説明

ジアマンタン化合物

【課題】本発明の目的は大きな負の誘電異方性と安定な液晶相を有する新規なジアマンタン骨格を有する化合物を提供することにある。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるジアマンタン化合物。


式中、T1およびT2は水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。Q1およびQ2はそれぞれ独立にアリーレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基または1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基を表し、Q1およびQ2の少なくとも一方はフッ素原子を含有するアリーレン基を表す。L1、L2、L3およびL4はそれぞれ独立に非環状の2価の基を表し、m、p、rおよびwはそれぞれ独立に0または1を表す。nおよびsはそれぞれ独立に0、1または2を表し、2を表す場合、それぞれのQ1、Q2は同じであっても異なっていてもよい。但し、nとsが同時に0になることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジアマンタン化合物およびジアマンタン骨格を有する液晶性化合物に関するものである。該液晶性化合物は、垂直配向型液晶表示装置に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶性化合物を用いた表示素子(液晶表示素子)は極めて広い範囲で利用されるようになっている。液晶表示素子は液晶化合物の特性である光学(屈折率)異方性(Δn)や誘電率異方性(Δε)を利用したものであり、時計、電卓、各種測定機器、自動車用パネル、ワープロ、電子手帳、携帯電話、プリンター、コンピューター、テレビ等に利用され、需要も年々増大している。
液晶化合物には固体相と液体相との中間に位置する固有の液晶相があり、その相形態はネマチック相、スメクチック相及びコレステリック相に大別される。これらのうち表示素子用、いわゆる駆動用液晶としてはネマチック相が最も広く利用されている。
実際に液晶表示素子として提案されている表示方式としては、散乱型(DS型)、ゲスト・ホスト型(GH型)、ねじれネマチック型(TN型)、超ねじれネマチック型(STN型)、薄膜トランジスター型(TFT型)及び強誘電性液晶(FLC)等が知られている。
駆動方式としては、スタティック駆動方式、時分割駆動方式、アクティブマトリックス駆動方式及び2周波駆動方式等が知られている。現在広く使用されているアクティブマトリックス駆動方式において、TN(Twist Nematic)モードの液晶表示素子は、応答速度及び視野特性に劣るという欠点を有しており、TV等の視覚特性が重要な用途においては問題となっている。これに対して、VA(Vertical alignment)モードやIPS(In−plane switching)モードは、視野角が広く、応答時間が短く、コントラストが高い等の長所を有することが知られている。
VAモードは現在大型テレビで最も広く用いられているモードであり、ここで実用されている垂直配向型液晶素子に使用される液晶組成物には、大きな負の誘電異方性を有すること、ネマチック相を発現する温度範囲が広いこと、化学安定性に優れていること等の特徴が要求される。
負の誘電異方性を有する代表的化合物として、例えば、特許文献1〜4に掲げたものには、2,3−ジフルオロフェニル基を有する液晶材料が記載されているが、さらに大きな負の誘電異方性が求められているほか、駆動速度などの面で満足できる性能には至っているとは言えず、新規な骨格を有し、特徴ある機能を有する液晶性化合物が強く求められている。
【0003】
新規な骨格の例として、非特許文献1にジアマンタン骨格を有する化合物が興味深い液晶性を示すことが示されているが、誘電異方性に関する情報等についてはまったく記載されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平8−104869号公報
【特許文献2】特開平10−176167号公報
【特許文献3】特開平11−140447号公報
【特許文献4】特開2001−192657号公報
【非特許文献1】日本化学会第88春季年会予稿集3L4−38
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は大きな負の誘電異方性と安定な液晶相を有する新規なジアマンタン骨格を有する化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は以下により達成された。
下記一般式(I)で表されるジアマンタン化合物。
【0007】
【化1】

【0008】
式中、T1およびT2は水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。Q1およびQ2はそれぞれ独立にアリーレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基または1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基を表し、Q1およびQ2の少なくとも一方はフッ素原子を含有するアリーレン基を表す。L1、L2、L3およびL4はそれぞれ独立に非環状の2価の基を表し、m、p、rおよびwはそれぞれ独立に0または1を表す。nおよびsはそれぞれ独立に0、1または2を表し、2を表す場合、それぞれのQ1、Q2は同じであっても異なっていてもよい。但し、nとsが同時に0になることはない。
【0009】
本発明の内容をさらに詳しく説明する。本発明のジアマンタン化合物はジアマンタンの4位および/または9位に直接または連結鎖を介してフッ素置換されたアリール基を有することが特徴である。一般式(I)において、T1およびT2は水素原子、アルキル基またはアリール基を表すが、アルキル基として炭素数1〜9の直鎖状、分枝状または環状のアルキル基であり、具体例を挙げるとメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、4−エチルシクロヘキシル基、シクロプロピル基などが挙げられる。アリール基としては炭素数6〜18の置換基を有していてもよいアリール基であり、4−エチルフェニル基、4−n−プロピルフェニル基、4−n−ペンチルフェニル基、4−エトキシ−2,3−ジフルオロフェニル基、4−プロピル−2,3−ジフルオロフェニル基などが挙げられる。
Q1およびQ2はそれぞれ独立にアリーレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基または1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基を表すが、Q1およびQ2の少なくとも一方はフッ素原子で置換されたアリーレン基を表す。アリーレン基の例としては炭素数6〜12のアリーレン基であり、具体例を挙げると、1,4−フェニレン基、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン基、2−フルオロ−1,4−フェニレン基、3−フルオロ−1,4−フェニレン基、1,4−ナフチレン基、2,3−ジフルオロ−1,4−ナフチレン基、6,7−ジフルオロ−1,4−ナフチレン基などが挙げられる。1,4−シクロヘキシレン基としては1,4−シクロヘキシレン基、1−フルオロ−1,4−シクロヘキシレン基などが挙げられる。1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基としては1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、5−フルオロ−1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基などが挙げられる。1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基としては1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基が挙げられる。但し、Q1およびQ2の少なくとも一方はフッ素原子を含有するアリーレン基を表す。ここでフッ素原子を含有するアリーレン基とは、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン基、2−フルオロ−1,4−フェニレン基、3−フルオロ−1,4−フェニレン基、2,3−ジフルオロ−1,4−ナフチレン基、6,7−ジフルオロ−1,4−ナフチレン基から選択される基が好ましい。
【0010】
L1、L2、L3およびL4はそれぞれ独立に非環状の2価の基を表し、該2価の基として好ましくはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、2価の酸素原子、2価の硫黄原子またはこれらを適宜組み合わせたものを表し、より好ましくはアルキレン基、アルケニレン基、2価の酸素原子、またはこれらを組み合わせたものを表す。
m、p、rおよびwはそれぞれ独立に0または1を表す。nおよびsはそれぞれ独立に0、1または2を表し、2を表す場合、それぞれが同じであっても異なっていてもよい。但し、nとsが同時に0になることはない。
【0011】
次に、表1に一般式(I)で表される化合物の具体例を示す。
【0012】
【表1】

【0013】
【化2】

【0014】
上記部分構造において、*は結合手を表す。
本発明の一般式(I)で表される化合物は以下の方法を用いて合成可能である。ジアマンタンの4,9位に置換基を導入する方法として、非特許文献2〜4を参考にして、臭素の導入、2,2−ジブロモエチル基の導入、エチニル基の導入を行うことができる。また、ジアマンタンあるいは4,9−ジブロモジアマンタンの4,9位に直接アリール基を導入する方法としては非特許文献5を参考にして合成することができる。これらの中間体を利用して本発明の化合物へと至る過程は既知の反応を組み合わせることによって容易に合成することができる。
【0015】
非特許文献2 シンセティック・コミュニケーションズ、36巻、2113頁(2006年)
非特許文献3 マクロモレキュールズ、24巻、5261頁(1991年)
非特許文献4 マクロモレキュールズ、24巻、5266頁(1991年)
非特許文献5 ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー、39巻、20号、2987−3003頁(1974年)
【実施例】
【0016】
以下、具体的な実施例を挙げて説明する。
(実施例)
実施例1 本発明の化合物4の合成
(1−1) 4,9−ジブロモジアマンタンの合成
前出の非特許文献4を参考にして5gの市販ジアマンタンを用いて4.2gの4,9−ジブロモジアマンタンを得た。
H−nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):2.32(12H,s)、1.97(6H,s)
(1−2)2,3−ジフルオロ−1−ブトキシベンゼンの合成
市販の2,3−ジフルオロフェノール13g、21gの炭酸カリウム、27gのヨウ化ブチルを混合し、60mLのN−メチルピロリドンを加え、撹拌した。80℃で8時間反応したのち冷却し、反応混合物を希塩酸に注いだ。酢酸エチルで抽出を行い、有機相を濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。目的物は無色の油状物として得られた。収量16.1g、収率86.5%
H−nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):6.94(1H,m)、6.75(2H,m)、4.04(2H,t,J=6.6Hz)、1.80(2H,m)、1.53(2H,m)、0.98(3H,t,J=7.2Hz)
F−nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):−137.75(1F,m)、−159.88(1F,m)
【0017】
(1−3)4,9−ビス[2,3−ジフルオロ−4−(n−ブトキシ)フェニル]ジアマンタン(化合物4)の合成
1.0gの4,9−ジブロモジアマンタンを6mLのニトロベンゼンに溶解し、合成例(1−2)で合成した2,3−ジフルオロ−1−ブトキシベンゼン3.0gを加え、室温で撹拌した。この反応混合物に塩化アルミニウム(1モル/Lニトロベンゼン溶液(アルドリッチ社製))を1mL添加し、さらに室温で10時間反応を行ったところ、無色の結晶が析出した。この反応混合物に20mLの水を加え、析出した結晶を濾取し、50mLのメタノールで結晶を洗浄した。得られた結晶は乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、クロロホルム−酢酸エチルの混合溶媒で再結晶を行った。
収量1.1g、収率68.4%、液晶性Cr1 180 Cr2 208 Ne 270 Iso
H−nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):6.89(2H,dt,J=2,4Hz,8.7Hz)、6.66(2H,dt,J=2.1Hz,8.7Hz)、4.02(4H,t,J=6.6Hz)、2.04(12H,s)、1.98(6H,s)、1.79(4H,m)、1.49(4H,m)、0.98(6H,t,J=7.5Hz)
F−nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):−135.96(2F,dd,J=9.0Hz,18.0Hz)、−159.67(2F,ddd,J=3Hz,9.0Hz,18.0Hz)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるジアマンタン化合物。
【化1】

式中、T1およびT2は水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。Q1およびQ2はそれぞれ独立にアリーレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基または1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基を表し、Q1およびQ2の少なくとも一方はフッ素原子を含有するアリーレン基を表す。L1、L2、L3およびL4はそれぞれ独立に非環状の2価の基を表し、m、p、rおよびwはそれぞれ独立に0または1を表す。nおよびsはそれぞれ独立に0、1または2を表し、2を表す場合、それぞれのQ1、Q2は同じであっても異なっていてもよい。但し、nとsが同時に0になることはない。

【公開番号】特開2010−24157(P2010−24157A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185044(P2008−185044)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】