説明

シールド電線

【課題】導体に絶縁樹脂を被覆した絶縁コアの周囲に導体を編組したシールド層を被せたシールド電線において、中心の導体の太さとは無関係に、ロスを低減させながらシールド電線を細く軽くする。
【解決手段】本発明のシールド電線は、導体1に絶縁樹脂を被覆した絶縁コア2の周囲にシールド層3を被せたシールド電線である。シールド層3は、平角導体を編組したものである。この平角導体は、材質が電気銅、厚さが0.01〜0.05mm、幅が厚さの5〜20倍、編組角が60〜75度、編組密度が80〜95%である。また、絶縁コア2は、外径が3.5mm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体に絶縁樹脂を被覆した絶縁コアの周囲に導体を編組したシールド層を被せたシールド電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器や制御機器に用いられる配線用の電線には、外部からのノイズの侵入や、外部へ放射するノイズをカットするために、外被である絶縁シースの内側に、シールド層が設けられたシールド電線が使用されている。このシールド層としては、例えば、図4(A)に示すように、断面円形金属線である素線40を多数本、編んで形成された編組構成をもつ編組シールドが多く用いられている。図4(A)では、素線40が5本で素線束を形成した例、つまり持ち本数が5本である例を挙げている。
【0003】
また、特許文献1には、金属導体上に絶縁層を被覆し、更に導電性の外部導体及び保護用外被を被覆した同軸ケーブルにおいて、図4(B)に示すように、外部導体として、断面が楕円度8〜35%〔楕円度=(長径−短径)/長径×100%〕の楕円である楕円素線50を用いた編組構成をもつ編組シールドを採用することが開示されている。図4(B)では、楕円素線50が5本で素線束を形成した例を挙げている。
【0004】
さらに、この特許文献1には、平型導体は導体厚の低減に限界があり、絶縁体外径が2mm以下の細径ケーブルへの適用が困難であることに加え、ケーブルの可撓性を損ないかつ大幅にコストが増大するため使用上の制約が大きいと言う問題があることも開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、中心導体と、この中心導体上に絶縁長尺体の巻回により形成され、その外表面に対してしごき平滑化処理が施された絶縁層と、その絶縁層の表面に密着する外部導体とを備えた同軸ケーブルが開示されている。この外部導体としては、図3に示すように、幅Wが0.9mmで厚さDが0.08mm、若しくは幅Wが1.2mmで厚さDが0.08mmの平角導体30を編組した構成を採用している。そして、この同軸ケーブルでは、平角導体30として銀メッキ軟銅製の導体を用い、絶縁コアの外径が3.90〜5.54mmであるものが良好に適用できている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3296150号公報
【特許文献2】特開2003−51220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術のように楕円素線を用いた場合や円形の素線を用いた場合には、平角導体に比べて素線同士が線で接するため外部導体の導体抵抗が大きくなりロスが大きくなってしまう。さらに、シールド電線を細く軽くしようとして素線を細くしようとしても、編組中に切れてしまうので、あまり細くすることはできない。
また、特許文献2に記載の技術では、平角導体を用いているが、絶縁コアの外径が3.90mmより小さいものについては適用できず、細く軽いシールド電線を提供することはできない。
【0008】
本発明は、上述のような実状に鑑みてなされたものであり、導体に絶縁樹脂を被覆した絶縁コアの周囲に導体を編組したシールド層を被せたシールド電線において、中心の導体の太さとは無関係に、ロスを低減させながらシールド電線を細く軽くすることを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシールド電線は、導体に絶縁樹脂を被覆した絶縁コアの周囲に平角導体を編組したシールド層を被せたシールド電線である。ここで、上記の平角導体は、材質が電気銅、厚さが0.01〜0.05mm、幅が厚さの5〜20倍、編組角が60〜75度、編組密度が80〜95%である。また、上記の絶縁コアは、外径が3.5mm以下である。
また、上記のシールド電線の特性インピーダンスは、75Ωであるか、若しくは50Ωであることが好ましい。
また、上記の絶縁コアは、外径が1.6mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、導体に絶縁樹脂を被覆した絶縁コアの周囲に導体を編組したシールド層を被せたシールド電線において、編組中に素線が切れることのない程度に素線を細く、且つ絶縁コアを細くでき、もって中心の導体の太さとは無関係に、ロスを低減させながらシールド電線を細く軽くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るシールド電線の構成例を示す断面図である。
【図2】図1のシールド電線の外観を示す模式図である。
【図3】平角導体の編組構成を示す模式図である。
【図4】丸形又は楕円形の素線を用いた編組構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき、本発明に係るシールド電線について説明する。
図1は、本発明に係るシールド電線の構成例を示す断面図で、図2は、図1のシールド電線の外観を示す模式図である。また、図3は、平角導体の編組構成を示す模式図であり、本発明のシールド電線に用いる平角導体の一例を示している。
【0013】
図1及び図2で例示するように、本発明に係るシールド電線は、導体1に絶縁樹脂を被覆した絶縁コア2の周囲にシールド層3を被せた電線である。また、このシールド電線は、図1及び図2で例示したように、通常、シールド層3の周りに絶縁樹脂でシース4が施してある。シース4は任意である。導体1は、中心導体とも呼ばれ、その材質は後述する平角導体30と同様に電気銅であればよいが、これに限らず他の材質であってもよい。
【0014】
シールド層3は、図3にその編組構成を示すように、幅Wで厚さDの平角導体30が編組角θで編組された編組シールドである。図3では紙面の都合上、素線としての平角導体30が4本で素線束を形成した例、つまり持ち本数が4本である例を図示しているが、これに限ったものではない。また、シールド層3は、このような素線束を編んで形成される。一般的に編組シールドを構成する素線束の数を打ち本数と言い、編組シールドの全体の素線数は、「持ち本数」×「打ち本数」で表される。
【0015】
平角導体30は、編組中に切れることなくシールド層3を薄くすること、結果的にシールド電線を細くて軽くすることを、目的として採用する。
実際、高周波用途になると表皮効果のために、素線が細くても、つまりシールド層を薄くしてもシールド性が得られる。よって、シールド層に用いる素線を細くして且つ編組するときの持ち数を増やせば、従来一般的に用いられているシールド電線並の編組角、編組密度にできる。例えば、径が0.038mmの円形の素線を使用する場合、0.1mmの素線を5本持ちで打った編組と同じ素線束の幅にするには、持ち本数を13(つまり素線束の幅は0.494mm)とする。このとき素線束の厚さは0.1mmから0.038mmまで薄くできる。しかし、このような細い素線の場合には、編組中に切れ易く、製品の歩留まりがよくない。導体が接触する接触する部分が線状であり、導体同士の摩擦で切れると考えられる。これに対して平角導体は切れ難い。
素線が薄くなるので、その分ケーブルの径が小さくなる。そして、ケーブルの単位長さ当たりに編組される導体の体積が少なくなる。したがって、単位長当たりのケーブルの重量が軽くなる。
【0016】
この点も考慮して、本発明ではシールド層3における素線として平角導体30を使用している。これにより、切れ難く生産性がよいまま編組密度の目詰まり具合を従来並にできる。しかも、円形や楕円形の素線同士が線(軸に垂直な断面上では点になる)で接触しているのに対し、平角導体は面で接触することになるので、平角導体30を使用することで、シールド層3の接触抵抗が小さくなり、ロスを向上させることができる。
【0017】
本発明で使用する平角導体30及びそれで形成される編組シールド(シールド層3)は、上述のようにその厚みを薄くしたうえで、従来一般的に用いられている編組シールドと同等の編組角や編組密度にできる。
具体的には、平角導体30は、材質が軟銅線、銅合金などの電気銅であり、厚さDが0.01〜0.05mm、幅Wが厚さDの5〜20倍、編組角θが60〜75度、編組密度ρが80〜95%である。本発明では、持ち本数及び打ち本数は特に限定されるものではないが、これらの条件を満たす範囲とする。
【0018】
そして、本発明では、絶縁コア2は外径が3.5mm以下である。また、絶縁コア2は、外径が1.6mm以下であることが好ましい。
さらに、本発明に係るシールド電線は、その特性インピーダンスが、一般の通信用途で多用されている75Ω又は50Ωであることが好ましい。そのため、絶縁コア2の厚さを特性インピーダンスが75Ω又は50Ωになるようにする。このように、本発明に係るシールド電線は、単心のシールド電線において特性インピーダンスを規定した、所謂、同軸ケーブルと呼ばれるもののうち、75Ωの同軸ケーブル、若しくは50Ωの同軸ケーブルであることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係るシールド電線を端末加工する場合には、編組部分(シールド層3)の端末部分を束ねて圧着すればよい。そのためには、シールド層3の端末部分がかしめられるようになっていればよい。その点で、本発明のように平角導体30であっても、円形の素線と同様に扱うことができる。
【0020】
以上のように、本発明に係るシールド電線は、編組中に素線が切れることなく素線をできるだけ細くすることができ、且つ絶縁コアを細くすることができ、もって中心の導体の太さとは無関係にシールド電線自体を細く軽くすることができる。
また通常、ロスを下げるためには、中心の導体を太くすることが行われ、結果的にシールド電線の外径も太くなるが、本発明に係るシールド電線では、平角導体30を用いることで、中心の導体1の太さに関係なくシールド電線を細くしながらロスを下げることができる。つまり、本発明に係るシールド電線は、導体1の太さやシールド電線自体の太さとは無関係に電気特性がよいと言える。
【0021】
<実施例>
本発明に係るシールド電線の一実施例(以下、本製品Iと言う)として、絶縁コア2の外径を1.6mmとし、外部導体としての錫メッキ軟銅の平角導体30をD=0.038(mm)、W=11×D=0.416(mm)、θ=67.5(度)、編組密度ρ=86.7(%)として編組した電線を用意した。本製品では、打ち本数が16となっている。中心の導体1は錫メッキ軟銅線を撚り合わせてAWG30又はAWG24のサイズとした。絶縁コア2の外径はいずれのサイズの導体1に対しても上述した通り1.6mmとし、導体1としてAWG30のサイズを採用することで特性インピーダンスを75Ωとし、より太いAWG24のサイズを採用することで絶縁部分をより薄くして特性インピーダンスを50Ωと小さくしている。
【0022】
上記本製品Iとは別サイズの本発明の製品(以下、本製品IIと言う)として、絶縁コア2の外径3.5mmとし、外部導体としてD=0.045(mm)、W=20×D=0.9(mm)の平角導体30を編組角度θ=68.8(度)、編組密度ρ=88.7(%)として編組した電線を製造した(打ち本数は16)。中心の導体1は錫メッキ軟銅線を撚り合わせてAWG24又はAWG20のサイズとした。絶縁コア2の外径はいずれのサイズの導体1に対しても上述した通り3.5mmとし、導体1としてAWG24のサイズを採用することで特性インピーダンスを75Ωとし、より太いAWG20のサイズを採用することで絶縁部分をより薄くして特性インピーダンスを50Ωと小さくしている。
【0023】
本製品I,IIとの比較のため、次のような従来のシールド電線(以下、従来製品と言う)を用意した。この従来製品は、外部導体が直径0.1mmの丸形軟銅線でなる素線を、5本持ち(0.5mm幅の素線束)、16打ち、編組角度θ=67.1度、編組密度ρ=93.8%として編組したものである。平角導体を使用するときに持ち本数を4本としたのでその差により平角導体を使用した製品の編組密度が小さくなっている。
【0024】
このような本製品I,IIと従来製品について性能や寸法を比較した。
本発明の製品のシールド性は、従来製品と実質的に同等であった。また、本製品Iの伝送ロスは従来製品よりも優れていた。シールド電線の編組部分の外径は、従来製品が2.14mmであったのに対し、本製品Iが1.72mmとなり、従来比で20%減となった。
【0025】
絶縁コア2の外径を1.6mmとし、導体1としてAWG30を採用した場合、シールド電線の編組部分まで(中心の導体、絶縁コアを含む)の重量は、従来製品が6.06g/cmであったのに対し、本製品Iが3.87g/cmとなり、従来比で26%減となった。また、絶縁コア2の外径を1.6mmとし、導体1としてAWG24を採用した場合、シールド電線の編組部分までの重量は、従来製品が7.17g/cmであったのに対し、本製品Iが4.98g/cmとなり、従来比で30%減となった。
また、本製品Iの効果について説明したが、本製品IIについても同様に、同じ絶縁コア外径や導体外径の従来製品に比べて、伝送ロス、編組部分の外径、及び編組部分までの重量を低減することができる。
このように、本発明の製品が従来製品に比べて細くて軽く、しかもシールド電線の太さに関係なく電気特性がよいことが分かる。
【符号の説明】
【0026】
1…導体、2…絶縁コア、3…シールド層、4…シース、30…平角導体、40…円形の素線、50…楕円素線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に絶縁樹脂を被覆した絶縁コアの周囲に平角導体を編組したシールド層を被せたシールド電線であって、
前記平角導体は、材質が電気銅、厚さが0.01〜0.05mm、幅が前記厚さの5〜20倍、編組角が60〜75度、編組密度が80〜95%であり、
前記絶縁コアは、外径が3.5mm以下であることを特徴とするシールド電線。
【請求項2】
前記シールド電線の特性インピーダンスは、75Ωであることを特徴とする請求項1に記載のシールド電線。
【請求項3】
前記シールド電線の特性インピーダンスは、50Ωであることを特徴とする請求項1に記載のシールド電線。
【請求項4】
前記絶縁コアは、外径が1.6mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシールド電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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