説明

シール材及びそのシール材を用いた固体酸化物形燃料電池

【課題】高い絶縁性とシール性とを備える固体酸化物形燃料電池用等のシール材を提供する。
【解決手段】アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含有している、固体酸化物形燃料電池用シール材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材及び当該シール材によってシールされた固体酸化物形燃料電池、並びに当該シール材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
500℃以上800℃以下の温度範囲で使用し高い絶縁性を具備したガスシール材として、ソーダガラスやマイカ等のガラスおよびセラミックス系シール材が検討されている(特許文献1)。また、水ガラス等を主成分とする液体シール材も検討されている(特許文献2)。一方、ナトリウム含有単分散球状粒子の合成方法が報告されている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−39573号公報
【特許文献2】特開2001−319670号公報
【非特許文献1】S. Suda, et al., J. Non-Cryst. Solids, 321, 3-9 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ガラスおよびセラミックス系シール材では柔軟性に乏しいため、表面に凹凸のある基材をシールすることは困難であった。特に、ソーダガラスでは高温において比較的導電性を有してしまうという問題があり、さらに500℃付近で亀裂が入ってしまい、シール性を損なうという問題があった。また、マイカや結晶ガラスによるシール材については、シール性に課題がある。さらに、接着剤等の液体シール材では、緻密基材へのシールでは問題がないが、多孔質基材については、液体シール材の基材への染み込みのために、シール性を保持するのは難しかった。従って、現在までのところ、高い絶縁性を具備するとともに高いシール性を備えるシール材や多孔質基材に対して優れたシール性を備える材料は得られていない。一方、ナトリウム含有単分散球状粒子の合成方法が報告されているが、こうした球状粒子を高温での絶縁性シール材への適用については報告されていない。
【0004】
そこで、本発明は、高い絶縁性とシール性とを備えるシール材及びその製造方法並びに固体酸化物形燃料電池のシール構造を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、さらに多孔質基材に対して優れたシール性を備えるシール材及びその製造方法並びに固体酸化物形燃料電池のシール構造を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記した課題を解決するべく検討したところ、500℃以上800℃以下程度におけるシール性と絶縁性とを実現できるシール材を見出した。さらに、本発明者らは、シール材の溶融性をコントロールして多項質基材にも十分対応できるシール材を提供できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて以下の手段を提供する。
【0006】
本発明によれば、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含有する、シール材が提供される。本シール材は、500℃以上800℃以下における環境下でのシール材であることが好ましく、より好ましくはこうした作動温度の固体酸化物形燃料電池用である。
【0007】
本シール材においては、前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、アルカリ金属/Siのモル比であるアルカリ金属含有量が0.40以上0.85以下のアルカリ金属含有シリカ粒子を含むことができる。また、前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、第1のアルカリ金属含有量の第1のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と、前記第1のアルカリ金属含有量よりも少ない第2のアルカリ金属含有量の第2のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と、を含むことができる。この態様において、前記第1のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の前記第1のアルカリ金属含有量は0.40以上0.85以下とすることができ、前記第2のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の前記第2のアルカリ金属含有量は0.40未満とすることができる。特に、前記第1のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子のアルカリ金属含有量は、0.50以上0.80以下であり、前記第2のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子のアルカリ金属含有量は、0.20以下であることが好ましい。
【0008】
本シール材においては、前記アルカリ金属はナトリウムを含むことが好ましい。また、前記シール材は、成形体、粉末、スラリー、ゾル及びゲルから選択されるいずれかとすることができ、また、前記シール材は、加湿処理されたシート成形体とすることができる。
【0009】
本発明によれば、シール材の製造方法であって、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を準備する工程と、前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むシール材を調製する工程と、を含む、製造方法が提供される。この場合において、前記調製工程は、前記シール材として、成形体、粉末、スラリー、ゾル及びゲルから選択されるいずれかを調製する工程とすることができる。また、前記調製工程は、前記シール材としてシート成形体を成形し、乾燥し、乾燥後の前記シート成形体を加湿して光透過性を有するシート成形体とする工程とすることができる。この態様において、前記加湿は、10℃以上50℃以下の温度で相対湿度70%以上で行うことができる。前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、アルカリ金属/Siのモル比であるアルカリ金属含有量が0.40以上0.85以下のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むことができる。
【0010】
また、前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、第1のアルカリ金属含有量の第1のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と、前記第1のアルカリ金属含有量よりも少ない第2のアルカリ金属含有量の第2のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と、を含むことができる。
【0011】
本発明によれば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)であって、上記いずれかに記載のシール材によるシール部位を備える、電池が提供される。本発明の固体酸化物形燃料電池においては、前記シール材は前記固体酸化物形燃料電池の多項質基材をシールする固体酸化物形燃料電池としてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のシール材は、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含有している。アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を用いることにより、適切な溶融性(シール性)と絶縁性とを備えるシール材となっている。特に、500℃以上800℃以下程度におけるシール性と絶縁性とを発現させることができる。したがって、こうした作動温度の固体酸化物形燃料電池におけるシール材として用いることができる。また、アルカリ金属含有量の異なるアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を用いることで、さらに溶融性をコントロールして多項質基材にも十分対応できるようなシール性を発現させることができる。さらに、本発明のシール材によれば、加湿処理されていることで、被シール面の凹凸に容易に追従可能な粘性、可塑性、可撓性若しくは柔軟性を有するシール材を得ることができるとともに、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子並びにシール材に用いられることのある有機バインダ材料に由来する溶融時のカーボン析出量を抑制できる。カーボンの析出は、絶縁性を低下させるとともに、シール性を著しく低下させることにもなるが、本発明のシール材によれば、カーボン析出による絶縁性低下及びシール性低下の抑制されたシール材を提供できる。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
(シール材)
本発明のシール材は、500℃以上800℃以下の環境下でのシール性に優れており、こうした温度環境用のシール材として用いることができる。より好ましくは500℃以上750℃以下である。したがって、こうした温度域を作動温度域とする固体酸化物形燃料電池(SOFC)に用に好ましく適用される。なお、適用されるSOFCは、平板型のほか、円筒型、自立型、支持膜型、一体積層型などの形態を全て含むものである。本発明のシール材は、例えば、SOFCのセパレーター相互間、電池とセパレーター間及び燃料極や空気極である電極間などのシール部位をシールすることができる。特に、後述するように異なるアルカリ金属含有量のシリカ粒子を含むシール材の場合には、電極などの多孔質基材、好ましくは、気孔率が20%程度以上の多孔質基材のシール材として好ましい。多孔質基材は、好ましくは気孔率が30%以上である。
【0014】
(シール材の組成)
本発明のシール材は、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含有している。アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウムなどのアルカリ金属から選択される1種又は2種以上であればよい。シール性を発揮させるためのシール材の溶融温度を考慮するとナトリウムを含むことが好ましい。アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の形態は、球状、不定形状、薄片状等特に限定しないが、好ましくは球状である。球状であるとバインダ等と混合したときに流動性に優れたスラリーを合成できるからである。また、アルカリ金属含有シリカ粒子の平均粒子径は、0.1μm以上0.8μm以下であることが好ましい。この範囲であると粒子径のそろったアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子が合成できるからである。また、0.1μm未満であると粒子同士が凝集してしまい単分散球状粒子の合成が難しく、0.8μm以上であると粒子径分布が広くなるあるいはバイモーダルな分布となるからである。なお、平均粒子径は走査型電子顕微鏡により測定することができる。
【0015】
アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の合成方法は特に限定しないが、S. Suda, et al., J. Non-Cryst. Solids, 321, 3-9 (2003)に記載のゾルゲル方法又はこれに準じた方法を用いることができる。例えば、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)などの金属アルコキシドのエタノール溶液、あるいは当該エタノール溶液に対して必要に応じ分散剤としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの高分子のエタノール溶液とを混合した混液を撹拌しつつ、NaOHのエタノール・水混液を添加して、縮合反応を生じさせ、適宜エタノールなどの有機溶媒を添加して固液分離後、固形分を乾燥することによってアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を得ることができる。こうして得られるアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、非晶質シリカ粒子の中にアルカリ金属を均質に含有させることができるという特徴を有する。また、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子においては、アルカリ金属含有量(アルカリ金属/Siのモル比)が0以上0.85以下の範囲で、より好ましくは、0以上0.75以下の範囲で調整することができる。アルカリ金属含有量により溶融温度を調整でき、例えば、ナトリウム含有量が高いと溶融温度が低くなる。また、ナトリウム含有量を増大させるとシールの絶縁性が低下する。
【0016】
アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、単独のアルカリ金属を粒子中に有するアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を用いてもよいし、2種以上のアルカリ金属を一つの粒子に含むアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を用いてもよいし、2種以上のアルカリ金属を異なる粒子中に含む混合粒子を用いてもよい。
【0017】
アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子におけるアルカリ金属/Siのモル比は、0.85以下とすることができる。この範囲であると、均質な非晶質シリカ粒子が合成できるからであり、0.85を超えると非晶質シリカ粒子の表面やそのほかの部分にアルカリ金属塩が析出してしまうからである。より好ましくは、0.75以下である。また、同一濃度のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を用いる場合には、アルカリ金属/Siのモル比は0.40以上であることが好ましい。
【0018】
また、異なるアルカリ金属含有量の非晶質シリカ粒子を用いることができる。異なるアルカリ金属含有量の非晶質シリカ粒子を用いることで、溶融温度の調節が容易となり、また、アルカリ金属含有量の異なるシリカ粒子が接触して高濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子中のアルカリ金属が低濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の二酸化ケイ素と反応することで局所的に溶融温度を下げて、後者の表面および表面近傍のみを溶融することによって、たとえば、多孔質基材に対して、充填材と溶融材を兼ね備えることができる。
【0019】
シール材は、多孔質基材に対しては充てん材としての機能を発揮できることが好ましく、緻密基材に対しては溶融材としての機能を発揮できることが好ましい。多孔質基材には、相対的にアルカリ金属濃度の低いシール材(アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子が少ないまたは低濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を用いる)を適用することが好ましく、緻密基材には、アルカリ金属濃度が高いシール材(アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子が多いまたは高濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を用いる)を適用することが好ましい。また、多孔質基材と緻密質基材との間をシールする場合には、これらを組み合わせたシール材とすることができる。すなわち、異なる濃度のシート体を積層するなどしてアルカリ金属濃度について傾斜組成を有するようにしてもよい。
【0020】
異なるアルカリ金属含有量の非晶質シリカ粒子を用いる場合、少なくともアルカリ金属含有量が0.40以上0.85以下のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と、アルカリ金属含有量が0.40未満であるアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子とを含むことが好ましい。こうした2種類の濃度のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むことができ、溶融温度について大きな局所的変化を生じさせることができる。好ましくは、高濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、アルカリ金属含有量が0.50以上であり、さらに好ましくは0.60以上である。低濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子のアルカリ金属含有量は、0.20以下であり、さらに好ましくは0である。好ましい組み合わせは、高濃度非晶質アルカリ金属含有シリカ粒子のアルカリ金属含有量が約0.60であり、低濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の金属含有量が0である。
【0021】
高濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と低濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子との配合比率は、得ようとする溶融性能に応じて設定することができるが、高濃度および低濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の全量に対して20体積%以上60体積%以下の範囲で低濃度アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を配合することが好ましい。当該配合比率は、特に、アルカリ金属がナトリウムの場合において好ましい。
【0022】
(シール材の形態)
本発明のSOFC用シール材は、各種形態を採ることができる。すなわち、こうしたアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含んで成形されたシート成形体などの成形体、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含む粉末、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むスラリー、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むゾル、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むゲル、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むペーストなどの形態が挙げられる。こうした各種形態のシール材は、アルカリ金属含有シリカ粒子のみから構成されていてもよいし、適当な媒体やバインダ等を用いて構成されていてもよい。例えば、媒体としては、水、エタノールなどのアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、エーテル及びこれらの2種類以上の混液等を用いることができる。また、バインダとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、等を用いることができる。なかでも、PVBを用いることが得られたシート成形体等のシール材に含まれる非晶質シリカ粒子濃度やシート成形体等の柔軟性などの観点から好ましい。
【0023】
(加湿処理)
シール材は、加湿処理されたものであることが好ましい。ここでいう加湿処理は、高湿度雰囲気下に前記シール材を保持することにより実施することができる。高湿度雰囲気とは、例えば、相対湿度70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。70%以上であると十分にシール材に水分を供給することが可能だからである。温度は好ましくは10℃以上50℃以下である。この範囲であると水分供給速度を制御しやすいからである。また、加湿処理時間は特に限定しないが、3時間以上40時間以下程度とすることができ、多くは20時間程度である。
【0024】
本発明を拘束するものではないが、加湿処理により、シール材に含まれる残存アルコキシル基が加水分解されてアルコールとシラノール基が生成するとともに、シラノール基間あるいはシラノール基と他の成分との重合反応が進行すると考えられる。加湿処理によれば、シール材の粘性、可塑性若しくは可撓性の向上、絶縁性及びシール性を向上させることができる。なお、粘性、可塑性又は可撓性の向上は、重合反応の促進によるものと推測され、絶縁性及びシール性の向上は、加湿処理による加水分解反応の進行により、シール材中に非晶質シリカ粒子あるいはバインダや媒体等に由来するカーボン(例えば、残存アルコキシル基のおけるアルキル基)を二酸化炭素として溶融時にシール材から排出除去しやすくさせることができることに起因する推測される。なお、加湿処理によりシール材の光透過性が向上するのは、非晶質シリカ粒子の重合反応が進行するからであると考えられる。
【0025】
加湿処理の程度は、シール材に光透過性を付与する程度行うことが好ましい。加湿処理が、シール材が光透過性を有しない程度の場合には、可塑性等も向上せず、溶融時にカーボンの析出が生じやすくなり、絶縁性及びシール性において問題が生じやすくなる。また、加湿処理が過ぎると、シール材が湿潤してしまい、シート材が劣化するからである。特に、バインダを含むシール材を加湿処理することによりシール材の粘性、可塑性又は可撓性を向上させることができ、シール部位への密着性や適用性が高まったシール材とすることができる。また、加湿処理の程度をより明確化するためにシリカに用いられる公知の水分インジケータを含有させることもできる。
【0026】
加湿処理は、全ての形態のシール材に適用できる。不定形のものの場合には、粘性や可塑性、柔軟性等が向上し、シート状等の場合には、柔軟性や可撓性が向上する。加湿処理を施すのに好ましいシール材の形態としては、バインダを含む形態であり、具体的には、シート成形体などの成形体、ペースト、スラリー等が挙げられる。すなわち、加湿成形体や加湿ペースト等とすることができる。均一に加湿できる観点からは、シート成形体など厚みが一定の成形体が好ましい。
【0027】
(シール材の製造方法)
本発明のシール材の製造方法は、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を準備する工程と、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むシール材を調製する工程とを備えている。アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の準備工程は、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を合成する工程であってもよいし、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を合成以外の方法で入手する工程であってもよい。
【0028】
アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むシール材の調製は、既述したシール材の各種形態に応じて異なる。シート成形体などの成形体の場合には、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と適当なバインダ及び媒体等を混合してスラリー等としてドクターブレード等によりシート化し、乾燥することにより得ることができる。成形により付与する三次元形態や二次形態は任意である。また、粉末の場合には、必要あれば適当な基材とともにあるいはアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子のみを混合することにより得ることができる。スラリーは、アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と適当なスラリー用基材や媒体とともに混合することにより得ることができる。ゾルは、適当な粒子径のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を媒体に分散させることにより得ることができ、ゲルはこうしたゾルを乾燥等することにより得ることができる。
【0029】
成形体、ペースト、スラリー等については適宜乾燥することができ、その後加湿処理を行うことができる。加湿処理については既に述べた通りである。なお、こうした加湿処理は、後述するようにSOFCのシール構造を構築時においてその場で行ってもよい。
【0030】
(本シール材によりシールされたSOFCの製造方法及びSOFCのシール方法)
本発明のSOFCの製造方法及び本発明のシール材を用いたSOFCのシール方法は、SOFCのシール部位にシール材を供給する工程と、該供給したシール材を溶融して前記シール部位をシールする工程とを備えることができる。
【0031】
まず、SOFCの単位セルの構築及び積層にあたり、シールが必要な箇所(シール部位)に本発明のシール材を供給する。本発明のシール材は、シート成形体であれば、シール部位に沿って密着させ又は挟持等させることができる。ペーストやスラリー、ゲル及びゾル等の流動性を有する形態の場合、塗布等を採用できる。なお、粘度を低くすることにより噴霧することも可能である。また、粉末形態の場合には、懸濁液や他の流動性形態として後、塗布や噴霧等の方法で付与すればよい。成形体やペースト等の形態のシール材にあっては、適宜予め加湿処理した加湿処理体をシール部位に供給することができるが、シール部位に供給後、その場で加湿処理をしてもよい。
【0032】
既述したように、電極などの多孔質基材のシール部位においては、異なる濃度でアルカリ金属を含有した非晶質シリカ粒子を用いたシール材を供給することが好ましい。こうしたシール材を供給し、後段工程で溶融してシールすることにより、多孔質基材にシール材が過度に浸透してシール部位に空隙(直径10μm以上の気孔)を生じさせることもなく良好にシールすることができる。特に、気孔率20%以上、より好ましくは30%以上の多孔質電極におけるシール部位に適用することが有効である。
【0033】
この後、500℃以上800℃以下の温度でSOFCを加熱処理することで、シール材を全体あるいは部分溶融させてシール部位をシールさせる。この加熱処理は、SOFCの運転時において実施してもよいし、SOFCの運転に先立って別個の加熱処理として行ってもよい。以上の工程により、本シール材によってシールされたSOFCを得ることができる。
【0034】
本発明の製造方法及びシール方法によれば、特に加湿処理体を用いるかあるいはその場加湿処理工程を実施することにより、カーボンの析出を抑制して、絶縁性とシール性とに優れるシールをすることができる。
【0035】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(ナトリウム含有非晶質シリカ粒子の調製)
800℃以下で溶融するシート成形体の前駆体として、S. Suda, et al., J. Non-Cryst. Solids, 321, 3-9 (2003)に記載の方法に準じて、ナトリウムを含有する非晶質シリカ球状粒子(NS粒子)をゾルゲル法で合成した。すなわち、TEOS37.295gと0.3体積%のHPCのアルコール溶液309.093gとを混合して混合液Aを調製し、10MNaOH水溶液19.240gとエタノール308.040gと水16.257gとを混合して混合液Bを調製した。混合液Aを50℃の温水中で30分間撹拌し、混合液Bを1時間かけて徐々に滴下混合した。その後、室温にて30分間放冷した。放冷後の混合液の半量ずつを、4000rpm(20g)で30分間遠心分離後、上清液を除去して遠沈物にエタノール200mlを追加してさらに、4000rpmで30分間遠心分離後、上清を除去した遠沈物をビーカーに移し、70℃の熱風乾燥機中で一晩乾燥し、さらに、70℃の真空乾燥機中で一昼夜乾燥した。その後、乾燥物をメノウ乳鉢で解砕して、仕込みNa/Si比が0.8の非晶質シリカ粒子とした。なお、仕込みNa/Si比を、0、0.6及び1.0となるように混合液Aおよび混合液Bとの混合比を変える以外は、上記と同様にして、それぞれの仕込み比の非晶質シリカ粒子を調製した。図1に仕込み組成とそれぞれの粒子形状を示す。
【0037】
それぞれ合成した非晶質シリカ粒子の組成をEDSで分析した。仕込み組成と組成の分析結果との関係を図2に示す。図2に示すように、上記方法によれば、最大Na/Si=0.7程度まで粒子中にナトリウムを導入できることがわかった。
【0038】
次に、仕込み組成がNa/Si=0.8(実際のNa/Si比は0.6程度)の非晶質シリカ粒子(NS0.8)を用いてシート成形体を作製した。すなわち、非晶質シリカ粒子に溶媒(エタノールと3−メトキシ−1−ブタノール),バインダー(ポリビニルブチラール),分散剤(無水マレイン酸)等を添加し,ドクターブレード法を用いて作製した。そして、さらにシート成形体を60〜80℃で乾燥したもの(乾燥体)と、乾燥後に後処理として室温中高湿度雰囲気(相対湿度98%)に4時間保持したもの(加湿処理体)とを調製し、これらを比較した。また、これらのシート成形体を800℃で溶融し、溶融後の状態を比較した。
【0039】
2つのシート成形体を比較することにより、高湿度雰囲気中で加湿処理した加湿処理体は透明化すること及び可撓性や柔軟性が向上することがわかった。加湿時間については、短すぎると透明化が不完全でかつカーボンの析出もおきやすく、また長すぎるとシート材の劣化が見られた。また、室温中800℃で溶融した結果からは、乾燥体は、黒色化しておりカーボンが多く残存していることがわかった。これに対して、加湿処理体は、透明な溶融状態が得られており、十分な絶縁性を保持していることがうかがえた。これらの試料中に残存しているカーボン量を炭素分析装置により分析したところ、乾燥体ではC/Si=0.049であり、加湿処理体では、その1/3以下であるC/Si=0.015であった。多くのカーボンが析出すると、シール性にも大きな障害となる。従って,加湿処理体のような後処理を適当におこなうことによってカーボン析出がなく、シール性及び絶縁性を保持したシール材を合成することができることがわかった。
【実施例2】
【0040】
「実施例1」において調製した加湿処理体で、気孔率が30%以上の多孔質基材に対して供給し同様に溶融処理したところ、シール材が多孔質基材に浸透しシール部位に気泡が生じることがわかった(図3(a)参照)。そこで、NS0.8のシリカ粒子に全体において20mass%以上30mass%以下となるようにナトリウムを含有しない粒子(NS0.0粒子)を混合してシート成形体とし、その後加湿処理をした。このようにして得た加湿処理体におけるシール性をSEM写真で評価した結果を図3(b)に示す。図3(b)に示すように、こうした加湿処理体によれば多孔質基材であっても十分なシール性を発現できることがわかった。また、NS0.8シリカ粒子とNS0.0シリカ粒子とは、単に不活性粒子を分散させただけにとどまらず、NS0.8粒子中のナトリウムとNS0.0シリカ粒子とが反応することによって局所的に溶融温度を変化させる効果があることがあることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1における仕込み組成とそれぞれの粒子形状を示す図。
【図2】仕込み組成と組成の分析結果との関係を示す図。
【図3】実施例2において多孔質基材に対するシール性をSEMで評価した結果((a)及び(b))を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含有する、シール材。
【請求項2】
前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、アルカリ金属/Siのモル比であるアルカリ金属含有量が0.40以上0.85以下のアルカリ金属含有シリカ粒子を含む、請求項1に記載のシール材。
【請求項3】
前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、第1のアルカリ金属含有量の第1のアルカリ金属含有シリカ粒子と、前記第1のアルカリ金属含有量よりも少ない第2のアルカリ金属含有量の第2のアルカリ金属含有シリカ粒子と、を含む、請求項1又は2に記載のシール材。
【請求項4】
前記第1のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の前記第1のアルカリ金属含有量は0.40以上0.85以下である、請求項3に記載のシール材。
【請求項5】
前記第2のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子の前記第2のアルカリ金属含有量は0.40未満である、請求項3又は4に記載のシール材。
【請求項6】
前記第1のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子のアルカリ金属含有量は、0.50以上0.85以下であり、前記第2のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子のアルカリ金属含有量は、0.20以下である、請求項3に記載のシール材。
【請求項7】
前記アルカリ金属はナトリウムを含む、請求項1〜6のいずれかに記載のシール材。
【請求項8】
前記シール材は、成形体、粉末、スラリー、ペースト、ゾル及びゲルから選択されるいずれかである、請求項1〜7のいずれかに記載のシール材。
【請求項9】
前記シール材は、加湿処理されたバインダ含有シート成形体である、請求項1〜7のいずれかに記載のシール材。
【請求項10】
シール材の製造方法であって、
アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を準備する工程と、
前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含むシール材を調製する工程と、
を含む、製造方法。
【請求項11】
前記調製工程は、前記シール材として、成形体、粉末、スラリー、ペースト、ゾル及びゲルから選択されるいずれかを調製する工程である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記調製工程は、前記シール材としてシート成形体を成形し、乾燥し、乾燥後の前記シート成形体を加湿して光透過性を有するシート成形体とする工程である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記加湿は、10℃以上50℃以下の温度で相対湿度70%以上で行う、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、アルカリ金属/Siのモル比であるアルカリ金属含有量が0.40以上0.85以下のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を含む、請求項10〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
前記アルカリ金属含有非晶質シリカ粒子は、第1のアルカリ金属含有量の第1のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と、前記第1のアルカリ金属含有量よりも少ない第2のアルカリ金属含有量の第2のアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子と、を含む、請求項10〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
固体酸化物形燃料電池であって、
請求項1〜9のいずれかに記載のシール材によるシール部位を備える、電池。
【請求項17】
前記シール材は前記固体酸化物形燃料電池の多項質基材をシールする、請求項16に記載の固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−10191(P2008−10191A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176918(P2006−176918)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「セラミックリアクター開発」/革新的部材産業創出プログラム/新エネルギー技術開発プログラムにおける委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】