説明

シーム溶接による電磁シールドを構築する工法

【課題】室内に金属板を接合するときに、施工速度が良く、煙の出ないシーム溶接を片面から実施し、高性能の電磁シールドを構築する工法の提供。
【解決手段】建屋内を厚さ0.5〜1.5mmのステンレス板1で内貼りし、その目地部分2を覆うように内貼りステンレス板より薄い厚さ0.1〜0.2mmのステンレス目板3を当てる。単一または二つのローラ電極6を、内貼りステンレス板の上に重ねたステンレス目板の上を転がす時に断続的に電流を流し、約1.0mm径、ピッチ1.0〜2.0mmの片側1列または2例の断続シーム溶接を行う。これにより有害な煙の立たない方法で、短時間に、様々な躯体形状に対応する高性能の電磁シールドが実現できると共に、シーム溶接に必要なシールド材料の厚みは通常の溶接で必要な鋼材の厚みと比べ半分以下ですむ為、運送費も含め資源の節約になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建屋内に遮蔽空間を形成するための電磁シールドを構築する工法に関し、詳しくは建屋内の内貼りステンレス板の目地部分を覆うように薄い板厚のステンレス目板を重合させ、このステンレス目板上をローラ電極を転がす時に断続的に電流を流して断続シーム溶接を行う電磁シールドを構築する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、デジタル技術を応用した機器の使用が増大しており、このことに伴い電波傍受による機密漏洩、電磁波攻撃への対応が重要視されている。
前記のような機器に対して電磁シールドするために設置する電磁シールドルームとしては電磁シールド性能を持つ金属製のシールドパネルまたは電磁シールド性を持つ表面処理を施した金属板でシールドパネルを形成し、シールドルームの壁部および天井部となる各部分に複数のシールドパネルを配設して相互に連結することにより、シールドルームの壁部および天井部を構成したものが一般的に使用されている。
高性能の電磁シールドルームにおいては、鋼板を溶接して接合するか、引用文献1に開示されているように鋼板の重ね合わせ部にシールドガスケットを配し、細かいピッチのボルトで強く締め込み接合することにより、性能を満足させていた。
シールド性能確保の為の施工管理において、溶接構法は大規模工事では多数の溶接工の確保や溶接不良箇所を探すことが難しい。一方ボルトの締め込み構法ではボルト本数が膨大になるとともに締めたボルトの周囲のボルトが緩むため追い締めをしなければならず、管理が煩雑であった。
電磁シールド性能が実現できる溶接方法として、目地材をシールド材の接合端縁部に跨って重合し、目地材の半田メッキ面をシールド材に溶着(特許文献2)、金属壁板の端部相互を接続するはぜ巻部分を両側から所定間隔で加圧溶着(特許文献3)などの技術が提案されている。
一方、屋根の防水工法としてステンレスのシーム工法が知られているが、これは立てハゼ加工し重ね合わせた2枚のステンレス板の裏表から電流を流し連続溶接(抵抗溶接)をするものである。
これらの工法では目地材に特殊加工を施たり、あるいは鋼板の周囲を立ち上げ加工しなければならず、また、その交差部の加工が複雑となり、柱型、梁型など複雑な室内内面を構築するのには適さない。
抵抗シーム溶接は、一般的に広く知られており、ローラ電極を用いたシーム溶接も特許文献4〜6に提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平3−199546
【特許文献2】特開平4−178261
【特許文献3】実開昭56−37616
【特許文献4】特開平9−182970
【特許文献5】特開平10−286678
【特許文献6】特開平11−129090
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は室内に金属板を接合するときに、施工速度が良く、煙の出ないシーム溶接を片面から実施し、高性能の電磁シールドを構築する工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明は建屋内を厚さ0.5〜1.5mmのステンレス板で内貼りし、その目地部分を覆うように内貼りステンレス板より薄い厚さ0.1〜0.2mmのステンレス目板を当て、該目板と両側の内貼りステンレス板をシーム溶接することにより電磁シールドを構築する工法であって、
前記内貼りステンレス板にアースを取り、ローラ電極を、内貼りステンレス板の上に重ねたステンレス目板の上を転がす時に断続的に電流を流し、約1.0mm径、ピッチ1.0〜2.0mmの断続溶接することを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1において、目板幅より小さい間隔で設置した2つのローラ電極を隣り合う内貼りステンレス板を跨いで配置し、両内貼りステンレス板の目地部分を覆ってステンレス目板を重ね、前記ローラ電極をステンレス目板に当接し、該ローラ電極を転がして前記内貼りステンレス板にステンレス目板をシーム溶接することを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または2において、内貼りステンレス板とステンレス目板とを所定間隔の片側2列で断続シーム溶接することを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかにおいて、内貼りステンレス板に代えて、めっき鋼板を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有害な煙の立たない方法で、短時間に、様々な躯体形状に対応する高性能の電磁シールドが実現できる。あわせて、シーム溶接に必要なシールド材料の厚みは、通常の溶接で必要な鋼材の厚みと比べ半分以下ですむ為、運送費も含め資源の節約になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る電磁シールドを構築する工法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は電磁シールドを構築する工法の説明図、図2はシーム溶接の構成図である。
建屋内を厚さ0.5〜1.5mmのステンレス板1で内貼りし、この内貼りステンレス板1の目地部分2を内貼りステンレス板より薄い厚さ0.1〜0.2mmのステンレス目板3を当て、覆う。ステンレス目板3と隣り合う(両側)の内貼りステンレス板1の重ね合わせ部分は断続シーム溶接4を実施する。
【0012】
断続溶接装置10は三相200Vを電源とし、通電時間、通電間隔、電流値が制御された交流電流を出力する。整流器11は断続溶接装置10の交流電流の出力波形を整流し、ローラ電極5を介して通電する。ローラ電極6が内貼りステンレス13の上に重ねたステンレス目板3の上を転がす時に断続的に電流を流すことにより、内貼りステンレス板1とステンレス目板3の接する位置にジュール熱を発生させ、図示の約1.0mm径、ピッチ1.0〜2.0mmの断続シーム溶接4を実施する。
【0013】
断続シーム溶接4は内貼りステンレス板1とステンレス目板3の片側を図1に示すように1列で実施するか、あるいは図2に示すように2列で実施するかを適宜選択可能である。片側2列の断続シーム溶接4ではシールド性能に応じたスポット溶接の間隔に合わせてステンレス目板の板幅内で列間隔を任意に設定することができる。片側2列の断続シーム溶接によれば、片側1列の場合に比べて広い間隔、例えば2.0mmにしても高いシールド性能が得られる。
【0014】
シーム溶接の実施の形態を具体的に説明する。
図3は単一のローラ電極による断続シーム溶接の状況を示す図である。整流器11の―方の端子は内貼りステンレス板1に対して電気的に接続し、内貼りステンレス板1にアース5を取る(図2参照)。他方の端子にはローラ電極6を接続する。ローラ電極6を一方の内貼りステンレス板1に重ねたステンレス目板3に当接し、このローラ電極6を転がすと共に、断続的に電流を流し、一列の断続シーム溶接を実施する。続いて、他方の内貼りステンレス板1とステンレス目板3を同様に断続シーム溶接を実施する。
【0015】
図4は二つのローラ電極による断続シーム溶接の状況を示す図である。ステンレス目板3の板幅Wより小さい間隔wで設置した2つのローラ電極6−1、6−2を隣り合う内貼りステンレス板1の目地部分2を跨いで配置し、両ステンレス板1の目地部分2をステンレス目板3で覆って重ねる。続いて、ローラ電極6−1、6−2をステンレス目板3に当接し、このローラ電極6−1、6−2を転がすと共に、断続的に電流を流し、同時に2列の断続シーム溶接を実施する。
【0016】
二つのローラ電極を用いた片側2列の断続シーム溶接(図1A参照)の場合は一回目に続いてローラ電極を列間隔に合わせてずらし、二回目を実施する。
【0017】
シールド性能実現のためには、シーム溶接のひとつずつのスポット溶接部分が確実につながり、そのピッチが一定以下であることが重要である。そのためには、溶接熱による目板の変形で溶接部のしわや焼け穴が起こらないことが重要である。従って、シールド材と目板の厚み、シーム溶接の電流値、通電時間、断続通電の間隔、列数、電極の移動の速さの調整を行う。
【0018】
上記の実施形態の実験結果を表1および表2に示す。本実験では板厚1.0mmの内貼りステンレス板、板厚0.15mmのステンレス目板を用いている。
表1は基本性能試験の測定データを示す。表2はピッチ1.5mmの標準溶接設定による測定データを示す。ここで、標準溶接設定とは表1の基本性能試験の結果により性能が確保された次の設定によるものである。
電流値;0.8KA
通電時間;10msec
通電間隔;30msec
ローラ電極の走行速度;1.5m/min
【0019】
表において、リファレンス(RFE)値とは基準値として送受信のアンテナ間に障害物が無い状態(スルー)の測定値、シールド測定値(S/A)は基準値を測定した時と同じ条件で、送受信アンテナ間にシールドパネルを挟んだ状態の測定値。なお、測定機器の測定限界状態は、表中で”*”となっている。
下記の値が高いほどシールド性能が良いことを意味する。
シールド性能値=(REF)−(S/A)
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
上記の実施形態ではステンレス板を用いた電磁シールドの構築について説明したが、これに本発明は限定されるものでなく、他の電磁シールドパネルとして、めっき鋼板で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る電磁シールドを構築する工法の説明図である。
【図1A】片側2例の断続シーム溶接の説明図である。
【図2】シーム溶接の構成図である。
【図3】単一のローラ電極による断続シーム溶接の状況を示す図である。
【図4】二つのローラ電極による断続シーム溶接の状況を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 内貼りステンレス板
2 目地部分
3 ステンレス目板
4 断続シーム溶接
5 アース
6 ローラ電極6
10 断続溶接装置
11 整流器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋内を厚さ0.5〜1.5mmのステンレス板で内貼りし、その目地部分を覆うように内貼りステンレス板より薄い厚さ0.1〜0.2mmのステンレス目板を当て、該目板と両側の内貼りステンレス板をシーム溶接することにより電磁シールドを構築する工法であって、
前記内貼りステンレス板にアースを取り、ローラ電極を、内貼りステンレス板の上に重ねたステンレス目板の上を転がす時に断続的に電流を流し、約1.0mm径、ピッチ1.0〜2.0mmの断続シーム溶接することを特徴とする電磁シールドを構築する工法。
【請求項2】
目板幅より小さい間隔で設置した2つのローラ電極を隣り合う内貼りステンレス板を跨いで配置し、両内貼りステンレス板の目地部分を覆ってステンレス目板を重ね、前記ローラ電極をステンレス目板に当接し、該ローラ電極を転がして前記内貼りステンレス板にステンレス目板を断続シーム溶接することを特徴とする請求項1に記載の電磁シールドを構築する工法。
【請求項3】
前記内貼りステンレス板とステンレス目板とを所定間隔の片側2列で断続シーム溶接することを特徴とする請求項1または2に記載の電磁シールドを構築する工法。
【請求項4】
前記内貼りステンレス板に代えて、めっき鋼板を用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電磁シールドを構築する工法。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−58134(P2010−58134A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224174(P2008−224174)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000153616)株式会社巴コーポレーション (27)
【出願人】(596171395)有限会社 エヌエー・メカニカル (2)
【Fターム(参考)】