説明

シール機構

【課題】板バネのシール部材への取り付けを容易にし、バネ特性を安定にさせることができるシール機構を提供する。
【解決手段】シール機構10において、板バネ40は、湾曲形状に形成されたバネ本体部44と、バネ本体部44を屈曲して形成される一対の被掛止部とを有する。シール部材20は、シール面22と、シール面22の裏側に形成され、被掛止部を掛止する一対の突部とを有する。板バネ40の両端は、自由端である。シール部材20は、シール面22の裏側に立設した立設部を有し、突部は、立設部の端面から突出するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板バネによりシール面を有するシール部材を付勢するシール機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンには、吸気バルブおよび排気バルブの開閉タイミングを運転状況に応じて変更するためのバルブタイミング調整装置が備えられる。バルブタイミング調整装置は、エンジンのクランクシャフトと、吸気バルブおよび排気バルブを開閉駆動させるカムシャフトとの間の動力伝達系に設けられ、クランクシャフトに対するカムシャフトの相対的な回転位置を変更することで、吸気バルブおよび排気バルブの開閉のタイミングを調整する。
【0003】
バルブタイミング調整装置は、カムシャフトに連結されてカムシャフトと一体的に回転するベーンと、このベーンを収容するとともにクランクシャフトの回転により回転する円筒形状のハウジングとを備える。ベーンとハウジングとは、所定の回転角度範囲で相対的に回転するように構成される。
【0004】
ベーンの外周面とハウジングの内周面との間には複数の油圧室が形成され、油圧室に油圧が供給されるとベーンとハウジングとが相対回転する。この複数の油圧室は、ベーンの円筒部の外周面から径方向外向きに突出する複数の外向き突出部と、ハウジングの内周面からハウジングの径方向内きに突出する複数の内向き突出部とによって交互に仕切られて形成される。
【0005】
バルブタイミング調整装置において、油圧室に供給される油圧が制御されることで、ベーンとハウジングとの相対的な回転位置が制御される。これにより、クランクシャフトに対するカムシャフトの相対回転位相が変更され、バルブタイミングが調整される。
【0006】
こうしたバルブタイミング調整装置においては、ベーンとハウジングとの間に形成される油圧室の油漏れを防ぐために、間仕切り用のシール機構が設けられる。このシール機構は、ベーンの外向き突出部および円筒部に形成された窪みに配置され、ハウジングの内面に摺動可能に当接する。
【0007】
特許文献1には、シール部材と、板バネとを備えるシール手段がバルブタイミング調整装置に設けられ、シール部材に板バネが取り付けられることが開示される。シール部材の両端に設けられた突起ガイドを超音波加工により変形してストッパ部を形成し、ストッパ部とシール裏面で板バネの両端を挟むようにして板バネがシール部材に取り付けられている。この板バネは、円弧状の中央部と、中央部の両端に形成された互いに平行な脚部を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−180806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の技術では、ストッパ部に超音波加工を施す必要があるため板バネのシール部材への取り付け工数がかかる。また、樹脂材料に超音波加工を施してあるためストッパ部の形状のばらつきが大きい。特許文献1に記載によると、その板バネの中央部を押したときに板バネの両端の脚部が反り上がり、両端がストッパ部に接触する可能性がある。ストッパ部の形状によって板バネの両端がストッパ部に接触するとバネ特性がばらつく。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、板バネのシール部材への取り付けを容易にし、バネ特性を安定にさせることができるシール機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のシール機構は、湾曲形状に形成されたバネ本体部と、バネ本体部を屈曲して形成される一対の被掛止部とを有する板バネと、シール面と、シール面の裏側に形成され、被掛止部を掛止する一対の突部とを有するシール部材と、を備える。
【0012】
この態様によると、シール部材の突部に板バネの被掛止部を掛けることで、板バネをシール部材に容易に取り付けることができる。また、板バネを固着せず、突部に掛けるように取り付けることで、板バネに力が付与されても突部が板バネの動きを妨げず、シール機構における板バネのバネ特性を安定させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、板バネのシール部材への取り付けを容易にし、バネ特性を安定にさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)から(c)は実施形態に係るシール機構を説明する図である。
【図2】実施形態に係る板バネの斜視図である。
【図3】実施形態に係るシール部材の斜視図である。
【図4】実施形態に係るシール部材の一部の拡大図である。
【図5】(a)から(c)は実施形態に係るシール機構における板バネの取付を説明する図である。
【図6】(a)から(c)は実施形態に係るシール機構の作用を説明する図である。
【図7】実施形態に係る板バネの変形例の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、実施形態に係るシール機構10を説明する図である。図1(a)はシール機構10の上面図を示し、図1(b)はシール機構10の側面図を示し、図1(c)はシール機構10の端面の図を示す。なお、以下の図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0016】
シール機構10は、たとえば、内燃機関の吸気弁および排気弁のいずれか一方を開閉するタイミングを調整するバルブタイミング調整装置に設けられる。バルブタイミング調整装置はベーンとハウジングに仕切られた油圧室を有し、シール機構10はその油圧室の油圧漏れを抑えるようシールする。油圧室は周方向に複数配置され、シール機構10は油圧室のそれぞれに2つずつ設けられる。
【0017】
シール機構10は、シール部材20を付勢する板バネ40と、その付勢によりハウジングの壁面に当接するシール面22を有するシール部材20と、を備える。まず板バネ40について図2を参照しつつ説明する。
【0018】
図2は、実施形態に係る板バネ40の斜視図である。板バネ40は、金属材料により形成され、湾曲形状に形成されたバネ本体部44と、板バネ40を屈曲して形成される一対の第1被掛止部46aおよび第2被掛止部46b(これらを区別しない場合は「被掛止部46」という)と、第1被掛止部46aおよび第2被掛止部46bから反り返る第1反し部48aおよび第2反し部48b(これらを区別しない場合は「反し部48」という)とを有する。
【0019】
板バネ40の両端には、両端から長手方向に沿って切り欠きが形成されている。この切欠部42は、被掛止部46および反し部48のそれぞれを二股に分離し、さらにバネ本体部44の一部を二股に分離する。
【0020】
被掛止部46は、バネ本体部44の湾曲を屈曲部50でさらに屈曲させて形成され、滑らかな円弧状に形成される。バネ本体部44は屈曲部50の間の湾曲部分である。被掛止部46と反し部48の連結部分も滑らかな曲面に形成される。反し部48は拡開方向に屈曲している。これによりシール部材20への取付が容易になる。
【0021】
図3は、実施形態に係るシール部材20の斜視図である。また、図4は、実施形態に係るシール部材20の一部の拡大図である。シール部材20は、樹脂材料により形成され、シール面22と、シール面22の裏側に形成され、シール面22の裏側に立設した第1立設部32aおよび第2立設部32b(これらを区別しない場合「立設部32」という)と、板バネ40の被掛止部46を掛止する第1突部28aおよび第2突部28b(これらを区別しない場合「突部28」という)とを有する。掛止は、被掛止部46を突部28に引っ掛けた状態である。そのため、板バネ40からシール部材20に向かう方向に板バネ40へ外力が加わると、板バネ40の両端が広がって掛止が外れるが、外力が無くなると、板バネ40の両端がもとの位置に戻って、掛止状態に復帰する。
【0022】
突部28は、立設部32の長手側の端面から長手方向に突出するように形成され、表面が円弧状に形成されている。シール部材20は、シール面22の裏側の両端に形成された第1壁部24aおよび第2壁部24b(これらを区別しない場合は「壁部24」という)と、壁部24のそれぞれから張り出すように形成され、切欠部42に挿入される第1張出部26aおよび第2張出部26b(これらを区別しない場合は「張出部26」という)を有する。シール機構10は側面方向から力を受けるため、図1(a)に示すように張出部26を切欠部42に挿入することで、シール部材20と板バネ40との側面方向の位置ずれを防ぐことができる。壁部24の外面および側面36は突部が設けられておらず、平らに形成されている。
【0023】
張出部26におけるシール面22とは反対側の角部38は滑らかな曲面に形成されてよい。また、張出部26のシール面22とは反対側の面には、第1アール面34aおよび第2アール面34b(これらを区別しない場合「アール面34」という)が形成される。
【0024】
壁部24と立設部32の間には第1端側空間30aおよび第2端側空間30b(これらを区別しない場合「端側空間30」という)が形成されている。図1(b)に示すように、端側空間30には板バネ40の両端、すなわち反し部48が収まる。
【0025】
図5は、実施形態に係るシール機構10における板バネ40の取付を説明する図である。図5(a)は板バネ40をシール部材20に取り付ける前の状態を示し、図5(b)は取り付ける途中の状態を示し、図5(c)は取り付けた状態を示す。
【0026】
図5(a)に示すように、板バネ40はシール面22の裏側から反し部48が突部28の位置に合わせられ、取り付け準備がなされている。第1反し部48aの先端と第2反し部48bの先端の間隔は、第1突部28aの突端と第2突部28bの突端の間隔より大きい。さらに反し部48は拡開するように形成されているため、取り付けが容易となる。
【0027】
被掛止部46の両端を形成する屈曲部50とくびれ部52とを結ぶ線を図5(a)の点線60に示す。くびれ部52は被掛止部46の反し部48との連結部分である。図5(a)に示すように被掛止部46は全体として拡開方向に傾いて形成される。すなわち、一対のくびれ部52の間隔は、一対の屈曲部50の間隔より大きく形成されている。これにより、板バネ40の取り付けが容易となる。
【0028】
なお、図1(a)に示すように、切欠部42と張出部26の位置も合わせる必要がある。ここで、張出部26は、シール面22に垂直な方向に突部28より突き出ている。したがって取り付けの際に、まず切欠部42に張出部26が挿入され、位置決めがなされる。これにより、張出部26が取り付け時のガイドとして機能する。また、張出部26の角部38は、曲面に形成されているため、反し部48を張出部26に挿入しやすくなる。また張出部26にはアール面34が形成されているため、アール面34が段差であった場合と比べて反し部48の先端が引っかかることなく、取り付けをズムーズに行うことができる。
【0029】
図5(b)に示す取り付けの途中において、くびれ部52が拡開している。一対のくびれ部52の間隔は、一対の突部28の突端の間隔より小さいため、取り付け時に板バネ40のバネ本体部44のたわみによって拡開して、被掛止部46に突部28を受け入れようとする。
【0030】
そして図5(c)に示すように、被掛止部46に突部28が受け入れられ、被掛止部46が掛止される。このように板バネ40のたわみにより板バネ40の両端を拡開させて突部28に掛止させることで容易に取り付けることができる。また被掛止部46および突部28がともに円弧状に形成されているため、スムーズに取り付けることができる。
【0031】
図6は、実施形態に係るシール機構の作用を説明する図である。図6(a)は板バネ40に力が付与される前の状態を示し、図6(b)は板バネ40に力が付与された状態を示し、図6(c)は板バネ40に図6(b)より大きい力が付与された状態を示す。この力はシール面22を所定の壁面に当接させる方向の力である。
【0032】
図6(a)に示すように、板バネ40の両端、すなわち被掛止部46および反し部48は端側空間30に余裕をもって収められている。図6(b)および(c)において、板バネ40に力が付与されると、板バネ40の両端は拡開する。このとき板バネ40の両端は、壁部24に接触しておらず、板バネ40が作用している場合にも板バネ40の両端は自由端である。これにより、板バネ40が発生する付勢力をほぼリニアな特性にすることができる。また、被掛止部46および突部28が円弧状に形成されているため、板バネ40に外力が付与されて、板バネ40とシール部材20の接触点がずれても板バネ40とシール部材20はなめらかに接触する。これにより、バネ特性が大きく変化することを抑えられる。
【0033】
ここでバルブタイミング調整装置のベーンとハウジングには組み付けを容易にするため、微少な隙間がある。そのためベーンがハウジングに対して相対回転している際、ベーンの位置が回転軸から微少にずれうる。シール機構10はベーンとハウジングの間に周方向に複数位置しており、どのシール機構10のバネ特性も同じであれば板バネ40がベーンの回転軸からのずれを戻すように働くため好ましい。とくにシール機構10において板バネ40が発生する付勢力が変位(ベーンの位置ずれ)に対してリニアな特性であることが好ましい。実施形態のシール機構10では板バネ40の両端を自由端にすることで、シール機構10のバネ特性を安定させることができる。
【0034】
図7は、実施形態に係る板バネ40の変形例の上面図である。変形例の板バネ40には、板幅をバネ本体部44より狭くした第1凹部54aおよび第2凹部54b(これらを区別しない場合「凹部54」という)が形成されている。凹部54では、板幅が狭いため撓み量は大きくなる。凹部54を設けることで板バネ40の寸法における製造上のばらつきに対して、板バネ40の荷重特性のばらつきを小さくすることができる。凹部54は切欠部42のそれぞれより中心側であるが、切欠部42の近傍にそれぞれ設けられる。
【0035】
本発明は上述の各実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施例も本発明の範囲に含まれうる。
【0036】
実施形態においては突部28は円弧状である例を示したが、板バネ40の両端のくびれ部52を掛止できる形状であればよく、たとえば錐状であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
10 シール機構、 20 シール部材、 22 シール面、 24a,24b 第1および第2壁部、 26a,26b 第1および第2張出部、 28a,28b 第1および第2突部、 32a,32b 第1および第2立設部、 40 板バネ、 42a,42b 第1および第2切欠部、 44 バネ本体部、 46a,46b 第1および第2被掛止部、 48a,48b 第1および第2反し部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲形状に形成されたバネ本体部と、前記バネ本体部を屈曲して形成される一対の被掛止部とを有する板バネと、
シール面と、前記シール面の裏側に形成され、前記被掛止部を掛止する一対の突部とを有するシール部材と、を備えることを特徴とするシール機構。
【請求項2】
前記被掛止部は円弧状に形成され、
前記突部は、前記被掛止部に応じて表面が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシール機構。
【請求項3】
前記板バネの両端は、自由端であることを特徴とする請求項1または2に記載のシール機構。
【請求項4】
前記シール部材は、前記シール面の裏側に立設した立設部を有し、
前記突部は、前記立設部の端面から突出するように形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシール機構。
【請求項5】
前記板バネの両端には、前記被掛止部から反り返る反し部が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシール機構。
【請求項6】
前記板バネは、両端を二股に分離する切欠部を有し、
前記シール部材は、前記シール面の裏側の両端に形成された壁部と、前記壁部のそれぞれから張り出すように形成され、前記切欠部が挿入される一対の張出部とを有し、
前記張出部は、前記シール面に垂直な方向に前記突部より突き出ることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のシール機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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