説明

シート供給装置および原稿搬送装置

【課題】シートの空送および重送を抑制することができるシート供給装置を提供する。
【解決手段】積層されたシート束(原稿束M)の下側からシートを供給するシート供給装置100である。シート供給装置100は、シートを載置する供給トレイ110と、供給トレイ110から突出して配置され、供給トレイ110上のシートを送り出す送出ローラ120と、送出ローラ120の上方に対向して配置され、シートを送出ローラ120に向けて付勢する送出ニップ片130と、送出ローラ120のシート供給方向下流側に位置し、送出ローラ120によって送出されたシートを1枚ずつ分離する分離部Sと、送出ニップ片130と異なる位置でシートに上から接触可能な摩擦部材160とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層されたシート束の下側からシートを供給するシート供給装置と、当該シート供給装置を備えた原稿搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、積層された原稿や用紙などのシート束の下側からシートを供給するシート供給装置が知られている。例えば、特許文献1には、供給されるシートの下側に配置されたキックローラおよび給紙ローラと、原稿をキックローラに向けて付勢するキックローラ押えと、原稿を給紙ローラに向けて付勢し、原稿を1枚ずつ分離する分離体(分離ニップ片)とを備えた構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−328233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記したような構成では、シートの枚数が増えると、シート束をセットしたときに、シート束の先端が給紙ローラに届かない状態となることがある。このような状態において、キックローラが回転すると、シート間の摩擦力によってシート束が一体となり、シート束全体が移動しようとするので、最下位のシートを給紙ローラに到達させることができず、結果としてシートが供給されない、いわゆる空送が生じるおそれがある。
【0005】
このような空送を防ぐため、例えば、キックローラ押えの付勢力を高めることで、キックローラによる搬送力を高めてシートを確実に給紙ローラに向けて送り出す構成が考えられる。しかしながら、この場合には、キックローラとキックローラ押えとの間で挟持された複数のシートが、分離体で分離しきれずに重なり合って供給される、いわゆる重送が生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、空送および重送を抑制することができるシート供給装置および原稿搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するため、本発明のシート供給装置は、積層されたシート束の下側からシートを供給するシート供給装置であって、シートを載置する載置台と、前記載置台から突出して配置され、前記載置台上のシートを送り出す送出ローラと、前記送出ローラの上方に対向して配置され、シートを前記送出ローラに向けて付勢する送出ニップ片と、前記送出ローラのシート供給方向下流側に位置し、前記送出ローラによって送出されたシートを1枚ずつ分離する分離部と、前記送出ニップ片と異なる位置でシートに上から接触可能な摩擦部材とを備えたことを特徴とする。
【0008】
このように構成されたシート供給装置によれば、摩擦部材がシート(シート束)の上から接触することで、シート束の上側のシートの移動が規制され、送出ローラによりシート束の下側のシートは分離部に向けて送り出される。すなわち、送出ニップ片の付勢力を高めなくてもシートを分離部に向けて送り出すことができるので、空送を抑制することができるとともに、重送を抑制することができる。
【0009】
また、本発明の原稿搬送装置は、前記したシート供給装置を備えたことを特徴とする。このように構成された原稿搬送装置によっても、空送および重送を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シートに上から接触可能な摩擦部材を設けたので、送出ニップ片の付勢力を高めなくてもシートを分離部に向けて送り出すことができ、空送および重送を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るシート供給装置を備えた原稿搬送装置の全体構成を示す図である。
【図2】両面読取時の動作を説明する図(a),(b)である。
【図3】片面読取時の動作を説明する図である。
【図4】シート供給装置の拡大図であり、原稿がセットされていない状態の図(a)と、原稿がセットされた状態の図(b)である。
【図5】送出ローラと摩擦部材との位置関係を示す平面図である。
【図6】送出ニップ片と摩擦部材を下側から見た斜視図であり、摩擦シートを取り付ける前の状態の図(a)と、摩擦シートを取り付けた後の状態の図(b)である。
【図7】シート供給装置の動作を説明する図(a),(b)である。
【図8】変形例に係るシート供給装置の送出ローラと摩擦部材との位置関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明では、まず、本実施形態に係るシート供給装置100(図4参照)を備えた原稿搬送装置1の概略構成について簡単に説明した後、シート供給装置100の詳細な構成について説明する。
【0013】
なお、以下の説明において、「搬送方向」とはシートの一例としての原稿が供給トレイ110から排出トレイ20に向けて搬送される方向(図1の太い実線参照)であり、「供給方向(シート供給方向)」とは原稿が供給トレイ110から読取位置Rに向けて供給される方向(図1の右から左に向かう方向)である。また、搬送方向・供給方向における上流および下流をそれぞれ単に「上流」および「下流」といい、原稿の搬送方向・供給方向に直交する方向(原稿の幅方向)を「幅方向」という。
【0014】
<原稿搬送装置の概略構成>
図1に示すように、原稿搬送装置1は、原稿を載置する載置台の一例としての供給トレイ110と、原稿が排出される排出トレイ20と、原稿を供給トレイ110から排出トレイ20に向けて搬送する原稿搬送部30とを主に備えている。
【0015】
原稿搬送装置1の下方には、公知のフラットベッドスキャナ2が設けられており、原稿搬送装置1とフラットベッドスキャナ2とによって原稿読取装置(符号省略)が構成されている。原稿搬送装置1は、フラットベッドスキャナ2に対して開閉可能に構成されている。
【0016】
フラットベッドスキャナ2は、原稿搬送装置1を開いたときに原稿を静置するプラテンガラス2G(原稿台)と、イメージセンサ2S(読取装置)とを主に備えている。このフラットベッドスキャナ2は、イメージセンサ2Sによって、プラテンガラス2Gに静置された原稿を走査しながら読み取ることができるとともに、原稿搬送装置1により読取位置Rに搬送された原稿を読み取ることができる。
【0017】
排出トレイ20は、供給トレイ110の上方に配置され、固定トレイ21と、固定トレイ21の上流側に配置されたフラップ22とを主に備えている。
固定トレイ21は、原稿搬送装置1の外枠を構成する本体フレーム1Aに固定されることで、通常は原稿搬送部30に対して変位しないように構成されている。
フラップ22は、下流側に設けられた揺動軸22Aを中心として、上流端部が上下に揺動可能となるように、本体フレーム1Aに支持されている。
【0018】
このようなフラップ22は、本体フレーム1Aに設けられたカム24によって上下に揺動する。カム24は、フラップ22の上流側付近に設けられており、フラップ22の下方で幅方向に延びる押上バー24Aと、本体フレーム1Aに正逆回転可能に軸支された一対の軸部24Bと、押上バー24Aの両端と各軸部24Bを連結する一対の連結部24Cとから主に構成されている。このようなカム24は、軸部24Bが回転することで、フラップ22を、図2に示す下方に位置した状態と、図3に示す上方に位置した状態との間で揺動させる。
【0019】
原稿搬送部30には、原稿を供給トレイ110から排出トレイ20に案内する略U形状の搬送経路31(太い実線参照)と、原稿の表裏を反転させるための略Y形状の反転経路32(太い破線参照)とが形成されている。
【0020】
搬送経路31には、上流から下流に向けて順に、送出ローラ120、送出ニップ片130、分離ローラ140、分離ニップ片150、第1搬送ローラ45、第2搬送ローラ47および排出ローラ49が設けられている。第1搬送ローラ45と第2搬送ローラ47との間にはプラテンガラス2Gを介してイメージセンサ2Sと対向する読取位置Rがあり、第2搬送ローラ47の下流では反転経路32が分岐して延びている。搬送経路31と反転経路32が分岐する部分には、上下に揺動することで原稿を搬送経路31と反転経路32とに振り分けるフラップ状の第1ガイド部材61が設けられている。
【0021】
反転経路32は、搬送経路31と分岐する部分から外部(図1の右方向)に向かって延びる第1経路32Aと、第1経路32Aから分岐して搬送経路31(第1搬送ローラ45の上流)に合流する第2経路32Bとから構成されている。第1経路32Aには、第3搬送ローラ51と、正逆回転可能な反転ローラ53とが設けられている。
【0022】
反転ローラ53は、正回転することで原稿を第1経路32Aから外部に向けて排出し、原稿の後端を挟持した状態で一時的に停止した後、逆回転することで原稿を引き戻して第2経路32Bに搬送するように制御される。なお、第1経路32Aと第2経路32Bとの切り替えは、第1経路32Aと第2経路32Bとが分岐する部分に設けられた上下に揺動するフラップ状の第2ガイド部材62によって行われる。
【0023】
[原稿搬送装置の動作]
ここで、原稿搬送装置1の両面読取時および片面読取時の動作について説明する。
図2(a)に示すように、両面読取のとき、フラップ22は下方に位置し、第1ガイド部材61が上方に、第2ガイド部材62が下方にそれぞれ揺動する。また、原稿M1,M2は、表の読取面P1,P3を下向きにし、裏の読取面P2,P4を上向きにして供給トレイ110上にセットされる。
【0024】
搬送が開始されると、供給トレイ110上の原稿M2は、分離ローラ140により搬送経路31に搬送され、第1搬送ローラ45によって読取位置Rに搬送されてイメージセンサ2Sにより表の読取面P3が読み取られる。その後、原稿M2は、第2搬送ローラ47により反転経路32(第1経路32A)に搬送され、第3搬送ローラ51および反転ローラ53により外部に排出される。
【0025】
原稿M2のほぼ全部が反転ローラ53により外部に排出されると、公知の制御により反転ローラ53が一時的に停止する。このとき、第1ガイド部材61が下方に、第2ガイド部材62が上方にそれぞれ揺動し、原稿M2は、表の読取面P3が上向きに、裏の読取面P4が下向きになる。
【0026】
その後、図2(b)に示すように、反転ローラ53が逆回転することで、原稿M2は、反転経路32(第1経路32A)に引き戻され、第2経路32Bに搬送される。そして、原稿M2は、第2経路32Bから搬送経路31に搬送され、第1搬送ローラ45によって読取位置Rに搬送されてイメージセンサ2Sにより裏の読取面P4が読み取られる。そして、原稿M2は、排出ローラ49により排出トレイ20に排出される。
【0027】
このとき、フラップ22は下方に位置し、排出トレイ20に先に排出された原稿M1の後端は排出ローラ49のニップ部分より下にあるので、原稿M2は原稿M1の上に積層するように排出される。なお、原稿M1,M2は、表の読取面P1,P3を下向きに、裏の読取面P2,P4を上向きにして排出されるので、原稿のページ順は、下から順に、P1、P2、P3、P4と整列する。この順番は、原稿M1,M2を供給トレイ110に載置したときのページ順と同じである。
【0028】
図3に示すように、片面読取のとき、フラップ22は上方に位置し、第1ガイド部材61は下方に揺動する。また、原稿M1,M2は、読取面P1,P2を下向きにして供給トレイ110上にセットされる。
【0029】
搬送が開始されると、供給トレイ110上の原稿M2は、分離ローラ140により搬送経路31に搬送され、第1搬送ローラ45によって読取位置Rに搬送されてイメージセンサ2Sにより読取面P2が読み取られる。その後、原稿M2は、排出ローラ49により排出トレイ20に排出される。
【0030】
このとき、フラップ22は上方に位置し、排出トレイ20に先に排出された原稿M1の後端は排出ローラ49のニップ部分より上にあるので、原稿M2は原稿M1の下に潜り込むように排出される。なお、原稿M1,M2は、読取面P1,P2を上向きにして排出されるので、原稿のページ順は、上から順に、P1、P2と整列する。この順番は、原稿M1,M2を供給トレイ110に載置したときのページ順と同じである。
【0031】
<シート供給装置の詳細構成>
図4(a),(b)に示すように、シート供給装置100は、供給トレイ110と、送出ローラ120と、送出ニップ片130と、分離ローラ140と、分離ニップ片150と、摩擦部材160とを主に備えている。このシート供給装置100は、供給トレイ110上に積層された原稿束Mの下側から原稿を供給するように構成されている。
【0032】
送出ローラ120は、その上部が供給トレイ110の上面から突出して配置され、供給トレイ110上に載置された原稿を分離ローラ140に向けて送り出すローラである。
【0033】
送出ニップ片130は、送出ローラ120の上方に対向して配置されており、その下流端部が、上流側の揺動軸160Aを中心として上下に揺動可能に設けられ、コイルバネ131によって送出ローラ120に向けて付勢されている。送出ニップ片130が原稿を送出ローラ120に向けて付勢した状態で送出ローラ120が回転駆動することで、原稿は分離ローラ140(分離部S)に向けて送り出される。
【0034】
分離ローラ140は、送出ローラ120の下流側に位置し、その上部が供給トレイ110の上面から突出して配置されている。
分離ニップ片150は、分離ローラ140の上方に対向して配置されており、その下流端部が上下に揺動可能に設けられ、図示しないバネによって分離ローラ140に向けて付勢されている。
【0035】
分離ニップ片150が原稿を分離ローラ140に向けて付勢した状態で分離ローラ140が回転駆動することで、原稿は1枚ずつ分離される。このように、分離ローラ140と分離ニップ片150とがニップするニップ部分は、送出ローラ120によって送出された原稿を1枚ずつ分離する分離部Sとなっている。なお、分離された原稿は、第1搬送ローラ45によって搬送経路31を読取位置Rに向けて搬送される(図1参照)。
【0036】
摩擦部材160は、送出ローラ120の上流側であって、供給トレイ110の上面に対向して配置されており、その上流端部が、下流側の揺動軸160Aを中心として上下に揺動可能に設けられている。この摩擦部材160は、図4(b)に示すように、上流端部が下方に揺動することで、揺動軸160Aより上流側の接触部160B(摩擦シート162)が、送出ニップ片130(送出ローラ120と対向する位置)と異なる位置で、供給トレイ110上に載置された原稿(原稿束M)に上から接触可能となっている。また、図5に示すように、摩擦部材160(接触部160B)は、供給方向において送出ローラ120と重なるように、送出ローラ120(ローラ部分)の幅内に配置されている。
【0037】
図4および図6に示すように、摩擦部材160は、上下に揺動可能に支持されたアーム161と、接触部160Bを構成する摩擦シート162と、付勢部材の一例としてのトーションバネ163とを有する。
【0038】
アーム161の下流端部には、幅方向に延びる揺動軸160Aが設けられており、この揺動軸160Aが原稿搬送装置1の本体フレーム1Aに軸支されることで、アーム161(摩擦部材160)の上流端部が上下に揺動可能となっている。アーム161は、トーションバネ163によって上流端部(接触部160B)が下方に向けて付勢されている。なお、アーム161に設けられた揺動軸160Aは、送出ニップ片130を軸支している。これにより、送出ニップ片130は、下流端部が揺動軸160Aを中心として上下に揺動可能となっている。
【0039】
アーム161の下面161Aの上流側には、摩擦シートを取り付けるための凹部161Bが設けられている。この凹部161Bは、上流端の深さD1が摩擦シート162の厚さTより大きく、下流側にいくにつれて深さが徐々に浅くなり、供給方向において半分より下流側の部分の深さD2が摩擦シート162の厚さTより小さくなっている。
【0040】
摩擦シート162は、コルクやフェルトなど摩擦係数が大きい材料からなり、厚さが略均一な平面視矩形のシート状に形成されている。この摩擦シート162は、アーム161に設けられた凹部161Bに貼着などによって取り付けられている。
【0041】
前記したように凹部161Bは、上流端の深さD1が摩擦シート162の厚さTより大きく、下流側にいくにつれて深さが浅くなっているので、凹部161Bに取り付けられた摩擦シート162は、上流端部が凹部161B内に入り込んでアーム161の下面161Aより低い位置にある。言い換えると、アーム161の下面161Aと摩擦シート162の上流端部とは段差を形成しないので、原稿(原稿束M)を送出ローラ120および送出ニップ片130に向けて差し入れるときに、原稿の先端が摩擦シート162に引っ掛かりにくい。これにより、原稿を良好にセットすることができる。
【0042】
一方、凹部161Bは、供給方向において半分より下流側の部分の深さD2が摩擦シート162の厚さTより小さくなっているので、凹部161Bに取り付けられた摩擦シート162は、下流側の一部が凹部161Bから突出してアーム161の下面161Aより高い位置にある。これにより、摩擦部材160の上流端部が下方に揺動したときに、摩擦シート162(接触部160B)と原稿(原稿束M)とを確実に接触させることができる。
【0043】
[連動機構の構成]
図4(a),(b)に示すように、シート供給装置100は、送出ニップ片130が下方へ揺動するときに摩擦部材160を上方へ揺動させ、送出ニップ片130が上方へ揺動するときに摩擦部材160を下方へ揺動させる連動機構(符号省略)をさらに備えている。具体的に、本実施形態の連動機構は、送出ニップ片130に設けられた当接部135と、摩擦部材160(アーム161)に設けられた当接部165と、トーションバネ163とを有し、送出ニップ片130と摩擦部材160とが一体に動作するように構成されている。
【0044】
当接部135は、送出ニップ片130の一部を構成し、揺動軸160Aより上流側に向かって延びている。
当接部165は、揺動軸160Aの上流側で、当接部135に対して上から当接可能となるような位置に設けられている。
【0045】
このような連動機構は、図4(a)に示すように、供給トレイ110上に原稿がセットされていない場合には、コイルバネ131の付勢力によって、送出ニップ片130の下流端部が下方に揺動する。このとき、揺動軸160Aの上流側に設けられた当接部135が上方に揺動し、摩擦部材160の当接部165に下から当接して当接部165を持ち上げる。揺動軸160Aの上流側に設けられた当接部165が持ち上げられることで、摩擦部材160は上流端部が上方に揺動する。
【0046】
なお、原稿がセットされていない場合には、当接部135が当接部165を下から支持することで、トーションバネ163の付勢力や重力による摩擦部材160の下方への揺動が規制されている。すなわち、本実施形態においては、当接部135は、規制部材の一例でもある。このように、摩擦部材160の下方への揺動を規制することで、接触部160Bと供給トレイ110の上面との間に所定の隙間が形成されるので、セットしようとする原稿と接触部160Bとが接触しにくくなっている。これにより、原稿を良好にセットすることができる。
【0047】
なお、接触部160Bと供給トレイ110の上面との間の間隔は、適宜設定することができるが、所定枚数の原稿がセットされ、送出ニップ片130の上方への揺動に連動して摩擦部材160が下方に揺動しても、接触部160Bと原稿とが接触しないような間隔に設定することが望ましい。ここで、所定枚数とは、前記した課題(空送の問題)が生じない程度の原稿の枚数であり、本実施形態では一例として20枚としている。
【0048】
一方、図4(b)に示すように、供給トレイ110上に所定枚数を超える原稿(原稿束M)がセットされた場合には、原稿束Mによって送出ニップ片130の下流端部がコイルバネ131の付勢力に抗して持ち上げられる(上方に揺動する)。これに連動して、摩擦部材160の上流端部はトーションバネ163の付勢力によって下方に揺動する。これにより、接触部160B(摩擦シート162)が原稿に上から接触する。
【0049】
以上説明したような連動機構によれば、原稿がセットされていない場合には、送出ニップ片130が下方へ揺動して摩擦部材160を上方へ移動させる。これにより、摩擦部材160(接触部160B)とセットしようとする原稿とが接触しにくくなるので、原稿を良好にセットすることができる。また、所定枚数を超える原稿がセットされた場合には、送出ニップ片130が上方へ揺動して摩擦部材160を下方へ移動させる。これにより、摩擦部材160(接触部160B)が原稿に上から接触するので、後述するように摩擦部材160を機能させて空送を抑制することができる。
【0050】
<シート供給装置の動作>
次に、以上のように構成されたシート供給装置100の動作について説明する。
図7(a)に示すように、供給トレイ110に所定枚数を超える原稿(原稿束M)がセッとされ、原稿束Mの先端上部MAが分離ニップ片150に当接し、先端下部MBが分離ローラ140に届いていない状態において、原稿の供給動作が開始されると、送出ローラ120および分離ローラ140が回転駆動する。このとき、摩擦部材160は、前記したように上流端部が下方に揺動して接触部160Bが原稿束Mに上から接触している。
【0051】
送出ローラ120および分離ローラ140が回転駆動することで、原稿束Mが下流側に向けて移動しようとするが、図7(b)に示すように、原稿束Mの上側にある原稿は摩擦部材160(接触部160B)から受ける摩擦力によって移動が規制され、原稿束Mの下側にある原稿は送出ローラ120の搬送力によって下流側に向けて移動することとなる。これにより、原稿束Mの下側にある原稿が下流側に移動して、分離ローラ140(分離部S)に到達する。そして、原稿束Mの最も下側にある原稿M1が分離部Sで分離されて、搬送経路31に供給され、読取位置Rに向けて搬送されることとなる(図1参照)。
【0052】
以上説明した本実施形態のシート供給装置100(原稿搬送装置1)によれば、摩擦部材160が原稿束Mの上から接触することで原稿束Mの上側の原稿の移動を規制しながら、送出ローラ120により原稿束Mの下側の原稿を分離部Sに向けて送り出すことができるので、原稿の空送を抑制することができる。また、送出ニップ片130(コイルバネ131)の付勢力を高めなくても原稿を分離部Sに向けて送り出すことができるので、原稿の重送も抑制することができる。
【0053】
本実施形態では、摩擦部材160が送出ローラ120の上流側に配置されているので、回転駆動する送出ローラ120が原稿束Mの接触部160Bに接触する部位を下流側に向けて引っ張ることになるので、摩擦部材160を送出ローラ120の下流側に配置して原稿束Mの接触部160Bに接触する部位を下流側に向けて押し出す構成と比較して、原稿のしわや折れなどを抑制することができる。
【0054】
本実施形態では、摩擦部材160が供給方向において送出ローラ120と重なるように配置されているので、摩擦部材160が供給方向において送出ローラ120とずれて配置された構成と比較して、供給される原稿の斜行を抑制することができる。なお、摩擦部材160が供給方向において送出ローラ120とずれて配置されている場合、原稿が接触部160Bを中心として回動しようとするので斜行が発生するおそれがある。この場合、原稿の斜行を矯正するガイドなどを別途設ける必要が生じるが、本実施形態の構成によれば、そのようなガイドを省略できるので、シート供給装置100(原稿搬送装置1)の構成の簡略化や部品点数を削減することができる。
【0055】
本実施形態では、摩擦部材160は、下流側の揺動軸160Aを中心として上流端部が上下に揺動可能に設けられ、揺動軸160Aより上流側に接触部160Bを有するので、摩擦部材160の作用をより確実に得ることができる。具体的には、図7(a)に示すように、原稿束Mが下流側に向けて移動しようとする力によって、接触部160Bが下流側に向けて引っ張られるので、これにより、摩擦部材160が下方に向けて揺動しようとする。そうすると、接触部160Bが原稿束Mを押さえることになるので、原稿束Mに対して確実に摩擦力を与えることができ、摩擦部材160の作用をより確実に得ることができるようになる。これによれば、原稿の空送をより確実に抑制することができる。
【0056】
本実施形態では、摩擦部材160の上流端部(接触部160B)を下方に向けて付勢するトーションバネ163を備えているので、原稿束Mに対して確実に摩擦力を与えることができる。これにより、原稿の空送をより確実に抑制することができる。なお、図4に示すように、トーションバネ163は、一端が摩擦部材160を下方に向けて付勢し、他端が送出ニップ片130を下方に向けて付勢するように送出ニップ片130に係合しているので、セットされる原稿の枚数が増えて送出ニップ片130が持ち上げられるほど、摩擦部材160を下方に向けてより強く付勢する。これにより、原稿束Mに対してより確実に摩擦力を与えることができるので、原稿の空送をさらに確実に抑制することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。具体的な構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0058】
前記実施形態では、図5に示すように、摩擦部材160を1つだけ設けた構成を例示したが、これに限定されず、複数設けてもよい。この場合、原稿の斜行を抑制するため、図8に示すように、各摩擦部材160を供給方向における送出ローラ120(ローラ部分)の中心線120C(幅方向の中心)を基準として対称に配置することが望ましい。なお、例えば、摩擦部材160を3つ設けた場合には、2つの摩擦部材160を中心線120Cを基準として対称に配置し、残り1つの摩擦部材160(図示せず)を供給方向において送出ローラ120と重なるように配置することが望ましい。この場合、2つの摩擦部材160と、残り1つの摩擦部材160とは供給方向にずれて配置されていてもよい。
【0059】
同様に、前記実施形態では、送出ローラ120を1つだけ設けた構成を例示したが、これに限定されず、複数設けてもよい。
【0060】
前記実施形態では、付勢部材としてトーションバネ163を例示したが、これに限定されず、例えば、コイルバネや板バネなどであってもよい。同様に、送出ニップ片130や分離ニップ片150を付勢する部材についても、前記実施形態で例示した部材に限定される趣旨ではない。
【0061】
前記実施形態では、規制部材の一例としての当接部135を、送出ニップ片130に設けた構成を例示したが、これに限定されず、例えば、規制部材を原稿搬送装置1の本体フレーム1Aに設けてもよい。具体的には、本体フレーム1Aに摩擦部材160の下方で幅方向に延びる棒状などの規制部材を設け、摩擦部材160が上からこの規制部材に当接することで、下方への揺動が規制される構成としてもよい。
【0062】
前記実施形態では、送出ニップ片130の当接部135と、摩擦部材160の当接部165と、トーションバネ163とから主に構成された連動機構を例示したが、これに限定されず、例えば、送出ニップ片と摩擦部材を制御的に連動させてもよい。具体的には、送出ニップ片の位置を検知するセンサと、摩擦部材を上下にスライド移動させる移動機構と、移動機構を制御する制御装置とを備え、センサから出力に基づいて、送出ニップ片が下方にあるときには制御装置が移動機構を制御して摩擦部材を上方へ移動させ、送出ニップ片が上方にあるときには制御装置が移動機構を制御して摩擦部材を下方へ移動させる構成を採用してもよい。
【0063】
また、送出ニップ片および摩擦部材に揺動軸を独立して設け、各揺動軸をギヤなどで動力伝達可能に接続して、送出ニップ片が下方へ揺動するときに摩擦部材を上方へ揺動させ、送出ニップ片が上方へ揺動するときに摩擦部材を下方へ揺動させる構成としてもよい。
【0064】
なお、前記実施形態のように、連動機構が互いに当接可能な当接部135,165を有し、各当接部135,165が互いに当接して摩擦部材160を揺動させる構成や、上述したギヤで連動させる構成などを採用することで、送出ニップ片と摩擦部材を電気制御的に連動させる構成と比較して、連動機構の構成を簡略化することができる。また、前記実施形態では、揺動軸160Aの近傍に各当接部135,165を設けたので、連動機構をコンパクトな構成にすることができる。これらにより、シート供給装置の構成の簡略化や小型化が可能となる。
【0065】
前記実施形態では、送出ニップ片130が下方へ揺動するときに各当接部135,165が互いに当接し、送出ニップ片130が上方へ揺動するときには当接が解除される構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、各当接部が常に当接している構成であってもよい。
【0066】
前記実施形態では、摩擦部材160は、アーム161の凹部161Bに接触部160Bを構成する摩擦シート162が取り付けられた構成であったが、これに限定されず、例えば、摩擦部材全体を摩擦係数が大きい材料から形成してもよい。
【0067】
前記実施形態では、分離部として、分離ローラ140と分離ニップ片150とがニップするニップ部分(分離部S)を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、分離ローラを設けずに、大径の送出ローラに対して送出ニップ片および分離ニップ片の2つを対向して配置し、送出ローラと分離ニップ片とがニップするニップ部分を分離部としてもよい。
【0068】
前記実施形態では、摩擦部材160が送出ローラ120の上流側に配置された構成を例示したが、これに限定されず、摩擦部材が送出ローラの下流側に配置されていてもよい。
【0069】
前記実施形態では、本発明のシート供給装置を、原稿搬送装置1に適用した例を示したが、これに限定されず、例えば、プリンタや複写機などの画像形成装置の用紙供給機構に適用してもよい。また、前記実施形態では、記録シートとして、片面または両面に絵や文字などを有する原稿を例示したが、これに限定されず、例えば、本発明が画像形成装置に適用された場合には未使用(白紙)の用紙やOHPシートなどであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 原稿搬送装置
100 シート供給装置
110 供給トレイ
120 送出ローラ
120C 中心線
130 送出ニップ片
135 当接部
140 分離ローラ
150 分離ニップ片
160 摩擦部材
160A 揺動軸
160B 接触部
161 アーム
161B 凹部
162 摩擦シート
163 トーションバネ
165 当接部
D1 深さ
D2 深さ
M 原稿束
M1 原稿
S 分離部
T 厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層されたシート束の下側からシートを供給するシート供給装置であって、
シートを載置する載置台と、
前記載置台から突出して配置され、前記載置台上のシートを送り出す送出ローラと、
前記送出ローラの上方に対向して配置され、シートを前記送出ローラに向けて付勢する送出ニップ片と、
前記送出ローラのシート供給方向下流側に位置し、前記送出ローラによって送出されたシートを1枚ずつ分離する分離部と、
前記送出ニップ片と異なる位置でシートに上から接触可能な摩擦部材とを備えたことを特徴とするシート供給装置。
【請求項2】
前記摩擦部材は、前記送出ローラのシート供給方向上流側に配置されたことを特徴とする請求項1に記載のシート供給装置。
【請求項3】
前記摩擦部材は、シート供給方向において前記送出ローラと重なるように配置されたことを特徴とする請求項2に記載のシート供給装置。
【請求項4】
前記摩擦部材は、シート供給方向における前記送出ローラの中心線を基準として対称に配置されたことを特徴とする請求項2に記載のシート供給装置。
【請求項5】
前記送出ニップ片は、シート供給方向上流側を揺動中心としてシート供給方向下流端部が上下に揺動可能に設けられ、
前記送出ニップ片が下方へ揺動するときに前記摩擦部材を上方へ移動させ、前記送出ニップ片が上方へ揺動するときに前記摩擦部材を下方へ移動させる連動機構をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシート供給装置。
【請求項6】
前記連動機構は、前記送出ニップ片および前記摩擦部材に設けられ、互いに当接可能な当接部を有し、少なくとも前記送出ニップ片が下方へ揺動するときに各当接部が互いに当接して前記摩擦部材を上方へ移動させることを特徴とする請求項5に記載のシート供給装置。
【請求項7】
前記摩擦部材は、シート供給方向下流側を揺動中心としてシート供給方向上流端部が上下に揺動可能に設けられ、揺動中心よりシート供給方向上流側でシートと接触可能な接触部を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のシート供給装置。
【請求項8】
前記摩擦部材の下方への揺動を規制して、前記接触部と前記載置台との間に所定の隙間を形成する規制部材を備えたことを特徴とする請求項7に記載のシート供給装置。
【請求項9】
前記接触部を下方に向けて付勢する付勢部材を備えたことを特徴とする請求項7または請求項8に記載のシート供給装置。
【請求項10】
前記摩擦部材は、上下に揺動可能なアームと、前記接触部を構成するシート状の摩擦シートとを有し、
前記アームは、前記摩擦シートを取り付ける凹部を有し、
前記凹部は、シート供給方向上流端の深さが前記摩擦シートの厚さより大きく、シート供給方向下流側にいくにつれて深さが浅くなることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のシート供給装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のシート供給装置を備えたことを特徴とする原稿搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−6172(P2011−6172A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149442(P2009−149442)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】