説明

シール装置

【課題】 シールリングの長寿命化を図ると共に、置かれた環境やシールリングの磨耗具合に応じて、接触具合を能動的に適宜調整でき、且つ保守面においても便宜な構造を備えたシール装置の提供。
【解決手段】 シャフトAの表面を摺動し密封接触するシールリング1と、シールリング1に接する中空隔壁2と、シールリング1を保持し中空隔壁2を支持するハウジングBを備え、シールリング1は弾性素材からなり、シャフトAの表面に全周にわたって摺接するリップ部1aと、リップ部1aを摺接位置に支持する弾性アーム部1bと、弾性アーム部とハウジングを連結するキー部を備え、中空隔壁2の膨張と収縮によりシャフトAに対する緊迫力を調整する事を特徴とするシール装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトに摺接し流体流通の遮断状態を確保するシールリングを少なくとも一個含むシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シール装置は、船舶の船尾管など、回転するシャフトと軸受けとの隙間を通じて船体等の装置の内部へ流体が浸入し機能上の不都合が生じない様に備えられるものであり、ゴムやエラストマー等の弾性体からなるシールリングを一重又は複数重に備えるものである。
【0003】
シールリングは、シャフトの表面に対して摺動自在に密封接触(以下シールと記す)し、シールリング自身の弾性力やスプリング等、及びシールリングの正背面の流体圧力差等によりシャフトへの緊迫力を保持するものである。
シールリングにシャフトへの緊迫力を与える手法としては、
第一に、リップ部の弾性変形による手法(例えば下記特許文献1参照)、
第二に、エアバネ式シールによる締代の値調整を行う手法(例えば下記特許文献2参照)
第三に、シールリップ(シールリング)に装着したチューブ状の緊迫力付与手段による手法(例えば下記特許文献3参照)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭50−15356号公報
【特許文献2】実開平5−36166号公報
【特許文献3】実開平2−76267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、上記第一の手法によれば、構造が大掛かりとなり、緊迫力の調整難易度も高いという問題がある。
上記第二の手法によれば、リップ部の消耗に対して流体室を含む全構成部品を交換しなければならないという問題がある他、緊迫力が、周囲の温度環境から影響を受けるという問題がある。
また、上記第三の手法にあっては、いかにチューブ内の流体圧を変化させようとも、チューブの弾性や直径が流体圧の変化に応じて不安定であるが為に、正確な緊迫力の調整が困難であるという問題があった。
【0006】
加えて、上記手法にいずれにあっても、長期間使用したシールリング自身の弾性力の低下や摺動部の磨耗と共に、弾性体の劣化等に起因するアクチュエータ部分の機能劣化も進行し、緊迫力を確保するための接触状態を、素材面及び機械面の双方の面から維持できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、シールリングの長寿命化を図ると共に、置かれた環境やシールリングの磨耗具合に応じて、接触具合を能動的に適宜調整でき、且つ保守面においても便宜な構造を備えたシール装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明によるシール装置は、シャフトの表面を摺動し密封接触するシールリングと、シールリングに接する中空隔壁と、シールリングを保持し中空隔壁を支持するハウジングを備えたものである。
【0009】
シールリングは弾性素材からなり、シャフトの表面に全周にわたって摺接するリップ部と、リップ部を摺接位置に支持する弾性アーム部と、弾性アーム部とハウジングを連結するキー部を備え、中空隔壁の膨張と収縮によりシャフトに対する緊迫を調整する事を特徴とする。尚、シールリング及び中空隔壁は、単一部材でリング状に構成されていてもよいし、リング状を周方向へ分割した複数部材が組み合って構成されていても良い。
ここで、弾性アーム部とは、所謂板ばねの様に、その突出方向とは略直角の方向へ撓ることによって、その一部を撓り方向へ揺動させ得るひだ状のものを指す。
【0010】
中空隔壁は、リップ部又は弾性アーム部の外面に接して設けることによって中空隔壁の内部への加圧を以ってシールリングのリップ部をシャフトへ確実に押し付けることができ、逆に、弾性アームの内面に接して設けることによって中空隔壁の内部への加圧を以ってシールリングのリップ部をシャフトから確実に持ち上げることができる。更に、外面及び内面の双方に設けることによって中空隔壁の内部への加圧を以って、シールリングのリップ部のシャフトに対する押し付けと持ち上げの双方を行い、また、それによってリップ部とシャフトとの接触態様を調整することができる。
【0011】
中空隔壁は、シールリングに接する態様でハウジングに保持(接着し又は組み込む等)しても良いし、ハウジングの内面に支持される態様でシールリングと一体化(一体成型し又は接着する等)しても良い。また、その形態は、シールリングのリップ部をシャフトへ完全に押し付けることが出来る形態であれば良いが、縦断面形状が長方形状であるリング状のチューブであって、半径方向(以下内外と記す)に面した両端面の幅(図8におけるt1(端面幅))と比較して内外の端面間(図8におけるt2)が十分に狭くなるように設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるシール装置は、シャフトの表面を摺動し密封接触するシールリングと、シールリングに接する中空隔壁と、シールリングを保持し中空隔壁を支持するハウジングを備えた構成を採ることによって、中空隔壁の内部を流通する流体の加圧状態を変化させることによって、中空隔壁が膨張又は収縮し、シールリングのリップ部を内外へ変化させて緊迫力を調整することができる。その結果、環境やシールリングの磨耗具合に応じて、接触具合を能動的に適宜調整できると共に、圧力変動による密封流体の流出、又は外部流体の浸入も防止できる。
【0013】
中空隔壁は、弾性アーム部の外面又は内面に接して設けることによって、シールリングのリップ部をシャフトに押し付けることや、シールリングのリップ部をシャフトから持ち上げることができる他、リップ部とシャフトとの接触態様を調整することができる。
また、中空隔壁は、縦断面形状が長方形状であるリング状のチューブとし、且つ内外の端面幅と比較して内外の端面間を狭く設定することによって、加圧による膨張が内外方向に強く促され、圧力の変動に対する内外寸法の変化の効率を高めることができる。
【0014】
以上の如く、本発明によるシール装置は、構造が簡素であり、その機能が環境から影響を受ける構造でもないことから、緊迫力の調整も容易且つ確実となる。また、中空隔壁の消耗に対して、アクチュエータとなる中空隔壁(部分)のみを交換すればよいので、長期間使用したシールリング自身の弾性力の低下や摺動部の磨耗に対し、中空隔壁の交換を以って補完し機能劣化を最小限に維持しつつ長期に亘る耐用が可能となるといった、保守面においても便宜なシール装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるシール装置の実施態様例を示す縦断面図である。
【図2】本発明によるシール装置の(A):第1の実施の形態及び(B):第2の実施態様例を示す要部縦断面図である。
【図3】本発明によるシール装置の第3の実施態様例を示す要部縦断面図である。
【図4】本発明によるシール装置の第4の実施態様例を示す要部縦断面図である。
【図5】本発明によるシール装置の(A):第5の実施の形態及び(B):第6の実施態様例を示す要部縦断面図である。
【図6】本発明によるシール装置の第7の実施態様例を示す要部縦断面図である。
【図7】本発明によるシール装置の他の実施態様例を示す要部縦断面図である。
【図8】本発明によるシール装置に用いる中空隔壁の設置例を示す要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明によるシール装置の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、船尾管のシール装置としての一例を示したものである。
船尾管のシール装置は、プロペラ軸a1を覆うライナー(シャフトA)a2の表面を摺動し密封接触するシールリング1と、シールリング1に接する中空隔壁2と、シールリング1を保持し中空隔壁2を支持するハウジングBから構成される(図2乃至図6参照)。
【0017】
シールリング1は、シャフトAの表面に全周にわたって摺接するリップ部1aと、リップ部1aを摺接位置に支持する弾性アーム部1bと、弾性アーム部1bとハウジングBを連結するキー部1cを一体的に形作る形状を、シャフトAを中心として360度回転させることによって形作られる軸対称体である。
【0018】
リップ部1aは、シャフトAに接する部分として先細りとなった内面を備えた形状を呈し、弾性アーム部1bは、リップ部1aの端面からシャフトAの長手方向(以下前後と記す)のいずれかの方向へ外向きに延出し、シールリング1の最も外側に位置するキー部1cへ至る様に円弧状、若しくはくの字状のカーブ、又はストレート状を描く。尚、当該弾性アーム部1bにあっては、必要に応じて、リップ部1aの側面から前後いずれかの方向へ外向きに延出し、シールリング1の最も外側に位置するキー部1cへ略直線的に至る構造を採っても良い。
【0019】
中空隔壁2は、縦断面形状が長方形状であるリング状のチューブである。中空隔壁2は、ゴム又はエラストマー等の密封性を持った弾性素材からなり、ハウジングBの内側に、シールリング1に直接的又は間接的に加圧できる態様で各々一個又は複数個ずつ定着する。
【0020】
中空隔壁2の膨張と収縮に伴い、弾性アーム部1bが形作る円弧状の曲率、若しくはくの字状の屈曲角度、又は直線状の伸縮が変化する形で当該弾性アーム部1bの変形が促され、当該弾性アーム部1bに支持されたリップ部1aが内外へ変化することを以って、当該リップ部1aのシャフトAに対する緊迫力を調整する。
【0021】
殊に、当該例における中空隔壁2は、内外に面した両端面の幅(端面幅)t1が相対的に広く、内外の端面間t2が相対的に狭く(内外方向の厚みを小さく)設定されていることにより(図8参照)、加圧による膨張が内外方向に強く促され、圧力の変動に対する内外寸法の変化の効率を高める措置が施されている。必要に応じ、中空隔壁2を構成するチューブにおける内外端面の肉厚を前後左右の側面の肉厚よりも薄く設定すれば、より顕著な変化が得られることとなる。
当該中空隔壁2の存在は、弾性アーム部1bの経年変化によるへたりを抑制又は制御する効果もある。
【0022】
ハウジングBは、シャフトAが挿通する軸孔b1を備え、当該軸孔b1に挿通されたシャフトAは、その周面が軸孔b1の内面に対して各位置について各々均一な間隙を形成する様に支持されている。尚、前記間隙は、所定数のシールリング1の組み込み、及び変化可能なシールリング1におけるリップ部1aの内外への可動範囲の確保に充分なものである必要がある。
【0023】
図2乃至図6に示す実施の形態は、キー部1cがハウジングBの凹部(凹溝等)b2に組み込まれ、リップ部1aの外面がハウジングBの内面に面し、リップ部1aの内面がシャフトAに面する様に、ハウジングBとシャフトAの間に介在するものである。
【0024】
図2(A)に示す第1の実施の形態にあっては、リップ部1aの外面とハウジングBの内面との間に中空隔壁2が挟まり、ハウジングB内に設けた流体回路b3を経て中空隔壁2の内圧を加減する形態のものである。この形態によれば、中空隔壁2の内部への加圧を以って、シールリング1のリップ部1aをシャフトAへ確実に押し付けることができる。
【0025】
当該例では、シールリング1のリップ部1aの外面に周設した緊迫溝1dにバネリングCを装着し、当該バネリングCの外面を圧する中空隔壁2を、ハウジングBの内面に周接したリング溝1eに組み入れる形を採っている。この様に、バネリングCの様な緊迫力付与手段を備えることによって、中空隔壁2による加圧、及び弾性アーム部1bの弾性との兼ね合いで前記緊迫力の調整を行うことができる。尚、緊迫力付与手段は、バネリングC以外でもよく、例えば、複数のバネリングを螺旋状に連結した形状を呈するスプリングでも良い。
【0026】
図2(B)に示す第2の実施の形態にあっては、シールリング1のキー部1cがハウジングBの凹部b2に組み込まれるのみならず、当該凹部b2の開口部寄りの内面が弾性アーム部1bから離隔した状態で覆う構造とし、弾性アーム部1bの内面との間に中空隔壁2が挟まり、ハウジングB内に設けた流体回路b3を経て中空隔壁2の内圧を加減する形態のものである。
【0027】
この形態によれば、中空隔壁2の内部への加圧を以って、シールリング1における弾性アーム部1bの内側を直接加圧し、リップ部1aをシャフトAから確実に持ち上げることができる。当該例では、弾性アーム1bの内面を圧する中空隔壁2を、凹部b2の内面に周接したリング溝1eに組み入れる形を採っているが、例えば、シールリング1における弾性アーム部1bの内面に一体的に装着しても良い。尚、当該例でも、シールリング1におけるリップ部1aの外面に周設した緊迫溝1dにバネリングCを装着する。
【0028】
尚、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態において、シールリング1のリップ部1aの外面にバネリングCを装着しない例が、図3及び図4に示す第3の実施の形態及び第4の実施の形態である。
第3の実施の形態にあっては、シールリング1のリップ部1aの外面を直接圧する中空隔壁2を、ハウジングBの内面に周設したリング溝1eに組み入れる形を採っている。
【0029】
図5(A)に示す第5の実施の形態にあっては、シールリング1のキー部1cがハウジングBの凹部b2に組み込まれるのみならず、当該凹部b2の開口部寄りの内面が弾性アーム部1bから離隔した状態で覆う構造を持つ。
中空隔壁2は、リップ部1aの外面とハウジングBの内面との間、及び凹部b2の開口部寄りの内面と弾性アーム部1bの内面との間に各々挟まり、ハウジングB内に設けた流体回路b3を経て両中空隔壁2,2の内圧を加減する形態のものである。
【0030】
この形態によれば、リップ部1aの外面に挟んだ中空隔壁2の内部への加圧を以って、シールリング1のリップ部1aをシャフトAへ確実に押し付けることができると共に、弾性アーム部1bの内面に挟んだ中空隔壁2の内部への加圧を以ってシールリング1のリップ部1aをシャフトAから確実に持ち上げることができる。更に、これを以って、リップ部1aの接触面とシャフトAの表面とがなす角度等の接触態様を調整することができる。
【0031】
尚、当該例では、シールリング1におけるリップ部1aの外面に周設した緊迫溝1dにバネリングCを装着し、当該バネリングCの外面を圧する中空隔壁2を、ハウジングBの内面に周接したリング溝1eに組み入れる形を採っているが、例えば、図6に示す第7の実施の形態の様に、シールリング1のリップ部1aの外面を直接圧する中空隔壁2を、ハウジングBの内壁に周接したリング溝1eに組み入れる形を採っても良い。
【0032】
図5(B)に示す第6の実施の形態にあっては、シールリング1のキー部1cの形状として、鉤状を採用すると共に、保形及び補強用のフレーム3を内装したものである。
【0033】
また、例えば、図7に示す様に、一つのシールリングに一対のリップ部1aを設け、その連結部においてシャフトAとシールリングとの間に存在する空隙を流通する流体を給排するリーク路b4を設けたシールリング4を各々の実施の形態におけるハウジングBに組み入れ、各々の実施の形態に示した態様で中空隔壁2を適宜組み入れても良い。
当該例では、前記第1及び第2の実施の形態並びに第5の実施の形態等の二つのシールリングを一体的に連結しこれを実現している。
【符号の説明】
【0034】
A シャフト,a1 プロペラ軸,a2 ライナー,
B ハウジング,b1 軸孔,b2 凹部,b3 流体回路,b4 リーク路,
C バネリング,t1 端面幅,t2 端面間,
1 シールリング,1a リップ部,1b 弾性アーム部,1c キー部,
1d 緊迫溝,1e リング溝,
2 中空隔壁,3 フレーム,4 シールリング,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト(A)の表面を摺動し密封接触するシールリング(1)と、シールリング(1)に接する中空隔壁(2)と、シールリング(1)を保持し中空隔壁(2)を支持するハウジング(B)を備え、
シールリング(1)は弾性素材からなり、シャフト(A)の表面に全周にわたって摺接するリップ部(1a)と、リップ部(1a)を摺接位置に支持する弾性アーム部(1b)と、弾性アーム部(1b)とハウジング(B)を連結するキー部(1c)を備え、
中空隔壁(2)の膨張と収縮によりシャフト(A)に対する緊迫力を調整する事を特徴とするシール装置。
【請求項2】
中空隔壁(2)を、リップ部(1a)又は弾性アーム部(1b)の外面又は内面に接して設けた事を特徴とする前記請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
前記中空隔壁(2)は、縦断面形状が長方形状であるリング状のチューブであって、内外の端面幅(t1)と比較して内外の端面間(t2)が狭く設定されていることを特徴とする前記請求項1又は請求項2のいずれかに記載のシール装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154349(P2012−154349A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11104(P2011−11104)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(507182988)バルチラジャパン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】