説明

ジイモニウム化合物

【課題】アンチモンや砒素を含有せず、優れた安定性、特に耐熱性、耐光性、耐湿熱性を有する近赤外線吸収性化合物、さらにその近赤外線性吸収化合物を用いて作製した耐光性、耐熱性等の耐性に優れた近赤外線吸収フィルター、光学フィルター、光記録媒体を提供する。
【解決手段】下記式(2)で示されるジイモニウム化合物、及びこれを用いて得られる近赤外線吸収フィルター。特にこのジイモニウム化合物を含有する粘着層を透明支持体上に有する近赤外線吸収フィルターさらにはこれを用いた光学フィルター。


(式(2)中、R〜Rはエチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基又はn−アミル基を、R〜R11はトリフルオロメチル基をそれぞれ表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近赤外線領域に吸収を有する化合物及びその用途に関する。特に劇物に該当せず、耐熱性、耐光性及び溶解性等に優れるジイモニウム化合物並びにそれを用いた近赤外線吸収フィルター更には光学フィルター及び光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線吸収材としてのジイモニウム化合物は、広く知られており(例えば特許文献1〜3参照)、近赤外線吸収フィルター、断熱フィルム、サングラス等に広く利用されている。しかしながら、これらの化合物の中で、対イオンが六フッ化アンチモン酸イオン、六フッ化砒素イオン等であるものが、比較的耐熱性に優れるという理由から用いられ、中でも六フッ化アンチモン酸イオンを対イオンとする化合物が多く使用されていた。しかしアンチモンを含む化合物は、劇物に該当する為、重金属等の使用が規制を受ける産業分野、特に電気材料分野ではこれらの金属を含まない化合物の開発が望まれていた。これを解決する手段として、過塩素酸イオン、六フッ化リン酸イオン、ホウフッ化イオン等を対イオンとして用いる方法があるが、耐熱性や耐湿熱性を考えると、これらの対イオンでは不十分である。更にナフタレンジスルホン酸などの有機対イオンを使用した化合物も提案されているが(例えば特許文献2参照)、モル吸光係数が低く、化合物自体が緑味を帯びている為、実用上使用出来る分野が限定される。またトリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタン)スルホン酸イミドなどを用いたものも知られている(例えば特許文献1、4、5参照)が、これらも十分な耐熱性や耐湿熱性を有しているとはいえず、さらに優れた化合物の開発が求められていた。
【0003】
ところで、近赤外線は電気機器類を遠隔操作するときのビームとして使用されるため、近赤外線を放出する機器類は、周辺に設置されている電気機器類を誤作動させてしまう恐れがあり、そのような機器類の前面には近赤外線を遮蔽する機能を有するフィルターを設置する必要がある。
【0004】
電気機器類の中で、近年大型テレビ等に多用されるようになったPDP(プラズマディスプレイパネル)の原理は2枚の板状ガラスで挟まれたセルに封入した希ガス(ネオン、キセノン等)に電圧をかけ、そのときに生じる紫外線をセル壁面に塗布された発光体に当てることにより画像に必要な可視光線を発生させるものであるが、可視光線と同時に近赤外線、人体に有害な電磁波、ネオンガスに起因し、赤色光の純度を下げる橙色光線(以下、ネオン光と記す)等の有害な電磁波も一緒に放出されるため、PDPでは有益な可視光線は透過させるが、近赤外線をはじめとする有害な電磁波は遮蔽する必要があり、そのための光学フィルターが必要とされる。
【0005】
光学フィルターに使用される近赤外線吸収フィルターは近赤外線を吸収する化合物(近赤外線吸収化合物)を透明支持体の表面や、人体に有害な電磁波を遮蔽するフィルム(以下、電磁波遮蔽フィルムと記す)等の機能性フィルムの表面に高分子樹脂をバインダーとして被覆して製造される。このような用途における近赤外線吸収化合物としては、多くの種類があるが、近赤外線に対する吸収波長域が広いという理由からジイモニウム化合物またはこれと他の近赤外線吸収化合物が組み合わされて使用されることが多い。
【0006】
しかしながら、従来のジイモニウム化合物には前記したような有害性についての難点があるばかりでなく、それらの化合物を樹脂フィルム等に樹脂をバインダーとして被覆を行う等により近赤外線吸収フィルターを得た場合、ジイモニウム化合物が一般的に耐熱安定性や、耐湿熱安定性が不十分であるという安定性についての問題が指摘されている。
【0007】
ジイモニウム化合物の安定化技術としては、特許文献6に高分子樹脂膜層に残存する溶剤量を一定割合以下に制御した状態でジイモニウム化合物を含有させることにより安定化できることが開示されているが、残存溶剤量をコントロールする手間が必要であり、より一般的な被覆方法、乾燥方法で高い耐熱性、耐湿熱性の得られるジイモニウム化合物が望まれていた。なお、特許文献7には、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドアニオンまたはトリス(フルオロアルキルスルホニル)カルボアニオンを有するジイモニウム化合物が透明高分子樹脂の被膜層に含有された近赤外線吸収能を有する光学フィルターが開示され、特にビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドアニオンを有するジイモニウム化合物については具体的な化合物例により耐熱性、耐湿熱性が良好であることが開示されている。しかしながら、トリス(フルオロアルキルスルホニル)カルボアニオンを有するジイモニウム化合物に関しては、その具体的な化合物名、製法若しくは物性または使用例についての記述は見られない。更に、近赤外線吸収化合物を樹脂フィルム上に保持する方法として、高分子樹脂膜を接着する粘着層中に含有させる方法があり、この方法では光学フィルターを構成する反射防止フィルムや電磁波遮蔽フィルム等の機能性フィルムの粘着層に近赤外線吸収化合物を含有させることができるため、近赤外線吸収化合物を含有する層を別途設ける方法に比べ、塗工工程が1工程省けるのでコストメリット等が大きいが、高分子樹脂膜中またはコ−ティング層に含有させる場合に比べ、一段と耐熱性、耐湿熱性が劣るようになるため、技術的ハードルが高いとされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−117350号公報(第1−6頁)
【特許文献1】特公平7−51555号公報(第2頁)
【特許文献2】特開平10−316633号公報(第5頁)
【特許文献3】特公昭43−25335号公報(第7−14頁)
【特許文献4】国際公開WO2004/068199号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO2004/048480号パンフレット
【特許文献6】特開2000−227515号公報
【特許文献7】特開2005−49848号公報(第2−12頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記したような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、アンチモンのような重金属を含有せず、さらに優れた安定性、特に耐熱性、耐光性、耐湿熱性を有する近赤外線吸収化合物、近赤外線吸収フィルター(特にプラズマディスプレイパネル用)を提供すること、更には耐候性等に優れた光記録媒体及び樹脂組成物を提供することにある。また本発明の他の目的は、本発明のジイモニウム化合物を用いた近赤外線吸収フィルターの特に好ましい態様を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意努力した結果、特定の構造を有するジイモニウム化合物が前記諸課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、
(1)下記式(2)で示されるジイモニウム化合物
【0011】
【化1】

式(2)中、R〜Rはエチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基又はn−アミル基を、R〜R11トリフルオロメチル基をそれぞれ表す。)、
(2)式(2)のR〜Rがn−ブチル基、iso−ブチル基またはシアノプロピル基である上記(1)記載のジイモニウム化合物、
(3)式(2)のR〜Rがn−ブチル基である上記(1)記載のジイモニウム化合物
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の近赤外線吸収性のジイモニウム化合物は、アンチモン及び砒素などを含まず、劇物にも該当せず、モル吸光係数が10万以上と高く、耐熱性、耐光性及び溶解性等に優れた化合物である。また従来の六フッ化リン酸イオン、過塩素酸イオン、ホウフッ化イオンを有するジイモニウム化合物に比べ、特に耐熱性、耐湿熱性に優れている。この様な特徴を有していることから、本発明のジイモニウム化合物は、近赤外線吸収フィルターや、例えば断熱フィルム及びサングラスのような近赤外線を吸収するための材料として好適に用いることができ、特に、プラズマディスプレイ用の近赤外線吸収フィルター用に好適である。
【0013】
本発明のジイモニウム化合物を使用した近赤外線吸収フィルターは700〜1100nmの波長域の近赤外線を良好に吸収し、特にこれを透明支持体等の上に設けられる粘着層に含有させた場合、優れた耐熱性、耐湿熱性を示し、近赤外線吸収能の劣化、層の変色及び面質の劣化などを起こさず、この近赤外線吸収フィルターと他の機能性フィルムと複合したPDP用の光学フィルターは優れた性能を示し、前記課題に充分対応出来るものである。
【0014】
更に、本発明のジイモニウム化合物を使用した光情報記録媒体は、従来のジイモニウム化合物を含有する光情報記録媒体に比べ、耐光性を大幅に向上することができる。また本発明のジイモニウム化合物は、光情報記録媒体を調製する上での溶解度も十分であり加工性にも優れている。また、例えば光情報記録媒体の記録層に当たる有機色素薄膜に、この化合物を含有させた場合、再記録における耐久性、耐光安定性を著しく向上させた光情報記録媒体を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のジイモニウム化合物は特定のジイモニウムカチオン1個と、対イオンとしての特定のアニオン2個とからなる塩であり、次式(2)で表される。
【0016】
【化2】

(式(2)中、R〜Rはエチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基又はn−アミル基を、R〜R11はトリフルオロメチル基をそれぞれ表す。)
【0017】
本発明の式(2)で表されるジイモニウム化合物は、例えば特許文献3に記載された方法に準じた方法で得ることができる。即ち、p−フェニレンジアミン類と1−クロロ−4−ニトロベンゼン類をウルマン反応させて得られた生成物を還元することにより得られる下記式(3)
【0018】
【化3】

で表される化合物を有機溶媒中、好ましくはジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)またはN−メチルピロリドン (NMP)等の水溶性極性溶媒中、30〜160℃、好ましくは50〜140℃で、所望のR〜Rに対応するハロゲン化化合物(例えば、R〜Rが全てn−Cのときはn−CBr)と反応させて、下記式(4)の化合物を得ることができる。
【0019】
【化4】

上記で合成した式(4)の化合物を、有機溶媒中、好ましくはDMF、DMI、NMP等の水溶性極性溶媒中、0〜100℃、好ましくは5〜70℃で下記式(5)に対応する酸化剤(例えば銀塩)を2当量添加して酸化反応を行う。また上記で合成した式(4)の化合物を硝酸銀、過塩素酸銀、塩化第二銅等の酸化剤で酸化した後、その反応液に、式(5)のアニオンの酸もしくは塩を添加して塩交換を行う。或いは、上記で合成した式(4)の化合物に式(5)のアニオンの酸もしくはアルカリ金属塩を添加し、上記硝酸銀、過塩素酸銀等の鉱酸の酸化剤で酸化反応する方法によっても式(2)で表されるジイモニウム化合物を合成することが出来る。
【0020】
【化5】

【0021】
本発明の式(2)で示されるジイモニウム化合物を混合して樹脂組成物(以下、本発明の樹脂組成物という)とすることができる。
【0022】
本発明の樹脂組成物において、用いうる樹脂の具体例としては例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体等のビニル化合物またはフッ素系化合物の共重合体、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素を含有する樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0023】
本発明の樹脂組成物を作製する方法またはそれを使用する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば次のような、それ自体公知の方法が採用できる。
(1)樹脂に本発明のジイモニウム化合物を混練し、加熱成形して樹脂板またはフィルムを作製する方法、
(2)本発明のジイモニウム化合物と樹脂モノマーまたは樹脂モノマーの予備重合体とを重合触媒の存在下にキャスト重合し、樹脂板またはフィルムを作製する方法、
(3)本発明の樹脂組成物を含有する塗料を作製し、透明樹脂板、透明フィルム、または透明ガラス板等にコーティングする方法、
(4)本発明のジイモニウム化合物及び樹脂(粘着材)を含有させた樹脂組成物(粘着剤)を用いて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、または合わせガラス板を作製する方法、
(5)透明支持体の表面(透明支持体が上記機能を有する場合は、その機能を阻害しない側の表面)に、粘着剤を塗工する際に、本発明のジイモニウム化合物を粘着剤に含有させて粘着層を形成し保持させる方法、
等である。
【0024】
上記(1)の作製方法においては、用いる樹脂(基材樹脂)によって加工温度、フィルム化(樹脂板化)条件等が異なるが、通常、本発明のジイモニウム化合物を基材樹脂の粉体またはペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、あるいは押し出し機によりフィルム化(樹脂板化)する方法等が挙げられる。本発明のジイモニウム化合物の添加量は、作製する樹脂板またはフィルムの厚み、吸収強度、可視光透過率等によって異なるが、通常、基材樹脂の総質量に対し含有量として、0.01〜30質量%、好ましくは0.03〜15質量%である。
【0025】
上記(2)の方法においては、本発明のジイモニウム化合物と樹脂モノマーまたは樹脂モノマーの予備重合体を重合触媒の存在下に型(金型)内に注入し、反応させて硬化させるか、または金型に流し込んで型内で硬い製品となるまで固化させて成形する方法が採用出来る。多くの樹脂がこの方法で成形可能であるが、この様な成形方法を採用しうる樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂、エポキシ樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、硬度、耐熱性、耐薬品性等に優れたアクリルシートが得られるメタクリル酸メチルの塊状重合によるキャスティング法が好ましい。本発明のジイモニウム化合物の濃度は、作製する樹脂板またはフィルムの厚み、吸収強度、可視光透過率等によって異なるが、通常、樹脂の総質量に対し含有量として0.01〜30質量%、好ましくは0.03〜15質量%使用される。
【0026】
この方法において、重合触媒としては公知のラジカル熱重合開始剤が利用できる。用いうる重合触媒の具体例としては、例えばベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。その使用量はジイモニウム化合物と樹脂モノマーまたは樹脂モノマーの予備重合体との混合物の総質量に対し含有量として、通常0.01〜5質量%である。熱重合における加熱温度は、通常40〜200℃であり、重合時間は通常30分〜8時間である。また熱重合以外に、光重合開始剤や増感剤を添加して光重合する方法も採用できる。
【0027】
上記(3)の方法においては、本発明のジイモニウム化合物を樹脂(バインダー)及び有機溶媒に溶解させて塗料化する方法、本発明のジイモニウム化合物を樹脂の存在下に微粒子化して分散させ、水系塗料とする方法等がある。このうち前者の方法では、例えば、脂肪族エステル樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、芳香族エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル変性樹脂等、またはそれらの共重合樹脂をバインダーとして用いることができる。また、本発明のジイモニウム化合物をこの方法に使用する場合、バインダーとして使用する樹脂のガラス転移温度(Tg)が、例えば70℃というような比較的低いTgを有する場合であっても、ジイモニウム化合物の変性を起こすことがなく、耐熱性、耐湿熱性に優れたコーティング層を形成することが出来る。
【0028】
また、有機溶媒としては、ハロゲン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、エーテル系等の有機溶媒、またはそれらの混合溶媒を用いることができる。本発明のジイモニウム化合物の濃度は、作製するコーティングの厚み、吸収強度、可視光透過率によって異なるが、樹脂(バインダー)の質量に対し含有量として、通常0.1〜30質量%である。
【0029】
このように作製した塗料を用いて透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明ガラス等の上にスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、スプレー等でコーティングして近赤外線吸収フィルター等を得ることができる。
【0030】
上記(4)の方法においては、粘着材用の樹脂として、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の樹脂用接着剤、またはポリビニルブチラール系接着剤、エチレン−酢酸ビニル系接着剤等の合わせガラス用の公知の透明接着剤が使用できる。本発明のジイモニウム化合物をその含有量が0.1〜30質量%になるように添加した粘着剤を用いて透明な樹脂板同士、樹脂板と樹脂フィルム、樹脂板とガラス、樹脂フィルム同士、樹脂フィルムとガラス、ガラス同士等を接着して、フィルター等を作製する。
【0031】
なお、上記(1)乃至(4)の方法において、混練、混合の際、紫外線吸収剤、可塑剤等、樹脂成形に用いる通常の添加剤を加えても良い。
【0032】
上記(5)の方法については後に説明する。
【0033】
このようにして得られた本発明の樹脂成形物は、近赤外線を吸収するためのシ−トまたはフィルム(近赤外線吸収フィルター)としての用途の他、赤外線をカットする必要があるフィルターやフィルム、例えば断熱フィルム、光学製品、サングラス等にも使用することが出来る。
【0034】
次に、本発明のジイモニウム化合物の最も特徴的な用途である本発明のジイモニウム化合物を用いた近赤外線吸収フィルターについて説明する。
【0035】
本発明のジイモニウム化合物を含有する層を有する近赤外線吸収フィルター(以下、本発明の近赤外線吸収フィルターという)は、例えば本発明のジイモニウム化合物を含有する樹脂層を基材上に設けたものでもよく、また基材自体が本発明のジイモニウム化合物を含有する樹脂組成物(またはその硬化物)からなるシ−ト、フィルム、板、層等であってもよい。基材としては、一般に近赤外線吸収フィルターに使用し得るものであれば特に制限されないが、通常、前記したような樹脂製の基材やガラスが使用される。本発明のジイモニウム化合物を含有するシ−ト、フィルム、板、層等の厚みは、通常0.1μm〜10mm程度であるが、目的とする近赤外線のカット率等に応じて適宜決定される。また、本発明のジイモニウム化合物の含有量も目的とする近赤外線のカット率に応じて、前記の通り適宜決定される。用いる基材としては、板、フィルム等に成形、加工した場合、できるだけ透明性の高いものが好ましい。
【0036】
本発明の近赤外線吸収フィルターは近赤外線吸収化合物として本発明の式(2)のジイモニウム化合物の1種のみを含有していても良いが、本発明のジイモニウム化合物を2種類以上併用することも、さらには、本発明のジイモニウム化合物以外の近赤外線吸収化合物を併用して作製しても良い。例えばフタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、ジチオールニッケル錯体等の有機系化合物や、金属銅または硫化銅、酸化銅等の銅化合物、酸化亜鉛を主成分とする金属混合物、タングステン化合物、酸化インジウム錫(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)等の金属系化合物または混合物が挙げられる。
【0037】
また、近赤外線吸収フィルターの色調を整える目的で、可視領域に吸収を持つ色素(調色用色素)を、本発明の効果を阻害しない範囲で加えてもよい。また、調色用色素のみを含有するフィルターを作製し、後で本発明の近赤外線吸収フィルターを貼り合わせることもできる。
【0038】
この様な近赤外線吸収フィルターは、プラズマディスプレイの前面板に用いられる場合には、可視光の透過率は高いほどよく、少なくとも40%以上、好ましくは50%以上の透過率が必要である。近赤外線のカット領域は、700〜1100nmであり、その領域の近赤外線の平均透過率が通常50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下である。
【0039】
本発明の近赤外線吸収フィルターは、可視光線領域において非常に高い透過率を示し、アンチモンや砒素を含有せず、環境に優しく、近赤外領域は幅広く吸収する優れた近赤外線吸収フィルターである。また従来のアンチモンを含有しない過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ホウフッ化イオンを含有する近赤外線吸収フィルターに比べて安定性に優れている。さらに近赤外線吸収フィルターを作製する際に用いる溶剤への溶解度も十分である為、加工性にも優れている。特に、本発明の近赤外線吸収フィルターは耐熱、耐湿熱、耐光性において非常に優れており、熱による分解などの反応を起こしにくいため、可視部の着色がほとんど起こらない近赤外線吸収フィルターを得ることができる。
【0040】
次に、本発明の式(2)のジイモニウム化合物を用いた近赤外線吸収フィルターを製造する方法としては、前記(1)乃至(5)のいずれの方法でもよいが、(3)、(4)及び(5)の方法が好ましく、特に(5)の方法、即ち、透明支持体の表面(透明支持体が上記機能を有する場合は、その機能を阻害しない側の表面)に、粘着剤を塗工する際に、本発明のジイモニウム化合物を粘着剤に含有させて粘着層を形成し保持させる方法が、塗工工程が少なくなるというコストメリットがあり特に好ましい。
【0041】
以下、上記の本発明の式(2)で示されるジイモニウム化合物を粘着層に含有せしめて作製される近赤外線吸収フルターについて詳細に説明する。
【0042】
本発明で使用される前記式(2)で示されるジイモニウム化合物は単独で粘着層に含有させても良いが、他の1種または2種以上の式(2)のジイモニウム化合物以外の近赤外線吸収化合物と併用してもよく、併用しうる他の近赤外線吸収化合物の例としては、前記の他、本発明の式(2)のジイモニウム化合物以外のジイモニウム化合物、ニトロソ化合物またはその金属塩、シアニン系化合物、スクワリリウム系化合物、チオールニッケル錯塩系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、トリアリールメタン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物等の有機化合物や酸化アンチモンスズ、酸化インジウムスズ、六ホウ化ランタンなどの希土類金属の六ホウ化物などの無機化合物等が挙げられる。勿論、式(2)のジイモニウム化合物は単独であるいは2種以上の混合物の何れであってもよい。式(2)のジイモニウム化合物と他の近赤外線吸収性化合物を併用する場合は、本発明の式(2)のジイモニウム化合物がその混合物中に40〜100質量%含有されるように使用するのが好ましい。
【0043】
次に、式(2)のジイモニウム化合物を粘着層に含有する近赤外線吸収フィルターの製法について説明する。
【0044】
本発明の近赤外線吸収フィルターに使用される支持体は透明性が高く、傷などがなく、光学フィルムとしての使用に耐えられるものであれば特に種類や厚さは限定されないが、ポリエステル系(以下、PETと記す)、ポリカーボネート系、トリアセテート系、ノルボルネン系、アクリル系、セルロース系、ポリオレフィン系、ウレタン系等の高分子樹脂フィルムがその具体例として挙げられ、外部からの紫外線を吸収してフィルム等の内部部材の機能の安定化をはかるための紫外線吸収物質が含有されている透明な支持体を使用することもできる。その表面には塗工剤との密着性を上げるためにコロナ放電処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理やアンカーコート剤やプライマー等のコーティングを施してあっても良い。また、支持体が、例えば減反射性、防眩・減反射性、帯電防止性、防汚性、ネオン光吸収性、電磁波遮蔽性、色調調整などの機能を単独あるいは複数有するフィルムやシートであれば更に好ましく、これらの上に近赤外線吸収能を有する粘着層を設けた場合は、透明支持体に付与されている機能と近赤外線吸収性能を同時に保有できる光学フィルターが得られるようになるので、そのような態様は製造上好都合であり且つ優れた形態のフィルターとなる。
【0045】
次に、支持体として、前記したような機能を持たせた支持体(フィルム)を使用する例について説明する。
【0046】
まず、減反射フィルムはPETなどの透明支持体の表面に、低屈折率剤を高分子樹脂(バインダー)及びその他の添加剤と共にコーティングして外部からの光の反射を抑えるか、または透明支持体と低屈折率層との間にハードコート層、高屈折率層を施し、各層による反射光を打ち消すようにコントロールして視認性を良くしたフィルムである。次に、防眩・減反射フィルムは前記減反射フィルムの高屈折率層やその他の層に微細粒子を含有させて外部からの光を乱反射させて更に視認性を良くしたフィルムで、アークトップシリーズ(旭硝子製)、カヤコートARSシリーズ(日本化薬製)、カヤコートAGRSシリーズ(日本化薬製)、リアルックシリーズ(日本油脂製)等として市場から容易に入手することができる。
【0047】
更に、電磁波遮蔽フィルムには銅などの金属の極細線を網目のような幾何学模様に透明支持体に保持させたメッシュタイプと、光透過性を有する範囲で極薄膜を透明支持体に保持させた薄膜タイプがあるが、本発明の近赤外線吸収フィルターのためにはメッシュタイプの透明な電磁波遮蔽フィルムが支持体として好ましく使用される。
【0048】
本発明に使用される、その他の機能性を有する透明な支持体としては、ネオン光吸収性、紫外線吸収性、帯電防止性、防汚性、色調調整等の、機能を単独あるいは複数同時に保持させたフィルムがあるが、これらはそれらの性能を有する化合物を含有する樹脂組成物から成形する方法などによりそれ自体公知の方法に準じて調製することが出来る。
【0049】
粘着層の主要成分であるバインダー樹脂(以下粘着材という)としては、本発明のジイモニウム化合物を均一に分散でき、透明支持体の表面に透明に密着でき、フィルターの機能を損なわないものであれば特に限定されないが、用いうる粘着材の例としては、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系、ゴム系、シリコーン系樹脂等の粘着材が挙げられ、透明性、接着性、耐熱性等に優れている点からアクリル系樹脂粘着材が好適である。アクリル系樹脂粘着材は、官能基を持たないアクリル酸アルキルエステルを主成分として、これに官能基を有するアクリル酸アルキルエステルやアクリル酸アルキルエステル以外の他の単量体成分を共重合させたものである。官能基を有するアクリル酸アルキルエステルやアクリル酸アルキルエステル以外の他の単量体成分の共重合割合は、官能基を持たないアクリル酸アルキルエステル成分100質量部あたり0.1〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0050】
官能基を持たないアクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシルまたは(メタ)アクリル酸ドデシルなどの、アルキル基の炭素数が1〜12であるアクリル酸アルキルエステル乃至メタアクリル酸アルキルエステルが挙げられるが、これらは必要に応じ2種類以上を併用しても良い。
【0051】
官能基を有するアクリル酸アルキルエステルまたはアクリル酸アルキルエステル以外の単量体としては、後記する架橋剤との架橋点などとして機能するものが用いられ、その種類については、特に限定はないが、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル系単量体、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−ter−ブチルアミノエチルアクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸系単量体、またはアクリル酸、マレイン酸などが挙げられ、これらは必要に応じて2種類以上を併用しても良い。
【0052】
粘着剤は架橋剤を配合することにより前記アクリル酸系樹脂等の粘着材を架橋しうる組成で用いるのが好ましい。架橋剤としては前記の単量体の種類に応じて適宜用いられ、用いうる架橋剤の例としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物などの脂肪族ジイソシアネート、トリレンジイソシアネートまたはトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物等の芳香族ジイソシアネートの如きポリイソシアネート化合物、ブチルエーテル化スチロールメラミン、トリメチロールメラミンの如きメラミン化合物、ヘキサメチレンジアミンまたはトリエチルジアミン等のジアミン化合物、ビスフェノールA・エピクロルヒドリン等のエポキシ樹脂系化合物、尿素樹脂系化合物、塩化アルミニウム、塩化第二鉄または硫酸アルミニウム等の金属塩等が用いられ、その配合量は、通例、粘着材100質量部当たり、通常0.005〜5質量部、好ましくは0.01〜3質量部程度である。
【0053】
粘着力、凝集力に優れると共に、ポリマー中に不飽和結合がないため光や酸素に対する安定性が高く、また、モノマーの種類や分子量の選択の自由度が高いという理由からアクリル樹脂系粘着材を用いた粘着剤を使用するのが好ましい。粘着材は透明支持体への密着性を保持するために分子量(重合度)の高いもの、即ち、主ポリマーの質量平均分子量(Mw)は60万〜200万程度が好ましく、より好ましくは80万〜180万程度である。
【0054】
プラズマディスプレイパネル(PDP)においては、加圧時に発生するNeガス等に由来する波長550〜620nmの橙色のネオン光は、赤色光の色純度を下げてしまうのでディスプレイ前面である程度カットする必要があり、ネオン光吸収化合物を透明支持体に保持させたネオン光吸収フィルターが通常使用されるが、本発明のジイモニウム化合物を含有する粘着層にネオン光吸収能を有する化合物を含有させることにより、近赤外線とネオン光を同時に吸収できる粘着層を得ることができる。なお、ネオン光吸収化合物としては、例えばテトラアザポルフィリン系化合物が例示されるアザポルフィリン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、アゾメチン系化合物、キサンテン系化合物、オキソノール系化合物、アゾ系化合物等の化合物が挙げられるが、粘着層に含有させる場合には耐熱性、耐湿熱性等の点からテトラアザポルフィリン系化合物がより好ましい。
【0055】
PDPの表面からは人体の健康に良くないとされる電磁波も放出されるため、ディスプレイの前面に電磁波遮蔽フィルターも必要とされ、タイプの異なった電磁波遮蔽フィルターが使用されているが、電磁波遮蔽能力が優れているという理由から、メッシュタイプの電磁波遮蔽フィルターが多く使用されている。このフィルターは前記のように銅等の金属を透明支持体に網目(メッシュ)等の幾何学模様を極細線状に保持させたものであり、PDPの前面に設置して有害電磁波を捕捉し、アースすることによって逃がし、視認側に漏洩しないようにするものであるが、その製造方法や形態によっては銅等の金属メッシュ面が表面に、空気に触れる状態で施されているため、その面に粘着層を施したり、他の機能性フィルムに粘着層を施し、その粘着層を介してその面に貼合したりすると、銅等の金属の酸化が主原因となる粘着層の変色が起こり、耐久性に問題が生じることがある。この問題を解決するには、
(1) あらかじめ粘着層に変色を防止するための防錆剤を含有させる、
(2) 粘着層の有機酸の量を極力少なくする、
方法が有効である。
【0056】
また、メッシュタイプの電磁波遮蔽フィルムは、銅等の金属箔を密着性良く貼り付けるために、銅箔表面を粗面にしておき、接着剤で透明支持体に貼り合せた後、エッチングによって格子線だけ残してそれ以外の部分を溶解除去する方法などによって製造されるため、銅箔の粗面が透明支持体上の固化した接着剤面に転写されてフィルムの透明性が欠けることがある。そのため、その上から高分子樹脂表面を処理して平滑面にして透明化を図ったりするが、透明化処理はコストアップの原因ともなるので省略したいところである。防錆剤を含有させた粘着層は銅等の金属格子面(以下、メッシュ面と記す)が表面に出ているメッシュタイプの電磁波遮蔽フィルム、つまり、この透明化処理されていない電磁波遮蔽フィルムに適用するものであり、メッシュ面にこの粘着層を施すか、この粘着層が施された機能性フィルムを粘着層を介して電磁波遮蔽フィルムのメッシュ面に加圧貼合することにより、接着剤面の粗面が解消され透明化できることが分かり、このような方法はより合理的な方法である。なお、粘着層の屈折率は粗面接着剤層の屈折率に近いほうが透明性が向上するので、粘着剤の処方にもそのような配慮も必要である。
【0057】
上記(1)の方法で使用する防錆剤としては金属の錆発生を防止する性能があるものであれば特に限定されないが、使用しうる防錆剤の具体例としては、2−アミノピリジン、2−アミノピリミジン、2−アミノキノリン、アミノトリアジンまたはアミノトリアゾール及びこれらの置換誘導体、ベンゾトリアゾール系化合物、フェニルテトラゾール、2−アミノトリチアゾール等が挙げられ、中でもベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、取り扱いやすさの面から1H−ベンゾトリアゾールがより好ましい。その使用量は粘着塗工後の粘着層に対し含有量として0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%である。
【0058】
上記(2)の方法については、粘着材に使用されるアクリル酸やマレイン酸等のカルボキシル基含有モノマー等の有機酸物質の使用量を極力抑えたり、必要により精製工程を加えることにより、粘着層におけるそれらの有機酸単量体の含有量が0.5質量%以下になるようにすることが好ましい。
【0059】
本発明の式(2)のジイモニウム化合物を、粘着剤の主要成分である粘着材、重合開始剤、架橋剤、紫外線吸収剤、色調調整用の色素及びその他必要とされる添加剤と共にメチルエチルケトン(MEK)等の溶剤に十分に溶解または分散させて粘着液剤とし、透明支持体の表面に、乾燥後の層厚が5〜100μm、好ましくは10〜50μmになるように塗工する。その塗工方法は特に限定されず、バーコーター、リバースコーター、コンマコーターまたはグラビアコーター等によって塗布し、乾燥して粘着層を密着させる方法や、離型フィルムに粘着剤液をバーコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター等によって支持体上に塗布し、乾燥した後、粘着層を透明支持体に転写する方法等が挙げられ、本発明の近赤外線吸収フィルターは、波長700〜1100nmの近赤外線の透過率が20%以下、更には10%以下になるよう設計されるのが好ましく、本ジイモニウム化合物はそれに合わせた量を使用すれば良く、粘着層に対し含有量として通常1〜20質量%になるように粘着剤中に含有させればよい。
【0060】
次に、本発明の光学フィルターは、本発明の近赤外線吸収フィルター、特に透明支持体上に本ジイモニウム化合物を含有する粘着層が設けられている本発明の近赤外線吸収フィルムを必須の構成要素としてこれと下記するようなその他の機能を有する透明支持体(フィルム)とを、積層して得られる。本発明の光学フィルターはあらかじめ透明のガラス板やプラスチック板に貼合してPDPの前面に取り付けても、PDPの前面に直接貼合して使用してもよい。前記した粘着層はガラス、フィルム等に圧着するだけで充分な強度を有するが、必要なら加温下で圧力を加え接着をより高めることも可能である。
【0061】
下記の機能性を有する透明支持体例において、NIRは近赤外線を、Neはネオン光をそれぞれ表し、カッコで括った部分は本発明の近赤外線吸収フィルターを示すが、これらの構成例から明らかなように、減反射性透明支持体のような機能性を有する透明支持体の粘着層に本発明の式(2)のジイモニウム化合物及びネオン光吸収化合物を含有せしめることが好都合であることが分かる。
(1)(減反射性透明支持体/NIR・Ne吸収・色調整粘着層)/電磁波遮蔽フィルム、
(2)(減反射性透明支持体/NIR・色調整吸収粘着層)/電磁波遮蔽フィルム/粘着層/Ne吸収フィルム、
(3)減反射フィルム/(NIR・Ne吸収粘着層/電磁波遮蔽透明支持体)、
(4)(防眩・減反射透明支持体/NIR・Ne吸収高分子樹脂膜層)/電磁波遮蔽フィルム、
(5)減反射フィルム/(NIR・Ne吸収・色調整粘着層/PET透明支持体)/粘着層/電磁波遮蔽フィルム、
(6)減反射フィルム/(NIR吸収粘着層/Ne吸収透明支持体)/粘着層/電磁波遮蔽フィルム、
(7)減反射フィルム/粘着層/電磁波遮蔽フィルム/(NIR吸収・色調整粘着層/Ne吸収透明支持体)、
(8)減反射フィルム/粘着層/電磁波遮蔽フィルム/(NIR・Ne吸収粘着層/PET透明支持体)
このような、粘着層に本発明のジイモニウム化合物を含有せしめた本発明の近赤外線吸収フィルターは、可視光線領域において非常に高い透過率を示し、アンチモンや砒素を含有せず、環境に優しく、近赤外線領域は幅広く吸収する優れた近赤外線吸収フィルターである。また従来のアンチモンを含有しない過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ホウフッ化イオンを含有する近赤外線吸収フィルターに比べ安定性に優れている。さらに近赤外線吸収フィルターを作製する際に用いる溶剤への溶解度も十分である為、加工性にも優れている。特に、本発明の近赤外線吸収フィルターは耐熱、耐湿熱、耐光性において非常に優れており、熱による分解などの反応を起こしにくいため、可視部の着色がほとんど起こらない近赤外線吸収フィルターを得る事ができる。この様な特徴を有していることから、本発明の近赤外線吸収フィルターはこれ単独でも使用可能であるが、特にプラズマディスプレイ用の光学フィルターに好適である。
【0062】
次に本発明のジイモニウム化合物を含有する光情報記録媒体(以下、本発明の光情報記録媒体という)について説明する。
【0063】
本発明の光情報記録媒体は、基板上に記録層を有するもので、該記録層が本発明のジイモニウム化合物を含有することを特徴とする。この記録層は、ジイモニウム化合物のみで構成されていても良く、またバインダー等の各種添加剤と混合して含有されていても良い。この場合、本発明のジイモニウム化合物により情報が記録される。
【0064】
また、本発明のジイモニウム化合物とこれ以外の有機色素とを含有する混合物を、有機色素により情報が記録される光情報記録媒体の記録層に含有させることによって、該光情報記録媒体の耐光性を向上させることができる。このような光情報記録媒体において、情報の記録に供される有機色素としては、例えばシアニン系色素、スクワリリウム系色素、インドアニリン系色素、フタロシアニン系色素、アゾ系色素、メロシアニン系色素、ポリメチン系色素、ナフトキノン系色素、ピリリウム系色素等が挙げられる。このような方法において、本発明のジイモニウム化合物は、これらの有機色素1モルに対して、通常0.01〜10モル、好ましくは0.03〜3モル使用される。
【0065】
本発明の光情報記録媒体は、基板上に本発明のジイモニウム化合物及び所望によりこれ以外の色素を含有する記録層を設けたもので、必要に応じ、反射層、保護層が設けられる。基板としては公知のものを任意に使用することが出来る。例えば、ガラス板、金属板またはプラスチック板もしくはフィルムが挙げられ、これらを製造するためのプラスチックとしてはアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、非晶質ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等があげられる。基板の形状としては、ディスク状、カード状、シート状、ロールフィルム状等種々のものがあげられる。
【0066】
ガラスまたはプラスチック基板上には記録時のトラッキングを容易にするために案内溝を形成させてもよい。また、ガラスまたはプラスチック基板にはプラスチックバインダーまたは無機酸化物、無機硫化物等の下引き層を設けてもよく、下引層は基板より熱伝導率の低いものが好ましい。
【0067】
本発明の光情報記録媒体における記録層は、例えば、本発明のジイモニウム化合物及び、より好ましくは本発明のジイモニウム化合物と他の有機色素を公知の有機溶剤、例えばテトラフルオロプロパノール(TFP)、オクタフルオロペンタノール(OFP)、ダイアセトンアルコール、メタノール、エタノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジクロロエタン、イソホロン、シクロヘキサノン等に溶解し、必要に応じて、バインダーを加え、その溶液をスピンコーター、バーコーター、ロールコーター等により基板上に塗布することにより得ることが出来る。その他の方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、ドクターブレード法、キャスト法もしくは基板を溶液中に漬けるディッピング法によっても得ることができる。ここにおいてバインダーとしてはアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等が使用されうる。
【0068】
記録層の膜厚は、記録感度や反射率を考慮すると、好ましくは0.01μm〜5μm、より好ましくは0.02μm〜3μmである。
【0069】
本発明の光情報記録媒体には、必要により記録層の下に下引層を、また記録層の上に保護層を設けることが出来、さらに記録層と保護層の間に反射層を設けることが出来る。反射層を設ける場合、反射層は金、銀、銅、アルミニウム等、好ましくは金、銀、またはアルミニウムの金属で構成され、これらの金属は単独で使用してもよく、2種以上の合金としてもよい。この層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等で形成される。このような反射層の厚さは、0.02〜2μmである。反射層の上に設けられることのある保護層は、通常、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により塗装した後、紫外線を照射し、塗膜を硬化させて形成されるものである。その他、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等も保護膜の形成材料に用いられる。このような保護膜の厚さは、通常、0.01〜100μmである。
【0070】
本発明の光情報記録媒体における情報の記録、あるいは画像の形成はレーザー、例えば、半導体レーザー、ヘリウム−ネオンレーザー、He−Cdレーザー、YAGレーザー、Arレーザー等の集光したスポット状の高エネルギービームを基板を通して、もしくは基板と反対側から記録層に照射することにより行われ、情報あるいは画像の読み出しは、低出力のレーザービームを照射することにより、ピット部とピットが形成されていない部分の反射光量もしくは透過光量の差を検出することにより行われる。
【0071】
本発明の光情報記録媒体は従来のジイモニウム化合物からなる光情報記録媒体に比べ、耐光安定性に優れる。また本発明の式(2)のジイモニウム化合物は、光情報記録媒体を作製する際に用いる溶剤への溶解度も十分であり、加工性も優れている。また例えば光情報記録媒体の記録層に当たる有機色素薄膜に、これらの化合物を光安定化剤として含有させた場合、繰り返し再生における耐久性、耐光安定性を著しく向上させた光情報記録媒体を提供することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明が、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」、「%」は特に特定しない限り、質量基準である。また、以下のλmaxの測定値において、±4nmの差は測定条件等による許容範囲とする。
【0073】
(実施例1)
DMF20部中にN,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン4部を加え、60℃に加熱溶解した後、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン58.4%水溶液(スリーエム社製)8部を加えた。引き続いてDMF23.5部に溶解した硝酸銀1.6部を加え、30分間加熱撹拌した。不溶解分を濾別した後、反応液に水、メタノールを加え、析出した結晶を濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥し、本発明のジイモニウム化合物7部を得た。
λmax 1101nm(ジクロロメタン)、モル吸光係数(ε) 107,000
(実施例2)
DMF36部中にN,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン6部を加え、60℃に加熱溶解した後、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン58.4%水溶液10.1部を加えた。引き続いてDMF35部に溶解した硝酸銀2.32部を加え、30分間加熱撹拌した。不溶解分を濾別した後、反応液に水を加え、析出した結晶を濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥し、本発明のジイモニウム化合物8.4部を得た。
λmax 1109nm(ジクロロメタン)、モル吸光係数(ε) 107,000
(実施例3)
DMF20部中にN,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン3部を加え、60℃に加熱溶解した後、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン52%水溶液6.7部を加えた。引き続いてDMF25部に溶解した硝酸銀1.4部を加え、30分間加熱撹拌した。不溶解分を濾別した後、反応液に水、メタノールを加え、析出した結晶を濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥し、本発明の化合物2部を得た。
λmax 1098nm(ジクロロメタン)、モル吸光係数(ε) 107,000
(実施例4)
DMF30部中にN,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(シアノプロピル)アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン5部を加え、60℃に加熱溶解した後、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン58.4%水溶液7.8部を加えた。引き続いてDMF30部に溶解した硝酸銀2.1部を加え、30分間加熱撹拌した。不溶解分を濾別した後、反応液に水、メタノールを加え、析出した結晶を濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥し、本発明のジイモニウム化合物5.4部を得た。
λmax;1066nm(ジクロロメタン)、モル吸光係数(ε);110000
(実施例5)
DMF20部中にN,N,N’,N’−テトラキス(p−ジエチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン2部を加え、60℃に加熱溶解した後、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン58.4%水溶液4.5部を加えた。引き続いてDMF20部に溶解した硝酸銀1.1部を加え、30分間加熱撹拌した。不溶解分を濾別した後、反応液に水、メタノールを加え、析出した結晶を濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥し、本発明のジイモニウム化合物0.8部を得た。
λmax;1087nm(ジクロロメタン)、モル吸光係数(ε);101000
(実施例5A)
DMF40部中にN,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(n−アミル)アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン3部を加え、60℃に加熱溶解した後、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン52%水溶液5.3部を加えた。引き続いてDMF30部に溶解した硝酸銀1.1部を加え、60分間加熱攪拌した。不溶解分を濾別した後、反応液に水、メタノールを加え、析出した結晶を濾過、メタノール洗浄、水洗、乾操し、本発明の化合物1.9部を得た。
λmax 1106nm(ジクロロメタン)、モル吸光係数(ε)108,000
【0074】
(実施例6)
MEK(メチルエチルケトン)0.94部に、前記実施例1で得られた本発明のジイモニウム化合物0.06部を溶解させた。この溶解液に、フォーレットGS−1000(商品名、アクリル系樹脂、綜研化学社製、Tg:100〜110℃)3.4部を加え混合し、塗工用溶液を得た。これをコスモシャインA4300(商品名、ポリエステルフィルム、東洋紡績社製)に厚さ2〜4μmになるように塗工し、80℃で乾燥させて本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。
【0075】
前記実施例で得られた式(2)におけるR1〜R8がiso−ブチル基である化合物及びシアノプロピル基であるジイモニウム化合物についても同様な処理を行いそれぞれ本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。
【0076】
(実施例7)
バインダー樹脂としてのフォーレットGS−1000(商品名、アクリル系樹脂、綜研化学社製、Tg:100〜110℃)をアクリディックアLAL−115(商品名、アクリル系樹脂、大日本インキ工業社製、Tg:70℃)に、また、ジイモニウム化合物を実施例2で得られたジイモニウム化合物にそれぞれ変更する以外は実施例6と同様にして本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。
評価試験(1)
(耐熱安定性試験)
実施例6及び実施例7で得られた各近赤外線吸収フィルターを100℃のオーブン中で480時間放置し、耐熱安定性試験を行った。試験前後に、そのフィルターをUV−3150(商品名、分光光度計、(株)島津製作所製)にて測定し、極大吸収波長における吸光度の変化より色素残存量の評価を行った。
【0077】
比較のために、N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムの六フッ化アンチモン酸塩(化合物(A))、N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸塩(化合物(B))、N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シアノプロピル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸塩(化合物(C))N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(i−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸塩(化合物(D))、を用いた以外は実施例6と同様にして比較用の近赤外線吸収フィルターを作製し、前記同様な測定を行い、結果を表2に示した。
【0078】
なお、N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シアノプロピル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムの六フッ化アンチモン酸塩及びN,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(i−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムの六フッ化アンチモン酸塩についても同様な試験を試みたが、これらについては、溶剤に対する溶解性が不十分で前記に準じた近赤外線吸収フィルターを作製することができなかった。
【0079】
【表1】

表2の結果より、本発明の近赤外線吸収フィルターは、公知のジイモニウム化合物を用いて得られた近赤外線吸収フィルターに比べ色素残存率が高く、高温条件下での耐性に優れていることが判る。また、表2の結果より、Tgが比較的低い粘着材を用いた場合であっても、Tgが比較的高い粘着材を用いた場合と同様に優れた熱安定性を示すことが認められる。
評価試験(2)
(耐湿熱安定性試験)
評価試験(1)で用いた近赤外線吸収フィルターと同じフィルターを用いて次の通り耐湿熱安定性試験を行った。
【0080】
実施例6及び実施例7で得られた本発明の近赤外線吸収フィルター、及び比較用に作成した近赤外線吸収フィルターを60℃、90%RH(相対湿度)の条件下で480時間放置し、試験前後における、極大吸収波長における吸光度の変化を前記分光光度計にて測定し、色素残存量の評価を行った。
【0081】
【表2】

表3の結果より、本発明の近赤外線吸収フィルターは、カチオン部位に同じ置換基を有する比較例に比べて、色素残存率が高く、高温高湿条件下での耐性に優れていることが判る。また、表3の結果より、Tgが比較的低い粘着材を用いた場合であっても、Tgが比較的高い粘着材を用いた場合と同様に優れた湿熱安定性を示すことが認められる。
【0082】
(実施例8)
下記表4に示す粘着剤用各原料を均一になるよう混合溶解した塗工液を、MRF−75(商品名、離型PETフィルム、三菱化学ポリエステルフィルム製、厚さ75μm)上にコンマコーターで0.8m/分、乾燥温度110℃により、粘着層の厚さが18μmになるように塗工して乾燥し、近赤外線とネオン光を吸収するフィルムを得た。このフィルムをカヤコートARS−D250−125(商品名、減反射フィルム、日本化薬製)を透明支持体として、減反射コート層の反対面に貼り合わせて35℃で2日間静置してエージングし、減反射性、近赤外線吸収性及びネオン光吸収性を有し、色調調整された本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。更にこのフィルターの離型フィルムを剥離し、粘着層を介して下記電磁波遮蔽フィルム1に貼合し、(減反射性透明支持体/NIR・Ne吸収・色調整粘着層)/電磁波遮蔽フィルム1、の構成を有する、製造が簡便で光学性能に優れたPDP用の光学フィルターを得た。
【0083】
【表3】

【0084】
(電磁波遮蔽フィルム1の作製)
コスモシャインA−4100(商品名、PETフィルム、東洋紡績製、厚さ50μm、)を用い、その上に接着層となるニカフレックスSAF(商品名、エポキシ系接着シート、ニッカン工業製、20μm)を介して導電性材料である厚さ18μmで粗面を有す電解銅箔を、その粗面がエポキシ系接着シート側になるようにして、180℃、30kgf/cm2の条件で加熱ラミネートして接着させた。得られた銅箔付PETフィルムにフォトリソ工程(レジストフィルム貼合−露光−現像−ケミカルエッチング−レジストフィルム剥離)を経て、ライン幅25μm、ライン間隔500μmの銅格子パターンをPETフィルム上に形成し、銅格子パターン面に透明化処理として、下記表5の接着剤組成物を均一に混合した接着剤を乾燥塗布厚が約40μmになるように塗布、乾燥して透明性を有する電磁波遮蔽フィルム1を得た。
【0085】
【表4】

【0086】
(実施例9)
表4に示す粘着剤原料に防錆剤1H−ベンゾトリアゾール0.067部を加えてよく混合溶解した塗工液を使用する以外は、実施例8と同様の方法で減反射性、近赤外線吸収性及びネオン光吸収性を有し、防錆剤を含有する本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。このフィルターの離型フィルムを剥離し、粘着層を介して下記の電磁波遮蔽フィルム2のメッシュ面に貼合し、(減反射性透明支持体/NIR・Ne吸収・色調整粘着層)/電磁波遮蔽フィルム2、の構成を有する、製造が簡便で、透明性が良好で光学性能に優れたPDP用の光学フィルターを得た。
【0087】
(電磁波遮蔽フィルム2の作製)
コスモシャインA−4100(商品名、PETフィルム、東洋紡績製、厚さ100μm)を用い、その上に接着層となる前記ニカフレックスSAFを介して導電性材料である厚さ18μmで粗面を有する電解銅箔を、その粗面がエポキシ系接着シート側になるようにして、180℃、30kgf/cm2の条件で加熱ラミネートして接着させた。得られた銅箔付PETフィルムにフォトリソ工程を経て、ライン幅25μm、ライン間隔500μmの銅格子パターンをPETフィルム上に形成して透明性が若干欠ける電磁波遮蔽フィルム2を得た。
【0088】
(実施例10)
前記表4に示す粘着剤原料のうちのアクリル系樹脂(商品名、PTR−2500T)をPTR−5500(商品名、有機酸無添加のアクリル酸樹脂、日本化薬製)に変更する以外は、実施例8と同様の方法で減反射性、近赤外線吸収性及びネオン光吸収性を有し、粘着層に有機酸を含有しない本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。このフィルターの離型フィルムを剥離し、粘着層を介して前記電磁波遮蔽フィルム2のメッシュ面に貼合し、(減反射性透明支持体/NIR・Ne吸収・色調整粘着層)/電磁波遮蔽フィルム2、の構成を有し、製造が簡便で光学性能に優れたPDP用の光学フィルターを得た。
【0089】
(実施例11)
前記表4に示す粘着剤用各原料において、ネオン光吸収剤、黄色色素及び青色色素を用いない他は同表におけるのと同じ原材料を使用し、また、カヤコートARS−D250−125の代わりにコスモシャインA4300(商品名、PETフィルム、東洋紡績製、厚さ100μm)を使用する以外は実施例8と同様の方法でPETフィルムを透明支持体とし、粘着層に実施例2で得られたジイモニウム化合物を含有する本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。
【0090】
(実施例12)
実施例2のジイモニウム化合物の代わりに実施例1で得られたジイモニウム化合物を使用する以外は実施例11と同様の方法でPETフィルムが透明支持体で粘着層に化合物番号No.1のジイモニウム化合物を含有する本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。
【0091】
(対照例1)
実施例2のジイモニウム化合物の代わりに、下記式(E)のジイモニウム化合物を使用する以外は実施例11と同様の方法でPETフィルムが透明支持体で、粘着層に式(E)のジイモニウム化合物を含有する比較用近赤外線吸収フィルターを得た。
【0092】
【化6】

【0093】
(対照例2)
実施例2のジイモニウム化合物の代わりに、下記式(F)のジイモニウム化合物を使用する以外は実施例11と同様の方法でPETが透明支持体で、粘着層に式(F)のジイモニウム化合物を含有する比較用近赤外線吸収フィルターを得た。
【0094】
【化7】

【0095】
(対照例3)
実施例2のジイモニウム化合物の代わりに、下記式(G)のジイモニウム化合物を使用する以外は実施例11と同様な方法でPETが透明支持体で、粘着層に式(G)のジイモニウム化合物を含有する比較用近赤外線吸収フィルターを得た。
【0096】
【化8】

【0097】
評価試験(3)
(耐熱性試験)
PETフィルムを透明支持体にした実施例11乃至実施例12で得られた本発明の近赤外線吸収フィルターと対照例1乃至対照例3で得られた比較用の各近赤外線吸収フィルターについて耐熱性及び耐湿熱性を試験した。
【0098】
ジイモニウム化合物の耐熱性、耐湿熱性の低下の特徴は波長400〜480nmの可視部光線及び近赤外線(波長700〜1100nm)における吸収能の変化として現れるため、この波長領域(3波長を選択)における吸収能の変化を測定した。即ち、各実施例及び各対照例の各試験片を粘着層を介して厚さ1mmのフロートガラスに貼合し、耐熱性試験では80℃、耐湿熱性試験では60℃、90%RH(相対湿度)の恒温・恒湿槽内に94時間それぞれ静置した後、試験前後の3波長(430nm、880nm、980nm)における光線透過率の測定及び粘着層の外観の観察を行った。
表6及び表7には、視感による外観観察結果及び各波長における透過率の変化(各波長における試験後透過率(%)−試験前透過率(%))を示した。
【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
表6及び表7の結果から判るように、耐熱性、耐湿熱性の両試験において、実施例11及び実施例12の試験片は対照例2及び対照例3の試験片に比べて粘着層のムラの発生がなく、波長430nmにおける変化も対照例2、対照例3より少なくそれが外観変化が良好な原因になっている。これに対して、対照例1の試験片は近赤外線吸収率が著しく低下した。なお、実施例11の近赤外線吸収フィルターは実施例12の近赤外線吸収フィルターより各波長における透過率変化、外観変化においてより優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)で示されるジイモニウム化合物
【化1】

式(2)中、R〜Rはエチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基又はn−アミル基を、R〜R11トリフルオロメチル基をそれぞれ表す。)。
【請求項2】
式(2)のR〜Rがn−ブチル基、iso−ブチル基またはシアノプロピル基である上記(1)記載のジイモニウム化合物。
【請求項3】
式(2)のR〜Rがn−ブチル基である上記(1)記載のジイモニウム化合物。

【公開番号】特開2012−12399(P2012−12399A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169132(P2011−169132)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【分割の表示】特願2006−535715(P2006−535715)の分割
【原出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】