説明

シールドケース固定構造及びそれを備える電子装置

【課題】電子部品が実装された回路基板上にシールドケースを固定する際に、熱硬化性接着剤が回路基板上の所定の領域内に流入することを抑止することができ、電子装置の性能にばらつきが生じてしまうことを防止することが可能なシールドケース等を提供する。
【解決手段】電子装置1は、電子部品8が実装された回路基板120上に、電子部品8を覆うようにシールドケース10が固定されたものである。回路基板120における熱硬化性接着剤が被着される部位Bには、パッドPが形成されており、そのパッドPの周囲にはソルダーレジストSRが成膜されている。また、パッドP上には、凸部D1が設けられており、これにより、熱硬化性接着剤がパッドPから内部領域Rin側へ流出することが効果的に防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品が実装された回路基板等の装置にシールドケースを固定するための構造、及び、そのシールドケースを有する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、基板に、半導体装置(半導体ICチップ等)等の能動部品、コンデンサ(キャパシタ)、インダクタ(コイル)、サーミスタ、抵抗等の受動部品等の電子部品が実装された回路ユニットやプリント配線基板といった電子装置(機器)では、外部への電磁ノイズの漏洩や外部からの電磁ノイズの侵入を遮蔽したり、搭載された電子部品を外力から保護するべく、その電子部品を覆うように金属製のシールドケースが設けられる。
【0003】
このシールドケースの回路基板への固定方法として、例えば特許文献1には、回路基板表面におけるグラウンド配線パターンが形成された部位に箱型シールドケースの開口端を当接させ、半田等の導電性接着剤を介してシールドケースと回路基板を接合固定する方法及びその構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−345592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載されているようなシールドケースが固定された回路基板からなる電子装置がリフロー等の熱印加処理によってマザーボード等に実装される場合、導電性接着剤として再溶融するもの(例えば半田等)が用いられていると、それが再溶融又は軟化することに起因してシールドケースの位置ずれや脱落(特にシールドケースの上壁が鉛直下方へ向いた状態でリフローされる場合)が生じ得るので、それを防止するべく、シールドケースの接着に導電性接着剤と熱硬化性接着剤を併用した構造も知られている。
【0006】
その手法の一つとして、例えば、回路基板上のグラウンド配線等の金属パッド上に未硬化の熱硬化性接着剤を被着し、それを硬化させてシールドケースと回路基板を接合固定することが考えられる。
【0007】
しかし、本発明者の知見によれば、そのような方法では、未硬化の熱硬化性接着剤が被着部位(塗布用金属パッド等)及びその周辺において不安定に流動してしまい、その被着部位から流出して電子部品や他の導体部分に付着した状態で硬化されるおそれがあり、そうなると、電子装置の電気的特性等の性能に有意なばらつきが生じ得ることが明らかになってきた。
【0008】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、電子部品が実装された回路基板上に電子部品を覆うようにシールドケースを固定する際に、熱硬化性接着剤が回路基板上の所定の領域内に流入することを抑止することができ、これにより、電子装置の性能にばらつきが生じてしまうことを防止することが可能なシールドケースの固定構造、及び、その構造を備える電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明によるシールドケースの固定構造は、回路基板上に実装された電子部品を覆うように、熱硬化性接着剤を用いてその回路基板に固定されたシールドケースを備える構造であって、回路基板は、熱硬化性接着剤が被着されるパッドと、熱硬化性接着剤(の少なくとも一部)がパッド上から回路基板における電子部品を含む所定領域内へ流出(所定領域を基準にすれば「流入」と表現してもよい)することを防止するように形成された流出防止手段とを有するものである。
【0010】
このように構成されたシールドケース固定構造では、回路基板に形成されたパッドに未硬化の熱硬化性接着剤を被着させ、回路基板上に実装された電子部品を覆うようにシールドケースを載置し、それを加熱して熱硬化性接着剤を硬化させることにより、シールドケースが回路基板上に固定される。このとき、熱硬化性接着剤がパッド上を流動したとしても、流出入防止手段によって、その流動した熱硬化性接着剤がパッド上から電子部品を含む所定領域内へ流出することが防止されるので、熱硬化性接着剤が電子部品やそれに接続する導体(パターン)に付着することなく、熱硬化性接着剤を硬化させて回路基板にシールドケースを固定することができる。
【0011】
また、流出防止手段は、熱硬化性接着剤がパッド上から所定領域外へ流出することを妨げないように形成されたものである。
【0012】
このようにすれば、熱硬化性接着剤がパッド上を流動したときに、その流動した熱硬化性接着剤を所定領域外へ流出させ易くなり、熱硬化性接着剤がパッド上から電子部品を含む所定領域内へ流出してしまうことが更に効果的に防止され得る。
【0013】
或いは、流出防止手段は、パッド上において熱硬化性接着剤が所定領域内へ向かうときの流動抵抗が、パッド上において熱硬化性接着剤が所定領域外へ向かうときの流動抵抗よりも大きくなるように形成されたものであっても好適である。
【0014】
こうすれば、全体として(結果的に)、パッド上を流動する熱硬化性接着剤が、回路基板における所定領域内へ向かって移動せずに、所定領域外へ向かって移動するので、その流動した熱硬化性接着剤を所定領域外へ流出させ易くなる。
【0015】
さらに、流出防止手段が、熱硬化性接着剤のパッド上における流動を阻害するように形成された止定部を有していても好ましい。具体的には、止定部は、熱硬化性接着剤の流動を堰き止めて(流れを妨げて)パッド上に留め置いたり、熱硬化性接着剤の流動方向を、所定領域へ向かう方向から、所定領域から遠ざかる方向へ変化(偏向)させるように機能する。
【0016】
より具体的には、止定部が、パッド上に突設又は立設された凸部(流動する熱硬化性接着剤に対する言わば堤防や突堤として機能する壁や段差)を有する構成が挙げられる。
【0017】
この場合、止定部が、パッドの周縁の少なくとも一部に沿って形成されたものであっても好適である。なお、その際、止定部は隙間なく連続的に形成されていてもよく、隙間を有して断続的に形成されていてもよい。
【0018】
こうすれば、止定部を比較的長く延在させることができ、これにより、その延在部で囲まれた広い空間を確保することができるので、かかる簡易な構造で、流動する熱硬化性接着剤をより多く堰き止めることが可能となる。
【0019】
また、本発明による電子装置は、本発明のシールドケース固定構造を用いて有効に構成されるものであり、回路基板と、回路基板上に実装された電子部品と、上述したシールドケース固定構造によって電子部品を覆うように回路基板に固定されたシールドケースとを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシールドケース固定構造によれば、電子部品が実装され且つシールドケースが固定される回路基板に、熱硬化性接着剤が被着されるパッドが形成されており、さらに、熱硬化性接着剤がパッド上から回路基板における電子部品を含む所定領域内へ流出することを防止するように形成された流出防止手段を有することにより、熱硬化性接着剤が電子部品やそれに接続する導体に付着することなく、熱硬化性接着剤を硬化させて回路基板にシールドケースを固定することができる。これにより、シールドケース固定構造を備える電子装置の性能に有意なばらつきが生じてしまうことを防止して製品の高い品質を一定に保つことができ、その結果、製品の信頼性及び生産性(歩留まり)を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明によるシールドケース固定構造及び電子装置に係る好適な一実施形態の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1に示す電子装置の正面図である。
【図3】図2におけるIII−III線断面の一部をより詳細に示す一部断面図であり、パッドと流出防止手段のパターン例を示す図である。
【図4】図3におけるIV−IV線断面図である。
【図5】本発明によるシールドケース固定構造及び電子装置に備わるパッドと流出防止手段の他のパターン例を示す平面図である。
【図6】本発明によるシールドケース固定構造及び電子装置に備わるパッドと流出防止手段の更に他のパターン例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。またさらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0023】
図1は、本発明によるシールドケース固定構造及び電子装置に係る好適な一実施形態の構成を概略的に示す斜視図である。電子装置1は、電子部品8が実装された回路基板120上に、電子部品8を覆うようにシールドケース10が固定されたものである。なお、電子部品8の種類は特に制限されず、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)のように動作周波数が非常に高いデジタルIC、F-RomやSDRAM等のメモリ系IC、高周波増幅器やアンテナスイッチ、高周波発振回路といったアナログIC等の能動素子や、バリスタ、抵抗、コンデンサ、線路等の受動素子等が挙げられる。
【0024】
シールドケース10は、略箱型形状をなし、その長辺壁11及び短辺壁12には、切り欠きT1が形成されており、それらの壁端(シールドケース10の開口の周端)が回路基板120の上面120aに対向した状態で固定設置されている。より具体的には、シールドケース10と回路基板120は、切り欠きT1が形成された部位において、熱硬化性樹脂又はその樹脂組成物からなる熱硬化性接着剤S1(第1の接着剤)を介して互いに接合されており、切り欠きT1が形成されていない部位において、半田等の導電性接着剤S2(第2の接着剤)を介して互いに接合されている。なお、図1においては、紙面奥側に位置する長辺壁11及び短辺壁12に設けられた切り欠きT1、並びに、熱硬化性接着剤S1及び導電性接着剤S2の図示を省略した。
【0025】
ここで、熱硬化性接着剤S1に用いられる熱硬化性樹脂としては、特に制限されず、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニルベンジルエーテル化合物樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアネートエステル系樹脂、ポリイミド、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル、ポリフェニレンオキサイド、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられ、これらを単独また は複数組み合わせて使用することができる。また、それらの樹脂組成物には、例えば、ゴム成分、無機フィラー(繊維を含む)、酸化物粉末等の適宜の添加剤、更には、他の添加助剤等を含めてもよい。
【0026】
さらに、熱硬化性接着剤S1と導電性接着剤S2は、所定温度における熱硬化性接着剤S1の粘度(絶対粘度:以下同様)ρ1が、その同じ所定温度における導電性接着剤S2の粘度ρ2よりも大きいものである。例えば、熱硬化性接着剤S1の粘度ρ1としては、数十〜数百Pa・s程度が挙げられ、導電性接着剤S2の粘度ρ2としては、1Pa・sオーダー以下程度が挙げられる。
【0027】
図2は、図1に示す電子装置1の正面図である。なお、本図においては、図示の都合上、長辺壁11の延在長方向を縮小して示す。図2に示す如く、熱硬化性接着剤S1が被着される部位に設けられた切り欠きT1は、正面視において略台形状をなすように成形されており、シールドケース10の長辺壁11における導電性接着剤S2が被着される部位Aは、回路基板120の上面120aと平行に形成されている。
【0028】
また、その部位Aと、回路基板120の上面120aにおける熱硬化性接着剤S1が被着される部位Bとの距離L1は、シールドケース10の長辺壁11における導電性接着剤S2が被着される部位Cと、回路基板120の上面120aにおける導電性接着剤S2が被着される部位Dとの距離L2(本実施形態では、実質的にゼロ)よりも大きくされている。この寸法の大小関係は、シールドケース10の短辺壁12においても同様である。
【0029】
ここで、L1−L2の値(本実施形態では略切り欠きT1の深さ相応する)は、例えば、予め計測された、導電性接着剤S2の溶融温度MP(所定温度)に曝されたときの熱硬化性接着剤S1の寸法、つまり、その温度条件下における熱硬化性接着剤S1の自立高さHに基づいて決定される。
【0030】
このシールドケース10を回路基板120に固定するには、例えば、まず、回路基板120の上面120aの図示所定位置に未硬化の熱硬化性接着剤S1と導電性接着剤S2の溜まりを被着させ、そこにシールドケース10を覆い被せてシールドケース10の長辺壁11及び短辺壁12の壁端(縁端)を導電性接着剤S2に当接させる。このとき、シールドケース10の長辺壁11及び短辺壁12には切り欠きT1が形成されているので、熱硬化性接着剤S1とシールドケース10の長辺壁11及び短辺壁12はとの間には、若干のギャップが生じ得る。
【0031】
次に、それを例えば導電性接着剤S2の溶融温度MP(所定温度)に所定時間加熱してから冷却する。これにより、導電性接着剤S2が一旦軟化・溶融して(粘度ρ2)固化するので、熱硬化性接着剤S2が被着された部位では、シールドケース10が回路基板120側に沈み込んで固着される。一方、熱硬化性接着剤S1が被着された部位では、熱硬化性接着剤S1が影響を受けることなく熱硬化されてシールドケース10が固着される。
【0032】
ここで、図3は、図2におけるIII−III線断面の一部をより詳細に示す一部断面図であり、回路基板に形成されたパッドと流出防止手段のパターン例を示す図である。また、図4は、図3におけるIV−IV線断面図である。
【0033】
回路基板120の上面120aにおける熱硬化性接着剤S1が被着される部位Bには、回路基板120の内部に形成されたグラウンド配線(導体パターン)に接続された例えばCu等の金属からなるパッドPが形成されている。シールドケース10の長辺壁11(短辺壁12も同様)は、そのパッドPを横断するように回路基板120上に設置される。なお、パッドPの形状は特に制限されず、図3には、馬蹄形状のもの(なお、回路基板120の端部寄りの直線部分は、ダイシングの都合によるものである)を例示した。また、電子部品8の他に回路基板120上に設置又は形成された導体9(電子部品の一部や配線等)の一部も追示した。
【0034】
また、パッドP並びに電子部品8及び導体9の周囲には、例えば紫外線硬化樹脂からなるソルダーレジストSRが成膜されており、適宜の形状にパターニングされている。
【0035】
さらに、パッドP上には、そこから突設された凸部D1が形成されている。この凸部D1は、パッドPの周弧に沿ってそのやや内側に、開口を有する弧状に立設されたものである。また、凸部D1の材料は特に制限されず、例えば、ソルダーレジストSRと同一又は同種の材料で形成することができる。その場合、ソルダーレジストSRの前駆体膜のパターニングと同時に凸部D1を形成することが可能であり、また、ソルダーレジストSRと同等の膜厚でも異なっていてもよい。
【0036】
パッドP上に塗布等によって被着された(留め置かれた)熱硬化性接着剤S1は、上述の如く、固化された状態でパッドPと強固に固着し得るものの、未硬化の状態では粘性が比較的低いため、パッドP上面を不安定に流動したり、シールドケース10が当接したときに押圧されて拡がりがちである。例えば、パッドPの中央部分に塗着され未硬化の熱硬化性接着剤S1は、パッドP表面との親和性(濡れ性)が高く、図示矢印Ya,Ybで示される方向に流動し得る。そして、凸部D1の壁に向かって移動する未硬化の熱硬化性接着剤S1(矢印Ya)は、凸部D1でその流れが妨げられる一方、凸部D1の平面開口に向かって移動する未硬化の熱硬化性接着剤S1(矢印Yb)は、そのままパッドPの外方へ流動する。
【0037】
その結果、流動した未硬化の熱硬化性接着剤S1が、パッドP上から、電子部品8や導体9を含む内部領域Rin(所定領域;図3において凸部D1の外方、且つ、シールドケース10の長辺壁11及び短辺壁12よりも電子部品8及び導体9側)へ流出することが防止されるので、熱硬化性接着剤S1が電子部品8や導体9に付着することなく、熱硬化性接着剤S1を硬化させて回路基板120にシールドケース10を固定することができる。このように、凸部D1は、熱硬化性接着剤S1のパッドP上における流動を阻害するように形成された止定部に相当し、ひいては、本発明における熱硬化性接着剤の流出防止手段として機能する。
【0038】
また、凸部D1が平面開口を有し、熱硬化性接着剤S1がパッドP上から内部領域Rinの外方、すなわち外部領域Rout(図3においてシールドケース10の長辺壁11よりも回路基板120の外周側))へ流出することが妨げられないので、流動した熱硬化性接着剤S1(凸部D1で堰き止められた熱硬化性接着剤S1も含めて)を外部領域Routへ流出させ易くなり、その結果、熱硬化性接着剤S1がパッドP上から内部領域Rinへ流出してしまうことを更に効果的に防止することができる。
【0039】
また、この場合、凸部D1が設けられることにより、パッドP上において未硬化の熱硬化性接着剤S1が内部領域Rinへ向かって流れるときの流動抵抗が、パッドP上において未硬化の熱硬化性接着剤S1が外部領域Routへ向かって流れるときの流動抵抗よりも大きくなるので、全体として(結果的に)、パッドP上を流動する熱硬化性接着剤S1が、回路基板120における内部領域Rinへ向かって移動せずに、外部領域Routへ向かって移動するように構成されていると言うこともできる。
【0040】
加えて、凸部D1が、パッドPの周縁に沿って弧状に立設されているので、凸部D1の延在長を長くすることができ、これにより、その凸部D1で囲まれた広い空間を確保することができるので、図示の如く簡易な構造で、内部領域Rin側へ流動する熱硬化性接着剤S1をより多く堰き止めることが可能となる。
【0041】
続いて、図5及び図6は、本発明によるシールドケース固定構造及び電子装置に備わるパッドと流出防止手段の他のパターン例を示す平面図である。これらの図5及び図6に示す電子装置1は、凸部D1に代えて、それぞれ凸部D2,D3を備えること以外は、図1〜図4に示す電子装置1と同様に構成されたものである。
【0042】
図5において、パッドP上に設けられた凸部D2は、回路基板120の長側壁と略平行に形成された複数の凸部D21と、それに直交する方向に形成された複数の凸部D22から構成されている。また、図6において、パッドP上に設けられた凸部D3は、全体として、図3及び図4に示す凸部D1が途中で分断された形状の複数部材からなる凸部D31と、その凸部D31と相似に形成されており、且つ、凸部D31の内側に並設された複数部材からなる凸部D32から構成されてる。
【0043】
これらの凸部D2,D3を備える電子装置1においても、その幾何学的な配置形状(パターン)から、パッドP上を流動して内部領域Rin側へ移動する未硬化の熱硬化性接着剤S1は、それらの凸部D2,D3によってその流れが妨げられ、パッドPから内部領域Rinへ流出することが防止されるとともに、外部領域Rout側への移動が促進される。よって、熱硬化性接着剤S1が電子部品8や導体9に付着することなく、熱硬化性接着剤S1を硬化させて回路基板120にシールドケース10を固定することが可能となる。
【0044】
また、熱硬化性接着剤S1の実質的な流路長が増大されるので、熱硬化性接着剤S1の流動抵抗が更に増大し、その移動がより一層妨げられ易くなる。このように、凸部D2,D3も、熱硬化性接着剤S1のパッドP上における流動を阻害するように形成された止定部に相当し、本発明における熱硬化性接着剤の流出防止手段として機能する。
【0045】
なお、上述したとおり、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、熱硬化性接着剤S1の止定部及び流出防止手段として、凸部D1,D2,D3の代わりに、パッドPに形成されたトレンチのような凹部を設けてもよい。この場合、パッドP上を内部領域Rinへ向かって流動する熱硬化性接着剤S1は、その凹部の内部空間に流入して堰き止められる。また、そのような凹部を凸部D1,D2,D3と併用してももちろんよい。さらに、凸部D1,D2,D3は、平面視において開口を有していなくてもよく、2列又は3列以上並設されていてもよい。さらに、凸部D1,D2,D3に代えて、電子装置1の動作に影響を及ぼさないようなダミー部品を回路基板120上に設置し、それにより熱硬化性接着剤S1の流れを阻害するようにしてもよい。
【0046】
またさらに、シールドケース10をグラウンドとして用いない(所定のアース電位に接地しない)場合には、パッドPは回路基板120内部のグラウンド配線に接続されていてもいなくてもよく、また、熱硬化性接着剤S1との密着性がソルダーレジストSRよりも優れるものであれば、金属製のものに限られない。これにより、回路基板120内のグラウンドパターンの位置に拘束されることなく、パッドPを所望の部位に設けてシールドケース10を固定することできる。さらにまた、回路基板120において、シールドケース10の切り欠きT1に対向する部位に別の切り欠きを設けてもよく、この場合、その切り欠きに嵌合するような凸状脚部をシールドケース10に設けてもよい。加えて、シールドケース10は、断面矩形の箱型でなくてもよく、他の任意の断面形状のものであってもよいし、さらに、底壁(設置状態において天壁)や側壁が板状に閉じていなくてもよく、例えば、メッシュ状であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したとおり、本発明のシールドケース固定構造及びそれを備える電子装置によれば、流出防止手段を備えることにより、回路基板に形成されたパッド上を流動し得る熱硬化性接着剤の流れを阻害して、熱硬化性接着剤がパッドから電子部品を含む所定領域内へ流出することを防止することができる。したがって、電子装置の性能に有意なばらつきが生じてしまうことを抑止して製品の高い品質を一定に保つことができ、その結果、製品の信頼性及び生産性を向上させることが可能となるので、種々の電子部品、殊に高周波で動作する電子部品が搭載された回路基板のシールド全般、及び、電子装置、モジュール、ユニット、機器、設備、システム、並びに、それらの製造や運転に、広く且つ有効に利用することができる
【符号の説明】
【0048】
1…電子装置(本発明によるシールドケース固定構造を備える)、8…電子部品、9…導体、10…シールドケース、11…長辺壁、12…短辺壁、120…回路基板、120a…上面、A,B,C,D…部位、D1,D2,D3,D21,D22,D31,D32…凸部(止定部、流出防止手段)、P…パッド、Rin…内部領域(所定領域)、Rout…外部領域、S1…熱硬化性接着剤、S2…導電性接着剤、SR…ソルダーレジスト、T1…切り欠き、Ya,Yb…矢印(未硬化の熱硬化性接着剤S1の流動方向)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板上に実装された電子部品を覆うように、熱硬化性接着剤を用いて前記回路基板に固定されたシールドケースを備える構造であって、
前記回路基板は、前記熱硬化性接着剤が被着されるパッドと、前記熱硬化性接着剤が前記パッド上から前記回路基板における前記電子部品を含む所定領域内へ流出することを防止するように形成された流出防止手段と、を有するものである、
シールドケース固定構造。
【請求項2】
前記流出防止手段は、前記熱硬化性接着剤が前記パッド上から前記所定領域外へ流出することを妨げないように形成されたものである、
請求項1記載のシールドケース固定構造。
【請求項3】
前記流出防止手段は、前記パッド上において前記熱硬化性接着剤が前記所定領域内へ向かうときの流動抵抗が、前記パッド上において前記熱硬化性接着剤が前記所定領域外へ向かうときの流動抵抗よりも大きくなるように形成されたものである、
請求項1又は2記載のシールドケース固定構造。
【請求項4】
前記流出防止手段は、前記熱硬化性接着剤の前記パッド上における流動を阻害するように形成された止定部を有する、
請求項1〜3のいずれか1項記載のシールドケース固定構造。
【請求項5】
前記止定部は、前記パッド上に突設又は立設された凸部を含む、
請求項4記載のシールドケース固定構造。
【請求項6】
前記止定部は、パッドの周縁の少なくとも一部に沿って形成されたものである、
請求項4又は5記載のシールドケース固定構造。
【請求項7】
回路基板と、
前記回路基板上に実装された電子部品と、
請求項1〜6のいずれか1項記載のシールドケース固定構造によって前記電子部品を覆うように前記回路基板に固定されたシールドケースと、
を備える電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−248820(P2012−248820A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121996(P2011−121996)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】