説明

シールド層除去が容易な同軸ケーブル及び該シールド層の除去方法

【課題】 誘電体層の劣化の懸念がなく、しかも、生産性に優れたシールド層除去が容易な同軸ケーブルを提供すること。
【解決手段】 同軸ケーブル端末部のシールド層外方から該同軸ケーブル(1)の内方に向けてレーザ光を照射することにより該端末部の接着性樹脂膜(4)を選択的に溶融した後、溶融した接着性樹脂膜(4)とこれに対応する部分のシールド層とを一体的に除去するため、内部導体(2)を被覆するフッ素樹脂誘電体層(3)の周りに該誘電体層(3)よりも溶融温度の低い接着性樹脂膜(4)を介するとともに、導電樹脂膜(5)上に形成された電解金属メッキ層(6)からなるシールド層を有する同軸ケーブル(1)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド層除去が容易な同軸ケーブルの構造及び該シールド層の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信機器、通信端末機器類、更には計測機器等の高周波部品の信号伝達線路として、優れた高周波特性が要求される同軸ケーブルにおいては、頻雑な端末加工が不可欠である。その一つの例として、レーザ光を同軸ケーブルに照射し、該同軸ケーブルの各層の切断・除去等の端末加工を行うことが知られているが、その際、特にシールド層(外部導体)の除去が最も厄介である。
この理由は、以下のとおりである。
シールド層が横巻き、あるいは編組の場合には、レーザ光が横巻き、あるいは編組の隙間を突き抜け内部に位置する誘電体層に到達してしまう。この結果、レーザ光が照射された誘電体層の高周波特性が劣化し、極端な場合には内部導体にまで到達して、これまでも溶断してしまうという致命的問題が生じる。しかもこの問題は、極細同軸ケーブルにおいて、より顕著になる。
【0003】
一方、シールド層が金属メッキ層である場合は、その膜厚が薄いので、誘電体層を機械的に損傷することなく金属メッキ層を除去(剥離)するのは極めて困難である。同時に、膜厚の薄いメッキ層へのレーザ光の照射量を制御することも困難で、誘電体層の電気的特性を損傷してしまうという懸念もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、誘電体層の劣化の懸念がなく、しかも、生産性に優れたシールド層除去が容易な同軸ケーブル及び該シールド層の除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、同軸ケーブルの構造面からレーザ光による易加工化について鋭意検討した。その結果、誘電体層とシールド層との間に、誘電体層よりも溶融温度の低い接着性樹脂膜を介在させ、この樹脂膜をレーザ光で選択的に溶融膜に転化するとき、シールド層は溶融膜と一体的に除去されることを究明した。
【発明の効果】
【0006】
本発明の同軸ケーブルにあっては、以下のような顕著な効果が奏される。
a.選択的に溶融された接着性樹脂膜は誘電体層から容易に剥離され、シールド層と一体的に除去できるので、生産性が大幅に向上する。
b.誘電体層は接着性樹脂膜より高い溶融温度を有するので、レーザ光による熱劣化が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のシールド層除去が容易な同軸ケーブルについて、レーザ光照射を例にとって、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のシールド層除去が容易な同軸ケーブルの好ましい態様を示す側面図である。
図2は、図1に示したシールド層除去が容易な同軸ケーブルを用い、レーザ光照射によりシールド層を除去する一態様を示す斜視図である。
図1において、(1)はシールド層除去が容易な同軸ケーブル、(2)はシールド層除去が容易な同軸ケーブル(1)の内部導体、(3)は内部導体(2)を被覆する誘電体層、(4)は誘電体層(3)上に形成された接着性樹脂膜、(5)は接着性樹脂膜(4)上に形成された、金属メッキとの付着性を改善するための導電樹脂膜、(6)は導電樹脂膜(5)上に形成された電解金属メッキ層(シールド層)である。この同軸ケーブルにおいて特徴的なことは、接着性樹脂膜(4)が誘電体層(3)よりも十分に低い溶融温度を有していることである。
図2において、(7)はレーザ装置、(8)は照射対象であるシールド層除去が容易な同軸ケーブル(1)を載置するステージ、(9)はシールド層除去が容易な同軸ケーブル(1)の端末部をステージ(8)上に載置するための固定治具、(P)は電解金属メッキ層(6)の除去終了位置である。
【0008】
本発明の特徴は、誘電体層(3)上に先ず、その溶融温度よりも十分に低い溶融温度を有する部材を接着性樹脂膜(4)として設けること、そして、この樹脂膜(4)上にシールド層を配することにある。こうすることにより、接着性樹脂膜(4)を選択的に溶融することが可能になり、ひいては、溶融した接着性樹脂膜(4)を誘電体層(3)から容易に剥離できる。従って、溶融状態の接着性樹脂膜(4)とその外周を取り囲むシールド層とを一体的に除去できる。
更に、 本発明の同軸ケーブルが、図1に示すように、接着性樹脂膜(4)、導電性樹脂膜(5)及び電解金属メッキ層(6)を含む多層構造であっても、これらを一層毎に剥離・除去する必要がなくなるので、端末加工時の生産性が大幅に向上する。
接着性樹脂膜(4)は、誘電体層(3)の溶融温度に比べて十分に低い溶融温度を有することが肝要である。誘電体層(3)との溶融温度差は、好ましくは50℃以上、更に好ましくは100℃以上である。このような接着性樹脂膜(4)としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、更にはナイロン610に第三成分を共重合することにより得られた、融点が250℃以下の共重合体等ナイロン系接着剤の膜が好ましい。その際の膜厚の下限値は、誘電体層(3)との十分な接着力を得るため0.01μm以上であるのが好ましく他方、その上限値は誘電率の低下に配慮して3μm以下とするのが好ましい。更に、付け加えれば、接着性樹脂膜(4)の厚さを厚くした場合には少なからずレーザ光を遮断するバリアー層としての効果も期待できる。
本発明の同軸ケーブルの好ましい態様にあっては、図1に示すように、接着性樹脂膜(4)上に導電性樹脂膜(5)が配され、この導電性樹脂膜(5)上に電解金属メッキ層(6)がシールド層として配される。導電樹脂膜(5)は、パラジウム等の金属化合物を触媒核として含有するピロール系、アニリン系、又はチオフェン系の導電樹脂から構成される。これら樹脂には、必要に応じて導電化促進剤を含有させてもよい。導電樹脂膜(5)の膜厚としては、電解金属メッキ層(6)との十分な結合力を確保しながらも電気特性に配慮して、0.001μm〜3μmとするのが好ましい。他方、電解金属メッキ層(6)は、硫酸銅電気メッキ等の通常のメッキ処方で形成される。このときの電解金属メッキ層(6)の下限値は、十分なシールド特性を確保するために0.5μm以上が必要であり他方、その上限値は、同軸ケーブル(1)の外径や可撓性を考慮して、30μm以下とするのが好ましい。
上記の電解金属メッキ層(6)上には、必要に応じて、シース層(保護層)が被覆されるシース層としては斯界で常用されている熱可塑性樹脂を配すればよい。このシース層は、例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)のようなフッ素樹脂を溶融押出し成型して被覆することが好ましい。この被覆層を設けた同軸ケーブルの場合は、その端末部のシース層を常法により剥離してから、図1に示すように、ステージ(8)上に固定治具(9)にて固定すればよい。
更に、本発明のその余の構成について触れると、内部導体(2)としては、直径がφ0.01〜0.2mm程度の単線あるいは撚り線の軟銅線や銅被鋼線等にスズや銀のメッキを施したものが使用される。この内部導体(2)に被覆される誘電体層(3)を構成するフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン(FEP)やテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、あるいは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。
【0009】
次に、レーザ光照射によりシールド層を除去する一態様について述べる。
除去する電解金属メッキ層(6)の片側表面ずつ又は両面同時にレーザ光を照射・加熱する。このときレーザ光をスキャンさせるか、同軸ケーブル(1)を載せたステージを移動して除去部分にレーザ光を照射する。
レーザ光は、その波長が接着性樹脂膜(4)には吸収され易いが誘電体層(3)には吸収されにくいものが好ましい。レーザ自体は、電解金属メッキ層(6)の金属の種類にも依るが、例えば、銅の場合には波長の短いYAGレーザ、レーザダイオード、エキシマレーザあるいは色素レーザ等が利用できる。
レーザ光照射により電解金属メッキ層(6)で吸収された光は熱に変わり、熱伝導により電解金属メッキ層(6)の内層に位置する導電樹脂膜(5)を経て接着性樹脂膜(4)に伝わり、接着性樹脂膜(4)を加熱・溶融する。他方、この接着性樹脂膜(4)の内層に位置する誘電体層(3)は、接着性樹脂膜(4)に比べて十分に高い溶融温度を有しているので、上記の照射・加熱の影響を実質的に受けることはない。
接着性樹脂膜(4)が加熱・溶融された時点で、レーザ光の照射を停止し、次いで、溶融状態の接着性樹脂膜(4)を誘電体層(3)から剥離させながら、導電樹脂膜(5)及び電解金属メッキ層(6)と一体的に除去する。
【実施例】
【0010】
以下、極細同軸ケーブル(AWG36)のシールド層を除去する場合を例にとって、本発明を具体的に説明する。勿論、本発明はこれによって限定されるものではない。
本例で用いたシールド層除去が容易な同軸ケーブル(1)は、以下のとおりである。
素線径0.05mmの錫メッキ銅合金線を7本撚って得た、撚り外径が0.15mmの錫メッキ銅合金線からなる内部導体(2)、溶融温度が327℃のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる、層厚が125μmの誘電体層(3)、溶融温度が212℃のナイロン610の共重合体からなる、膜厚が0.1μmの接着性樹脂膜(4)、パラジウム化合物を含む、膜厚が0.005μmの導電樹脂膜(5)、及び膜厚が3μmの電解銅メッキ層(6)を有し、ケーブル外径が0.4mmの極細同軸ケーブル(1)。
上記極細同軸ケーブル(1)の製造にあたって、誘電体層(3)は押出し被覆により、接着剤層(4)はナイロン610をスプレイコーティングにより形成した。又、導電樹脂膜(5)は、ポリチオフェン(導電樹脂)、水、チオジグリコールの硫化物(導電化促進剤)、及び塩化パラジウムとの混合液でのディッピング処方により形成した。更に、電解金属メッキ層(6)は、硫酸銅液を用いて形成した。
次に、図2に示すように、上記の極細同軸ケーブル(1)を固定治具(9)にて固定し、固定治具(9)と同軸ケーブル(1)の先端部間の端末部をステージ(8)上に設置した。この状態で、同軸ケーブル(1)の先端部から電解金属メッキ層(6)の剥離境界線となる除去終了部(P)に向け、電解金属メッキ層(6)の片側表面に上方から照射した。使用したレーザ装置(7)はYAGレーザからなるレーザ光(平均出力10W、波長1.06μm)であり、これを同軸ケーブル長手方向に沿って2mm/秒の移動速度で照射した。照射完了後、同軸ケーブル(1)を裏返してから電解金属メッキ層(6)の片側裏面に同様の照射を行った。
この時点で、接着性樹脂膜(4)が溶融状態にあることを確認してから、該溶融膜を導電樹脂膜(5)及び電解金属メッキ層(6)と一体的に引き抜くことにより、ケーブルの先端から除去終了部(P)までが完全に除去した。
シールド層を除去した後の誘電体層(3)及び内部導体(2)には何ら損傷が無いことが判明し、本発明の有効性が確認された。
又、シールド特性試験器により、電気特性であるシールド特性を測定した所、シールド特性の劣化も無いことが確認された。
【0011】
以上の例は、同軸ケーブルが単線の場合であるが、本発明のシールド層除去方法は多数本の同軸ケーブルからなるフラットケーブル及び多芯ケーブルにも展開できるのは言うまでもない。
又、この例では、レーザ光照射に際して、レーザ装置(7)を移動させる態様で説明したが、逆にステージ(8)を移動させる態様あるいは、両者を相対的に移動させる態様、更には、ステージ(8)の周上でレーザビームを回転させながら照射する態様においても同様の効果が奏される。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明の同軸ケーブルはシールド層の剥離が容易にできるので、プリント基板等の回路パターンにも展開できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のシールド層除去が容易な同軸ケーブルの好ましい態様を示す側面図である。
【図2】本発明のシールド層除去が容易な同軸ケーブルを用い、レーザ光照射によりシールド層を除去する一態様を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0014】
1 シールド層除去が容易な同軸ケーブル
2 内部導体
3 誘電体層
4 接着性樹脂膜
5 導電樹脂膜
6 電解金属メッキ層
7 レーザ装置
8 ステージ
9 固定治具
P シールド層の除去終了部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体を被覆するフッ素樹脂誘電体層の周りに該誘電体層よりも溶融温度の低い接着性樹脂膜を介してシールド層を配したことを特徴とするシールド層除去が容易な同軸ケーブル。
【請求項2】
該シールド層が導電樹脂膜上に形成された電解金属メッキ層である請求項1に記載のシールド層除去が容易な同軸ケーブル。
【請求項3】
該誘電体層と該接着性樹脂膜との溶融温度差が50℃以上である請求項1又は2のいずれかに記載のシールド層除去が容易な同軸ケーブル。
【請求項4】
該接着性樹脂膜がナイロン系接着剤の膜である請求項1〜3のいずれかに記載のシールド層除去が容易な同軸ケーブル。
【請求項5】
該接着性樹脂膜の膜厚が0.01μm〜3μmである請求項1〜4のいずれかに記載のシールド層除去が容易な同軸ケーブル。
【請求項6】
該導電樹脂膜が金属触媒核を含む請求項1〜5のいずれかに記載のシールド層除去が容易な同軸ケーブル。
【請求項7】
該導電樹脂膜の膜厚が0.001μm〜3μmである請求項1〜6のいずれかに記載のシールド層の除去が容易な同軸ケーブル。
【請求項8】
該電解金属メッキ層の厚さが0.5μm〜30μmである請求項1〜7のいずれかに記載のシールド層除去が容易な同軸ケーブル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のシールド層除去が容易な同軸ケーブルの端末部のシールド層表面にレーザ光を照射して、該表面を加熱することにより、該端末部の接着性樹脂膜を選択的に溶融し、溶融した接着性樹脂膜とこれに対応する部分のシールド層とを一体的に除去することを特徴とする同軸ケーブルのシールド層除去方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−269390(P2006−269390A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89991(P2005−89991)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】