説明

シールドガス流量調節装置

【課題】不活性ガスアーク溶接・溶断機においてアフターフローに流すシールドガスの無駄を確実に減じ、溶接機等を改造することなく、別体の付属品として現場において簡単に設置することができるシールドガス流量調節装置の提供を課題とする。
【解決手段】それぞれ異なる流量が流れる複数の切換用流路12と、切換用流路12を切り換える流路切換器13と、流路切換器13を制御する制御部14と、アークの点弧、消弧の状態を検出してその情報を制御部14に送る検出器15とを備えたシールドガス流量調節装置1であって、制御部14は、検出器15からの情報によりアークが点弧状態か消弧状態であるかを自動判定すると共に、アークが点弧状態から消弧状態になったことを判定すると、流路切換器13を介して切換用流路12を切り換え、点弧状態での流量よりも少ない一定流量のシールドガスをアフターフローとして流すように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はTIG溶接等の不活性ガスアーク溶接機若しくは不活性ガスアーク溶断機で使用するシールドガスの流量を調節するシールドガス流量調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
TIG溶接機やTIG溶断機等においては、アークやトーチ電極等を外部空気から遮断するためにシールドガスを用いるが、このシールドガスはアークの消弧後もトーチ電極の劣化等を防止するために、アフターフローとして一定時間流すようにしている。
ところが、現在市販されているTIG溶接機やTIG溶断機等においては、アーク点弧中に流すシールドガス流量を、そのままアーク消弧後のアフターフローにおいても流す機構になっている。
しかしながら、アフターフローにおいて必要なシールドガスの流量は、アーク点弧中に必要なシールドガス流量に比べてその流量を減じても、溶接部の悪化やトーチ電極等の劣化を招くことを無くすることができることが、本発明者において確認されている。
そしてアフターフローにおいて、シールドガス流量を低減することによるシールドガスの節約量は1日、1ヶ月、1年という期間において無視できない量となり、大きなコスト低減につながることを本発明者は確認している。
ところで、不活性ガスアーク溶接機におけるシールドガスの調節に関して、例えば特公昭39−14374号公報(特許文献1)には、アークの消弧後にシールドガスの流量を段階的に或いは徐々に減じるようにした不活性ガスアーク溶接用ガス制御方法が開示されている。
また特開平2−92468号公報(特許文献2)には、プラズマ発生用のガス流量を調節することができるガス流量制御装置をトーチに一体に取り付けたプラズマガス溶接装置、および、溶接用トーチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭39−14374号公報
【特許文献2】特開平2−92468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の不活性ガスアーク溶接用ガス制御方法においては、溶接終了の際に、ガス開閉スイッチ(20)をスイッチオフする動作に連動して電磁弁(12)、(17)、(21)を動作させる仕組みとしている。即ち、溶接機の溶接開始を行うガス開閉スイッチ(20)に連携した回路を組む必要がある。従って、この特許文献1の不活性ガスアーク溶接用ガス制御方法の場合には、新たに溶接機を製造する際にその溶接機の一部としてガス流量の制御構成を一緒に構成する場合は問題がないが、既存する溶接機に現場等で後から追加して付加することは、溶接機の改変を伴うことから、面倒な作業手間と作業時間が必要になるという致命的な欠点がある。
また上記特許文献2のプラズマガス溶接装置、および、溶接用トーチにおいては、溶接中にプラズマ発生用ガスの流量制御を行うことが記載されているものの、シールドガスのアフターフローに関する流量制御については、何ら開示がなされていない。そして前記プラズマ発生用ガスの流量制御については、その制御機構を何れも溶接機のトーチそのものの機構の一部として構成していることから、やはり既存の溶接機に対して現場等での後付けができないという問題がある。
【0005】
そこで本発明は上記従来技術の問題を解消し、不活性ガスアーク溶接・溶断機においてアフターフローで流すシールドガスの無駄を、トーチ電極や溶接部の劣化を招くことなく、確実に減じることができ、しかも溶接機そのものを何ら改造することなく、溶接機とは別体の付属品として、現場において簡単に設置することができるシールドガス流量調節装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため本発明のシールドガス流量調節装置は、不活性ガスアーク溶接機とシールドガス供給源との間に別体の付属品として配置されて、前記不活性ガスアーク溶接機で使用するシールドガスの流量を調節するシールドガス流量調節装置であって、それぞれ異なる流量が流れる複数の切換用流路と、該複数の切換用流路を切り換える流路切換器と、該流路切換器を制御する制御部と、前記不活性ガスアーク溶接機におけるアークの点弧、消弧の状態を検出してその情報を前記制御部に送る検出器とを備え、前記制御部は、前記検出器からの情報により前記不活性ガスアーク溶接機のアークが点弧状態か消弧状態であるかを自動判定すると共に、アークが点弧状態から消弧状態になったことを判定すると、前記流路切換器を介して前記切換用流路を切り換え、点弧状態での流量よりも少ない一定流量のシールドガスをアフターフローとして流すように構成したことを第1の特徴としている。
また本発明のシールドガス流量調節装置は、上記第1の特徴に加えて、制御部は、検出器からの情報により不活性ガスアーク溶接機のアークが点弧状態か消弧状態であるかを自動判定すると共に、アフターフロー中にアークが消弧状態から点弧状態になったことを判定すると、流路切換器を介して切換用流路を切り換え、再び点弧状態での流量を流すように構成したことを第2の特徴としている。
また本発明のシールドガス流量調節装置は、上記第1又は第2の特徴に加えて、検出器は、不活性ガスアーク溶接機に流れる電流値を検出し、制御部は前記検出器で検出した電流値から、点弧状態にあるか消弧状態にあるかを自動判定することを第3の特徴としている。
また本発明のシールドガス流量調節装置は、上記第2又は第3の特徴に加えて、対象となる不活性ガスアーク溶接機について、点弧状態での電流値と消弧状態での電流値とから予め閾電流値を定めておき、該予め定めた閾電流値と実際の運転中に検出された電流値とを比較することにより、アークが点弧状態にあるか消弧状態にあるかを自動判定することを第4の特徴としている。
また本発明のシールドガス流量調節装置は、上記第1〜第4の何れかに記載の特徴に加えて、検出器は、不活性ガスアーク溶接機への外部からの入力電源ラインに取り付けて、その電流値を検出するようにしてあることを第5の特徴としている。
また本発明のシールドガス流量調節装置は、上記第1〜第5の何れかに記載の特徴に加えて、不活性ガスアーク溶接機に代えて、不活性ガスアーク溶断機で使用するシールドガスの流量を調節することを第5の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載のシールドガス流量調節装置によれば、該装置が不活性ガスアーク溶接機とは別体の付属品として、溶接機とシールドガス供給源との間に配置され、検出器で不活性ガスアーク溶接機におけるアークの点弧、消弧の状態を検出し、その検出情報により制御部でアークが点弧状態にあるか消弧状態かを自動判定し、アークが点弧状態から消弧状態になったことを判定すると、流路切換器を介して点弧状態のときよりも少ない流量をアフターフローとして流すようになされる。
従って請求項1に記載のシールドガス流量調節装置によれば、アフターフローに使用されるシールドガス量を十分に減じることができ、大きなコスト削減につながる。勿論、消弧後も必要な一定流量のシールドガスは流されるので、該一定流量をトーチ電極や溶接部が劣化しない流量に予め定めておくことで、それらトーチ電極や溶接部の劣化を招くことも確実に回避することができる。
また請求項1に記載のシールドガス流量調節装置によれば、該装置が溶接機とは別体の付属品として構成され、しかも溶接機自体のスイッチ等の設備には従属することなく、独自的にアークの点弧状態と消弧状態とを自動判定するようにしているので、該装置を溶接機の回路の一部や機構の一部に組み込む必要がなく、既存の溶接機が設置された現場においても簡単、容易に付加して取り付け配置することができる。
また請求項1に記載のシールドガス流量調節装置によれば、溶接機のアークの点弧、消弧の状態を、溶接機のスイッチ類等の機構に連動するのではなく、より直接的に検出するようにしているので、スイッチ類の機構の故障によらず、アークの点弧、消弧の状態をより確実に判定することができる。
【0008】
請求項2に記載のシールドガス流量調節装置によれば、上記請求項1に記載の構成による作用効果に加えて、アフターフロー中にアークが消弧状態から点弧状態になったことを自動判定した場合には、流路切換器を介して再び点弧状態での流量を流すようにしたので、点弧、消弧が繰り返される溶接作業に即した適切なシールドガス供給を行うことができる。
請求項3に記載のシールドガス流量調節装置によれば、上記請求項1又は2に記載の構成による作用効果に加えて、不活性ガスアーク溶接機に流れる電流値を検出器で検出し、この検出電流値から、溶接機が点弧状態にあるか消弧状態にあるかを自動判定するようにしている。即ち、本請求項3の構成によれば、溶接機に流れる電流がアーク点弧状態と消弧状態とでは大きく異なることに着目して、その電流値を捉えて判定するようにしたことで、溶接機のアーク点弧状態と消弧状態との違いを確実、容易に検出することができ、確実、容易に自動判定がすることが可能となる。
【0009】
請求項4に記載のシールドガス流量調節装置によれば、上記請求項2又は3に記載の構成による作用効果に加えて、対象となる不活性ガスアーク溶接機について、点弧状態での電流値と消弧状態での電流値とから予め閾電流値を定めておき、該予め定めた閾電流値と実際の運転中に検出された電流値とを比較することにより、アークが点弧状態にあるか消弧状態にあるかを自動判定するようにしたので、既存の溶接機の現場での状況に即して、1台毎に確実にその点弧状態と消弧状態とを判定することができる。即ち溶接機においては、点弧状態はもとより消弧状態である待機状態においても僅かに電流が流れている。この待機状態での電流値と点弧状態での電流値は、各現場に配置された溶接機において、必ずしも同じ値ではない。よって予め各現場にある溶接機において、それらの点弧状態にあるときの電流値と消弧状態(待機状態)にあるときの電流値を検出しておき、その両検出電流値から、それらの両電流値の間に確実にあると言える電流値を予め閾電流値として定める。このようにして閾電流値を定めることで、現場にある溶接機の個々についても、その点弧状態と消弧状態とを間違いなく確実に自動判定することができるのである。
【0010】
請求項5に記載のシールドガス流量調節装置によれば、上記請求項1〜4の何れかに記載の構成による作用効果に加えて、前記検出器は、前記不活性ガスアーク溶接機への外部からの入力電源ラインに取り付けて、その電流値を検出するようにしてある。即ち、本発明のシールドガス流量調節装置においては、検出器は溶接機の本体ケース等の外にある入力電源ラインに取り付けるだけでよく、溶接機の内部を開けたり、溶接機の電気的、機械的機構に変更を加えたりする必要なく設置が行える。
請求項6に記載のシールドガス流量調節装置によれば、上記請求項1〜5の何れかに記載の構成による作用効果に加えて、不活性ガスアーク溶接機に代えて、不活性ガスアーク溶断機で使用するシールドガスの流量を調節することにより、不活性ガスアーク溶断機に対しても、上記請求項1〜5の何れかに記載の構成による作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るシールドガス流量調節装置と溶接機及びシールドガス供給源の配置を示す全体図である。
【図2】本発明の実施形態に係るシールドガス流量調節装置を溶接機に対して接続した状態を示す図である。
【図3】本発明に係るシールドガス流量調節装置の制御部の構成を説明する図である。
【図4】本発明に係るシールドガス流量調節装置によるシールドガス流量の流量調節の制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
先ず図1を参照して、本発明のシールドガス流量調節装置1は、不活性ガスアーク溶接機2とシールドガス供給源3との間に配置されて使用される。
シールドガス流量調節器1とシールドガス供給源3及び不活性ガスアーク溶接機2とはシールドガス流路4で接続され、シールドガスがシールドガス供給源からシールドガス流量調節器1を経て不活性ガスアーク溶接機2に至るように構成される。
シールドガス流量調節装置1は、不活性ガスアーク溶接機2の一部として構成されるのではなく、別体の付属品として構成され、独立した状態で配置される。
前記不活性ガスアーク溶接機2は、本実施形態ではタングステンを非消耗電極として用いてTIG溶接機としている。
前記シールドガス供給源3は、例えばアルゴンガスボンベとすることができる。
なお前記不活性ガスアーク溶接機2は、以下の説明において単に溶接機2と略す。
【0013】
前記溶接機2は、現在公知のものを用いることができるが、溶接機本体21とトーチ22とを少なくとも有している。
溶接機本体21には、シールドガスの供給とその停止を行うための弁機構21aを有する。この弁機構21aは電磁弁による流路開閉機構とすることができる。
前記溶接機本体21には、図示しないが、TIG溶接を現に行うために必要な設備が搭載されているのは言うまでもない。
前記トーチ22は、そのトーチ電極からアークが発生して、非溶接物の溶接対象部を溶接するものである。該トーチ22には図示しないスイッチが設けられ、このスイッチをオンすることで、前記弁機構21aを介してシールドガスが先ずトーチ22に流れ、これに遅延してアークが点弧される仕組みとされている。これによってトーチ電極及び溶接対象部が不活性ガスでシールドされながらアーク溶接が行われる。
前記トーチ22のスイッチをオフすることで、トーチへの電力供給が停止される。これによりアークが消弧され、溶接は終了する。ただし、シールドガスの供給はトーチのスイッチがオフされてもすぐには停止されない。スイッチオフ後、一定のアフターフロー時間、例えば10秒間の遅延時間をもって、前記弁機構21aがシールドガス流路を閉止する機構とされている。
以上において説明した溶接機2の動作機構は、現時点で公知のTIG溶接機において一般的な動作機構と言える。
なお、溶接機2の手前のシールドガス流路4にメインフロー調節器5を設けている。が、このメインフロー調節器5は溶接機2内に設けることができる。メインフロー調節器5は、アフターフローを除いた通常時、即ち点弧中のフロー及び点弧前のプレフローにおいて、溶接機2に流すシールドガス流量を予め所定流量に設定調節するためのもので、例えば絞り弁で構成することができる。勿論、メインフロー調節器5はシールドガス供給源3のすぐ後に設けることもできる。またメインフロー調節器5は、必ずしも設ける必要はない。
【0014】
前記シールドガス流量調節装置1は、1つの独立した付属品として構成され、ケース11内に、それぞれ異なる流量が流れる複数の切換用流路12と、該複数の切換用流路12を切り換える流路切換器13と、該流路切換器13を制御する制御部14とを少なくとも備えている。またケース11外に溶接機2におけるアークの点弧、消弧の状態を検出してその情報を前記制御部14に送る検出器15を備えている。
【0015】
前記複数の切換用流路12は、本実施形態では2流路からなり、その片方をメインフロー用支路12aとし、他方をアフターフロー用支路12bとしている。
前記アフターフロー用支路12bは、溶接が終了した後、即ちアークが点弧状態から消弧状態になったときに、アフターフローとして一定時間シールドガスを流す際に使用する流路である。
アフターフロー用支路12bには、アフターフロー調節器12cが設けられている。このアフターフロー調節器12cは、アフターフロー時、即ちアークが点弧状態から消弧状態になったときの一定時間に、溶接機2に流すシールドガス流量を予め所定流量に設定調節するためのもので、例えば絞り弁で構成することができる。
前記メインフロー用支路12aは、アフターフロー以外の通常時に使用する流路である。アフターフロー用支路12bに流れるシールドガスの流量は、メインフロー用支路12aに流れるシールドガスの流量に比べて少なくなるように設定される。
【0016】
前記流路切換器13は、制御部14からの指令により前記メインフロー用支路12aとアフターフロー用支路12bとからなる切換用流路12を切り換える役割をなすもので、本実施例では後述する復帰バネ付きの電磁切換弁13aを備えている。即ち、常時においては、復帰バネにより、メインフロー用支路12がシールドガス流路4に接続された状態とされる。そして電磁切換弁13aを備えた流路切換器13が制御部14の指令によって作動している間(タイマー時間)だけ、アフターフロー用支路12bがシールドガス流路4と接続される。
【0017】
前記検出器15は、溶接機2におけるアークの点弧、消弧の状態を検出するためのものであるが、本実施形態では、溶接機2に流れる電流値を検出する電流検出器として、検出した電流値からアークの点弧状態と消弧状態とを自動判定できるようにしている。
この検出器15の取り付けに関しては、溶接機2の内部を開けてその機構の一部に変更を加えたりする必要がないようにしている。即ち、検出器15は溶接機2への外部からの入力電源ライン23に取り付けている。
検出器15からの検出情報はセンサーケーブル15aを介して、シールドガス流量調節装置1のケース11のセンサーイン端子11aに接続され、制御部14に送られる。
【0018】
図2も参照して、前記溶接機2は、より詳しくは、溶接機2の1次側の入力電源ライン23の三相交流ライン23a、23b、23cのうちの1つのライン23aに対して取り付けるようにしている。
前記入力電源ライン23のそれぞれのライン23a、23b、23cは、溶接機2の溶接機本体21背面の電源接続端子台21bに設けられた3つの入力端子21cに対してそれぞれ接続されることで、溶接機2に電力供給を行っている。
また本実施形態では、シールドガス流量調節装置1は、その電源を、溶接機2の前記入力端子21cから操作用電源ケーブル16を介して、シールドガス流量調節装置1のケース11の電源端子11bに接続することで、確保している。勿論、シールドガス流量調節装置1の電源は溶接機2以外から確保してもよい。
前記シールドガス供給源3からのシールドガス流路4は、先ずシールドガス流量調節装置1のケース11のガスイン端子11cに接続され、シールドガス流量調節装置1内に入り、切換用流路12や流路切換器13を通って、ガスアウト端子11dから装置外に出て、更に溶接機2の溶接機本体21のガスイン端子21dに接続されて、溶接機2内に入る。なお、図1に示すメインフロー調節器5は、図2の場合は溶接機2内に配置しているものとする。
【0019】
前記シールドガス流量調節装置1の制御部14は、検出器15からの情報により溶接機2のアークが点弧状態にあるか消弧状態にあるかを自動判定し、アークが点弧状態から消弧状態になったことを判定すると、前記流路切換器13を介して前記切換用流路12をメインフロー用支路12aからアフターフロー用支路12bに一定の保持時間だけ切り換え、該アフターフロー用支路12bがシールドガス流路4に接続されるように構成されている。またアークが消弧状態から点弧状態になったことを判定すると、前記一定の保持時間中であっても、前記流路切換器13を介して前記切換用流路12をアフターフロー用支路12bからメインフロー用支路12aに切り換え、該メインフロー用支路12aがシールドガス流路4に接続されるように構成されている。
【0020】
図3も参照して、制御部14には操作用電源ケーブル16から電源が供給されるようになされている。電源はACアダプター16aによって、直流に変換されて制御部14に供給される。
制御部14に供給された直流電源は電源フィルター101を経てDC安定化電源102とされて、マイクロコンピュータ100に供給される。103は電源が入っていることを示す電源表示ランプである。
また前記検出器15で検出された電流は、制御部14において、信号フィルター104で高調波ノイズ等のノイズが除去され、ACアンプ105で増幅され、DC変換器106で直流値に変換されて、マイクロコンピュータ100に入力される。
【0021】
また制御部14には、閾電流値設定器107を設けることができる。閾電流値は、前記検出器15で検出された電流値と比較するための基準値となるものである。検出電流値Dが閾電流値Dsよりも大(D≧Ds)である場合には、アークが点弧状態にあると判定し、検出電流値Dが閾電流値Ds未満(D<Ds)の場合には、アークが消弧状態にあると判定する。
前記アークが点弧状態にあるときには、溶接機2にはかなりの電流が流れる。一方、前記アークが消弧状態にあるときにおいても、溶接機2に流れる電流はゼロではなく、僅かな電流が、いわゆる待機電流として流れる。
従って前記閾電流値Dsの設定は、予めその現場にある溶接機2において、アークが点弧状態にあるときの電流値Aとアークが消弧状態にあるときの電流値Bとを検出しておき、この電流値Aと電流値Bとから、その中間の、ある電流値を予め閾電流値Dsとして決定し、その値Dsを閾電流値設定器107で設定する。
前記閾電流値Dsは、具体的には、前記消弧状態での電流値Bよりも少し高い値を閾電流値として定めることができる。勿論、電流値AとBの丁度中間の値とすることも可能である。
また本実施形態では、閾電流値Dsを閾電流値設定器107により手動設定する構成としているが、勿論、閾電流値Dsを自動的に演算して決定して、これをマイクロコンピュータ100内に記憶させるようにしてもよい。例えばDs=1/2(A+B)>B、Ds=1/3(A+B)>B、等の演算式を用いて自動演算することができる。
以上により設定した閾電流値Dsは、マイクロコンピュータ100の図示しない記憶部に記憶される。
【0022】
そして前記閾電流値Dsを用いたアークの状態の判定は、閾電流値Dsと検出電流値Dとをマイクロコンピュータ100内の図示しない比較部において比較させ、その大小を自動判定することにより行う。そして検出電流値Dが閾電流値Dsよりも大であればアークが点弧状態にあり、検出電流値Dが閾電流値Ds未満であればアークが消弧状態にあると自動判定させる。
勿論、マイクロコンピュータ100の比較部において検出電流値Dと閾電流値Dsとを引き算し、その差がプラスからマイナスになったときにアークが点弧状態から消弧状態になったと自動判定し、差がマイナスからプラスになったときにアークが消弧状態から点弧状態になったと自動判定するようにしてもよい。
【0023】
制御部14には流量切換器13の弁作動時間を設定するタイマー設定器108を設ける。
このタイマー設定器108により弁作動時間が設定されると、その弁作動時間はタイマー設定時間として、マイクロコンピュータ100内の図示しないタイマー部に記憶される。
マイクロコンピュータ100内でタイマーがスタートすると、その弁作動時間(タイマー設定時間)が経過するまでの間、流量切換器13の電磁弁13aが作動状態となって、切換用流路12のアフターフロー用支路12bをシールドガス流路4に接続する。
なお電磁弁13aは、必ずしも電磁的に作動する弁に限定されるものではなく、要するに流量切換器13を切換動作させることができる弁であればよい。
作動時間(タイマー設定時間)が経過すると、電磁弁13aの作動が停止される。すると流量切換器13に設けられた図示しない復帰バネによって、切換用流路12のメインフロー用支路13aがシールドガス流路4に接続する状態へと復帰する。即ち、切換用流路12は、通常時はメインフロー用支路12aがシールドガス流路4に接続され、電磁弁13aが作動している間のみアフターフロー用支路12bがシールドガス流路4に接続する構成とされている。
タイマー設定器108による作動時間(タイマー時間)は、前記溶接機2の弁機構21aがトーチ22のスイッチオフ後シールドガス流路4を閉止するまでの一定のアフターフロー時間(例えば10秒の遅延時間)に対応して、前記アフターフロー時間と同じ時間になるように設定することができる。また少し余裕を持たせて、アフターフロー時間より多少長く設定してもよい。この場合は、前記弁機構21aのシールドガス流路4が閉止された少し後に、シールドガス流路4との接続がアフターフロー用支路12bからメインフロー用支路12aに復帰することになる。
なお勿論であるが、タイマー設定器108によって設定された作動時間(タイマー時間)は、前記溶接機2のアークの状態が点弧状態から消弧状態になったことが判定されることで、前記電磁弁13aが作動を開始した時点から開始される。
【0024】
その他、追加拡張スイッチ17とフォトカプラ109からなる予備の入力手段が設けられている。
【0025】
一方、前記マイクロコンピュータ100からの出力として、電流検出表示LED110、弁作動中表示LED111が設けられている。電流検出表示LED110は、検出器15による溶接機2電流の検出中に点灯する。また前記弁作動中表示LED111は、前記流量切換器13の電磁弁13aが作動中に点灯する。
【0026】
前記マイクロコンピュータ100の重要な役割は、前記流路切換器13を制御する制御信号を形成して出力することである。即ち、流路切換器13を制御する制御信号は電磁弁出力ドライバー112に出力され、該電磁弁出力ドライバー112によって流路切換器13の電磁弁13aの作動及びその停止が行われる構成になされている。
【0027】
図4も参照して、シールドガス流量調節装置1によるシールドガス流量調節の制御動作を説明する。
今、溶接機2がメインスイッチはオンしているが、トーチ22のスイッチはオフの状態にある場合、即ち溶接機2が溶接待機状態にある場合、溶接機2には入力電源ライン23から電源が供給された状態になっているが、未だアークが点弧されていないので、流れる電流はごく僅かな基底状態にある。一方、シールドガス流路4は溶接機2の溶接機本体21の弁機構21aのところで遮断された状態にある。
一方、シールドガス流量調節装置1は、図示しない作動電源をオンする(ステップS1でイエス)ことで、検出器15による溶接機2の電流値の検出を開始する(ステップS2)。
【0028】
検出器15によって検出された電流値は信号フィルター104、ACアンプ105、DC変換器106を経て、検出電流値Dとしてマイクロコンピュータ100内の図示しない比較部に入り、予め設定され記憶されている閾電流値Dsと比較される(ステップS3)。
【0029】
今、溶接機2のトーチ22のスイッチがオンされると、先ず溶接機2の溶接機本体21の弁機構21aが作動して、シールドガス流路4をトーチ22に接続させ、シールドガスをトーチ22の図示しない電極の周りに流す。この状態では、シールドガス流量調節装置1の電磁弁13aが非作動状態であり、メインフロー用支路12aがシールドガス流路4と接続状態を維持して、通常流量(点弧状態での流量)のシールドガスがトーチ22に流れる。
そしてシールドガスが流れ出してから一定時間後にアークが点弧状態となり、溶接可能となる。
アークが点弧状態にある場合は、マイクロコンピュータ100において検出電流値Dが閾電流値Ds以上であると自動判定される(ステップS3でイエス)。この場合、マイクロコンピュータ100からは電磁弁出力ドライバー112へ電磁弁13aを駆動するための信号は出力されず、よって電磁弁13aはオフのままである(ステップS7)。即ち、シールドガス流量調節装置1のメインフロー用支路12aがシールドガス流路4に接続された状態を維持する。
【0030】
今、溶接作業においてトーチ22のスイッチがオフされると、アークが点弧状態から消弧される。そして前記スイッチオフから一定のアフターフロー時間(例えば10秒の遅延時間)後に溶接機2の弁機構21aがシールドガス流路4を閉塞する。これによってシールドガスのトーチ22への供給が終了する。
前記溶接機2において、アークが点弧状態から消弧状態になると、その時点で検出器15で検出された検出電流値Dが閾電流値Ds未満となるので、制御フローのステップS2における閾電流値以上か否かの判定においてノーと自動判定される(ステップS3でノー)。この判定がなされると、マイクロコンピュータ100は、電磁弁出力ドライバー112に駆動信号を出して、シールドガス流量調節装置1の電磁弁13aをオンにして作動状態にする(ステップS4)と共に、マイクロコンピュータ100内のタイマーをスタートさせる(ステップS5)。電磁弁13aが作動状態になると、アフターフロー用支路12bがシールドガス流路4に接続される。これによって、通常流量(点弧状態での流量)よりも少ない一定流量のシールドガスがアフターフローとしてトーチ22に流れる。
そしてタイマー時間が経過すると(ステップS6でイエス)と、マイクロコンピュータ100は電磁弁出力ドライバー112への駆動信号を停止することで、電磁弁13aの作動をオフする(ステップS7)と共に、前記タイマーをリセットする(ステップS8)。これによりシールドガス流量調節装置1のメインフロー用支路12aがシールドガス流路4に接続し、通常状態に復帰する。
【0031】
前記電磁弁13aがオン状態にある最中、即ちタイマーが未だ時間が経過していないアフターフロー中も、引き続き検出電流値Dを検出し、検出電流値Dが閾電流値Ds以上であるか否かの判断を継続する(ステップS6でノー、ステップS2、ステップS3)。
そしてアフターフロー中であっても検出電流値Dが閾電流値Dsより以上となった場合は、溶接が再開されてアークが消弧状態から点弧状態になったと判定し(ステップS3)し、電磁弁13aの作動を直ちにオフする(ステップS7)。
電磁弁13aの作動をオフすることにより、シールドガス流量調節装置1のメインフロー用支路12aがシールドガス流路4に復帰、接続され、アークの点弧状態に適した通常状態のシールドガスがトーチ22に流される。
【0032】
シールドガスの働きは、大きく分けて次のA、B、Cからなる。
A.溶接前:溶解金属の大気からの保護
B.溶接中:アークの保護
C.溶接後:トーチ電極(タングステン電極)の酸化保護
このうち前記A、Bは溶接結果に影響が出るが、Cは溶接が終了しているので、トーチ電極の酸化保護のみに必要である。
アフターフロー時のシールドガスにおけるトーチ電極であるタングステンの酸化保護は、溶接時に3000℃程度になるのを600℃程度まで下げれば、酸化の悪影響をさけることができる。
本願発明者等が行った実験によれば、TIG溶接における溶接時(点弧状態時)に流すシールドガスの平均的な流量を10リットル/minとし、且つ溶接終了後に流すアフターフローも同じ10リットル/minをそのまま流した場合、約5秒でトーチ電極の温度が600℃付近まで下がり、10秒では100℃程度となる。よって安全を見越して、少なくとも10リットル/minの流量を10秒間アフターフローとして流せば、トーチ電極の劣化を十分に抑えることができる。
一方、発明者等の行った更なる実験によれば、上記と同様の条件下で、アフターフローにおける流量を2リットル/minとした場合、トーチ電極が600℃付近まで下がる時間は、前記10リットル/minの場合とあまり差がなく、やはり5秒程度であることが判った。そしてその後における温度低下の差は、10リットル/minと2リットル/minと漸次大きくなるものの、10秒では200〜300℃まで確実に低下することが判った。
即ち、溶接時に10リットル/minのシールドガス流量を流すようにされたTIG溶接機では、アフターフローにおけるシールドガス流量を最大で1/5の2リットル/minまで減じることが可能であることが判った。
【0033】
TIG溶接を常用している多くの現場では、溶接装置1セットにつき1日に平均100回程度はアークの点弧、消弧が行われており、また仮付け溶接の多い職種では、それが1000回以上に達している事例も珍しくない。
従って、例えば消弧後のアフターフローが毎回10秒間で、1日に100回行われる場合には、1日で1000秒、1ヶ月で30000秒、即ち1ヶ月当たり500分となる。よってアフターフローに流すシールドガス流量を10リットル/minとした場合には、1ヶ月当たり、10リットル×500=5000リットル=5mの消費となる。
一方、アフターフローに流すシールドガス流量を2リットル/minとした場合には、1ヶ月当たり、2リットル×500=1000リットル=1mの消費となる。即ち、2ヶ月でボンベ1本分(7m)以上の節約ができることになる。これは、現場にある溶接機の数を勘案すれば、年間での大きなコスト削減効果を得ることになる。
勿論、アフターフローの流速を1/2の5リットル/minとしても、コスト削減効果は十分にある。
【0034】
本発明では、TIG溶接機において、アルゴンガスによるアフターフロー流量を2〜5リットル/minとし、アフターフロー時間を5秒以上、好ましくは10秒以上とすることを提唱する。
【0035】
以上の実施態様においては、TIG溶接等の非消耗電極を用いた不活性ガスアーク溶接機を対象として、シールドガス流量調節装置を説明した。しかしながら本シールドガス流量調節装置は、TIG溶断等の非消耗電極を用いた不活性ガスアーク溶断機に対しても用いることができるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1 シールドガス流量調節装置
2 不活性ガスアーク溶接機
3 シールドガス供給源
4 シールドガス流路
5 メインフロー調節器
11 ケース
11a センサーイン端子
11b 電源端子
11c ガスイン端子
11d ガスアウト端子
12 切換用流路
12a メインフロー用支路
12b アフターフロー用支路
12c アフターフロー調節器
13 流路切換器
13a 電磁弁
14 制御部
15 検出器
15a センサーケーブル
16 操作用電源ケーブル
16a ACアダプター
17 追加拡張スイッチ
21 溶接機本体
21a 弁機構
21b 電源接続端子台
21c 入力端子
21d ガスイン端子
22 トーチ
23 入力電源ライン
100 マイクロコンピュータ
101 電源フィルター
102 DC安定化電源
103 電源表示LED
104 信号フィルター
105 ACアンプ
106 DC変換器
107 閾電流値設定器
108 タイマー設定器
109 フォトカプラ
110 電流検出表示LED
111 弁作動中表示LED
112 電磁弁出力ドライバー
D 検出電流値
Ds 閾電流値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスアーク溶接機とシールドガス供給源との間に別体の付属品として配置されて、前記不活性ガスアーク溶接機で使用するシールドガスの流量を調節するシールドガス流量調節装置であって、それぞれ異なる流量が流れる複数の切換用流路と、該複数の切換用流路を切り換える流路切換器と、該流路切換器を制御する制御部と、前記不活性ガスアーク溶接機におけるアークの点弧、消弧の状態を検出してその情報を前記制御部に送る検出器とを備え、前記制御部は、前記検出器からの情報により前記不活性ガスアーク溶接機のアークが点弧状態か消弧状態であるかを自動判定すると共に、アークが点弧状態から消弧状態になったことを判定すると、前記流路切換器を介して前記切換用流路を切り換え、点弧状態での流量よりも少ない一定流量のシールドガスをアフターフローとして流すように構成したことを特徴とするシールドガス流量調節装置。
【請求項2】
制御部は、検出器からの情報により不活性ガスアーク溶接機のアークが点弧状態か消弧状態であるかを自動判定すると共に、アフターフロー中にアークが消弧状態から点弧状態になったことを判定すると、流路切換器を介して切換用流路を切り換え、再び点弧状態での流量を流すように構成したことを特徴とする請求項1に記載のシールドガス流量調節装置。
【請求項3】
検出器は、不活性ガスアーク溶接機に流れる電流値を検出し、制御部は前記検出器で検出した電流値から、点弧状態にあるか消弧状態にあるかを自動判定することを特徴とする請求項1又は2に記載のシールドガス流量調節装置。
【請求項4】
対象となる不活性ガスアーク溶接機について、点弧状態での電流値と消弧状態での電流値とから予め閾電流値を定めておき、該予め定めた閾電流値と実際の運転中に検出された電流値とを比較することにより、アークが点弧状態にあるか消弧状態にあるかを自動判定することを特徴とする請求項2又は3に記載のシールドガス流量調節装置。
【請求項5】
検出器は、不活性ガスアーク溶接機への外部からの入力電源ラインに取り付けて、その電流値を検出するようにしてあることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のシールドガス流量調節装置。
【請求項6】
不活性ガスアーク溶接機に代えて、不活性ガスアーク溶断機で使用するシールドガスの流量を調節することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のシールドガス流量調節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−125903(P2011−125903A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287088(P2009−287088)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(504054985)株式会社オカデン (1)
【Fターム(参考)】