説明

シールド電線

【課題】曲げ性、耐衝撃性、及び耐熱性が良好なシールド電線、それと接続される筐体、それらの接続方法、並びにシールド電線ユニットを提供する。
【解決手段】単線材又は撚線材からなる導体を絶縁体で被覆してなる電線本体と、その電線本体の外周に設けられるシールド部材と、を備えたシールド電線において、上記シールド部材は、内スリーブ211と外スリーブ212とを連結する連結部と、を有するスリーブ部材と、上記内スリーブと上記外スリーブとの間に上記連結部を挟んで形成された2つの空間部の一方である第1空間部に挿入される編組シールド12と、上記2つの空間部の他方である第2空間部に挿入される金属パイプと、で構成され、上記内スリーブ、上記編組シールド、及び上記外スリーブは、上記内スリーブ、上記編組シールド、及び上記外スリーブが重畳した重畳部222に圧力を加えることで、機械的に接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の電力供給用シールド電線に係り、特に、自動車の各種機器への電力供給に用いられるシールド電線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド電線は、被覆電線の外側に、線径が数十μm〜数百μmの銅線、すずめっき銅線等の編組で構成される編組シールドを有している。この編組シールドの両端末に金属製コネクタを接続し、そのコネクタをアース接続することで、電磁波等による誤作動を防ぐシールド効果が得られる。
【0003】
近年、自動車においては、ハイブリッド車の普及、機器の電気化が進んでいる。このため、自動車の各種機器等に使用されるシールド電線においては、高電圧化、大電流化が図られるようになってきている。また、ハイブリッド車の普及、機器の電気化に伴い、配線材(シールド電線)の本数もますます増加する傾向にあるため、配線材の布設スペースの省スペース化(配線材の曲げが容易であること)が求められている。
【0004】
図34に示すように、シールド電線350の両端末には接続端子356,356が圧着され、圧着部に圧着痕356aが形成されている。シールド電線350の35−35線断面図を図35に示すように、シールド電線350は、導体357の外周に、内周側から順に、絶縁体355、編組シールド352、被覆層(絶縁体)351を有する。シールド電線350の36−36線断面図を図36に示すように、シールド電線は、その両端末部において被覆材351を皮剥きし、編組シールド352を折り返し、編組シールド352の折り返し先端部に圧着リング353が設けられる。編組シールド352の折り返し基部(編組線352と絶縁体355の境界部)にはシールドコネクタ354が設けられる。シールドコネクタ354は、接地のためのネジ止め用端子(図示せず)を有しており、この端子を介してアース接続される。
【0005】
このような構造のシールド電線350の一端側がインバータの筐体に、他端側がトランスミッションの筐体などに接続される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−208456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のシールド電線350は、絶縁体355として耐熱性の樹脂を使用していると共に、全体を編組シールド352で覆っているため、曲げ性が良好でない。このため、シールド電線350を車体などに取り付ける際、取り付け箇所の形状に沿ってシールド電線350を曲げることが困難であり、取り付け時の取扱い性に難点がある。
【0008】
また、シールド電線350をインバータ筐体に取り付ける際、電流が流れる接続端子356の部分とシールドコネクタ354の部分について、それぞれ個別に接続を行う必要がある。シールドコネクタ354はアース接続を行う必要があるため、ネジ止め用端子と筐体が電気的に接続されるが、この接続作業の効率が良好でないという問題がある。
【0009】
さらに、シールド電線350を取り付ける場所によっては、泥水、砂利等が飛んでくるおそれがあり、砂利などがシールド電線350にぶつかることで、被覆材351が破けてしまう恐れがある。
【0010】
また、シールド電線350を、自動車のエンジンに近い場所に取り付けた場合、振動や高温に晒されるため、耐熱限界を超えると、被覆材351にひび割れが発生し、編組シールド352が腐食、断線するおそれがあり、その結果、シールド効果が低下するという問題があった。このため、被覆材351を、振動や高温に耐えるような強固な構造、材質にする必要がある。特に、トランスミッション側の給電ハウジングとの接続に用いられるシールド電線には大電流を流す必要があり、当然、シールドとして用いられる編組シールド352にも電流が流れる。その結果、編組シールド352が熱を発し、給電ハウジングとシールド電線の接続部分における抵抗値が高くなるおそれがあった。また、編組シールド352が熱を帯びる結果、被覆材351が高温に晒され、被覆材351にひびが入ってしまうおそれがあった。
【0011】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、曲げ性、耐衝撃性、及び耐熱性が良好なシールド電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく本発明に係るシールド電線は、単線材又は撚線材からなる導体を絶縁体で被覆してなる電線本体と、その電線本体の外周に設けられるシールド部材と、を備えたシールド電線において、上記シールド部材は、内スリーブと、上記内スリーブの外側にある外スリーブと、上記内スリーブと上記外スリーブとを連結する連結部と、を有するスリーブ部材と、上記内スリーブと上記外スリーブとの間に上記連結部を挟んで形成された2つの空間部の一方である第1空間部に挿入される編組シールドと、上記内スリーブと上記外スリーブとの間に上記連結部を挟んで形成された2つの空間部の他方である第2空間部に挿入される金属パイプと、で構成され、上記内スリーブ、上記編組シールド、及び上記外スリーブは、上記内スリーブ、上記編組シールド、及び上記外スリーブが重畳した重畳部に圧力を加えることで、機械的に接合されているものである。
【0013】
また、上記内スリーブと上記編組シールドと上記外スリーブとが機械的に接合された上記重畳部の一部は、上記外スリーブの外側から熱を付与することにより、溶融凝固されていることが好ましい。
また、上記スリーブ部材と上記金属パイプとの境界部は、溶融接合されていることが好ましい。
【0014】
また、上記溶融凝固は、TIG溶接、MIG溶接、電子ビーム溶接、及びレーザ溶接のいずれかによって行うとよい。
また、上記溶融接合は、MIG溶接によって行うとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐衝撃性、耐熱性、及び筐体との接続性が良好なシールド電線が得られるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係るシールド電線の平面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図1の4−4線断面図である。
【図5】図1の5−5線断面図である。
【図6】筒体の平面図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】筒体に圧縮成形を施す前の状態を示す断面図である。
【図9】圧縮成形中の筒体の断面図である。
【図10】圧縮成形を施した後の筒体の平面図である。
【図11】図10の11−11線断面図である。
【図12】金属パイプに電線本体を挿通させた際の平面図である。
【図13】図10の筒体と図12の金属パイプを突き合わせた際の平面図である。
【図14】筒体と金属パイプを接続する際の平面図である。
【図15】筒体と金属パイプを溶接する際の平面図である。
【図16】図14の第1変形例を示す平面図である。
【図17】図16の接続後に、筒体と金属パイプを溶接する際の平面図である。
【図18】図14の第2変形例を示す平面図である。
【図19】図18の接続後に、筒体と金属パイプを溶接する際の平面図である。
【図20】図14の第3変形例を示す平面図である。
【図21】図20の接続後に、筒体と金属パイプを溶接する際の平面図である。
【図22】筒体と金属パイプを溶接した後の平面図である。
【図23】筒体とコネクタ部材を接続する際、露出シールドを折り返した状態を示す平面図である。
【図24】露出シールドを元に戻した状態を示す平面図である。
【図25】露出シールドに圧着リングを被せた状態を示す平面図である。
【図26】圧着リングに圧縮成形を施した後の平面図である。
【図27】コネクタ部材と圧着リングを溶接する際の平面図である。
【図28】溶接後、絶縁被覆を被覆した状態を示す平面図である。
【図29】図5のシールド部材の第1変形例を示す断面図である。
【図30】図29のシールド部材に接合処理を施す際の断面図である。
【図31】接合処理を施したシールド部材に電気的接合処理を施した後の断面図である。
【図32】図30のシールド部材と金属パイプを接続した後の断面図である。
【図33】シールド部材と金属パイプを溶接した後の断面図である。
【図34】従来のシールド電線の平面図である。
【図35】図34の35−35線断面図である。
【図36】図34の36−36線断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明の好適一実施の形態に係るシールド電線の平面図を図1に示す。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係るシールド電線は、単線材又は撚線材からなる導体17を絶縁体15で被覆してなる電線本体20の周りにシールド部材を設けたものである。シールド電線は、その両端末に接続端子16,16が接続される。一方側(図1中では左側)の接続端子16が、例えば後述するインバータ側に接続され、他方側(図1中では右側)の接続端子16が、例えば後述するトランスミッション側に接続される。
【0020】
シールド部材は、図6に示す筒体50と図12に示す金属パイプ11で構成される。筒体50と金属パイプ11を突き合わせて設け、筒体50と金属パイプ11を溶接部140を介して電気的に接続することで、シールド部材が形成される。図5及び図6に示すように、筒体50は、内スリーブ21の周りに、順次、編組シールド12、外スリーブ22を設けてなる。編組シールド12は筒体50の全長にわたって設けられる長尺部材である。内スリーブ21及び外スリーブ22は、筒体50のトランスミッション側端部近傍を覆う短尺部材である。
【0021】
シールド部材におけるシールド層は、シールド電線の長手方向において異なっており、具体的には、筒体50の外スリーブ22の部分を境界にして異なっている。すなわち、インバータ側のシールド層は図2に示すように編組シールド12であり、トランスミッション側のシールド層は図4に示すように金属パイプ11である。このため、外スリーブ22の断面形状を、長手方向において異ならせている。
【0022】
インバータ側の外スリーブ22は、図2に示したように、断面多角形状(図2中では六角形状)の成形部22aとなっている。トランスミッション側の外スリーブ22は、図3に示すように、断面円状の未成形部22bとなっている。
【0023】
シールド部材は電線本体20を囲繞して設けられており、その内部に電線本体を内包するための空間部23を有している(図2〜図4参照)。つまり、電線本体20とシールド部材との間には隙間が設けられる。これによって、シールド電線の曲げ性が良好となると共に、シールド電線を曲げた時に電線本体20に応力がかかることがない。
【0024】
筒体50における編組シールド12のインバータ側の端部近傍には、圧着リング51が設けられる。圧着リング51は、図5に示すように、断面多角形状(図5中では六角形状)の成形部51aとなっている。圧着リング51と外スリーブ22の間の編組シールド12は、絶縁被覆18によって覆設される。
【0025】
また、編組シールド12のインバータ側(筒体50の非金属パイプ側)の端部には、シールドコネクタ(コネクタ部材)500が設けられる。シールドコネクタ500は、図23に示すように、フランジ部502を挟んでインバータ側に筒体接続部501、トランスミッション側に機器接続部503を有しており、フランジ部502及び機器接続部503を介してアース接続される。
【0026】
外スリーブ22、金属パイプ11、及びコネクタ部材500は同じ材料(又はほぼ同じ化学組成の材料)で構成されることが好ましい。具体的には、外スリーブ22、金属パイプ11、及びコネクタ部材500の構成材としては、アルミ又はアルミ合金、好ましくは耐食性、ろう付け性が良好なAl-Si-Mg合金が挙げられる。外スリーブ22及び金属パイプ11としては、例えばA6063で構成され、内径が10mm、肉厚が1mmの管材が用いられる。コネクタ部材500としては、例えばA6063で構成され、内スリーブ21と同径、同厚のものが用いられる。
【0027】
ここで、金属パイプ11をアルミ又はアルミ合金で構成することで、軽量で、高温を発生する機器の近くにシールド電線を布設しても、金属パイプ11によって電線本体20を高熱から保護することができ、編組シールド12における発熱を効率的に放熱することができるためである。また、外スリーブ22、金属パイプ11、及びコネクタ部材500を同じ材料(又はほぼ同じ化学組成の材料)で構成するのは、同種金属間の接合とするためである。接合が、異種金属間接合の場合、接合箇所に水分が付着すると電位差が生じ、腐食が生じるおそれがあるためである。
【0028】
内スリーブ21の構成材としては、ステンレス鋼、好ましくはオーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。内スリーブ21としては、例えばSUS304(JIS規格)で構成され、外径が9mm、肉厚が0.2mmの管材が用いられる。
【0029】
編組シールド12の構成材としては、銅又は銅合金やアルミ又はアルミ合金が挙げられ、好ましくは銅又は銅合金が挙げられる。銅又は銅合金としては、編組シールドとして慣用的に用いられているものが全て適用可能である。また、アルミ又はアルミ合金としては、耐熱性、耐屈曲性、及び伸びが良好で、かつ、高強度のAl-Fe-Zr合金が挙げられ、例えばAl-Fe-Zr合金からなる線径が0.2mmの線材を編組したものを用いる。また、編組シールド12の長さは、シールド電線の使用、布設場所によってそれぞれ異なるが、例えば長さ200mmとされる。
【0030】
導体17としては、単線材又は単線材を複数本撚り合わせてなる撚線材のいずれであってもよく、シールド電線として慣用的に用いられている導体が全て適用可能である。例えば、外径が0.32mmのすずめっき銅線を19本撚り合わせて芯線を形成し、この芯線をさらに19本撚り合わせ、撚線材(導体17)が形成される。また、導体17を被覆する絶縁体15としては、シールド電線として慣用的に用いられている絶縁体が全て適用可能であり、例えばフロンレックス(登録商標)が挙げられる。
【0031】
接続端子16としては、シールド電線として慣用的に用いられている接続端子が全て適用可能であり、例えば38−S6(電線把持部の内径が9.4mm、外径が13.3mm、長さが14mm)挙げられる。
【0032】
次に、本実施の形態に係るシールド電線の製造方法を説明する。
【0033】
先ず、図6,図7に示した筒体50を用意し、図8に示すように、この筒体50を圧縮ダイス71,72の各ダイス面73a,73bで構成される空間74内に配置する。この時、空間74内に配置されるのは、インバータ側の外スリーブ22である。
【0034】
その後、図9に示すように、圧縮ダイス71,72を互いに近接する方向に移動させることで、外スリーブ22に外側から圧縮成形を施す。その後、圧縮成形した部分における筒体50の内部空間80にもダイス81,82を挿入し、外スリーブ22に外側及び内側から圧縮成形を施す。これによって、図10,図11に示すように、外スリーブ22の、ダイス71,72及び81,82で挟まれた部分が、内スリーブ21、編組シールド12、及び外スリーブ22が機械的に接合された成形部22aとなり、残部の外スリーブ22が未成形部22bとなる。
【0035】
ここで、成形部22aを形成するのは、編組シールド12と外スリーブ22の接触面積を確保し、電気的接触を増加させるためであり、また、編組シールド12と外スリーブ22を一体的に接合し、成形部22aにおける編組シールド12の機械的強度を確保するためである。
【0036】
一方、図12に示すように、導体17を絶縁体15で被覆した電線本体20を用意し、この電線本体20の一端側(図12中では右側)を金属パイプ11に挿通させる。金属パイプ11内部に電線本体20が挿入された状態で、後述する溶融接合に先立ち、金属パイプ11に所定の折り曲げ成形加工が施される。この折り曲げ成形加工は、溶融接合後に行うようにしてもよい。
【0037】
次に、図13に示すように、電線本体20の他端側(図13中では左側)を図10に示した筒体50に挿通させる。これによって、筒体50における外スリーブ22の未成形部22bと金属パイプ11が突き合わされる。
【0038】
次に、図14に示すように、筒体50の未成形部22bから露出した編組シールド12(以下、露出シールド130という)を径方向外側に拡げ、編組シールド12と内スリーブ21の間に金属パイプ11を挿入すると共に、外スリーブ22の未成形部22bと金属パイプ11がほぼ接する程度まで近接させる。これによって、金属パイプ11の筒体側端部(図14中では左端部)に露出シールド130が被される。
【0039】
次に、図15に示すように、レーザ溶接機(例えば、YAGレーザ溶接機)141のレーザ溶接機ヘッド142からレーザ光Lを発振させ、このレーザ光Lを用いて、外スリーブ22の未成形部22bと金属パイプ11の近接部を溶融接合する。つまり、この近接部において、外スリーブ22の端面と金属パイプ11の端面が編組シールド12を介在させて溶接される。この溶融接合は、近接部の全周にわたって連続的に行われる。これによって、金属パイプ11、外スリーブ22、及び編組シールド12が、溶融接合部140において確実に溶接され、金属的に接合される。その結果、溶融接合部140における腐食、発熱が抑制される。また、露出シールド130を金属パイプ11の筒体側端部に被せた状態で近接部の溶融接合を行うことで、金属パイプ11、外スリーブ22、及び編組シールド12の電気的接続がより確実になる。
【0040】
次に、露出シールド130及び筒体50の成形部22aから露出した編組シールド12(以下、露出シールド145という)の絶縁を行う。例えば、露出シールド130,145を完全に覆う長さの熱収縮チューブをそれぞれ用意し、露出シールド130,145に被せた後、ホットブローを行うことにより、熱収縮チューブを収縮させてシールド部材に密着させ、絶縁被覆18を形成する。
【0041】
次に、図22に示すように、トランスミッション側(図22中では左側)の絶縁被覆18を一部皮剥きし、編組シールド12を露出(以下、露出シールド225という)させる。また、電線本体20における導体の両端部に接続端子16,16が接続される。さらに、電線本体20のトランスミッション側から圧着リング51を嵌め入れ、露出シールド225よりもトランスミッション側に位置させる。
【0042】
次に、図23に示すように、露出シールド225を絶縁被覆18側へ折り返す(めくりあげる)。また、電線本体20のトランスミッション側からコネクタ部材500を嵌め入れ、筒体接続部501を露出シールド225の折り返し基部225aに当接(又はほぼ近接)させる。その後、図24に示すように、折り返した露出シールド225を元に戻し、露出シールド225を筒体接続部501に被せる。
【0043】
次に、図25に示すように、予め嵌め入れておいた圧着リング51を移動させ、露出シールド225の部分に位置させる。この時、露出シールド225の先端部225bを圧着リング51から少し露出させておく。その後、この圧着リング51に圧縮成形を施し、図26に示すように、断面多角形状(図5中では六角形状)の成形部51aに成形する。
【0044】
ここで、圧着リング51に圧縮成形を施すのは、露出シールド225と筒体接続部501の接触面積を確保し、電気的接触を増加させるためであり、また、露出シールド225と筒体接続部501を一体的に接合し、圧着リング51の部分における露出シールド225の機械的強度を確保するためである。
【0045】
次に、図27に示すように、レーザ溶接機(例えば、YAGレーザ溶接機)271のレーザ溶接機ヘッド272からレーザ光Lを発振させ、このレーザ光Lを用いて、筒体接続部501と成形された圧着リング51を溶融接合する。この溶融接合は、筒体接続部501の全周にわたって連続的に行われる。これによって、筒体接続部501、圧着リング51、及び露出シールド225が、溶融接合部270において確実に溶接され、金属的に接合される。その結果、溶融接合部270における腐食、発熱が抑制される。また、露出シールド225を筒体接続部501に被せた状態で先端部225bの溶融接合を行うことで、筒体接続部501、圧着リング51、及び露出シールド225の電気的接続がより確実になる。
【0046】
最後に、筒体接続部501、圧着リング51、及び露出シールド225の絶縁を行う。例えば、これらの部分を完全に覆う長さの熱収縮チューブを用意し、これらの部分に被せた後、ホットブローを行うことにより、熱収縮チューブを収縮させてこれらの部分に密着させ、図28に示すように、絶縁被覆281を形成する。これによって、本実施の形態に係るシールド電線280が得られる。
【0047】
このシールド電線280の、コネクタ部材500が接続された側(図28中では左側)の接続端子16がインバータ筐体(例えば、アルミ又はアルミ合金製(図示せず))に接続され、金属パイプ11が接続された側(図28中では右側)の接続端子16がトランスミッション筐体(図示せず)に接続される。コネクタ部材500の機器接続部503を、フランジ部502がインバータ筐体に当接するまで、インバータ筐体に予め形成しておいた接続穴に嵌入される。その後、フランジ部502の周縁部とインバータ筐体がボルトなどの締結手段によって固定、接続される。この時、フランジ部502の機器接続部側面にOリングなどのシール部材を嵌め込むための溝を形成することが好ましい。これによって、フランジ部502とインバータ筐体の接続部における密閉性が高まる。
【0048】
本実施の形態に係るシールド電線280は、インバータ側の端部に設けたコネクタ部材500とインバータ筐体を機械的に接続させることで、シールド電線280とインバータ筐体のアース接続を、筐体の外側で行うことができる。よって、本実施の形態に係るシールド電線280によれば、図34に示した従来のシールド電線350とインバータ筐体の接続のように、ネジ止め用端子とインバータ筐体をアース線などを介して接続する必要はない。よって、シールド電線280とインバータ筐体の接続作業性が簡単、良好となる。
【0049】
本実施の形態に係るシールド電線280は、シールド部材のシールド層として、長手方向全長にわたって金属パイプ11を使用するのではなく、振動が激しく、高温に晒される側(例えばトランスミッション側)を強度及び耐熱性が良好な金属パイプ11で構成し、他方の側(例えばインバータ側)を編組シールド12で構成している。シールド層全体を金属パイプ11で構成すると、シールド電線の全長にわたってシールド部材の耐熱性が良好となる。しかし、シールド電線の、トランスミッション側との接続箇所に、振動による衝撃が集中してしまうため、好ましくない。よって、本実施の形態に係るシールド電線280においては、衝撃集中を回避するために、柔軟性を有する編組シールド12を用い、編組シールド12と金属パイプ11のハイブリッド構造としている。
【0050】
本実施の形態に係るシールド電線280は、シールド部材を構成する筒体50における外スリーブ22のインバータ側及び圧着リング51を、断面多角形状の成形部22a,51aに圧縮成形している。これによって、外スリーブ22と編組シールド12及び圧着リング51と露出シールド225(編組シールド12)が圧着され、両者の接触面積、すなわち電気的接触を十分に確保することができる。ここで、外スリーブ22、金属パイプ11、及び編組シールド12は溶融接合されている。また、コネクタ部材500、編組シールド12、及び圧着リング51は溶融接合されている。このため、シールド部材の編組シールド12を流れる電流は、コネクタ部材500→編組シールド12→編組シールド12及び外スリーブ22→金属パイプ11の順に流れる。編組シールド12には大電流が流れるため、ジュール熱が発生する。この時、圧着リング51と露出シールド225及び外スリーブ22と編組シールド12の電気的接触が不十分であると、電流が編組シールド12、外スリーブ22を流れにくくなるため、抵抗値が高くなってしまう。よって、コネクタ部材500、編組シールド12、及び圧着リング51の溶融接合部270と、編組シールド12、外スリーブ22、及びアルミパイプ11の溶融接合部140の温度がそれぞれ上昇する。この温度上昇に伴って、更に溶融接合部140,270の抵抗値が高くなるという悪循環が生じる。その結果、溶融接合部140,270が溶融して、コネクタ部材500と筒体50及び筒体50と金属パイプ11の接合が不十分となるおそれがある。
【0051】
本実施の形態に係るシールド電線280は、シールド部材を構成する筒体50における外スリーブ22のトランスミッション側は、圧縮成形することなく、断面円状の未成形部22bとしている。これによって、断面円状の金属パイプ11と筒体50の接合が容易、確実となる。
【0052】
本実施の形態に係るシールド電線280は、内スリーブ21を強度に優れたステンレス鋼で構成したことで、成形部22aの圧縮成形の際、編組シールド12の形状を良好に保持することができる。また、内スリーブ21を熱伝導率が低いステンレス鋼で構成したことで、筒体50と金属パイプ11の溶融接合の際、シールド部材内部の電線本体20に熱的影響が及ぶことがなくなる。
【0053】
本実施の形態に係るシールド電線280は、従来材よりもシールド効果に優れ、かつ、高い信頼性を有する。図34に示した従来のシールド電線350は、高温、振動等によりシールド部材の被覆層351が破けてしまった際、編組シールド352が腐食、断線し、シールド効果が得られなくなるおそれがあった。本実施の形態に係るシールド電線280は、高温、振動に晒される箇所のシールド層を金属パイプ11、例えばアルミパイプで構成しているため、アルミパイプが熱を伝導し、放熱する効果がある。また、被覆層が破けてアルミパイプが露出した場合でも、強度、耐熱性が良好なアルミパイプであることから、シールド効果は持続される。また、アルミは、その表面に酸化膜が形成されるため、アルミパイプは耐食性にも優れる。
【0054】
以上より、本実施の形態に係るシールド電線は、振動等の外部からの衝撃が予想され、かつ、高温となる箇所への取り付けも可能となり、シールド部材における発熱現象を回避することができる。よって、本実施の形態に係るシールド電線は、エンジン付近の高温となる部分(エンジン、モータ、トランスミッション等)や、電気式制動装置、電気式操舵装置等のように、耐熱性、耐腐食性が強く要求される機器に対して好適である。
【0055】
本実施の形態に係るシールド電線の製造方法においては、図14に示したように金属パイプ11の筒体側端部に露出シールド130を被せた後、外スリーブ22の未成形部22bと金属パイプ11の近接部を溶融接合した場合について説明を行ったが、特にこれに限定するものではない。
【0056】
例えば、図16に示すように、予め用意しておいた金属パイプ11を露出シールド130に被せ、外スリーブ22の未成形部22bと金属パイプ11を当接させる。その後、図17に示すように、この当接部を溶融接合し、溶融接合部140を形成するようにしてもよい。この金属パイプ11の内径は、編組シールド12の外径よりも若干大きく形成される。
【0057】
また、図18に示すように、露出シールド130を外スリーブ22の未成形部22b側へ折り返した後(めくりあげた後)、予め用意しておいた金属パイプ11を内スリーブ21に被せ、外スリーブ22の未成形部22bと金属パイプ11を露出シールド130を介して当接させる。その後、図19に示すように、この当接部を溶融接合し、溶融接合部140を形成するようにしてもよい。この金属パイプ11の内径は、内スリーブ21の外径よりも若干大きく形成される。
【0058】
また、図20に示すように、露出シールド130を外スリーブ22の未成形部22b側へ折り返した後、予め用意しておいた金属パイプ11を露出シールド130の折り返し部分の先端191まで被せる。その後、図21に示すように、この折り返し部分の先端191位置で溶融接合を行い、溶融接合部140を形成するようにしてもよい。この金属パイプ11の内径は、露出シールド130の折り返し部分の外径よりも若干大きく形成される。
【0059】
また、本実施の形態に係るシールド電線の製造方法においては、レーザ溶接により、外スリーブ22の未成形部22bと金属パイプ11の近接部を溶融接合する場合について説明を行ったが、特にレーザ溶接に限定するものではない。例えば、レーザ溶接以外の溶融接合、例えば、電子ビーム溶接、TIG溶接、MIG溶接などの溶接方法を用いてもよい。電子ビーム溶接は、真空チャンバー内で溶接を行うため、酸化物の生成を抑制でき、また、溶融する箇所以外の熱影響部が少なくて済む。このため、溶融接合部140における強度低下が少なくなる。TIG溶接は、シールドガスにより酸化を防ぐことができ、また、装置も簡単であることから溶接コストが安価となる。MIG溶接は、シールドガスで酸化を防ぎながら、溶接金属を供給して溶接を行うため、編組シールド12を構成する細い線材を溶融金属で押えこむことが可能であり、外観が美麗な溶融接合部140を得ることができる。また、溶接の代わりに、固相接合である超音波接合法、摩擦拡散接合(FSW)法などを用いてもよい。
【0060】
次に、本実施の形態に係るシールド電線の変形例を、添付図面に基づいて説明する。
【0061】
本実施の形態に係るシールド電線における図6に示した筒体50は、内スリーブ21、編組シールド12、及び外スリーブ22がそれぞれ別部材であった。
【0062】
これに対して、本変形例の筒体は、筒体を構成する内スリーブと外スリーブが一体部材のものである。具体的には、図29に示すように、内スリーブ211と、内スリーブ211の外径よりも大径の内径を有する外スリーブと、内スリーブ211及び外スリーブを一体に連結するリング状の連結部213を有するスリーブ部材210を用意する。連結部213は、例えば、スリーブ部材210の長手方向(図29中では左右方向)中間部に設けられる。連結部213の位置は、限定するものではなく、スリーブ部材210の端部であってもよい。このスリーブ部材210は、鋳造等により一体形成される。スリーブ部材210は、内スリーブ211と外スリーブの間に、連結部213を挟んで2つの空間部214,215を有する。一方の空間部(図29中では空間部214)に編組シールド12が挿入され、他方の空間部(図29中では空間部215)に後述するように金属パイプ11が挿入される。
【0063】
次に、スリーブ部材210の空間部214に編組シールド12を挿入する。空間部214に挿入された編組シールド12の部分が、重畳部222となる。その後、スリーブ部材210の内部空間216に、図30に示すように、円柱状の治具221を挿入する。その後、重畳部222において、外スリーブ212の外側から押圧手段(例えば、治具など)によって圧力を加えて圧縮成形を行い、外スリーブ212、編組シールド12、及び内スリーブ211を機械的に接合する。この機械的接合により、編組シールド12と外スリーブ212及び内スリーブ211の接触面積が確保され、電気的接触が増加する。圧縮成形は、スリーブ部材210の全周にわたってなされる。
【0064】
次に、図31に示すように、機械的接合がなされた重畳部222の一部を部分的に溶融凝固させ、その部分的溶融凝固部231における編組シールド12と外スリーブ212及び内スリーブ211が完全に電気的に接合される。これによって、筒体230が得られる。この部分的な溶融凝固は、外スリーブ212の外側から、TIG溶接、MIG溶接、電子ビーム溶接、レーザ溶接等の手法によって熱を付与することでなされる。
【0065】
次に、図32に示すように、スリーブ部材210の空間部215に金属パイプ11を挿入する。空間部215に挿入された金属パイプ11の部分が、重畳部242となる。この時、金属パイプ11内に予め挿通させておいた電線本体20が、筒体230の内部に挿入される。
【0066】
次に、筒体230と金属パイプ11の境界部241をMIG溶接等によって溶融接合し、図33に示すように、溶融接合部251を形成する。この溶融接合は、筒体230の全周にわたって連続的に行われる。これによって、金属パイプ11と筒体230におけるスリーブ部材210が、溶融接合部251において確実に電気的に接続される。
【0067】
最後に、スリーブ部材210の部分の絶縁を行う。例えば、スリーブ部材210を完全に覆う長さの熱収縮チューブをそれぞれ用意し、スリーブ部材210に被せた後、ホットブローを行うことにより、熱収縮チューブを収縮させてシールド部材に密着させ、絶縁を行う。
【0068】
この筒体230を用いたシールド電線によれば、編組シールド12とスリーブ部材210が直接接触により電気的に接合されており、スリーブ部材210と金属パイプ11が直接接触により電気的に接合されている。つまり、編組シールド12と金属パイプ11は、スリーブ部材210を介して間接的に電気的接合されている。ここで、編組シールド12は網状のポーラス構造であるため、編組シールド12と金属パイプ11を直接接触させた状態でスポット溶接を行うと、その溶接部における電気的接触はあまり良好でない。ところが、この筒体230を用いたシールド電線においては、編組シールド12とスリーブ部材210、及びスリーブ部材210と金属パイプ11が広い範囲にわたって面状に電気的接合されている。このため、編組シールド12と金属パイプ11を、スリーブ部材210を介して間接的に電気的接合することで、電気的接合がより確実なものとなる。
【0069】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
11 金属パイプ
12 編組シールド(筒体)
15 絶縁体
17 導体
20 電線本体
21 内スリーブ(筒体)
22 外スリーブ(筒体)
50 筒体
500 コネクタ部材
502 フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単線材又は撚線材からなる導体を絶縁体で被覆してなる電線本体と、
その電線本体の外周に設けられるシールド部材と、
を備えたシールド電線において、
上記シールド部材は、
内スリーブと、上記内スリーブの外側にある外スリーブと、上記内スリーブと上記外スリーブとを連結する連結部と、を有するスリーブ部材と、
上記内スリーブと上記外スリーブとの間に上記連結部を挟んで形成された2つの空間部の一方である第1空間部に挿入される編組シールドと、
上記内スリーブと上記外スリーブとの間に上記連結部を挟んで形成された2つの空間部の他方である第2空間部に挿入される金属パイプと、
で構成され、
上記内スリーブ、上記編組シールド、及び上記外スリーブは、上記内スリーブ、上記編組シールド、及び上記外スリーブが重畳した重畳部に圧力を加えることで、機械的に接合されている、
ことを特徴とするシールド電線。
【請求項2】
上記内スリーブと上記編組シールドと上記外スリーブとが機械的に接合された上記重畳部の一部は、上記外スリーブの外側から熱を付与することにより、溶融凝固されている、
請求項1に記載のシールド電線。
【請求項3】
上記スリーブ部材と上記金属パイプとの境界部は、溶融接合されている、
請求項2に記載のシールド電線。
【請求項4】
上記溶融凝固は、TIG溶接、MIG溶接、電子ビーム溶接、及びレーザ溶接のいずれかによって行う、
請求項2又は3に記載のシールド電線。
【請求項5】
上記溶融接合は、MIG溶接によって行う、
請求項3又は4に記載のシールド電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2013−41833(P2013−41833A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196750(P2012−196750)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【分割の表示】特願2008−199247(P2008−199247)の分割
【原出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】