説明

ジアミン化合物を含有する電子写真感光体とそれを備えた画像形成装置およびジアミン化合物とその製造方法

【課題】耐オゾン性の効果に優れ、他の特性面への弊害の全くない電子写真感光体を提供するために使用可能な、新規なジアミン化合物とその製造方法およびそのジアミン化合物を用いた電子写真感光体とそれを備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【解決手段】導電性材料からなる導電性支持体上に、電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層が積層されてなる電子写真感光体であって、前記単層型感光層または前記積層型感光層の電荷輸送層が、特定のジアミン化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアミン化合物を含有する電子写真感光体とそれを備えた画像形成装置およびジアミン化合物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を用いて画像を形成する電子写真方式の画像形成装置(以下「電子写真装置」ともいう)は、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置などに多用されている。
電子写真装置では、以下のような電子写真プロセスを経て画像が形成される。まず、装置に備わる電子写真感光体(以下「感光体」ともいう)の感光層を帯電させた後、露光して静電潜像を形成する。形成された静電潜像を現像してトナー像を形成し、形成されたトナー像を記録紙などの転写材上に転写して定着させて、転写材に所望の画像を形成する。
【0003】
近年、電子写真技術は、複写機の分野に限らず、従来では銀塩写真技術が使われていた印刷版材、スライドフィルム、マイクロフィルムなどの分野においても利用されている。例えば、レーザ、発光ダイオード(Light Emitting Diode;略称LED)、陰極線管(Cathode Ray Tube;略称CRT)などを光源とする高速プリンタにも応用されている。このような電子写真技術の応用範囲の拡大に伴い、感光体に対する要求は、高度で幅広いものになりつつある。
【0004】
感光体としては、従来から、セレン、酸化亜鉛または硫化カドミウムなどの無機光導電性材料を主成分とする感光層を備える無機感光体が広く用いられている。
無機感光体は、感光体としての基礎特性をある程度は備えているが、感光層の成膜が困難で、可塑性が悪く、製造原価が高いなどの欠点を有する。その上、無機光導電性材料は一般に毒性が強く、製造上および取扱い上、大きな制約がある。
このように無機光導電性材料およびそれを用いた無機感光体には多くの欠点があることから、有機光導電性材料の研究開発が進んでいる。
【0005】
有機光導電性材料は、近年、幅広く研究開発され、感光体などの静電記録素子に利用されるだけでなく、センサ素子、有機エレクトロルミネセント(Electro Luminescent;略称EL)素子などに応用され始めている。
有機光導電性材料を用いた有機感光体は、感光層の成膜性がよく、可撓性も優れている上に、軽量で、透明性もよく、適当な増感方法によって広範囲の波長域に対して良好な感度を示す感光体を容易に設計できるなどの利点を有しているので、次第に感光体の主力として開発されてきている。
【0006】
有機感光体は、初期には感度および耐久性に欠点を有していたが、これらの欠点は、電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の物質にそれぞれ分担させた機能分離型感光体の開発によって著しく改善されている。さらに、この機能分離型感光体は、有機感光体の有する前記の利点に加え、感光層を構成する材料の選択範囲が広く、任意の特性を有する感光体を比較的容易に作製できるという利点も有している。
【0007】
このような有機系感光体の構成としては、支持体上に電荷発生物質および電荷輸送物質(「電荷移動物質」ともいう)の双方をバインダ樹脂に分散させた単層構造、支持体上に電荷発生物質をバインダ樹脂に分散させた電荷発生層と電荷輸送物質をバインダ樹脂に分散させた電荷輸送層とをこの順でまたは逆順で形成した積層構造または逆二層型積層構造などの様々な構成が提案されている。これらの中でも感光層として電荷発生層上に電荷輸
送層を積層した機能分離型の感光体は、電子写真特性および耐久性に優れ、材料選択の自由度の高さから感光体特性を様々に設計できることから広く実用化されている。
【0008】
これらの機能分離型感光体に用いられる電荷発生物質としては、フタロシアニン顔料、スクアリリウム色素、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、シアニン色素、スクアリン酸染料、ピリリウム塩系色素などの多種の物質が検討され、耐光性が強く電荷発生能力の高い種々の材料が提案されている。
また、電荷輸送物質としては、ピラゾリン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルアミン化合物、スチルベン化合物、エナミン化合物などの種々の化合物が知られている。
【0009】
このように提案または検討されている構成を有する感光体においては、高速化や耐久性と感度安定性などのさまざまな性能が求められている。特に、最近のデジタル複写機およびレーザプリンタなどの反転現像方式の電子写真装置に対応して、感光体特性として高速化に対応する高感度化と、耐摩耗性および感度安定性の向上による耐久化=長寿命化との両立が要求されている。加えて、レーザプリンタなどに用いる感光体には、より高い画像信頼性や繰返し安定性が要求されている。
【0010】
しかしながら、これらの感光体は無機系感光体に比べて一般的に耐久性が低いことが1つの大きな欠点であるとされてきた。耐久性は、感度、残留電位、帯電能、画像ボケなどの電子写真物性面の耐久性と、摺擦による感光体表面の摩耗や傷などの機械的耐久性に大別される。電子写真物性面の耐久性における低下の主原因は、コロナ放電により発生するオゾン、NOX(窒素酸化物)などや光照射により感光体表面層に含有される電荷輸送物質の劣化であることが知られている。数多く提案されている様々な骨格からなる多くの電荷輸送物質も、耐久性の面ではかなり改善されつつあるが、いまだ十分とは言えないのが現状である。
【0011】
また、感光体はシステムの中で繰返し使用され、その中にあって常に一定の安定した電子写真特性を要求される。このような安定性、耐久性については、いずれの構成においても、いまだ十分なものが得られていないのが現状である。
すなわち、繰返し使用にしたがって電位の低下、残留電位の上昇、感度の変化などが生じ、コピー品質の低下が起こり使用に耐えなくなる。これらの劣化原因の全ては解明されていないが、いくつかの要因が考えられる。
【0012】
例えば、コロナ放電帯電器より放出されるオゾン、窒素酸化物などの酸化性のガスが感光層に著しいダメージを与えることがわかっている。これら酸化性のガスは感光層中の材料を化学変化させて種々の特性変化をもたらす。例えば、帯電電位の低下、残留電位の上昇、表面抵抗の低下による解像力の低下などをもたらし、その結果出力画像上に白抜けおよび黒帯などの画像ボケが発生して著しく画質を低下させ、感光体の寿命を短くしている。このような現象に対して、コロナ帯電器の周りのガスを効率よく排気、置換し、感光体への直接的なガスの影響を避ける対策を盛り込む提案や、感光層に酸化防止剤、安定剤を添加し劣化を防ぐ提案もされている。
【0013】
例えば、特開昭62−105151号公報(特許文献1)には、分子内にトリアジン環およびヒンダードフェノール骨格を有する酸化防止剤を感光層に添加すること、特開昭63−18355号公報(特許文献2)には、特定のヒンダードアミンを感光層に添加することが開示されている。また、特開昭63−4238号公報(特許文献3)、特開昭63−216055号公報(特許文献4)および特開平3−172852号公報(特許文献5)には、トリアルキルアミン、芳香族アミンを感光層に添加すること、さらに特開平5−158258号公報(特許文献6)には、アミンダイマーを感光層に添加することが開示されているが、これらは未だ十分とは言えない。
【0014】
【特許文献1】特開昭62−105151号公報
【特許文献2】特開昭63−18355号公報
【特許文献3】特開昭63−4238号公報
【特許文献4】特開昭63−216055号公報
【特許文献5】特開平3−172852号公報
【特許文献6】特開平5−158258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
すなわち、このような従来の技術によっては未だに十分な耐オゾン性の効果が達成されてはおらず、また、このような酸化防止剤などの添加によって感度や残留電位などの電子写真特性を悪化させるといった、実用上不十分な弊害も依然と残っているのが現状である。よって、耐オゾン性を向上させ、かつ電子写真特性面における弊害の全くない新規な材料提案がまたれている。
【0016】
したがって、本発明は、耐オゾン性の効果に優れ、他の特性面への弊害の全くない感光体を提供するために使用可能な、新規なジアミン化合物とその製造方法およびそのジアミン化合物を用いた感光体とそれを備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意努力研究を重ねた結果、意外にも特定のジアミン化合物が、耐オゾン性に優れ、しかも電子写真特性面への弊害が全くないことを見出し、さらに感光体とそれを備えた画像形成装置に極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
かくして、本発明によれば、導電性材料からなる導電性支持体上に、電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層が積層されてなる感光体であって、前記単層型感光層または前記積層型感光層の電荷輸送層が、一般式(1):
【0019】
【化1】

【0020】
[式中、
Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、同一または異なって、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいヘテロ原子含有シクロアルキル基または置換基を有してもよい1価の複素環残基であり;
1、Y2、Y3およびY4は、同一または異なって、置換基を有してもよい鎖状のアルキレン基である)
で示されるジアミン化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体が提供される。
【0021】
また、本発明によれば、上記の感光体と、前記感光体を帯電させる帯電手段と、帯電さ
れた前記感光体に対して露光を施す露光手段と、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備えることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【0022】
さらに、本発明によれば、構造式:
【化2】

で示されるジアミン化合物が提供される。
【0023】
さらにまた、本発明によれば、構造式:
【化3】

で示されるアミン化合物と、構造式(III):
【0024】
【化4】

で示されるジクロロ化合物とを、有機アミン塩基の存在下に反応させて、上記構造式で示されるジアミン化合物を得ることを特徴とするジアミン化合物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のジアミン化合物はいずれも有機光導電性材料が含まれる感光層に含有させることで、耐オゾン性の効果に優れ、しかも電子写真特性面への弊害が全くないので、有機光導電性材料と併用して用いる化合物として好適である。
したがって、本発明によるジアミン化合物を、例えば、感光体の感光層に含有させることによって、耐オゾン性の効果があり、同時に耐久性および環境安定性にも優れる感光体
の提供が可能となる。
また、本発明の感光体は、高速の電子写真プロセスに用いられた場合であっても、その優れた耐オゾン性の効果により、高品質の画像を提供することができる。
よって、本発明による感光体を用いることによって、長期間にわたって繰返し使用されても、耐オゾン性に優れた高品質の画像を形成することができる。
【0026】
また、本発明による感光体は、本発明によるジアミン化合物を感光層に含有するので、耐オゾン性の効果に優れ、感光体の長寿命化に伴う感光体休止メモリー現象面においても優れている。
したがって、本発明による画像形成装置では、種々の環境下において、画像欠陥のない高品質の画像を長期間にわたって安定して形成することができる。
また、本発明による感光体は、高速の電子写真プロセスにおいても高品質の画像を提供することができるので、本発明による画像形成装置では画像形成速度の高速化が可能である。
【0027】
さらに、本発明のジアミン化合物の製造方法によれば、対応するハロゲン化化合物とアミン化合物とを独自に有機アミン塩基存在下、非水溶系溶剤中で加熱反応により、簡便にジアミン化合物の結晶として得ることができる。
したがって、このような製造方法によって得られた化合物は、電子写真特性面での弊害が懸念される金属化合物の混入が全くなく、また分液処理などの抽出操作も必用とせず、簡便な操作により高い純度で化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の感光体は、導電性材料からなる導電性支持体上に、電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層が積層されてなる感光体であって、前記単層型感光層または前記積層型感光層の電荷輸送層が一般式(1)で示されるジアミン化合物を含有することを特徴とする。
【0029】
このような一般式(1)のジアミン化合物の中でも、化学物質としての分解または変質などの化学的安定性、原料入手の容易性、製造の容易性および収率の高さならびに製造コストなどの点で、一般式(1)のY1、Y2、Y3およびY4が鎖状のアルキレン基であるジアミン化合物、すなわち副式(2):
【0030】
【化5】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、一般式(1)と同義であり;n、m、lおよびpは、同一または異なって1〜3の整数である)のジアミン化合物が好ましく、一般式(1)のY1、Y2、Y3、Y4、Y5およびY6が鎖状のメチレン基であるジアミン化合物、すなわち副式(3):
【0031】
【化6】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、一般式(1)と同義である)
で示されるジアミン化合物が特に好ましい。
【0032】
一般式(1)、副式(2)および副式(3)における置換基について説明する。
Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6の置換基を有してもよいアリール基としては、例えば炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜6のジアルキルアミノ基およびハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基が挙げられる。
具体的には、フェニル基、トリル基、キシリル基、メトキシフェニル基、メチルメトキシフェニル基、t−ブチルフェニル基、4−ジエチルアミノフェニル基、4−クロロフェニル基、4−フルオロフェニル基、ナフチル基、メトキシナフチル基などが挙げられ、これらの中でも、フェニル基、トリル基、メトキシフェニル基、ナフチル基が特に好ましい。
【0033】
Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6の置換基を有してもよいシクロアルキル基としては、例えば炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基が挙げられる。
具体的には、シクロへキシル基、シクロペンチル基、4、4−ジメチルシクロへキシル基などが挙げられ、これらの中でも、シクロへキシル基が特に好ましい。
【0034】
Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6の置換基を有してもよいヘテロ原子含有シクロアルキル基としては、例えばテトラヒドロフリル基、テトラメチルテトラヒドロフリル基などが挙げられる。
【0035】
Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6の置換基を有してもよい1価の複素環残基としては、例えば炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい1価の複素環残基が挙げられる。
具体的には、フリル基、4−メチルフリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチオフェニル基などが挙げられ、これらの中でも、フリル基、ベンゾフリル基が特に好ましい。
【0036】
1、Y2、Y3およびY4の置換基を有してもよい鎖状のアルキレン基としては、例えば炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいアルキレン基が挙げられる。
具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、2,2−ジメチルプロピレン基などが挙げられ、これらの中でも、メチレン基、エチレン基が特に好ましい。
【0037】
本発明のジアミン化合物の具体例を表1に示す。
なお、表1−1〜1−4において置換基を次のような略号で示す。
−Me−:メチレン基
−Et−:エチレン基
−Pr−:2,2−ジメチルプロピレン基
【0038】
【表1−1】

【0039】
【表1−2】

【0040】
【表1−3】

【0041】
【表1−4】

【0042】
【表1−5】

【0043】
【表1−6】

【0044】
本発明のジアミン化合物は、次の反応スキームに示す方法により製造することができる。すなわち、一般式(4)および一般式(5)で示されるアミン化合物と、一般式(6)
で示されるジハロゲン化合物とを、有機アミン塩基の存在下に加熱することによって、簡便に収率よく高純度で目的物を製造することができる。
【0045】
[反応式]
【化7】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5、Ar6、Y1、Y2、Y3およびY4は、一般式(1)と同義であり;X1およびX2はハロゲン原子を示す)
反応式におけるX1およびX2のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、これらの中でも、塩素原子、臭素原子が特に好ましい。
【0046】
上記の反応式の反応は、例えば、次のようにして実施できる。
二級アミン化合物(4)および(5)とジハロゲン化合物(6)とを溶剤に溶解または分散させ、これに有機アミン塩基を加え、加熱攪拌する。反応終了後、析出物を濾別し、エタノール、メタノール、酢酸エチルなどの単独あるいは混合溶剤系において再結晶を行うことにより、簡便に収率よく高純度で目的物を得ることができる。
【0047】
溶剤は、上記の反応に不活性でかつ反応基質および有機アミン塩基を溶解または分散できるものであれば特に限定されない。具体的には、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサンなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられ、これらは単独または混合溶剤として使用できる。
なお、溶剤の使用量は特に制限されず、反応基質の使用量、反応温度、反応時間などの反応条件に応じて、反応が円滑に進行する量を適宜設定すればよい。
有機アミン塩基としては、例えばN,N−ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、1,4−ジアザビシクロウンデセンなどが挙げられる。
【0048】
二級アミン化合物(4)および(5)とジハロゲン化合物(6)との使用割合は特に限定されるものではない。
例えば、対称性の化合物を得る場合(二級アミン化合物(4)あるいは(5)の何れは一方のみ使用する場合)には、反応の効率性などを考慮して、ジハロゲン化合物(6)1
当量に対して二級アミン化合物を2.0〜2.3当量程度用いるのが好ましい。
また、非対称性の化合物を得る場合(二級アミン化合物(4)および(5)を共に使用する場合)には、反応の効率性などを考慮して、ジハロゲン化合物(6)1当量に対して各二級アミン化合物を1.0〜1.2当量程度(二級アミン化合物(4)および(5)の合計では2.0〜2.4当量程度)用いるのが好ましい。
【0049】
ジハロゲン化合物(6)と有機アミン塩基との使用割合は特に限定されるものではないが、反応の効率性などを考慮して、ジハロゲン化合物(6)1当量に対して、有機アミン塩基を2.05〜5.0当量程度用いるのが好ましい。
また、加熱温度および反応時間は特に限定されるものではないが、反応の効率性などを考慮して、使用する溶剤にもよるが、60〜120℃で2〜8時間反応させるのが好ましい。
【0050】
本発明のジアミン化合物は、耐オゾン性に優れている。したがって、本発明のジアミン化合物を感光層(特に電荷輸送層)に含有する感光体は優れた電子写真特性を有し、システムから発生するオゾン、窒素酸化物の影響を受けにくく、繰返し使用しても安定した特性および画質を有し、極めて高い耐久性を達成することができる。
【0051】
特に、構造式:
【化8】

で示されるジアミン化合物は新規な化合物である。
【0052】
上記の構造式のジアミン化合物は、構造式(II):
【化9】

で示されるアミン化合物と、構造式:
【0053】
【化10】

で示されるジクロロ化合物とを、有機アミン塩基の存在下に反応させることにより製造することができる。
【0054】
次に、本発明の感光体の構成について具体的に説明する。
図1〜図8は、本発明の感光体における要部の構成を示す模式断面図である。
図1〜4は、感光層が一層からなる単層型感光層である単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
また、図5〜8は、感光層が電荷発生層と電荷輸送層とからなる積層型感光層(以下「機能分離型感光層」ともいう)である積層型感光体(以下「機能分離型感光体」ともいう)の要部の構成を示す模式断面図である。本発明の感光体は、電荷発生層と電荷輸送層とを逆順で形成した逆二層型積層構造であってもよいが、前記積層型が好ましい。
【0055】
図1の感光体11は、導電性支持体1の表面に単層型感光層2が形成されている。
図2の感光体12は、導電性支持体1の表面に単層型感光層2と表面保護層5とがこの順で形成されている。
図3の感光体13は、導電性支持体1の表面に中間層6と単層型感光層2とがこの順で形成されている。
図4の感光体14は、導電性支持体1の表面に中間層6と単層型感光層2と表面保護層5とがこの順で形成されている。
【0056】
図5の感光体15は、導電性支持体1の表面に、電荷発生層3と電荷輸送層4とがこの順で積層された積層型感光層7が形成されている。
図6の感光体16は、導電性支持体1の表面に、電荷発生層3と電荷輸送層4とがこの順で積層された積層型感光層7と、表面保護層5とがこの順で形成されている。
図7の感光体17は、導電性支持体1の表面に、中間層6と、電荷発生層3と電荷輸送層4とがこの順で積層された積層型感光層7とがこの順で形成されている。
図8の感光体18は、導電性支持体1の表面に、中間層6と、電荷発生層3と電荷輸送層4とがこの順で積層された積層型感光層7と、表面保護層5とがこの順で形成されている。
【0057】
[導電性支持体1(感光体用素管)]
導電性支持体の構成材料は、当該分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス鋼、チタンなどの金属材料:ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙、ガラスなどからなる基体表面に金属箔をラミネートしたもの、金属材料を蒸着したもの、導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどが挙げられる。
【0058】
導電性支持体の形状は、図1〜8に示すようなシート状に限定されず、円筒状、円柱状、無端ベルト状などであってもよい。
導電性支持体1の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化皮膜処理、薬品、熱水などによる表面処理、着色処理、表面を粗面化するなどの乱反射処理を
施されていてもよい。
【0059】
乱反射処理は、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスにおいて本発明による感光体を用いる場合に特に有効である。すなわち、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザ光の波長が揃っているので、感光体の表面で反射されたレーザ光と感光体の内部で反射されたレーザ光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像に現れて画像欠陥の発生することがある。そこで、導電性支持体の表面に乱反射処理を施すことにより、波長の揃ったレーザ光の干渉による画像欠陥を防止することができる。
【0060】
[単層型感光層2]
単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質と本発明のジアミン化合物とバインダ樹脂とを含有する。
【0061】
電荷発生物質は、光を吸収することにより電荷を発生する能力を有する。
電荷発生物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
具体的には、アゾ系顔料(モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料、トリスアゾ系顔料など)、インジゴ系顔料(インジゴ、チオインジゴなど)、ペリレン系顔料(ペリレンイミド、ペリレン酸無水物など)、多環キノン系顔料(アントラキノン、ピレンキノンなど)、フタロシアニン系顔料(金属フタロシアニン、X型無金属フタロシアニンなど)、スクアリリウム色素、ピリリウム塩類、チオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機顔料または染料、さらにセレン、非晶質シリコンなどの無機材料などが挙げられる。これらの電荷発生物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0062】
これらの電荷発生物質の中でも、金属フタロシアニン、X型無金属フタロシアニンのようなフタロシアニン系顔料が好ましく、オキソチタニウムフタロシアニンが特に好ましい。
フタロシアニン系顔料は、高い電荷発生効率と電荷注入効率とを有するので、光を吸収することによって多量の電荷を発生するとともに、発生した電荷を分子内に蓄積することなく、単層型感光層に含有される電荷輸送物質に電荷を効率よく注入されて円滑に輸送されるので、高感度かつ高解像度の感光体を得ることができる。この効果は後述する積層型感光体でも同様である。
【0063】
電荷発生物質は、増感染料と組み合せて使用することができる。
このような増感染料としては、例えばメチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料;エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料;メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料;カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料;シアニン染料;スチリル染料;ピリリウム塩染料およびチオピリリウム塩染料などが挙げられる。
【0064】
電荷輸送物質は、電荷発生物質で発生した電荷を受入れ輸送する能力を有し、ホール輸送物質および電子輸送物質を包含する。
ホール輸送物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
具体的には、カルバゾール誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリ
ールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、エナミン誘導体、ベンジジン誘導体、これらの化合物から誘導される基を主鎖または側鎖に有するポリマー(ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレン、エチルカルバゾール−ホルムアルデヒド樹脂、トリフェニルメタンポリマー、ポリ−9−ビニルアントラセンなど)、ポリシランなどが挙げられる。
【0065】
また、電子輸送物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
具体的には、ベンゾキノン誘導体、テトラシアノエチレン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、フルオレノン誘導体、キサントン誘導体、フェナントラキノン誘導体、無水フタール酸誘導体、ジフェノキノン誘導体などの有機化合物、アモルファスシリコン、アモルファスセレン、テルル、セレン−テルル合金、硫化カドミウム、硫化アンチモン、酸化亜鉛、硫化亜鉛などの無機材料が挙げられる。これらの電荷輸送物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0066】
バインダ樹脂としては、例えば、単層型感光層の機械的強度、耐久性などを向上させる目的で使用され、当該分野で用いられる結着性を有する樹脂を使用でき、本発明のジアミン化合物との相溶性に優れるものが好ましい。
【0067】
具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル、ポリアクリルアミド、ポリフェニレンオキサイドなどの熱可塑性樹脂;フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールなどの熱硬化性樹脂、これらの樹脂の部分架橋物、これらの樹脂に含まれる構成単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂)などが挙げられる。これらのバインダ樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0068】
これらの樹脂の中でも、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレートおよびポリフェニレンオキサイドは、本発明のジアミン化合物との相溶性に特に優れ、さらに体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、かつ成膜性、電位特性などにも優れるので好ましく、ポリカーボネートは特に好適に使用できる。
【0069】
電荷輸送物質と本発明のジアミン化合物との使用割合は特に限定されないが、電荷輸送物質の重量Aとジアミン化合物の重量Bとしたときに、その比率A/Bは、100/0.1以上100/20以下であるのが好ましい。
電荷輸送物質100重量部に対する本発明のジアミン化合物の使用量が0.1重量部未満であると、効果がきわめて小さいことがある。
一方、電荷輸送物質100重量部に対する本発明のジアミン化合物の使用量が20重量部を超えると、電荷輸送物質に対する相対量比が高くなり、感度が低下するなどの現象を呈することがある。
【0070】
また、単層型感光層は、当該分野で用いられる、酸化防止剤などの添加剤を含有していてもよい。このような添加剤は、感光層形成用塗布液としての安定性を高め、液寿命を延長させると共に、塗布液で製造した感光体も酸化性不純物が軽減され、耐久性が向上するので好ましい。
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール誘導体、ヒンダードアミン誘導体などが挙げられる。
【0071】
電荷輸送物質と酸化防止剤との使用割合は特に限定されないが、電荷輸送物質100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましい。酸化防止剤の使用量が0.1重量部未満では、後述する感光層形成用塗布液の安定性および感光体の耐久性を向上効果が不充分になることがあり、また、10重量部を超えると、感光体の電気特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0072】
本発明のジアミン化合物、電荷発生物質、電荷輸送物質および必要に応じて加えられる添加剤とバインダ樹脂との使用割合は特に制限されないが、好ましくは全量においてバインダ樹脂が1〜10重量%程度である。
バインダ樹脂の割合が1重量%未満では、単層型感光層の膜強度が低下するおそれがあり、逆にバインダ樹脂の割合が10重量%を超えると、単層型感光層の機能が低下するおそれがある。
【0073】
単層型感光層2は、本発明のジアミン化合物、電荷発生物質、電荷輸送物質およびバインダ樹脂、ならびに必要に応じて酸化防止剤などの添加剤を適当な有機溶剤に溶解または分散して感光層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体1の表面に、または導電性支持体1上に形成された中間層6の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。より具体的には、例えば、バインダ樹脂を有機溶剤に溶解してなる樹脂溶液に構成物質を溶解または分散させることにより、単層型感光層形成用塗布液を調製する。
【0074】
有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン、ジメトキシベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロプロパンなどのハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジベンジルエーテル、ジメトキシメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロンなどのケトン類;安息香酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジフェニルスルフィドなどの含イオウ溶剤;ヘキサフロオロイソプロパノールなどのフッ素系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられ、これらは単独または混合溶剤として使用できる。また、このような溶剤に、アルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンを加えた混合溶剤を使用することもできる。
【0075】
構成物質を樹脂溶液に溶解または分散させるに先立ち、電荷発生物質およびその他の添加剤を予備粉砕してもよい。
予備粉砕は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機などの一般的な粉砕機を用いて行うことができる。
構成物質の樹脂溶液への溶解または分散は、例えば、ペイントシェーカ、ボールミル、サンドミルなどの一般的な分散機を用いて行うことができる。このとき、容器および分散機を構成する部材から摩耗などによって不純物が発生し、塗布液中に混入しないように、分散条件を適宜設定するのが好ましい。
単層型感光層形成用塗布液の塗布方法としては、ロール塗布、スプレー塗布、ブレード塗布、リング塗布、浸漬塗布などが挙げられる。
【0076】
単層型感光層の膜厚は特に限定されないが、5〜100μmが好ましく、10〜50μmが特に好ましい。単層型感光層の膜厚が5μm未満では、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがあり、逆に単層型感光層の膜厚が100μmを超えると、感光体の生産性が低下するおそれがある。
【0077】
[積層型感光層7]
積層型感光層は、電荷発生層3と電荷輸送層4とからなる。
【0078】
[電荷発生層3]
電荷発生層3は、電荷発生物質とバインダ樹脂とを含有する。
電荷発生物質は、単層型感光層に含まれるものと同様の電荷発生物質の1種または2種以上を使用できる。
バインダ樹脂は、単層型感光層に含まれるものと同様のバインダ樹脂の1種または2種以上を使用できる。
電荷発生物質とバインダ樹脂との使用割合は特に制限されないが、好ましくは、電荷発生物質とバインダ樹脂との合計量の全量において、電荷発生物質を10〜99重量%含有し、かつ残部がバインダ樹脂である。
電荷発生物質の割合が10重量%未満では、感度が低下するおそれがあり、逆に電荷発生物質の割合が99重量%を超えると、電荷発生層の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大し、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少し、画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像のかぶりが多く発生するおそれがある。
【0079】
電荷発生層は、前記2種の必須成分のほかに、必要に応じて、ホール輸送材料、電子輸送材料、酸化防止剤、分散安定剤、増感剤などから選ばれる1種または2種以上のそれぞれ適量を含んでもよい。これによって、電位特性が向上するとともに、後述する電荷発生層形成用塗布液の安定性が高まり、感光体の繰返し使用時の疲労劣化を軽減し、耐久性を向上させることができる。
【0080】
電荷発生層3は、電荷発生物質、バインダ樹脂および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解または分散して電荷発生層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体1の表面に、または導電性支持体1上に形成された中間層6の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。より具体的には、例えば、バインダ樹脂を有機溶剤に溶解してなる樹脂溶液に電荷発生物質および必要に応じて他の添加剤を溶解または分散させることにより、電荷発生層形成用塗布液を調製する。
その他の工程およびその条件は、単層型感光層の形成に準ずる。
有機溶剤は、単層型感光層の形成用塗布液の調製に用いられるものと同様の溶剤の1種または2種以上を使用できる。
【0081】
電荷発生層3の膜厚は特に限定されないが、0.05〜5μmが好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。これは、電荷発生層の膜厚が0.05μm未満では、光吸収の効率が低下し、感度が低下するおそれがあり、逆に電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での電荷輸送が感光体表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感度が低下するおそれがある。
【0082】
[電荷輸送層4]
電荷輸送層4は、電荷輸送物質と本発明のジアミン化合物とバインダ樹脂とを含有する。
本発明のジアミン化合物は、単層型感光層に含まれるものと同様のジアミン化合物の1種または2種以上を使用できる。
電荷輸送物質は、単層型感光層に含まれるものと同様の電荷輸送物質の1種または2種以上を使用できる。
バインダ樹脂は、単層型感光層に含まれるものと同様のバインダ樹脂の1種または2種以上を使用できる。
電荷輸送物質と本発明のジアミン化合物との使用割合は、単層型感光層と同様である。
電荷発生物質とバインダ樹脂との使用割合は、単層型感光層と同様である。
電荷輸送層は、前記3種の必須成分のほかに、必要に応じて、単層型感光層に含まれるものと同様の酸化防止剤などの添加剤を含むことができる。
【0083】
電荷輸送層4は、電荷輸送物質、本発明のジアミン化合物、バインダ樹脂および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解または分散して電荷輸送層形成用塗布液を調製し、この塗布液を電荷発生層3の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。より具体的には、例えば、バインダ樹脂を有機溶剤に溶解してなる樹脂溶液に電荷輸送物質、本発明のジアミン化合物および必要に応じて他の添加剤を溶解または分散させることにより、電荷輸送層形成用塗布液を調製する。
その他の工程およびその条件は、単層型感光層の形成に準ずる。
【0084】
電荷輸送層4の膜厚は特に限定されないが、5〜50μmが好ましく、10〜40μmが特に好ましい。電荷輸送層の膜厚が5μm未満では、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがあり、逆に電荷輸送層の膜厚が50μmを超えると、感光体の解像度が低下するおそれがある。
【0085】
[表面保護層]
表面保護層5は、感光体の耐久性を向上させる機能を有し、電荷輸送物質とバインダ樹脂とを含有する。
電荷輸送物質は、単層型感光層に含まれるものと同様の電荷輸送物質の1種または2種以上を使用できる。
バインダ樹脂は、単層型感光層に含まれるものと同様のバインダ樹脂の1種または2種以上を使用できる。
【0086】
表面保護層5は、例えば、適当な有機溶剤に電荷輸送物質およびバインダ樹脂などを溶解または分散させて表面保護層形成用塗布液を調製し、この表面保護層形成用塗布液を単層型感光層2または積層型感光層7の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成できる。ここで用いられる有機溶剤としては、感光層2の形成に用いられる有機溶剤と同様のものを使用できる。
その他の工程およびその条件は、単層型感光層の形成に準ずる。
有機溶剤は、単層型感光層の形成用塗布液の調製に用いられるものと同様の溶剤の1種または2種以上を使用できる。
表面保護層5の膜厚は特に制限されないが、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmが特に好ましい。表面保護層5の膜厚が0.5μm未満では、感光体表面の耐擦過性が劣り、耐久性が不十分になるおそれがあり、逆に10μmを超えると、感光体の解像度が低下するおそれがある。
【0087】
[中間層6]
本発明の感光体は、導電性支持体と単層型感光層または積層型感光層との間に中間層を有するのが好ましい。
中間層は、導電性支持体から単層型感光層または積層型感光層への電荷の注入を防止する機能を有する。すなわち、単層型感光層または積層型感光層の帯電性の低下が抑制され、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少が抑えられ、かぶりなどの画像欠陥の発生が防止される。特に、反転現像プロセスによる画像形成の際に、白地部分にトナーからなる微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像かぶりが発生するのが防止される。
また、中間層で導電性支持体の表面を被覆する中間層は、導電性支持体の表面の欠陥である凹凸の度合を軽減して表面を均一化し、単層型感光層または積層型感光層の成膜性を高め、導電性支持体と単層型感光層または積層型感光層との密着性を向上させることがで
きる。
【0088】
中間層は、例えば、樹脂材料を適当な溶剤に溶解させて中間層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成できる。
樹脂材料としては、単層型感光層に含まれるものと同様のバインダ樹脂に加えて、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロースなどの天然高分子材料などが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
樹脂材料を溶解または分散させる溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルカルビトール、ブチルカルビトールなどのグライム類、これらの溶剤を2種以上混合した混合溶剤などが挙げられる。
その他の工程およびその条件は、単層型感光層の形成に準ずる。
【0089】
また、中間層形成用塗布液は、金属酸化物粒子を含んでいてもよい。
金属酸化物粒子は、中間層の体積抵抗値を容易に調節でき、単層型感光層または積層型感光層への電荷の注入をさらに抑制できると共に、各種環境下において感光体の電気特性を維持できる。
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化スズなどが挙げられる。
中間層形成用塗布液における樹脂材料と金属酸化物粒子との合計含有量をC、溶剤の含有量をDとするとき、両者の容量比率(C/D)は、1/99〜40/60(重量比率=0.01〜0.67)が好ましく、2/98〜30/70(重量比率=0.02〜0.43)が特に好ましい。
また、樹脂材料の含有量(E)と金属酸化物粒子の含有量(F)との容量比率(E/F)は、1/99〜90/10(重量比率=0.01〜9.0)が好ましく、5/95〜70/30(重量比率=0.05〜2.33)が特に好ましい。
【0090】
中間層の膜厚は特に限定されないが、0.01〜20μmが好ましくは、0.1〜10μmが特に好ましい。中間層の膜厚が0.01μm未満では、中間層として実質的に機能しなくなり、導電性支持体の欠陥を被覆して均一な表面が得られないおそれがあり、中間層の膜厚が20μmを超えると、均一な中間層を形成し難く、また感光体の感度も低下するおそれがある。
なお、導電性支持体の構成材料がアルミニウムの場合には、アルマイトを含む層(アルマイト層)を形成し、中間層とすることができる。
【0091】
本発明の画像形成装置は、本発明の感光体と、前記感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記感光体に対して露光を施す露光手段と、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備えることを特徴とする。
【0092】
図面を用いて本発明の画像形成装置について説明するが、以下の記載内容に限定されるものではない。
図9は、本発明の画像形成装置の構成を示す模式側面図である。
図9の画像形成装置20は、本発明の感光体21(例えば、図1〜8の感光体11〜18のいずれか1つ)と、帯電手段(帯電器)24と、露光手段28と、現像手段(現像器)25と、転写器26と、クリーナ27と、定着器31とを含んで構成される。図番30は転写紙を示す。
【0093】
感光体21は、図示しない画像形成装置20本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線22回りに矢符23方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体21の芯体を構成する導電性
支持体に伝えることによって、感光体21を所定の周速度で回転駆動させる。帯電器24、露光手段28、現像器25、転写器26およびクリーナ27は、この順序で、感光体21の外周面に沿って、矢符23で示される感光体21の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
【0094】
帯電器24は、感光体21の外周面を所定の電位に帯電させる帯電手段である。本実施の形態では、帯電器24は、接触式の帯電ローラ24aと、帯電ローラ24aに電圧を印加するバイアス電源24bとによって実現される。
帯電手段としてはチャージャーワイヤも使用できるが、感光体表面の高い耐摩耗性が要求される帯電ローラにおいて、本発明による表面保護層が形成された感光体は耐久性向上により大きな効果を発揮する。
したがって、本発明の画像形成装置においては、帯電手段は接触帯電手段であるのが好ましい。
【0095】
露光手段28は、例えば半導体レーザなどを光源として備え、光源から出力されるレーザビームなどの光28aを、感光体21の帯電器24と現像器25との間に照射することによって、帯電された感光体21の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光28aは、主走査方向である感光体21の回転軸線22の延びる方向に繰返し走査され、これに伴って感光体21の表面に静電潜像が順次形成される。
【0096】
現像器25は、露光によって感光体21の表面に形成される静電潜像を、現像剤によって現像する現像手段であり、感光体21を臨んで設けられ、感光体21の外周面にトナーを供給する現像ローラ25aと、現像ローラ25aを感光体21の回転軸線22と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング25bとを備える。
【0097】
転写器26は、現像によって感光体21の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符29方向から感光体21と転写器26との間に供給される記録媒体である転写紙30上に転写させる転写手段である。転写器26は、例えば、帯電手段を備え、転写紙30にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙30上に転写させる非接触式の転写手段である。
【0098】
クリーナ27は、転写器26による転写動作後に感光体21の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、感光体21の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード27aと、クリーニングブレード27aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング27bとを備える。また、このクリーナ27は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0099】
また、画像形成装置20には、感光体21と転写器26との間を通過した転写紙30が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器31が設けられる。定着器31は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ31aと、加熱ローラ31aに対向して設けられ、加熱ローラ31aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ31bとを備える。
【0100】
この画像形成装置20による画像形成動作は、次のようにして行われる。まず、感光体21が駆動手段によって矢符23方向に回転駆動されると、露光手段28による光28aの結像点よりも感光体21の回転方向上流側に設けられる帯電器24によって、感光体21の表面が正または負の所定電位に均一に帯電される。
【0101】
次いで、露光手段28から、感光体21の表面に対して画像情報に応じた光28aが照
射される。感光体21は、この露光によって、光28aが照射された部分の表面電荷が除去され、光28aが照射された部分の表面電位と光28aが照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
露光手段28による光28aの結像点よりも感光体21の回転方向下流側に設けられる現像器25から、静電潜像の形成された感光体21の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
【0102】
感光体21に対する露光と同期して、感光体21と転写器26との間に、転写紙30が供給される。転写器26によって、供給された転写紙30にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体21の表面に形成されたトナー像が、転写紙30上に転写される。
トナー像の転写された転写紙30は、搬送手段によって定着器31に搬送され、定着器31の加熱ローラ31aと加圧ローラ31bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙30に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙30は、搬送手段によって画像形成装置20の外部へ排紙される。
【0103】
一方、転写器26によるトナー像の転写後も感光体21の表面上に残留するトナーは、クリーナ27によって感光体21の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体21の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体21の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体21はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰返されて連続的に画像が形成される。
本発明による画像形成装置20は、本発明のジアミン化合物が均一に分散された感光層を有する感光体21を備えるので、黒点などの画像欠陥のない高品質の画像を形成することができる。
【実施例】
【0104】
以下に製造例(比較を含む)、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、これらの製造例(比較を除く)および実施例により本発明が限定されるものではない。
なお、製造例で得られた化合物の化学構造、分子量および元素分析は、以下の装置および条件により測定した。
【0105】
(化学構造)
核磁気共鳴装置:NMR(ブルカーバイオスピン社製、型式:DPX−200)
サンプル調整 約4mg試料/0.4m(CDCl3)
測定モード 1H(通常)、13C(通常、DPET−135)
【0106】
(分子量)
分子量測定装置:LC−MS(サーモクエスト社製、
フィネガン LCQ Deca マススペクトロメーターシステム)
LCカラム GL-Sciences Inertsil ODS-3 2.1×100mm
カラム温度 40℃
溶離液 メタノール:水=90:10
サンプル注入量 5μl
検出器 UV254nmおよびMS ESI
【0107】
(元素分析)
元素分析装置:パーキン エールマー社製、Elemental Analysis 2400
サンプル量: 約2mgを精秤
ガス流量(ml/分):He=1.5、O2=1.1、N2=4.3
燃焼管温度設定:925℃
還元管温度設定:640℃
なお、元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)および窒素(N)同時定量法に分析した。
【0108】
(製造例1)
次の反応式にしたがって、例示化合物No.1を製造した。
【化11】

【0109】
無水1,4−ジオキサン50ml中に1,2−ジブロモー1,2−ジフェニルエタン4.23g(1.0当量)とジベンジルアミン10.0g(2.1当量)を加え、アイスバスにて氷冷下に冷却した。この溶液中に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン6.86g(2.2当量)を徐々に加えた。その後、徐々に加熱して反応温度を100〜110℃まで上げ、100〜110℃を保つように加熱しながら4時撹拌した。反応終了後、この反応溶液を放冷し、生じた沈殿を濾取し、充分に水洗した後、エタノールと酢酸エチルとの混合溶剤(エタノール:酢酸エチル=8:2〜7:3)で再結晶を行うことによって、白色粉末状化合物11.5gを得た。
【0110】
得られた白色粉末状化合物を化学分析した結果、
核磁気共鳴装置:NMR
1H−NMRスペクトル(通常)は、δ(ppm)=3.8(S.8H)、6.4(S.2H)、7.0〜7.8(m.30H)を示した。
また、13C−NMRスペクトル(通常、DPET−135)は、δ=57.5(CH2、シグナル強度4)、77.2(CH、シグナル強度2)、126.4(CH、シグナル強度4)、127.6(CH、シグナル強度4)、128.3(CH、シグナル強度4)、128.8(CH、シグナル強度8)、128.9(CH、シグナル強度8)、129.2(CH、シグナル強度4)、139.9(C、シグナル強度4)、141.0(C、シグナル強度2)を示した。
さらに、分子量測定装置:LC−MSは例示化合物No.1(分子量の計算値:572.32)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが573.2に観測された。
【0111】
また、白色粉末状化合物の元素分析値は以下のとおりであった。
<例示化合物No.1の元素分析値>
理論値 C:88.07%、H:7.04%、N:4.89%
実測値 C:87.74%、H:6.75%、N:4.39%
以上、NMR、LC−MSおよび元素分析などの分析結果から、得られた白色粉末状化合物が、例示化合物No.1のジアミン化合物であることがわかった(収率:83.3%)。また、LC−MS測定時のHPLCの分析結果から、得られた例示化合物No.1の純度は99.0%であった。
【0112】
(製造例2〜10)
製造例1において、一般式(4)および(5)で示されるアミン化合物、一般式(6)で示されるジハロゲン化合物として表2に示す各原料化合物を用いて全く同様の操作を行ない、例示化合物No.2、3、4、15、20、28、48、51および59をそれぞれ製造した。なお、表2には、例示化合物No.1の原料化合物も併せて示す。
【0113】
【表2】

【0114】
また、上記の製造例1〜10で得られた各例示化合物の元素分析値と分子量の計算値およびLC−MSによる実測値[M+H]を表3に示す。
【0115】
【表3−1】

【0116】
【表3−2】

【0117】
(製造例11)(比較用ジアミン化合物の合成および無機系の塩基を使用し、水系での反応処理による製造例)
特開平5−158258号公報に記載の合成例に従い、記載の例示化合物(No.10)である下記化学構造式で表されるジアミン化合物(7)(以後、「比較製造例により合成したジアミン化合物」と称す)6.2gを得た。
【0118】
【化12】

【0119】
得られた比較製造例により合成したジアミン化合物の元素分析値は以下のとおりであった。
<比較製造例により合成したジアミン化合物の元素分析値>
理論値 C:85.67%、H:7.67%、N:6.66%
実測値 C:84.21%、H:6.38%、N:5.87%
また、得られた比較製造例により合成したジアミン化合物をLC−MSで分析した結果、目的とする上記化学構造式で表される化合物(分子量の計算値:420.26)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが421.5に観測された。
元素分析およびLC−MSの分析結果から、得られた化合物が、特開平5−158258号公報に記載の例示化合物(No.10)のジアミン化合物であることがわかった。また、LC−MS測定時のHPLCの分析結果から、得られたジアミン化合物の純度は96.3%であった。
【0120】
(実施例1)
以下のようにして、製造例1で製造した本発明によるジアミン化合物である例示化合物No.1を電荷輸送層に含有させた感光体を作製した。導電性支持体には、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(略称PET)フィルムの表面にアルミニウムを蒸着したもの(以後、「アルミニウム蒸着PETフィルム」と称す)を用いた。
【0121】
酸化チタン(商品名:タイベークTTO55A、石原産業株式会社製)7重量部および共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ株式会社製)13重量部を、メチルアルコール159重量部と1,3−ジオキソラン106重量部との混合溶剤に加え、ペイントシェーカにて8時間分散処理し、中間層形成用塗布液100gを調製した。この中間層形成用塗布液を、導電性支持体であるアルミニウム蒸着PETフィルムのアルミニウム表面にアプリケータによって塗布し、自然乾燥して膜厚1μmの中間層を形成した。
【0122】
次いで、X型無金属フタロシアニン(Fastogen Blue 8120、大日本インキ社製)1重量部およびブチラール樹脂(商品名:#6000−C、電気化学工業株式会社製)1重量部を、メチルエチルケトン98重量部に混合し、ペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層形成用塗布液50gを調製した。この電荷発生層形成用塗布液を、前記の中間層と同様の方法で、先に設けた中間層表面に塗布し、自然乾燥して膜厚0.4μmの電荷発生層を形成した。
【0123】
次いで、製造例1で製造した例示化合物No.1のジアミン化合物2.5重量部、下記構造式(8)で示される電荷輸送物質100重量部およびポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ400、三菱ガス化学株式会社製)180重量部を混合し、トルエンを溶剤として固形分10重量%の電荷輸送層形成用塗布液10gを調製した。この電荷輸送層形成用塗布液を、前記の中間層と同様の方法で、先に設けた電荷発生層表面に、それぞれ膜厚が15μmと28μmになるように2種類の膜厚の異る電荷輸送層を形成した。このようにして、前記の図7に示す感光体17と同様に、導電性支持体に中間層、電荷発生層および電荷輸送層が順次積層された積層構造を有する本発明による積層型感光体を作製した。
【0124】
【化13】

【0125】
(実施例2〜4)
本発明によるジアミン化合物である例示化合物No.1に代えて例示化合物No.2、28および59を用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性支持体に中間層、電荷発生層および電荷輸送層が順次積層された積層構造を有する本発明による積層型感光体を作製した。
【0126】
(実施例5)
電荷輸送物質として下記構造式(9)で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性支持体に中間層、電荷発生層および電荷輸送層が順次積層された積層構造を有する本発明による積層型感光体を作製した。
【0127】
【化14】

【0128】
(実施例6)
電荷輸送物質として下記構造式(10)で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性支持体に中間層、電荷発生層および電荷輸送層が順次積層された積層構造を有する本発明による積層型感光体を作製した。
【0129】
【化15】

【0130】
(実施例7)
例示化合物No.1のジアミン化合物0.1重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性支持体に中間層、電荷発生層および電荷輸送層が順次積層された積層構造を有する本発明による積層型感光体を作製した。
【0131】
(実施例8)
例示化合物No.1のジアミン化合物20重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性支持体に中間層、電荷発生層および電荷輸送層が順次積層された積層構造を有する本発明による積層型感光体を作製した。
【0132】
(比較例1)
本発明によるジアミン化合物を用いないこと以外は実施例1と同様にして、積層型感光体を作製した。
【0133】
(比較例2)
本発明によるジアミン化合物を用いないこと以外は実施例5と同様にして、積層型感光体を作製した。
【0134】
(比較例3)
本発明によるジアミン化合物を用いないこと以外は実施例6と同様にして、積層型感光体を作製した。
【0135】
(比較例4)
本発明によるジアミン化合物の代りにヒドロキシエチルジベンジルアミン(特開平3−172852号公報記載化合物)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、積層型感光体を作製した。
【0136】
(比較例5)
本発明によるジアミン化合物の代りに比較製造例(製造例11)により合成したジアミン化合物(特開平5−158258号公報に記載の化合物)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、積層型感光体を作製した。
【0137】
以上のようにして作製した実施例1〜8および比較例1〜5の各感光体について、以下のようにして(a)耐オゾンガス性および(b)電気特性の安定性を評価し、さらに(c)感光体性能の総合判定を行なった。
【0138】
(a)耐オゾンガス性
〔評価装置による評価〕
実施例1〜8および比較例1〜5の各評価装置評価用感光体(電荷輸送層の層厚:15μm)を試験用複写機にそれぞれ搭載し、温度25℃、相対湿度50%の常温/常湿(N/N:Normal Temperature/Normal Humidity)環境下において、帯電直後の感光体の表面電位V1(V)および帯電から3秒間経過後の感光体の表面電位V2(V)を測定した。試験用複写機には、感光体の帯電手段としてコロナ放電帯電器を備える市販の複写機AR−F330(商品名、シャープ株式会社製)の内部に、画像形成過程における感光体の表面電位を測定できるように表面電位計(商品名:CATE751、ジェンテック社製)を設けたものを用いた。測定された帯電直後の表面電位V1(V)および帯電から3秒間経過後の表面電位V2(V)を下記式(I)に代入し、電荷保持率DD(%)を算出し、これを初期電荷保持率DD0とした。
【0139】
【数1】

【0140】
次いで、オゾン発生・制御装置(商品名:OES−10A、ダイレック株式会社製)を用い、各感光体をオゾン濃度が約7.5ppm(ダイレック株式会社製のオゾン濃度計MODEL1200(商品名)にて確認)に調整された密閉された容器中で20時間オゾンに曝露した。オゾンへの曝露後、各感光体を温度25℃、相対湿度50%の常温/常湿(N/N)環境下に2時間放置した後、オゾン曝露前と同様にして電荷保持率DD(%)を求め、これをオゾン曝露後の電荷保持率DD02とした。
オゾン曝露前の電荷保持率すなわち初期電荷保持率DD0からオゾン曝露後の電荷保持率DD02を差引いた値を、電荷保持率変化量ΔDD(=DD0−DD02)として求め
、耐オゾンガス性の評価指標とした。
【0141】
〔実機による評価〕
実施例1〜8および比較例1〜5の各実機評価用感光体(電荷輸送層の層厚:28μm)を、感光体の帯電手段としてコロナ放電帯電器を備える市販の複写機AR−F330(商品名、シャープ株式会社製)にそれぞれ搭載し、温度25℃、相対湿度50%の常温/常湿(N/N)環境下において、所定のパターンのテスト画像を記録用紙5万枚に実写させた。5万枚の実写が終了した時点から1時間複写機の動作を停止させた後、記録用紙にハーフトーン画像を複写させ、これを第1評価用画像とした。次いで、再び温度25℃、相対湿度50%のN/N環境下において所定のパターンのテスト画像を記録用紙5万枚に実写させ、5万枚の実写が終了した時点から1時間複写機の動作を停止させた後、記録用紙にハーフトーン画像を複写させ、これを第2評価用画像とした。
【0142】
形成された第1評価用画像および第2評価用画像をそれぞれ目視によって観察し、複写機の動作停止時にコロナ放電帯電器に近接して配置されていた感光体の部位からトナー像が転写された部分に相当する記録用紙の部位の画質を、白抜けおよび黒帯などの画像欠陥の発生度合によって判定し、耐オゾンガス性の評価指標とした。画質の判定基準は以下のようである。
【0143】
◎:優(第1評価用画像および第2評価用画像のいずれにも画像欠陥が全く発生していない)
○:良(第1評価用画像および第2評価用画像のいずれか一方または両方に若干の画像欠陥が発生しているけれども、無視できる程度である)
△:可(第1評価用画像および第2評価用画像のいずれか一方または両方に若干の画像欠陥が発生しているけれども、実使用上問題がない程度である)
×:不可(第1評価用画像および第2評価用画像のいずれか一方または両方に多数の画像欠陥が発生し、実使用不可)
【0144】
以上の電荷保持率変化量ΔDDの値と画質の判定結果とを合わせて、感光体の耐オゾンガス性を評価した。耐オゾンガス性の評価基準は以下のようである。
◎:優良(ΔDDが3.0%未満かつ画質が優(◎))
○:良好(ΔDDが3.0%以上7.0%未満かつ画質が優(◎)、またはΔDDが7.0%未満かつ画質が良(○))
△:実使用上問題なし(ΔDDが7.0%未満かつ画質が可(△))
×:不良(ΔDDが7.0%以上、または画質が不可(×))
【0145】
(b)電気特性の安定性
実施例1〜8および比較例1〜5の各実機評価用感光体(電荷輸送層の層厚:28μm)を試験用複写機にそれぞれ搭載し、温度5℃、相対湿度20%の低温/低湿(L/L:Low Temperature/Low Humidity)環境下および温度35℃、相対湿度85%の高温/高湿(H/H:High Temperature/High Humidity)環境下のそれぞれの環境下において、以下のようにして電気特性の安定性を評価した。試験用複写機には、感光体の帯電手段としてコロナ放電帯電器を備える市販の複写機AR−F330(商品名、シャープ株式会社製)の内部に、画像形成過程における感光体の表面電位を測定できるように表面電位計(商品名:CATE751、ジェンテック社製)を設けたものを用いた。なお、複写機AR−F330は、感光体表面を負に帯電して電子写真プロセスを行なう負帯電型の画像形成装置である。
【0146】
実施例1〜8および比較例1〜5の各感光体が搭載された試験用複写機を用い、帯電器による帯電動作直後の感光体の表面電位を帯電電位V0(V)として測定し、これを初期の帯電電位V01とした。またレーザ光によって露光を施した直後の感光体の表面電位を
残留電位Vr(V)として測定し、これを初期の残留電位Vr1とした。
次いで、所定のパターンのテスト画像を記録用紙30万枚に連続して複写させた後、初期と同様にして帯電電位V0および残留電位Vrを測定し、これらを繰返し使用後の帯電電位V02および繰返し使用後の残留電位Vr2とした。初期の帯電電位V01と繰返し使用後の帯電電位V02との差の絶対値を、帯電電位変化量ΔV0(=|V01−V02|)として求めた。また初期の残留電位Vr1と繰返し使用後の残留電位Vr2との差の絶対値を、残留電位変化量ΔVr(=|Vr1−Vr2|)として求めた。帯電電位変化量ΔV0および残留電位変化量ΔVrを評価指標として、電気特性の安定性を評価した。
【0147】
L/L環境下における電気特性の安定性の評価基準は以下のようである)
◎:優良(ΔV0が35V以下かつΔVrが55V以下)
○:良好(ΔV0が35V以下かつΔVrが55Vを超え80V以下、またはΔV0が35Vを超え75V以下かつΔVrが55V以下)
△:実使用上問題なし。ΔV0が35Vを超え75V以下かつΔVrが55Vを超え80V以下)
×:不良(ΔV0が75Vを超える、またはΔVrが80Vを超える)
【0148】
H/H環境下における電気特性の安定性の評価基準は以下のようである。
◎:優良(ΔV0が15V以下かつΔVrが105V以下)
○:良好(ΔV0が15V以下かつΔVrが105Vを超え125V以下、またはΔV0が15Vを超え30V以下かつΔVrが105V以下)
△:実使用上問題なし(ΔV0が15Vを超え30V以下かつΔVrが105Vを超え125V以下)
×:不良(ΔV0が30Vを超える、またはΔVrが125Vを超える)
【0149】
また、L/L環境下における評価結果とH/H環境下における評価結果とを合わせて、電気特性の安定性の総合評価を行なった。電気特性の安定性の総合評価の評価基準は以下のようである。
◎:優良(L/L環境下およびH/H環境下がいずれも優良(◎))
○:良好(L/L環境下およびH/H環境下のいずれかが良好(○)かつ他方が優良(◎)または良好(○))
△:実使用上問題なし(L/L環境下およびH/H環境下のいずれかが実使用上問題なし(△)かつ他方が不良(×)でない)
×:不良)L/L環境下およびH/H環境下のいずれか一方または両方が不良(×))
【0150】
(c)感光体性能の総合判定
耐オゾンガス性の評価結果と電気特性の安定性の総合評価結果とを合わせて、感光体性能の総合判定を行なった。総合判定の判定基準は以下のようである)
◎:優良(耐オゾンガス性および電気特性の安定性がいずれも優良(◎))
○:良好(耐オゾンガス性および電気特性の安定性のいずれかが良好(○)かつ他方が優良(◎)または良好(○))
△:実使用上問題なし(耐オゾンガス性および電気特性の安定性のいずれかが実使用上問題なし(△)かつ他方が不良(×)でない)
×:不良(耐オゾンガス性および電気特性の安定性のいずれか一方または両方が不良(×))
以上の評価結果を表4に示す。
【0151】
【表4】

【0152】
実施例1〜6と比較例1〜3との比較から、本発明によるジアミン化合物を含有する実施例1〜6の感光体は、含有していない比較例1〜3の感光体に比べて、耐オゾンガス性
および電気特性の安定性に優れ、繰返し使用されても良好な電気特性を示すことがわかる。
また、異なる骨格を有する電荷輸送物質に対しても、一様な性能を示し、各種電荷輸送物質に対しての適用範囲が広いこともわかる。
【0153】
さらに、実施例7および8から、本発明によるジアミン化合物の添加量は電荷輸送物質100重量部に対して0.1〜20重量部の範囲内であれば良好な効果を示すことがわかる。
実施例1と比較例4および5との比較から、本発明と同様な目的で提案されている公知のアミン系あるいはジアミン系材料は、画質にまで及んで評価を実施した場合に効果の違いが明白に現れており、本発明のジアミン系化合物を用いた実施例1の感光体の方が優れていることがわかる。
【0154】
また、ジアミン系材料は画質的な比較では本発明のジアミン系化合物と比較でも許容範囲内であるが、製造方法に起因すると思われる無機の金属製不純物の影響による繰り返しの電気特性面で悪化が著しく問題があることがわかる。
なお、実施例1と比較例6比較から、同じジアミン化合物であっても製造方法が異なることによる特性面での違いが繰り返しの電気特性面に顕著に現れている。
以上のように、一般式(1)で表される本発明のジアミン化合物を感光体に含有させることによって、帯電性および応答性などの電気特性に優れるとともに、耐オゾンガス性に優れ、繰返し使用されても前述の良好な電気特性が低下しない特性安定性に優れる感光体を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】本発明の単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明の単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図4】本発明の単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【0156】
【図5】本発明の積層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図6】本発明の積層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図7】本発明の積層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図8】本発明の積層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【0157】
【図9】本発明の画像形成装置の構成を示す模式側面図である。
【符号の説明】
【0158】
1 導電性支持体
2 単層型感光層
3 電荷発生層
4 電荷輸送層
5 表面保護層
6 中間層
7 積層型感光層
11〜18、21 感光体
【0159】
20 画像形成装置
22 回転軸線
23、29 矢符
24 帯電手段(帯電器)
24a 帯電ローラ
24b バイアス電源
25 現像手段(現像器)
25a 現像ローラ
25b ケーシング
26 転写器
27 クリーナ
27a クリーニングブレード
27b 回収用ケーシング
28 露光手段
28a 光
30 転写紙
31 定着器
31a 加熱ローラ
31b 加圧ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料からなる導電性支持体上に、電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層が積層されてなる電子写真感光体であって、前記単層型感光層または前記積層型感光層の電荷輸送層が、
一般式(1):
【化1】

(式中、
Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、同一または異なって、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいヘテロ原子含有シクロアルキル基または置換基を有してもよい1価の複素環残基であり;
1、Y2、Y3およびY4は、同一または異なって、置換基を有してもよい鎖状のアルキレン基である)
で示されるジアミン化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記ジアミン化合物が、副式(2):
【化2】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、一般式(1)と同義であり;n、m、lおよびpは、同一または異なって1〜3の整数である)
で示される請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記ジアミン化合物が、副式(3):
【化3】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、一般式(1)と同義である)
で示される請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記電荷輸送物質の重量Aと前記ジアミン化合物の重量Bとの比率A/Bが、100/0.1以上100/20以下である請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記導電性支持体と前記単層型感光層または前記積層型感光層との間に中間層を有する請求項1〜4のいずれか1つ記載の電子写真感光体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体に対して露光を施す露光手段と、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
前記帯電手段が、接触帯電手段である請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項8】
構造式:
【化4】

で示されるジアミン化合物。
【請求項9】
構造式(II):
【化5】

で示されるアミン化合物と、構造式(III):
【化6】

で示されるジブロモ化合物とを、有機アミン塩基の存在下に反応させて、請求項8に記載のジアミン化合物を得ることを特徴とするジアミン化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−281936(P2008−281936A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128196(P2007−128196)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】