説明

シールド導電体の製造方法

【課題】外管内に簡便に充填材を充填することができ、ひいては熱伝導性に優れたシールド導電体を製造可能な当該シールド導電体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のシールド導電体の製造方法は、外管と、前記外管内に挿通された電線10と、前記外管と前記電線10との間に充填された充填材30と、を含むシールド導電体の製造方法であって、前記外管として、所定条件によって収縮させることが可能なチューブ20を用い、収縮前の前記チューブ20内に前記電線10を配置する電線配置工程と、前記チューブ20と前記電線10との間に前記充填材30を充填する充填工程と、前記充填工程の後に、前記チューブ20を収縮させる収縮工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド導電体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数本のノンシールド電線を金属製の外管内に挿通したシールド導電体が開示されている。このシールド導電体は、外管が、電線をシールドする機能に加えて電線を保護する機能を発揮するので、シールド部材とプロテクタを用いたシールド導電体に比べて部品点数が少なくて済むという利点を有する。
【特許文献1】特開2004−171952公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように外管を用いたシールド導電体では、電線と外管との間に空気層が存在しているため、通電時に電線で発生した熱が、熱伝導率の低い空気によって遮断されて外管に伝わり難い。
ここで、導体に所定の電流を流したときの発熱量は、導体の断面積が大きい程小さくなり、発熱に起因する導体の温度上昇値は、導電路の放熱性が高いほど小さく抑えられる。したがって、導体の温度上昇値に上限が定められている環境下では、上記のように放熱効率の低いシールド導電体の場合、導体の断面積を大きくして発熱量を抑える必要がある。ところが、導体の断面積を増大することは、シールド導電体が大径化し重量化することを意味する。
【0004】
そこで、本願出願人は、その対策として、外管内における電線との隙間に、空気よりも熱伝導率の高い充填材を充填し、電線で発生した熱を、充填材を介して外管に伝達し、外管の外周から大気中へ効率的に放出することにより、放熱性を向上させる技術を提案した。しかしながら、充填材として高粘度のものを用いると、流動性が低いことに起因して、外管内への充填性が低下する場合がある。このように充填性が低下すると、外管内に空気が気泡として残存することが懸念される。気泡が存在することは、電線から外管への伝熱効率を低下させる原因となるため、その対策が望まれる。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、外管内に簡便に充填材を充填することができ、ひいては熱伝導性に優れたシールド導電体を製造可能な当該シールド導電体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のシールド導電体の製造方法は、外管と、前記外管内に挿通された電線と、前記外管と前記電線との間に充填された充填材と、を含むシールド導電体の製造方法であって、前記外管として、所定条件によって収縮させることが可能なチューブを用い、収縮前の前記チューブ内に前記電線を配置する電線配置工程と、前記チューブと前記電線との間に前記充填材を充填する充填工程と、前記充填工程の後に、前記チューブを収縮させる収縮工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
このような製造方法によると、収縮前の相対的に大径なチューブに充填材を充填し、その後にチューブを収縮させて小径な外管を構成するものとしているため、チューブ内において充填材の充填性が向上する。つまり、相対的に大径なチューブには充填材を充填し易く、例えば高粘度の充填材であっても充填操作が簡便なものとなり、充填にかかる吐出圧(充填材供給圧)を低減でき、充填速度も速くなるとともに、充填後にこれを収縮させることで、例えばチューブ内の充填材に形成され得る空隙(気泡)等も当該収縮時に脱泡でき、充填性の更なる向上が図れることとなる。その結果、気泡混入が少なく、熱伝導性に優れた充填材を備えるシールド導電体を簡便に高効率で製造することができるようになるのである。なお、チューブ内への電線の挿入についても、収縮前の相対的に大径なチューブに対して行うため、当該挿入操作が非常に簡便なものとなる。ここで、本発明に適用可能なチューブとしては、例えば加熱によって収縮可能な熱収縮チューブや、収縮剤(添加剤等)によって収縮可能な収縮チューブ等を例示することができる。
【0008】
前記チューブ内に前記電線を配置する前に、当該チューブの挿入口を開口する開口工程を含み、前記開口工程は、円筒を半分割した構成の半割ケースを用い、前記半割ケースを開口させた状態で当該半割ケース内に前記チューブを挿入した後、当該半割ケースを閉口することで、前記チューブの挿入口を開口する工程を含むものとすることができる。
【0009】
例えば樹脂等からなる収縮可能なチューブは、その製造方法に起因し、通常は閉口した状態が安定となる製品が多い。そこで、電線を配置する前にチューブの挿入口を開口させる工程を含むものとすれば、電線の挿入が一層スムーズなものとなる。ところが、電線等を含むシールド導電体は線径が数ミリないし数センチ程度のものが多いため、その開口工程は簡便なものではない。そこで、本発明では、上述したように半割ケースを用い、その半割ケースにチューブを挿入した後に当該半割ケースを閉口することで、当該閉口に伴ってチューブの開口を実現するものとし、その開口作業を簡便化した。
【0010】
なお、当該半割ケースは、対向させた状態で収縮チューブの開口時外径と同等径をなす円筒となる一対の半円筒部材を用いたものであって、その半円筒部材を対向させた状態で、対向する2つの側面(円筒を半分に割ったときの割れ面)の一方同士を係止部により係止した構成のものであり、両半円筒部材が当該係止部を支点として開閉自在に周動可能となっている。
当該半割ケースが閉状態のときは両半円筒部材が円筒を構成する一方、開状態のときは両円筒部材が開状態となって内部にチューブを挿入可能な構成となる。
本発明では、開状態の半割ケースに閉口状態のチューブを挿入した後、該半割ケースを閉状態とすることで、その閉作動に伴ってチューブが開口することとなる。具体的には、半割ケースの閉動作によってチューブが圧迫され、その圧迫によりチューブが開口することとなるのである。
【0011】
前記電線配置工程は、前記チューブ内に編組線からなる編組線チューブを挿通する工程と、前記編組線チューブ内に前記電線を配置する工程とを含み、前記充填工程においては、前記編組線チューブと前記電線との間に前記充填材を充填するものとすることができる。
【0012】
このようにチューブと電線との間に編組線チューブを挿入し、当該編組線チューブと電線との間に充填材を充填することで、当該シールド導電体に一層高いシールド機能を付与することが可能となる。また、編組線チューブと電線との間に充填材を充填するものとしているため、電線との間に空隙が出来難く、当該充填材を介したシールド導電体の熱伝導率が一層高まることとなる。
【0013】
前記充填工程は、先端部に注入口を備えた注入パイプを、前記チューブの挿入口から当該チューブ内に挿入し、当該注入パイプと前記チューブとを軸方向に相対移動させつつ前記注入口から前記充填材を充填することで、当該チューブの長さ方向に亘って前記充填材を充填するものとすることができる。
【0014】
このように注入パイプを軸方向に相対移動させながら充填材を充填すれば、高効率で且つ確実にチューブの長さ方向に亘って充填材を充填することが可能となる。そして、本発明では、チューブの長さ方向に亘って充填材を充填できれば、後に当該チューブを収縮することで、一層確実に充填材を隙間無く充填することが可能となるため、上記のような注入パイプによる充填を併用することは充填性を高める上で極めて有効な手段である。
【0015】
前記注入パイプは、その先端部に円環状のリング部材を備え、前記充填工程は、前記電線を前記リング部材の円環内に挿通した状態で、当該リング部材の周方向に沿って配設された前記注入口から前記充填材を充填するものとすることができる。
【0016】
このような方法によると、リング部材の周方向に沿って配設された注入口から充填を行うため、当該周方向に充填が可能となる。その結果、電線の周りに沿って充填材を充填できるようになり、最終的には、電線とチューブとの間に形成される環状の空間に満遍なく充填材を充填できるようになる。
なお、注入口は、リング部材の外周面に所定間隔で或いはランダムな間隔で複数開口するものの他、リング部材の底面に所定間隔で或いはランダムな間隔で複数開口するもの等であっても良い。
【0017】
前記注入パイプを前記チューブ内に複数挿入するものとし、前記充填工程においては、当該複数の注入パイプを、各注入パイプの軸線が平行となる状態で、且つ各注入パイプを前記チューブ内に円環状に配列して、前記充填を行うものとすることができる。
【0018】
このような方法によると、円環状に配列された注入パイプの先端から環状に充填材を充填することができるようになり、電線の周りに沿って充填材を充填できるようになる。その結果、最終的には、電線とチューブとの間に形成される環状の空間に満遍なく充填材を充填できるようになる。
【0019】
前記注入パイプの先端が前記チューブの前記挿入口とは反対側の端部まで到達するように、当該注入パイプを前記チューブに挿入した後、前記充填材の充填を継続しつつ、前記注入パイプを前記チューブ内から後退させる注入パイプ後退工程を含み、前記注入パイプ後退工程において、当該注入パイプの後退量は、前記充填材の充填量に基づいて制御されるものとすることができる。
【0020】
このように、注入パイプの先端がチューブの挿入口とは反対側の端部に到達するまで当該注入パイプをチューブに挿入した後に、充填材の充填を行うものとしているため、チューブの奥端から充填材を徐々に充填することが可能となる。その結果、チューブの空気を掃き出しながら充填することが可能となり、例えば挿入口側から充填材を流し込む方式に比べて、充填材への空気流入を一層防止することが可能となる。また、充填を継続しつつ注入パイプを後退させることで、チューブの長さ方向全域に亘って充填材を満遍なく充填することが可能となり、当該注入パイプ後退工程において、当該注入パイプの後退量は、前記充填材の充填量に基づいて制御しているため、注入パイプの注入口が既に充填された充填材によって塞がれた状態を保ちつつ充填を継続することができるようになる。この場合、注入パイプの後退によって充填に要する注入圧の増大を防止できるとともに、注入口が充填材によって塞がれた状態を保ちつつ注入パイプを後退させることで、充填時の空気流入を一層効果的に防止することが可能となる。
【0021】
なお、本発明に好適な充填材としては、例えばカーボン入りシリコングリースを例示することができる。カーボン入りシリコングリースは熱伝導率が高く、本発明のような熱伝達機能を具備するシールド導電体の充填材に適用する上で好ましい。ところが、シリコングリースは粘度が高いため、管の端部から流し込む充填方法では空気が流入し易い。そこで、本発明に係る方法によって充填すれば、空気流入を防ぐことができ、熱伝達効率の高い充填材が充填されたシールド導電体を好適に提供することが可能となるのである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、外管内への充填材の充填を簡便且つ確実に行うことができるようになり、また気泡を残存させることなく充填材を充填できるため、当該充填材の熱伝達効率を高めることができ、ひいては放熱性が優れたシールド導電体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態のシールド導電体の製造方法について、図1〜図10を参照して説明する。なお、図1は、実施形態の方法により製造されたシールド導電体Waの断面模式図で、図2は、図1のX−X線断面図である。また、図3は、当該実施形態の製造方法に用いる一製造装置の断面模式図であり、図4は、図3の製造装置を用いたときの作用を説明する断面模式図である。一方、図5は、当該実施形態の製造方法の一工程を説明するための断面模式図であり、図6は、図5のY−Y線断面図である。また、図7は、当該実施形態の製造方法に用いる一製造装置の断面模式図であり、図8は、図7のZ−Z線断面図である。さらに、図9は、当該実施形態の製造方法の一工程を説明するための断面模式図であり、図10は、図9に続く工程を説明するための断面模式図である。
【0024】
本実施形態の製造方法によって製造されるシールド導電体Waは、例えば電気自動車において走行用の動力源を構成するバッテリ、インバータ、モータなどの装置(図示せず)の間に配索されるものである。具体的には、図1及び図2に示すように、3本のノンシールドタイプの電線10を、シールド機能を備える編組線からなる編組線チューブ70内に挿通してなり、その電線10及び編組線チューブ70を取り囲む形で、電線保護機能を備える熱収縮チューブ(外管)20が最外周に具備されている。さらに、熱収縮チューブ20(詳しくは編組線チューブ70)内における電線10との隙間に例えばカーボン入りシリコングリース(稠度216)からなる充填材30が充填された形態となっている。この充填材30は、空気よりも熱伝導率の高い材料が用いられ、電線10から熱収縮チューブ20への熱伝導手段として機能している。
【0025】
電線10は、特に図2に示すように、金属製(例えば、アルミニウム合金や銅合金など)の導体11の外周を合成樹脂製の絶縁被覆12で包囲した形態であり、導体11は、単芯線または複数本の細線(図示せず)を螺旋状に寄り合わせた撚り線からなる。電線10の断面形状は導体11と絶縁被覆12の双方が真円形とされている。
【0026】
編組線チューブ70は、金属細線をメッシュ状に編み込んだ筒状の編組線からなる可撓性パイプであって、ここでは、電線10との間に充填材30を介して配設されている。また、当該編組線チューブ70の外側には、保護機能を具備した熱収縮チューブ20が配設されている。
【0027】
熱収縮チューブ20は、樹脂製(例えば、ポリエチレン樹脂など)であって、空気よりも熱伝導率が高い。開口時の熱収縮チューブ20の断面形状は、図2に示すように、電線10と同様、円形をなしている。かかる熱収縮チューブ20は、加熱により収縮が可能な樹脂材料からなるもので、製造当初(熱収縮前)においては相対的に径の大きい状態で(例えば径40mm)、チューブ内空間体積が相対的に大きい状態とされており、当該空間内に3本の電線10が挿通され易いようになっている。そして、加熱により収縮させた後は、相対的に径の小さい状態で(例えば径20mm)、チューブ内空間体積が相対的に小さい状態となり、この状態で電線10及び編組線チューブ70を保護するものとなっている。なお、熱収縮チューブ20の肉厚はここでは1mmとされている。
【0028】
図1及び図2のシールド導電体Waにおいては、収縮後の熱収縮チューブ20内に編組線チューブ70及び3本の電線10が挿通され、電線10の両端部は熱収縮チューブ20の外部へ導出されている。熱収縮チューブ20内における3本の電線10は、概ね俵積み状(電線10の中心を結んだときにほぼ正三角形を描く形態)をなす位置関係とされている。
【0029】
次に、シールド導電体Waの製造方法について説明する。
まず、収縮前の熱収縮チューブ20内に電線10等を挿通するために、当該熱収縮チューブ20の一端部にある挿入口23(図5も参照)を開口させる工程(開口工程)を行う。具体的には、図3及び図4に示すように、熱収縮チューブ20の外径と同一の内径を有する半割ケース80を用い、半割ケース80を開口させた状態(図3)で当該半割ケース80内に熱収縮チューブ20を挿入した後、当該半割ケース80を閉口することで、熱収縮チューブ20の挿入口23を開口するものとしている。
【0030】
ここで用いる半割ケース80は、対向させた状態で円筒となる一対の半円筒部材80a,80bを用いたものであって、その半円筒部材80a,80bを対向させた状態で、対向する2つの側端(円筒を半分に割ったときの割れ面)のうち、一方の側端81a,81b同士をヒンジ部(係止部)81により係止した構成のものであり、両半円筒部材80a,80bが当該ヒンジ部81を支点として開閉自在に周動可能となっている。半割ケース80が閉状態、すなわち図4に示すように半円筒部材80aと半円筒部材80bとが互いに閉じた状態のときは、両半円筒部材80a,80bが円筒を構成する一方、開状態のときは、図3に示すように両円筒部材80a,80bが開状態となって内部に熱収縮チューブ20を挿入可能な構成となる。ここでは、上述したように、図3の開状態の半割ケース80に閉口状態の熱収縮チューブ20を挿入した後、該半割ケース80を閉状態とすることで、その閉作動に伴って熱収縮チューブ20が開口する。具体的には、半割ケース80の閉動作によって熱収縮チューブ20が圧迫され、その圧迫により熱収縮チューブ20が開口することとなる。
【0031】
以上のような開口工程を行った後、図5及び図6に示すように熱収縮チューブ20内に3本の電線10を挿通する工程(電線配置工程)を行う。ここでは、編組線チューブ70に3本の電線10を挿通した後、該電線10を含む編組線チューブ70を熱収縮チューブ20の挿入口23から当該熱収縮チューブ20内に挿通するものとしている。なお、熱収縮チューブ20内に編組線チューブ70を挿通し、その後、編組線チューブ70内に電線10を挿通するものとしても良い。
【0032】
次に、図7に示す製造装置Mを用いて、充填材を充填する工程(充填工程)を行う。
製造装置Mは、図7に示すように、充填材注入手段として、注入パイプ90と、該注入パイプ90の先端に設けられ、充填材30の注入口92を備えた円環状のリング部材91とを備えて構成されている。また、その他にも、リング部材91を熱収縮チューブ20内で軸方向に牽引する牽引ロープ21と、該牽引ロープ21を巻き取り可能なプーリ22とを備えている。さらに、注入パイプ90に接続され、注入パイプ90を介して熱収縮チューブ20内に充填材30を供給する充填材供給手段としての供給ポンプ42を備えるとともに、充填材30の充填量を計測する充填量計測手段としての流量計43と、流量計43からの充填量に関する情報、プーリ22からの牽引量に関する情報等に基づいて、上記ポンプ42やプーリ22の駆動制御を行う制御部(制御手段)50とを備えて構成されている。
【0033】
注入パイプ90は、その管内を充填材30が流動可能とされており、供給ポンプ42から供給される充填材30をリング部材91に流通させる。
【0034】
リング部材91は、注入パイプ90と連通してなり、該注入パイプ90から流通された充填材30を注入口92から熱収縮チューブ20(詳しくは編組線チューブ70)内に注入する機能を備えている。リング部材91の詳細な構成は、図8に示すように、その円環93内に3本の電線10が挿通される一方、その周方向に沿って注入口92が8つ配設されており、当該周方向に充填が可能となる。その結果、電線10の周りに沿って充填材30を充填できるようになり、最終的には、電線10と熱収縮チューブ20との間に形成される環状の空間に満遍なく充填材を充填できるようになる。なお、本実施形態において注入口92は、リング部材91の外周面に所定間隔で8つ開口する構成であるが、当該外周面にランダム間隔で開口させても良いし、リング部材91の底面に所定間隔で或いはランダムな間隔で複数開口するもの等であっても良い。
【0035】
牽引ロープ21はリング部材91に付設され、プーリ22により巻き取り可能に構成されている。したがって、プーリ22によって牽引ロープ21を巻き取り操作すれば、リング部材91はプーリ22側に移動することとなる。
【0036】
プーリ22は、正方向又は負方向のいずれかに回転可能に構成され、当該プーリ22が正方向に回転した場合には、リング部材91が図示左側に移動し、熱収縮チューブ20とリング部材91とが相対移動して、当該リング部材91が熱収縮チューブ20内に挿入される。一方、プーリ22が負方向に回転した場合には、リング部材91が図示左側に移動し、同じく相対移動により、当該リング90が熱収縮チューブ20から後退して、外側に引き抜かれる形となる。
【0037】
プーリ22は、制御部50からの駆動制御信号に基づいて駆動される。ここで、プーリ22は、本実施形態ではその回転数を計測すべく回転数カウンタを内蔵しているが、該回転数の計測手法としては、プーリ22に回転センサを付与するものであってもよく、この回転数に基づいて、熱収縮チューブ20とリング部材91との相対移動量が算出される。
【0038】
供給ポンプ42は、注入パイプ90と接続され、充填材タンク31に貯留された充填材30を、当該注入パイプ90を介して熱収縮チューブ20内に供給するものである。また、供給ポンプ42の駆動源であるポンプ駆動モータ44は制御部50に接続され、当該制御部50からの駆動指令に基づいて供給ポンプ42を駆動する。
【0039】
流量計43は、供給ポンプ42から供給される充填材30の量を計測するものであって、その計測結果を制御部50にフィードバックするものとしている。計測結果を受けた制御部50は、当該流量情報と、プーリ22からの回転数情報とをもとに、プーリ22への駆動制御、及びポンプ駆動モータ44への駆動制御を行うものとされている。
【0040】
次に、このような製造装置Mを用いたシールド導電体Waの製造方法について説明する。
まず、図7に示すように、電線10及び編組線チューブ70を含む熱収縮チューブ20内に注入パイプ90をセットする。ここでは、注入パイプ90の先端部(リング部材91)が熱収縮チューブ20の端部(挿入口23とは反対側の端部)に達するまで行われる。なお、挿入時の移動量は、熱収縮チューブ20の全長に基づいて制御部50が算出する。
【0041】
注入パイプ90(詳しくはリング部材91)が熱収縮チューブ20内の奥まで挿入されると、制御部50は、供給ポンプ42を作動させて充填材30の供給を開始する指令を行う。これによりリング部材91の注入口92から充填材30を充填することが可能となる。その後、制御部50は充填指令を継続して行いつつ、プーリ22を負方向に回転させる指令を当該プーリ22に対して行う。つまり、リング部材91を含む注入パイプ90を熱収縮チューブ20から後退させる(引き抜く)工程を行うのである。
【0042】
この後退工程においては、制御部50は、流量計43からの流量情報(充填量情報)に基づいて、電線10の周りに満遍なく充填材30が充填されるように後退制御を行うものとしている。つまり、電線10の周りに供給される充填材30の充填量が過多となったり、充填材30の充填量が過少となったりして、充填ムラが生じることを防止している。
【0043】
以上のような後退工程により、図9に示すように熱収縮チューブ20の長さ方向全域に亘って充填材30が充填されることとなる。そして、図10に示すように半割チューブ80を取り除いた後、加熱工程を行う。この場合、熱収縮チューブ20が収縮可能な温度まで加熱するものとしており、このような加熱により熱収縮チューブ20が体積収縮し、充填材30に混入された気泡を排除しつつ、当該充填材30の充填密度を高めることが可能となる。
【0044】
以上のような各工程を経た後、例えば熱収縮チューブ20の両端をテープ巻きでシールすることにより、図1及び図2に示したシールド導電体Waが製造される。当該製造方法により製造されたシールド導電体Waは、上述した通り、充填材30に気泡混入等がなく、その充填密度も高いものであることから、電線10で発生した熱を当該充填材30を介して熱収縮チューブ20から外部側へ高効率で放熱することが可能となる。
【0045】
なお、本実施形態では、1本の注入パイプ90の先端に設けたリング部材91の注入口92から充填を行うものとしているが、例えば図11及び図12に示すような注入装置を用いて充填材30の充填を実施することもできる。
【0046】
図11は充填装置100の構成を示す模式図で、図12は図11のA−A線断面図である。なお、各図において編組線チューブ、半割ケース等を一部省略している。当該充填装置100は、多数本(ここでは8本)のパイプ101を備え、当該パイプ101の先端に注入口102がそれぞれ開設されている。注入口102は、各パイプ101において熱収縮チューブ20側に開口しており、当該注入口102から充填材30が熱収縮チューブ20内に供給される。
【0047】
各注入パイプ101の他端(注入口102とは反対側の端部)には、マニホールド110が連結され、当該マニホールド110内に貯留された充填材30が各注入パイプ101に対して均等に供給されるものとなっている。また、マニホールド110は、注入パイプ101と熱収縮チューブ20との相対移動を可能とすべく車輪113を備え、車輪113がレール120上を回動することで、注入パイプ101が熱収縮チューブ20内に挿入され、或いは熱収縮チューブ20から後退する。
【0048】
具体的には、車輪113を駆動するモータ115が、制御部50(図7参照)からの制御指令を受けて当該車輪113の駆動を行う。車輪113が正回転すると、マニホールド110が図示左側に移動し、注入パイプ101が熱収縮チューブ20内の奥側に挿入される一方、車輪113が負回転すると、マニホールド110が図示右側に移動し、注入パイプ101が熱収縮チューブ20から引き抜かれる方向に後退する。このような車輪113の作動制御に基づいて、充填材30を供給しつつ、当該供給位置を熱収縮チューブ20の長手方向に沿って変化させることが可能となり、ひいては熱収縮チューブ20の長手方向に充填材30をムラ無く供給することが可能となる。
【0049】
次に、本実施形態で行う熱収縮チューブ20の後退工程において、制御部50が行う制御内容を詳しく説明する。
図13は、上記後退工程において、制御部50が行うポンプの回転数を制御する充填制御ジョブの流れを示すフローチャートである。以下、当該ジョブについて説明する。
まず、S11において、プーリ回転数Nに係る計測情報をプーリ22から取得した後、パイプ移動量(リング部材移動量)Dを算定する(S12)。具体的には、パイプ移動量Dは、プーリ回転数Nとプーリ22の周長Rとの積により算定される。
【0050】
次に、S13において、充填材30の流量Fを流量計43から取得し、さらにS14において、熱収縮チューブ内移動空間の体積Vaを算定する。チューブ内移動空間とは、注入パイプ90(リング部材91)が移動した空間の体積のことで、具体的には、式(V=αD)により算出される。なお、αは熱収縮チューブ20の収縮後における単位長さ当りの内部空間体積、具体的にはチューブの収縮後内部面積から電線と編組線断面積を減じた面積に単位長さを乗じた値である。
【0051】
S14においてVaを算出した後、S15において上記流量Fと上記体積Vaとの差Xを算定し、さらにS16において差Xの値について判断ジョブを行う。差Xが0未満の場合(S16:NO)は、流量Fが不十分と判断してS21においてポンプ回転数増大指令をポンプ駆動モータ44に行う一方、差Xが0以上の場合(S16:YES)は、S17に進んで、差Xと許容誤差βとの差Yを算定する。なお、許容誤差βは、例えば電線10の径、熱収縮チューブ20の径、流量計43の読取誤差等を考慮に入れた値である。
【0052】
差Yが0を超える場合(S18:NO)は、充填材30の供給過多と判断して、S19においてポンプ回転数減少指令をポンプ駆動モータ44に行う一方、差Yが0以上の場合(S18:YES)は、充填材30の供給量が適量であると判断して、S20に進み、ポンプの回転数を現状のまま維持させる。
【0053】
以上のような判断ジョブを行い、S22において、熱収縮チューブ20の全長Lと上記パイプ移動量Dとの差Zを算出し、Zが0になるまでプーリの運転を続ける制御を行うものとしている(S23、S24)。
【0054】
一方、図14は、上記後退工程において、制御部50が行うプーリ回転数を制御するパイプ移動制御ジョブの流れを示すフローチャートである。以下、当該パイプ移動制御ジョブについて説明する。
まず、S41において、プーリ回転数Nに係る計測情報をプーリ22から取得した後、パイプ移動量(リング部材移動量)Dを算定する(S42)。具体的には、パイプ移動量Dは、プーリ回転数Nとプーリ22の周長Rとの積により算定される。
【0055】
次に、S43において、充填材30の流量Fを流量計43から取得し、さらにS44において、熱収縮チューブ内移動空間の体積Vaを算定する。チューブ内移動空間とは、注入パイプ90(リング部材91)が移動した空間の体積のことで、具体的には、式(V=αD)により算出される。なお、αは熱収縮チューブ20の収縮後における単位長さ当りの内部空間体積、具体的にはチューブの収縮後内部面積から電線と編組線断面積を減じた面積に単位長さを乗じた値である。
【0056】
S44においてVaを算出した後、S45において上記流量Fと上記体積Vaとの差Xを算定し、さらにS46において差Xの値について判断ジョブを行う。差Xが0未満の場合(S46:NO)は、流量Fが不十分と判断してS51においてプーリ回転数減少指令をプーリ22に行い、注入パイプ90(リング部材91)の後退量を低減させる。一方、差Xが0以上の場合(S46:YES)は、S47に進んで、差Xと許容誤差βとの差Yを算定する。なお、許容誤差βは、例えば電線10の径、熱収縮チューブ20の径、流量計43の読取誤差等を考慮に入れた値である。
【0057】
差Yが0を超える場合(S48:NO)は、充填材30の供給過多と判断して、S49においてプーリ回転数増大指令をプーリ22に行い、注入パイプ90(リング部材91)の後退量を増大させる。一方、差Yが0以上の場合(S48:YES)は、充填材30の供給量が適量であると判断して、S50に進み、プーリの回転数を現状のまま維持させ、すなわち注入パイプ90(リング部材91)の後退を現状のまま維持させる。
【0058】
以上のような判断ジョブを行い、S52において、熱収縮チューブ20の全長Lと上記パイプ移動量Dとの差Zを算出し、Zが0になるまでプーリの運転を続ける制御を行うものとしている(S53、S54)。
【0059】
以上のようなポンプの回転数やプーリの回転数の制御を行うことで、電線10の長手方向に均等に充填材30が充填され、その後に熱収縮チューブ20の収縮工程を行って製造されるシールド導電体Waは、電線10において発熱があった場合にも、充填材30を介して効率良く熱収縮チューブ20外へ放熱することが可能となる。
【0060】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記実施形態では1つの熱収縮チューブ内に3本の電線を挿通したが、本発明によれば、1つの熱収縮チューブ(外管)に挿通される電線の本数は1本、2本、4本以上のいずれとしてもよい。
(2)上記実施形態では充填材をシリコングリースとしたが、本発明によれば、これ以外の種類の樹脂等を充填材として用いてもよい。
(3)上記実施形態では熱収縮チューブ内で電線が俵積み状に配置されるようにしたが、本発明によれば、電線は一列に並ぶように配置されていてもよく、縦横に整列して配置されていてもよい。
(4)上記実施形態では熱収縮チューブを円形断面としたが、本発明によれば、熱収縮チューブの断面形状は非円形(長円形、楕円形、台形や平行四辺形を含む概ね多角形など)としてもよい。
(5)上記実施形態ではポンプ回転数とプーリ回転数をそれぞれ単独で制御するようにしたが、両方を一緒に制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施形態の製造装置により製造されたシールド導電体の断面模式図。
【図2】図1のX−X線断面図。
【図3】実施形態の製造方法に用いる一製造装置の断面模式図。
【図4】図3の製造装置を用いたときの作用を説明する断面模式図。
【図5】実施形態の製造方法の一工程を説明するための断面模式図。
【図6】図5のY−Y線断面図。
【図7】実施形態の製造方法に用いる一製造装置の断面模式図。
【図8】図7のZ−Z線断面図。
【図9】実施形態の製造方法の一工程を説明するための断面模式図。
【図10】図9に続く工程を説明するための断面模式図。
【図11】変形例に係る充填装置の全体構成を示す断面模式図。
【図12】図11のA−A線断面図。
【図13】充填制御ジョブの流れを示すフローチャート。
【図14】パイプ移動制御ジョブの流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0062】
Wa…シールド導電体、10…電線、20…熱収縮チューブ(外管)、30…充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外管と、前記外管内に挿通された電線と、前記外管と前記電線との間に充填された充填材と、を含むシールド導電体の製造方法であって、
前記外管として、所定条件によって収縮させることが可能なチューブを用い、
収縮前の前記チューブ内に前記電線を配置する電線配置工程と、
前記チューブと前記電線との間に前記充填材を充填する充填工程と、
前記充填工程の後に、前記チューブを収縮させる収縮工程と、
を含むことを特徴とするシールド導電体の製造方法。
【請求項2】
前記チューブ内に前記電線を配置する前に、当該チューブの挿入口を開口する開口工程を含み、
前記開口工程は、円筒を半分割した構成の半割ケースを用い、前記半割ケースを開口させた状態で当該半割ケース内に前記チューブを挿入した後、当該半割ケースを閉口することで、前記チューブの挿入口を開口する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のシールド導電体の製造方法。
【請求項3】
前記電線配置工程は、前記チューブ内に編組線からなる編組線チューブを挿通する工程と、前記編組線チューブ内に前記電線を配置する工程とを含み、
前記充填工程においては、前記編組線チューブと前記電線との間に前記充填材を充填することを特徴とする請求項1又は2に記載のシールド導電体の製造方法。
【請求項4】
前記充填工程は、先端部に注入口を備えた注入パイプを、前記チューブの挿入口から当該チューブ内に挿入し、当該注入パイプと前記チューブとを軸方向に相対移動させつつ前記注入口から前記充填材を充填することで、当該チューブの長さ方向に亘って前記充填材を充填するものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシールド導電体の製造方法。
【請求項5】
前記注入パイプは、その先端部に円環状のリング部材を備え、
前記充填工程は、前記電線を前記リング部材の円環内に挿通した状態で、当該リング部材の周方向に沿って配設された前記注入口から前記充填材を充填するものであることを特徴とする請求項4に記載のシールド導電体の製造方法。
【請求項6】
前記注入口は、前記リング部材の外周に所定間隔で複数配設されていることを特徴とする請求項5に記載のシールド導電体の製造方法。
【請求項7】
前記注入パイプを前記チューブ内に複数挿入するものとし、
前記充填工程においては、当該複数の注入パイプを、各注入パイプの軸線が平行となる状態で、且つ各注入パイプを前記チューブ内に円環状に配列して、前記充填を行うことを特徴とする請求項4に記載のシールド導電体の製造方法。
【請求項8】
前記注入パイプの先端が前記チューブの前記挿入口とは反対側の端部まで到達するように、当該注入パイプを前記チューブに挿入した後、前記充填材の充填を継続しつつ、前記注入パイプを前記チューブ内から後退させる注入パイプ後退工程を含み、
前記注入パイプ後退工程において、当該注入パイプの後退量は、前記充填材の充填量に基づいて制御されることを特徴とする請求項4に記載のシールド導電体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−34196(P2008−34196A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204864(P2006−204864)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】