説明

シール構造

【課題】シール材と軸体との間での摺動の発生を抑制するとともに、シール材の取り付けおよび取り外しを容易にするシール構造を提供する。
【解決手段】第1および第2のハウジング11,12から構成され、第1および第2のハウジング11,12を貫通する貫通孔14が形成されたハウジング10と、貫通孔14に挿通された軸体2と、軸体2の周りに装着された弾性変形可能な環状のシール材3であって、軸体2の外周面と、貫通孔14の、第1および第2のハウジング11,12での各内周面部分とに圧接されて保持され、弾性変形した状態でハウジング10内に収容されたシール材3と、を有し、軸体2とハウジング10との間に、軸体2が軸方向に沿って往復移動することに伴うシール材3の弾性変形を許容する逃げ空間16が形成され、シール材3は、軸体2の往復移動時に軸体2との接触面がその軸体2と共に移動するように変形可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングに挿通された軸体が軸方向に沿って往復移動できるように、軸体とハウジングとの間をOリングなどのシール材でシールするシール構造が知られている。図6は、このようなシール構造の構成例を示す断面図である。
【0003】
シール構造101は、軸体102と、ハウジング110とを有している。ハウジング110は、上部ハウジング111と、固定ねじ113によって上部ハウジング111に取り外し可能に固定された下部ハウジング112とから構成されている。ハウジング110には貫通孔114が形成され、軸体102は、この貫通孔114に挿通されている。さらに、シール構造101は、軸体102とハウジング110との間をシールするOリング103を有している。また、軸体102とハウジング110との間には、Oリング103に隣接してバックアップリング104が設けられ、上部ハウジング111と下部ハウジング11との間には、上部ハウジング111と下部ハウジング11との間をシールするOリング105が設けられている。
【0004】
このシール構造101では、軸体102が軸方向に沿って往復移動すると、軸体102とOリング(シール材)103との間で摺動が生じる。このことは、シール材103の摩耗を引き起こし、シール材103の寿命の低下と、ひいては稼働時間の低下につながってしまう。
【0005】
一方で、メンテナンスのためには、シール構造を分解して清掃作業を行う必要がある。しかしながら、シール材であるOリングは、常に軸体で拡張されており、その取り付けおよび取り外しには熟練と時間が必要である。また、各部をシールするために、Oリングやバックアップリングなど複数の部品を使用していると、これらの部品の取り付けおよび取り外しにも時間がかかってしまう。
【0006】
このように、図6に示す従来のシール構造では、シール材と軸体との間で摺動が発生することと、シール材の取り付けおよび取り外しが容易にできないことが問題となっている。
【0007】
これらの問題に対して、特許文献1(特に、図7および図8)には、軸体の摺動抵抗を低下させる技術が開示され、特許文献2(特に、図1および図2)および非特許文献1には、シール材の取付性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−256823号公報
【特許文献1】特開平02−078460号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本トレルボルグシーリングソリューションズ株式会社カタログ「ニューマ・シール」、2010年、p.3−7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のシール構造では、軸体とハウジングとの間をシールするシール材として、断面が半円状の中空のシール材を採用している。その結果、軸体との摺動抵抗を減少させることはできるが、その減少は十分とはいえない。また、このシール材は、軸体またはハウジングに対して特定の位置関係で配置されなければならず、その取り付けおよび取り外しには熟練が必要となる。
【0011】
一方、特許文献2に記載のシール構造では、軸体(ピストン)に設けられたシール材とハウジング(シリンダ)との圧接を流体圧によって調整できるようになっている。したがって、シール状態を容易に解除することができ、シール構造も容易に分解することができる。しかしながら、このような構造には、摺動抵抗を低下させる効果はなく、むしろ摺動抵抗は増加してしまう。
【0012】
また、非特許文献1には、シール材を空気などの流体圧により膨張させて対象物に密着させ、シール性を確保する技術が開示されている。この技術は、特許文献2に記載のシール構造と同様に、シール材の取り付けが容易な技術ではあるが、図6に示すようなシール構造に適用することは困難である。
【0013】
そこで本発明は、シール材と軸体との間での摺動の発生を抑制するとともに、シール材の取り付けおよび取り外しを容易にするシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するために、本発明のシール構造は、第1のハウジングと、第1のハウジングに取り外し可能に固定された第2のハウジングとから構成され、第1のハウジングと第2のハウジングとを貫通する貫通孔が形成されたハウジングと、貫通孔に挿通された軸体と、軸体の周りに装着された弾性変形可能な環状のシール材であって、軸体の外周面と、貫通孔の、第1のハウジングでの内周面部分および第2のハウジングでの内周面部分とに圧接されて保持され、弾性変形した状態でハウジング内に収容されたシール材と、を有し、軸体とハウジングとの間に、軸体が軸方向に沿って往復移動することに伴うシール材の弾性変形を許容する逃げ空間が形成され、シール材は、軸体の往復移動時に軸体との接触面がその軸体と共に移動するように変形可能に構成されている。
【発明の効果】
【0015】
以上、本発明によれば、シール材と軸体との間での摺動の発生を抑制するとともに、シール材の取り付けおよび取り外しを容易にするシール構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるシール構造を示す概略断面図、および、そのシール構造に用いられるシール材を示す概略断面図である。
【図2】軸体が軸方向に往復移動したときの、図1(a)に示すシール構造の概略断面図である。
【図3】図1(b)に示すシール材の変形例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態におけるシール構造を示す概略断面図である。
【図5】軸体が軸方向に往復移動したときの、図4に示すシール構造の概略断面図である。
【図6】従来のシール構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
図1(a)は、本発明の第1の実施形態におけるシール構造を概略的に示す断面図であり、軸体の軸方向に沿った断面を示している。図1(b)は、本実施形態のシール構造に用いられるシール材の概略断面図であり、リング状のシール材の軸方向に沿った断面を示している。
【0019】
本実施形態のシール構造1は、軸体2と、軸体2の周りに装着される環状のシール材3と、軸体2とシール材3とを収容するハウジング10とを有している。
【0020】
ハウジング10は、上部ハウジング(第1のハウジング)11と、下部ハウジング(第2のハウジング)12とから構成されている。上部ハウジング12は、流路あるいは弁側筐体に固定され、下部ハウジング12は、固定ねじ13によって、上部ハウジング11に取り外し可能に固定されている。ハウジング10には、上部ハウジング11および下部ハウジング12を貫通する貫通孔14が形成され、軸体2が、この貫通孔14に挿通されている。貫通孔14の内周面には、上部ハウジング11と下部ハウジング12との境界(周方向)に沿って、断面がV字状の溝15が形成されている。溝15の一方の側面は、上部ハウジング11の、下部ハウジング12との境界部分に形成されたテーパ面から構成され、他方の側面は、下部ハウジング12、上部ハウジング11との境界部分に形成されたテーパ面から構成されている。
【0021】
本実施形態のシール材3は、弾性変形可能な材料で形成され、図1(b)に示すように、断面が円形の中空の環状部材である。シール材3は、溝15の両側面と軸体2の外周面とに圧接されて保持され、断面が三角形状に弾性変形した状態でハウジング10内に収容されている。これにより、軸体2とハウジング10との間のシール性が確保されるだけでなく、第1のハウジング11と第2のハウジング12との間のシール性も確保される。
【0022】
本実施形態では、貫通孔14の開口径が軸体2の直径に対して比較的大きいため、軸体2の外周面と貫通孔14の内周面との間には十分な隙間16が形成されている。この隙間16は、軸体2が軸方向に往復移動することに伴うシール材3の弾性変形を許容する逃げ空間として機能する。以下、この隙間(逃げ空間)16の効果について説明する。
【0023】
図2は、本実施形態のシール構造において、軸体が軸方向に沿って往復移動したときのシール材の変形動作を示す図である。
【0024】
軸体2が流体の方向(上部ハウジング11の方向)へ移動すると、シール材3は、軸体2の動きに連動して、上部ハウジング11の方向へ変形しようとする。このとき、軸体2と上部ハウジング11との間に隙間16が形成されていることで、シール材3は、隙間16内へと進入するように変形することができる。同様に、軸体2が流体から離れる方向(下部ハウジング12の方向)へ移動する際には、シール材3は、軸体2の動きに連動して、軸体2と下部ハウジング12との間の隙間16内へと進入するように変形することができる。
【0025】
このとき、シール材3は、弾性変形可能な中空の部材(図1(b)参照)として形成されているため、軸体2が軸方向に往復移動する際に、軸体2との接触を維持したまま、すなわち軸体2との接触面が軸体2と共に移動するように変形することができる。言い換えれば、軸体2の往復移動に伴って変形する際に、シール材3と軸体2との接触部分が常に一定となり、これにより、軸体2とシール材3との間で摺動が生じないようにすることができる。
【0026】
このように、本実施形態のシール構造では、軸体が軸方向に沿って往復移動する際に、シール材と軸体の外周面との接触を維持したまま、シール材を変形させることができる。その結果、軸体とシール材との間で摺動が発生することはない。これにより、シール材の摩耗を抑制することで、稼働時間の延長(長寿命化)を実現することができる。
【0027】
一方、本実施形態によれば、下部ハウジングを上部ハウジングから取り外すことで、シール材の軸体に対する圧接を軽減することができる。これにより、シール材と軸体との間に逆に摺動を生じさせることができ、シール材の軸体に対する取り外しおよび取り付けを容易に行うことができる。また、本実施形態では、1つのシール材で、軸体とハウジングとの間だけでなく、上部ハウジングと下部ハウジングとの間もシールすることができる。このことは、軸体の交換時に作業時間を短縮するなど作業性の向上につながり、コスト削減にも効果がある。
【0028】
なお、貫通孔の内周面に形成される溝は、本実施形態ではV字状の断面を有しているが、溝の、上部ハウジングに形成された壁面部分と、下部ハウジングに形成された壁面部分とが、シール材を圧接して保持するようになっていれば、他の断面形状も可能である。
【0029】
また、本実施形態のシール材3は、図1(b)に示すように、弾性変形可能な材料で形成された、断面が円形の中空の環状部材である。そのため、上述したように、軸体2が軸方向に沿って往復移動する際に、軸体2との間で摺動が生じることなく、軸体2と共に移動するように変形することができる。したがって、本実施形態のシール構造1に用いられるシール材の構成は、このような変形が可能な構成であれば、図1(b)に示すものに限定されるものではなく、さまざまに変更可能である。図3は、そのようなシール材の変形例を示す断面図である。
【0030】
図3(a)に示すシール材3aは、図1(b)に示すシール材3の円形断面を、軸方向に延びる長円形状または半月形状の断面に変更した変形例である。また、図3(b)に示すシール材3bは、図1(b)に示すシール材3を、より弾性率が低い材料で中実に形成した変形例である。また、図3(c)に示すシール材3cは、図3(a)の変形例と同様に、図3(b)に示すシール材3bの円形断面を、軸方向に延びる長円形状または半月形状の断面に変更した変形例である。
【0031】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態におけるシール構造を概略的に示す断面図であり、軸体の軸方向に沿った断面を示している。図5は、軸体が軸方向に沿って往復移動したときの、図4に示すシール構造の概略断面図である。ここで、第1の実施形態と同じ部材については各図面に同じ符号を付し、説明は省略する。
【0032】
本実施形態は、第1の実施形態に対して、ハウジングの構成を変更した変形例であり、具体的には、貫通孔とその内周面に形成された溝との構成を変更した変形例である。
【0033】
本実施形態では、貫通孔24の内周面に、上部ハウジング21と下部ハウジング22との境界(周方向)に沿って凹溝25が形成されている。凹溝12の一部は、上部ハウジング21の、下部ハウジング22との境界部分に形成され、凹溝25の残りの部分は、下部ハウジング22の、上部ハウジング21との境界部分に形成されている。シール材3は、凹溝25の、上部ハウジング21での底面部分および下部ハウジング22での底面部分と、軸体2の外周面とに圧接されて保持され、断面が楕円形状に弾性変形した状態でハウジング20内に収容されている。これにより、軸体2とハウジング20との間のシール性が確保されるだけでなく、第1のハウジング21と第2のハウジング22との間のシール性も確保される。
【0034】
弾性変形したシール材3は、凹溝25内、すなわち凹溝25の壁面と軸体2の外周面とによって形成された空間内に収容されている。したがって、本実施形態では、凹溝25が、第1の実施形態の逃げ空間と同様の機能を有している。これに伴い、軸体2が軸方向に沿って往復移動したときのシール材3の変形動作は、図5(a)および図5(b)に示すように、第1の実施形態とは異なっているが、得られる効果は、以下のように第1の実施形態と同様である。
【0035】
軸体2が流体の方向(上部ハウジング11の方向)へ移動すると、シール材3は、軸体2の動きに連動して、上部ハウジング11の方向へ変形しようとする。このとき、シール材3は、第1の実施形態と同様に、弾性変形可能な中空の部材であるため、軸体2との接触を維持しながら、すなわち軸体2との間で摺動を生じることなく、凹溝25内で回転移動するように変形することができる(図5(a)参照)。同様に、軸体2が流体から離れる方向(下部ハウジング12の方向)へ移動する際には、シール材3は、軸体2の動きに連動して、軸体2との間で摺動を生じさせないように、凹溝25内で変形して回転移動することができる。
【0036】
また、本実施形態でも、下部ハウジング22を上部ハウジング21から取り外すことで、シール材3を容易に取り外すことができる。
【0037】
なお、本実施形態のシール構造に用いられるシール材の構成は、第1の実施形態と同様に、さまざまに変更可能であり、例えば、本実施形態のシール材として、図3に示すようなシール材を用いることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 シール構造
2 軸体
3,3a,3b,3c シール材
10,20 ハウジング
11,21 上部ハウジング
12,22 下部ハウジング
14,24 貫通孔
15 溝
16 隙間
25 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のハウジングと、該第1のハウジングに取り外し可能に固定された第2のハウジングとから構成され、前記第1のハウジングと前記第2のハウジングとを貫通する貫通孔が形成されたハウジングと、
前記貫通孔に挿通された軸体と、
前記軸体の周りに装着された弾性変形可能な環状のシール材であって、前記軸体の外周面と、前記貫通孔の、前記第1のハウジングでの内周面部分および前記第2のハウジングでの内周面部分とに圧接されて保持され、弾性変形した状態で前記ハウジング内に収容されたシール材と、を有し、
前記軸体と前記ハウジングとの間に、前記軸体が軸方向に沿って往復移動することに伴う前記シール材の弾性変形を許容する逃げ空間が形成され、前記シール材は、前記軸体の前記往復移動時に前記軸体との接触面が該軸体と共に移動するように変形可能に構成されている、シール構造。
【請求項2】
前記貫通孔の前記内周面には、前記第1のハウジングと前記第2のハウジングとの境界に沿って溝が形成され、
前記シール材が、前記軸体の外周面と、前記溝の、前記第1のハウジングでの壁面部分および前記第2のハウジングでの壁面部分とに圧接されて保持され、
前記軸体の外周面と前記貫通孔の前記内周面との間に、前記逃げ空間として機能する隙間が形成されている、請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記溝は、断面がV字状に形成され、前記溝の一方の側面は、前記第1のハウジングの前記境界部分に形成されたテーパ面から構成され、前記溝の他方の側面は、前記第2のハウジングの前記境界部分に形成されたテーパ面から構成され、
前記シール材は、前記軸体の外周面と前記溝の前記両側面とに圧接されて保持されている、請求項2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記貫通孔の内周面には、前記第1のハウジングと前記第2のハウジングとの境界に沿って、前記逃げ空間として機能する凹溝が形成され、
前記シール材が、前記軸体の外周面と、前記凹溝の、前記第1のハウジングでの底面部分および前記第2のハウジングでの底面部分とに圧接されて保持され、前記凹溝内に収容されている、請求項1に記載のシール構造。
【請求項5】
前記シール材が中空の環状部材である、請求項1から4のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項6】
前記シール部材が、弾性率が低い材料で形成された中実の環状部材である、請求項1から4のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項7】
前記シール材は、軸方向に沿った断面が円形状である、請求項5または6に記載のシール構造。
【請求項8】
前記シール材は、軸方向に沿った断面が該軸方向に延びる長円形状または半月形状である、請求項5または6に記載のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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