説明

シール材

【課題】バックアップリングなどの補助部材を併用せずとも高圧条件下において使用可能であるとともに、摺動抵抗が小さく、シール材の長寿命化を図ることが可能なシール材を提供すること。
【解決手段】装着体と相手側部材との間を圧力差のある2つの空間に隔てるシール材であって、弾性材料から形成された弾性部材と、弾性部材よりも低摩擦性の材料から形成されるとともに、弾性部材の上面に接合されたシール部材と、を備え、シール溝に装着された際に、弾性部材の下面がシール溝の底面と当接するとともに、シール部材の上面がシール面と当接するように構成されており、シール部材の上面には、その断面において、少なくとも低圧空間側に向かってテーパーが付されており、弾性部材は、その断面において、下面が上面よりも幅狭に形成されるとともに、弾性部材の上面と下面とを接続する2つの側面の内の少なくとも高圧空間側に位置する側面が、弾性部材の下面から上面に向かって外側に拡がるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材に関し、特に、油空圧機器などにおけるロッドやピストンなど、回転・摺動する部材をシールするに用いられて好適なシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油空圧機器などにおけるロッドやピストンなど、回転・摺動する部材間をシールするために用いられるシール材として、キャップOリングと呼ばれる環状のシール材が知られている。
【0003】
図7は、従来のキャップOリングと呼ばれるシール材を示した断面図、図8は、従来のキャップOリングと呼ばれるシール材が、シール溝に装着されてシール面と当接している状態を示した断面図である。
【0004】
この従来のシール材100は、図7に示したように、断面円形状のゴム製のOリング110の内径面に、フッ素樹脂からなる断面三日月状のシール部材120が一体成形によって接合されることで構成されている。
【0005】
そして、図8に示したように、例えばハウジング130などの内周面に形成されているシール溝132に装着される。そして、シール部材120がハウジング130に収容されているロッド140の外周面(シール面142)と当接し、ハウジング130とロッド140との間をシールする。ハウジング130とロッド140の間には、図中の矢印で示した方向から流体圧力P´が作用しており、このシール材100によって、ハウジング130とロッド140との間が、高圧空間135aと低圧空間135bの2つの空間に隔てられている。
【0006】
また、図8に示したように、シール溝132の低圧空間135b側には、シール材100を保持するための部材として、シール材100とシール溝132の側面との間を埋めるように、バックアップリング115が配置されている。このバックアップリング115は、シール面142とも当接するように配置されており、上述したシール部材120と同様に、フッ素樹脂によって形成されている。
【0007】
このような構成からなる従来のシール材100は、シール面142と当接するシール部材120が摺動性に富むフッ素樹脂により形成されているため、摺動抵抗が小さくなっている。また、ゴム製のOリング110は高い弾力性を備えている。したがって、シール面142によって図中の矢印Fで示した方向にシール部材120が押圧されると、Oリング110が圧縮され、その弾性復元力Rによってシール部材120がシール面142に押し付けられるため、高いシール性を発揮することができるようになっている。
【0008】
また、シール溝132の低圧空間135b側にバックアップリング115が配置されているため、図中の矢印で示した方向から流体圧力P´が作用した場合でも、シール材100が転動して捻じれたり、ハウジング130とロッド140の間にはみ出したりすることがないようになっている。
【0009】
なお、この従来のシール材100は、流体圧力P´が低い場合は、バックアップリング115がなくとも使用可能である。しかしながら、流体圧力P´が約2.9MPaを超えるような高圧条件下では、シール材100の捻じれやはみ出しを防止するために、バックアップリング115を併用する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、回転・摺動する部材に用いられるシール材において長寿命化を図るためには、シール材とシール面との間の摺動抵抗を極力小さくして、摺動抵抗によるシール材の損傷を防ぐことが重要である。また、摺動抵抗を小さくすることは、ロッドやピストンなどの回転・摺動する部材の低トルク化を図る上でも重要である。
【0011】
シール面とシール材との摺動抵抗を小さくするためには、シール材がシール面に押し付けられる力(シール材の当接力)を小さくする必要がある。しかしながら、上述した従来のシール材100では、シール材の当接力を十分に小さくすることはできず、所望の長寿命化、低トルク化に必要な程度にまで摺動抵抗を小さくすることはできなかった。
【0012】
また、上述した従来のシール材100にあっては、流体圧力P´が高い場合にはバックアップリング115を併用する必要があるが、シール材100とシール溝132の側面との間にバックアップリング115を配置すると、シール面142によってシール部材120が押圧された際に、そのOリング110の圧縮変形が抑制されてしまう。したがって、シール面142によって押圧されたOリング110の弾性復元力Rがその分だけ大きくなり、シール材100の当接力も大きくなってしまう。また、バックアップリング115を併用すると、部品点数が多くなり、コスト高となる他、シール材100の装着性にも難があった。
【0013】
本発明は、このような現状に鑑みなされたものであって、従来のシール材と比べて、シール面との摺動抵抗を小さくすることができ、シール材の長寿命化を図ることが可能なシール材を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、シール面との摺動抵抗を小さくすることで、ロッドやピストンなどの摺動・回転する部材の低トルク化を図ることが可能なシール材を提供することを目的としている。
【0015】
また、本発明は、バックアップリングなどの補助部材を併用せずとも高圧条件下において使用可能であり、低コスト化で装着性にも優れたシール材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するために発明されたものであって、
本発明のシール材は、
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を圧力差のある2つの空間に隔てるシール材であって、
弾性材料から形成された弾性部材と、該弾性部材よりも低摩擦性の材料から形成されるとともに、該弾性部材の上面に接合されたシール部材と、を備え、
前記シール溝に装着された際に、前記弾性部材の下面がシール溝の底面と当接するとともに、前記シール部材の上面が前記シール面と当接するように構成されており、
前記シール部材の上面には、その断面において、少なくとも、前記シール溝に装着された際における低圧空間側に向かってテーパーが付されており、
前記弾性部材は、その断面において、下面が上面よりも幅狭に形成されるとともに、前記弾性部材の上面と下面とを接続する2つの側面の内、少なくとも、前記シール溝に装着された際における高圧空間側に位置する側面が、前記弾性部材の下面から上面に向かって外側に拡がるように形成されていることを特徴とする。
【0017】
このように構成することによって、弾性部材の下面が上面よりも幅狭に形成されているため、シール材の弾性復元力を低減することができ、シール材とシール面との摺動抵抗を小さくすることができる。また、シール材のボリュームも少なくできるため、低コストのシール材とすることができる。
【0018】
また、シール部材の上面には、低圧空間側に向かってテーパーが付されているとともに、弾性部材の高圧空間側に位置する側面が、弾性部材の下面から上面に向かって外側に拡がるように形成されているため、流体圧力が作用した際に、シール材が高圧空間側に傾いた状態でシール面に当接する。これにより、シール材の弾性復元力を低減することができ、シール材とシール面との摺動抵抗を小さくすることが可能となる。
【0019】
上記発明において、
前記シール部材の断面側方の両端部の内、少なくとも、前記シール溝に装着された際における低圧空間側に位置する端部には、肉厚が他の部分よりも厚く形成された厚肉部が形成されている。
【0020】
このような厚肉部が、シール部材の低圧空間側に位置する端部に形成されていれば、シール材に高い流体圧力が作用してシール材がシール溝の側面に押し付けられた場合であっても、シール材が、シリンダなどの装着体とピストンなどの相手側部材との間にはみ出したりすることがない。
【0021】
したがって、従来のシール材のようにバックアップリングなどの補助部材を併用せずとも、高圧条件下で使用することが可能となり、部品点数を少なくでき、コストを低減できる他、装着性に優れたシール材とすることができる。
【0022】
また、上記発明において、
前記弾性部材の下面には、その断面において、少なくとも、前記シール溝に装着された際における高圧空間側に向かってテーパーが付されていることが望ましい。
【0023】
このように、弾性部材の下面に高圧空間側に向かってテーパーが付されていれば、シール材とシール面との摺動抵抗をより小さくすることができる。
また、上記発明において、
前記シール材の断面が、左右方向に線対称形状となるように形成されていることが望ましい。
【0024】
このように、シール材の断面が左右方向に線対称形状となるように形成されていれば、例えばピストンの移動に応じて、高圧空間と低圧空間とが入れ替わるような場合においても、本発明のシール材を用いることが可能となる。
【0025】
また、左右方向に線対称形状となるように形成されていれば、装着方向を間違えることがないため、シール材の装着性がより一層向上する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来のシール材と比べて、シール面との摺動抵抗を小さくすることができ、シール材の長寿命化を図ることが可能なシール材を提供することができる。
また、シール面との摺動抵抗を小さくすることで、ロッドやピストンなどの摺動・回転する部材の低トルク化を図ることが可能なシール材を提供することができる。
【0027】
また、バックアップリングなどの補助部材を併用せずとも高圧条件下において使用可能であり、低コスト化で装着性にも優れたシール材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明のシール材を示した平面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線における断面図である。
【図3】図3は、本発明のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図である。
【図4】図4は、本発明のシール材をシール溝に装着した状態を示した断面図である。
【図5】図5は、本発明のシール材がシール溝に装着され、装着体と相手側部材との間を圧力差のある2つの空間に隔てている状態を示した断面図である。
【図6A】図6Aは、本発明の別の実施形態のシール材を示した断面図である。
【図6B】図6Bは、本発明の別の実施形態のシール材を示した断面図である。
【図6C】図6Cは、本発明の別の実施形態のシール材を示した断面図である。
【図6D】図6Dは、本発明の別の実施形態のシール材を示した断面図である。
【図6E】図6Eは、本発明の別の実施形態のシール材を示した断面図である。
【図7】図7は、従来のキャップOリングと呼ばれるシール材を示した断面図である。
【図8】図8は、従来のキャップOリングと呼ばれるシール材が、シール溝に装着されてシール面と当接している状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
なお、本明細書において、「上面側」および「上面」とはシール材がシール溝に装着された際のシール面側およびその側の面を指し、「下面側」および「下面」とは用シール材がシール溝に装着された際のシール溝の底面側およびその側の面を指す。
【0030】
図1は、本発明のシール材を示した平面図、図2は、図1のA−A線における断面図、図3は、本発明のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図である。
本発明のシール材1は、図1に示したように、環状のシール材であって、図1および図2に示したように、シール材1の外周側に位置する環状の弾性部材10と、シール材1の内周側に位置する環状のシール部材20とから構成されている。この弾性部材10とシール部材20とは、図3に示したように、弾性部材10の上面12aと、シール部材20の下面22bとが接合されることで、一体化されている。
【0031】
また、本発明のシール材1は、図3に示したように、中心線CLを境界として左右方向に線対称形状に形成されている。そして、後述する図4に示すように、装着体30に形成されているシール溝32に装着される。この際、シール材1は、弾性部材10の下面12bがシール溝32の底面34と当接するとともに、シール部材20の上面22aが、相手側部材40のシール面42と当接するように装着される。
【0032】
本実施形態において、上述した装着体30は、例えばハウジング30であり、相手側部材40は、例えばロッド40である。すなわち、本実施形態においては、シール溝32はハウジング30の内周面に形成されており、シール面42は、ロッド40の外周面に相当している。また、ハウジング30とロッド40との間には、後述するように、その左右少なくともいずれか一方側から流体圧力Pが作用する。そして、シール材1がシール溝32に装着されることで、ハウジング30とロッド40との間が圧力差のある2つの空間に隔てられるようになっている。
【0033】
弾性部材10は、図3に示したように、上述したシール部材20の下面22bと接合される上面12aと、シール溝32に装着された際に上述したシール溝32の底面34と当接する下面12bと、この上面12aと下面12bとを接続する2つの側面14l、14rと、を備えている。この2つの側面14l、14rは、ともに弾性部材10の下面12bから上面12aに向かって直線的に外側に拡がるような形状に形成されている。すなわち、シール溝32の側壁側に傾くように延伸している。この側面14l、14rの傾斜角度θは、後述するように、シール材1が所望の方向に傾斜するように、シール材1やシール溝32の寸法、後述する流体圧Pの大きさなどに応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、3°〜20°の範囲で設定されるのが好ましく、本実施形態では約5°に設定されている。
【0034】
また、弾性部材10の下面12bは上面12aよりも幅狭に形成されている。そして、弾性部材10の上面12aには、その略中央部に凸部13が形成されている。そして、弾性部材10の下面12bは、その略中央部が膨出しており、上述した側面14l、14rとの接続部には湾曲状のテーパー13l、13rが付されている。
【0035】
このような弾性部材10は、弾力性に富んだ弾性材料、例えばゴム材料などによって形成することができる。具体的には、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム材料により形成することができる。本実施形態の弾性部材10は、ニトリルゴムにより形成されている。
【0036】
このように、弾性部材10を弾力性に富んだ弾性材料によって形成することで、後述するように、弾性部材10の弾性復元力Rによって、シール部材20がシール面42に押し付けられ、ハウジング30とロッド40との間を封止するようになっている。
【0037】
シール部材20は、図3に示したように、断面略下向きコ字状に形成されている。また、シール部材20の上面22aは、その略中央部が膨出するとともに、その両端部との接続部に湾曲状のテーパー23l、23rが付されている。また、シール部材20の断面側方の両端部には、上述したテーパー23l、23rと接続して、肉厚が他の部分よりも厚く形成された厚肉部26l、26rが形成されている。
【0038】
このようなシール部材20は、弾性部材10よりも低摩擦性の材料から形成されており、摺動性に富んだフッ素樹脂材料や、高機能樹脂と呼ばれる樹脂材料によって形成することができる。具体的には、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン)などの各種フッ素樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、布入りフェノールなどの高機能樹脂により形成することができる。本実施形態のシール部材20は、PTFEにより形成されている。
【0039】
このように、シール部材20が弾性部材10よりも低摩擦性の材料から形成されていれば、本発明のシール材1をロッド40などの回転・摺動する部材に用いた際に、シール材1とシール面42との摺動抵抗を小さくすることができる。
【0040】
上述した弾性部材10とシール部材20とは、例えば接着剤などによって接合することも可能であるが、インサート成形などの方法によって一体成形されることで、接合されていることが好ましい。このように、弾性部材10とシール部材20とが一体成形によって接合されていれば、弾性部材10とシール部材20とが高い強度で接合されるとともに、シール材1の取り扱いも容易となる。
【0041】
次に、本発明のシール材1がシール溝32に装着された際における、シール面42とシール材1との摺動抵抗について、図4および図5を基に説明する。
ここで、図4は、本発明のシール材がシール溝に装着され、シール材がシール面と当接している状態を示した断面図である。また、図5は、図4に示した状態において、シール材にその側方から流体圧力が作用した状態を示した断面図である。
【0042】
先ず、図4に示した状態において、シール面42と当接するシール材1には、シール面42から図中の矢印Fに示した方向に押圧力Fが作用している。そして、シール溝32の底面34に押し付けられた弾性部材10が圧縮変形し、その弾性復元力Rによって、シール材1がシール面42に押し付けられている。
【0043】
この際、本発明のシール材1は、上述したように、弾性部材10の下面12bが上面12aよりも幅狭に形成されている。したがって、弾性部材10の下面12bと上面12aとが同じ幅に形成されている場合と比べて、より圧縮変形し易くなっており、その分だけ弾性復元力Rも小さくなっている。これにより、シール材1とシール面42との摺動抵抗も小さくなっている。また、弾性部材10の下面12bを上面12aよりも幅狭に形成することで、シール材1のボリュームも少なくすることができ、低コストのシール材1とすることができる。
【0044】
次に、図5に示した状態において、シール溝32に装着されたシール材1には、図中の左側から流体圧力P´に起因する流体力Pが、弾性部材10の左側面14lに対して垂直な方向に作用している。そして、ハウジング30とロッド40との間が、高圧空間35aと低圧空間35bの2つの空間に隔てられている。
【0045】
この流体力Pにより、シール材1はシール溝32の側面38rに押し付けられるとともに、シール材1に図中の矢印Mpで示したように回転力Mpが作用する。そして、シール材1は高圧空間35a側に傾斜し、シール部材20の上面22aの低圧空間35b側に位置するテーパー23rが、シール面42に押し付けられる。また、弾性部材10の下面12bの高圧空間35a側に位置するテーパー13lが、シール溝32の底面34に押し付けられる。
【0046】
このように、本発明のシール材1では、弾性部材10の高圧空間35a側に位置する側面35lが、弾性部材10の下面12bから上面12aに向かって外側に拡がるように形成されているため、流体圧力P´が作用した際に、シール材1が高圧空間35a側に傾いた状態でシール面42に当接するようになっている。そして、シール部材20の上面22aには、低圧空間35b側に向かって湾曲状のテーパー23rが付されており、このテーパー23rとシール面42とが当接するため、図4に示した状態と比べて、シール材1の圧縮変形力が小さくなる。すなわち、図4に示した状態と比べて、押圧力Fが小さくなり、シール材1の弾性復元力Rも小さくなるため、シール材1とシール面42との摺動抵抗も小さくなるようになっている。
【0047】
また、上述したように、弾性部材10の下面12bに、高圧空間35a側に向かって湾曲状のテーパー13lが付されており、このテーパー13lとシール溝32の底面34とが当接するため、図4に示した状態と比べて、シール材1の圧縮変形力がより小さくなっている。すなわち、図4に示した状態と比べて、押圧力Fが小さくなり、シール材1の弾性復元力Rも小さくなるため、シール材1とシール面42との摺動抵抗がより小さくなるようになっている。
【0048】
また、本発明のシール材1では、上述したように、シール部材20の低圧空間35b側に位置する端部に、厚肉部26rが形成されている。よって、図5に示したように、シール材1がシール溝32の側面38rに押し付けられた状態にあっても、この厚肉部26rがシール溝32の開口端部36と当接し、ハウジング30とロッド40との間を塞ぐため、弾性部材10がハウジング30とロッド40との間にはみ出したりすることがない。したがって、従来のシール材100のようにバックアップリングなどの補助部材を併用せずとも、高圧条件下で使用することが可能となり、部品点数を少なくでき、コストを低減できる他、装着性に優れたシール材1とすることができる。
【0049】
また、本発明のシール材1では、上述したように、中心線CLを境界として左右方向に線対称形状に形成されている。このように左右方向に線対称形状に形成されていれば、例えばロッド40の移動に応じて、高圧空間35aと低圧空間35bとが交互に入れ替わるような油圧機器に対しても、本発明のシール材1を好適に用いることができる。また、左右方向に線対称形状となるように形成されていれば、装着方向を間違えることがないため、シール材1の装着性がより一層向上する。
【0050】
以上のとおり、本発明のシール材1によれば、従来のシール材100と比べてシール面42との摺動抵抗を小さくすることができ、シール材1の長寿命化を図ることができる。また、シール面42との摺動抵抗を小さくすることで、ロッド40などの摺動・回転する部材の低トルク化を図ることできる。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、弾性部材10の2つの側面14l、14rが、ともに弾性部材10の下面12bから上面12aに向かって外側に拡がるような形状に形成されていた。しかしながら、本発明のシール材1はこれに限定されず、例えば、図6Aに示したように、一方の側面14lだけが、下面12bから上面12aに向かって外側に拡がるような形状に形成されていてもよい。すなわち、本発明のシール材1にあっては、弾性部材10の上面12aと下面12bとを接続する2つの側面14l、14rの内の少なくとも高圧空間35a側に位置する側面が、弾性部材10の下面12bから上面12aに向かって外側に拡がるように形成されていればよい。
【0052】
また、上述した実施形態では、弾性部材10の下面12bには、2つのテーパー13l、13rが付されていた。また、シール部材20の上面22aにも2つのテーパー23l、23rが付されていた。しかしながら、本発明のシール材1はこれに限定されず、例えば、図6Bに示したように、弾性部材10の下面12bの一方側にだけテーパー13lが付されていてもよく、シール部材20の上面22aの一方側にだけテーパー23rが付されていてもよい。すなわち、本発明のシール材1にあっては、弾性部材10の下面12bにおいて、少なくとも高圧空間35a側に向かってテーパーが付されていればよく、シール部材20の上面22aにおいて、少なくとも低圧空間35b側に向かってテーパーが付されていればよいものである。
【0053】
また、上述した実施形態では、弾性部材10の下面12bのテーパー13l、13rは湾曲状に形成されていた。また、シール部材20の上面22aのテーパー23l、23rも湾曲状に形成されていた。このように、弾性部材10の下面12bのテーパー13l、13r、およびシール部材20の上面22aの23l、23rが、湾曲状に形成されていれば、シール材1に流体力Pが作用した際に、シール材1がスムーズに傾斜するため、好ましい。しかしながら、本発明のシール材1はこれに限定されず、例えば、図6Cに示したように、弾性部材10の下面12bのテーパー13l、13r、およびシール部材20の上面22aの23l、23rが、例えば直線状に形成することも可能である。
【0054】
また、上述した実施形態では、シール部材20は断面略下向きコ字状に形成されており、その両端部には厚肉部26l、26rが形成されていた。しかしながら、本発明のシール材1はこれに限定されず、例えば、図6Dに示したような断面形状に形成されていてもよい。すなわち、シール部材20の全体が略均一に厚肉に形成され、両端部に肉厚が他の部分よりも厚く形成された厚肉部26l、26rが形成されていなくともよい。このような断面形状を有するシール部材20であっても、シール材1がシール溝32の側面38rに押し付けられた際に、シール部材20の側面24rがシール溝32の開口端部36と当接し、ハウジング30とロッド40との間を塞ぐため、弾性部材10がハウジング30とロッド40との間にはみ出したりすることがない。
【0055】
しかしながら、シール部材20よりも弾性部材10の方が圧縮性に優れているため、上述した実施形態に示したように、シール部材20が断面略下向きコ字状に形成されている方が、シール材1の圧縮変形量を大きく確保でき、シール材1とシール面42との摺動抵抗を小さくできるため、より好ましいものである。
【0056】
また、上述した実施形態では、弾性部材10の側面14l、14rは、直線状に形成されていた。しかしながら、本発明のシール材1はこれに限定されず、例えば、図6Eに示したように、湾曲凹状に形成されていてもよい。すなわち、本発明のシール材1にあっては、流体圧Pが作用した際に、シール材1を高圧空間35a側に傾斜させるような回転力Mpがシール材1に作用するように、全体として外側に拡がるような形状に形成されていればよい。
【0057】
また、このように弾性部材10の側面14l、14rが湾曲凹状に形成されていれば、上述した実施形態よりもさらにシール材1のボリュームを少なくできるため、より圧縮変形し易く、シール材1とシール面42との摺動抵抗を小さくすることができる。また、シール材1のボリュームを減らすことで、より低コストのシール材1とすることができる。
【0058】
また、上述した実施形態では、ハウジング30の内周面に形成されたシール溝32に、シール材1を装着する場合を例に説明したが、本発明のシール材1はこれに限定されず、例えば、ロッド40の外周面に形成されたシール溝に装着するようにシール材1を構成することも可能である。この場合、上述した実施形態では、シール材1の外周側に弾性部材10が位置し、内周側にシール部材20が位置するように構成されていたが、それを逆向きに、すなわち、外周側にシール部材20が、内周側に弾性部材10が位置するように、シール材1を構成すればよい。
【符号の説明】
【0059】
1 シール材
10 弾性部材
12a 上面
13 凸部
13l、13r テーパー
14l、14r 側面
20 シール部材
22a 上面
22b 下面
23l、23r テーパー
24l、24r 側面
26l、26r 厚肉部
30 装着体(ハウジング)
32 シール溝
34 底面
35a 高圧空間
35b 低圧空間
35l、35r 側面
36 開口端部
38r 側面
40 相手側部材(ロッド)
42 シール面
100 シール材
110 Oリング
115 バックアップリング
120 シール部材
130 シリンダ
132 シール溝
135a 高圧空間
135b 低圧空間
140 ピストン
142 シール面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を圧力差のある2つの空間に隔てるシール材であって、
弾性材料から形成された弾性部材と、該弾性部材よりも低摩擦性の材料から形成されるとともに、該弾性部材の上面に接合されたシール部材と、を備え、
前記シール溝に装着された際に、前記弾性部材の下面がシール溝の底面と当接するとともに、前記シール部材の上面が前記シール面と当接するように構成されており、
前記シール部材の上面には、その断面において、少なくとも、前記シール溝に装着された際における低圧空間側に向かってテーパーが付されており、
前記弾性部材は、その断面において、下面が上面よりも幅狭に形成されるとともに、前記弾性部材の上面と下面とを接続する2つの側面の内、少なくとも、前記シール溝に装着された際における高圧空間側に位置する側面が、前記弾性部材の下面から上面に向かって外側に拡がるように形成されていることを特徴とするシール材。
【請求項2】
前記シール部材の断面側方の両端部の内、少なくとも、前記シール溝に装着された際における低圧空間側に位置する端部には、肉厚が他の部分よりも厚く形成された厚肉部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシール材。
【請求項3】
前記弾性部材の下面には、その断面において、少なくとも、前記シール溝に装着された際における高圧空間側に向かってテーパーが付されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシール材。
【請求項4】
前記シール材の断面が、左右方向に線対称形状となるように形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシール材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154387(P2012−154387A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12750(P2011−12750)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】