説明

シート材剥離装置及びシート材剥離方法

【課題】特に油等により密着した複数のシート材から最上位のシート材を1枚だけ確実に剥離することができるシート材剥離装置及びシート材剥離方法を提供する。
【解決手段】複数枚積層したシート材2、3の最上位のシート材2を吊り上げる吸着パッドを具備する昇降機構7と、昇降機構により吊り上げられている最上位シート材と複数の最上位よりも下位のシート材3とを剥離するマグネットフロータ4と、剥離中の最上位シート材及び下位シート材の側面に圧縮流体を吹き付けて下位シート材の剥離を促進する圧縮流体噴射ノズル5と、を備え、圧縮流体噴射ノズルは、最上位シート材と下位シート材との側面の重合線より上方に圧縮流体を噴射するよう配置されている。これにより、剥離効果を高めて最上位のシート材のみを容易かつ確実に取り出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材剥離装置及びシート材剥離方法に関し、更に詳しくは、マグネットフロータと圧縮流体噴射ノズルを併用して特に油等により密着した複数のシート材から最上位のシート材を1枚だけ確実に剥離することができるシート材剥離装置及びシート材剥離方法に関する。本シート材剥離装置及びシート材剥離方法は、任意のシート材に適用することができ、特に鋼板等の重量物に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
テーラードブランクラインやプレスライン等では、薄板状の鋼板等のシート材が複数枚積層されてストックされており、その積層されたシート材から最上位のシート材を1枚ずつ吊り上げにより取り出して次工程に搬送している。
ここで、シート材表面には潤滑油や洗浄油等の油分が付着しており、長期間に渡って積層することでシート材同士が密着してしまう。このため、積層されたシート材から最上位のシート材を吊り上げた際に、複数の下位シート材が密着したまま一緒に吊り上げられてしまうことがある。複数のシート材が密着した状態で次工程に搬送されるとラインでのトラブルの原因となってしまうので、その場合は手作業により下位シート材を剥離して取り除かなければならず、生産性が低下するという問題があった。
これを解決するために、従来、積層されたシート材から最上位のシート材を吊り上げて生産ラインに搬入する際に、最上位のシート材と共に吊り上げられた下位シート材を剥離し、最上位のシート材を1枚だけ取り出す各種のシート材剥離装置が採用されていた。
その鋼板等のシート材の剥離装置としては、マグネットフロータを用いて積層されたシート材に帯磁させ磁気的に反発させることで剥離する装置、及び圧縮空気噴射ノズルを用いて圧縮空気をシート材側面に吹き付けることで剥離する装置等(例えば、特許文献1、2を参照。)が採用されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−361583号公報
【特許文献2】特開2000−318861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
更に、マグネットフロータのみを用いた装置では、最上位のシート材に1枚だけ密着した下位シート材を剥離できないことがあった。また、圧縮空気噴射ノズルを用いた装置では、圧縮空気を単純にシート材側面に吹き付けていたので剥離効果は高くなかった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、特に油等により密着した複数のシート材から最上位のシート材を1枚だけ確実に剥離することができるシート材剥離装置及びシート材剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の通りである。
1.複数枚積層したシート材の最上位の該シート材を吊り上げる吸着パッドを具備する昇降機構と、上記昇降機構により吊り上げられている上記最上位シート材と複数の最上位よりも下位の該シート材とを剥離するマグネットフロータと、上記剥離中の上記最上位シート材及び上記下位シート材の側面に圧縮流体を吹き付けて該下位シート材の剥離を促進する圧縮流体噴射ノズルと、を備えるシート材剥離装置であって、上記圧縮流体噴射ノズルは、上記最上位シート材と上記下位シート材との上記側面の重合線より上方に上記圧縮流体を噴射するよう配置されていることを特徴とするシート材剥離装置。
2.上記圧縮流体噴射ノズルは、上記重合線の上方1.5mm以内に向けて上記圧縮流体を噴射するよう配置されている上記1.記載のシート材剥離装置。
3.上記圧縮流体噴射ノズルは、平面において上記圧縮流体の噴射方向と上記側面との2辺からなる噴射角度が35〜90度となるように配置されている上記1.記載のシート材剥離装置。
4.上記最上位シート材を吊り上げた際に該最上位シート材の質量を測定する質量センサと、上記質量センサの結果から上記最上位シート材に上記下位シート材が密着しているか否かを判定し、密着していると判定したときに上記圧縮流体を噴出させる判定手段と、を更に備える上記1.乃至3のいずれか1項に記載のシート材剥離装置。
5.上記シート材は四角形であると共に、上記シート材の一辺を基準位置に位置させる基準ガイドと、上記シート材の上記基準ガイドに沿った辺と直交する二辺を支持する固定具と、を備え、且つ上記マグネットフロータ及び上記圧縮流体噴射ノズルは、上記シート材の上記基準ガイドに沿った辺と平行な一辺に向けて配置されている上記4.記載のシート材剥離装置。
6.上記シート材は四角形であると共に、上記シート材の一辺を基準位置に位置させる基準ガイドと、上記シート材の上記基準ガイドに沿った辺と平行な一辺を支持する固定具と、を備え、且つ上記マグネットフロータ及び上記圧縮流体噴射ノズルは、上記基準ガイドに配置されている上記4.記載のシート材剥離装置。
7.上記シート材は長方形であると共に、上記シート材の一の短辺を基準位置に位置させる基準ガイドと、上記シート材の他の短辺を支持する固定具と、を備え、且つ上記マグネットフロータ及び上記圧縮流体噴射ノズルは、上記シート材の各長辺に向けて配置されている上記4.記載のシート材剥離装置。
8.上記マグネットフロータ及び上記圧縮流体噴射ノズルは、上記シート材の各長辺の上記基準ガイド近傍に配置されている上記7.記載のシート材剥離装置。
9.上記シート材は鋼板である上記1.乃至8のいずれか1項に記載のシート材剥離装置。
10.複数枚積層したシート材を吸着して吊り上げる際に最上位の該シート材と複数の最上位よりも下位の該シート材をマグネットフロータにより剥離する帯磁剥離工程と、上記剥離中の上記最上位シート材及び上記下位シート材の側面に圧縮流体噴射ノズルから圧縮流体を吹き付けて上記下位シート材を剥離する吹付剥離工程と、を備えるシート材剥離方法であって、上記圧縮流体噴射ノズルは、上記最上位シート材と上記下位シート材との上記側面の重合線より上方に上記圧縮流体を噴射するよう配置されていることを特徴とするシート材剥離方法。
11.上記最上位シート材を吊り上げた際に該最上位シート材の質量を質量センサにより測定する測定工程と、上記測定工程での測定結果から上記最上位シート材に上記下位シート材が密着しているか否かを判定し、密着していると判定したときに上記吹付剥離工程を実施させる判定工程と、を更に備える上記10.記載のシート材剥離方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシート材剥離装置及びシート材剥離方法によれば、複数枚積層して密着したシート材を吊り上げる際に最上位シート材と複数の下位シート材をマグネットフロータの帯磁作用により剥離し、更に剥離中の最上位シート材と下位シート材の側面に圧縮流体噴射ノズルから圧縮流体を吹き付けて下位シート材を剥離するので、剥離効果を高めて最上位のシート材のみを容易かつ確実に取り出すことができる。特に、側面の重合線そのものに圧縮流体を吹き付けるのではなく、重合線より上方に吹き付けるようにしたため、より剥離効果を高めて最上位のシート材のみを容易かつ確実に取り出すことができる。
これにより、複数のシート材が密着した状態で次工程に搬送されることを防止して、従来の手作業による剥離作業が不要になり、継続的にかつ確実にシート材を生産ラインに1枚ずつ供給できるので、生産効率を大幅に向上させることができる。
【0008】
また、圧縮流体噴射ノズルが重合線の上方1.5mm以内に向けて圧縮流体を噴射するよう配置される場合は、更に剥離効果を高めることができる。
更に、圧縮流体の噴射角度が35〜90度となるように圧縮流体噴射ノズルが配置される場合は、更に剥離効果を高めることができる。
また、吊り上げたシート材の質量を測定する質量センサと、質量センサの結果から最上位シート材に下位シート材が密着しているか否かを判定し、密着していると判定したときに圧縮流体を噴出させる判定手段と、を更に備える場合は、最上位シート材に下位シート材が密着しているときだけ圧縮流体を噴射すればよいため、通常は圧縮流体の噴射を行う時間をなくすことができるため剥離作業の時間を短縮することができ、剥離作業の効率を向上させることができる。
更に、マグネットフロータ及び圧縮流体噴射ノズルの他に、シート材の一の辺を基準位置に位置させる基準ガイドと、シート材の他の辺を支持する固定具とを備える場合に、シート材の形状や大きさに応じて、マグネットフロータ及び圧縮流体噴射ノズル、基準ガイド、固定具の各位置を適切に設定することで、剥離効果を高めることができる。
また、上記シート材が鋼材である場合は、塗布等された油によって密着し、且つ重量物であるために剥離作業が大がかりになるため、本シート材剥離装置及びシート材剥離方法により剥離作業がより効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図を参照して説明する。
本実施形態では、図1に示すように、シート材剥離装置1は、積層されてストックされたシート材の最上位のシート材2を1枚ずつ吊り上げにより取り出して次工程に搬送するものとしている。
この「シート材」は、鋼板、銅板及びアルミ板等の金属板及び金属シート、紙シート及び紙板、ガラス板、並びに樹脂板及び樹脂シート等の任意の板材及びシート材を含むことができる。これらのうち、金属板及び金属シート等の重量物に対して好適に用いることができる。更に、塗布された油等によってシート材同士が密着する鋼板に対して特に好適に用いることができる。
【0010】
1.シート材剥離装置1の構成
シート材剥離装置1は、最上位シート材2と複数の下位シート材3を帯磁作用により剥離するマグネットフロータ4と、最上位シート材2とその下位シート材3の側面に圧縮流体を吹き付けて下位シート材3を剥離する圧縮流体噴射ノズル5と、最上位シート材2を吸着する吸着パッド6と、吸着パッド6により吸着した最上位シート材2を吊り上げる昇降機構7と、を備える。更に、圧縮流体噴射ノズル5の高さ、角度及び距離を調節するノズル調整機構8と、を備えることができる。
【0011】
マグネットフロータ4は電磁石であり、通電により励磁して最上位シート材2と複数の最上位よりも下位の下位シート材3を帯磁作用により剥離する。マグネットフロータ4は1個以上配置し、配置数を増やすことで剥離効果を向上させることができる。
圧縮流体噴射ノズル5は、図2に示すように、圧縮流体を最上位シート材2とその下位シート材3の側面内の重合線G(図5を参照。)より上方となる位置に噴射する。
上記「重合線G」は、最上位シート材2と、最上位シート材2に密着する下位シート材3とを重ね合わせたときに生じる境界線である。
上記「圧縮流体」は、圧縮空気及び加圧した油等の任意の流体を用いることができる。このうち、圧縮空気を好適に用いることができる。
【0012】
吸着パッド6はゴム製で、昇降機構7の中空シャフト先端に取り付けられている。昇降機構7の中空シャフトには真空発生装置(図示せず)が連結されている。そして、真空発生装置が作動することにより、昇降機構7の中空シャフトを介して吸着パッド6から空気が吸引され、この吸引力により最上位シート材2に吸い付く。更に、昇降機構7の本体シリンダが上昇することで、吸着パッド6が最上位シート材2を吸着したまま最上位シート材2及び密着した下位シート材3が吊り上げられる。
尚、吸着パッド6の材質及び構造は上記に限られず、任意に選択することができる。
【0013】
昇降機構7には、吊り下げたシート材2の質量を測定する質量センサ(図示せず)が設けられている。また、質量センサの結果から最上位シート材2に下位シート材3が密着しているか否かを判定し、密着していると判定したときに圧縮流体噴射ノズル5から圧縮流体を噴出させる判定手段(図示せず)が設けられている。判定手段としては、コンピュータやシークエンス回路などを適宜利用することができる。
また、判定方法は、シート材2の質量を予め登録した値から取得した値、又はシート材2の寸法から算出して求めた値と、質量センサの結果から得られた値と、を比較して、異なる場合は密着していると判定することを例示することができる。また、値が異なるとするのは、両者の値が異なる条件でもよいし、両者の値の差が一定範囲(例えば所定値でもよいし、所定比率でもよい。)から外れたときを条件としてもよい。
これにより、シート材2の吊り上げ時に下位シート材3が密着しているか否かを質量に基づいて判定して、密着しているときだけ圧縮流体を噴射するようにできる。このように、下位シート材3が密着している場合だけ噴射するのは、通常、マグネットフロータ4のみでシート材2、3を剥離することができるからである。また、圧縮流体を噴射するためには、圧縮流体を噴射するための時間、及び後述するノズル調整機構8によって時間を余分にかけて調節する時間等が更に必要なことがあるため、剥離作業により時間が掛かることがあるためである。
【0014】
ノズル調整機構8は、圧縮流体噴射ノズル5が最上位シート材2とその下位シート材3の側面内の重合線Gより上方に圧縮流体を噴射するように、圧縮流体噴射ノズル5の高さ、角度、距離を調節する。ここでは、圧縮流体噴射ノズル5は、図4に例示するように、重合線Gから距離Aを空け、図5に例示するように、重合線から高さBだけ上方の位置に向けて圧縮流体を噴射するよう配置され、図4に例示するように、平面において圧縮流体の噴射方向と上記側面との2辺からなる噴射角度Cが所定値になるよう配置されている。尚、圧縮流体噴射ノズル5から噴射する圧縮流体は、シート材の面と平行に噴射される。
距離Aは、任意に設定することができるが、3〜45mm(特に好ましくは5〜40mm、更に好ましくは10〜30mm)が好ましい。距離Aが短すぎるとシート材2、3と接触して作業の支障になる恐れがあるし、距離Aが長すぎると圧縮流体の勢いが弱まって剥離性能が十分に得られない恐れがあるためである。
高さBも、0mmを越える任意に設定することができるが、1.5mm以内(特に好ましくは1.3mm以内、更に好ましくは1.0mm以内)が好ましい。高さBが高すぎると剥離性能が十分に得られない恐れがあるためである。
噴射角度Cは、任意の角度に設定することができるが、35〜90度(特に好ましくは40〜90度、更に好ましくは45〜90度)が好ましい。噴射角度Cが小さすぎると剥離性能が十分に得られない恐れがあるためである。
【0015】
更に、本実施形態では、シート材2,3の一の辺を基準位置に位置させる基準ガイド9と、シート材2,3の他の辺を支持する固定具10とを備えている。固定具10の数は1個に限定されることなく、シート材2,3の形状や大きさによって適宜個数を増やすことが好ましく、固定具10の大きさも小さいものから大きいものまで数種類用意することが好ましい。そして、シート材2,3の形状や大きさに応じて、マグネットフロータ4及び圧縮流体噴射ノズル5、基準ガイド9、固定具10の各位置を適切に設定することができる。
【0016】
例えば、図3(a)に示すように、シート材2,3が大判の四角形の場合、固定具10はシート材2,3の基準ガイド9に沿った辺と直交する二辺を支持するものとし、マグネットフロータ4及び圧縮流体噴射ノズル5(図示せず)はシート材2,3の基準ガイド9に沿った辺と平行な一辺に向けて配置されるようにする。
【0017】
また、図3(b)に示すように、シート材2,3が小判の四角形の場合、固定具10はシート材2,3の基準ガイド9に沿った辺と平行な一辺を支持するものとし、マグネットフロータ4及び圧縮流体噴射ノズル5(図示せず)は基準ガイド9に配置されるようにする。
【0018】
更に、図3(c)に示すように、シート材2,3が長方形の場合、固定具10はシート材2,3の他の短辺を支持するものとし、マグネットフロータ4及び圧縮流体噴射ノズル5(図示せず)はシート材2,3の各長辺に向けて配置されるようにする。この場合、マグネットフロータ4及び圧縮流体噴射ノズル5はシート材2,3の各長辺の基準ガイド9近傍に配置されることが望ましい。
【0019】
2.シート材剥離方法
上述したシート材剥離装置1を用いるシート材剥離方法を以下に説明する。
(1)帯磁剥離工程
昇降機構7を作動して最上位シート材2の表面に吸着パッド6を当接させる。次に真空発生装置を稼動して最上位シート材2を吸着把持し、昇降機構7を上昇させて一定の高さまで吊り上げる。この時、マグネットフロータ4に通電して励磁し、その磁気反発により密着した複数の下位シート材3の剥離を行う。
【0020】
(2)測定工程及び判定手段
マグネットフロータ4の励磁中に、昇降機構7の質量センサにより最上位シート材2の質量を測定する測定工程を行う。次いで、判定手段により下位シート材3が密着しているか否かを判定する。質量センサにより得られた質量値が最上位シート材2よりも明らかに重い場合は、最上位シート材2に下位シート材3が密着していると判定し、吹付剥離工程を行う。
【0021】
(3)吹付剥離工程
吹付剥離工程では、圧縮流体噴射ノズル5から最上位シート材2とその下位シート材3の側面内の重合線Gより上方に圧縮流体を噴射する。マグネットフロータ4の励磁中に圧縮流体を噴射することにより、密着した下位シート材3を剥離し、確実に最上位シート材2だけを取り出すことができる。
【0022】
上述したように、本実施形態によれば、密着している最上位シート材2とその下位シート材3の側面内の重合線Gより上方に圧縮流体噴射ノズル5から圧縮流体を吹き付けて下位シート材3を剥離するので、剥離効果を高めて最上位のシート材2のみを容易かつ確実に取り出すことができるようになる。
また、判定手段の判定により最上位シート材2に下位シート材3が密着しているときだけ圧縮流体を噴射すればよいので、剥離作業の効率を向上することができる。
更に、シート材の形状や大きさに応じて、マグネットフロータ4及び圧縮流体噴射ノズル5、基準ガイド9、固定具10の各位置を適切に設定しているので、剥離効果を高めることができる。
【実施例】
【0023】
シート材2,3の大きさ、板厚、流体圧、流量を一定とし、吹き付け距離A、吹き付け位置、噴射角度Cを変更して、シート材2,3の剥離効果を確認する実験を行った。流体圧、流量は、一般の工場で使用されている従来のシート材剥離装置1の条件に設定し、流体は圧縮空気を用いた。本実施例では、図4及び図5に示すように、ノズル調整機構8により圧縮流体噴射ノズル5の重合したシート材2,3の側面への圧縮流体噴射角度Cを任意変更することができるものとした。
本実施例で使用した最上位シート材2の寸法は300(W)×300(D)×0.5(T)であり、下位シート材3の寸法は475(W)×250(D)×1.6(T)であった。
また、重合線Gから圧縮流体噴射ノズル5の吹き出し口まで距離Aを10mm、30mm、50mmと変え、重合線Gから上方に移動した高さBを、1.6mm、1.0mm、0.5mm、0mm、−0.5mm(下方に移動)と変え、噴射角度Cを、30度、45度、60度、90度と変え、これらの組合せで、シート材の剥離が成功し場合を○とし、失敗した場合は×として実験を行った。この実験結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すように、吹き付け距離Aは30mm、10mmにおいて剥離効果が認められた。また、高さBは、シート材2,3の重合線Gより0〜1.0mmの上方に吹き付けると剥離効果が高く、逆に重合線Gより下方に吹き付けると剥離効果が弱くなる現象を確認した。また、高さBを0.5mmの下方にすると、剥離効果が弱くなる現象も見られるため、高さBが0mmと重合線Gと一致させるより更に上方にするとより効果が上がると考えられる。
更に、吹き付け距離Aが10mmの時においては、噴射角度Cが45〜90度の間で剥離効果が認められた。これは圧縮流体噴射ノズル5から放出される流速が距離に応じて減退することを如実に表しており、距離が近いほど流速が上がりシート材2,3に与える衝突エネルギーが増加することで、より確実な剥離が可能であることを示唆している。
また、噴射角度Cが30度のときは、吹き付け距離A及び高さBがいずれの値であっても剥離効果が認められなかった。
【0026】
尚、本発明においては、上記実施形態に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施形態とすることができる。即ち、本実施形態では、質量センサと判定手段を備えて下位シート材3が密着しているときだけ圧縮流体を噴射するようにしているが、これには限定されず、これら質量センサと判定手段を設けなくてもよい。この場合、剥離設備を簡素化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
密着する積層シート材を剥離する剥離装置及び剥離方法の全般に広く適用可能であり、特に最上位のシート材を他のシート材と剥離することを高精度に行う場合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態に係るシート材剥離装置を示す斜視図である。
【図2】圧縮流体噴射ノズルを示す斜視図である。
【図3】各種シート材に対するマグネットフロータ及び圧縮流体噴射ノズル、基準ガイド、固定具の配置を示す平面図であり、(a)はシート材が大判四角形の場合、(b)はシート材が小判四角形の場合、(c)はシート材が長方形の場合をそれぞれ示す。
【図4】本実施例における密着したシート材と圧縮流体噴射ノズルとの位置関係を示す平面図である。
【図5】本実施例における密着したシート材と圧縮流体噴射ノズルとの位置関係を示す側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1;シート材剥離装置、2;最上位シート材、3;下位シート材、4;マグネットフロータ、5;圧縮流体噴射ノズル、6;吸着パッド、7;昇降機構、8;ノズル調整機構、9;基準ガイド、10;固定具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚積層したシート材の最上位の該シート材を吊り上げる吸着パッドを具備する昇降機構と、
上記昇降機構により吊り上げられている上記最上位シート材と複数の最上位よりも下位の該シート材とを剥離するマグネットフロータと、
上記剥離中の上記最上位シート材及び上記下位シート材の側面に圧縮流体を吹き付けて該下位シート材の剥離を促進する圧縮流体噴射ノズルと、を備えるシート材剥離装置であって、
上記圧縮流体噴射ノズルは、上記最上位シート材と上記下位シート材との上記側面の重合線より上方に上記圧縮流体を噴射するよう配置されていることを特徴とするシート材剥離装置。
【請求項2】
上記圧縮流体噴射ノズルは、上記重合線の上方1.5mm以内に向けて上記圧縮流体を噴射するよう配置されている請求項1記載のシート材剥離装置。
【請求項3】
上記圧縮流体噴射ノズルは、平面において上記圧縮流体の噴射方向と上記側面との2辺からなる噴射角度が35〜90度となるように配置されている請求項1記載のシート材剥離装置。
【請求項4】
上記最上位シート材を吊り上げた際に該最上位シート材の質量を測定する質量センサと、上記質量センサの結果から上記最上位シート材に上記下位シート材が密着しているか否かを判定し、密着していると判定した時に上記圧縮流体を噴出させる判定手段と、を更に備える請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシート材剥離装置。
【請求項5】
上記シート材は四角形であると共に、上記シート材の一辺を基準位置に位置させる基準ガイドと、上記シート材の上記基準ガイドに沿った辺と直交する二辺を支持する固定具と、を備え、且つ上記マグネットフロータ及び上記圧縮流体噴射ノズルは、上記シート材の上記基準ガイドに沿った辺と平行な一辺に向けて配置されている請求項4記載のシート材剥離装置。
【請求項6】
上記シート材は四角形であると共に、上記シート材の一辺を基準位置に位置させる基準ガイドと、上記シート材の上記基準ガイドに沿った辺と平行な一辺を支持する固定具と、を備え、且つ上記マグネットフロータ及び上記圧縮流体噴射ノズルは、上記基準ガイドに配置されている請求項4記載のシート材剥離装置。
【請求項7】
上記シート材は長方形であると共に、上記シート材の一の短辺を基準位置に位置させる基準ガイドと、上記シート材の他の短辺を支持する固定具と、を備え、且つ上記マグネットフロータ及び上記圧縮流体噴射ノズルは、上記シート材の各長辺に向けて配置されている請求項4記載のシート材剥離装置。
【請求項8】
上記マグネットフロータ及び上記圧縮流体噴射ノズルは、上記シート材の各長辺の上記基準ガイド近傍に配置されている請求項7記載のシート材剥離装置。
【請求項9】
上記シート材は鋼板である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のシート材剥離装置。
【請求項10】
複数枚積層したシート材を吸着して吊り上げる際に最上位の該シート材と複数の最上位よりも下位の該シート材をマグネットフロータにより剥離する帯磁剥離工程と、
上記剥離中の上記最上位シート材及び上記下位シート材の側面に圧縮流体噴射ノズルから圧縮流体を吹き付けて上記下位シート材を剥離する吹付剥離工程と、を備えるシート材剥離方法であって、
上記圧縮流体噴射ノズルは、上記最上位シート材と上記下位シート材との上記側面の重合線より上方に上記圧縮流体を噴射するよう配置されていることを特徴とするシート材剥離方法。
【請求項11】
上記最上位シート材を吊り上げた際に該最上位シート材の質量を質量センサにより測定する測定工程と、上記測定工程での測定結果から上記最上位シート材に上記下位シート材が密着しているか否かを判定し、密着していると判定した時に上記吹付剥離工程を実施させる判定工程と、を更に備える請求項10記載のシート材剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−263084(P2009−263084A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114530(P2008−114530)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000203977)太平工業株式会社 (41)
【出願人】(594052674)豊田スチールセンター株式会社 (14)
【Fターム(参考)】