説明

シート状化粧品

【課題】化粧品としての品質を保ちながら、シート状の基材上に化粧品層を安定に固着した構造のシート状化粧品を提供する。
【解決手段】厚紙等のシート状の基材上に、粉体化粧品のスラリー化に用いる低級アルコール(溶剤)によって膨潤する、例えばアクリル樹脂系またはウレタン樹脂系のアルコール膨潤性樹脂接着剤層を介して化粧品層を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体化粧料に粘性を持たせたファンデーションやアイシャドウ、チーク(頬紅)等の化粧品に係り、例えば化粧品サンプルや携帯用化粧品として好適なシート状化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーションやアイシャドウ、チーク(頬紅)等の化粧品は、その主体である粉体化粧料に粘性を持たせて固化したものである。この種の化粧品は、一般的には金属やプラスチック等の容器に充填されて消費者に提供されるが、1〜5回程度の使用に供し得る分、シート状の基材(例えばポリエステルフィルム)に塗布したシート状化粧品として提供されることもある。このようなシート状化粧品は化粧品サンプルや携帯用化粧品として好適である。
【0003】
ちなみにシート状化粧品は、ポリエステルフィルム等のシート状の基材の一面に、粉体化粧料を溶剤に溶かしたスラリーをスクリーン印刷することで所定の厚みの化粧品層として形成され、上記化粧品層の表面を覆って透明なカバーシートを前記基材から剥離可能に設けたものとして実現される(例えば特許文献1,2を参照)。
【特許文献1】特開2005−40356号公報
【特許文献2】特許第3379086号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで前述した化粧品(化粧料)の中にはその組成(構成成分)に起因してシート状の基材との相性が悪く、基材から剥がれ易いものが多々ある。ちなみに基材からの化粧品層の剥がれ落ちは、シート状化粧品としての見栄えや価値を著しく損なうばかりでなく、スポンジやパフ等を用いて化粧品をすくい取る(擦り取る)際の作業性を悪くしたり、その作業自体を不可能とする要因となる。そこで従来では、例えば前記基材として4〜10μm程度の表面粗さを有するものを用いたり、基材に対して化粧品を加熱・加圧接着することでその接着性を高めるようにしている。しかしそれでもなお、化粧品層の剥がれ落ちを防ぐことができないものも多い。また上記加熱・加圧接着によって化粧品の品質が損なわれる虞もあった。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、化粧品としての品質を保ちながら、シート状の基材上に化粧品層を安定に固着した構造のシート状化粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するべく本発明に係るシート状化粧品は、ポリエステルフィルム等のシート状の基材上に、液体膨潤性の接着剤層を介して化粧品層を積層したことを特徴としている。
ちなみに前記液体膨潤性の接着剤層は、アルコール膨潤性樹脂を主体とする接着剤、好ましくはアクリル樹脂系またはウレタン樹脂系のアルコール膨潤性樹脂接着剤からなる。
【0007】
また前記化粧品層は、その主成分である粉体化粧品を低級アルコールからなる溶剤に分散させたスラリーとして前記接着剤層上に塗布し、これによって該接着剤層を膨潤させた後、乾燥処理により前記溶剤を揮散させて除去することで前記粉体化粧品に粘性を持たせて固化したものとして前記接着剤層上に積層形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るシート状化粧品は、化粧品層がシート状の基材上に液体膨潤性の接着剤層を介して積層形成されているので、前記化粧品層は接着剤の膨潤作用を受けて前記接着剤層に十分になじんだ状態で前記基材に強固に接着固定(固着)される。しかも前記化粧品層は接着剤の膨潤性作用を受けてその接着剤層になじむことで該接着剤層に保持され、更にはこの接着剤層を介して前記基材に接着されるだけなので、化粧品層の品質が損なわれることがない。従って化粧品としての品質を保ちながら、シート状の基材上に化粧品層を安定に固着した構造のシート状化粧品とすることができる。
【0009】
特に化粧品層を、その主成分である粉体化粧料を低級アルコールからなる溶剤に分散させたスラリーとして接着剤層上に塗布して形成するに際して、前記液体膨潤性接着剤としてアルコール膨潤性樹脂を主体とする接着剤、好ましくはアクリル樹脂系またはウレタン樹脂系のアルコール膨潤性樹脂接着剤を用いているので、化粧品としての品質を損なうことなしに前記化粧品層を樹脂接着剤に接着し、ひいては化粧品層を前記基材に対して安定に、しかも強固に接着(固着)することができる等の効果が奏せられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係るシート状化粧品について説明する。
図1はこの実施形態に係るシート状化粧品の概略構成を示す斜視図であり、1は厚紙の表面にポリエステルフィルム等をラミネートしたシート状の基材である。この基材1は、例えば2つ折りにすることで名刺程度の大きさをなすものであって、その内側面の一方に所定の領域をなして化粧品層2が設けられる。この化粧品層2は、粉体化粧料に粘性を持たせて固化した化粧品、つまりファンデーションやアイシャドウ、更にはチーク(頬紅)等の化粧品からなり、1〜5回程度使用可能な量として前記基材1上に設けられる。
【0011】
尚、前記基材1の上面には矩形状の枠体3が貼付されており、前記化粧品層2は上記枠体3の内側の領域に前記基材1の上面に固着して設けられる。ちなみに枠体3は、例えば前記基材1の上面に設けられる化粧品層2の厚みよりも若干厚い厚みの紙製のものからなり、化粧品層2の周囲を囲むことで前記基材1と協働して前記化粧品層2を収納する空間(底の浅い容器)を形成する役割を担う。またこの枠体3の上面には前記化粧品層2を覆って透明なカバーシート4が剥離可能に設けられる。このカバーシート4は、例えば前記枠体3の上面に接触する枠状の当接領域を粘着面としたものであり、このカバーシート4を前記枠体3から剥がす(捲る)ことで前記化粧品層2が使用可能に露出される。尚、カバーシート4に面着面を形成すること代えて、枠体3の上面に粘着面を形成するようにしても良い。
【0012】
さて前記化粧品層2は、図2にその断面構造を示すように前記基材1上に後述する接着剤層5を介して固着されている。即ち、化粧品層2は、化粧品の主体をなす粉体化粧料に粘性を与えて固化したものであって、例えば前記粉体化粧料を低級アルコールからなる溶剤に分散させてスラリー化し、これをスクリーン印刷等によって前記基材1上に所定の厚みとなるように塗布した後、乾燥処理により前記溶剤(低級アルコール)を揮散させて除去することによって前記基材1上に積層形成される。このようにして基材1上に化粧品層2を積層形成するに際して、本発明においては前記基材1上に予め接着剤層5を形成し、この接着剤層5上に前記化粧品層2を積層形成するものとなっている。換言すれば前記化粧品層2は、前記基材1上に接着剤層5を介して積層形成されている。
【0013】
特に本発明においては前記接着剤層5として液体膨潤性の接着剤、具体的にはクリル樹脂系またはウレタン樹脂系のアルコール膨潤性樹脂を主体とする接着剤(アルコール膨潤性の接着剤)が用いられている。そして前記化粧品層2は、上記アルコール膨潤性の接着剤層5が有する膨潤性を利用して、化粧品としての品質を損なうことなしに前記基材1上に強固に固着して積層形成されている。
【0014】
ちなみに上述した接着剤層5を介する前記化粧品層2の形成は、図3にその概略的な手順を示すように、先ず基材1上に上述したアルコール膨潤性の接着剤を塗布し、これを乾燥させて接着剤層5を形成する〈ステップS1〉。次いで粉体化粧料を低級アルコール(溶剤)に分散させることでスラリー化した化粧品をスクリーン印刷により前記接着剤層5上に塗布する〈ステップS2〉。そしてスラリー化した化粧品に含まれるアルコールにて前記接着剤層5を膨潤させて該接着剤層5に化粧品をなじませる。しかる後、接着剤層5上に塗布した化粧品を乾燥処理し、該化粧品をスラリー化している溶剤(アルコール)を揮散させることで化粧品を固化し、これによって前記接着剤層5上に化粧品層2を積層形成する〈ステップS3〉。
【0015】
このようにして基材1上にアルコール膨潤性の接着剤層5を介して化粧品層2を形成したシート状化粧品によれば、化粧品層2が低級アルコール(溶剤)を用いてスラリー化した状態で接着剤層5上に塗布した際、上記アルコールにて接着剤層5が膨潤して上記スラリー化した化粧料に良くなじむ。従ってスラリー化した化粧料を乾燥処理して固化することにより前記接着剤層5に確実に固着した化粧品層2を形成することが可能となる。しかも粉体化粧料をスラリー化した低級アルコール(溶剤)にて接着剤層5を膨潤させるだけなので化粧料自体に悪影響を及ぼすことがなく、従って化粧品としても品質を十分に良好に保つことができる。故に基材1上に化粧品層2を安定に固着して保持したシート状化粧品を実現することができる。
【実施例】
【0016】
本発明に係るシート状化粧品の前記アルコール膨潤性接着剤層5による化粧品層2の固着効果を確認するべく前記基材として表面が平滑な基材A(厚さ25μmのポリエステルフィルム)と、従来より一般的に用いられている表面をエンボス加工した基材B(表面粗さが4.0μmのポリカーボネート;恵和(社)製のオルパスEPC-E#150)とを準備した。また化粧品として市販されているファンデーションとアイシャドウをそれぞれ複数銘柄に亘って準備し、これらの中の代表的なファンデーションを化粧品X、代表的なアイシャドウを化粧品Yとした。尚、化粧品X,Yのスラリー化は、溶剤としてのイソプロピルアルコール40質量%に対して上記の粉体化粧品を60質量%加えて撹拌した。
【0017】
一方、上記化粧品X,Yのスラリー化に用いたイソプロピルアルコール等の溶剤によって膨潤するアルコール膨潤性接着剤として、予め増粘剤等を加えて調合されて市販されているアクリルエマルジョン(商品名;Seikaprene NF-303)およびウレタンエマルジョン(商品名;Seikaprene UD-810)をそれぞれ接着剤a,bとして準備した。また本発明者等が調合したアルコール膨潤性接着剤として、固形分濃度45質量%のアクリルエマルジョン10質量%に、カルボキシメチルセルロースを4.0質量%、イソプロピルアルコールを5.0質量%、および水を81.0質量%を加えて混合した接着剤cを準備すると共に、固形分濃度45質量%のアクリルエマルジョン10質量%に、鉱物系増粘剤を3.7質量%、イソプロピルアルコールを5.0質量%、および水を81.3質量%を加えて混合した接着剤dを準備した。
【0018】
またこれらのアルコール膨潤性接着剤a〜dに対する比較例として、単にアルコール溶解性を有するだけのポリビニルピロリドン(PVP)の5%水溶液、およびアルコール溶解性がなく、一般的には単に増粘剤として用いられるカルボキシメチルセルーロース(CMC)の5%水溶液を、前述した化粧品X,Yのスラリー化に用いたイソプロピルアルコール等の溶剤によって膨潤することのない接着剤、つまりアルコール膨潤性のない接着剤e,fとして準備した。
【0019】
そして前記基材1に対する上述した接着剤a〜fを、200メッシュの膜厚30μmの印刷板を用いてスクリーン印刷方式によりそれぞれ塗布し、乾燥した。またこの接着剤の塗布により形成した接着剤層5上への前述した如くスラリー化した化粧品の塗布を、60メッシュの膜厚150μmの印刷板を用いてスクリーン印刷方式にて3回に亘って繰り返し重ね印刷して行った。その後、接着剤層5上に塗布した化粧品を乾燥処理することによって基材1上に化粧品層2を積層形成したシート状化粧品を試料(実施例1〜8および比較例1〜6)としてそれぞれ製作した。
【0020】
尚、アルコールに溶かしてスラリー化した化粧品の接着剤層5上への塗布に伴ってアルコール膨潤性接着剤を膨潤させる時間(塗布後の放置時間)については、接着剤の種類や化粧品の組成等にもよるが、一般的には0〜20分であることが好ましく、望ましくは5〜15分程度であれば十分である。そしてその後の乾燥処理については、赤外線光の照射や温風の吹き付け等により、例えば100℃で1分程度加熱し、化粧品のスラリー化に用いた溶剤(低級アルコール)を揮散させて前記アルコール膨潤性接着剤の膨潤を停止させれば十分である。
【0021】
次に示す表1および表2は前記化粧品X,Yについて、基材および接着剤を変えて上述したように製作したシート状化粧品の評価結果を示している。尚、この評価は、第1の評価法としてシート状化粧品の化粧品層2の表面に両面テープを用いて厚紙を貼り付け、この厚紙の前記化粧品層2を貼り付けた面とは反対側の面を指で軽く弾いた際の前記化粧品層2の基材1からの脱落の程度を調べた[脱落評価]。そして基材1からの化粧品層2の脱落がない状態を良好(○)、脱落が多くて化粧品としての使用に適さない状態を不良(×)とした。
【0022】
また第2の評価法としてファンデーション用のスポンジにて化粧品層2の表面を5回擦った際の上記スポンジへの化粧品の付着の程度を評価した[付着評価]。そしてスポンジに化粧品が十分付着している状態を良好(○)とし、化粧品が殆ど付着しない状態を不良(×)とした。更に第3の評価法して前記基材1から化粧品層5を除去するべく(拭い落とすべく)、ファンデーション用のスポンジを用いて化粧品を拭き取った際、前記基材1における化粧品の残り具合を評価した[残り評価]。そして基材1に化粧品が殆ど残っていない状態を良好(○)とし、基材1に化粧品が多く残っている状態を不良(×)とした。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
この評価結果に示されるように接着剤層5を介することなく基材1上に化粧品層2を直接設けた場合には(比較例3,6)、基材1の表面がエンボス加工されていても該基材1と化粧品層2との接着性が悪く、僅かな衝撃を加えるだけで化粧品層2が剥がれ落ちた。また単にアルコール溶解性を有する接着剤(PVP)eを介して基材1上に化粧品層2を形成した場合には(比較例1,4)、基材1に対する接着性が強いものの、逆にその接着力が強くなり過ぎてスポンジを用いて化粧品を擦り取ること自体が困難となり、もはや化粧品としての使用に供し得なくなった。またアルコール溶解性がなく、専ら増粘剤として用いられる接着剤(CMC)fを介して基材1上に化粧品層2を形成した場合には(比較例2,5)、接着層5に対する接着強度が弱くて化粧品層2が容易に剥がれ落ちる上、化粧品の擦り取りが困難となって実用に供し得なかった。
【0026】
これに対して化粧品X,Yのスラリー化に用いたイソプロピルアルコール等の溶剤によって膨潤するアルコール膨潤性接着剤a,b,c,dを用いた場合には(実施例1,2〜9)、基材1の表面がエンボス加工されている場合のみならず、基材1の表面が滑らか(平滑)であっても化粧品層2の接着状態が良好であり、且つスポンジによる化粧品の擦り取りも良好であることが確認できた。また化粧品を殆ど残すことなく基材1から擦り取り得ることも確認でき、更にはシート状化粧品としての十分なる品質を保持していることが確認できた。尚、化粧品X,Y(ファンデーションおよびアイシャドウ)について、その銘柄を変えて同様な実験をしても、その評価結果に殆ど変わりはなかった。
【0027】
以上の評価結果から、化粧品のスラリー化に用いる溶剤(低級アルコール)によって膨潤するアルコール膨潤性樹脂を主体とする接着剤を用い、その接着剤層5上にスラリー化した化粧品を塗布して化粧品層2を形成してなるシート状化粧品によれば、スラリー化した化粧品の塗布によって接着剤層5が適度に膨潤して化粧品になじみ、その状態を維持しながら乾燥固化したものと考えられる。この結果、基材1と接着剤層5との接着強度、および接着剤層5と化粧品層2との接着強度が適度に確保され、化粧品としての品質を損なうことなしに基材1上に化粧品層2を良好に接着させて形成することができたと考えられる。
【0028】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。ここでは化粧品としてファンデーションおよびアイシャドウを例に説明したが、粉体化粧料に粘性を持たせたチーク(頬紅)等の他の化粧品についても同様に適用することができる。また液体膨潤性接着剤としては、アセトンに対して膨潤作用を呈するアクリル系またはウレタン系の接着剤を用いることも可能である。更には化粧品層の乾燥処理についても、要は粉体化粧品を溶解させてスラリー化し、また接着剤の膨潤に用いた低級アルコール等の溶剤を揮散させて前記粉体化粧品を固化し、接着剤の膨潤を停止させ得る手法を適宜採用すれば十分である。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るシート状化粧品の概略的な構造を示す斜視図。
【図2】本発明に係るシート状化粧品の基材に対する化粧品層の支持構造を模式的に示す断面図。
【図3】本発明に係るシート状化粧品の概略的な製造手順を示す図。
【符号の説明】
【0030】
1 基材
2 化粧品層
3 枠体
4 カバーシート
5 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材上に、液体膨潤性の接着剤層を介して化粧品層を積層したことを特徴とするシート状化粧品。
【請求項2】
前記液体膨潤性の接着剤層は、アルコール膨潤性樹脂を主体とする接着剤である請求項1に記載のシート状化粧品。
【請求項3】
前記アルコール膨潤性樹脂は、アクリル樹脂系またはウレタン樹脂系のものである請求項2に記載のシート状化粧品。
【請求項4】
前記化粧品層は、粉体化粧料を固化したものであって、
前記粉体化粧料を低級アルコールからなる溶剤に分散させて前記接着剤層上に塗布した後、乾燥処理により前記溶剤を除去して前記接着剤層上に積層形成されるものである請求項1に記載のシート状化粧品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate