説明

シールド回路板

【目的】 高周波信号の伝送損失の少ない片面又は両面のシールド構造のフレキシブル回路板を提供する。
【構成】 片面シールド回路板又は両面シールド回路板で、接着剤層がアルコキシシラングラフトのエチレン−エチルアクリレート共重合体接着性樹脂組成物である。また、該シールド回路板がドレイン回路を有し、又は導電層が互いに短絡するか、ドレイン回路と短絡する点に、導体回路上の接着剤層に直接導電層を形成した点に特徴。
【効果】 剥離強度、半田耐熱性、難燃性にも優れたフレキシブル回路板。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高周波信号の伝送損失の少ないシールド構造のフレキシブル回路板を提供することを目的とするものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】電子機器の軽量小形化、高性能化するにつれて、通常の絶縁被覆電線に替わって、絶縁基板上に金属箔の配線部を形成したフレキシブル回路板が、ビデオ機器、オーディオ機器、計算機、時計、カメラなどの民生用電子機器や、医療機器や電子計算機などの産業用電子機器の各種配線に使用されるようになっている。
【0003】上記フレキシブル回路板は、高分子フィルム等の絶縁基材の片面もしくは両面に接着剤を介して電解銅箔、圧延銅箔等の導体薄膜を接着する。そして、化学的なエッチング法により所要の導体回路パターンを作成する。
【0004】さらに、この導体回路を絶縁、保護するために、表面にカバーレイフィルムを貼合せるか、あるいはオーバーレイ層を形成し、メッキ、打ち抜き、補強板貼り合わせ等の工程を経て製造されている。絶縁基材にはポリイミドフィルムやポリエステルフィルムなどの高分子フィルムが多用されている。
【0005】上記の有機高分子フィルムと銅箔の貼合せやカバーレイフィルムの貼合せに使用される接着剤としては、ポリイミドフィルムと銅箔との接着剤を例にとれば、エポキシ−ノボラック系樹脂(Dow Chemical社 DEN438 など) 、シリコーン樹脂(Dow Corning社 DC282など) 、ニトリル−フェノール系樹脂(B.F.Goodrich 社 Plastilock 605 など)、ポリエステル系樹脂(USM 社 Bostic 7151+Boscodurlなど)、アクリル系樹脂(B.F.Goodrich社 Hycar 2679X6, Rohm & Hass社 PhoplexLC40 , UCC 社 Ucar 370 など) が知られている(工業材料, vol.21, No.10,p 28, 1981) 。
【0006】フレキシブル回路板に電子部品を実装する場合、電子部品の実装は半田付けによって行なわれる。このため、フレキシブルプリント配線板には260〜280℃の半田耐熱性が要求される。また、その他の一般的な特性として、難燃性、寸法安定性、耐薬品性、耐熱老化性、引裂強度、低吸水性も要求される。
【0007】また、昨今、特にビデオ機器、オーディオ機器、医療機器等の電子機器においては、電子機器の多機能化に伴い、信号をデジタル化して伝送するケースが多く、デジタル信号の周波数が通常1MHz以上の高周波信号であるために、導体回路上を流れる信号が周囲の他の電子部品や他の回路板等の導体にノイズを与える等の問題が起こることがよくある。
【0008】このような問題を回避する手段としては、高周波信号を伝送する回路板の周囲に導電性ペーストを塗布したり、金属箔を貼り付けるなどの方法で回路板の周囲に導電性のシールド層を形成し、このシールド層を接地するなどの方法が従来から知られている。構造(a)は、回路板の片面に導電性シールド層を設けた構造の回路板の断面の模式図である。
【0009】
【表9】


【0010】構造(a)において、導電性シールド層を設けることにより、導体回路に伝送される信号から発生する電気的ノイズはシールド層によって遮蔽することができる。ところが、この構造の回路板は導体回路と導電性シールド層とが平行板コンデンサーを形成するために、導体回路と導電性シールド層の間に分布する静電容量によって、導体回路を流れる信号は周波数が高くなるにつれて強度が減衰してしまう欠点がある。
【0011】また、フレキシブル回路板の接着剤には、前述のように、エポキシ系接着剤、ポリエステル系接着剤やアクリル系樹脂接着剤が使用されている。これらの接着剤は、絶縁基材やカバーレイフィルムとして使われるポリイミドフィルムやポリエステルフィルム、銅箔等の導体箔との剥離強度や半田耐熱性は優れているが、比誘電率がおよそ4.0以上のものが多く、導電性シールド層を有する構造のフレキシブル回路板とした場合に、導電性シールド層と導体箔間の静電容量が大となり好ましくない。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる問題について鋭意検討した結果、■ 構造(a)において、接着剤層2がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレートを主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板が、■ 構造(b)において、ドレインと導電層が短絡されており、接着剤層2もしくは接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板が、■ 構造(c)において、導電層が互いに短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板が、■ 構造(d)において、導電層が互いに短絡するとともに該導電層がドレインに短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板が、導体回路から発生する電気的ノイズを低減し、しかも導体回路を流れる電気信号の高周波成分の減衰が少ないシールド回路板であることを見出した。
【0013】さらには、■ 構造(e)〜(h)の導体回路上の接着剤層上に直接、導電層を形成した構造で、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板が、導体回路から発生する電気的ノイズを低減し、しかも導体回路を流れる電気信号の高周波成分の減衰が少なく、しかも全体の厚みを薄肉化できるシールド回路板であることを見出し、かかる見地に基づき本発明を完成せしめるに至った。
【0014】すなわち、本発明は;
(1) 構造(a)の片面シールド回路板において、接着剤層2がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板である。また
【0015】
【表10】


【0016】(2) 構造(b)のドレイン回路を有する片面シールド回路板において、当該ドレインと導電層が短絡されており、接着剤層2もしくは接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板であり、
【0017】
【表11】


【0018】(3) 構造(c)の両面シールド回路板において、導電層が互に短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板であり、
【0019】
【表12】


【0020】(4) 構造(d)のドレイン回路を有する両面シールド回路板において、導電層が互に短絡するとともに該導電層がドレイン回路に短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板であり、
【0021】
【表13】


【0022】(5) 構造(e)の片面シールド回路板において、接着剤層2もしくは接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板であり、
【0023】
【表14】


【0024】(6) 構造(f)のドレイン回路を有する片面シールド回路板において、当該ドレイン回路と導電層が短絡されており、接着剤層2もしくは接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板であり、
【0025】
【表15】


【0026】(7) 構造(g)の両面シールド回路板において、導電層が互に短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板であり、
【0027】
【表16】


【0028】(8) 構造(h)のドレイン回路を有する両面シールド回路板において、導電層が互に短絡するとともに該導電層がドレイン回路に短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板であり、
【0029】
【表17】


(9) アルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体中に含まれるエチルアクリレート含量が5%以上19%以下である点にも特徴を有する。
【0030】本発明を具体的に説明する。アルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体は、エチレン−エチルアクリレート共重合体に、例えば、t−ブチル−パーオキシベンゾエートなどのラジカル重合触媒の存在下に、アルコキシシラン化合物をニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出機などを使用して溶融混合或いは加熱混練する熱溶融グラフト方法など(例えば、特公昭60−3096など)で製造することができる。
【0031】また、アルコキシシランとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロポキシシランなどを挙げることができる。特に限定の必要はないが、エチレン−エチルアクリレート共重合体中のエチルアクリレート単位の含有量は1乃至30重量%、メルトフローレートは190℃、荷重2160gで0.5乃至30、また、エチレン−エチルアクリレート共重合体にグラフトされるシラン量は、0.02乃至0.2重量%の範囲に設定すれば、樹脂組成物とした場合の溶融流動性の点で好ましい。
【0032】なお、アルコキシシランをグラフトしたその他の樹脂としては、シラングラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、シラングラフトポリエチレン等が知られているが、シラングラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体は水分吸収等によって溶融特性が変化するため好ましくなく、またシラングラフトポリエチレンは導体薄膜として使用される銅箔との接着性が低いため好ましくない。
【0033】アルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体に含まれるエチルアクリレート含量については、特に、導体回路を流れる電気信号の高周波成分の減衰量の抑制という観点から、エチルアクリレート含量の少ないものが好ましい。具体的には、エチルアクリレート含量がおよそ19重量%でアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体の比誘電率は1MHzにおいて2.9であり、エチルアクリレート含量が0%に近づくと比誘電率が1MHzにおいて約2.2となる。
【0034】但し、導体回路や絶縁基材、カバーレイフィルムとの剥離強度の観点からは、エチルアクリレート含量を5重量%以上に設定することが望ましいため、電気的特性と剥離強度とのバランスにおいて、エチルアクリレート含量を5重量%以上、19重量%以下に設定することが特に好ましい。
【0035】構造(b)などのドレイン回路付のシールド回路板においては、回路間のクロストークを減少させる目的で、ドレイン回路を任意の2つの回路の間に形成してもよく、アルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着剤層の比誘電率が低いので、ドレイン回路と隣接する回路間に形成される静電容量も小さくでき、高周波成分の減衰も少なくできる。
【0036】
【表18】


【0037】さらに、比誘電率が低いので、ドレイン回路と隣接する回路間に形成される静電容量による高周波成分の減衰も少なくできる。また、このシラングラフトのエチレン−エチルアクリレート共重合体接着性樹脂組成物層には、従来のホットメルト接着剤、例えばポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系(エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体など)のホットメルト接着剤を、該シラングラフトのエチレン−エチルアクリレート共重合体の機能を損なわない範囲の少量で配合してもよい。
【0038】また、半田耐熱性や耐エッチング性の観点からはアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物を架橋することが望ましく、有機過酸化物の添加による熱加硫や電離放射線の照射等の方法が使用できる。架橋工程の生産性から考慮すると、電離放射線の照射が好ましく使用できる。
【0039】電離放射線源としては、電子線、α線、γ線、紫外線、X線などの利用が可能であるが、電離放射線の透過厚み、所要照射線量と照射時間の関係など工業的利用という見地からは、特に電子線の利用が望ましい。電子線の照射に関しては、透過厚みの関係上、電子線の加速電圧としては200kV〜2MeVの範囲に設定することが望ましい。
【0040】電離放射線の照射線量は3〜30Mradの範囲が耐エッチング性の観点から好ましい。3Mrad未満では、接着性樹脂組成物の架橋が不足するため耐エッチング性が十分でなく、また、照射線量が30Mradを越えると導体回路の剥離強度が低下する。
【0041】また、半田耐熱性の観点からは、分子内に複数個の不飽和結合分を有する多官能性化合物を添加することが特に好ましく、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートなどのアクリル系多官能性モノマー;トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、テトラアリルオキシエタンなどのアリル系多官能性モノマーのほか、アクリル変成エポキシ系オリゴマー、アクリル変成エステルオリゴマーなどの多官能性オリゴマー類などを例示することができる。該多官能性化合物としては、これらの群から選ばれる一種もしくは二種以上の化合物を添加することも可能である。
【0042】さらに、難燃性の観点からは、アルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体樹脂にテトラブロモビスフェノール誘導体、ポリブロモジフェニルエーテル誘導体、臭素化フタルイミド誘導体、パークロロペンタシクロデカンなどの含ハロゲン系難燃剤や含リン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機難燃剤のほか、必要に応じて、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、酸化モリブデンなどの難燃助剤を添加すれば、UL94規格のV−Oにランクされる高難燃性のシールド回路板を得ることが可能である。
【0043】また、ヒンダードフェノール誘導体、アミン誘導体などの酸化防止剤、含硫黄系、含リン系の酸化防止剤も添加可能であり、必要に応じて滑剤、着色剤、安定剤などの添加も可能である。上記材料の混合はオープンロールミキサーの他、単軸、もしくは多軸の混合機など既知の方法が利用できる。
【0044】上記の樹脂組成物を使用したポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等の絶縁基材、カバーレイフィルムと導体回路の貼合せは、熱プレス装置や熱ラミネーター等が使用できる。特に、熱プレスの場合、150℃乃至は180℃で1分〜5分の加圧が適当である。
【0045】
【実施例】以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を制限しない。
(実施例1)アルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体〔エチルアクリレート含量=12wt%、MI=5(190℃、2160g荷重)、グラフトシラン量=0.05wt%〕100重量部に対し、トリアリルイソシアヌレート2重量部、テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト〕メタン1重量部を120℃に加熱したオープンロールミキサーで混合後、ペレット化した後、Tダイ押出機でダイス温度150℃にてポリイミドフィルム(厚み25μm)上に、厚み40μmの接着性樹脂組成物のフィルムを形成した。
【0046】この接着層付きポリイミドフィルムと電解銅箔(厚み35μm)とを180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着した後切断し、20mm×200mmの銅張り基板を得た。この銅張り基板の銅箔をエッチング法にて回路幅2.0mm、回路間隔2.0mmのストライプ回路を基板の長手方向と平行になるように形成した。上記接着層付きポリイミドフィルムに加速電圧が500kVの電子線を2Mrad照射してBステージ化した後、20mm×190mmに切断し、銅箔回路の端部が各5mmが露出するように貼合せ、180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着し、カバーレイフィルムを接着した。
【0047】このカバーレイフィルム上の全面に、導電性塗料(藤倉化成(株)製;ドータイト、TYPE S−1;商品名)を乾燥後の厚みが約10μmとなるように塗布、乾燥させた。この導電性塗料層の上に、上記Bステージ化した接着層付きポリイミドフィルムを180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着し、導電性塗料層上にカバーレイフィルムを貼合せた。この回路板の両面から加速電圧1MVの電子線をそれぞれ10Mrad照射して接着性樹脂組成物層を架橋硬化させ、片面シールド回路板を得た。
【0048】この回路板を長さ1mの半田リフロー炉(炉内温度220℃)に1m/分の速度で通し、基材やカバーレイフィルムの脹れを調べた結果、脹れは全くなかった。また、銅箔回路と絶縁基材およびカバーレイフィルムの剥離強度を調べた結果、絶縁基材側の銅箔回路剥離強度は1.46kg/cm、カバーレイフィルム側の銅箔回路剥離強度は1.32kg/cmであった。また、一本の銅箔回路と導電性塗料層間の静電容量を測定した結果、1MHzにおいて、平均26pFであった。
【0049】(実施例2)アルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体〔エチルアクリレート含量=9wt%、MI=5(190℃、2160g荷重)、グラフトシラン量=0.05wt%〕100重量部に対し、デカブロモジフェニルエーテル50重量部、三酸化アンチモン30重量部、トリアリルイソシアヌレート3重量部、テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト〕メタン1重量部を140℃に加熱したオープンロールミキサーで混合後、ペレット化した後、Tダイ押出機でダイス温度160℃にてポリイミドフィルム(厚み25μm)上に、厚み40μmの接着性樹脂組成物のフィルムを成形した。
【0050】この接着層付きポリイミドフィルムと電解銅箔(厚み35μm)を180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着した後、切断し、20mm×200mmの銅張り基板を得た。この銅張り基板の銅箔をエッチング法にて回路幅2.0mm、回路間隔2.0mmのストライプ回路を基板の長手方向と平行になるように形成した。
【0051】上記接着層付きポリイミドフィルムに加速電圧が500kVの電子線を1Mrad照射し、接着層をBステージ化した後、20mm×190mmに切断した。このBステージ化した接着層付きのポリイミドフィルム銅箔回路の端部が各5mmが露出するように、180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着し、カバーレイフィルムを貼合せた。
【0052】下記構造(i)で示した要領で、カバーレイフィルム層上の全面および絶縁基材側のポリイミドフィルム面の端部5mm幅を残した部分に、実施例1と同じ導電性塗料を、乾燥後の厚みが約10μmとなるように塗布、乾燥させた。
【0053】
【表19】


【0054】導電性塗料層の上に、上記Bステージ化した接着層付きポリイミドフィルムをそれぞれ180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着し、カバーレイフィルムを貼合せた。この回路板の両面から加速電圧1MVの電子線をそれぞれ10Mrad照射し、接着性樹脂組成物層を架橋硬化させ、両面シールド回路板を得た。
【0055】この回路板を長さ1mの半田リフロー炉(炉内温度220℃)に1m/分の速度で通し、絶縁基材やカバーレイフィルムの脹れを調べた結果、脹れは全くなかった。また、銅箔回路と絶縁基材およびカバーレイフィルムの剥離強度を調べた結果、絶縁基材側の銅箔回路剥離強度は1.32kg/cm、カバーレイフィルム側の銅箔回路剥離強度は1.41kg/cmであった。
【0056】また、この回路板の難燃性を調べた結果、UL(Underwriters Lab. )規格のVW−1垂直燃焼試験に合格する難燃性に優れたものであった。この回路基板の両面の導電性塗料層を短絡させ、一本の銅箔回路と導電性塗料層間の静電容量を測定した結果、1MHzにおいて、平均42pFであった。
【0057】(実施例3)実施例2の接着性樹脂組成物の材料を使って、Tダイ押出機で厚み40μmの接着性樹脂組成物のフィルム及び厚み25μmのポリイミドフィルム上に、厚み40μmの接着性樹脂組成物のフィルムを作成した。接着層付きポリイミドフィルムと電解銅箔(厚み35μm)を180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着した後切断し、20mm×200mmの銅張り基板を得た。この銅張り基板の銅箔をエッチング法にて回路幅2.0mm、回路間隔2.0mmのストライプ回路を基板の長手方向と平行になるように形成した。
【0058】ポリイミドフィルムなしの接着剤フィルムに、加速電圧が500kVの電子線を2Mrad照射してBステージ化した後、20mm×190mmに切断し、銅箔回路の端部が各5mmが露出するように貼合せ、180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着した。この貼り合わせた接着剤フィルムの全面に、導電性塗料(藤倉化成(株)製;ドータイト、TYPE S−1;商品名)を乾燥後の厚みが約10μmとなるように塗布、乾燥させた。
【0059】この導電性塗料層の上に、加速電圧が500kVの電子線を2Mrad照射して、接着層をBステージ化した接着層付きポリイミドフィルムを180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着し、導電性塗料層上にカバーレイフィルムを貼合せた。この回路板の両面から加速電圧1MVの電子線をそれぞれ10Mrad照射して接着性樹脂組成物層を架橋硬化させ、片面シールド回路板を得た。
【0060】この回路板の厚みは190μmであり、実施例1の回路板の220μmに比べて薄肉カップリング剤できており、この回路板を長さ1mの半田リフロー炉(炉内温度220℃)に1m/分の速度で通し、基材やカバーレイフィルムの脹れを調べた結果、銅箔回路剥離強度は1.52kg/cmであった。また、一本の銅箔回路と導電性塗料層間の静電容量を測定した結果、1MHzにおいて、平均39pFであり、比較例1の回路板が厚みが224μmで静電容量が44pFであるのと比べると、薄肉で低静電性容量となっていることが分かった。
【0061】(比較例1)フェノール−ノボラック系エポキシ樹脂(エポキシ価=120)とビス(4−アミノ−2−クロロフェニル)メタンの60/40(重量比)混合物を主体とする接着剤(トルエン/メチルエチルケトン=1/1溶剤、40重量%濃度)をポリイミドフィルム(厚み25μm)上に、乾燥後の膜厚が40μmになるように塗布、乾燥させた。
【0062】この接着剤付きのポリイミドフィルムと電解銅箔(厚み35μ)を180℃の熱プレス装置で30分間熱圧着し、接着剤を硬化させ、銅張り基板を得た。この銅張り基板を20mm×20mmの大きさに切断した後、この銅張り基板の銅箔をエッチング法にて回路幅2.0mm、回路間隔2.0mmのストライプ回路を基板の長手方向と平行になるように形成した。
【0063】上記接着剤付きポリイミドフィルムを120℃、15分の条件でBステージ化し、20mm×190mmに切断して、銅箔回路上に、端部の各5mmが露出するように貼合せ、180℃の熱プレス装置で30分間熱圧着し、カバーレイフィルムを接着した。このカバーレイフィルム上の全面に、実施例1で使用した導電性塗料を乾燥後の厚みが約10μmになるように塗布乾燥させ、この導電性塗料上に、上記Bステージ化した接着剤付きのポリイミドフィルムを180℃の熱プレス装置で30分間熱圧着し、導電性塗料層のカバーフィルムを接着し、片面シールド回路板を得た。この回路板の厚みは224μmであった。
【0064】この回路板を長さ1mの半田リフロー炉(炉内温度220℃)に1m/分の速度で通し、基材やカバーレイフィルムの脹れを調べた結果、脹れは全くなかった。また、銅箔回路と絶縁基材およびカバーレイフィルムの剥離強度を調べた結果、絶縁基材側の銅箔回路剥離強度は1.20kg/cm、カバーレイフィルム側の銅箔回路剥離強度は1.13kg/cmであった。また、一本の銅箔回路と導電性塗料層間の静電容量を測定した結果、1MHzにおいて、平均44pFであり、実施例1の片面シールド板の26pFに比べ、静電容量が大きかった。
【0065】(比較例2)比較例1の銅張り基板の銅箔を、エッチング法にて回路幅2.0mm、回路間隔2.0mmのストライプ回路を基板の長手方向と平行になるように形成した。比較例1のBステージ化した接着剤付きのポリイミドフィルムを20mm×190mmに切断して、銅箔回路上に、銅箔回路の端部の各5mmが露出するように貼合せ、180℃の熱プレス装置で30分間熱圧着し、カバーレイフィルムを接着した。
【0066】下記構造(i)で示す要領で、カバーレイフィルム層上の全面および絶縁基材層側のポリイミドフィルム面の端部5mm幅を残した部分に、実施例1で使用した導電性塗料を乾燥後の厚みが約10μmとなるように塗布、乾燥させた。
【0067】
【表20】


【0068】この導電性塗料層の上に、実施例1で使用した加速電圧が500kVの電子線を2Mrad照射することにより、Bステージ化した接着層付きのポリイミドフィルムをそれぞれ180℃の熱プレス装置で3分間熱圧着し、導電性塗料層上のカバーレイフィルムを貼合せ、両面シールド回路板を得た。
【0069】この回路基板の両面の導電性塗料層を短絡させ、一本の銅箔回路と導電性塗料層間の静電容量を測定した結果、1MHzにおいて平均70pFであり、実施例2の両面シールド回路板の42pFに比べ静電容量が大であった。
【0070】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、片面シールド構造、両面シールド構造の何れにおいても、導体回路とシールド層との間の静電容量の小さいフレキシブル回路板が得られる。しかも、剥離強度、半田耐熱性、難燃性にも優れたフレキシブル回路板が得られるので、フレキシブル回路板の分野における利用価値は非常に大きいものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 構造(a)の片面シールド回路板において、接着剤層2がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板。
【表1】


【請求項2】 構造(b)のドレイン回路を有する片面シールド回路板において、当該ドレインと導電層が短絡されており、接着剤層2もしくは接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板。
【表2】


【請求項3】 構造(c)の両面シールド回路板において、導電層が互に短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板。
【表3】


【請求項4】 構造(d)のドレイン回路を有する両面シールド回路板において、導電層が互に短絡するとともに該導電層がドレイン回路に短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板。
【表4】


【請求項5】 構造(e)の片面シールド回路板において、接着剤層2もしくは接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板。
【表5】


【請求項6】 構造(f)のドレイン回路を有する片面シールド回路板において、当該ドレイン回路と導電層が短絡されており、接着剤層2もしくは接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板。
【表6】


【請求項7】 構造(g)の両面シールド回路板において、導電層が互に短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板。
【表7】


【請求項8】 構造(h)のドレイン回路を有する両面シールド回路板において、導電層が互に短絡するとともに該導電層がドレイン回路に短絡しており、接着剤層2および接着剤層3がアルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体を主体とする接着性樹脂組成物であるシールド回路板。
【表8】


【請求項9】 アルコキシシランをグラフトしたエチレン−エチルアクリレート共重合体中に含まれるエチルアクリレート含量が5%以上19%以下であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれに記載のシールド回路板。