説明

シームレス缶、印刷版、シームレス缶用曲面印刷機、シームレス缶への印刷方法、及びシームレス缶の製造方法

【課題】オーバーラップ部とオーバーラップ部に連なる部分のインキ層との間の段差を低減し、これにより、ネックイン加工によるシワの発生を抑えるとともに、オーバーラップ部の塗膜強度の低下を防ぐ。
【解決手段】曲面印刷によって缶胴上にインキ層を転写してなるシームレス缶であって、転写されたインキ層は、缶胴の周方向の先端部及び後端部におけるインキ層が互いにオーバーラップしてなるオーバーラップ部を有し、先端部及び後端部におけるインキ層の少なくとも一方は、インキ面積率が、オーバーラップ部以外であってオーバーラップ部に連なる部分のインキ層よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレス缶、シームレス缶の缶胴に曲面印刷するための印刷版、シームレス缶の缶胴に曲面印刷するための印刷機、シームレス缶への曲面印刷の方法、及び、シームレス缶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シームレス缶の製造工程においては、缶胴と底を一体成形した缶本体の成形後に、缶胴に対して印刷を行う。この印刷に用いる曲面印刷機においては、略円柱状のマンドレルに印刷対象となる缶本体を外嵌し、片持ち支持した状態で印刷を行う。缶胴への印刷は、凸版印刷、又は、水なし平版のオフセット印刷によって行う。
【0003】
例えばオフセット印刷によって缶胴へ曲面印刷する場合は、缶胴の外周面をブランケットの上面に押圧させつつ、ブランケットホイールをその中心軸の周りに回転させてブランケットを移動させることによって、ブランケット上に保持されたインキを缶胴上に転写する。したがって、インキは円筒状の缶胴の周方向に印刷される。
【0004】
缶胴上への印刷においては、図8に示すように、オーバーラップ部240が形成されるように缶胴260上にインキを転写する。ここで、図8は、従来の缶胴260上のオーバーラップ部240及びその周辺におけるインキ層の構成を示す、厚さ方向の断面図である。オーバーラップ部240は、缶胴260上に転写されたインキ層200のうち、印刷方向の周方向の先端部210及び周方向の後端部230、すなわち、印刷版の刷り始め部と刷り終わり部にそれぞれ対応するインキ層、が互いに重なるように缶胴260上にインキを転写することによって形成する。
【0005】
転写されたインキ層200上には、ワニスアプリケータによってワニス250が塗布され、その後オーブンにおいて加熱乾燥される。インキ層200のインキ及びワニス250を乾燥させた後には、缶本体にネックイン加工が施され、次いでフランジ加工が施されてシームレス缶となる。ネックイン加工方法としては一般に、ダイを用いたダイネック加工あるいはロールを用いたロールネック加工で成形される。ネック部の形状としては、1段又は複数段の形状や、なだらかなスムース形状に成形される。シームレス缶は内容物が充填されたのち、別途製造された蓋を二重巻締めされ、内容物によってはパストライザーやレトルト装置で高温の殺菌処理が施される。
【特許文献1】特願2002−103775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図8に示す従来のシームレス缶においては、インキ層200のうちオーバーラップ部240の層厚が、オーバーラップ部以外の部分におけるインキ層215、235の層厚の1.5倍〜2倍近くになっており、オーバーラップ部240との間に段差が生じていた。このような層構成のインキ層を備えた缶本体に対してネックイン加工を施すと、段差を起点としてシワが発生するため、シームレス缶の美観を低下させるおそれがあった。また、インキ層200は、オーバーラップ部240において厚くなっているため、色調が特に濃くなり外観上の美観を低下させるおそれがあった。
【0007】
また、インキ層200上にワニス250を塗布した後であっても、オーバーラップ部240のインキ層が厚くなると、塗膜強度が低下し、キズがつきやすくなっていた。
【0008】
そこで本発明は、オーバーラップ部とオーバーラップ部に連なる部分のインキ層との間の段差を低減し、これにより、ネックイン加工によるシワの発生を抑えるとともに、オーバーラップ部の塗膜強度の低下を防ぐこと、オーバーラップ部の美観を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のシームレス缶においては、曲面印刷によって缶胴上にインキ層を転写してなるシームレス缶であって、転写されたインキ層は、缶胴の周方向の先端部及び後端部におけるインキ層が互いにオーバーラップしてなるオーバーラップ部を有し、先端部及び後端部におけるインキ層の少なくとも一方は、インキ面積率が、オーバーラップ部以外であってオーバーラップ部に連なる部分のインキ層よりも小さいことを特徴としている。
【0010】
本発明のシームレス缶において、先端部及び後端部におけるインキ層は、先端部及び後端部ともに、インキ面積率が、少なくとも、オーバーラップ部以外であってオーバーラップ部に連なる部分のインキ層よりも小さいことが好ましい。
【0011】
本発明のシームレス缶において、先端部におけるインキ層のインキ面積率は、周方向の先端に向かうほど減少し、後端部におけるインキ層のインキ面積率は、周方向の後端から離れるほど増加することが好ましい。
【0012】
本発明のシームレス缶において、先端部におけるインキ層のインキ面積率は、後端部におけるインキ層のインキ面積率が周方向後端から離れるほど増加する増加勾配に対応するように、周方向先端に向かって減少することがさらに好ましい。
【0013】
本発明のシームレス缶において、オーバーラップ部の層厚の周方向における平均値は、少なくとも、オーバーラップ部分以外であってオーバーラップ部に連なる部分のインキ層の層厚と略同一であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明のシームレス缶において、先端部及び後端部におけるインキ層のインキ面積率は、網点のインキ面積率を変えることによって制御することが好ましい。
【0015】
本発明のシームレス缶において、網点のインキ面積率は、一定の規則にしたがって配置された複数の網点の面積を変えることによって制御するとさらに好ましい。
【0016】
本発明のシームレス缶において、先端部における複数の網点は、先端に向かうにしたがって面積が減少し、後端部における複数の網点は、後端に向かうにしたがって面積が減少するとさらによい。
【0017】
本発明のシームレス缶において、網点のインキ面積率は、不規則に配置された複数の網点の配置密度を変えることによって制御することが好ましい。
【0018】
本発明のシームレス缶において、先端部における複数の網点は、先端に向かうにしたがって配置密度が減少し、後端部における複数の網点は、後端に向かうにしたがって配置密度が減少することが好ましい。
【0019】
本発明のシームレス缶において、オーバーラップ部分は周方向の長さが0mmより大きく3mm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る印刷版は、上述のいずれかのシームレス缶の缶胴上にインキ層を転写するために用いることを特徴としている。
【0021】
本発明の印刷版は、凸版又は水なし平版であることが好ましい。
【0022】
本発明に係るシームレス缶用曲面印刷機は、上述の印刷版を備え、この印刷版を用いてシームレス缶の缶胴に曲面印刷を行うことを特徴としている。
【0023】
本発明に係るシームレス缶への印刷方法は、上述の印刷版を用いて、シームレス缶の缶胴上に曲面印刷を行うことを特徴としている。
【0024】
本発明に係るシームレス缶の製造方法は、シームレス缶を成形するステップと、上述の印刷版を用いてシームレス缶の缶胴上に曲面印刷を行う印刷ステップと、を備えることを特徴としている。
【0025】
本発明に係るシームレス缶への印刷方法は、缶胴の周方向の先端部及び後端部におけるインキ層が互いにオーバーラップしてオーバーラップ部を形成するように、曲面印刷によって、シームレス缶の缶胴上にインキを転写する、シームレス缶への印刷方法であって、曲面印刷に用いる印刷版において、先端部及び後端部に対応するインキ層の少なくとも一方は、単位面積当たりの体積が、オーバーラップ部以外であってオーバーラップ部に連なる部分に対応するインキ層よりも小さいことを特徴としている。
【0026】
本発明に係るシームレス缶への印刷方法において、先端部及び後端部におけるインキ層の単位面積当たりの体積は、網点のインキ面積率を変えることによって制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、オーバーラップ部のインキ層の層厚を低減して、オーバーラップ部に連なる部分のインキ層との間の段差を低減することができるため、ネックイン加工によるシワの発生や、オーバーラップ部の塗膜強度の低下、また、オーバーラップ部の外観上の美観低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係るシームレス缶について図面を参照しつつ詳しく説明する。
本実施形態に係るシームレス缶は、曲面印刷によって缶胴上にインキ層が転写される。この曲面印刷の印刷方向は中空円筒状の缶胴の周方向と略同一であって、転写されたインキ層は、缶胴の周方向において、先端部及び後端部におけるインキ層が互いに重なってなるオーバーラップ部を有する。先端部及び後端部におけるインキ層の少なくとも一方は、インキ面積率が、オーバーラップ部以外であってオーバーラップ部に連なる部分のインキ層よりも小さい。
【0029】
まず、シームレス缶の缶胴上に曲面印刷を行うための印刷機について、図1を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る印刷機10の概略構成を示す図である。なお、本発明の印刷機は、シームレス缶上に曲面印刷できれば、図1に示す印刷機に限定されない。
【0030】
印刷機10は、図1に示すように、基台11上に配置された、マンドレルホイール20、ブランケットホイール40、及び、インキングユニット60を備える。この印刷機10は、マンドレルホイール20に設けられたマンドレル21に片持ち支持された、有底略円筒状の、シームレス缶の缶本体30の缶胴の外周面に対して、ブランケットホイール40の外周面上に配置されたブランケット50上のインキを転写するオフセット印刷機である。尚、図1では省略されているが、一般にブランケット50は、ブランケットホイール40の外周面上に複数配設される。また、本実施形態では、シームレス缶の缶本体30を印刷の対象物品とするが、本発明は、有底の中空筒状であれば、缶以外の物品(例えば、樹脂製のボトル・チューブ・カップ類、金属製チューブなど)にも適用することができる。
以下に、各部材の詳細な構成について説明する。
【0031】
印刷機10は、基台11上に、缶本体30を搬送する機構として、図示しない成形機側Aから順に、搬送部12、マンドレルホイール20、ワニスアプリケータ14、及びトランスファーユニット16を備える。また、印刷機10は、搬送された缶本体30に対してインキを転写する機構として、ブランケット50を備えたブランケットホイール40、及びインキングユニット60を有する。
【0032】
缶本体30は、成形機において、例えば、絞り、打ち抜き、しごき、ストレッチドロー又は、衝撃押し出し工程を経て成形されたものであり、搬送部12を経て、マンドレルホイール20へ搬送供給される。マンドレルホイール20の外周には、略円柱状のマンドレル21が複数突出形成されており、搬送された複数の缶本体30は、マンドレル21の軸方向先端部に、底部の内面が当接するようにそれぞれ外嵌される。
【0033】
マンドレルホイール20とブランケットホイール40は同期して回転し、両者がもっとも接近するプリンティングゾーン13において、ブランケット50を缶本体30に対して押圧しつつ移動させることによって、ブランケット50の上面上のインキが缶本体30の外周面上に転写される。このとき、ブランケット50上のインキは、缶胴上に対して、周方向に順に転写される。
【0034】
印刷された缶本体30は、オーバーバーニッシュゾーン15において、ワニスアプリケータ14によってワニスを塗布された後に、トランスファーユニット16においてピンチェーン17に1本ずつ支持されて、図示しないオーブン側Bへ搬送される。ピンチェーン17に支持された缶本体30は、オーブン内において、加熱乾燥される。
【0035】
オーブン内でインキ及びワニスを加熱乾燥させた後に、不図示のネックイン加工部において、缶本体30にネックイン加工が施され、次いでフランジ加工が施される。以上の工程によりシームレス缶が完成する。このネックイン加工によって、缶本体30の高さ方向上部に1段又は複数段の形状や、なだらかなスムース形状のネック処理部が成形される。ネックイン加工方法としては一般に、ダイを用いたダイネック加工あるいはロールを用いたロールネック加工が採用される。シームレス缶は内容物が充填されたのち、別途製造された蓋を二重巻締めされ、内容物によってはパストライザーやレトルト装置で高温の殺菌処理が施される。ネックイン加工により中空円筒状の缶胴金属は周方向に圧縮されて缶胴径が縮小するように成形される。缶胴オーバーラップ部に大きなインキ段差があった場合、缶胴の縮径が均一にできず、縮径加工によるシワが発生し易い。
【0036】
また、ブランケットホイール40の外周の外側には、複数のインキングユニット60とプレートシリンダ(版胴)62を備え、それぞれのインキングユニット60には、異なる色のインキが収容され、インキの色に応じた印刷版が取り付けられている。印刷機10のプレートシリンダ62には、例えばシリコーン樹脂を用いた水なし平版が取り付けられている。水なし平版は、缶本体30に対して、高精細の画像を印刷できることから、近年需要が高まりつつある。ブランケットホイール40とインキングユニット60のプレートシリンダ62は同期して回転しており、インキ収容部61から水なし平版上に供給されたインキは、ブランケット50の表面印刷層上の所定位置に転写される。なお、インキングユニット60は、缶本体30への印刷内容に応じて、単数とすることもできる。また、プレートシリンダ62には、感光性樹脂凸版や金属凸版を取り付けることもできる。
【0037】
つづいて、プレートシリンダ62に取り付けられる印刷版について、図2を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る印刷版70の全体構成を示す平面図である。印刷版70は、印刷方向Pに延びる辺を長辺とする略長方形の平面形状を備える。上述のとおり、印刷版70としては、水なし平版、樹脂凸版、金属凸版を用いることができる。なお、印刷版70は、これら以外の版を用いることもでき、平面形状も長方形に限定されない。
【0038】
印刷版70は、その長手方向が回転方向に一致するようにプレートシリンダ62に取り付けられる。したがって、印刷版70の長手方向が印刷方向(版の移動方向)Pと同一となる。印刷版70は、印刷時に缶胴に最初にインキを転写する部分の先端から所定範囲を刷り始め部71、印刷方向Pの後端から所定範囲を刷り終わり部72とし、刷り始め部71及び刷り終わり部72にそれぞれ連なる中間部73を備える。
【0039】
この印刷版70では、缶本体30の缶胴上に印刷したときに、刷り始め部71によるインキ層上に刷り終わり部72によるインキ層が重なってオーバーラップ部を形成するように、全体形状、並びに、刷り始め部71及び刷り終わり部72の範囲が規定されている。ここで、缶本体30の缶胴上における、周方向の先端部から後端部までのインキ層は、印刷版70の刷り始め部71から刷り終わり部72までのインキにそれぞれ対応し、刷り始め部71に対応する先端部のインキ層と刷り終わり部72に対応する後端部のインキ層とが互いにオーバーラップしてオーバーラップ部を形成する。具体的には、刷り始め部71では、印刷版先端71aから刷り終わり部72側の境界線71bまでの範囲が、0mmより大きく3mm以下の範囲であることが好ましく、刷り終わり部72は、刷り始め部71の範囲と対応するように、印刷版後端72aから刷り始め部71側の境界線72bまでの長さが0mmより大きく3mm以下であることが好ましい。
【0040】
刷り始め部71及び刷り終わり部72をこのように構成することにより、刷り始め部71から缶胴上に転写されたインキ層のうちの先端(印刷版先端71aの転写部)に、刷り終わり部72から転写されたインキ層のうちの先端(境界線72bの転写部)が、刷り始め部71からのインキ層の後端(境界線71bの転写部)に、刷り終わり部72からのインキ層の後端(印刷版後端72aの転写部)がそれぞれ対応するように、インキが転写されてオーバーラップ部が形成される。なお、印刷版先端71aの転写部と境界線72bの転写部の対応、あるいは境界線71bの転写部と印刷版後端72aの転写部の対応は、僅かにずれていても支障はない。ブランケット寸法と印刷版寸法との僅かな違いや、個々の缶胴直径自体のわずかな違いにより、オーバーラップ部長さが缶毎では僅かに変動があるためである。
【0041】
刷り始め部71及び刷り終わり部72においては、印刷版先端71a及び印刷版後端72aに向かうにしたがってインキ面積率をそれぞれ変化させた複数の網点が設けられている。平均インキ面積率にインキ厚さを掛けたのが単位面積当たりの平均インキ体積であるから、刷り始め部71及び刷り終わり部72においては、網点のインキ面積率に応じて、印刷版先端71a及び印刷版後端72aに向かうにしたがって単位面積当たりのインキ体積がそれぞれ変化する。このような構成の印刷版70を用いて缶胴上にインキを転写すると、転写されたインキ層のインキ面積率は、先端部及び後端部において、網点のインキ面積率に対応して印刷方向の先端及び後端に向かうにつれて変化する。すなわち、缶本体30の缶胴上に転写されたインキ層のインキ面積率は、印刷版70の網点のインキ面積率を変えることによって制御することができる。また、印刷版70の網点は、以下に述べる一定の規則にしたがって配置されている。
【0042】
網点のインキ面積率の変化は、本実施形態に係る印刷版70では、複数の網点の面積を変えることによって行っている。網点の構成について、図3、図4を参照して説明する。図3は、印刷版70の刷り始め部71における網点80の構成を示す、図2のIII部分の拡大平面図であり、図4は、印刷版70の刷り終わり部72における網点90の構成を示す、図2のIV部分の拡大平面図である。なお、以下に述べる網点の構成は一例であって本発明はこれに限定されない。
【0043】
図3に示すように、刷り始め部71においては、境界線71b側(図3の左側)から印刷版先端71a側(図3の右側)へ向かって等間隔で順に配置された、網点群81、82、83、84、85、86、87、88を備える。これらの各網点群は、印刷方向に直交する方向において、等間隔で配置された同一形状の複数の網点をそれぞれ備える。したがって、刷り始め部71では、複数の網点が縦横に規則的に配置されている。なお、図3において縦横に延びる鎖線は、説明のために各網点の中心位置を示した補助線である。
【0044】
さらに、網点群81、82、83、84、85、86、87、88は、印刷版先端71aに向かうにしたがって、面積がそれぞれ減少している。よって、刷り始め部71におけるインキの単位面積当たりの体積も、印刷版先端71aに向かうにしたがって減少する。このような構成の刷り始め部71から缶胴上に転写されたインキ層は、網点群81、82、83、84、85、86、87、88の面積減少に対応して、先端に向かうにしたがって缶胴表面のインキ面積率が減少する。なお、シームレス缶のオフセット印刷においては、単位面積あたりのインキ体積は、単位面積当たりのインキ面積とみなすことができる。
【0045】
一方、刷り終わり部72においては、図4に示すように、境界線72b側(図4の右側)から印刷版後端72a側(図4の左側)へ向かって等間隔で順に配置された、網点群91、92、93、94、95、96、97、98を備える。これらの各網点群は、印刷方向に直交する方向において、等間隔で配置された同一形状の複数の網点をそれぞれ備える。したがって、刷り終わり部72では、刷り始め部71と同様に、複数の網点が縦横に規則的に配置されている。なお、図4においても、縦横に延びる鎖線は、説明のために各網点の中心位置を示した補助線である。
【0046】
さらに、網点群91、92、93、94、95、96、97、98は、印刷版後端72aに向かうにしたがって、面積がそれぞれ減少している。このため、刷り終わり部72におけるインキの単位面積当たりの体積も、印刷版後端72aに向かうにしたがって減少する。このような構成の刷り終わり部72から缶胴上に転写されたインキ層は、網点群91、92、93、94、95、96、97、98の面積減少に対応して、後端に向かうにしたがって缶胴表面のインキ面積率が減少する。
【0047】
さらに、網点群81、82、83、84、85、86、87、88における面積の減少率は、網点群91、92、93、94、95、96、97、98における面積の減少率に対応している。別言すれば、網点群81、82、83、84、85、86、87、88における面積の減少率の変化勾配は、刷り終わり部72の印刷版後端72a側の網点群98から境界線72b側の網点群91への面積の増加勾配に対応している
【0048】
ここで、図5を参照して、印刷版70から缶胴上に転写されたインキ層の構成について説明する。図5(a)は、印刷版70から転写されたインキ層のうちオーバーラップ部140及びオーバーラップ部140に連なる部分における構成の一例を示す平面図であり、(b)は、オーバーラップ部及びオーバーラップ部140に連なる部分におけるインキ層の断面構成を示す、(a)のVB−VB線における断面図である。図5においては、印刷方向である缶本体30の周方向は、左右方向である。なお、図5(a)においては、缶胴及びワニスの表示を省略している。また、図5においては、説明の便宜上、印刷版70の刷り始め部71及び刷り始め部71に連なる部分からそれぞれ転写されたインキ層と、刷り終わり部72及び刷り終わり部72に連なる部分から転写されたインキ層と、を異なる表示としている。
【0049】
図5において、印刷版70から転写されたインキ層100のうち、刷り始め部71から転写されたインキ層は先端部におけるインキ層群110に対応し、刷り終わり部72から転写されたインキ層は後端部におけるインキ層群130に対応する。また、印刷版70の中間部73のうち、刷り始め部71に連なる部分から転写されたインキは、インキ層群110に連なるインキ層115を形成し、刷り終わり部72に連なる部分から転写されたインキは、インキ層群130に連なるインキ層135を形成する。ここで、図3〜4に示す網点の配置及び面積、並びに、図5に示すオーバーラップ部におけるインキ層の配置及び面積はいずれも例示であって、図3〜4に示す網点と図5に示すインキ層は同一ではない。
【0050】
インキ層100の先端部におけるインキ層群110は、缶胴160上のオーバーラップ部140に対して、印刷版70による印刷の刷り始めに転写され、インキ層100の後端部におけるインキ層群130は、印刷版70による刷り終わりに缶胴160上のオーバーラップ部140に対して転写される。インキ層群110は、インキ層群101、102、103、104、105、106、107から構成され、この順序で、缶胴160上におけるインキ面積率で小さい方から大きい方へ、刷り始め位置から順に配置される。インキ層群130は、インキ層群121、122、123、124、125、126から構成され、この順序で、缶胴160上におけるインキ面積率で小さい方から大きい方へ、刷り終わり位置から順に配置される。
【0051】
インキ層群101、102、103、104、105、106、107及びインキ層群121、122、123、124、125、126の中心位置は、重なる場所もあり、重ならない場所もあるという状態で分布する。また、インキ層群110のうちで体積の小さなインキ層群101側に、インキ層群130のうちで体積の大きなインキ層群126側が配置され、インキ層群110のうちで体積の大きなインキ層群107側に、インキ層群130のうちで体積の小さなインキ層群121側が配置される。このように配置することによって、インキ層115やインキ層135のインキ層厚とオーバーラップ部140のインキ層厚との間の段差をなだらかな形状でかつ小さくでき、ネックイン加工によるシワの発生やオーバーラップ部の塗膜強度の低下を有効に抑えることができる。
【0052】
したがって、オーバーラップ部140では、周方向(図5の左右方向)において、インキの体積が略同一となる結果、インキ層厚の平均値を全範囲に渡って略同一とすることができる。さらに、オーバーラップ部140の周方向におけるインキ層厚の平均値を、少なくとも、オーバーラップ部140に連なる部分115、135のインキ層厚と略同一にすることができる。すなわち、オーバーラップ部140の周方向におけるインキ層厚の平均値は、少なくとも、オーバーラップ部140に連なる部分115、135のインキ層厚の平均値の0.8〜1.4倍の範囲内にすることができる。
【0053】
以上の説明では、オーバーラップ部140に連なる部分115、135のインキ層をベタ印刷で形成したとして説明したが、この部分を網点印刷で形成することもできる。具体的には、先端部あるいは後端部の網点のインキ面積率をオーバーラップ部140に連なる部分115、135の網点のインキ面積率よりも小さくする。これにより、オーバーラップ部140に連なる部分115、135をベタ印刷で形成した場合と同様の効果を得ることができる。また、網点を多色(多印刷版)で構成する場合には、少なくとも1色以上の網点のインキ面積率を小さくすることにより、効果を得ることができる。
【0054】
また、ベタで印刷した、オーバーラップ部に連なる部分115、135と比べて、網点を用いて印刷したインキ層群110におけるインキ層は、インキ面積率が小さい。これは、インキ層群130におけるインキ層についても同様である。尚、図3、図4においては、刷り始め部71と刷り終わり部72の各網点群は、印刷方向に直交する方向において、等間隔で配置された同一形状の複数の網点が縦横に規則的に配置されている形態で説明したが、印刷方向に対して一定の角度をもって分布してあってもよい。
【0055】
つづいて、変形例について説明する。
上述の実施形態に係る印刷版70では、一定間隔で配置された各網点の面積を印刷版先端71a又は印刷版後端72aに向かうほど小さくすることによって、刷り始め部71及び刷り終わり部72における網点のインキ面積率を変化させていたが、これ以外の手法によってインキ面積率を変えることもできる。例えば、図6に示すように、同一面積の網点の配置密度を変えることによってインキ面積率を変化させることもできる。図6は、変形例に係る印刷版の刷り始め部171における網点180の構成を示す、図3に対応する平面図である。なお、変形例に係る印刷版の刷り終わり部における網点の構成は、図3と図4との関係と同様に、図6に示す刷り始め部171における網点の構成を左右反転させたものに対応するため、その図示及び詳細な説明は省略する。
【0056】
図6に示すように、刷り始め部171においては、後端171b側(図6の左側)から先端171a側(図6の右側)へ向かって等間隔で順に配置された、エリア181、182、183、184、185、186、187を備える。これらの各エリアには、同一形状の複数の網点が配置されている。エリア181、182、183、184、185、186、187に配置される網点は、先端171aに向かうにしたがって数が減少するように配置される。すなわち、先端171aに向かうにつれて網点の配置密度が減少している。このような構成の印刷版を用いて缶胴上に転写されたインキ層は、エリア181、182、183、184、185、186、187における網点数の減少に対応して、刷り始め部171に対応する先端部において、先端に向かうにしたがって缶胴表面のインキ面積率が減少する。
【0057】
また、上述の実施形態に係る印刷版70では、刷り始め部71及び刷り終わり部72の両方において網点のインキ面積率を変化させていたが、刷り始め部71及び刷り終わり部72の一方については、網点のインキ面積率を印刷方向において一定としてもよく、例えばベタ印刷であってもよい。なお、ベタ印刷では、インキ面積率は100%である。
【0058】
オーバーラップ部140のインキ面積率、又は、印刷版70の刷り始め部71及び刷り終わり部72における単位面積当たりのインキ体積を変化させる手段、すなわち、インキ面積率又は単位面積当たりのインキ体積の制御手段としては、上述のような網点の面積の変化に限定されない。凸版インキ付着部の点状化(網点化)、筋状化、デザインの1部としてオーバーラップ部の面積を低減させる、などでインキ部の空隙を作る手段のいずれを用いてもよいが、画面再現性及び美観上の理由から網点を用いることが好ましい。また、網点としては、円形状、多角形形状、楕円形状、矩形状、非対称形状、図形形状など種々な形状をとることができ、大小形状を混在させてもよい。筋状としては、細線状、格子状、曲線状、太線と細線の混合などの形態をとることができる。
【実施例】
【0059】
次に、図7を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。図7は、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、及び比較例2の印刷条件及び評価結果を示す表である。
【0060】
(シームレス缶の作製)
リン酸クロム系表面処理をした素板厚0.28mmのアルミニウム合金板(JIS3004合金)の缶内面になる側に厚さ16μmの無延伸ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体フィルム、缶外面になる側に厚さ16μmの無延伸ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体フィルムを熱ラミネートした樹脂被覆金属板にグラマーワックスを均一に塗布した後、直径142mmの円板に打ち抜き、絞りしごき加工し開口端をトリミングし、215°C1分間のフィルムの歪みとり熱処理をすることにより直径66mmで高さ124mmの絞りしごきカップを得た。得られた絞りしごきカップを、図1に示すオフセット印刷機を使用して、樹脂凸版あるいは水無し平版を用いて、曲面印刷を行った。
【0061】
曲面印刷をした絞りしごきカップに仕上げニスを3μmの厚さに塗布し、オーブンで200°C1分の焼付けを行ったのち、7工程のダイネック加工を実施し、絞りしごきカップの開口部を直径66mmから直径57mmまでスムース形状に縮径した。その後、常法にてフランジ加工を行い、350ml用のシームレス缶を作製した。ダイネック加工は、毎分1500缶の速度で実施した。
【0062】
(印刷条件)
印刷条件は図7の「印刷板」の欄に示すとおりである。印刷版は、樹脂凸版あるいは水無し平版として、オーバーラップ部近傍はベタ印刷、オーバーラップ部は図7に示したように網点印刷あるいはベタ印刷とした。オーバーラップ部は幅を1.5mmとした。これらの条件のうち、「網点グラデーション」とは、図3又は図4に示すように、複数の網点の中心位置を一定の規則にしたがって配置するとともに、先端又は後端に向かうほど網点の面積が小さくなるようした状態を意味する。これに対して「ベタ」とは、網点を設けることなく全体にインキを載せて印刷する場合である。
【0063】
樹脂凸版の場合のインキ仕様は次のとおりである。
(i)粘度:25Pa・s
(ii)フロー値:37.0mm
(iii)タック値:8.5
(iv)色:藍
【0064】
一方、水なし平版の場合のインキ仕様は次のとおりである。
(i)粘度:50Pa・s
(ii)フロー値:30.0mm
(iii)タック値:8.5
(iv)色:藍
【0065】
オーバーラップ部の網点に関しては、樹脂凸版の場合はスクリーン線数120線/インチ、ラウンドドット、スクリーン角度45度、ベタ印刷側インキ面積率100%〜先端側インキ面積率0%のグラデーション印刷で実施した。水なし平版の場合は、スクリーン線数250線/インチ、ラウンドドット、スクリーン角度45度、ベタ印刷側インキ面積率100%〜先端側インキ面積率0%のグラデーション印刷で実施した。オーバーラップ部幅は1.5mmに設定した。実施例、比較例にあたっては、図7に示すように印刷版を作製した。上記のようにして作製した印刷版のオーバーラップ部は、刷り始め部、刷り終わり部いずれも、オーバーラップ部全体におけるインキ部の平均インキ面積率は50%であった。一方、オーバーラップ部以外であってオーバーラップ部に連なる部分はベタ印刷であり、インキ部の平均インキ面積率は100%であった。
【0066】
つづいて測定方法について順に説明する。
(インキ段差)
作製したシームレス缶3缶について、缶高さ中央のオーバーラップ部を切り出し、エポキシ樹脂で包埋し、缶胴周方向断面を観察できるように研磨した。得られたオーバーラップ部断面を、光学顕微鏡で観察し、インキ層の厚さを測定した。オーバーラップ部近傍のインキ厚み平均値と、オーバーラップ部インキ厚み平均値を求め、その差をオーバーラップ部のインキ段差とした。オーバーラップ部のインキ厚みは凹凸が大きいが、オーバーラップ幅全体のインキ厚み平均値を測定値とし、3缶の平均値を各実施例・比較例のインキ段差値とし、図7中に示した。実施例1〜5、比較例1、比較例2のいずれの場合においても、オーバーラップ部に連なる部分のベタ印刷部のインキ層膜厚は、平均値で4.0μmであった。
【0067】
(インキの粘度)
実施例及び比較例で用いたインキの粘度は、コーンプレート型粘時計(TAインスツルメント社製、Carri−Med Rheometer CSL2 500)で測定した。この測定で使用したコーンは直径1cm、円錐面の角度が1度のスチールコーンであり、測定条件は次のとおりである。
(1)測定温度:30°C
(2)剪断速度:樹脂凸版用インキ 0→100s−1 1分間
水なし平版用インキ 0→100s−1 2分間
【0068】
(インキのフロー値)
インキのフロー値であるSD(60)値は、JIS K 5701−1にしたがって、室温25°Cにおいてスプレッドメーターで測定した、60秒後の値である。
【0069】
(インキのタック値)
インキのタック値であるTV(400)値は、JIS K 5701−1にしたがって、インコメーターで測定した。この測定では、金属ローラー回転数は400rpm(revolutions per minute)、温度は30°Cの条件で行った。
【0070】
次に、評価方法について順に説明する。
(塗膜強度評価)
作製したシームレス缶のオーバーラップ部の塗膜強度を、鉛筆硬度で評価した。
作製したシームレス缶2缶について、130°C・30分の静置レトルト処理を行った後、缶高さ中央の外面オーバーラップ部について鉛筆硬度測定を行い、2缶のうちで最も強度の低い値を測定値とした。鉛筆硬度測定は、JIS K 5400の鉛筆引っ掻き試験方法に準じて、2B、B、HB、F、H、2H、3Hの鉛筆を用い、45度の角度で1回擦り、樹脂が削れない最も硬い鉛筆硬度をその缶の測定値とした。評価は次の基準で行い、○と△を許容範囲とした。
○:H、2H
△:F
×:HB、B、2B
【0071】
(ネックシワ発生率評価)
作製したシームレス缶7000缶について、オーバーラップ部のネックシワ有無を視覚にて調査し、発生率を計算した。次の基準で評価を行った。○と△を許容範囲内とした。
○:5%未満
△:5%以上〜30%未満
×:30%以上
【0072】
(総合評価)
塗膜強度評価、ネックシワ発生率評価のうち最も悪い評価を、各実施例と比較例における総合評価とした。○と△を許容範囲内とした。
【0073】
(実施例1)
印刷版として樹脂凸版を用い、上記の樹脂凸版用インキを使用し、刷り始め部を網点グラデーションにし、刷り終わり部を網点グラデーションにして、シームレス缶を作製した。評価の結果、塗膜強度評価は○(H)、ネックシワ評価は○(発生率0%)、総合評価は○であった。
【0074】
(実施例2)
印刷版の刷り始め部をベタ印刷にした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製した。評価の結果、塗膜強度評価は△(F)、ネックシワ評価は△(発生率10%)、総合評価は△であった。
(実施例3)
印刷版の刷り終わり部をベタ印刷にした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製した。評価の結果、塗膜強度評価は△(F)、ネックシワ評価は△(発生率14%)、総合評価は△であった。
【0075】
(実施例4)
印刷版を水なし平版にし、水なし平版用インキを使用した以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製した。評価の結果、塗膜強度評価は○(H)、ネックシワ評価は○(発生率4%)、総合評価は○であった。
【0076】
(実施例5)
印刷版の刷り始め部をベタ印刷にした以外は実施例4と同様にしてシームレス缶を作製した。評価の結果、塗膜強度評価は△(F)、ネックシワ評価は△(発生率28%)、総合評価は△であった。
【0077】
(比較例1)
印刷版の刷り始め部と刷り終わり部をいずれもベタ印刷にした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製した。評価の結果、塗膜強度評価は×(B)、ネックシワ評価は×(発生率90%)、総合評価は×であった。
【0078】
(比較例2)
印刷版の刷り始め部と刷り終わり部をいずれもベタ印刷にした以外は実施例4と同様にしてシームレス缶を作製した。評価の結果、塗膜強度評価は×(B)、ネックシワ評価は×(発生率100%)、総合評価は×であった。
【0079】
図7から以下のことが分かる。
(1)比較例1〜2に比べて、実施例1〜5では、ネック部のシワの原因となる、段差を小さく抑えることができた。これにより、実施例1〜5は、良好な塗膜強度を実現することができ、ネックシワの発生を抑えることができた。
【0080】
(2)実施例2と実施例3のネックシワ発生率を比較して分かるように、刷り始め部71及び刷り終わり部72の一方のインキ面積率(印刷版70における単位面積当たりのインキ体積)を小さくして、他方をベタ印刷とする場合には、刷り終わり部72の方のインキ面積率及び単位面積当たりのインキ体積を小さくして、缶胴の周方向の後端部におけるインキ面積率を小さくしたほうが、刷り始め部71のインキ面積率及び単位面積当たりのインキ体積を小さくして、缶胴の周方向の先端部のインキ面積率を小さくするよりも効果的である。
【0081】
以上のように構成されたことから、上記実施形態によれば、次の効果を奏する。
(1)缶胴上のインキ層のうち、先端部及び後端部におけるインキ層の少なくとも一方は、インキ面積率が、少なくとも、オーバーラップ部に連なる部分のインキ層よりも小さいため、オーバーラップ部のインキ層厚を抑えることができるとともに、オーバーラップ部に連なる部分との段差を小さくすることができる。これにより、ネックイン加工時のシワの発生を抑制することが可能となって、装飾性の高いシームレス缶を提供することができる。
【0082】
(2)印刷版の刷り始め部及び刷り終わり部の少なくとも一方において、印刷方向においてインキ面積率を変えた網点を設けたことにより、ベタとしていた従来の印刷版に比べて使用するインキの量を削減することができる。
【0083】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明に係るシームレス缶は、製造過程でネックシワ発生による装飾性を損なうことがないとともに、オーバーラップ部の美観が向上し、保管・流通過程で傷がつきにくく、さらに、インキ使用量を削減して低コストが実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施形態に係る印刷機の概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る印刷版の全体構成を示す平面図である。
【図3】本実施形態に係る印刷版の刷り始め部における網点の構成を示す、図2のIII部分の拡大平面図である。
【図4】本実施形態に係る印刷版の刷り終わり部における網点の構成を示す、図2のIV部分の拡大平面図である。
【図5】(a)は、印刷版から転写されたインキ層のうちオーバーラップ部及びオーバーラップ部に連なる部分における構成の一例を示す平面図であり、(b)は、オーバーラップ部及びオーバーラップ部に連なる部分におけるインキ層の断面構成を示す、(a)のVB−VB線における断面図である。
【図6】変形例に係る印刷版の刷り始め部における網点の構成を示す平面図である。
【図7】実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、及び比較例2の印刷条件及び評価結果を示す表である。
【図8】従来の缶胴上のオーバーラップ部及びその周辺におけるインキ層の構成を示す、厚さ方向の断面図である。
【符号の説明】
【0086】
10 印刷機
13 プリンティングゾーン
14 ワニスアプリケータ
15 オーバーバーニッシュゾーン
20 マンドレルホイール
21 マンドレル
30 缶本体
60 インキングユニット
62 プレートシリンダ(版胴)
70 印刷版
71 刷り始め部
71a 印刷版先端
71b 境界線
72 刷り終わり部
72a 印刷版後端
72b 境界線
80 網点
81、82、83、84、85、86、87、88 網点群
90 網点
91、92、93、94、95、96、97、98 網点群
100 インキ層
101、102、103、104、105、106、107 インキ層群
110 インキ層群
115 オーバーラップ部に連なるインキ層
121、122、123、124、125、126 インキ層群
130 インキ層群
135 オーバーラップ部に連なるインキ層
140 オーバーラップ部
160 缶胴
171 刷り始め部
171a 先端
180 網点
181、182、183、184、185、186、187 エリア
A 成型機側
B オーブン側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面印刷によって缶胴上にインキ層を転写してなるシームレス缶であって、
転写されたインキ層は、前記缶胴の周方向の先端部及び後端部におけるインキ層が互いにオーバーラップしてなるオーバーラップ部を有し、
前記先端部及び前記後端部におけるインキ層の少なくとも一方は、インキ面積率が、前記オーバーラップ部以外であって前記オーバーラップ部に連なる部分のインキ層よりも小さいことを特徴とするシームレス缶。
【請求項2】
前記先端部及び前記後端部におけるインキ層は、前記先端部及び前記後端部ともに、前記インキ面積率が、少なくとも、前記オーバーラップ部以外であって前記オーバーラップ部に連なる部分のインキ層よりも小さい請求項1に記載のシームレス缶。
【請求項3】
前記先端部におけるインキ層のインキ面積率は、前記周方向の先端に向かうほど減少し、前記後端部におけるインキ層のインキ面積率は、前記周方向の後端から離れるほど増加する請求項2に記載のシームレス缶。
【請求項4】
前記先端部におけるインキ層のインキ面積率は、前記後端部におけるインキ層のインキ面積率が前記周方向後端から離れるほど増加する増加勾配に対応するように、前記周方向先端に向かって減少する請求項3に記載のシームレス缶。
【請求項5】
前記オーバーラップ部の層厚の前記周方向における平均値は、少なくとも、前記オーバーラップ部分以外であって前記オーバーラップ部に連なる部分のインキ層の層厚と略同一である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシームレス缶。
【請求項6】
前記先端部及び前記後端部におけるインキ層の前記インキ面積率は、網点のインキ面積率を変えることによって制御する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシームレス缶。
【請求項7】
前記網点のインキ面積率は、一定の規則にしたがって配置された複数の網点の面積を変えることによって制御する請求項6に記載のシームレス缶。
【請求項8】
前記先端部における前記複数の網点は、前記先端に向かうにしたがって面積が減少し、前記後端部における前記複数の網点は、前記後端に向かうにしたがって面積が減少する請求項7に記載のシームレス缶。
【請求項9】
前記網点のインキ面積率は、不規則に配置された複数の網点の配置密度を変えることによって制御する請求項6に記載のシームレス缶。
【請求項10】
前記先端部における前記複数の網点は、前記先端に向かうにしたがって配置密度が減少し、前記後端部における前記複数の網点は、前記後端に向かうにしたがって配置密度が減少する請求項9に記載のシームレス缶。
【請求項11】
前記オーバーラップ部分は前記周方向の長さが0mmより大きく3mm以下である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のシームレス缶。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のシームレス缶の前記缶胴上に前記インキ層を転写するために用いる印刷版。
【請求項13】
前記印刷版は凸版又は水なし平版である請求項12に記載の印刷版。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載の印刷版を備え、前記印刷版を用いて前記シームレス缶の缶胴に曲面印刷を行うことを特徴とするシームレス缶用曲面印刷機。
【請求項15】
請求項12又は請求項13に記載の印刷版を用いて、前記シームレス缶の缶胴上に曲面印刷を行うことを特徴とするシームレス缶への印刷方法。
【請求項16】
シームレス缶を成形するステップと、
請求項12又は請求項13に記載の印刷版を用いて前記シームレス缶の缶胴上に曲面印刷を行う印刷ステップと、
を備えるシームレス缶の製造方法。
【請求項17】
缶胴の周方向の先端部及び後端部におけるインキ層が互いにオーバーラップしてオーバーラップ部を形成するように、曲面印刷によって、シームレス缶の缶胴上にインキを転写する、シームレス缶への印刷方法であって、
前記曲面印刷に用いる印刷版において、前記先端部及び前記後端部に対応するインキ層の少なくとも一方は、単位面積当たりの体積が、前記オーバーラップ部以外であって前記オーバーラップ部に連なる部分に対応するインキ層よりも小さいことを特徴とするシームレス缶への印刷方法。
【請求項18】
前記先端部及び前記後端部におけるインキ層の前記単位面積当たりの体積は、網点のインキ面積率を変えることによって制御する請求項17に記載のシームレス缶への印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−58399(P2010−58399A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227241(P2008−227241)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】