説明

シールリング

【課題】面圧の低下を図りつつ、発熱量の抑制を図ることのできるシールリングを提供する。
【解決手段】環状溝21の側壁面に対向する側面が、環状溝21の溝底側の方が前記側壁面から離れるように凹む段差面で構成され、かつ凹んだ面12に前記側壁面に向かって突出する複数の突起13がそれぞれ独立するように設けられ、前記側面のうちハウジング30側の面が環状溝21の側壁面に摺動自在に密着することでシール面が形成され、かつ複数の突起13の各先端面が環状溝21の側壁面に摺動自在に密着するように構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
相対的に回転する2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着され、該環状溝の側壁面と、他方の部材の周面に対してそれぞれ摺動自在に密着することによって、前記2部材間の環状隙間を封止するシールリングが知られている。自動車用のAT・CVTに備えられるシールリングにおいては、AT・CVTの高性能化に伴って、使用環境が厳しくなっている。すなわち、高圧・高速条件の環境下でシールリングが用いられる。そのため、素材として耐熱性に優れたエンジニアプラスチックを採用したり、シールリングにおけるカット部(合口部)から微量の油を意図的にリークさせることで摺動による発熱を抑制したりしている。しかしながら、前者の場合には材料コストが増加してしまい、後者の場合にはシール機能が低下してしまう欠点がある。
【0003】
ここで、代表的な従来例に係るシールリングについて、図面を参照して説明する。図8は従来例1に係るシールリングの使用状態を示す模式的断面図である。図示のシールリング50は、回転軸20に設けられた環状溝21に装着され、環状溝21の側壁面と、ハウジング30の軸孔の内周面に対してそれぞれ摺動自在に密着する。これにより、相対的に回転する回転軸20とハウジング30との間の環状隙間を封止する。なお、図中右側が高圧側(H)であり、左側が低圧側(L)である。例えば、高圧側(H)には油などの密封対象流体が密封されており、低圧側(L)は大気側となる。
【0004】
そして、このシールリング50の場合には、両側面が段差面により構成されている。そのため、外径側における軸方向に突出した面のみが環状溝21の側壁面に対して摺動自在に接触する。かかる構成を採用した場合には、摺動摩擦によって発生する熱を逃がし易いため、発熱量を抑制できる長所がある。しかしながら、単位面積当たりの圧力が高くなり、面圧が高くなる。そのため、荷重(面圧)が材料の持つ機械的強度の許容限界を超えてしまったり、摩耗の促進によって劣化が激しくなってしまったりする短所がある。
【0005】
図9は従来例2に係るシールリングの使用状態を示す模式的断面図である。図示のシールリング60も従来例1と同様に、回転軸20に設けられた環状溝21に装着され、環状溝21の側壁面と、ハウジング30の軸孔の内周面に対してそれぞれ摺動自在に密着する。これにより、相対的に回転する回転軸20とハウジング30との間の環状隙間を封止する。
【0006】
そして、このシールリング60の場合には、断面が矩形であり、その側面のうち、回転軸20とハウジング30との間の微小な隙間部分を除く部分の全体が環状溝21の側壁面に対して摺動自在に接触する。かかる構成を採用した場合には、面圧を低くする長所を有する。しかしながら、摺動摩擦によって発生する熱を逃がし難いため、発熱量が高くなってしまい、熱的観点から機械的強度を低下させてしまう短所がある。
【0007】
なお、関連する技術としては、特許文献1〜3に開示された技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−275052号公報
【特許文献2】特開2006−29349号公報
【特許文献3】実開平6−45172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、面圧の低下を図りつつ、発熱量の抑制を図ることのできるシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0011】
すなわち、本発明のシールリングは、
相対的に回転する2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着され、該環状溝の側壁面と、他方の部材の周面に対してそれぞれ摺動自在に密着することによって、前記2部材間の環状隙間を封止するシールリングにおいて、
前記環状溝の側壁面に対向する側面が、前記環状溝の溝底側の方が前記側壁面から離れるように凹む段差面で構成され、かつ凹んだ面に前記側壁面に向かって突出する複数の突起がそれぞれ独立するように設けられ、
前記側面のうち前記他方の部材側の面が前記環状溝の側壁面に摺動自在に密着することでシール面が形成され、かつ前記複数の突起の各先端面が前記環状溝の側壁面に摺動自在に密着するように構成されることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、段差面で構成された側面のうち他方の部材側の面だけでなく、複数の突起の各先端面が環状溝の側壁面に摺動自在に接触する。すなわち、側面が段差面で構成されたシールリングにおいて、シール面だけでなく、複数の突起の各先端面が環状溝の側壁面に摺動自在に接触する。従って、面圧を低下させることができる。また、面圧の低下に寄与する複数の突起は、それぞれ独立するように設けられているので、熱を効率よく逃がすことができ、発熱量の抑制を図ることもできる。更に、凹んだ面に設けられた複数の突起の先端面が環状溝の側壁面に摺動自在に接触するため、シールリングが径方向に対して傾いてしまうことを抑制でき、シールリングの姿勢を安定させることができる。これにより、部分的に摺動摩耗が促進してしまうことを抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、面圧の低下を図りつつ、発熱量の抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施例1に係るシールリングの側面図(一方側の側面図)である。
【図2】図2は本発明の実施例1に係るシールリングの外周面側から見た図である。
【図3】図3は本発明の実施例1に係るシールリングの側面図(他方側の側面図)である。
【図4】図4は本発明の実施例1に係るシールリングの装着状態を示す模式的断面図である。
【図5】図5は本発明の実施例1に係るシールリングの一部破断斜視図である。
【図6】図6は本発明の実施例2に係るシールリングの一部破断斜視図である。
【図7】図7は本発明の実施例3に係るシールリングの一部破断斜視図である。
【図8】図8は従来例1に係るシールリングの使用状態を示す模式的断面図である。
【図9】図9は従来例2に係るシールリングの使用状態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
(実施例1)
<シールリングの構成>
図1〜図5を参照して、本発明の実施例1に係るシールリングについて説明する。本実施例に係るシールリング10は、相対的に回転する回転軸20とハウジング30との間の環状隙間を封止するために用いられる。また、シールリング10は、回転軸20に設けられた環状溝21に装着され、この環状溝21の側壁面と、ハウジング30に設けられた軸孔(回転軸20が挿通される軸孔)の内周面に対してそれぞれ摺動自在に密着することによって、上記の環状隙間を封止する(図4参照)。なお、図4中右側が高圧側(H)であり、左側が低圧側(L)である。例えば、高圧側(H)には油などの密封対象流体が密封されており、低圧側(L)は大気側となる。シールリング10は、高圧側(H)からの圧力によって低圧側(L)に押圧されることにより、環状溝21における低圧側(L)の側壁面に対して摺動自在に接触する。
【0017】
本実施例に係るシールリング10は、樹脂材(例えばPPS)によって構成される。そして、シールリング10の環状溝21への装着性を考慮して、シールリング10の周方向の1か所には、切断部(合口部)11が設けられている。本実施例においては、この切断部11の構造として、環境温度の変化に伴って周長が変化しても安定したシール性能を発揮する特殊ステップカット構造が採用されている。なお、特殊ステップ構造とは、図1〜図3から明らかなように、シールリング10における両側面及び外周面側から見た場合に、いずれも段差を有するように切断された構造である。
【0018】
また、本実施例に係るシールリング10においては、その両側面は、環状溝21の溝底側の方が環状溝21の側壁面から離れるように凹む段差面で構成されている。つまり、シールリング10の両側面は、いずれも内周面側の方が凹む段差面で構成されている。ただし、切断部11の付近においては、安定したシール性を発揮させるために段差を設けていない。なお、本実施例に係るシールリング10においては、装着性の観点(向きを気にしないで装着できること)及び高圧側(H)と低圧側(L)が入れ替わる場合にも適応できるようにするために、軸方向の中心面に対して対称的な形状となっている。従って、シールリング10の両側面は、いずれも環状溝21における摺動面となる側壁面(低圧側(L)の側壁面)に対向する側面となり得る。
【0019】
そして、凹んだ面12には、環状溝21の側壁面に向かって突出する複数の突起13がそれぞれ独立するように設けられている。本実施例においては、これら複数の突起13は、周方向に沿ってそれぞれ等間隔となるように配置されている。また、これら複数の突起13の先端面は、シールリング10における側面のうち外周側の突出した面と同一平面上に位置するように構成されている(図4参照)。更に、本実施例においては、平面的に見た場合に、シールリング10の円の中心から各突起13までの距離がいずれも等しくなるようにそれぞれの突起13が配置されている。なお、各突起13間の間隔は、面圧の分布をできるだけ均一にするために、極力狭くするのが望ましい。
【0020】
<シールリングの動作>
以上のように構成されたシールリング10を回転軸20に設けられた環状溝21に装着すると、上記の通り、シールリング10は、環状溝21の側壁面と、ハウジング30に設けられた軸孔の内周面に対してそれぞれ摺動自在に密着する。ここで、シールリング10の外周面側は、全面に亘って軸孔の内周面に対して摺動自在に密着する。つまり、シール
リング10の外周面全体がシール面となる。一方、シールリング10の側面側は、ハウジング30側(つまり外周面側)における突出した面の一部(外周面側の一部を除く部分)が環状溝21の側壁面に摺動自在に密着することでシール面を形成する。この場合においては、シール性を確保するために必要な最低限のシール接触幅を設定した上で、放熱の観点からはできるだけ狭い接触幅に設定するのが望ましい。
【0021】
また、本実施例においては、凹んだ面12に設けられている複数の突起13の各先端面も、環状溝21の側壁面に摺動自在に密着する。
【0022】
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
本実施例に係るシールリング10によれば、段差面で構成された側面のうちハウジング30側(つまり外周面側)の面だけでなく、複数の突起13の各先端面が環状溝21の側壁面に摺動自在に接触する。すなわち、側面が段差面で構成されたシールリング10において、シール面だけでなく、複数の突起13の各先端面が環状溝21の側壁面に摺動自在に接触する。従って、単位面積当たりの圧力を低減させることができ、面圧を低減させることが可能となる。
【0023】
また、面圧の低下に寄与する複数の突起13は、それぞれ独立するように設けられているので、熱を効率よく逃がすことができ、発熱量の抑制を図ることもできる。
【0024】
更に、凹んだ面12に設けられた複数の突起13の先端面が環状溝21の側壁面に摺動自在に接触するため、シールリング10が径方向に対して傾いてしまうことを抑制でき、シールリング10の姿勢を安定させることができる。つまり、例えば、上述した図8に示す従来例に係るシールリング50の場合には、凹んだ面が環状溝21の側壁面に近づく方向に傾き易い(つまり、図8中時計回り方向に傾き易い)が、本実施例に係るシールリング10の場合には、複数の突起13の先端面が環状溝21の側壁面に摺動自在に接触するため、そのような傾きを抑制できる。これにより、部分的に面圧が高くなってしまうことを抑制でき、一部分の摺動摩耗が促進してしまうことを抑制できる。
【0025】
以上のように、本実施例に係るシールリング10によれば、面圧の低下を図りつつ、発熱量の抑制を図ることができる。従って、高圧・高回転の環境下においても、長期に亘って安定的にシール性を発揮させることが可能となる。また、耐熱性に優れたエンジニアプラスチックなどの効果な材料を用いる必要もない。更に、切断部11から意図的に油などを必要以上にリークさせる必要もないので、シール性を高めることができる。
【0026】
(実施例2)
図6には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、突起の配置構成を実施例1とは異なるようにした場合を説明する。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0027】
上記実施例1の場合には、平面的に見た場合にシールリング10の円の中心から各突起13までの距離がいずれも等しくなるようにそれぞれの突起13が配置される構成を採用している。これに対して本実施例に係るシールリング10の場合には、外径側に偏った位置に等間隔に並ぶ突起13aと、内径側に偏った位置に等間隔に並ぶ突起13bが、周方向に向かって交互に並ぶように配置されている。なお、平面的に見た場合には、シールリング10の円の中心から各突起13aまでの距離はいずれも等しく、かつ円の中心から各突起13bまでの距離はいずれも等しくなるように配置されている。なお、図5には示されていないが、突起13a,13bはシールリング10の両側面にそれぞれ設けられている。
【0028】
本実施例の場合には、シールリング10における環状溝21の側壁面に対する摺動位置を、実施例1に比べて径方向に対してより分散させることができる。これにより、シールリング10の姿勢をより安定化させ、部分的に摺動摩耗が促進してしまうことをより一層抑制させることができる。
【0029】
(実施例3)
図7には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、段差部分に複数の溝を設けた場合を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0030】
本実施例に係るシールリング10においても、実施例1の場合と同様に、両側面は段差面で構成されており、両側面の凹んだ面12には複数の突起13が設けられている。そして、本実施例の場合には、段差部分に複数の溝14が設けられている。これにより、シールリング10における側面側のシール面の部分で発生する熱を効率良く逃がすことができ、発熱量を抑制することが可能となる。また、シール面においては摺動面積が減少しているものの、複数の突起13が設けられていることによって、面圧が高くなってしまうことも抑制できる。なお、面圧分布をより均一にするために、周方向に対して溝14を設ける位置と突起13を設ける位置は同じ位置に配置するのが望ましい。言い換えれば、平面的に見た場合に、シールリング10の中心位置から突起13を通る直線状に溝14を設けるのが望ましい。
【0031】
(その他)
上記実施例においては、軸側に環状溝を設け、当該環状溝内に装着されるシールリングの場合を示したが、本発明はハウジングの軸孔内周面に設けられた環状溝内に装着されるシールリングにも適用可能である。この場合には、シールリングの側面は、外周面側の方が凹む段差面で構成されることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0032】
10 シールリング
11 切断部
12 凹んだ面
13,13a,13b 突起
14 溝
20 回転軸
21 環状溝
30 ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着され、該環状溝の側壁面と、他方の部材の周面に対してそれぞれ摺動自在に密着することによって、前記2部材間の環状隙間を封止するシールリングにおいて、
前記環状溝の側壁面に対向する側面が、前記環状溝の溝底側の方が前記側壁面から離れるように凹む段差面で構成され、かつ凹んだ面に前記側壁面に向かって突出する複数の突起がそれぞれ独立するように設けられ、
前記側面のうち前記他方の部材側の面が前記環状溝の側壁面に摺動自在に密着することでシール面が形成され、かつ前記複数の突起の各先端面が前記環状溝の側壁面に摺動自在に密着するように構成されることを特徴とするシールリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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