説明

シーリングシステムの方法および装置

シーリングシステムおよび当該シーリングシステムの製造方法。シーリングシステムは、2つの異なる材料と同時に強固な化学結合を形成するポリマー材料によって互いに結合された2つの異なる材料のシールリップを含む。さらに、結合は活性化の後にのみ起こるため、活性化の前に精密な物理的整列を実施することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーリングシステムに関するものであり、特定の実施形態において、2つのリップ材料の結合、および二重材料リップでのシーリングを対象とする。
【背景技術】
【0002】
リップシールなどのシーリングシステムは、油漏れおよび浸入汚染を可能な限り最小限に抑えるかまたは排除しなければならない自動車および工業的回転用途において使用される。シーリングシステムは、回転素子軸受用途において、または独立システムとして使用される。低重量車両およびトラックの用途では、シーリングシステムは、クランク軸およびトランスミッション用途、ならびに車軸ハブユニットにおいて使用される。産業界では、シーリングシステムは、トランスミッションにおいて使用され、または汚染から保護するために回転素子軸受けに含まれる。
【0003】
リップシールは、伝統的に、ゴムまたはポリマーリップが取り付けられ、回転軸と接触する、放射状に配置された壁を有する金属ケーシングを備える。動作中、軸は一般的に、リップによって調整または補正されなければならないある程度のずれを示す。
【0004】
軸の表面に接近して追跡するリップの性能は、あらゆる漏れおよび浸入を防ぐために重要である。これは、先端である程度の接触力を維持しつつ、軸の接触において容易にリップが移動できるようにすることによって成し遂げられる。
【0005】
回転リップシールは、機械部材のエネルギー散逸および効率損失に著しく寄与するものである。つまり、回転素子軸受において、摩擦寄与の最大70%がシールのみによって生じる。自動車用途では、よりよいシーリングの適用によってCOが1から2%低減され得ると推測されている。
【0006】
一般的なシーリングシステム、および特にシールリップには、依然として改善の余地が残されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先端で十分な接触力を維持しつつ、軸の接触において容易にリップが移動できるシーリングシステムを開示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様では、静的および動的動作条件における漏れおよび浸入汚染を防ぐための、油を塗った、油潤滑回転用途のための低摩擦リップシーリングシステム/シールリップが提供される。二重材料リップは、好ましくは、シーリング用途の長寿命をもたらし、摩擦低下を最大化するために使用される。リップの2つの材料間の結合は、UV光、熱、および/または文献1(EP1,900,759)に開示されたようなその他の放射によって硬化される特別に調整されたポリマー材料を使用することで得られる。
【0009】
好ましい実施形態では、シーリングシステムは、好ましくは、ゴムまたはポリマーリップが取り付けられ、回転軸またはその他の適当な対向する表面と接触する、放射状に配置された壁を有する金属ケーシングを備える。動作中、軸はおよび/または対向する表面は一般的に、リップによって調整または補正されなければならないある程度のずれを示す。軸の表面または対向する表面を追跡するリップの性能は、あらゆる漏れおよび/または浸入を防ぐために重要である。これは、先端で十分な接触力を維持しつつ、軸の接触において容易にリップが移動できるようにすることによって成し遂げられる。
【0010】
ある程度の弾性力または弾性が好ましいため、軸との接触を維持するリップの性能は、材料の選択およびリップの設計に非常に重要である。回転リップシール用途では、リップの材料は、一般的に様々な種類のゴムの1つである。いくつかのシール応用では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がまた使用される。この場合、リップは極度に薄く作製され、これにより材料の高い剛性が保障される。
【0011】
しかしながら、リップの先端で生じる摩擦および磨耗を低減するためには、先端で接触力を維持するために最適な材料条件または特性とは異なる材料条件または特性が必要とされる。従って、単一のリップ材料を使用したシーリングシステムの開発は、当然ながら妥協である。その結果、単一材料リップ技術を使用して先端での接触力ならびに摩擦減少/耐磨耗を最大化することはできない。
【0012】
これらの制限を解消するために、少なくとも2つの材料、例えば材料AおよびBからリップを製造することが好ましい。リップの主体積またはバルクは好ましくは材料Aで作製され、リップの先端または表面(例えば接触表面)は好ましくは材料Bで作製される。材料Aは、リップの優れた柔軟性および軸の周囲での優れた接触条件を確保するように選択され得る。材料Bは、低摩擦条件および優れた耐摩耗性を与えるように選択され得る。
【0013】
シーリングシステムの全寿命にわたって低摩擦接触が有利に維持されるべきであるため、2つの異なる材料は、予測動作温度および潤滑油の攻撃性に従って選択され得る。従って、材料AおよびBは、本開示の別の態様によると、以下の材料の適当な組み合わせとすることができる:アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、カルボキシル化ニトリルゴム(XNBR)、ポリアクリレートゴム(ACM)、ポリウレタンゴム(PU)、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンベースのコポリマー(FKM)。これらの材料の調合は、1つまたは複数のフィラーシステムおよび硬化システムの適当な選択によってさらに最適化され得る。
【0014】
回転リップシール技術における一般的な選択肢であるエラストマー材料に加えて、本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド(PA)、熱可塑性加硫物(TPV)および熱可塑性エラストマー(TPE)などの材料の新たな組み合わせをも包含する。
【0015】
シールの全寿命にわたって確実かつ効果的な結合を確保するために、効率的な接着促進剤を使用して材料Aおよび材料Bを結合させることが好ましい。ポリマー材料、より具体的にはジエン化合物ベースの接着促進剤の適当な分類は、文献1に記載されている。該開示において、接着剤は、少なくとも2つの二重結合を含む開始材料から作製され、該材料は重合反応に関与するように活性化され、二重結合は、環化重合が起こるように十分に近接している。
【0016】
環化重合は、放射源、例えばUVまたは熱放射源を適用することによって誘発される。当該技術は、アクリル酸およびメタクリル酸などの一般的なUV硬化システムとは異なる。その理由は、これらのポリマーの使用は、場合によっては最終製品において得られる特性を制限し得るためである。該ポリマー材料により、金属表面への接着性、低価格、誘導体化の容易性、および処理速度など、アクリル酸およびメタクリル酸と比較して著しく異なる特性を得ることができる。これらの理由から、回転リップシールにおいて一般的に使用されるゴムおよびポリマー技術に特に適する。
【0017】
本開示の別の態様では、例えばUV放射による活性化後に接着が開始されるため、高コストの機械的整列を回避または最小化することが可能なシーリングシステム、およびシーリングシステムの異なる部分を結合する方法が提供される。
【0018】
従来の接着剤を使用してシーリングゴムを結合する試みは、困難性を証明した。結合剤によっては限定的な強度を有するものがあり、低温にさらされた場合に弱化または破損する傾向にあるものもあるため、2つの異なる材料を結合することは非常に困難であり得る。
【0019】
本明細書に開示された二重材料技術によると、リップのバルクに最適な材料とは無関係にリップの(接触)表面に最適な材料を選択することによって、摩擦低下が最大化される。リップが動作中に対向する表面を近接して追跡し、リップの先端での優れた接触条件を維持することを確保するように材料が選択される。
【0020】
接触表面に対して低摩擦材料を選択することにより、動作中のリップの温度が低下し、シーリングシステムのより長い寿命が確保される。
【0021】
文献1に記載されたようなポリマー材料を含む接着促進剤を使用することによって、接触表面 (先端)に使用される材料とリップのバルクに使用される材料との間に強固な結合が得られる。
【0022】
文献1に記載されたようなポリマー材料の使用は、リップおよびリップの接触表面の材料の広範囲の組み合わせを可能にする。ゴムシーリング材料では、当該技術は表面およびリップに異なる硬化システムを使用することも可能にする。PTFEシールでは、当該技術は表面の前処理およびプラズマエッチングの必要性を排除する。
【0023】
本発明に従って結合される異なるリップ材料は、任意の所望のやり方で組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による代表的なシールシステムを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下において、図面を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
以降の好ましい実施形態によるシーリングシステムは、低摩擦が条件であり、かつ油漏れおよび浸入汚染を可能な限り最小限に抑えるかまたは排除しなければならない自動車および工業的回転用途において、制限なく使用することができる。このようなシーリングシステムは、回転素子軸受用途において、または独立システムとして使用することができる。低重量車両およびトラックの用途では、シーリングシステムは、クランク軸およびトランスミッション用途、ならびに車軸ハブユニットにおいて使用することができる。産業界では、当該二重材料シーリングシステムは、トランスミッションにおいて使用されるか、または汚染から保護し、軸受内の潤滑を維持し、単一材料のシールリップと比較して摩擦を低減するために回転素子軸受けに含まれ、厳しい環境下で有利に使用することができる。
【0026】
ここで、図1を参照しながら代表的な例について説明する。
図1は、本願の教示によるシーリングシステム100の好ましい応用を図示する。シーリングシステムは、ゴムまたはポリマーリップ120、125が取り付けられ、使用時に回転軸または対向する表面130と接触する、放射状に配置された壁を有する金属ケーシング110を備える。作動中、軸または対向する表面130は、一般的に、リップによって調整または補正されなければならないある程度のずれを示す。軸の表面を追跡するリップの性能は、あらゆる漏れおよび浸入を防ぐために重要である。これは、先端125である程度の接触力を維持しつつ、軸の接触において容易にリップが移動できるようにすることによって成し遂げられる。
【0027】
軸との接触を維持するリップの性能は、材料の選択およびリップの設計に非常に重要である。回転リップシール用途では、リップの材料は、一般的に異なる種類のゴムである。
【0028】
しかしながら、リップの先端で生じる摩擦および磨耗を低減するためには、接触を維持するために最適な条件とは異なる材料条件が必要とされる。従って、単一のリップ材料から構成されるシーリングシステムの使用は、当然ながら妥協である。その結果、単一材料リップ技術を使用して摩擦減少および耐磨耗を最大化することはできない。
【0029】
これらの制限を解消するために、リップは、好ましくは2つの材料AおよびBを含む。リップの主体積またはバルク120は材料Aで作製され、リップの先端125または表面(接触表面)は材料Bで作製される。材料Aは、リップの優れた柔軟性および軸の周囲での優れた接触条件を確保するように選択される。材料Bは、対向する表面130と滑り接触する場合に低い摩擦係数および優れた耐摩耗性を与えるように選択される。
【0030】
バルクおよび表面材料:
シーリングシステムの全寿命にわたって低摩擦接触が有利に維持されるため、2つの異なる材料(AおよびB)は、好ましくは、予測動作温度および潤滑油の攻撃性に従って選択される。従って、材料AおよびBは、それぞれ以下の材料から選択され得る:アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、カルボキシル化ニトリルゴム(XNBR)、ポリアクリレートゴム(ACM)、ポリウレタンゴム(PU)、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンベースのコポリマー(FKM)。これらの材料の調合は、1つまたは複数のフィラーまたはその他の添加剤の適当な選択、ならびに硬化システムの適当な選択によってさらに最適化され得る。
【0031】
回転リップシール技術における一般的な選択肢であるエラストマー材料に加えて、本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド(PA)、熱可塑性加硫物(TPV)および熱可塑性エラストマー(TPE)のうちの1つまた複数などの材料の新たな組み合わせをも包含する。
【0032】
本発明によるシーリングにおいて材料Bとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用する場合、極度に薄いリップ部分を作製する必要はない。代わりに、より剛性の高い材料を使用したとしても、摩擦および磨耗に対して形態および厚さを最適化することができる。
【0033】
<実施例> 量(グラム)
(1)アクリロニトリル‐ブタジエンシール
Europrene(登録商標)N3330GRN 100
ZnO 5
ステアリン酸 1
N330 40
DOP 5
Mistron Vapor(登録商標) 25
黒鉛 10
クマロン樹脂 2
Vulkanox(登録商標)MB2 1.5
Vulkanox(登録商標)HS 0.5
CBS1. 5
TMTD 2.5
硫黄 0.4
170°Cで10分間プレス加硫
【0034】
(2)フルオロエラストマーシール
Tecnoflon(登録商標)FOR60K 100
酸化マグネシウム(高活性) 9
水酸化カルシウム 6
硫酸バリウム 30
Polymist(登録商標)L206 30
赤色酸化鉄 5
カルナバワックス 2
170°Cで10分間プレス加硫
後硬化8時間+230°Cで16時間
【0035】
(3)アクリル酸シール
Vamac(登録商標)G 100.0
ステアリン酸 1.0
Armeen18D 0.5
VANFRE(登録商標)VAM 2.0
FEF Black(N−550) 60.0
黒鉛 20.0
フタル酸ジオクチル(DOP) 10.0
VANOX(登録商標)ZMTI 2.0
VANOX(登録商標)AM 1.0
VANAX(登録商標)DOTG 4.0
DIAK(登録商標)No.1 1.25
【0036】
2つの材料の接着:
特に、非常に厳しく不利な環境において、長寿命を得るためには、シーリングシステムをうまく動作させるために材料AとBの優れた結合が不可欠である。架橋の場合、加硫の間のゴムとその他の材料の自然な結合は、十分ではない。それに加えて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド(PA)、熱可塑性加硫物(TPV)および熱可塑性エラストマー(TPE)が材料AおよびBに選択される場合、この方法を使用することができない。
【0037】
シールの全寿命にわたって効果的な結合を確保するために、文献1に記載されたようなポリマー材料ベースの接着促進剤を使用して材料Aおよび材料Bを結合させる。
【0038】
文献1に記載されたように、特定の物質との反応および結合を促進する、特定の化学官能基を加えることによって、2つの結合の間のポリマー材料を調整することができる。従って、材料Aとの化学結合を形成するためにポリマー材料の第1化学官能基を加え、同様に材料Bとの化学結合を形成するために第2化学官能基を加えることができる。この方法では、材料Aおよび材料Bの表面間に強固かつ永続的な結合がもたらされる。このような技術を使用することによって、表面間に強固な結合を形成し、シーリングシステムに対して複数の材料の組合せを使用することが可能となる。
【0039】
環化重合は、放射源、例えばUVまたは熱放射を適用することによって誘発される。当該技術は、アクリル酸およびメタクリル酸などの一般的なUV硬化システムとは異なる。その理由は、これらのポリマーの使用は、場合によっては最終製品において得られる特性を制限し得るためである。本明細書に示された技術では、金属表面への接着性、低価格、誘導体化の容易性、および処理速度など、アクリル酸およびメタクリル酸と比較して著しく異なる特性を得ることができる。これらの理由から、回転リップシールにおいて一般的に使用されるゴムおよびポリマー技術に特に適する。
【0040】
要約すると、シールリップは、好ましくは2つの異なる材料と同時に強固な化学結合を形成するポリマー材料によって互いに結合された2つの異なる材料を含む。さらに、結合または接着は活性化の後にのみ起こるため、活性化の前に精密な物理的整列を実施することが可能となる。
【0041】
文献1および対応する文献2(US6,559,261)の内容は、参照により全て本明細書中に組み込まれる。文献1の段落0007に開示された接着剤および段落0013に開示された光開始剤(文献2の欄1の53行目から欄2の38行目、および欄3の18行目から欄4の10行目)は、参照により本明細書中に組み込まれることに特に留意すべきである。
【0042】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において変更可能である。
【符号の説明】
【0043】
100 シーリングシステム、リップシール
110 金属ケーシング
120 リップのバルク部分
125 リップの先端部分
130 軸または軸受け部分などの対向する表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リップを備えるシーリングシステムであって、前記リップが異なる特性を有する少なくとも2つの材料を含み、前記2つの材料がポリマー剤によって結合され、前記ポリマー剤が、各材料に対して少なくとも1つの、複数の化学結合を含むことを特徴とする、シーリングシステム。
【請求項2】
活性化されたときに前記複数の結合が重合反応に関与し、環化重合が起こるように互いに十分に近接した複数の化学結合を形成し、前記活性化がUVまたは熱放射によって誘発されることを特徴とする、請求項1に記載のシーリングシステム。
【請求項3】
シーリングシステムのリップの第1表面を有する第1材料と、第2表面を有する第2材料とを結合する方法であって、
結合される表面の一方または両方にポリマー剤を適用するステップと、
結合される前記第1および第2表面を機械的に整列するステップと、
UVまたは熱放射によって重合反応を活性化するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
接着剤によって第2材料に結合された第1材料を含むシールであって、前記第1および第2材料が異なる特性を有し、前記接着剤が環化重合されている、シール。
【請求項5】
前記第1材料が前記シールの主要部を形成し、前記第2材料が前記シールの接触表面を形成している、請求項4に記載のシール。
【請求項6】
第1材料および第2材料の少なくとも1つの表面に接着剤を適用するステップと、
結合される前記第1材料および第2材料を機械的に整列するステップと、
前記接着剤にUVおよび熱放射の少なくとも1つを適用することによって重合反応を活性化するステップと、
を含むシールを作製する方法。
【請求項7】
前記接着剤が少なくとも1つのジエン官能基を含む、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−515216(P2013−515216A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545138(P2012−545138)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007615
【国際公開番号】WO2011/079905
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(508282993)アクティエボラゲット・エスコーエッフ (42)
【Fターム(参考)】