説明

シールド坑口封止用パッキン及びこれを用いたシールド坑口封止構造

【課題】トンネル掘削部の地下水及び土砂の圧力が高い場合でも封止機能を維持できるシールド坑口封止用パッキン及び封止構造の提供を課題とする。
【解決手段】筒状部材50の内周長と略同一長さ及び所定の幅を有し、筒状部材50の内周面に沿って配置され、筒状部材50側から供給される圧力水又は圧力空気によって筒状部材50の中心側に膨張する帯状のゴム部材と、ゴム部材52に全面に亘って埋設された繊維補強層54と、ゴム部材52の両側端部に設けられ、ゴム部材52の肉厚より大きい肉厚を有し、筒状部材50に設けられた固定部材58に係止されると共に、固定部材58と筒状部材50とによって挟持され、所定の位置に保持される取付部53,53と、所定の剛性及び強度を有すると共に帯状のゴム部材52の肉厚より大きな肉厚を有し、取付部53内に埋設された抜け止め部材11とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド坑口封止用パッキン及びこれを用いたシールド坑口封止構造に係り、特に、立坑の側方にトンネルを掘削する場合などに好適なシールド坑口封止用パッキン及びこれを用いたシールド坑口封止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
立坑の側方にシールドマシンによってトンネルを掘削する際に、トンネル掘削部に含まれる地下水及び土砂がシールドマシンの外周面とトンネル内周面との隙間から、立坑内に流出するのを防止するため、各種の封止構造が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。
【0003】
上記特許文献1に記載された封止構造は、図8に示すように、トンネル62の入口又は出口(図8は入口を示す)に設けられ、シールドマシン61の外径より大きな内径を有する筒状部材50と、この筒状部材50の内周面に沿って配置されたパッキン51とを有している。なお、筒状部材50とトンネル62間の隙間には、ここからトンネル掘削部における地下水及び土砂が漏れないようにするため、コンクリートなどが充填されている。
【0004】
上記のパッキン51は、図9に示すように、帯状のゴム部材52と、その両側端部に設けられた断面が楔状の取付部53とを有している。
【0005】
上記のゴム部材52及び取付部53内には、図10に示すように、繊維補強層54が埋設されている。この繊維補強層54は、二層の繊維部材55,55が積層されて形成されている。
【0006】
また、上記の繊維補強層54は、取付部53の根元部分の近傍で二層の繊維部材55,55が分離され、互いに所定の間隔をあけて取付部53内に埋設されている。
【0007】
更に、取付部53には、各繊維部材55,55に積層されて別の補強繊維56,56が埋設されている。取付部53における上記の繊維部材55,55の間には、硬質ゴム57が設けられている。
【0008】
図8に示したように、パッキン51の取付部53,53のうち、立坑60側に配置されるの一方の取付部53は、その一方の面53aを筒状部材50の内周面50aに当接させた状態で、筒状部材50の内周面に設けられた固定部材58に係止されると共に、固定部材58と筒状部材50とに挟持され、所定の位置に保持されている。
【0009】
また、トンネル62側に固定される他方の取付部53は、ゴム部材52と筒状部材50との間に入り込むように折り返されて、取り付け部53の他面53bを筒状部材50の内周面50aに当接させた状態で、固定部材58に係止されると共に、固定部材58と筒状部材50とに挟持され、所定の位置に保持されている。
【0010】
更に、筒状部材50に設けられた供給口59から、ゴム部材52と筒状部材50との間に形成される閉鎖空間65内に、圧力空気又は圧力水が供給され、ゴム部材52が全周に亘って筒状部材50の中心側にタイヤ状に膨張している。膨張後におけるゴム部材52の内周面の直径は、シールドマシン61における外周面61aの直径より小さくなる。
【0011】
これにより、タイヤ状に膨張したゴム部材52の内周面52aが、シールドマシン61
の外周面61aに密接し、筒状部材50とシールドマシン61との隙間が封止される。
【0012】
従って、トンネル62の入口において、トンネル掘削部に含まれる地下水及び土砂が、トンネル62の内周面とシールドマシン61の外周面61aとの隙間から、立坑60内に流出するのを防止できる。
【0013】
また、特許文献2には、上記の取付部53、53に突起を設けることにより、固定部材58と筒状部材50による取付部53の挟持力を上げるパッキンが記載され、特許文献3には、上記のゴム部材52と筒状部材50との間に形成される閉鎖空間65内に、圧力水又は圧力空気に代えて、その内部で架橋して弾力性を有する部材が充填されたパッキンが記載されている。
【0014】
更に、特許文献4には、上記の閉鎖空間65内の圧力水又は圧力空気の圧力を高くした場合に、上記の取付部53が所定の位置から移動するのを防止するため、固定部材58における取付部53との当接面に、凹凸が設けられたパッキンが記載されている。
【特許文献1】特開平8−35392号公報
【特許文献2】特開平8−277693号公報
【特許文献3】特開平8−312287号公報
【特許文献4】特開2001−12183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、トンネル掘削位置が大深度で、トンネル掘削部に含まれる地下水及び土砂の圧力が1.0MPa程度と高い場合、この地下水及び土砂圧を封止するためには、パッキン51内に供給する水圧又は空気圧を高くする必要があるが、従来のパッキン51はその内部に供給する水圧又は空気圧を高くすると、ゴム部材52に大きな張力が発生し、この張力により取付部53が固定部材58から外れてしまうおそれがあった。
【0016】
上記のように、パッキン51が固定部材58から外れると、パッキン51の封止機能が失われ、トンネル掘削部における地下水及び土砂が、筒状部材50の内周面50aとシールドマシン61の外周面との隙間から、立坑60内に流出するという問題が発生する。
【0017】
本発明は、このような問題に鑑みなされたもので、トンネル掘削部に含まれる地下水及び土砂の圧力が高い場合でも、パッキンの封止機能を維持でき、地下水及び土砂が立孔内に流出するのを確実に防止できるシールド坑口封止用パッキン及びこれを用いたシールド孔口封止構造の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前記課題を解決するため、以下の手段を採用した。すなわち、本発明は、立坑の側方にシールドマシンによってトンネルを掘削する際に、前記シールドマシンの外周面と前記トンネル内周面との隙間から、前記トンネルを掘削すべき地盤に含まれる地下水及び土砂が前記立坑内に流出するのを防止するため、前記トンネルの入口又は出口に設けられ、且つ前記シールドマシンの外径より大きな内径を有する筒状部材の内周面に沿って配置され、前記シールドマシンの外周面に密接されるパッキンであって、
前記筒状部材の内周長と略同一長さ及び所定の幅を有し、前記筒状部材の内周面に沿って配置され、前記筒状部材側から供給される圧力水又は圧力空気によって前記筒状部材の中心側に膨張する帯状のゴム部材と、
前記ゴム部材に全面に亘って埋設された繊維補強層と、
前記ゴム部材における両側端部に設けられると共に、前記ゴム部材の肉厚より大きい肉厚を有し、前記筒状部材に設けられた固定部材に係止されると共に、前記固定部材と前記
筒状部材とによって挟持され、所定の位置に保持される取付部と、
所定の剛性及び強度を有すると共に前記帯状のゴム部材の肉厚より大きな肉厚を有し、前記取付部内に埋設された抜け止め部材と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
上記の繊維補強層における二層の繊維部材は、例えばポリエステル補強コードを一方向に並べて織ることにより形成できる。この場合、二層の補強部材は、ポリエステル補強コードが互いにクロスするように配置するのが好ましい。
【0020】
本発明では、取付部内に所定の強度及びゴム部材の肉厚より大きな肉厚を有する抜け止め部材が埋設されているので、ゴム部材と筒状部材間に形成される閉鎖空間内に高圧の圧力水又は圧力空気が供給され、ゴム部材から取付部に大きな引張力が作用した場合でも、抜け止め部材が固定部材から外れることがないので、取付部が所定の位置に保持される。これにより、パッキンの封止機能を維持できる。
【0021】
ここで、前記抜け止め部材は、鋼製又は樹脂製の線状部材とするのが好ましい。この場合は、抜け止め部材の入手が容易であると共に、抜け止め部材をインサート成型によって取付部内に容易に埋設できる。
【0022】
また、前記繊維補強層が積層された二層の繊維部材によって形成され、前記二層の繊維部材が前記取付部の内部で分離されて互いに所定の間隔をあけて配置され、これらの分離された二層の繊維部材に、それぞれ別の補強繊維が積層されていることが好ましい。
【0023】
この場合は、取付部の強度が高くなるので、上記の閉鎖空間内に供給される圧力水又は圧力空気の圧力が高い場合でも、取付部が破損するのを防止できる。
【0024】
また、本発明は、上記のシールド坑口封止用パッキンを用いたシールド坑口封止構造であって、
前記トンネルの入り口又は出口に設けられ前記シールドマシンの外径より大きな内径を有する筒状部材と、
前記筒状部材の所定の位置に固定され、前記シールド坑口用パッキンにおける前記取付部が係止されると共に、前記筒状部材と協働して前記取付部を挟持する固定部材と、
前記筒状部材の内周面と前記パッキンにおける前記ゴム部材との間に形成される閉鎖空間内に、所定の圧力を有する圧力水又は圧力空気を供給するべく、前記筒状部材に設けられた供給口とを備え、
前記パッキンにおける前記取付部のうち、一方の前記取付部は、その一方の表面が前記筒状部材の内周面に当接して固定され、他方の前記取付部は、折り返されてその他方の表面が前記筒状部材の内周面に当接して固定されていることを特徴とする。
【0025】
上記の筒状部材としては、円筒部材が好ましいが、多角形など各種の筒状部材を用いることができる。
【0026】
本発明では、トンネル掘削部の地下水及び土砂の圧力が高い場合でも、パッキンが固定部材から外れて封止機能を失うのを防止できるので、シールド坑口の封止を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、トンネル掘削部における地下水及び土砂の圧力に応じて、パッキン内に供給する圧力水又は圧力空気の圧力を高くした場合に、パッキンの封止機能を維持できるので、トンネル掘削部における地下水及び土砂が立坑内に流出するのを確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を添付した図1から図7に基づいて詳細に説明する。なお、図8〜図10と同様の部分には、同一の符号を付けてその詳細な説明を省略する。
【0029】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る第1実施形態のシールド坑口封止用パッキン1を示す。このシールド坑口封止用パッキン1は、帯状のゴム部材52と、このゴム部材52の両側端に設けられ断面が楔状の取付部53,53とを有している。取付部53,53の内部には、線状の抜け止め部材11が全長に亘って埋設されている。
【0030】
上記の帯状のゴム部材52は、トンネル62(図3参照)の入口に設けられる筒状部材50の内周長と略同一長さL、及び所定の幅Wを有している。また、このゴム部材52の内部には、図2に示すように、ゴム部材52の全面に亘って繊維補強層54が設けられている。
【0031】
この繊維補強層54は、二層の繊維部材55,55が積層されて形成されている。各繊維部材55,55は、例えばポリエステル補強コードが一方向に並べられて織られている。積層された二層の繊維部材55,55は、互いのボリエステル補強コードがクロスするように配置されている。
【0032】
上記の二層の繊維部材55,55は、ゴム部材52内では積層されているが、取付部53,53における根元部分の近傍で分離されている。これらの分離された二層の繊維部材55,55は、互いに所定の間隔をあけて、それぞれ取付部53,53の表裏面53a,53b側に配置されている。
【0033】
また、取付部53,53の厚さt1は、ゴム部材52の厚さt2より厚く形成されている。これらの取付部53,53内には、二層の繊維部材55,55に別の補強繊維56,56が積層されて埋設されている。
【0034】
また、取付部53,53における上記二層の繊維部材55,55の間には、硬質ゴム57が設けられている。
【0035】
上記の抜け止め部材11は、取付部53,53の根元部分の近傍における硬質ゴム57内に埋設されている。この抜け止め部材11の厚さ(直径)Dは、ゴム部材52の厚さt1よりもかなり大きく形成されている。本例では、抜け止め部材の直径がゴム部材52の厚さt1の3倍程度に形成されている。
【0036】
この抜け止め部材11としては、所定の剛性及び強度を有する鋼製又は樹脂製の線状部材を使用できる。本例では、抜け止め部材11として、鋼製のストランドワイヤーが使用されている。なお、抜け止め部材11の剛性及び強度は、その周囲の部材、本例では硬質ゴム57の剛性及び強度より高いものを使用する。
【0037】
このストランドワイヤーは、周知のように、その中心に心網が配置され、この心線の周囲に素線が複数層によりあわせて形成されているので、これを内蔵した取付部53,53を、筒状部材51(図6参照)の内周面に沿って容易に変形させることができる。
【0038】
このように、本発明のパッキン1は、ゴム部材52の肉厚t1より大きな肉厚t2を有する取付部53,53内に、所定の剛性及び強度を有し且つゴム部材52の肉厚t1より大きな厚さ(直径)Dを有するする抜け止め部材11が埋設されているので、後述のよう
に、ゴム部材52と筒状部材51間に形成される閉鎖空間65(図5参照)内に、高圧の圧力水又は圧力空気を供給した場合に、取付部53,53が固定部材58から外れるのを防止できる。
【0039】
また、上記の抜け止め部材11は、鋼製のストランドワイヤーであるので、市販のものを簡単に入手できると共に、この抜け止め部材11をインサート成型によって取付部53,53内に容易に埋設でき、更にこの助止め部材11を内蔵したゴム部材52を筒状部材50の内周面に沿って容易に変形させることができる。
【0040】
また、抜け止め部材11が、取付部53,53内の両方の繊維部材55,55に当接しているので、取付部53,53を筒状部材50の中心線方向に引っ張る力が作用しても、取付部53,53が潰されるのを阻止できる。これにより、取付部53,53が固定部材58から外れるのを防止できる。
【0041】
なお、本例では、取付部53,53に硬質ゴム57が設けられており、この硬質ゴム57は、トンネル掘削部に含まれる地下水及び土砂の圧力が比較的低い場合には抜け止め部材として機能する。
【0042】
しかし、仮に、上記の抜け止め部材11がない場合には、トンネル掘削部に含まれる地下水及び土砂の圧力が高い場合、硬質ゴム57が変形してしまい、抜け止め部材としての機能が低下する。
【0043】
そのため、本発明では、硬質ゴム57内に、この硬質ゴム57より剛性及び強度の高い抜け止め部材11を設けることにより、トンネル掘削部に含まれる地下水及び土砂の圧力が高い場合でも、抜け止め部材11が変形するのを防止し、抜け止め部材としての機能を確実に保持できるようにしたものである。
【0044】
また、取付部53、53内に、互いに間隔をあけて配置された両方の繊維部材55,55に、それぞれ別の補強繊維56,56が積層されているので、取付部53,53にその肉厚方向に対して交差する方向の引張力が作用した場合に、取付部53,53が延びたり、破損したりするのを防止できる。
【0045】
なお、上記の実施形態では、取付部53,53の表裏面53a,53b側に、繊維部材55,55及び補強繊維56,56を配置し、その間に抜け止め部材11を埋設した場合について説明したが、図3に示すように、取付部53内に補強繊維56,56を設けることなく、抜け止め部材11を埋設しても良い。
【0046】
また、取付部53,53には、図4に示すように、その表裏面53a,53bから突出する突条75を一列又は二列以上設けることができる。図4は、突条75を一列設けた場合を示す。
【0047】
このように、取付部53,53に突条75を設けることにより、取付部53,53に対する固定部材58,55と筒状部材51との挟持力が増大するので、取付部53,53が固定部材58から外れるのを防止できる。
【0048】
(第2の実施形態)
図5は、本発明に係る第2実施形態のシールド坑口用パッキンを用いたシールド坑口封止構造を示す。
【0049】
このシールド坑口封止構造は、立坑60の側方にシールドマシン61によってトンネル
62を掘削する際に、トンネル62の入り口又は出口、本例ではトンネル62の入口に設けられシールドマシン61の外径より大きな内径を有する筒状部材としての円筒部材50と、この円筒部材50の内周面に設けられた上記のパッキン1と、このパッキン1における両側端の取付部53,53を、互いに所定の間隔をあけて円筒部材50の内周面に固定するべく、取付部53,53における楔形状の根元部が係止されると共に、取付部53,53を円筒部材50の内周面と協働して挟持する固定部材58,58とを備えている。
【0050】
また、円筒部材50には、パッキン1における帯状のゴム部材52を円筒部材50の中心側に膨張させるべく、ゴム部材52と円筒部材50との間に形成される閉鎖空間65内に、所定の圧力を有する圧力空気又は圧力水、本例では圧力水を供給する供給口59が設けられている。なお、図5中の符号66は、上記の供給口59に圧力水又は圧力空気を導くパイプである。
【0051】
図6に示すように、上記のパッキン1における両方の取付部53,53のうち、立坑60側に配置された一方の取付部53は、その表面53aが円筒部材50の内周面50aに当接して固定されている。また、他方の取付部53は、図5に示すように、ゴム部材52側に折り返され、その他方の表面53bが円筒部材50の内周面50aに当接して固定されている。
【0052】
すなわち、パッキン1の両方の取付部53,53は、その先端面53c,53cが立坑60側に向けられて配置されている。これにより、シールドマシン61が掘進した際に、シールドマシン61に密接しているゴム部材52は、取付部53,53に対して一直線になる方向に移動するので、取付部53,53とゴム部材52との境界部分が折り曲げられて破損するのを防止できる。
【0053】
上記の固定部材58,58は、図6に示すように、第1固定部材58a,58aと、第2固定部材58b,58bとを有している。第1固定部材58a,58aには、その円筒部材50と対向する側の面に取付部53を挿入する凹部67が設けられている。この凹部67の底面には、断面楔形状に形成された取付部53の根元部分における一方の傾斜面53dを係止する係止面67aが設けられている。
【0054】
一方、第2固定部材58b,58bは、第1固定部材58a,58aの凹部67内に配置されている。この第2固定部材58b,58bにおける第1固定部材58a,58aとの対向面には、取付部53の根元部分におけるもう一方の傾斜面53eを係止するため、円筒部材50に対して傾斜する傾斜面69aが設けられている。
【0055】
上記の第1固定部材58a及び第2固定部材58bは、パッキン1のゴム部材52が膨張した際に、ゴム部材52から取付部53に作用する引張力で、変形又は破損しない程度の十分な強度を有している。
【0056】
また、上記の第1固定部材58aと第2固定部材58bとの間には、ゴム部材52を通すために、ゴム部材52の肉厚t1と略同一の隙間d1があいている。パッキン1における抜け止め部材11の厚さ(直径)Dは、第1固定部材58aと第2固定部材58bとの隙間d1よりも大きい。
【0057】
上記の固定部材58は、ボルト71及び袋ナット72によって円筒部材50の内周面50aに固定されている。
【0058】
シールドマシン61によって立坑60の側方にトンネル62を掘削する際には、図5に示すように、円筒部材50に設けられた供給口59から、パッキン1のゴム部材52と円
筒部材50とによって形成された閉鎖空間65内に、トンネル62の掘削部分における地下水及び土砂の圧力に応じた所定の圧力を有する圧力水が供給される。
【0059】
そうすると、図5中に二点差線で示すように、ゴム部材52が、円筒部材50の内周面に沿ってタイヤ状に膨張し、シールドマシン61の外周面61aに密接する。
【0060】
これにより、トンネル62の掘削部に含まれる地下水及び土砂が、シールドマシン61の外周面61aと、円筒部材50の内周面50aとの隙間から、立坑60内に流出するのを防止できる。
【0061】
トンネル掘削部における地下水及び土砂の圧力が高い場合には、閉鎖空間65内に供給する圧力水の圧力Pを高くする必要がある。そして、閉鎖空間65内に供給される圧力水の圧力を高くした場合には、パッキン1のゴム部材52に発生する張力が大きくなり、ゴム部材52から取付部53,53に対して作用する引張力も大きくなる。
【0062】
ここで、本発明では、上記のようにパッキン1の取付部53、53内に、所定の強度を有し且つ第1固定部材58aと第2固定部材58bとの隙間d1より大きな直径Dを有する抜け止め部材11が埋設されているので、取付部53、53に上記のように大きな引張力が作用しても、抜け止め部材11が潰されることなく第1固定部材58aと第2固定部材58bとの間に係止された状態が保持される。
【0063】
従って、取付部53,53が固定部材58から外れるのを防止し、所定の位置に保持できる。これにより、トンネル掘削部における地下水及び土砂の圧力が高い場合でも、パッキン1の封止機能を維持できるので、地下水及び土砂が立坑60内に流出するのを確実に防止(抑制)できる。
【0064】
なお、パッキン1のゴム部材52と円筒部材50間の閉鎖空間65内に供給する圧力水の水圧は、後述するように、トンネル掘削部における地下水及び土砂の圧力に対して、1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上にするのがよい。
【0065】
なお、上記の実施例では、トンネル62の入口に本発明の封止構造を設けた場合について説明したが、本発明はトンネル62の出口に設けることもできる。この場合は、パッキン1における取付部53,53の先端面53c,53cをトンネル出口に設けられた立坑60と反対側に向けて配置する。これにより、シールドマシン61と共に移動したゴム部材52が、取付部53との境界部分で折り曲げられて破損するのを防止できる。
【0066】
また、上記の実施例では、パッキン1を1個だけ設けた場合について説明したが、図7に示すように、二個のパッキン1A,1Bを互いに所定の間隔をあけて設けることができる。
【0067】
このように二個のパッキン1A,1Bを適宜な間隔をあけて設けることにより、シールドマシン61における凹溝状の中折れ部分70に、一方のパッキン1Aが入り込んだ場合でも、もう一方のパッキン1Bがシールドマシン61の外周面61aに密接しているので、全体としての止水性能が良好に保持される。
【0068】
本発明の封止構造における止水性能を確認するため、図7に示すように、実際のシールドマシン61及び本発明の封止構造を用いて、封止構造における止水性能を確認した。なお、図7においては、細部の構造が省略されているが、封止構造における各部は上記で説明したのと同様である。
【0069】
シールドマシン61の外径は2,280mm、長さは5,000mmである。また、円筒部材50の内径は2,640mm、長さは1,550mmである。シールドマシン61と円筒部材50との隙間は、片方がw1、他方がw2であり、下記のように、これらの隙間w1,w2を変えた場合について試験を行った。
【0070】
この試験では、二個のパッキン1A,1Bを適宜な間隔をあけて配置し、これらのパッキン1A,1Bの間に地下水及び土砂に相当する圧力P0を有する圧力水を供給し、パッキン1A,1B内に地下水及び土砂に応じて設定された圧力PA,PBを有する圧力水を供給し、パッキン1A,1Bの止水性能を確認した。
【0071】
〈試験項目〉
(ケース1):P0=1.0MPa、シールドマシン61の円筒部材50に対する偏心量X=0mm(w1=0、w2=0)とした場合の止水性能を確認する。
(ケース2):P0=1.0MPa、シールドマシン61の円筒部材50に対する偏心量X=100mm(w1=80mm、w2=280mm)とした場合の止水性能を確認する。
【0072】
〈試験手順〉
1.パッキン1A,1B内に圧力水を供給し、パッキン1A,1Bの内圧PA,PBを0.5MPa程度まで加圧する。
2.パッキン1A,1B間に圧力水を供給し、パッキン1A,1B間の圧力P0を0.3MPa程度まで加圧する。
3.パッキン1A,1B内の圧力PA,PBと、パッキン1A,1B間の圧力P0とが、上記1、2の関係(PA/P0=PB/P0=0.5/0.3≒1.67)を維持したまま、パッキン1A,1B間の圧力P0が1.0MPaになるまで、圧力水を供給してパッキン1A,1B内の圧力PA,PB、及びパッキン1A,1B間の圧力P0を加圧する。
4.パッキン1A,1B間の圧力P0を1.0MPaに保持した状態で、シールドマシン61を前進させ、パッキン1A,1Bによる止水状態を確認する。
〈試験結果〉
(ケース1)パッキン1A,1B間の圧力P0=1.0MPa、シールドマシン61の偏心量X=0mmとし、パッキン1A,1B内の圧力PA及びPBを1.3〜1.9MPaの間で少しずつ変えて試験した結果、何れの圧力でも良好な止水性能を確認した。
(ケース2)パッキン1A,1B間の圧力P0=1.0MPa、シールドマシン61の偏心量X=100mmとし、パッキン1A,1B内の圧力PA及びPBを1.3〜1.9MPaの間で少しずつ変えて試験した結果、何れの圧力でも良好な止水性能を確認した。
上記の試験結果を考慮し、パッキン1A,1B内の圧力PA,PBは、パッキン1A,1B間の圧力P0すなわち地下水及び土砂の圧力の1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上にするのがよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る第1実施形態のシールド坑口封止用パッキンを示す斜視図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態のシールド坑口封止用パッキンの取付部を示す図であり、図1のA−A断面図である。
【図3】本発明に係る第1実施形態のシールド坑口封止用パッキンの別の取付部を示す断面図である。
【図4】本発明に係る第1実施形態のシールド坑口封止用パッキンの別の取付部を示す断面図である。
【図5】本発明に係る第2実施形態のシールド坑口封止構造を示す断面図である。
【図6】本発明に係る第2実施形態のパッキンを固定する固定部を示す断面図である。
【図7】本発明に係る第2実施形態の止水性能確認試験の試験装置を示す図である。
【図8】従来例に係るシールド坑口封止構造を示す断面図である。
【図9】従来例に係るシールド坑口封止用パッキンを示す斜視図である。
【図10】従来例に係るシールド坑口封止用パッキンの取付部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B シールド坑口封止用パッキン
11 抜け止め部材
50 筒状部材
50a 筒状部材の内周面
51 パッキン
52 ゴム部材
52a ゴム部材の内周面
53 取付部
53a 取付部の表面
53b 取付部の裏面
53c 取付部の先端面
53d 取付部の一方の傾斜面
53e 取付部の他方の傾斜面
54 繊維補強層
55 繊維部材
56 補強繊維
57 硬質ゴム
58 固定部材
58a 第1固定部材
58b 第2固定部材
59 供給口
60 立坑
61 シールドマシン
61a シールドマシンの外周面
62 トンネル
65 閉鎖空間
66 パイプ
67 固定部材の凹部
67a 凹部内の係止面
69 係止部材
69a 係止部材の傾斜面
70 シールドマシンの中折れ部分
71 ボルト
72 袋ナット
75 突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立坑の側方にシールドマシンによってトンネルを掘削する際に、前記シールドマシンの外周面と前記トンネル内周面との隙間から、前記トンネルを掘削すべき地盤に含まれる地下水及び土砂が前記立坑内に流出するのを防止するため、前記トンネルの入口又は出口に設けられ、且つ前記シールドマシンの外径より大きな内径を有する筒状部材の内周面に沿って配置され、前記シールドマシンの外周面に密接されるパッキンであって、
前記筒状部材の内周長と略同一長さ及び所定の幅を有し、前記筒状部材の内周面に沿って配置され、前記筒状部材側から供給される圧力水又は圧力空気によって前記筒状部材の中心側に膨張する帯状のゴム部材と、
前記ゴム部材に全面に亘って埋設された繊維補強層と、
前記ゴム部材における両側端部に設けられると共に、前記ゴム部材の肉厚より大きい肉厚を有し、前記筒状部材に設けられた固定部材に係止されると共に、前記固定部材と前記筒状部材とによって挟持され、所定の位置に保持される取付部と、
所定の剛性及び強度を有すると共に前記帯状のゴム部材の肉厚より大きな肉厚を有し、前記取付部内に埋設された抜け止め部材と、を備えたことを特徴とするシールド坑口封止用パッキン。
【請求項2】
前記抜け止め部材は、鋼製又は樹脂製の線状部材であることを特徴とする請求項1に記載のシールド坑口封止用パッキン。
【請求項3】
前記繊維補強層が積層された二層の繊維部材によって形成され、前記二層の繊維部材が前記取付部の内部で分離されて互いに所定の間隔をあけて配置され、これらの分離された二層の繊維部材に、それぞれ別の補強繊維が積層されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシールド坑口封止用パッキン。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のシールド坑口封止用パッキンを用いたシールド坑口封止構造であって、
前記トンネルの入り口又は出口に設けられ前記シールドマシンの外径より大きな内径を有する筒状部材と、
前記筒状部材の所定の位置に固定され、前記シールド坑口用パッキンにおける前記取付部が係止されると共に、前記筒状部材と協働して前記取付部を挟持する固定部材と、
前記筒状部材の内周面と前記パッキンにおける前記ゴム部材との間に形成される閉鎖空間内に、所定の圧力を有する圧力水又は圧力空気を供給するべく、前記筒状部材に設けられた供給口とを備え、
前記パッキンにおける前記取付部のうち、一方の前記取付部は、その一方の表面が前記筒状部材の内周面に当接して固定され、他方の前記取付部は、折り返されてその他方の表面が前記筒状部材の内周面に当接して固定されていることを特徴とするシールド坑口封止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−63654(P2006−63654A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247782(P2004−247782)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】