説明

シート防水改修方法およびシート防水改修構造

【課題】劣化した既設防水シートは残したままその上から新規防水シートを敷設する改修に用いられるシート防水改修方法であって、既設防水シートを確実に固定した上に新設防水シートを敷設し、強風等に煽られても剥がれや引裂き等の問題のないシート防水改修方法を提供する。
【解決手段】下地5に敷設した既設防水シート2を改修するシート防水改修方法であって、既設防水シート2を固定プレート3とアンカー部材4で固定し、その上から新設防水シート1と配置して接着剤で接着固定する。また、新設防水シート1には絶縁シートを積層したものを用いることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物の屋上や駐車場などの防水構造物において、既設防水シートの劣化にともなって新規な防水シートを敷設しようとする際に適用するシート防水改修方法であり、詳しくは既設防水層の改修作業を短い期間で容易に行うことができ、改修による廃棄物の発生を少ないものとすることができる改修方法及び改修構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の屋上や駐車場などにおいて、コンクリートの下地に防水を施す工法として、ゴムやポリウレタン、その他の樹脂などエラストマー材料からなる防水シートの全面を下地の表面に接着剤で貼り付けることによって防水性を確保する密着工法がある。
【0003】
このように下地に防水シートの全面を接着剤で貼り付けるようにした防水構造物にあって、防水シートとして耐候性などの物性に優れた材料で形成したものを用い、長期に亘って防水性能が維持されるようにしてあるが、長年風雨に曝されると共に太陽の紫外線などを浴びつづけることによって、防水シートが劣化していくことは避けることができず、最終的には改修することが必要になる。
【0004】
このような防水構造物を改修する場合には、下地に貼り付けられている既設の防水シートは自身が劣化しているのみならず、この既設の防水シートと下地との接着力も低下しているおそれもあるので、既設の防水シートの全面を下地から剥がし取り、下地の表面を清掃等して整備した後、下地の表面の全面に接着剤を塗布し、新規の防水シートを下地の全面に貼り直すという方法が一般的である。
【0005】
しかし、このように既設の防水シートを全面に亘って剥がす場合、防水面積が膨大に広いような構造物においては、防水シートを剥がす作業に多大の労力と時間を要し、改修工事が数日に亘ったりすることになる。このように改修工事に日数がかかると、その期間中に降雨がある可能性があり、下地に防水性がないと雨漏りが発生するおそれがあるという問題を生じるものであった。また剥がした既設の防水シートは産業廃棄物として処分しなければならないが、既設の防水シートを全面に亘って剥がすと廃棄処分量が多くなって、環境面からも問題を生じるものであった。
【0006】
既設防水シートの除去は行わないもしくは部分的に行って、既設防水シートの上から新規な防水シートを敷設することで既設防水シートの除去作業が省略されるとともに廃棄物の発生も低減することができる。例えば特許文献1には既設防水シートの除去を部分的に行ってからその上に新規防水シートを敷設することが開示されている。新規防水シートの固定は新たな固着具を用いて下地に固定している。
【0007】
また、特許文献2においては、下地に接着剤でシートを密着固定した防水構造物の改修方法として、既設防水シートを部分的に剥がし露出した下地と残った既設防水シートに接着剤を用いて密着固定する方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平10−61207号公報
【特許文献2】特開2002−364125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の方法では、確かに既設防水シートを除去する手間が軽減され廃棄物の量も少なくすることができ、既設防水シートからの影響も絶縁シートで遮断することができる。しかし、既設防水シートを部分的とはいえ除去するので手間が全くないということはできない。また、既設防水シートが下地に対して全面を接着剤で貼り付ける密着工法である場合には、既設防水シートの除去は困難である。
【0010】
また、特許文献2の方法では、密着工法にて敷設接着された防水シートの場合にも改修を行うことができるが、やばり、既設防水シートの除去作業に手数がかかるという問題がある。しかし、既設防水シートの強度は長期間使用する間に低下しており、困難であっても部分的に既設防水シートを剥して新設防水シートを直接下地に接着する部分を確保する必要がある。
【0011】
そこで本発明では既設防水シートは残したままその上から新規防水シートを敷設する改修に用いられる防水シートであって、密着工法で敷設接着された防水シートの場合であっても強度の低下を補強して行うことができるシート防水改修方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような課題を解決するために本発明の請求項1及び請求項5では、防水シートが下地に密着工法にて既設されている防水構造物におけるシート防水改修方法もしくはシート防水改修構造において、既設防水シート上から固定プレートを配置し、固定ディスクと既設防水シートを貫通してアンカー部材を下地に差し込んで複数箇所で固定し、その上から新設防水シートを敷設して既設防水シートに接着固定することを特徴とする。
【0013】
請求項2及び請求項6では、既設防水シートの固定プレートを配置する箇所に補強材を配置することによって既設防水シートを補強したシート防水改修方法もしくはシート防水改修構造としている。
【0014】
請求項3及び請求項7では、補強材が繊維補強材であるシート防水改修方法もしくはシート防水改修構造としている。
【0015】
請求項4及び請求項8では、補強材が繊維補強ゴムシートであるシート防水改修方法もしくはシート防水改修構造。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び請求項5では、既設防水シートの上から固定プレートを配置してアンカー部材を下地に差し込んで複数箇所で固定することによって既設防水シートの下地への接着力が低下している場合でも補強することができ、その上から新設の防水シートを敷設し接着固定することで、既設防水シートを剥がす作業をする必要もなく新設防水シートを強固に固定することができる。
【0017】
請求項2及び請求項6では、既設防水シートの固定プレートを配置する箇所に補強材を配置しており、防水シートに負圧がかかった場合に固定プレートで押さえつけた部分の境界で既設防水シートの引裂が起こるのを防止することができる。
【0018】
請求項3及び請求項7では、補強材として繊維補強材を用いており、既設防水シートの引裂きを防止するとともに伸びや変形を押えることができる。
請求項4及び請求項8によると、補強材として繊維補強ゴムシートを用いており、既設シートの引裂きや変形を防止することができるとともに、既設シートへの貼り付けも簡単に行うことができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明のシート防水改修方法を施工したところの要部側面図である。本発明で言う防水構造物の改修とは、ビルや駐車場などの建築物の下地にゴムや樹脂などのエラストマー材料からなる防水シートを敷設したところが、経年によって劣化したところに、新規の防水シートを敷設して防水工事をやり直すことを言う。また、本発明で対象とするシート防水構造は防水シートの全面が接着剤によって下地に接着固定された密着工法によるものである。
【0020】
既設防水シート2は長年にわたって使用されたものであることから、防水シート自身が劣化しているとともに、防水シートを下地に接着している接着剤も劣化して十分な接着力を発揮できていないという状況が考えられ、その上から新規防水シート1を敷設して接着しても、既設防水シート2とともに剥がれてしまうことになる。
【0021】
そこで本発明では、既設防水シート2をまず下地に確実に固定する。具体的には既設防水シート2の上に固定プレート3を配置して更にその上からアンカー部材4および既設防水シート2を貫通して下地5に差し込み機械的に固定してしまう。
【0022】
次いでその上から新設防水シート1を敷設し既設防水シート2に接着剤で全面接着して密着固定する。そうすることによって既設防水シート2の下地5への接着固定が劣化していたとしても改修するに当たって固定プレート3とアンカー部材4で改めて固定されており、新設防水シート1を強固に下地5に固定できることになる。
【0023】
また、通常強風で防水シートが煽られたような場合に固定プレート3で機械的に固定した既設防水シート2には、固定プレート3で押えられた部分と押えられていない部分の境界に大きな力がかかりやすく引裂きが発生しやすいという問題がある。
【0024】
本発明のような場合、既設防水シート2の下地5への接着は長期間の内に劣化していることが考えられ、接着力が全く失われている場合強風で煽られることによる負担は固定プレートで押えられている部分と押えられていない部分の境界にすべてかかってくることになり、その部分に引裂きが発生することも十分考えられる。そこで既設防水シート2の固定プレート3を配置する箇所に補強材6を配置している。そうすることによって既設防水シート2が補強され、引裂きの発生を防止することも有効である。
【0025】
本発明に用いることができる既設および新規防水シート2、1とは、通常シート防水用途に用いられる防水シートであれば何でもよく、特に材質を限定するものではないがエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、ブチルゴム、イソプレン・イソブチレン共重合体(IIR)等やそれらのブレンド物等のゴム、ポリウレタンやポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどからなるシートが挙げられ、それらの中では耐候性に優れるとともに良好なゴム弾性を有するEPDMが好ましい。また、その厚みは0.8〜2.5mmの範囲のものを用いることが好ましい。また、その幅は1〜2m程度のものが通常用いられる。厚みが0.8mm未満であると強度が不足して防水シートが容易に破断することがあり、2.5mmをこえると接合部において段差が大きくなってしまい外観を悪くすることにもなるので好ましくない。また、これらのゴムにガラス繊維やポリエステル繊維などからなる補強布を埋設して機械的強度や寸法安定性を改善したものを用いることもできる。
【0026】
本発明では既設防水シート2を剥がすことなくその上から新設防水シート1を敷設するが、このように既設防水シート2を除去することなく、その上から新規防水シート1を敷設する場合、既設防水シート2からの化学成分、例えばアスファルトシートであればタール分で塩化ビニルシートであれば可塑剤などの成分が新設防水シート1側へ移行して劣化させるという問題がある。
【0027】
そこで、図2に示すように新設防水シート1の下面(既設防水シートと接する側)に熱可塑性樹脂フィルム等からなる絶縁シート7を積層一体化したものを用いることができる。そうすることによって、既設防水シート2からの化学成分が新設防水シート1側へ移行するのを遮断することができ新設防水シート1を保護することができる。
【0028】
積層一体化する絶縁シート7は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアセテート、エチレンメチルアクリレート、エチレンメチルアクリレートなどやオレフィン樹脂やそれらを変成した塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、マレイン化エチレンビニルアセテートなどの変成オレフィン樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどを用いることができ、通常50〜500μm厚み、より好ましくは150〜250μmのシートを積層する。厚みが50μm未満であるとシート表面のパターンに絶縁シート7が沿わないなどの原因により熱融着による強度が低くなり、500μmを超えると防水シート2との熱収縮率の差により新設防水シート1におおきなソリが発生すること、また新設防水シート1のしなやかさが失われて下地に沿いにくくなったり施工性が悪くなったりすることから好ましくない。
【0029】
この新設防水シート1と絶縁シート7を積層一体化する方法としては、熱融着によるものや接着剤によるものが考えられるが、熱融着にて行うことによって強固に積層一体化することができる。具体的には新設防水シート1と絶縁シート7を重ね合わせてヒートロールなどにより加熱・加圧することによって熱融着で積層一体化することができる。また、新設防水シート1を加硫して間もない加熱された状態にて、絶縁シート7を積層して新設防水シート1を加硫するときの熱を利用して融着する方法である。
【0030】
具体的には、図4に示すような装置を用い、押出機(図示しない)から押出された未加硫ゴムシートをエンドレスベルト21に載せられて導入ロール22から所定温度(150〜200℃)に設定された加硫缶23内に送り込まれて加硫され、導出ロール24から加硫缶23外へ送り出されて複数個のガイドロールを経由して圧接ロール26で絶縁シート7が積層一体化され、テンションロール28を経て巻取りロール29に巻き取られる。
【0031】
このとき、加硫缶23から送り出されたばかりの加硫ゴム製の新設防水シート1は表面が130〜150℃になっており、熱可塑性シートを容易に融着することができる。
【0032】
既設防水シート2の下地への固定を確実にするために固定プレート3をアンカー部材4で打ち込むが、固定プレート3は所定間隔をもって配置する。配置する固定プレート2を数は、下地5の状態にもより、特に決まった数があるわけではないが、接着剤が完全に劣化して接着力を失っていた場合でも既設防水シート2が風などの影響で浮き上がったりしないように十分に下地5に固定される必要があり、通常1〜4個/m2程度の範囲で均等に配置する。
【0033】
また、本発明の固定プレート3はステンレス、亜鉛メッキ鋼板、ガルバニウム鋼板、溶融アルミニウムメッキ鋼板、冷間圧延ステンレス鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板などの金属やその他の無機素材、繊維強化樹脂などからなる径がφ60〜100mm程度の円形または正方形、矩形などの形状からなる。
【0034】
固定プレート3の厚みは使用する金属の種類によっても夫々異なるが、通常0.4〜2.0mm程度のものが用いられる。0.4mm未満であると剛性が低く、また2.0mmを超えると加工性が乏しくなる上に、重量が大きくなって好ましくない。特にステンレス鋼を用いる場合は0.5〜1.0mmの厚さがもっとも好ましい。ステンレス鋼であればこの範囲で剛性も十分に得られ、また、金切りはさみで簡単に切断加工することができ、施工時の加工も容易である。
【0035】
また、既設および新規防水シート2、1と下地5をまたは既設防水シート2と新規防水シート1を接着させるために用いる接着剤としては、クロロプレンゴムやブチルゴムやその他の添加剤を溶剤や水に溶かした接着剤を用いることができる。
【0036】
既設防水シート2の引裂きを防止するために配置する補強材6としては、繊維補強材や繊維補強ゴムシートを挙げることができ、固定プレート3を上に配置することができるように固定プレート3よりも少し広い面積を有し既設防水シート2に対しては前記の接着剤等を用いて接着して使用するものである。繊維補強材の素材としては、ポリエステル繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等の平織り、綾織、朱子織といった種々の繊維を用いることができ、繊維補強ゴムシートの場合であれば、素材としては新設防水シートと同様にエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、ブチルゴム、イソプレン・イソブチレン共重合体(IIR)等やそれらのブレンド物等のゴム、ポリウレタンやポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどからなるシートが挙げられ、その厚みは0.8〜2.5mm程度の範囲のものであり、ゴム中にガラス繊維やポリエステル繊維などからなる補強布を埋設して機械的強度を挙げたものを用いることができる。これらの補強材を既設防水シート2の固定プレート3を配置する箇所に、接着剤で積層接着したり、熱融着等の手段で融着配置したりする。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は建築物などにおいて屋上に施された防水層の劣化に伴い改修工事を行う場合に、既設の防水層を除去することなくそのまま上から敷設することができるシート防水工法又は構造として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の新設防水シートを敷設したところの断面図である。
【図2】熱可塑性樹脂フィルムを下面に積層した新設防水シートの断面図である。
【図3】防水シートの別の形態を示す断面図である。
【図4】防水シートの加硫工程において熱可塑性シートを圧着しているところの概要説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 新設防水シート
2 既設防水シート
3 固定プレート
4 アンカー部材
5 下地
6 補強材
7 絶縁シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水シートが下地に密着工法にて既設されている防水構造物におけるシート防水改修方法において、既設防水シート上から固定プレートを配置し、固定ディスクと既設防水シートを貫通してアンカー部材を下地に差し込んで複数箇所で固定し、その上から新設防水シートを敷設して既設防水シートに接着固定することを特徴とするシート防水改修方法。
【請求項2】
既設防水シートの固定プレートを配置する箇所に補強材を配置することによって既設防水シートを補強した請求項1記載のシート防水改修方法。
【請求項3】
補強材が繊維補強材である請求項2記載のシート防水改修方法。
【請求項4】
補強材が繊維補強ゴムシートである請求項2記載のシート防水改修方法。
【請求項5】
防水シートが下地に密着工法にて既設されている防水構造物におけるシート防水改修構造において、既設防水シート上から固定プレートを配置し、固定ディスクと既設防水シートを貫通してアンカー部材を下地に差し込んで複数箇所で固定し、その上から新設防水シートを敷設して既設防水シートに接着固定してなることを特徴とするシート防水改修構造。
【請求項6】
既設防水シートの固定プレートを配置する箇所に補強材を配置することによって既設防水シートを補強した請求項5記載のシート防水改修構造。
【請求項7】
補強材が繊維補強材である請求項2記載のシート防水改修構造。
【請求項8】
補強材が繊維補強ゴムシートである請求項2記載のシート防水改修構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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