説明

シールド線

【課題】従来のシールド線の絶縁構造では導線軸方向の導線表面に沿って同種同質の絶縁物が連続しているため、絶縁物で誘電体特有の誘電体ひずみが積算され、誘電体ひずみに起因する電荷エネルギーが時間を経て線路に流れ込む結果、線路動特性が劣化する。
【解決手段】課題を解決するため最も確実で簡単な手段として図1、図2、図3の如く、異種又は異質で複数の絶縁物をシールド線軸方向に沿って分割使用し、絶縁物の連続性を遮断する結果、絶縁物の誘電体ひずみ量の総量を減少させる方法で課題を解決する手段とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド線の絶縁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールド線芯線を絶縁する方法において、芯線軸方向に沿って同種同質の絶縁物をもって絶縁する方法が取られて来た。芯線を絶縁する絶縁物の特性により線路特性変化が生じることは周知のとおりである。絶縁物の比誘電率及び誘電体損失角が小さい絶縁物を使用または開発しシールド線に使用されてきた。又、芯線軸垂直方向に複数の絶縁物をもって絶縁する方法も広く知られている。本発明シールド線のように、異種又は異質で複数の絶縁物をシールド線芯線軸方向に沿って交互に密着させ芯線を絶縁する手段による線路特性を改善する方法は存在していなかった。
【0003】
又、シールド線軸方向に沿ってシールド部外周を同種同質の絶縁物で絶縁したシールド線がある。シールド線では、絶縁物の種類また性質によって線路動特性変化が生じることは従来から知られている又、シールド線軸に対して垂直方向に異種又は異質の絶縁物を複数使用し、シールド部外周を絶縁する方法も知られている。本発明シールド線のように、異種又は異質で複数の絶縁物をシールド線シールド部軸方向に沿って交互に密着させシールド部外周を絶縁する手段による線路特性を改善する方法は存在していなかった。
【0004】
更に、シールド線軸方向に沿って芯線及びシールド部外周の絶縁を0002、0003記載の両者を満足する絶縁構造を用い線路特性を改善する方法も存在していなかった。
【特許文献1】特開2003−77347号公報
【特許文献2】特許第3753431号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シールド線芯線とシールド部に電圧が加わると電界が生じる。電界内にある誘電体である芯線を絶縁する絶縁物には電界の方向に張力ひずみ、電界と垂直方向に圧力ひずみを受ける。誘電体ひずみは連続した芯線軸方向に沿った絶縁物全体に時間を経て伝達され又、誘電体歪はシールド線の芯線絶縁物全体でも生じる。誘電体歪に起因する絶縁物内の電荷エネルギーは、時間を経て導線に流れ結果、シールド線の線路動特性を劣化させる。2芯シールド線も同様である。
【0006】
シールド線で音声信号を伝送する場合例えば、CDプレーヤーと増幅器を接続した場合、両者の大地に対するアース電位は互いに変動している。そのためシールド線のシールド部外周を絶縁する絶縁物においても0005記載と同様の現象が生じる。2芯シールド線も同様である。
【0007】
0005、0006記載の誘電体歪に起因する電荷エネルギーは時間を経て線路に流れ両者は互いに密接な関連性を有しシールド線の線路動特性を劣化させる。例えば、芯線絶縁物で生じた誘電体歪はシールド部を介してシールド部外周絶縁物に伝達され、両者は互いに密接な関係を有する。2芯シールド線も同様である。
【0008】
本発明シールド線は、かかる0005記載の問題点を解決することを目的とするため、シールド線芯線を絶縁する絶縁物を、シールド線軸方向に沿って異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させシールド線芯線を絶縁する図1の構造を有するシールド線軸方向分割絶縁構造を特徴とするシールド線を提供しようとするものである。
【0009】
本発明シールド線はかかる0006記載の問題点を解決することを目的とするため、シールド線シールド部外周を絶縁する絶縁物をシールド線軸方向に沿って異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させ、シールド線シールド部外周を絶縁する図2の構造を有するシールド線軸方向分割絶縁構造を特徴とするシールド線を提供しようとするものである。
【0010】
本発明シールド線はかかる0007記載の問題点を解決することを目的とするため、芯線及びシールド部外周を絶縁する図3の絶縁構造を有するシールド線軸方向分割絶縁構造を特徴とするシールド線を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明シールド線は図1の如く、シールド線芯線軸方向に沿って異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させたシールド線軸方向分割絶縁構造にする手段により0005記載の問題点を解決した。
【0012】
本発明シールド線は図2の如く、シールド線軸方向に沿ってシールド部外周を異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させたシールド線軸方向分割絶縁構造にする手段により0006記載の問題点を解決した。
【0013】
本発明シールド線は図3の如く芯線及びシールド部外周を絶縁する絶縁物をシールド線軸方向に沿って異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させたシールド線軸方向分割絶縁構造にする手段により0007記載の問題点を解決した。
【発明の効果】
【0014】
以下説明は交番電界中における誘電体である絶縁物に生じる誘電体歪現象を前提に説明する。
【0015】
全てのシールド線において、誘電体である絶縁物の特性によりシールド線の動特性変化が生じることは、過去から良く知られている。例えば音声信号を伝送する線路に使用した場合、聴感上での解像度が劣化するなどの現象が生じる、動特性が変化する一つの要因として電界内における絶縁物内で生じる誘電体ひずみに起因する誘電体が持つ電荷エネルギーが時間を経て線路に流れ込む結果によるところが大きい。
【0016】
従来、シールド線を絶縁する目的でシールド線芯線軸方向に沿って、同種又は同質の絶縁物を使用する絶縁方法がとられていた。芯線表面を同種同質の絶縁物で絶縁すると、電界内にある誘電体である絶縁物で生じた誘電体ひずみが時間を経て絶縁物全体に伝達される。また、シールド線シールド部外周を絶縁する絶縁物においても同様の現象が生じる。
【0017】
古典的に知られるマクスウェルのひずみ力理論では、電界内にある誘電体である絶縁物において、絶縁物は電界の方向に張力ひずみ、電界と垂直方向に圧力ひずみを受けることは従来から周知されている事実である。この張力、圧力を総称してマクスウェルの応力という。
【0018】
以下説明のため、0017記載の張力ひずみと圧力ひずみを含めたものを誘電体ひずみと定義する。
【0019】
電界内におけるマクスウェルの電磁場の理論によると、電界内における誘電体歪が伝達される現象には弾性体における各法則が適用されることから、任意の点で生じた誘電体ひずみは電界内にあるシールド線芯線軸方向の絶縁物全体に時間を経て伝達される。正負非対称で周期性を有しない音声信号などを伝送した場合、聴感上の解像度劣化として現われる。
【0020】
長さLのシールド線に電圧を印加した場合、任意の点で生じた誘電体ひずみは絶縁物が連続したシールド線芯線軸方向の絶縁物内で、弾性体において力が伝達されると同様に電界内にある絶縁物全体に時間を経て伝達される。またこの誘電体ひずみはシールド線芯線に使用してある絶縁物全体でも生じる。
【0021】
従って、誘電体ひずみに飽和がないと仮定し、比較的短い線路においては、シールド線長が増加するに従って絶縁物内の誘電体ひずみ量は線路長に比例して増加し結果、線路長が短ければ少なく、長ければ多いことは容易に推察できる。シールド線を例えば、音声信号伝送線路である信号ケーブル等に使用した場合の音の変化量が、シールド線長におよそ比例する現象と矛盾するものではない。
【0022】
線路長Lのシールド線内の誘電体ひずみ量を表す場合、横軸に線路長、縦軸に誘電体ひずみ量をとりグラフで表した場合、線路長に対して誘電体ひずみ量が増加していく角度をθとすれば、線路末端の誘電体ひずみ量は(tanθ×L)となる。よって絶縁物内の誘電体ひずみ量の総量はグラフの三角形の面積となり(1/2)×(tanθ×L)×Lとなる。増加角θは絶縁物の性質によって決定される。
【0023】
0022記載の線路長Lにおける誘電体ひずみの総量を減少させる為には、絶縁物の連続性を遮断する方法が最も確実で効果的な方法である。
【0024】
従って、0021、0022、0023記載の考え方において例えば、芯線絶縁物を3分割した図1の構造を有する絶縁物内の誘電体ひずみの総量を思考した場合、一単位長の面積は長さの2乗に反比例して(1/9)、必要な線路長では3単位を必要とする故に(1/9)×3=(1/3)倍となる。
【0025】
図1の如く、絶縁物の連続性を遮断する目的で電界内にあるシールド線芯線絶縁物の誘電体特性が誘電体ひずみ力を伝達し難い性質の絶縁物Dを配置した構造にすれば、絶縁物Aの連続性は遮断されることになる。但し完全に遮断できる絶縁物Dは存在せず、線路の使用目的に応じた遮断効果の高い絶縁物を選択し使用する必要がある。
【0026】
シールド線のシールド部外周を絶縁する絶縁物においても0015から0025記載の考え方が同様に適用されシールド線シールド部外周の絶縁方法においても、図2の如く本発明シールド線軸方向分割絶縁構造が有効である
【0027】
更に、芯線絶縁物とシールド部外周絶縁物で生じる誘電体歪は互いに密接な関係を有し、例えば芯線絶縁物で生じた誘電体歪はシールド部を介しシールド部外周絶縁物に時間を経て伝達され、両者は独立して存在しない。芯線及びシールド部外周を絶縁する絶縁構造を、図3の絶縁構造を用いれば軸方向分割絶縁構造の有効性は更に高くなる。
【0028】
0022、0023、0024は本発明シールド線の技術思想を説明する上での記述であり、絶縁物C、絶縁物Dにおいて誘電体ひずみを完全に遮断することは実在する絶縁物では不可能である又、絶縁物C、絶縁物Dにおいても誘電体ひずみは生じるが例えば、主に可聴周波数帯信号を伝送する線路等の場合、加熱融着するパラフィン紙などを使用すれば0024記載の考え方が極めて有効であり、誘電体ひずみの総量を減少させシールド線路動特性劣化を減少させることが可能である。
【0029】
本発明シールド線の絶縁構造について説明する。図1、図2、図3において絶縁物A、絶縁物D及び絶縁物B、絶縁物Cを配置する間隔及び長さ又、シールド線軸方向に対しての位置などを特定するものではなく、軸方向に沿って異種又は異質で複数の絶縁物を互いに密着させ分割配置する絶縁構造が本発明の技術思想である。
【0030】
本発明シールド線を、正負非対称で周期性を持たない信号例えば、音楽信号等を伝送する音声信号伝送線路等に実際に使用し比較試聴実験を行うと、従来構造のシールド線と本発明シールド線との違いが明確に音に現われる。
【0031】
周期性のある信号例えば、正弦波又は矩形波等周期性を有する信号を本発明シールド線に印加した場合においては聴感上又、オシロスコープ等での波形観測の結果、本発明シールド線と従来型シールド線の音の違いは殆ど認められない。理由は絶縁物内で生じる誘電体ひずみによる絶縁物が持つ電荷エネルギーが時間を経て導線に流れ込む為であり、音声信号音楽信号等は正負非対称で周期性を持たない信号であるため聴感上明確に効果が判別できる。
【0032】
本発明シールド線を絶縁物特性の特徴が最も顕著に表れる一例である、CDプレーヤーと増幅器間の信号伝送線路に使用し、比較試聴実験を行った結果を記載する。
【0033】
図1、図2、図3の3分割絶縁構造のシールド線と従来絶縁構造のシールド線を製作しCDプレーヤーと増幅器を接続する長さ900mmの信号ケーブルに使用した。
【0034】
比較試聴実験には5年以上の楽器演奏経験を有する7人のテスターで行い、テスターの嗜好を出来うる限り排除するため、音の輪郭が明確になるか否か又、自然音には存在しないケーブル特有音の有無を判定基準とした。
【0035】
又、音響システム、試聴する音源又音楽ジャンルなど特に定めることなく、人間の会話を録音したソースも使い、試聴場所も特定することなく行った。
【0036】
図1の構造を有するシールド線の試聴結果は、従来構造に比較し本発明シールド線の場合、音の輪郭が明確になり音楽ソースの場合例えば、弦楽器においては弦の振動音が生演奏に近くなったことを又、自然音には存在しないケーブル特有音が減少することを、テスター7人全員で確認した。
【0037】
図2の構造を有するシールド線の試聴結果は従来構造に比較し0036記載と同様の結果となった。
【0038】
図3の構造を有するシールド線の試聴結果は0036記載内容が、より顕著であることをテスター7人全員で確認した。
【0039】
本発明シールド線を使用した図1、図2、図3の構造を有する信号ケーブルいずれも、音の輪郭が極めて明確になり、人の会話を録音した音源でも会話音の輪郭が明確になることを7人のテスター全員一致で確認し、本発明シールド線は極めて優れた線路動特性を持つシールド線であると判定した。
【0040】
本発明シールド線をマイクロホンケーブル、レコードプレーヤーの信号伝送線路又、増幅機器の基板間の信号伝送線路又、車載用音響機器の音声信号伝送線路に使用し試聴した結果、いずれの線路に使用しても例外無く聴感上高い解像度を有する結果が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明シールド線の実施の形態について説明する。但し以下に示す実施例は本発明シールド線の技術思想を具体化するための方法を例示するものであって、製造方法や使用する電線材又は絶縁物を分割する数及び、絶縁物の種類などを下記のものに特定するものではない。本発明シールド線は請求項1、請求項2、請求項3の範囲において種々の変更を加えることが出来る。更に製造する上での手順及び、製造方法なども下記のものに限定するものでもない。以下の実施例は手造りの一例であり、従来の製造方法を利用し量産を行っても良い。
【実施例1】
【0042】
住電日立ケーブル600V耐燃性ポリエチレン絶縁電線EMIE/F 0.75mm平方を使用し、必要長約900mmの本発明シールド線を製造する場合の実施の形態について説明する。
【0043】
以下実施例説明の為0042記載の電線を絶縁電線と呼ぶ。
【0044】
絶縁電線を必要長より約100mm長い1000mmに切断し両端を固定金具等で固定し約1kgの張力を持たせる。図1の如くケーブル端から約350mm及び650mmの2箇所を超音波カッター等で導線を破損しないように絶縁物Aを、軸方向に約5mm剥ぎ取る。
剥ぎ取った幅5mmの導線表面部にポリエチレンとは異質の絶縁物である加熱融着するパラフィン絶縁物Dを巻きつけ融着させる。この作業を2箇所行う。
絶縁物Dで絶縁した箇所を、長さ約15mm直径約3mmの耐電圧600V熱収縮チューブで二箇所保護する。以上で長さ900mm三分割絶縁構造のシールド線芯線が完成する。
市販している長さ900mm編組シールドを芯線に被せる。
長さ295mm直径約6mmの厚肉熱収縮チューブ絶縁物Bを図2の如く、軸方向に隙間約5mmを確保し被せる。外皮絶縁物の5mmの隙間を加熱融着するパラフィン絶縁物Cで絶縁する。更に熱収縮チューブにて保護する。製作したシールド線の両端をそれぞれ50mm切断し必要長900mmを確保する。
以上にて長さ900mm請求項3、図3の軸方向分割絶縁構造を有するシールド線が完成する。
製造方法は本記載の実施例が制約するものではなく、絶縁物の連続性が遮断できることを目的とし自由に行ってよい。絶縁方法、使用する絶縁材等は耐圧、引張り強度、折り曲げ強度などを考慮し従来の技術常識で行えばよい。図3シールド線実施例の過程において請求項1、請求項2のシールド線が完成することは明らかであり説明を要しない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
正負対象で周期性を持つ信号が伝送される線路等においては本発明シールド線を使用する効果は聴感上では殆ど認められないが、正負非対称で周期性を持たない信号等例えば、音楽信号を伝送した場合には音の違いが明確に現われ本発明シールド線の有効性が高い。
【0046】
本発明シールド線を例えば、電子回路である音響用増幅器の基板間接続線路であるに使用した場合又、車載用音響機器の音声信号伝送線路に使用した場合においても本発明シールド線の十分な効果が確認された。又ヘッドフォンケーブルに使用した場合にも極めて有効である。
【0047】
本発明絶縁構造は導線直径、断面積の大小に関係なくどのようなシールド線にも利用可能な絶縁構造であり又、正負非対称で周期性を持たない信号を伝送する線路であれば、全ての箇所において明細書記載の効果が確認でき、産業上の利用範囲は極めて広い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明シールド線、請求項1の構造図である。
【図2】本発明シールド線、請求項2の構造図である。
【図3】本発明シールド線、請求項3の構造図である。
【符号の説明】
【0049】
1 シールド線の芯線導線部である。
2 シールド線のシールド部である。
3 シールド線芯線を絶縁する絶縁物Aである。
4 シールド線シールド部を絶縁する絶縁物Bである。
5 シールド線シールド部を絶縁する絶縁物Cである。
6 シールド線芯線を絶縁する絶縁物Dである

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド線軸方向に沿って同種同質の絶縁物が連続することを避け、異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させシールド線芯線の絶縁をおこなうシールド線軸方向分割絶縁構造を特徴とするシールド線。
【請求項2】
シールド線軸方向に沿って同種同質の絶縁物が連続することを避け、異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させシールド線シールド部外周の絶縁をおこなうシールド線軸方向分割絶縁構造を特徴とするシールド線。
【請求項3】
シールド線芯線部絶縁構造及びシールド部外周絶縁構造が請求項1及び請求項2に記載する両者を満足するシールド線軸方向分割絶縁構造を特徴とするシールド線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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