説明

シールド掘進機

【課題】如何なる地盤であっても、ベントナイト、セメント系材料等を用いる必要がなく、産業廃棄物を発生させずに、簡易な設備でかつ低コストで地盤の掘削を円滑に行なうことができるシールド掘進機を提供する。
【解決手段】シールド掘進機10は、略円筒形状のシールド11と、地盤を掘削するための掘削カッターヘッド13と、掘削カッターヘッド13よりも小さな径を有しかつ掘削カッターヘッド13の回転方向とは逆方向に回転駆動される、掘削土を撹拌するための撹拌翼15と、掘削土をシールド11の内周面に沿って下部から上部に回転移動させかつ当該上部に到達したときに後方に落下するように構成した掘削土回転送出装置23と、掘削土を後方に送出するためのコンベヤ16とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下鉄等のトンネルを造成するための地盤掘削用のシールド掘進機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地下鉄等のトンネルを造成する際に、泥水加圧式、泥土圧式等のシールド掘進機が用いられている。
これらのシールド掘進機において、掘削土は、作泥材等を加えて塑性流動化された後に、シールド掘進機の後方に排出される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−12520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
泥水加圧式のシールド掘進機は、掘削土を塑性流動化させるために、ベントナイト等の比重調整材やカルボキシメチルセルロース(CMC)等の粘性材(以下、塑性流動化を図るための材料を総称して塑性流動化材という。)を用いている。塑性流動化された掘削土は、フィルタープレス等の脱水手段によって脱水された後、産業廃棄物として処理されている。
一方、泥土圧式のシールド掘進機は、掘削土を塑性流動化させるために、加泥材を用いている。塑性流動化された掘削土は、トラック等で運搬し難い性状を有するため、セメントまたは高分子凝集材等の固化材を加えて、運搬し易くした後、産業廃棄物として処理されている。
このように、泥水加圧式と泥土圧式のいずれのシールド掘進機であっても、産業廃棄物の発生という問題があった。
また、泥水加圧式のシールド掘進機では、フィルタープレス等の脱水手段が必要であり、泥土圧式のシールド掘進機では、セメント等の材料を貯留するためのタンク等が必要であり、いずれにしても、これらの設備による工事用地の増大および工事費の増大等の問題があった。
そこで、本発明は、如何なる地盤であっても、ベントナイト等の塑性流動化材やセメント等の固化材を用いる必要がなく、産業廃棄物を発生させずに、簡易な設備でかつ低コストで地盤の掘削を円滑に行なうことができるシールド掘進機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記の課題を解決するために検討した結果、地盤を掘削するための掘削カーターヘッドの後方に、特定の撹拌翼、特定の掘削土回転送出装置、及びコンベヤをこの順に配設すれば、如何なる地盤であっても、ベントナイト等の塑性流動化材やセメント等の固化材を用いる必要がなく、産業廃棄物を発生させずに、掘削土を円滑にシールド掘進機の後方に送出し、普通土として埋立材等に利用しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]を提供するものである。
[1] (a)略円筒形状のシールドと、(b)該シールドの前端付近に配設された、略円盤状で前記シールドと略同一の径を有しかつ回転駆動される、地盤を掘削するための掘削カッターヘッドと、(c)該掘削カッターヘッドの後方に適宜の距離を隔てて配設された、略円盤状で前記掘削カッターヘッドよりも小さな径を有しかつ回転駆動される、掘削土を撹拌するための撹拌翼と、(d)該撹拌翼の後方に配設された掘削土回転送出装置であって、掘削土を前記シールドの内周面に沿って下部から上部に回転移動させかつ当該上部に到達したときに落下させて後方に移動させるように構成した掘削土回転送出装置と、(e)該掘削土回転送出装置によって落下した掘削土を後方に送出するためのコンベヤと、を備えていることを特徴とするシールド掘進機。
[2] 前記シールドの前端の内周面は、前記掘削カッターヘッドの周縁付近から前記撹拌翼の周縁付近に向かって縮径する円錐台形状のガイド面として形成されている前記[1]に記載のシールド掘進機。
[3] 前記掘削土回転送出装置は、(i)前記シールドと同じ軸線を有しかつ前記シールドの内径よりも小さな外径を有する略円筒形状の水平壁と、該水平壁の前端の上端付近から後端の下端付近に跨る傾斜壁とからなり、かつ、前記水平壁の上端及び下端の各々に掘削土落下用孔を有する、前記シールドに固定された隔壁部と、(ii)前記シールドの内周面と前記隔壁部の水平壁の外周面の間に配設された、略ドーナツ状の回転駆動される掘削土回転部であって、前記シールドの軸線の方向に向けて開口した複数の掘削土収容室を有する掘削土回転部と、を備えている前記[1]又は[2]に記載のシールド掘進機。
【発明の効果】
【0006】
本発明のシールド掘進機によると、如何なる地盤であっても、ベントナイト等の塑性流動化材や、セメント等の固化材を用いる必要がなく、産業廃棄物を発生させずに、掘削土を円滑にシールド掘進機の後方に送出させ、その後、掘削土を普通土(セメント系材料等が含まれていない通常の土砂)として埋立用の土砂等に利用することができる。
また、シールド掘進機を含む工事設備全体の簡素化及び小型化、及び、工事費の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明のシールド掘進機の一例の要部の断面図である。
【図2】図2は、図1中のA−A線で切断したシールド掘進機の掘削土回転送出装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のシールド掘進機の一例について、以下、図面を参照して説明する。
図1中、シールド掘進機10は、シールド11と、シールド11の前端付近に配設された掘削カッターヘッド13と、掘削カッターヘッド13の後方に配設された撹拌翼15と、撹拌翼15の後方に配設された掘削土回転送出装置23と、掘削土回転送出装置23の後方に配設されたコンベヤ16を備えている。なお、本明細書において、シールド掘進機が進む方向を「前方」といい、その逆の方向を「後方」という。
シールド11は、地盤を掘削して造成された一次覆工されていないトンネルの内周面からの土圧等に対してシールド掘進機を保護するためのものであり、略円筒形状に形成されている。シールド11は、シールド掘進機10の本体の一部であり、回転せずに前進する。なお、シールド11は、シールド本体、スキンプレート等と称されることもある。
掘削カッターヘッド13は、略円盤状でシールド11と略同一の径を有しかつシールド11と同じ軸線を有する回転軸12によって回転駆動される。掘削カッターヘッド13は、その前方側の面に多数の掘削カッター18を有し、この掘削カッター18によって、地盤を掘削することができる。なお、掘削カッター18は、カッタービット等と称されることもある。
掘削カッターヘッド13は、平板状に形成することもできるが、中央部が前方に膨湾した略ドーム状に形成させると、地盤が掘削されて生じる土砂(掘削土)が、掘削カッターヘッド13の周縁から掘削土取込口19を通じてチャンバー14内に入り易くなり、好ましい。
回転軸12に代えて、掘削カッターヘッド13の周縁に当接する駆動手段を用いることもできる。
【0009】
撹拌翼15は、掘削カッターヘッド13の後方に、内部空間であるチャンバー14を介して、配設されている。撹拌翼15は、略円盤状で掘削カッターヘッド13よりも小さな径を有しかつ掘削カッターヘッド13と同じ軸線を中心に回転駆動される。
撹拌翼15は、図1に示す例では平板状に形成されているが、掘削カッターヘッド13と同様に、中央部が前方に膨湾した略ドーム状に形成させてもよい。
撹拌翼15は、その前方側の面に多数の撹拌カッター21を有し、この撹拌カッター21によって、チャンバー14内の掘削土を撹拌して、凝縮及び塑性流動化を図ることができる。一般に、掘削カッターヘッド13による掘削後の掘削土は、土粒子間の空隙が増大するため、掘削前に比べて1.3倍程度の体積に膨らむ。このように膨らんだ掘削土を膨らんだままの状態にしておくと、地盤の掘削面(切羽)の土圧に対抗することができず、切羽の崩壊のおそれがあるため、チャンバー14内で掘削土を凝縮させて密度を高め、これによって切羽の土圧に対抗させ、切羽の崩壊を防止するものである。
なお、撹拌翼15の後方側の面にも、複数の撹拌カッター(図示せず)を設けることができる。この場合、撹拌翼15と傾斜壁17dの間の空間内の掘削土を撹拌して、塑性流動化の程度を高めることができる。
撹拌翼15は、掘削カッターヘッド13の回転とは逆方向に回転させることが好ましい。逆方向に回転させることによって、チャンバー14内における掘削土の凝縮の程度を高めることができるとともに、チャンバー14内における掘削土の撹拌作用を高めて、掘削土の塑性流動化の程度をより高めることができる。
撹拌翼15の回転速度は、掘削カッターヘッド13の回転速度とは独立して、掘削土の凝集及び塑性流動化の観点から、適宜、定めればよい。
【0010】
撹拌翼15の径は、シールド11の前端部分の形状に合わせて定められる。好ましくは、シールド11の前端部分の内周面は、掘削カッターヘッド13の周縁付近から撹拌翼15の周縁付近に向かって縮径する円錐台形状のガイド面として形成される。この場合、チャンバー14内における掘削土の凝集の程度をより高めて、切羽の土圧に対抗する作用を高めることができる。
撹拌翼15は、例えば、シールド11と同じ軸線を有する回転軸(図示せず)によって回転駆動される。
掘削土回転送出装置23は、撹拌翼15の後方に配設されている。掘削土回転送出装置23は、掘削土をシールド11の前後方向には移動させずにシールド11の内周面に沿って下部から上部に回転移動させかつ当該上部に到達したときに後方に落下させるように構成されている。このように構成することによって、シールド掘進機の小型化(特に全長の増大の回避)を図りつつ、切羽の土圧に対抗するための前方部分と、切羽の土圧から解放され、掘削土をコンベヤ16で送出するための後方部分との境界を形成することができる。
具体的には、掘削土回転送出装置23は、シールド11に固定された隔壁部17と、シールド11の内周面と隔壁部17の間に配設された、略ドーナツ状の回転駆動される掘削土回転部22とから構成されている。
【0011】
このうち、隔壁部17は、シールド11の内部空間を前方側の空間と後方側の空間に分けて遮断するためにシールド11の内面に固着されたものであり、シールド11の内周面11aからシールド11の軸線方向に垂直に延びる略円環形状の垂直壁17aと、垂直壁17aの内方側の端またはその近傍で垂直に折曲してシールド11のガイド面11bの内方側の端付近に達する円筒形状の水平壁17bと、水平壁17bの前端の上端付近から後端の下端付近に達する傾斜壁17dとからなるとともに、水平壁17bの上端及び下端の各々に掘削土落下用孔17c、17eを有するものである。
傾斜壁17dの前方側の空間と後方側の空間は、傾斜壁17d及び掘削土回転部22の仕切壁22d(図2参照)によって隔てられている。そのため、傾斜壁17dと撹拌翼15の間の空間に収容された掘削土は、掘削土落下用孔17eにて落下した後、掘削土回転部22によってシールド11内の下部から上部に回転移動し、次いで、当該上部から掘削土落下用孔17cを通じて落下することになる。
【0012】
掘削土回転部22は、シールド11の内周面に沿って形成された円筒形状の水平壁22aと、水平壁22aの後端で垂直に折曲して水平壁17bの近傍まで延びる垂直壁22bと、水平壁22aの前端で鈍角に折曲して、シールド11の内面に沿って水平壁17bの近傍まで延びる傾斜壁22cと、水平壁22aと垂直壁22bと傾斜壁22cとで形成された溝を区画して掘削土収容室を形成するための、これら各部22a〜22cに対して垂直に延びる壁である複数の仕切壁22d(図2参照)とからなる略ドーナツ状のものである。掘削土回転部22は、回転軸12と同じ軸線を回転中心として回転駆動される。
複数の仕切壁22dは、水平壁22aを底としてシールド11の軸線の方向に向けて開口した複数の掘削土収容室を形成するためのものである。仕切壁22dの高さは、垂直壁22b及び傾斜壁22cの高さと同じである。なお、垂直壁22b、傾斜壁22c及び仕切壁22dの各部の内方側の端部は、隔壁部17の水平壁17bに当接せずに回転しうるように、水平壁17bの近傍に位置している。
掘削土回転部22を回転駆動させるための回転駆動装置の例としては、シールド11の内周面と水平壁部22aの外周面とに回転駆動用の軌道を設けたものや、垂直壁17aを有さずに水平壁17bのみがシールド11に固着されており、垂直壁22bの後方側の面に取り付けた支持体をシールド11の軸線と同じ軸線を回転中心として回転駆動させるもの等が挙げられる。
掘削土収容室の数は、特に限定されないが、好ましくは4〜20、より好ましくは6〜12である。なお、図2に示す例において、掘削土収容室の数は、8である。
掘削土収容室の底部である水平壁部22aには、外部から圧縮空気を掘削土収容室の中に吹き込むための複数の孔を設けることができる。この場合、掘削土収容室がシールド11内の上端に達したときに圧縮空気を吹き込むように構成することによって、掘削土収容室内の掘削土を速やかに落下させることができる。
掘削土収容部22の回転速度は、単位時間当りの掘削土の生成量を考慮して、適宜調整すればよい。
コンベヤ16は、掘削土落下用孔17cを通じて落下した掘削土を、後方に送出するためのものである。コンベヤ16の例としては、スクリューコンベヤ等が挙げられる。
【0013】
図1に示すシールド掘進機10における地盤の掘削作業は、次のように行なわれる。
まず、掘削カッターヘッド13の掘削カッター18によって地盤が掘削され、掘削土が生じる。この掘削土は、シールド11の前端と掘削カッターヘッド13の周縁の間の開口部である掘削土取込口19にて、チャンバー14内に取り込まれる。取り込まれた掘削土は、チャンバー14内で撹拌され、凝縮(高密度化)及び塑性流動化(高流動化)される。
その後、チャンバー14内の掘削土は、撹拌翼15とシールド11の間の開口部である取込空間(取込口)20にて、撹拌翼15の後方の空間に取り込まれる。取り込まれた掘削土は、隔壁部17の水平壁17bに設けられた掘削土落下用孔17eを通じて、掘削土回転部22の掘削土収容室の中に落下する。
次いで、図2に示すように、掘削土回転部22の掘削土収容室の中に収容された掘削土24は、図中の矢印で示す方向に掘削土回転部22が回転することによって、シールド11内の下部から上部に回転移動し、該上部に達した時に掘削土落下用孔17c(図1参照)を通じて落下して、傾斜壁17dの上面に沿って滑り落ち、コンベヤ16の構成部分である円筒部に設けた孔である取込口16aに入り、コンベヤ16のスクリューの回転によって後方に送出される。
【0014】
シールド掘進機10の内部空間においては、地盤の掘削面(切羽)の土圧に対抗するための凝集した掘削土を収容した部分(凝集土の部分)と、該土圧から解放され後方に送出される、土粒子間の間隔が広がった掘削土を収容した部分(非凝集土の部分)とが存在する。このうち、凝集土の部分は、チャンバー14内の空間と、撹拌翼15と傾斜壁17dの間の空間と、掘削土回転部22で下部から上部に掘削土を移動させる過程の掘削土収容室内の空間とからなる。非凝集土の部分は、掘削土回転部22で上部に達して下方に落下する掘削土を収容している掘削土収容室内の空間と、コンベヤ16内の空間等からなる。本発明では、隔壁部17と掘削土回転部22とからなる掘削土回転送出装置23を設けているため、シールド掘進機10の内部空間に存在する掘削土を凝集土の部分と非凝集土の部分とに分けることができ、切羽の土圧に対抗しつつ、掘削土を均一な供給速度で円滑に
後方に送出することができる。
【符号の説明】
【0015】
10 シールド掘進機
11 シールド
11a 内周面
11b 円錐台形状のガイド面
12 回転軸
13 掘削カッターヘッド
14 チャンバー(内部空間)
15 撹拌翼
16 コンベヤ
16a 取込口
17 隔壁部
17a 垂直壁
17b 水平壁
17c 掘削土落下用孔
17d 傾斜壁
17e 掘削土落下用孔
18 掘削カッター
19 掘削土取込口
20 取込空間(取込口)
21 撹拌カッター
22 掘削土回転部
23 掘削土回転送出装置
24 掘削土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形状のシールドと、
該シールドの前端付近に配設された、略円盤状で前記シールドと略同一の径を有しかつ回転駆動される、地盤を掘削するための掘削カッターヘッドと、
該掘削カッターヘッドの後方に適宜の距離を隔てて配設された、略円盤状で前記掘削カッターヘッドよりも小さな径を有しかつ回転駆動される、掘削土を撹拌するための撹拌翼と、
該撹拌翼の後方に配設された掘削土回転送出装置であって、掘削土を前記シールドの内周面に沿って下部から上部に回転移動させかつ当該上部に到達したときに落下させて後方に移動させるように構成した掘削土回転送出装置と、
該掘削土回転送出装置によって落下した掘削土を後方に送出するためのコンベヤと、
を備えていることを特徴とするシールド掘進機。
【請求項2】
前記シールドの前端の内周面は、前記掘削カッターヘッドの周縁付近から前記撹拌翼の周縁付近に向かって縮径する円錐台形状のガイド面として形成されている請求項1に記載のシールド掘進機。
【請求項3】
前記掘削土回転送出装置は、
前記シールドと同じ軸線を有しかつ前記シールドの内径よりも小さな外径を有する略円筒形状の水平壁と、該水平壁の前端の上端付近から後端の下端付近に跨る傾斜壁とからなり、かつ、前記水平壁の上端及び下端の各々に掘削土落下用孔を有する、前記シールドに固定された隔壁部と、
前記シールドの内周面と前記隔壁部の水平壁の外周面の間に配設された、略ドーナツ状の回転駆動される掘削土回転部であって、前記シールドの軸線の方向に向けて開口した複数の掘削土収容室を有する掘削土回転部と、
を備えている請求項1又は2に記載のシールド掘進機。

【図1】
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【図2】
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