説明

シール機構とそれを備えた装置

【課題】
回転部あるいは封止部を磁性流体を用いてシールする場合、回転部や封止部のシール近傍を着磁させておくことが必須であった。
しかしながら、回転部や封止部のシール近傍を選択的且つ局所的に着磁させには、高度な加工技術を必要とした。
一方、このように局所的に着磁しておかないと、軸受装置が高速回転すると磁性流体が飛散したり、静止した封止部でも、経時変化して磁性流体よりなるオイルやグリースがにじみ出てしまう欠点があった。また、ギャップがシールリングの弾力性、あるいは柔軟性でカバーできる以上に大きくなると、構造的に開口部ができ、封止が破れてしまう欠点があった。

【解決手段】
磁性材料よりなるリングと非磁性材料よりなるリングが合体されていることを特徴とする磁性流体用シールリングあるいは、磁性材料よりなる微粒子を含む非磁性材料がリング状に成形されていることを特徴とする磁性流体用シールリングを製造提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性流体を用いたシール機構とそれを用いた装置に関するものである。さらに詳しくは、封止部に用いる気密シール機構、水密シール機構、あるいは回転部における軸受けのオイルやグリースの漏れを低減するシール機構に関するものである。また、それらを組み込んだ装置に関するものである。
【0002】
ここでいうそれらを組み込んだ装置には、回転部を有する軸受けを組込んだ機械装置や、真空蒸着用の減圧室等を有する真空装置等の気密装置、耐水性が要求される精密機械(水密機構が必要な機械)装置、あるいは電子機器が含まれる。
【背景技術】
【0003】
回転部あるいは封止部に磁性流体を用いることは、一般によく知られている。
(例えば、特許文献1〜6参照)がある。
【特許文献1】特開2000-018248号公報
【特許文献2】特開2000-076779号公報
【特許文献3】特開2003-269622号公報
【特許文献4】特開2003-269623号公報
【特許文献5】特開平05-248547号公報
【特許文献6】特開平08-093923号公報
【特許文献7】特開平11-037304号公報
【特許文献8】特開2001-352729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、回転部あるいは封止部のシールに磁性流体を用いる場合、回転部や封止部に磁性流体を直接用いるだけでは磁性流体の効果を効率よく発揮できないため、回転部や封止部のシール近傍を局所的に着磁させておくことが必須であった。
【0005】
一方、他の方法として、シール部の隙間を極小化するため、オーリングやシールリング等各種柔軟性あるいは弾力性を有するリングを挟んで締め付ける方法がとられている。
【0006】
しかしながら、磁性流体を用いる場合には、回転部や封止部のシール近傍を選択的且つ局所的に着磁させるため、高度な局所着磁加工技術や追加着磁部品を必要とした。
このように局所的に着磁しておかないと、軸受装置が高速回転すると磁性流体が飛散したり、静止した封止部でも、経時変化して磁性流体がにじみ出てしまう課題があった。
【0007】
一方、オーリングやシールリング等各種柔軟性あるいは弾力性を有するリングを挟んで締め付ける方法では、使用中にシール部で機械ひずみが生じ、且つギャップがシールリングの弾力性、あるいは柔軟性でカバーされうる以上に大きくなると、構造的な開口部(メカニカルギャップ)ができ、封止が破れてしまう課題があった。
【0008】
本発明は、回転部や封止部のシールを行う際、オーリングやシールリング等の各種リングそのものをあらかじめ着磁させておき、オイルやグリースとして磁性流体オイルや磁性流体グリースを組み合わせることにより、従来のような回転部や封止部のシール近傍を選択的且つ局所的に着磁させたり、ポールピースを設置しなくとも、オイルやグリースの漏れを低減でき、さらにメカニカルギャップがシールリングの弾力性、あるいは柔軟性カバーされうる以上に大きくなっても、シールリングを被う磁性流体により自己修復的に封止が保たれる各種機械装置や、気密装置、精密機械装置、あるいは電子機器等を低コストで製造提供することを目的とする。
【0009】
なお、ここでいう各種機械装置や、気密装置、精密機械装置、あるいは電子機器には、回転部を有する軸受けを組込んだハードディスク装置等の機械装置や、真空蒸着用の減圧室等を有する真空装置等の気密装置、あるいは耐水性が要求される携帯用の時計等の精密機械(水密機構が必要な機械)装置、携帯用のパソコンや携帯電話等の電子機器がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として提供される第1の発明は、磁性材料を含むリングとして、磁性材料よりなるリングと磁性流体を組み合わせたことを特徴とするシール機構である。
【0011】
第2の発明は、磁性材料よりなる微粒子と柔軟性あるいは弾力性を有する非磁性材料を混合して成形されているリングと磁性流体を組み合わせたことを特徴とするシール機構である。
【0012】
第3の発明は、第1および2の発明において、柔軟性あるいは弾力性を有する非磁性材料が、銅や鉛、スズ、インジウム、あるいは、合成ゴムや天然ゴム、合成ゴムと天然ゴムの混合物であることを特徴とするシール機構である。
【0013】
第4の発明は、第1乃至3の発明において、磁性材料が硬磁性材料であることを特徴とするシール機構である。
【0014】
第5の発明は、第1乃至4の発明のシール機構を気密シール機構、水密シール機構、あるいは軸受けとして備えた装置である。
【0015】
さらに詳しくは、本発明は、少なくとも磁性材料を含むリングと磁性流体を組み合わせたことを特徴とするシール機構を提供する。
ここで、磁性材料を含むリングとして、磁性材料よりなるリングを柔軟性あるいは弾力性を有する非磁性材料で被ったリングを用いると、メカニカルギャップを小さくする上で都合がよい。
また、磁性材料を含むリングとして、磁性材料よりなる微粒子と柔軟性あるいは弾力性を有する非磁性材料を混合して成形されているリングを用いると、リング全体が柔軟性あるいは弾力性を有することになり、加工余裕精度をゆるくする上で都合がよい。
【0016】
さらに、柔軟性を有する非磁性材料が、銅や鉛、スズ、インジウム、あるいは、弾力性を有する非磁性材料が、合成ゴムや天然ゴム、合成ゴムと天然ゴムの混合物であると、リング自体の柔軟性あるいは弾力性を向上する上で都合がよい。
さらにまた、磁性材料として硬磁性材料を用いると、経時変化が少なく長期間使用する上で都合がよい。
【0017】
なお、前述シール機構は、各種機械装置や密封装置、電子部品等に利用でき、回転部を有する軸受けを組込んだハードディスク装置等の機械装置や、真空蒸着用の減圧室等を有する真空装置等の気密装置、あるいは耐水性が要求される携帯用の時計等の精密機械(水密機構が必要な機械)装置、携帯用のパソコンや携帯電話等の電子機器を提供する上で都合がよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したとおり、本発明のシール機構によれば、回転部や封止部のシールを行う際、柔軟性あるいは弾力性を有するオーリングやシールリング等の各種リングそのものをあらかじめ着磁させておくことにより、回転部や封止部のシール近傍を選択的且つ局所的に着磁させておかなくとも、オイルやグリースの漏れを低減できる磁性流体軸受けや磁性流体シールを有する各種機械装置や密封装置、電子機器等を低コストで製造提供できる効果がある。また、磁性流体の使用量を削減し、メンテナンス期間を延長できる効果もある。さらにまた、メカニカルギャップ(機構的なギャップ)がシールリングの弾力性、あるいは柔軟性でカバーできる以上に大きくなっても、磁性流体により自己修復的に封止が保てる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、少なくとも磁性材料よりなるリングを柔軟性あるいは弾力性を有する非磁性材料で被ったリング、あるいは磁性材料よりなる微粒子と柔軟性あるいは弾力性を有する非磁性材料を混合して成形されているリングと磁性流体を組み合わせたシール機構を提供する。
また、気密シール機構、水密シール機構、あるいは軸受けとして前記シール機構を備えた装置を提供する。
【0020】
したがって、本発明によれば、、柔軟性あるいは弾力性を有するオーリングやシールリング等の各種リングそのものをあらかじめ着磁させておくことにより、回転部や封止部のシール近傍を選択的且つ局所的に着磁させておかなくとも、磁性流体よりなるオイルやグリースの漏れを低減できる作用がある。また、それにより磁性流体軸受けや磁性流体シールを有する各種高性能機械装置や密封装置、電子部品等を低コストで製造提供できる作用がある。さらにまた、万一、シール部にメカニカルギャップが生じ、そのギャップがシールリングの弾力性、あるいは柔軟性でカバーできる以上に大きくなっても、磁性流体により自己修復的に封止が保てる作用がある。さらにまた、メンテナンス期間を延長できる作用もある。
【0021】
以下、本願発明の詳細を実施例を用いて説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0022】
あらかじめ、図1(a)に示すように、保磁力が大きな硬磁性材料であるアルニコ合金を用いて、シールリングの軸となるリング1を作成した。ここで、加工方法は、通常の機械加工でも良いし、プレス加工でも良かった。
次に、軸となるリング1を金型内にセットして、非磁性で且つゴム弾性を有するニトリルゴム2を加熱注入して軸となるリング1を覆うようにリング状に加硫成形加工した。
その後、一体になったリングを着磁させて磁性流体用シールリングを製造した。(図1(b))
このリングを用い、図2の(a)に示すように、軸受けを作成し、シール部に磁性流体オイルを注して磁性流体軸受けを完成した。
この場合、軸4および軸受け5の接触部分を選択的に着磁しておかなくとも、磁性流体オイル6は、着磁されたシールリングで強力に保持されるので、20、000rpmの回転でも磁性流体オイルがもれることはなかった。
【0023】
なお、ここで、軸となるリングの材料は、軸の太さ、回転数に応じてフェライトやマグネタイト、サマリウムコバルト合金、ネオジム鉄ボロン合金、サマリウム鉄窒素合金等から選ぶことができた。
また、ニトリルゴムの代わりに、クロロプレンやネオプレン、フッ素ゴム等の合成ゴムや天然ゴム、あるいは、それらを混合したゴムが使用できた。
なお、ここで、弾力性を有する物質には、合成ゴムや天然ゴム、合成ゴムと天然ゴムの混合が使用できたが、ゴム弾性を持つ物に限定されることはなく、柔軟性あるいは可塑性の銅や鉛、スズ、インジウム等の金属も利用できた。
【0024】
なお、このシール構造では、図2(b)に示すように、万一、シール部にメカニカルギャップ7が生じ、そのギャップがシールリングの弾力性あるいは柔軟性、あるいは柔軟性でカバーできる以上に大きくなっても、磁性流体6が流れ込み、ギャップ7が自己修復され封止が保たれるので、気密機能や水密機能が損なわれることはない。
【実施例2】
【0025】
図3に示すように、クロロプレンゴム8とフェライト微粒子9を混練し、加熱しながら金型に注入してリングを作成した。
その後、クロロプレンゴムとフェライト微粒子が一体になったリングを着磁させて磁性流体用シールリング10を製造した。
そこで、テスト用の真空チャンバーを試作し、容器と蓋の封止部の真空シール用として、磁性流体グリースと一緒に挟み締め付けて用いてみたが、封止部近傍を選択的に着磁しておかなくとも、磁性流体は、着磁されたシールリングで強力に保持され、10―6Torrに真空引きしても、磁性流体グリースがもれることはなかった。
【0026】
なお、ここで、硬磁性微粒子には、フェライト以外のマグネタイトやサマリウムコバルト合金、ネオジム鉄ボロン合金、サマリウム鉄窒素合金等の粉末から選ぶことができた。
また、ニトリルゴムの代わりに、クロロプレンやネオプレン、フッ素ゴム等の合成ゴムや天然ゴム、あるいは、それらを混合したゴムが使用できた。
さらに、超高真空を必要とする真空チャンバーの場合には、ゴム弾性を有する物質の代わりに、柔軟性で且つ可塑性の銅や鉛、スズ、インジウム等も利用できた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1におけるシールリングの作成行程を説明するための概念図であり、(a)は、加工されたアルニコ合金を用いたシールリングの軸を示し、(b)は、硬磁性材料よりなるシールリングの軸を被うように弾性を有するゴムが合体成形されており、且つ着磁された状態のシールリングを示す。
【図2】(a)は、実際に着磁したシールリングを軸と軸受けの間に装着し磁性流体をシール部に塗った状態の断面概念図、(b)は、オーリングが偏芯して、リング表面の弾力性でカバーできない以上にメカニカルギャップが生じた場合に、磁性流体で気密が保たれている状態の断面概念図を示す。
【図3】クロロプレンゴムとフェライト微粒子が一体で成形着磁された磁性流体用シールリングの概念図を示す。
【符号の説明】
【0028】
1 軸となるリング
2 弾性ニトリルゴム
磁性流体用シールリング
4 軸
5 軸受け
6 磁性流体
7 メカニカルギャップ
8 クロロプレンゴム
9 フェライト微粒子
10 磁性流体用シールリング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料よりなるリングを柔軟性あるいは弾力性を有する非磁性材料で被ったリングと磁性流体を組み合わせたことを特徴とするシール機構。
【請求項2】
磁性材料よりなる微粒子と柔軟性あるいは弾力性を有する非磁性材料を混合して成形されているリングと磁性流体を組み合わせたことを特徴とするシール機構。
【請求項3】
柔軟性あるいは弾力性を有する非磁性材料が、銅や鉛、スズ、インジウム、あるいは、合成ゴムや天然ゴム、合成ゴムと天然ゴムの混合物であることを特徴とする請求項1および2のいずれか1項に記載のシール機構。
【請求項4】
磁性材料が硬磁性材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシール機構。
【請求項5】
気密シール機構、水密シール機構、あるいは軸受けとして請求項1〜4のいずれか1項に記載のシール機構を備えた装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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