説明

シールドトンネルの接合工法及びその工法によるシールドトンネルの構造

【課題】既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合するに際して、シールド掘削機に特別な改造を必要とせず、薬液注入や凍結工法などの地盤改良を行わずして安全かつ安価に接合する。
【解決手段】既設シールドトンネル11の接合箇所には予め開口部12を設け、該開口部12へ可動式の仮設覆工体13を覆工しておく。接合施工時には、新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機30を掘進して既設シールドトンネル11の接合箇所である開口部12に近接させ、接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管20にて密閉する。その後に、シールド掘削機30の先端で仮設覆工体13をガイド管20内へ押し込んでシールド掘削機30を既設シールドトンネル11内へ貫入させる。そして、シールド掘削機の筒体と前記開口部12との隙間を止水した後に、ガイド管20と仮設覆工体13とシールド掘削機30のカッタを撤去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールドトンネルの接合工法及びその工法によるシールドトンネルの構造に関するものであり、特に、地盤改良やシールド掘削機の改造を必要としないシールドトンネルの接合工法及びその工法によるシールドトンネルの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルはその供用時の目的により、既設のトンネル側部に新設のトンネルを接合させる場合がある。そして、都市部においては、用地不足や道路占有による交通障害などの理由から開削施工は極めて困難であり、一般に地中で新設トンネルを既設トンネルに直接接合する工事が実施されている。
【0003】
従来、地中でシールドトンネルを接合する工法としては、例えば図12に示すように、既設シールドトンネル1の側面に新設シールドトンネル2を施工するシールド掘削機3を掘進して近接させ、事前に周囲の地盤に薬液注入やジェットグラウト、凍結工法などの地盤改良行い、地山の崩壊や地下水の噴出の危険性に対処した後に、既設シールドトンネル1の覆工の撤去やシールド掘削機3の隔壁及び面板を撤去してトンネルの接合を行う工法がある。
【0004】
また、図13に示すように、新設シールドトンネル2を施工するシールド掘削機3の前部に筒状のスライドフード3aを設け、既設シールドトンネル1の側面にシールド掘削機3が近接したときに該スライドフード3aを押し出して既設シールドトンネル1の側面に密着させるとともに、該スライドフード3aと既設シールドトンネル1との隙間周辺の地盤改良を行い、既設シールドトンネル1の覆工の撤去やシールド掘削機3の隔壁及び面板を撤去してトンネルの接合を行う工法もある。
【0005】
さらに、新設シールドトンネルを施工するシールド掘削機を接合箇所に近接させ、このシールド掘削機から既設シールドトンネル内に到達するようにパイプルーフ用パイプを削孔挿入して、このパイプを新設シールドトンネル内空断面の外周部に一定間隔で配列してパイプルーフを形成するシールドトンネルの接合工法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−67996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12に示す従来の接合工法は、トンネル接合部周囲の地盤改良を行う必要があるが、大規模或いは大深度(高水圧)化における地中接合では、必要とする地盤改良の工期や工事費が膨大となる。図13に示すスライドフード式の工法では、図12の工法に比べて地盤改良が簡単でよいが、やはり工事費の高騰が否めない。そして、スライドフードの先端形状が既設シールドトンネルの側面形状に適応する必要があり、また、掘進抵抗によりスライドフードが変形する虞があり、然るときは、スライドフードを所定位置まで押し出すことが困難となる。
【0007】
これに対して、特許文献1記載の発明は、パイプルーフで掘削時の地山を支保できるので、地盤改良を低減若しくは省略することができる。しかし、通常のカッタヘッドを縮径して引込ませ、パイプルーフ用パイプを削孔挿入させるので、シールド掘削機の使用が限定される。例えば、礫や岩盤対応のドーム型のカッタヘッドやモータ外付け式のカッタヘッドを備えたシールド掘削機では採用できない。また、シールド掘削機の改造によるコストアップも避けることができない。
【0008】
そこで、既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合するに際して、シールド掘削機に特別な改造を必要とせず、薬液注入や凍結工法などの地盤改良を行わずして安全かつ安価に接合するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合する工法において、前記既設シールドトンネルの接合箇所には予め開口部を設け、該開口部へ可動式の仮設覆工体を固定して覆工しておき、接合施工時には、新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機を掘進して前記既設シールドトンネルの接合箇所に近接させ、該接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉した後に、前記シールド掘削機の先端で前記仮設覆工体を既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込んで該シールド掘削機を既設シールドトンネル内へ貫入させ、該シールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間を止水した後に、前記ガイド管と仮設覆工体とシールド掘削機のカッタを撤去するシールドトンネルの接合工法を提供する。
【0010】
この構成によれば、既設シールドトンネルの接合箇所に設けた開口部に予め仮設覆工体を覆工しておく。既設シールドトンネルの接合箇所に新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機を近接させ、該接合箇所の内側をガイド管で密閉して止水する。そして、シールド掘削機の先端で仮設覆工体をガイド管内へ押し込んで既設シールドトンネル内へシールド掘削機を貫入させる。この貫入時はガイド管によって止水性能が保持されている。そして、シールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間を止水した後にガイド管や仮設覆工体を撤去する。
【0011】
請求項2記載の発明は、上記接合箇所内側のトンネル空間部に支保工を設置した後に、シールド掘削機を掘進して既設シールドトンネルの接合箇所に近接させるシールドトンネルの接合工法を提供する。
【0012】
この構成によれば、シールド掘削機を掘進して既設シールドトンネルの接合箇所に近接させる前に、既設シールドトンネルの接合箇所内側のトンネル空間部に支保工を設置しておき、シールド掘削機が接合箇所に近接するのに伴って開口部及び該開口部に固定した仮設覆工体にかかる土圧の増大に対抗する。
【0013】
請求項3記載の発明は、上記シールド掘削機の先端が既設シールドトンネルの接合箇所に当接した後に、支保工を撤去して接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉するシールドトンネルの接合工法を提供する。
【0014】
この構成によれば、シールド掘削機が接合箇所に当接した後は、接合箇所内側のトンネル空間部に設置してある支保工を撤去し、該トンネル空間部をガイド管にて密閉して次工程に備える。
【0015】
請求項4記載の発明は、上記接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉した後に、ガイド管内へ注水して充満させるシールドトンネルの接合工法を提供する。
【0016】
この構成によれば、接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉した後に、ガイド管内へ注水して充満させることにより、接合箇所の外側と内側の圧力を略等圧にして、後の工程でシールド掘削機の貫入を容易にする。
【0017】
請求項5記載の発明は、上記ガイド管内へ注水を完了した後に、開口部と仮設覆工体との固定を解除するシールドトンネルの接合工法を提供する。
【0018】
この構成によれば、ガイド管内へ注水を完了した後に、開口部と仮設覆工体との固定を解除することにより、シールド掘削機の貫入時に開口部から仮設覆工体を離脱する。
【0019】
請求項6記載の発明は、上記開口部と仮設覆工体との固定を解除した後に、シールド掘削機の先端で前記仮設覆工体を既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込んで、該シールド掘削機を既設シールドトンネル内へ貫入させるシールドトンネルの接合工法を提供する。
【0020】
この構成によれば、仮設覆工体の固定を解除した後に、シールド掘削機の先端で前記仮設覆工体を押圧することにより、開口部から仮設覆工体が離脱してガイド管内に充満している水が開口部と仮設覆工体との間から既設シールドトンネルの外へ排出され、仮設覆工体が既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込まれて、シールド掘削機が既設シールドトンネル内へ貫入する。
【0021】
請求項7記載の発明は、上記シールド掘削機を既設シールドトンネル内へ貫入させて、仮設覆工体を所定位置まで押し込んだ後に、シールド掘削機の内側からシールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間へ止水材を注入して止水するシールドトンネルの接合工法を提供する。
【0022】
この構成によれば、既設シールドトンネル内に貫入したシールド掘削機の内側からシールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間へ止水材を注入して、開口部周辺の地山からガイド管内への出水や崩壊を防止する。
【0023】
請求項8記載の発明は、既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合したシールドトンネルの構造であって、前記既設シールドトンネルの接合箇所に予め設けられている開口部へ可動式の仮設覆工体を固定して覆工しておき、新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機の先端で前記仮設覆工体を既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込み、該シールド掘削機を既設シールドトンネル内へ貫入させて、シールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間を止水した後にガイド管を撤去して形成されたシールドトンネルの構造を提供する。
【0024】
この構成によれば、既設シールドトンネル接合箇所に設けた開口部へ仮設覆工体を覆工しておき、新設シールドトンネルを接合する際は、シールド掘削機の先端で仮設覆工体を既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込むことにより、既設シールドトンネル内へシールド掘削機が貫入する。この貫入時はガイド管によって止水性能が保持され、シールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間を止水した後にガイド管や仮設覆工体を撤去することにより、既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合したシールドトンネルの構造が実現する。
【0025】
請求項9記載の発明は、上記開口部の内周及び仮設覆工体の外周にそれぞれトンネル内側へ突出するフランジを備え、前記開口部のフランジの直径がトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成され、かつ、前記仮設覆工体のフランジの直径が前記開口部のフランジに対応してトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成されたシールドトンネルの構造を提供する。
【0026】
この構成によれば、既設シールドトンネルの開口部の内周及び仮設覆工体の外周にそれぞれトンネル内側へ突出するフランジを備え、双方のフランジの直径がトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成されているので、前記開口部へ仮設覆工体を固定する際は、仮設覆工体のフランジが開口部のフランジへ密着して、仮設覆工体が所定位置より外側へ突出することもなく確実に覆工される。また、開口部と仮設覆工体との固定を解除して、シールド掘削機の貫入時に開口部から仮設覆工体を離脱させる際は、前記双方のフランジの直径がトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成されているので、仮設覆工体のフランジが開口部のフランジから容易に離反して、仮設覆工体がトンネルの中心方向へ移動する。
【0027】
請求項10記載の発明は、上記開口部のフランジと仮設覆工体のフランジとは、開口部のフランジの外側から着脱可能なジョイントにより固定されたシールドトンネルの構造を提供する。
【0028】
この構成によれば、開口部のフランジと仮設覆工体のフランジとは、開口部のフランジの外側から着脱可能なジョイントにより固定し、開口部から仮設覆工体を離反するときは、ガイド管の外側から前記ジョイントを取り外して、開口部と仮設覆工体との固定を解除する。
【0029】
請求項11記載の発明は、上記開口部のフランジと仮設覆工体のフランジとを固定するジョイントは、その基端部にネジを刻設するとともに先端部に先細りテーパー形状のピンを設け、一方、前記開口部のフランジには前記ジョイントのネジが螺合できるネジ孔が形成され、前記仮設覆工体のフランジには前記ジョイントのピンが嵌合できる先細りテーパー形状のピン孔が形成されたシールドトンネルの構造を提供する。
【0030】
この構成によれば、開口部のフランジの外側に設けられたネジ孔へジョイントを差し込み、ジョイントのピンの先端をネジ孔へ挿入して回転すれば、ジョイントのネジがネジ孔へ螺合するとともにピンがネジ孔から突出してピン孔に嵌合する。したがって、開口部のフランジと仮設覆工体のフランジとが固定される。一方、開口部から仮設覆工体を離反するときは、前記ジョイントを逆回転することによりジョイントのネジと前記ネジ孔との螺合が外れ、ジョイントのピンがピン孔から離脱して開口部のフランジと仮設覆工体のフランジとの固定が解除される。
【発明の効果】
【0031】
請求項1記載の発明は、既設シールドトンネルの接合箇所に設けた開口部に予め仮設覆工体を覆工しておき、新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機にて仮設覆工体を既設シールドトンネル内へ押し込んでシールド掘削機を貫入させて、既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合するので、シールド掘削機に特別な改造を必要とない。また、接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉するので、シールド掘削機を貫入時はガイド管にて止水性能が保持されるため、開口部周辺の地山へ薬液注入や凍結などの地盤改良を必要としない。かくして、シールドトンネルの地中接合を安全かつ安価に実施することが可能である。
【0032】
請求項2記載の発明は、既設シールドトンネルの接合箇所内側のトンネル空間部に支保工を設置しておくので、請求項1記載の発明の効果に加えて、シールド掘削機が接合箇所に近接する際に開口部及び該開口部に固定した仮設覆工体にかかる土圧の増大に対抗することができ、開口部と仮設覆工体との固定を確実に保持することができる。
【0033】
請求項3記載の発明は、既設シールドトンネルの接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉するので、請求項1記載の発明の効果に加えて、シールド掘削機を貫入したときにトンネル内の止水性能を保持することができる。
【0034】
請求項4記載の発明は、接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉した後にガイド管内へ注水して充満させるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、接合箇所の外側と内側の圧力が略等圧となり、シールド掘削機の貫入が容易となる。また、地山を開放する必要がないので、周囲の地盤の崩壊や出水に対して極めて安全である。
【0035】
請求項5記載の発明は、ガイド管内へ注水を完了した後に開口部と仮設覆工体との固定を解除するので、請求項1記載の発明の効果に加えて、シールド掘削機の貫入時に開口部から仮設覆工体を容易に離脱させることができる。
【0036】
請求項6記載の発明は、シールド掘削機の先端で仮設覆工体を既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込んでトンネル内へシールド掘削機を貫入するので、請求項1記載の発明の効果に加えて、開口部の外側と内側の圧力が略等圧であるため、既設シールドトンネルの開口部周辺の地山が崩壊することがなく、シールド掘削機が容易に貫入される。また、地盤改良を行わずして止水性能を保持することができる。
【0037】
請求項7記載の発明は、シールド掘削機の内側からシールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間へ止水材を注入するので、請求項1記載の発明の効果に加えて、開口部周辺の地山からガイド管内への出水や崩壊を防止することができる。
【0038】
請求項8記載の発明は、既設シールドトンネルの接合箇所に設けた開口部に予め仮設覆工体を覆工しておき、新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機にて仮設覆工体を既設シールドトンネル内へ押し込んでシールド掘削機を貫入させることにより、既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合したシールドトンネルの構造であるので、シールド掘削機に特別な改造を必要とせず、開口部周辺の地山へ薬液注入や凍結などの地盤改良を必要としない。したがって、シールドトンネルの地中接合を安全かつ安価に実施することができる。
【0039】
請求項9記載の発明は、開口部の内周及び仮設覆工体の外周に備えたフランジの直径が、それぞれトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成されているので、請求項8記載の発明の効果に加えて、開口部へ仮設覆工体を確実に覆工することができる。また、シールド掘削機の貫入時に開口部から仮設覆工体が容易に離反することができる。
【0040】
請求項10記載の発明は、開口部のフランジと仮設覆工体のフランジとが、開口部のフランジの外側から着脱可能なジョイントにより固定されているので、請求項8または9記載の発明の効果に加えて、接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉した状態で、前記ジョイントを取り外すことができ、開口部と仮設覆工体との固定及び解除を容易に行なうことができる。
【0041】
請求項11記載の発明は、ジョイントの基端部にネジを刻設するとともに先端部に先細りテーパー形状のピンを設け、開口部のフランジには前記ジョイントのネジが螺合できるネジ孔が形成され、仮設覆工体のフランジには前記ジョイントのピンが嵌合できる先細りテーパー形状のピン孔が形成されているので、ジョイントのネジとフランジのネジ孔との螺合部分が短く、ジョイントの基端部はネジ結合で先端部はピン結合となる。このため、ジョイントの着脱時にジョイントの回転量が少なくてすみ、ジョイントの着脱作業を短縮できる。したがって、開口部のフランジと仮設覆工体のフランジとの固定及び離反作業を容易かつ迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明に係るシールドトンネルの接合工法及びその工法によるシールドトンネルの構造について、好適な実施例をあげて説明する。既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合するに際して、シールド掘削機に特別な改造を必要とせず、薬液注入や凍結工法などの地盤改良を行わずして安全かつ安価に接合するという目的を、既設シールドトンネルの接合箇所には予め開口部を設け、該開口部へ可動式の仮設覆工体を固定して覆工しておき、接合施工時には、新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機を掘進して前記既設シールドトンネルの接合箇所に近接させ、該接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉した後に、前記シールド掘削機の先端で前記仮設覆工体を既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込んで、該シールド掘削機を既設シールドトンネル内へ貫入させ、該シールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間を止水した後に、前記ガイド管と仮設覆工体とシールド掘削機のカッタを撤去することにより実現した。
【実施例】
【0043】
既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合する場合は、図1乃至図3に示すように、既設シールドトンネル11の接合箇所に予め開口部12を設けておく。該開口部12は略円形状であり、該開口部12へ可動式の仮設覆工体13を固定して覆工しておく。この仮設覆工体13は前記開口部12の大きさに対応した円形状であり、既設シールドトンネル11の他の内壁面と同様に複数のセグメントを組み合わせて接合されている。
【0044】
前記開口部12の内周及び仮設覆工体13の外周には、それぞれトンネル内側へ突出するフランジ12a及び13aを備えており、開口部のフランジ12aの直径がトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成され、かつ、仮設覆工体のフランジ13aの直径が前記開口部のフランジ12aに対応してトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成されている。したがって、前記開口部12へ仮設覆工体13を固定する際は、仮設覆工体のフランジ13aが開口部のフランジ12aへ密着して、仮設覆工体13が所定位置より外側へ突出することもなく確実に覆工される。
【0045】
前記開口部のフランジ12aと仮設覆工体のフランジ13aとは、開口部のフランジ12aの外側から着脱可能なジョイント14により固定されている。該ジョイント14は基端部にネジ14aが刻設され、先端部に先細りテーパー形状のピン14bが設けられている。そして、開口部のフランジ12aに前記ジョイントのネジ14aが螺合できるネジ孔15が設けられ、仮設覆工体のフランジ13aには前記ジョイントのピン14bが嵌合できる先細りテーパー形状のピン孔16が設けられている。該ジョイント14は、開口部のフランジ12a及び仮設覆工体のフランジ13aの円周上に適宜間隔で複数箇所に設けられている。
【0046】
前記開口部のフランジ12aと仮設覆工体のフランジ13aとを固定する際には、開口部のフランジ12aの外側の空間部17へ前記ジョイント14を差し込み、ジョイントのピン14bの先端を前記ネジ孔15へ挿入してジョイント14を回転すれば、前記ジョイントのネジ14aがネジ孔15へ螺合し、ジョイントのピン14bがネジ孔15から突出してピン孔16に嵌合する。したがって、前記開口部のフランジ12aと仮設覆工体のフランジ13aとが該ジョイント14により固定され、開口部12へ仮設覆工体13が覆工される。
【0047】
このように、前記ジョイントのネジ14aとフランジのネジ孔15との螺合部分が短く、ジョイント14の基端部はネジ結合で先端部はピン結合となるため、ジョイント14の装着時にジョイント14の回転量が少なくてすみ、ジョイント14の装着作業を短縮できる。したがって、開口部のフランジ12aと仮設覆工体のフランジ13aとの固定作業を容易かつ迅速に行うことができる。
【0048】
なお、前記開口部12の上下には、既設シールドトンネル11の長手方向に補強桁18が設けられており、開口部12が変形しないように該補強桁18によって補強する。また、符号30は新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機であり、既設シールドトンネル11の側面に直交する方向から、既設シールドトンネル11の接合箇所すなわち前記開口部12及び該開口部12に固定した仮設覆工体13に向かって掘進する。
【0049】
図4及び図5に示すように、前記開口部12及び仮設覆工体13の内側のトンネル空間部には支保工19を設置する。該支保工19の設置により、シールド掘削機30が接合箇所に近接するのに伴って開口部12及び仮設覆工体13にかかる土圧の増大に対抗することができ、開口部12と仮設覆工体13との固定を確実に保持することができる。万一、シールド掘削機30の先端が接合箇所に衝突した場合でも、該支保工19によりその衝撃を受け止めて、開口部12及び仮設覆工体13が破損するのを防止できる。支保工19の間隔及び設置本数は適宜とする。
【0050】
図6乃至図8に示すように、シールド掘削機30の先端が前記仮設覆工体13に当接した後は前記支保工19を撤去する。そして、前記開口部12及び仮設覆工体13の内側のトンネル空間部をガイド管20にて密閉する。この密閉作業はトンネル内の止水性能を保持するためのものであり、ガイド管20へ注水したときの漏水防止と、シールド掘削機30がトンネル内へ貫入したときの出水や土砂の漏洩などを防止することができる。該ガイド管20の内部を仮設覆工体13が移動できるように、ガイド管20の直径は前記開口部12よりやや大に形成されている。
【0051】
開口部12及び仮設覆工体13の内側のトンネル空間部をガイド管20にて密閉した後は、ガイド管20内へ注水して充満させる。ガイド管20内へ水を充満させることにより、接合箇所の外側と内側の圧力を略等圧にして、後の工程でシールド掘削機30の貫入を容易にする。また、シールド掘削機30の貫入時に地山を開放する必要がないので、周囲の地盤の崩壊や出水に対して極めて安全である。
【0052】
ガイド管20内への注水が完了した後に、前記開口部12の外側の空間部17からジョイント14を弛緩させる。即ち、ジョイント14を逆回転することにより、前記ジョイントのネジ14aと前記ネジ孔15との螺合が外れ、ジョイントのピン14bがピン孔16から離脱して、前記開口部のフランジ12aと仮設覆工体のフランジ13aとの固定が解除される。
【0053】
このように、開口部のフランジ12aと仮設覆工体のフランジ13aとが、開口部のフランジ12aの外側から着脱可能なジョイント14により固定されているので、接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管20にて密閉した状態で、前記ジョイント14を取り外すことができる。また、前記ジョイントのネジ14aとフランジのネジ孔15との螺合部分が短く、ジョイント14の基端部はネジ結合で先端部はピン結合となるため、ジョイント14の取り外し時にジョイント14の回転量が少なくてすみ、ジョイント14の取り外し作業を短縮でき、開口部12と仮設覆工体13との固定解除を容易かつ迅速に行なうことができる。開口部12と仮設覆工体13との固定を解除することにより、後述のシールド掘削機30の貫入時に開口部12から仮設覆工体13を容易に離脱させることができる。
【0054】
図9及び図10に示すように、開口部12と仮設覆工体13との固定を解除した後に、シールド掘削機30の先端で前記仮設覆工体13を押圧する。然るときは、開口部12から仮設覆工体13が離脱して既設シールドトンネル11のガイド管20内へ押し込まれる。前述したように、開口部のフランジ12aの直径と仮設覆工体のフランジ13aの直径が、それぞれトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成されているので、シールド掘削機30に押圧されたときに開口部12から仮設覆工体13が容易に離反することができる。
【0055】
シールド掘削機30の貫入時に仮設覆工体13が押し込まれた分だけ、ガイド管20内に充満している水が開口部12と仮設覆工体13との間から既設シールドトンネル11の外へ排出される。前述したように、開口部12の外側と内側の圧力が略等圧であるため、開口部12周辺の地山が崩壊することがなく、シールド掘削機30が容易に貫入される。また、地盤改良を行わずして止水性能を保持することができる。
【0056】
図11に示すように、シールド掘削機30を既設シールドトンネル11のガイド管20内へ貫入させて、仮設覆工体13を所定位置まで押し込んだ後は、シールド掘削機30の内側からシールド掘削機30の筒体と前記開口部12との隙間へ止水材を注入して、開口部12周辺の地山からガイド管20内への出水や崩壊を防止する。シールド掘削機30の筒体と前記開口部12との隙間を止水した後は、前記ガイド管20や仮設覆工体13を分解して撤去し、更に、シールド掘削機30のカッタを撤去すれば、既設シールドトンネル11の側面に新設シールドトンネルを接合することができる。
【0057】
このように、シールド掘削機30に特別な改造を必要とせず、接合箇所周辺の地山へ薬液注入や凍結などの地盤改良を必要としないので、シールドトンネルの地中接合を安全かつ安価に実施することができる。
【0058】
尚、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の接合工法を示し、シールド掘削機が接合箇所に向かっている状態の既設シールドトンネルの縦断正面。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】図1のB部分の拡大図。
【図4】本発明の接合工法を示し、トンネル空間部に支保工を設置した状態の既設シールドトンネルの縦断正面図。
【図5】図2のC−C線断面図。
【図6】本発明の接合工法を示し、シールド掘削機が接合箇所に当接して開口部と仮設覆工体との固定を解除した状態の既設シールドトンネルの縦断正面図。
【図7】図6のD−D線断面図。
【図8】図6のE部分の拡大図。
【図9】本発明の接合工法を示し、シールド掘削機の先端で仮設覆工体を押し込んだ状態の既設シールドトンネルの縦断正面図。
【図10】図9のF部分の拡大図。
【図11】本発明の接合工法を示し、仮設覆工体を所定位置まで押し込んだ状態の既設シールドトンネルの縦断正面図。
【図12】従来の接合工法の一例を示す縦断正面図。
【図13】従来の接合工法の他の一例を示す縦断正面図。
【符号の説明】
【0060】
11 既設シールドトンネル
12 開口部
12a フランジ
13 仮設覆工体
13a フランジ
14 ジョイント
14a ネジ
14b ピン
15 ネジ孔
16 ピン孔
17 空間部
18 補強桁
19 支保工
20 ガイド管
30 シールド掘削機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合する工法において、
前記既設シールドトンネルの接合箇所には予め開口部を設け、該開口部へ可動式の仮設覆工体を固定して覆工しておき、
接合施工時には、新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機を掘進して前記既設シールドトンネルの接合箇所に近接させ、
該接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉した後に、前記シールド掘削機の先端で前記仮設覆工体を既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込んで該シールド掘削機を既設シールドトンネル内へ貫入させ、
該シールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間を止水した後に、前記ガイド管と仮設覆工体とシールド掘削機のカッタを撤去することを特徴とするシールドトンネルの接合工法。
【請求項2】
上記接合箇所内側のトンネル空間部に支保工を設置した後に、シールド掘削機を掘進して既設シールドトンネルの接合箇所に近接させる請求項1記載のシールドトンネルの接合工法。
【請求項3】
上記シールド掘削機の先端が既設シールドトンネルの接合箇所に当接した後に、支保工を撤去して接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉する請求項1記載のシールドトンネルの接合工法。
【請求項4】
上記接合箇所内側のトンネル空間部をガイド管にて密閉した後に、ガイド管内へ注水して充満させる請求項1記載のシールドトンネルの接合工法。
【請求項5】
上記ガイド管内へ注水を完了した後に、開口部と仮設覆工体との固定を解除する請求項1記載のシールドトンネルの接合工法。
【請求項6】
上記開口部と仮設覆工体との固定を解除した後に、シールド掘削機の先端で前記仮設覆工体を既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込んで、該シールド掘削機を既設シールドトンネル内へ貫入させる請求項1記載のシールドトンネルの接合工法。
【請求項7】
上記シールド掘削機を既設シールドトンネル内へ貫入させて、仮設覆工体を所定位置まで押し込んだ後に、シールド掘削機の内側からシールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間へ止水材を注入して止水する請求項1記載のシールドトンネルの接合工法。
【請求項8】
既設シールドトンネルの側面に新設シールドトンネルを接合したシールドトンネルの構造であって、
前記既設シールドトンネルの接合箇所に予め設けられている開口部へ可動式の仮設覆工体を固定して覆工しておき、新設シールドトンネル施工用のシールド掘削機の先端で前記仮設覆工体を既設シールドトンネルのガイド管内へ押し込み、該シールド掘削機を既設シールドトンネル内へ貫入させて、シールド掘削機の筒体と前記開口部との隙間を止水した後にガイド管を撤去して形成されたことを特徴とするシールドトンネルの構造。
【請求項9】
上記開口部の内周及び仮設覆工体の外周にそれぞれトンネル内側へ突出するフランジを備え、前記開口部のフランジの直径がトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成され、かつ、前記仮設覆工体のフランジの直径が前記開口部のフランジに対応してトンネルの中心に向けて拡径されたテーパー状に形成された請求項8記載のシールドトンネルの構造。
【請求項10】
上記開口部のフランジと仮設覆工体のフランジとは、開口部のフランジの外側から着脱可能なジョイントにより固定された請求項8または9記載のシールドトンネルの構造。
【請求項11】
上記開口部のフランジと仮設覆工体のフランジとを固定するジョイントは、その基端部にネジを刻設するとともに先端部に先細りテーパー形状のピンを設け、一方、前記開口部のフランジには前記ジョイントのネジが螺合できるネジ孔が形成され、前記仮設覆工体のフランジには前記ジョイントのピンが嵌合できる先細りテーパー形状のピン孔が形成された請求項8,9または10記載のシールドトンネルの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−152680(P2006−152680A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344792(P2004−344792)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】