように設けられている。
【0037】
ラック44における複数のラック歯は、ピニオンギヤ歯46aと噛合い可能なように、ピニオンギヤ46のモジュールに対応した形状に設定し、基準ピッチ線P(データム線ともいう)におけるピッチf、歯厚gを長手方向において全て同じに設定されている(図11参照)。また、複数のラック歯のうち、ピストン43の先端に設けられたラック歯を含むピストン43の先端側の一部のラック歯(以下、先端側ラック歯44a)は、ピストン43の基端側のラック歯(以下、基端側ラック歯44b)より全歯たけaが小さく設定されている。なお、基端側ラック歯44bは、先端側ラック歯44aより基端側のラック歯全てを言うものとする。すなわち、ラック44がピニオンギヤ46に噛合する初期段階でピニオンギヤ歯46aと当接する先端側ラック歯44aの全歯たけaが小さく設定されている。全歯たけaが小さく設定されることにより、ラック歯に作用する力によってラック歯の基端部44cに生ずる応力を低減することができ、ピストン43の強度改善に寄与する。
【0038】
以下、ラック歯の形状の設定方法についてより詳細に説明する(図11参照)。ここでは、先端側ラック歯44aは、基端側ラック歯44bより歯元のたけd(基準ピッチ線Rから歯底までの寸法)を小さくして歯底を浅くすることにより、全歯たけaを小さく設定している。すなわち、先端側ラック歯44aの歯元のたけdと基端側ラック歯44bの歯元のたけeとは、d<eの関係となっている。一方、先端側ラック歯44a及び基端側ラック歯44bの歯末のたけc(基準ピッチ線Pから歯先までの寸法)は同じ寸法に設定され、先端側ラック歯44a及び基端側ラック歯44bの歯先が同じ高さとなっている。つまり、先端側ラック歯44aの歯元のたけdが基端側ラック歯44bの歯元のたけeより小さくなった分、先端側ラック歯44aの全歯たけa(c+d)が、基端側ラック歯44bの全歯たけb(c+e)より小さくなっている。
【0039】
ここで、基端側ラック歯44bの歯底の深さは、周辺部品の寸法公差と各部品同士の噛合い時のガタを考慮して、ラック44とピニオンギヤ46とが噛合する際に、ピニオンギヤ歯46aの歯先が基端側ラック歯44bの歯底に当接しないだけの余裕をもたせた寸法に設定されている。換言すると、基端側ラック歯44bの全歯たけbは、噛み合い歯たけと頂隙(歯底と相手歯車の歯先との隙間)との和の寸法に設定されている。これに対して、先端側ラック歯44aの歯底の深さは、基端側ラック歯44bの歯底の深さより、ラック44とピニオンギヤ46との距離を前記ガタの分だけ離した場合における前記余裕の寸法公差を考慮した最小値(例えば0.5mm)分浅く設定されている。換言すると、先端側ラック歯44aの全歯たけaは、基端側ラック歯44bの全歯たけbより頂隙(e−d)の範囲内で小さく設定されている。
【0040】
例えば、先端側ラック歯44a及び基端側ラック歯44bの各部の寸法は、以下のように設定することができる。
先端側ラック歯44aの全歯たけa(c+d):3.5mm
基端側ラック歯44bの全歯たけb(c+e):4.0mm
先端側ラック歯44a及び基端側ラック歯44bの歯末のたけc:2.0mm
先端側ラック歯44aの歯元のたけd:1.5mm
基端側ラック歯44bの歯元のたけe:2.0mm
ピッチf:6.96mm
歯厚g(f/2):3.48mm
【0041】
本形状によると、先端側ラック歯44aの歯底に対してピニオンギヤ歯46aの歯先が当接し、ラック44とピニオンギヤ46とが適切に噛合わない場合も予測されるが、ピストン43とピニオンギヤ46との衝突時のより大きな衝撃を緩和することが重要である。また、後述するように、ピストン43の先端側部分は、ラック44とピニオンギヤ46とが噛合する際にピニオンギヤ46から離間する向きに弾性変形可能であるため、先端側ラック歯44aの歯底とピニオンギヤ歯46aの歯先とが当接して抵抗力が発生しても、該弾性変形により緩和可能である。
【0042】
また、ここでは、先端側ラック歯44aは、ピストン43の最も先端側のラック歯である。また、その他のラック歯が基端側ラック歯44bである。この先端側ラック歯44aは、ピニオンギヤ46に対して最初に当接するラック歯であり、最も大きい衝撃及び力がかかる部分である。
【0043】
また、ピストン43は、ラック44の背面側(図8で右側部)において、基端側に設けられてパイプシリンダ42の内面に摺接する摺接面45aと、先端側に設けられて摺接面45aからラック44側に凹む形状に形成された凹み面45bとを有する段差部45を有する。より具体的には、摺接面45aは、パイプシリンダ42の内面に沿った弧状面である。そして、摺接面45aは、ピストン43が移動すると、パイプシリンダ42の内面に摺接する。また、凹み面45bは、摺接面45aからラック44側に向けて延在する(ピストン43の長手方向に直交する)平面とピストン43の長手方向に沿って延在する平面とが湾曲面を介して連続する面である。この凹み面45bは、ピストン43の進出位置でストッパーピンPIN2に当接可能に形成されている。凹み面45bの湾曲面は、ストッパーピンPIN2の外周面に沿った形状に形成されている。そして、ピストン43がパイプシリンダ42の先端側に移動すると、凹み面45bの一部がストッパーピンPIN2の外周面に当接し、ストッパーピンPIN2は凹み面45bの内側に位置する。
【0044】
図8に示すように、ピストン43のうち、凹み面45bが形成された先端側の部分は、摺接面45aが形成された基端側の部分より肉薄になっている。このため、該先端側の部分は、凹み面45bの内側において、パイプシリンダ42の内面との間に空間を空けることにより、基端側の部分よりラック44と段差部45とを結ぶ方向において弾性変形可能である。これにより、ピストン43が移動してラック44がピニオンギヤ46に対して最初に当接する際に加わる衝撃によって、ピストン43の先端側の部分がピニオンギヤ46から離間する向きに弾性変形することができる。つまり、ピストン43の先端側の部分の弾性変形により、ラック44とピニオンギヤ46との当接時の衝撃を緩和できる。
【0045】
また、ピストン43は、ラック44と段差部45の摺接面45aとの間に肉抜き部43hを有している。より具体的には、肉抜き部43hは、ラック44と摺接面45aとの間で、ピストン43の長手方向に沿って長尺で、該ラック44と摺接面45aとを結ぶ方向に対して直交する方向に貫通する孔状又は直交する方向に凹む溝状(ここでは孔状)に形成されている。
【0046】
また、ピストン43の一端面(図6等で下端面)は、ピストン案内筒部42aの断面形状に応じた円形端面に形成されている。この円形端面に、ゴム等のエラストマーによって形成されたシールプレート42sが取付けられている。
【0047】
このピストン43は、プリテンショナユニット40動作前の待機状態では、ラック44がピニオンギヤ46に非噛合状態となる位置まで、ピストン案内筒部42aの奥側(ガス導入部42b側)に挿入配置される。
【0048】
ピニオンギヤ46は、ピストン43が進退移動する直進力を巻取ドラム30の回転方向の回転力として伝達する部材である(図6参照)。このピニオンギヤ46は、スチール材等で形成された円柱状部材であり、その外周部にはラック歯44a、44bに噛合い可能なピニオンギヤ歯46aが形成されている。また、ピニオンギヤ歯46aより外方に延出するようにして円筒状の支持部46bが形成されている。この支持部46bが側板部21の外面側に取付けられるカバープレート48bに形成された支持孔48hに回転可能に嵌め込まれる。このように支持部46bが支持孔48hに嵌め込まれた状態では、ピニオンギヤ歯46aの一部が、開口部42hを通じてピストン案内筒部42a内に配設される。そして、ピストン43が上記待機状態より上方に移動すると、ラック歯44a、44bがピニオンギヤ歯46aに噛合って、ピニオンギヤ46が回転する。
【0049】
このピニオンギヤ46は、回転力が後述するクラッチ機構50を介して巻取ドラム30に伝達され、巻取ドラム30と連動回転可能とされている。
【0050】
また、ピニオンギヤ46は、軸心方向側部に、少なくとも歯底円より大きい直径のフランジ47を有している。好ましくは、フランジ47は、ピニオンギヤ46の歯先円と同じかそれより大きい直径に設定されているとよく、ここでは歯先円より大きい直径に設定されている(図3、図6参照)。これにより、ピニオンギヤ歯46aは、歯幅方向(ピニオンギヤ46の軸心方向)の一端部がフランジ47に固定され、ピニオンギヤ46の軸心方向に直交する平面上において変形を規制される。ここでは、フランジ47は、ピニオンギヤ46の軸心方向のベースプレート48a側(側板部21側)に設けられている。
【0051】
上記ピニオンギヤ46の軸心方向の側板部21側の端部、すなわちフランジ47の側部には、当該軸芯方向に沿って突出するボス部46dが形成されている。ボス部46dは、断面非円形状(ここでは、複数の突条部分を有するスプライン形状)に形成されている。このボス部46dは、ベースプレート48aに形成された開口を通って巻取ドラム30側に突出配置される。
【0052】
クラッチ機構50は、通常時においてピニオンギヤ46に対して巻取ドラム30を自由回転させる状態(両者間の回転伝達経路を絶った状態)と、プリテンショナユニット40の作動時においてピニオンギヤ46の回転を巻取ドラム30に伝達する状態(両者間の回転伝達経路を確立した状態)とで切替え可能に構成されている。
【0053】
このクラッチ機構50は、スチール材等で形成されたパウルベース51と、スチール材等で形成された複数(ここでは3つ)のクラッチパウル52と、樹脂等で形成されたパウルガイド53とを備えている。
【0054】
パウルベース51の中央部には、上記ボス部46dが嵌め込まれる嵌合孔51hが形成されており、ボス部46dが本嵌合孔51hに嵌め込まれることによって、パウルベース51がピニオンギヤ46に対して相対回転不能に取付けられる。つまり、ピニオンギヤ46とパウルベース51とは一体回転する関係にある。また、このように、ボス部46dが嵌合孔51hに嵌め込まれた状態で、ボス部46dにベアリング54が嵌め入れられる。なお、ベアリング54には、巻取ドラム30の他方側面中央に形成された軸部32bが挿入される。
【0055】
このパウルベース51に、各クラッチパウル52が収容姿勢と係止姿勢との間で姿勢変更可能に支持されている。収容姿勢は、クラッチパウル52の全体をパウルベース51の外周縁部の内周側に納めた姿勢であり、係止姿勢はクラッチパウル52の先端部をパウルベース51の外周縁部の外周側に突出させた姿勢である。
【0056】
パウルガイド53は、円環状の部材であり、上記パウルベース51に対して各クラッチパウル52を挟んで対向する位置に配設されている。このパウルガイド53の外側の側面には位置決突起(図示省略)が突設されており、この位置決突起がベースプレート48aの位置決孔48eに嵌め入れられることにより、待機状態において、パウルガイド53が回転不能な状態でベースプレート48aに取付固定される。また、パウルガイド53のうちパウルベース51側の面には、各クラッチパウル52に対応して姿勢変更用突起部53aが突設されている。そして、プリテンショナユニット40の動作によってパウルベース51とパウルガイド53とが相対回転すると、各クラッチパウル52が姿勢変更用突起部53aに当接して、収容姿勢から係止姿勢に姿勢変更されるようになっている。
【0057】
また、各クラッチパウル52が係止姿勢に姿勢変更すると、巻取ドラム30に係合するようになる。より具体的には、巻取ドラム30の一方の側面には、クラッチ機構50を配設可能な環状凹部32hが形成されている。この環状凹部32hの周壁には、クラッチギヤ32aが形成されており、クラッチパウル52の先端部は当該クラッチギヤ32aに対して係合可能とされている。そして、上記のようにクラッチパウル52が係止姿勢に姿勢変更すると、クラッチパウル52の先端部がクラッチギヤ32aに係合し、これにより、パウルベース51が巻取ドラム30と一体に回転可能となる。なお、クラッチパウル52とクラッチギヤ32aとの係合は、巻取ドラム30をウエビング12の巻取方向へ回転させる、一方向のみへの係合構造である。一度係合するとクラッチパウル52が互いの変形を伴ってクラッチギヤ32aに噛み込むので、係合後、巻取ドラム30がウエビング12引出方向に回転すると、ピニオンギヤ46を、プリテンショナユニット40が作動する際とは逆の方向に、クラッチ機構50を介して回転させ、ピストン43を作動方向とは逆方向に押し戻す。そして、ピストン43のラック44と、ピニオンギヤ46との噛合いが外れる位置までピストン43が押し戻されると、ピニオンギヤ46はピストン43から外れるので、巻取ドラム30はピストン43に対して自由回転できるようになる。
【0058】
このプリテンショナユニット40の動作について説明する。
【0059】
すなわち、待機状態において(図6参照)、ガス発生部材41からガスが発生すると、発生したガスの圧力によってピストン43が押される(図12の上向き矢印の方向)。これにより、ピストン43がピストン案内筒部42aの上方(先端側)に向けて移動する。
【0060】
ラック44の先端側ラック歯44aが最初にピニオンギヤ46のピニオンギヤ歯46aに当接するまでピストン43が移動すると、該先端側ラック歯44aとピニオンギヤ歯46aとが噛合して、ピニオンギヤ46が回転し始める。ここで、ピストン43のうち凹み面45bが形成された先端側の部分は、ピニオンギヤ46との当接の衝撃により、ピニオンギヤ46から離間する向きに力を受けて(ここでは僅かに)弾性変形する。そして、ピストン43の移動に伴ってピニオンギヤ46が徐々に巻取ドラム30の巻取方向に回転する(図12では左回転)。
【0061】
ここで、先端側ラック歯44aとピニオンギヤ歯46aとが噛合った際に、ピニオンギヤ歯46aの歯先が先端側ラック歯44aの歯底に当接して噛合った場合でも、ピストン43のうち凹み面45bが形成された先端側の部分が、上記と同様に弾性変形して当接による抵抗力を緩和するので、ラック44がピニオンギヤ46を回転させ続けることができる。
【0062】
ピニオンギヤ46が回転されると、ピニオンギヤ46と一緒にパウルベース51が回転する。この際、パウルガイド53に対してパウルベース51が相対回転することになるので、パウルガイド53に形成された姿勢変更用突起部53aがクラッチパウル52に当接して、クラッチパウル52を係止姿勢に姿勢変更させる。これにより、クラッチパウル52は巻取ドラム30のクラッチギヤ32aに係合する。これにより、ピストン43が上方に移動しようとする力が、ピニオンギヤ46、パウルベース51、クラッチパウル52及びクラッチギヤ32aを介して巻取ドラム30に伝達され、巻取ドラム30がウエビング12の巻取方向に回転駆動され、ウエビング12が巻取ドラム30に巻取られる。
【0063】
なお、パウルガイド53に形成された姿勢変更用突起部53aはクラッチパウル52に当接した状態が維持されているため、パウルガイド53に対しても回転させようとする力が加わる。そして、この力によってパウルガイド53に形成された位置決突起が破壊されると、パウルガイド53はパウルベース51と共に回転することになる。
【0064】
さらにピストン43が移動されて、凹み面45bがストッパーピンPIN2に当接する位置まで移動すると、ピストン43が停止してピニオンギヤ46の回転も停止し、ウエビング12の巻取動作が終了する(図13参照)。
【0065】
<ロック機構>
ロックユニット60は、通常状態ではトーションバー38の他端部38bの回転を許容し、非通常状態ではウエビング12の引出方向へのトーションバー38の他端部38bの回転を規制するように構成されている(図4参照)。本実施形態では、ロックユニット60は、ウエビング12の急な引出時と、車両の急な加速時又は減速時にトーションバー38の他端部38bの回転を規制するように構成されている。
【0066】
すなわち、ロックユニット60は、ラチェットギヤ61と、ロックパウル64と、ロック側クラッチ66と、ロックカバー68と、ウエビング感応部70と、加速感応部74とを備えている。そして、ウエビング感応部70又は加速感応部74の感応動作に応じてロック側クラッチ66がロックパウル64を動かしてラチェットギヤ61に係合させ、もって、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する(図14、図15参照)。
【0067】
すなわち、上記トーションバー38の他端部38bに、ラチェットギヤ61が取付けられている(図3参照)。このラチェットギヤ61は、巻取ドラム30の他方側面に隣接して配設されており、通常状態では、巻取ドラム30と連動して回転し、車両緊急時等にはロックユニット60によって回転停止される。つまり、ラチェットギヤ61は、ロックユニット60の動作に応じて、巻取ドラム30の回転軸と同軸上で回転可能な状態と、ウエビング12の引出方向への回転を規制された状態とで切替えられる回転規制部材である。
【0068】
より具体的には、ラチェットギヤ61は、スチール材等で形成された部材であり、円板状のラチェットギヤ本体部61aと、ラチェットギヤ本体部61aの一方の主面から突出した軸部61cとを備えている。ラチェットギヤ本体部61aの外周部にはロックパウル64が係合可能なラチェットギヤ歯61bが形成されている。このラチェットギヤ本体部61aは、側板部22に形成された開口22hよりも(僅かに)小さく形成され、当該開口22h内に回転可能に配設される。軸部61cは断面視非円形状(ここではその長手方向に沿った突条部を有するスプライン形状)に形成されており、この軸部61cが後述するロック回転部材71及びストッパ104に回り止状態で嵌め込まれる。
【0069】
また、ラチェットギヤ本体部61aの他方の主面の中央部には、トーションバー38の他端部38bを嵌め込み可能な嵌合穴62aが形成されている。ここでは、ラチェットギヤ本体部61aの他方の主面の中央部に、筒部62が突設され、その筒部62の内周部が嵌合穴62aであり、トーションバー38の他端部38bに対応する断面非円形形状(ここでは歯車形状)に形成されている。そして、トーションバー38の他端部38bが嵌合穴62aに嵌込まれることで、トーションバー38の他端部38bとラチェットギヤ61とが相対回転不能に相互取付けされる。
【0070】
なお、このラチェットギヤ本体部61aの他方の主面には、ワイヤー式荷重発生ユニット80を組込むための部分が形成されているが、これについては後述する。
【0071】
ロックパウル64は、スチール材等で形成された部材である。ロックパウル64は、細長部材(ここでは、長円状部材)に形成され、その一側部に上記ラチェットギヤ歯61bに係合可能な係合歯64aが形成されている。このロックパウル64は、側板部22に対してハウジング20に取付けられる巻取ドラム30の外周位置で、ピン部材64cを介して係合姿勢と非係合姿勢との間で姿勢変更可能に取付けられる。係合姿勢は、係合歯64aを上記ラチェットギヤ歯61bに係合させる位置であり、非係合姿勢は係合歯64aをラチェットギヤ歯61bから離間させた位置である。また、ロックパウル64の一端部の外向き面には、連結ピン64bが突設されており、この連結ピン64bは開口22hの周縁部の一部を切り欠くようにして形成された凹部22aを通って側板部22の外面側に突出している。
【0072】
また、ロックパウル64には、当該ロックパウル64を非係合位置に付勢する付勢部材としてリターンスプリング(図示せず)が装着されている。リターンスプリングの一端部はハウジング20等に固定され、リターンスプリングの他端部はロックパウル64の一端部に固定されており、リターンスプリングの弾性力によってロックパウル64を非係合位置に付勢している。
【0073】
そして、通常状態では、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64は非係合姿勢に維持されている(図14参照)。そして、後述するロック側クラッチ66によってロックパウル64が係合姿勢に姿勢変更されると、ロックパウル64の係合歯64aがラチェットギヤ61のラチェットギヤ歯61bに係合して、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する(図15参照)。また、ロックパウル64を係合姿勢に姿勢変更する力が解除されると、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64が非係合姿勢に姿勢変更され、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30はウエビング12を引出及び巻取動作できるようになる。
【0074】
ロック側クラッチ66及びロックカバー68は樹脂等で形成された部材である。
【0075】
ロックカバー68は、クラッチ収容部68aと加速感応部収容部68bとを有している。クラッチ収容部68aは、ロック側クラッチ66を一定範囲内で回転可能に収容可能で、かつ、側板部22側に開口する収容空間を有するケース形状に形成されている。加速感応部収容部68bは、加速感応部74を収容可能で、かつ、クラッチ収容部68a内空間と連通する空間を有するケース形状に形成されている。そして、クラッチ収容部68aを巻取ドラム30の他方側のフランジ部34の外面に対応する位置に配設すると共に、その下方に加速感応部収容部68bを配設した状態で、ロックカバー68が側板部22の外面に取付けられる。ロックカバー68の取付は、ロックカバー68に形成した突起を側板部22に嵌め込むこと、その他ピン止、ねじ止等によって行うとよい。
【0076】
ロック側クラッチ66は、円板状の板部66pの一周面に内側周壁部66aと、外側周壁部67とが形成された構成とされている。
【0077】
板部66pの中央部には、軸部61cを挿通可能な挿通孔66hが形成されており、ロック側クラッチ66はロックカバー68のクラッチ収容部68a内で一定の(ここでは僅かな一定の)回転範囲内で回転可能に収容される。
【0078】
上記内側周壁部66aは、挿通孔66hを取囲む位置に形成されており、この内周面には後述する慣性アーム73の先端係合部73aが係止可能な内歯66bが形成されている。
【0079】
外側周壁部67は、内側周壁部66aを、間隔を介して取囲むように形成されている。この外側周壁部67の一部分には、上記ロックパウル64の連結ピン64bを嵌め込み可能な連結孔67hが形成されている。そして、このロック側クラッチ66が上記一定の回転範囲内で正逆両方向に回転することで、ロックパウル64が上記係合姿勢と非係合姿勢との間で姿勢変更される。なお、ロックパウル64はリターンスプリングの付勢力によって非係合姿勢に向けて付勢されているので、この付勢力によってロック側クラッチ66は、ロックパウル64の非係合姿勢に対応した回転姿勢に付勢されている。
【0080】
また、外側周壁部67の他の一部分には、後述するロックアーム78を姿勢変更可能に支持するロックアーム支軸部67bが設けられている。ここで、ロックアーム78は、ロック回転部材71の外歯71bに係合可能な係合部78aを有する長尺部材である。このロックアーム78の基端部が上記ロックアーム支軸部67bによって係合姿勢と非係合姿勢との間で姿勢変更可能に軸支されている。ロックアーム78の係合姿勢は、係合部78aを内周側に移動させてロック回転部材71の外歯71bに係合させた姿勢であり(図16参照)、その非係合姿勢は係合部78aを外周側に移動させて前記外歯71bから退避させた姿勢である。
【0081】
ウエビング感応部70は、ウエビング12の急激な引出時に巻取ドラム30の回転を規制するための部分であり、ロック回転部材71と、付勢部材としてのコイルバネ72と、慣性アーム73とを備えている(図4、図16参照)。
【0082】
ロック回転部材71は、樹脂等で形成された部材であり、円板部分の一主面に周壁部71aが形成された円状部材に形成されている。周壁部71aは、上記内側周壁部66aと外側周壁部67との間に配設可能な径寸法に設定されており、当該周壁部71aを内側周壁部66aと外側周壁部67との間に配設した状態で、回転可能とされている。この周壁部71aの外周部には、ロックアーム78の係合部78aを係合可能な外歯71bが形成されている。
【0083】
また、ロック回転部材71の中央部には、ラチェットギヤ61の軸部61cを回り止状態で嵌め込み可能な嵌合貫通孔71hが形成されている。そして、軸部61cが嵌合貫通孔71hに貫通状態でかつ回り止状態で嵌め込まれる。
【0084】
慣性アーム73は、樹脂等で形成された部材であり、ロック回転部材71の外周縁部の内側に沿った弧状形状に形成されている。慣性アーム73の一端部は、上記内側周壁部66aの内歯66bに係合可能な先端係合部73aに形成されている。この慣性アーム73は、ロック回転部材71の中心から外れた位置で、支軸部71cを介して回転可能に支持されており、先端係合部73aを内周よりの位置に移動させた非係止姿勢(図16の実線参照)と先端係合部73aを外周よりの位置に移動させた係合姿勢(図16の2点鎖線参照)との間で姿勢変更可能とされている。また、慣性アーム73の他端部とロック回転部材71の止片71fとの間に、慣性アーム73を非係合姿勢に付勢する付勢部材としてのコイルバネ72が圧縮状態で介在されている。
【0085】
加速感応部74は、車両の急激な加速時に巻取ドラム30の回転を規制するための部分であり、球体75と、中継伝達レバー76と、ロックアーム78とを備えている(図4参照)。なお、車両の急激な加速時は、加速度がマイナスである場合、即ち、減速時を含み、勿論、車両の衝突によって急激に減速する場合を含む。
【0086】
球体75は、金属球等であり、球体支持部75bによって載置状に支持されている。球体支持部75bは、球体75の下半分よりも小さい部分のみを支える部分を有している。従って、球体75に大きな慣性力が作用すると、球体75は、球体支持部75b内から脱しようとして上方に変位する。
【0087】
中継伝達レバー76は、球体75の上側部分に被さる皿状部76aを有しており、球体支持部75bに突設された支持柱部75cによって、球体75の上方で姿勢変更可能に支持されている。そして、球体75が球体支持部75b内に収っている場合には、中継伝達レバー76は当該球体75の上部に載置されている。この状態から、球体75が球体支持部75bから脱しようとして上方に変位すると、中継伝達レバー76も上方に持上げられる。
【0088】
これらの球体75、球体支持部75b及び中継伝達レバー76は、ロックカバー68の加速感応部収容部68b内に収容される。また、この状態で、加速感応部収容部68bの側板部22側開口は、蓋部77によって塞がれている。
【0089】
この状態で、中継伝達レバー76は、加速感応部収容部68bと蓋部77との上方間部分を通ってロックアーム78と接触可能な位置に配設されている。そして、中継伝達レバー76が上方に持上げられると、ロックアーム78の係合部78aが中継伝達レバー76によって上方に持上げられ、ロックアーム78が係合姿勢に姿勢変更されるようになっている。なお、ロック側クラッチ66の回転範囲はここでは僅かであるので、当該回転範囲内において中継伝達レバー76がロックアーム78を持上げている状態を維持できるようにすることができる。
【0090】
ロックユニット60の動作について説明する。
【0091】
まず、ウエビング12が急に引出された場合、慣性力によって慣性アーム73が係止姿勢に姿勢変更し、その先端係合部73aが内歯66bに係合して、ロック側クラッチ66を回転させる。すると、ロックパウル64が係合姿勢に姿勢変更され、ロックパウル64の係合歯64aがラチェットギヤ61のラチェットギヤ歯61bに係合して、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する。これにより、トーションバー38の他端部38bの回転が規制され、ウエビング12の引出が規制される。
【0092】
この状態で、ウエビング12を引出す力が解除され、巻取ドラム30が僅かに巻戻されると、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64が非係合姿勢に姿勢変更されると共に、同リターンスプリングの付勢力を利用してロック側クラッチ66も元の回転姿勢に復帰する。また、コイルバネ72の付勢力によって慣性アーム73も非係止姿勢に姿勢変更する。これにより、トーションバー38の他端部38bの回転規制が解除され、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30は通常状態に戻ってウエビング12を引出及び巻取動作できるようになる。つまり、トーションバー38は、所定荷重よりも小さいウエビング12の引出方向への荷重の状態では、巻取ドラム30と回転規制部材としてのラチェットギヤ61を相対回転不能に結合する第1衝撃吸収部材として用いられている。ここで、所定荷重とは、本シートベルト用リトラクタ10の通常の使用状態よって生じる荷重範囲(即ち、人手によるウエビング12の引出し、及び、通常走行上想定される減速によるウエビング12の引出しによって生じる荷重)と、車両の衝突等の緊急状態によって生じる荷重範囲との間の値である。
【0093】
また、車両の衝突或は急減速時等で、車両が急に加速された場合、球体75が球体支持部75bの所定位置から外れて上方に変位する。すると、中継伝達レバー76が上方に持上げられ、中継伝達レバー76によりロックアーム78も係合位置に姿勢変更される。これにより、ロックアーム78の係合部78aがロック回転部材71の周壁部71aの外歯71bに係合して、ロック回転部材71の回転力がロックアーム78を介してロック側クラッチ66に伝達されるようになり、ロック側クラッチ66が回転する。
【0094】
すると、上記と同様に、ロックパウル64が係合姿勢に姿勢変更され、ロックパウル64の係合歯64aがラチェットギヤ61のラチェットギヤ歯61bに係合して、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する。これにより、トーションバー38の他端部38bの回転が規制され、ウエビング12の引出が規制される。
【0095】
この状態で、車両が安定状態(停止又は一定速度状態)になると、球体75が球体支持部75bの所定位置に収まり、中継伝達レバー76及びロックアーム78は、下方の元位置に復帰移動できるようになる。同時にウエビング12を引出す力が解除され、巻取ドラム30が僅かに巻戻されると、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64が非係合姿勢に姿勢変更されると共に、同リターンスプリングの付勢力を利用してロック側クラッチ66も元の回転姿勢に復帰する。同時に、中継伝達レバー76及びロックアーム78は、自重によって下方の元位置に復帰移動する。これにより、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30は通常状態に戻ってウエビング12を引出及び巻取動作できるようになる。
【0096】
このロックユニット60によって、少なくとも緊急状態ではラチェットギヤ61の回転を規制して、次に説明するワイヤー86を利用した衝撃エネルギーの吸収動作を開始可能な状態にすることができる。
【0097】
なお、ここでは、ロックユニット60が、ウエビング12の急な引出時及び車両の急な加速時にトーションバー38の他端部38bの回転を規制(停止)させる例で説明したが、これらはいずれか一方のみ採用されてもよいし、また、他の機構によってトーションバー38の他端部38bの回転を規制する構成であってもよい。また、プリテンショナユニット40の動作と連動してトーションバー38の他端部38bの回転を規制する構成であってもよい。即ち、ロックユニット60としては、少なくとも、ウエビング12を引出つつ衝撃吸収すべき緊急状態において、トーションバー38の他端部38bの回転を規制する構成であればよい。
【0098】
<巻取機構>
巻取ユニット100は、巻取ドラム30を、常時、巻取方向に付勢するように構成されている。ここでは、巻取ユニット100は、上記ロックユニット60の外側に設けられており、渦巻バネ102と、ストッパ104とバネカバー106とを有している(図4参照)。
【0099】
ストッパ104は、上記ロックユニット60の外側に突出する軸部61cの先端部に回り止状態で固定されると共に、渦巻バネ102の最内周端部に固定されている。渦巻バネ102は、ロックユニット60の外側に配設された状態で、ロックユニット60の外面に取付けられたバネカバー106内に収容されている。バネカバー106内で渦巻バネ102の外側端部は、当該バネカバー106内の一定位置に固定される。
【0100】
そして、渦巻バネ102の一方向の回転付勢力が、ラチェットギヤ61及びトーションバー38を介して巻取ドラム30に対して、巻取ドラム30を常時巻取方向に付勢する力として作用するようになっている。
【0101】
<ワイヤー式荷重発生機構>
シートベルト用リトラクタ10は、上記トーションバー38の他端部38bの回転を規制した状態において、ウエビング12を徐々に繰出して衝撃を吸収するための機構として、第1荷重発生機構としての上記トーションバー38を備えると共に、第2荷重発生機構としてのワイヤー式荷重発生ユニット80を備えている(図17参照)。
【0102】
上記したようにトーションバー38は、その他端部38bの回転が規制された状態で、ウエビング12が引張られて巻取ドラム30をウエビング12の引出方向に回転させる大きな力が作用すると、ねじれ変形する。このトーションバー38のねじれ変形によって巻取ドラム30がウエビング12の引出方向に回転し、ウエビング12が徐々に引出される。つまり、トーションバー38のねじれ変形によってウエビング12を急に引き出そうとする力に抗する荷重が発生し、これにより、衝撃エネルギーが吸収される。
【0103】
ワイヤー式荷重発生ユニット80は、中間回転部材82と、衝撃吸収線状部材としてのワイヤー86とを備えている。
【0104】
中間回転部材82は、上記巻取ドラム30と回転規制部材としてのラチェットギヤ61との間に設けられており、巻取ドラム30及びラチェットギヤ61の双方に対して相対回転可能に配設されている。
【0105】
より具体的には、巻取ドラム30の他端部側の側面には、軸孔部36の開口を取囲むようにして筒部37が突設されている。上記ラチェットギヤ61の筒部62は、本筒部37内に相対回転可能に挿入された状態で、トーションバー38の他端部38bに対して相対回転不能に結合されている。また、巻取ドラム30の他端部側の側面における外周部には、筒部37を、間隔をあけて囲むようにして外周壁部38wが形成されている。外周壁部38wの一部分には、ワイヤー86を、抵抗を付与しつつ引出可能な引出路39が形成されている。ここでは、引出路39は、外周壁部38wの一部分を径方向外側に突出させた部分39aと当該部分39a内に間隔をあけて突設された三角柱状の突出部分39bとの間の溝形状によって形成されている。ここでは、引出路39は、径方向外側に向って突出するV字状の溝形状を呈する屈曲経路とされている。従って、ワイヤー86が本引出路39を通過する際には、少なくともV字状の頂点部分で屈曲変形されることになり、これにより、ワイヤー86に対して引出抵抗を付与している。
【0106】
勿論、引出路39の形状は上記例に限られず、屈曲部分を設け、或は、狭隘な部分を設ける等して、ワイヤー86に抵抗を付与しつつ引出すことができる形状であればよい。
【0107】
中間回転部材82は、環状部83とワイヤー固定部84とを備えている。環状部83は、筒部37に外嵌め可能に形成されている。環状部83の内径は、筒部37の外径とほぼ一致し、外径は、外周壁部38wの内径よりも小さい。ワイヤー固定部84は、環状部83の一部分より外方に突出するように形成されている。ワイヤー固定部84には、ワイヤー86の一端部を複数回屈曲させて固定可能な屈曲固定路84aが形成されている。なお、巻取ドラム30の他方側面のうち本中間回転部材82が嵌め込まれる部分は、その周囲よりも一段深く凹んでいる。
【0108】
なお、中間回転部材82が上記形状であることは必須ではない。例えば、上記中間回転部材82において、環状部83が省略され、ワイヤー固定部84に相当する部分が、筒部37と巻取ドラム30側の外周壁部38wとの間の環状空間に回転移動可能に配設される構成であってもよい。
【0109】
ワイヤー86(第2衝撃吸収部材)は、スチール材等で形成された線状部材であり、その一端側である一端部が上記ワイヤー固定部84の屈曲固定路84aに応じた形状に屈曲され、当該屈曲固定路84a内に嵌込み固定されるようになっている。また、ワイヤー86の他端側であるワイヤー86の長手方向中間部が上記引出路39に応じた形状に屈曲され、当該引出路39内に嵌込み固定されるようになっている。また、ワイヤー86の他端部は、外周壁部38wの内側に沿って曲る弧状形状に形成されている(図18参照)。
【0110】
上記中間回転部材82及びワイヤー86は、次のようにして、巻取ドラム30の一方側面とラチェットギヤ61との間に組込まれる。すなわち、ワイヤー86の一端部が上記屈曲固定路84aに嵌込まれてワイヤー固定部84に固定される。そして、外周壁部38w周りにおいてワイヤー固定部84が引出路39の隣の位置に配設されるようにして、ワイヤー固定部84より延出するワイヤー86の長手方向中間部を引出路39に嵌め込み固定する。
【0111】
また、ラチェットギヤ61には、ラチェットギヤ61に対して中間回転部材82が所定量回転するとその中間回転部材82に当接してラチェットギヤ61に対する中間回転部材82の回転を規制するストッパ部69が形成されている。ここでは、ラチェットギヤ61のうち巻取ドラム30側の面であって、上記ワイヤー固定部84の回転移動経路の途中にストッパ部69が外周壁部38w内に突出するように形成されている。ワイヤー固定部84の回転移動経路において、どの位置にストッパ部69を形成するかについては、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30がどの程度回転した時点で、ワイヤー86による衝撃吸収動作を開始させるかという、衝撃吸収特性に応じて設定される。
【0112】
本シートベルト用リトラクタ10における衝撃吸収動作について説明する。
【0113】
まず、待機状態では、図18に示すように、中間回転部材82のワイヤー固定部84とストッパ部69とは隣接した状態となっており、ワイヤー86の長手方向中間部が引出路39に配設されている。
【0114】
車両の衝突等によって急激な加速(減速)が生じた場合、上記プリテンショナユニット40によってウエビング12の巻取方向へ巻取ドラム30が回転すると共に、ロックユニット60によってウエビング12の引出方向へのラチェットギヤ61の回転が規制される。
【0115】
車両衝突等が生じた場合には、慣性力によって乗員が車両に対して相対的に前に移動しようとするので、ウエビング12には大きな引出力が作用する。
【0116】
すると、まず、巻取ドラム30に連結固定されたトーションバー38の一端部とラチェットギヤ61に連結固定されたトーションバー38の他端部との間で、トーションバー38がねじれることによって、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転し、ウエビング12が徐々に引出される。つまり、初期段階では、トーションバー38のねじれ変形によって生じる荷重によって、衝撃エネルギーが吸収される。
【0117】
これに伴い、中間回転部材82もラチェットギヤ61のストッパ部69に対して相対回転する。巻取ドラム30が所定量回転すると、中間回転部材82のワイヤー固定部84がストッパ部69に上記待機状態とは反対側から当接する。この後、続けてウエビング12が引出されると、ストッパ部69が中間回転部材82を巻取ドラム30に対して相対回転させる。すると、ワイヤー86の他端側が上記引出路39において引出抵抗を付与されつつ引出される。つまり、後半段階では、トーションバー38のねじれ変形によって生じる荷重とワイヤー86の引出抵抗による荷重とが合さって、衝撃エネルギーが吸収される。
【0118】
以上のように構成されたシートベルト用リトラクタ10によると、ラック44における複数のラック歯のうちピストン43の先端に設けられたラック歯を含む先端側ラック歯44aは、基端側ラック歯44bと歯厚gが同じに設定されているのに対して全歯たけaが小さく設定されているため、ピニオンギヤ46との噛合によってより大きな力が加わるピストン43の先端側のラック歯の強度を向上させて変形を抑制することができる。これにより、初めに噛合する際の衝撃に対するラック44の強度改善を、プリテンショナユニット40の体格に影響を与えずに実現することができる。
【0119】
また、先端側ラック歯44aが、基端側ラック歯44bより歯元のたけが小さくされて歯底が浅く設定されている構成によると、歯先を基端側ラック歯44bの歯先と同じ高さにしたまま全歯たけaを小さくでき、より確実にピストン43とピニオンギヤ46との噛合いを確保しつつ、ラック44の強度改善を実現することができる。
【0120】
また、ラック44における複数のラック歯のうち、ピストン43の最も先端側のラック歯の全歯たけaが、それよりピストン43の基端側のラック歯より小さく設定され、すなわち該ラック歯が先端側ラック歯44aである構成によると、ピストン43とピニオンギヤ46との噛合により最も大きな力が加わる最も先端側のラック歯の強度を向上させつつ、その他のラック歯では適切な噛合いを得ることができる。
【0121】
また、ピニオンギヤ46が、軸心方向側方に少なくとも歯底円より大きい直径のフランジ47を有している構成によると、ピニオンギヤ46のピニオンギヤ歯46aの変形を抑制することができ、ピニオンギヤ46の強度改善を、プリテンショナユニット40の体格に影響を与えずに実現することができる。
【0122】
また、ピストン43が、ラック44の背面側に、基端側に設けられてパイプシリンダ42の内面に摺接する摺接面45aと、先端側に設けられて摺接面45aからラック44側に凹む形状に形成された凹み面45bとを有する段差部45を有する構成によると、ピストン43の最も先端側に設けられたラック歯が設けられた部分において、摺接面45aが設けられた部分より肉薄となると共に、ラック44の背面側でシリンダ42の内面との間に空間が確保されている。これにより、ピストン43の先端部がピニオン46から離間する向きに弾性変形することが可能となり、ラック44が最初にピニオンギヤ46に噛合する際には、先端側ラック歯44a基端部44cにかかる応力を弾性変形により緩和し、先端側ラック歯44aとピニオンギヤ歯46aとが、歯先と歯底とが当接する態様で噛合った場合にも、ラック44とピニオンギヤ46との間に生ずる抵抗力を弾性変形により緩和するので、よりスムーズにプリテンショナユニット40を作動させることができる。
【0123】
また、パイプシリンダ42がピストン43の進行方向側端部にストッパーピンPIN2を有し、凹み面45bがピストン43の進出位置でストッパーピンPIN2に当接可能に形成されているため、ストッパーピンPIN2が凹み面45bの内側に配設された状態でピストン43をストッパーピンPIN2により移動規制でき、プリテンショナユニット40の体格になるべく影響を与えずにストッパーピンPIN2を設けることができる。
【0124】
また、ピストン43がラック44と摺接面45aとの間に孔状や溝状の肉抜き部43hを有している構成によると、ピストン43の軽量化を図ることができる。
【0125】
これまで、ピストン43について、先端側ラック歯44aがピストン43の最も先端側の1つのラック歯を全歯たけaの小さい先端側ラック歯44aとした例で説明してきたが、ピストン43の先端側の複数のラック歯の全歯たけが小さく設定されていてもよい。
【0126】
また、先端側ラック歯44aの歯元のたけを小さくして歯底を浅くすることによって全歯たけaを小さくした形状について説明してきたが、先端側ラック歯44aの全歯たけaを小さくするためには、先端側ラック歯44aの歯末のたけc(基準ピッチ線Rから歯先までの距離)を小さくして歯先を基端側ラック歯44bの歯先より下げてもよい。
【0127】
また、複数のラック歯は、先端部に向けて段階的に全歯たけが小さくなる形状に形成されていてもよい。
【0128】
また、ピニオンギヤ46のフランジ47について、ピニオンギヤ歯46aの歯先円より大きい直径に形成されている例で説明したが、これに限られるものではなく歯先円より小さい直径に形成されていてもよい。すなわち、フランジ47がピニオンギヤ歯46aの歯底円より大きい直径に設定され、すなわち、ピニオンギヤ歯46aが側部でフランジ47によって周方向に接続されることにより、ピニオンギヤ歯46aの周方向における変形を抑制することができる。
【0129】
また、ピニオンギヤ46のフランジ47は、ピニオンギヤ46の軸心方向のベースプレート48a側(側板部21側)に限らず、軸心方向反対側のカバープレート48b側の両方に設けられていてもよい。
【0130】
なお、上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合せることができる。
【0131】
以上のようにこの発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0132】
10 シートベルト用リトラクタ
12 ウエビング
30 巻取ドラム
40 プリテンショナユニット
41 ガス発生部材
42 パイプシリンダ
43 ピストン
43h 肉抜き部
44 ラック
44a 先端側ラック歯
44b 基端側ラック歯
45 段差部
45a 摺接面
45b 凹み面
46 ピニオンギヤ
47 フランジ
PIN2 ストッパーピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエビングを巻き取る巻取ドラムと、
前記ウエビングの巻取方向に、前記巻取ドラムを回転させるプリテンショナユニットと、
を備え、
前記プリテンショナユニットは、
前記巻取ドラムと連動回転可能なピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤに噛合可能なラックを有して、前記ピニオンギヤを介して前記巻取ドラムを巻取方向に回転させるピストンと、
前記ピストンを移動可能に収容する筒状のシリンダと、
前記ピストンを駆動する駆動機構と、
を有し、
前記ラックにおける複数のラック歯のうち、前記ピストンの先端に設けられたラック歯を含む前記ピストンの先端側の一部のラック歯は、前記ピストンの基端側のラック歯より全歯たけが小さく設定されている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記ラックにおける複数のラック歯のうち、前記ピストンの先端に設けられた前記ラック歯を含む前記ピストンの先端側の一部の前記ラック歯は、前記ピストンの基端側の前記ラック歯より歯元のたけが小さく設定されている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記ラックにおける前記複数のラック歯のうち、前記ピストンの最も先端側の前記ラック歯の全歯たけが、それより前記ピストンの基端側の前記ラック歯より小さく設定されている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記ピニオンギヤは、軸心方向側部に、少なくとも歯底円より大きい直径のフランジを有している、シートベルト用リトラクタ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記ピストンは、前記ラックの背面側に、基端側に設けられて前記シリンダの内面に摺接する摺接面と、先端側に設けられて前記摺接面から前記ラック側に凹む形状に形成された凹み面とを有する段差部を有する、シートベルト用リトラクタ。
【請求項6】
請求項5に記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記シリンダは、前記ピストンの進行方向側端部にストッパーピンを有し、
前記凹み面は、前記ピストンの進出位置で前記ストッパーピンに当接可能に形成されている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記ピストンは、前記ラックと前記段差部の前記摺接面との間に肉抜き部を有している、シートベルト用リトラクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2013−86759(P2013−86759A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231864(P2011−231864)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】