説明

ジエチレントリアミン型金属キレート構造を有する高級脂肪酸テトラエステル及びアミド誘導体

【課題】溶解性等に優れ、血管疾患などの病巣選択的なリポソーム造影剤に適した化合物を提供する。
【解決手段】下記の一般式(I):


[式中、R1、R2、R3、及びR4はアルキル基又はアルケニル基を示し;X1及びX2は単結合、−O−、又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又はアルキル基を示す)を示し;X3、X4、X5、X6、及びX7は−O−又は−N(Z2)−を示し;nは1〜10の整数を示し;Lは2価の連結基を示す]で表される化合物又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエチレントリアミン型金属キレート構造を有する高級脂肪酸エステル及びアミド誘導体に関する。本発明はさらに該化合物、該化合物を含むキレート化合物、又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソーム及び該リポソームを含む造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非侵襲的な動脈硬化の診断法としては、主にX線血管造影法が挙げられる。しかしながら、この方法は水溶性のヨード造影剤で血液の流れを造影する方法であるため、病変組織と正常組織との区別がつけにくい。そのため、狭窄が50%以上進んだ病巣しか検出することができず、虚血性疾患の発作が発症する前に病巣を検出することが困難である。
【0003】
上記以外の診断法として、近年、動脈硬化巣プラーク中に多く動態分布される造影剤を用いて核磁気共鳴トモグラフィー(MRI)により疾患を検出する方法が報告されている。しかしながら、該造影剤として報告されている化合物はいずれも診断法に用いることには問題がある。例えば、ヘマトポルフィリン誘導体(特許文献1参照)は皮膚への沈着・着色の欠点が指摘されており、また、脂質に富んだプラークに集積するとの報告があるパーフルオロ側鎖を有するガドリニウム錯体(非特許文献1参照)は、脂肪肝・腎臓上皮・筋組織の腱などの生体における脂質豊富な組織、器官への集積が危惧されている。
【0004】
化合物の観点からは、2個の脂肪酸エステルを有するフォスファチジルエタノールアミン(PE)とジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)をアミド結合した化合物が知られており(例えば、非特許文献2)、この化合物のガドリニウム錯体のリポソームに関する報告(非特許文献3)もある。しかし、この錯体は難溶解性であるためにリポソーム化の際の操作性が悪く、また、生体内での蓄積性や毒性における懸念がある。
【0005】
別に報告されている1個の高級脂肪酸エステル基を疎水性基として導入したガドリニウム錯体(特許文献2参照)は良好な溶解性を有しており、リポソーム製剤化にも利用できる。しかしながら、該錯体のリポソームへの導入量は低濃度に止まるという問題がある。上記刊行物に開示された錯体はいわゆる楔形分子であるために、シリンダー型分子より構成されるリポソームとの相溶性が低いことがその理由であると類推される。
【特許文献1】米国特許第4577636号明細書
【特許文献2】特開2007−91640号公報
【非特許文献1】サーキュレーション(Circulation), 109, 2890 (2004)
【非特許文献2】ポリメリック マテリアルズ サイエンス アンド エンジニアリング(Polymeric Materials Science and Engineering), 89, 148 (2003)
【非特許文献3】インオーガニカ キミカ アクタ(Inorganica Chimica Acta), 331, 151 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、病巣選択的な造影のためのリポソーム造影剤に適した化合物であって、特に溶解性及びリポソーム膜構成成分との相溶性に優れた化合物を提供することにある。また、本発明の別の課題は、該化合物を含むMRI造影剤及びシンチグラフィー造影剤などの造影剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の課題を解決すべく研究を行った結果、下記の一般式(I)で表されるジエチレントリアミン型金属キレート構造を有する高級脂肪酸テトラエステル及びアミド化合物が高い水溶性を有しており、しかも造影剤としてのリポソームの構成成分として優れた性質を有していることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の一般式(I):
【化1】

[式中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に炭素原子8〜30個のアルキル基又は炭素原子8〜30個のアルケニル基を示し;X1及びX2はそれぞれ独立に単結合、−O−、又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又は炭素原子1〜3個のアルキル基を示す)を示すが、X1及びX2が同時に単結合を示すことはなく;X3、X4、X5、X6、及びX7はそれぞれ独立に−O−又は−N(Z2)−(Z2は水素原子又は炭素原子1〜3個のアルキル基を示す)を示し;nは1〜10の整数を示し;Lは2価の連結基(Lは炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、フッ素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する酸素原子は0〜9個、窒素原子は0〜4個、フッ素原子は0〜8個、及び硫黄原子は0〜2個であり、さらにLを構成する炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は1〜20個である)を示す]で表される化合物又はその塩を提供するものである。
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、X3が−O−である上記化合物又はその塩;X4、X5、X6、及びX7が−O−である上記化合物又はその塩;Lが炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される2価の連結基である上記化合物又はその塩が提供される。
【0010】
本発明の別の好ましい態様によれば、X2が−O−又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又は炭素原子1〜3個のアルキル基を表す)、Lが炭素原子1〜12個のアルキレン基又は−(CH2CH2Y)mCH2CH2−(mは1〜6の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、mが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい)で表される連結基である上記化合物又はその塩;Lが−T1−CO−(T1は炭素原子1〜14個のアルキレン基又は一般式−(CH2CH2Y)u(CH2h−(uは1〜6の整数を示し、hは0〜2の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、uが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい))で表される連結基である上記化合物又はその塩;Lが−T2−X7CO−(X7は−O−又は−N(Z4)−(Z4は水素原子又はメチル基)を示し、T2は炭素原子1〜14個のアルキレン基を示す)で表される連結基である上記化合物又はその塩;Lが主鎖に3〜20員環構造を少なくとも一つ含む上記化合物またはその塩;R1、R2、R3、及びR4がそれぞれ独立に炭素原子10〜22個の直鎖状のアルキル基若しくは炭素原子10〜22個の直鎖状のアルケニル基、又は炭素原子10〜22個の分岐鎖状のアルキル基若しくは炭素原子10〜22個の分岐鎖状のアルケニル基である上記化合物又はその塩が提供される。
【0011】
また、本発明により上記いずれかの化合物及び金属イオンからなるキレート化合物又はその塩が提供される。この発明の好ましい態様によれば、金属イオンが原子番号21-29、31、32、37-39、42-44、49、又は57-83に相当する元素の金属イオンである該キレート化合物又はその塩;金属イオンが原子番号21-29、42、44、又は57-71に相当する常磁性元素の金属イオンである該キレート化合物又はその塩が提供される。
【0012】
別の観点からは、本発明により、上記の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソームが提供され、その好ましい態様によれば、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む該リポソームが提供される。
また、本発明により、上記のリポソームを含む造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記の造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記の造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記の造影剤が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の観点からは、造影剤の製造のための上記の化合物、キレート化合物、又はそれらいずれかの塩の使用;造影剤の製造のための上記のリポソームの使用;造影法であって、上記の化合物、キレート化合物、又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソームをヒトを含む哺乳類動物に投与した後に造影する工程を含む方法;血管疾患の病巣の造影方法であって、上記の化合物、キレート化合物、又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソームをヒトを含む哺乳類動物に投与した後に造影する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化合物、キレート化合物、及びこれらいずれかの塩は、造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有しており、この化合物を含むリポソームを用いて造影することにより血管の病巣を選択的に造影できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に炭素原子8〜30個のアルキル基又は炭素原子8〜30個のアルケニル基を表す。該アルキル基又はアルケニル基は直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる基のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐鎖状が好ましい。また、互いに架橋構造を有しないことが好ましい。R1、R2、R3、及びR4は同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。R1、R2、R3、及びR4を構成する炭素原子の数は8〜25個がより好ましく、10〜22個が最も好ましい。R1、R2、R3、及びR4がアルケニル基を表す場合、その二重結合はE若しくはZ配置又はそれらの混合物のいずれであってもよく、二重結合が複数ある場合にもそれぞれの二重結合について同様である。二重結合がビシナル2置換である場合はZ配置が好ましい。また、二重結合の位置及び個数は特に規定されない。
【0016】
1及びX2はそれぞれ独立に単結合、−O−、又は−N(Z1)−を表す。ただし、X1及びX2の両者が同時に単結合を示すことはない。Z1は水素原子、又は炭素原子1〜3個の低級アルキル基を表すが、Z1は水素原子又はメチル基であることが好ましい。X3は−O−又は−NZ2−を表す。Z2は水素原子、又は炭素原子1〜3個の低級アルキル基を表すが、Z2は水素原子又はメチル基であることが好ましい。X1、X2、X3のうち少なくとも1つが−O−を表すことが好ましく、X1、X2、X3のうち少なくともX3が−O−を表すことが最も好ましい。
【0017】
4、X5、X6、及びX7はそれぞれ独立に−O−又は−N(Z2)−を表す。Z2は水素原子、又は炭素原子1〜3個のアルキル基を表すが、Z2は水素原子又はメチル基であることが好ましい。X4、X5、X6、及びX7のうち少なくとも1つが−O−であることが好ましく、X4、X5、X6、及びX7の全てが−O−であることが最も好ましい。
nは1〜10の整数を表す。好ましくはnは1〜4であり、最も好ましくはnは1である。
【0018】
Lは2価の連結基を示すが、Lは炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、フッ素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する酸素原子は0〜9個、窒素原子は0〜4個、フッ素原子は0〜8個、及び硫黄原子は0〜2個であり、さらにLを構成する炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は1〜20個である。Lは主鎖(主鎖とはX2とX3とを最短個数で結ぶ原子団をいう)が炭素原子鎖であるか、又は主鎖が炭素原子と窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子とを任意に組み合わせた原子鎖で構成される二価の連結基である。ヘテロ原子として好ましくは窒素原子及び酸素原子であり、最も好ましくは酸素原子である。Lは炭素原子及び水素原子のみで構成されていてもよい。
【0019】
Lを構成する炭素原子及びヘテロ原子の総数は1〜20個であるが、5〜20個が好ましく、8〜18個がより好ましい。Lが炭素原子及びヘテロ原子を含む場合、Lを構成する酸素原子は0〜9個、窒素原子は0〜4個、フッ素原子は0〜8個、硫黄原子は0〜2個の間である。Lを構成するヘテロ原子のうち、好ましい酸素原子数は1〜7個、より好ましくは1〜5個である。好ましい窒素原子数は0〜3個、より好ましくは0〜2個である。好ましいフッ素原子は0〜4個、硫黄原子数は0〜1個である。
【0020】
Lで表される2価の連結基において、Lを構成する原子は上述の主鎖への置換基として含まれていてもよい。該置換基の種類、個数、及び置換位置は特に限定されず、2個以上の置換基が存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。ただし、Lを構成する炭素原子及びヘテロ原子の総数は置換基を有する部分構造を含めたは20個を超えないものとする。置換基の例としては、アルキル基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、エーテル基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アゾ基、又はイミド等が挙げられるが、これらに限定されない。置換基として好ましくは、アルキル基、オキソ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エーテル基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニル基、又はカルバモイル基であり、より好ましくはアルキル基、オキソ基、又はヒドロキシル基である。
【0021】
Lは直鎖状、分岐鎖状、環状又はそれらの組み合わせのいずれでもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。また、該連結基は飽和の基であっても、不飽和結合を含む基であってもよい。Lが不飽和結合を含む基である場合、不飽和結合の種類、位置、及び個数は特に規定されない。
Lの好ましい例として、アルキレン構造、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造、ポリグリセリン構造、ポリグリコール酸構造、ポリ乳酸構造、ポリエチレンアミン構造、ポリペプチド構造、又はそれらの任意の組み合わせなどを挙げることができる。より好ましくはアルキレン構造、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造、ポリエチレンアミン構造、又はそれらの任意の組み合わせであり、さらに好ましくはアルキレン構造、ポリエチレングリコール構造、ポリエチレンアミン構造、又はそれらの任意の組み合わせである。具体的には、Lは炭素原子1〜12個のアルキレン基、又は−(CH2CH2Y)mCH2CH2−(mは1〜6の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、mが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい)で表される連結基であることが好ましい。m及びlは、好ましくは2〜6であり、さらに好ましくは2〜4である。
なお、本明細書においてLで表される連結基を化学式(一般式)で表す場合には、左端がX2,右端がX3に連結するものとする。
【0022】
Lの別の好ましい例として、−T1−CO−(T1は炭素原子1〜14個のアルキレン基又は一般式−(CH2CH2Y)u(CH2h−(uは1〜6の整数を示し、hは0〜2の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、uが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい))で表される連結基、−T2−X7CO−(X7は−O−又は−N(Z4)−(Z4は水素原子又はメチル基)を示し、T2は炭素原子1〜14個のアルキレン基を示す)で表される連結基、または−T1−SO3−で表される連結基が挙げられる。
1またはT2で表されるアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜6個である。uは、好ましくは2〜5であり、さらに好ましくは2〜4である。hは好ましくは0である。
【0023】
Lのさらに別の好ましい例として、主鎖に環構造を含む連結基が挙げられる。該環構造における環の員数は、3〜20が好ましく、3〜10がより好ましく、3〜6がさらに好ましい。該環構造は炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される原子により構成されていればよいが、炭素原子、水素原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される原子により構成されることが好ましく、炭素原子及び水素原子;炭素原子、水素原子及び酸素原子;又は炭素原子、水素原子及び窒素原子で構成されることがより好ましい。
【0024】
該環構造の好ましい例として、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、ナフタレン、エポキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、フラン、ピラン、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾール、ピロール、ピリジン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン、チオフェン、チオピラン又はそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。より好ましくはシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、エポキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン又はそれらの任意の組み合わせであり、さらに好ましくはシクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン、エポキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、アジリジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。また該環構造は縮環構造、架橋構造、スピロ構造などの2以上(好ましくは2〜4、より好ましくは2)の環からなるものであってもよい。Lの主鎖に含まれる環は、単環であることが最も好ましい。
【0025】
以下に本発明の化合物の好ましい例を示すが、本発明の化合物はこれらの例に限定されることはない。下記の表中、−は単結合を表し、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示し、Prはプロピル基を示し、t−Buは3級ブチル基を示す。
【0026】
【化2】

【0027】
【表1】


【0028】
【表2】


【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
【表5】

【0032】
【表6】



【0033】
【表7】

【0034】
以下に、本発明の化合物の一般的な合成法について説明するが、本発明の化合物の合成法はこれらに限定されるものではない。本発明の化合物の部分構造である長鎖脂肪酸は、通常市販されているものを使用してもよく、あるいは用途に応じて適宜合成してもよい。合成により入手する場合には、例えばRichard C. Larock著、Comprehensive organic transformations(VCH)に記載の方法により、対応するアルコールやアルキルハライド等を原料として用いることができる。
【0035】
前記の長鎖脂肪酸とポリアミン誘導体を連結する部分の製造は、アドニトール(アドニット)などの5炭糖の還元体を出発物質に用いて行うことができる。4個のヒドロキシ基の保護の後、該還元体を、ジエチレングリコール、ジエタノールアミン、ジエチレントリアミンなどのα、ω―ジオール又はジアミン、α−アミノ−ω−アルコール、ω−ヒドロキシカルボン酸、ω−ヒドロキシスルホン酸、1−イミダゾリジル蟻酸ω−ヒドロキシエステル、1−イミダゾリジル蟻酸ω−ブロモエステル、ω−アミノカルボン酸等とカップリングして対応するω−アルコール、ハライド、又はアミノ化合物へと導くことができる。この際、必要な場合には保護基を用いることもできるが、この場合の保護基とは、例えば、T. W. Greene & P. G. M. Wuts著、Protecting groups in organic synthesis(John Wiley & Sons, Inc.)に記載のものを適宜選択して用いることができる。
【0036】
上記のω−アルコール、ブロミド、又はアミン化合物は5炭糖部分の脱保護の後、前記の長鎖脂肪酸とエステル化し、次いで金属配位能を有するポリアミン誘導体と連結することで本発明の化合物が合成できる。その方法は、例えば、Bioconjugate Chem., 10, 137 (1999)に記載の手法に準じて合成することができる。もっとも、これらの方法は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明のキレート化合物は上述の化合物及び金属イオンからなるキレート化合物である。金属イオンの種類は特に限定されないが、MRI、X線、超音波コントラスト、陽電子放出断層撮像法(PET)、若しくはシンチグラフィーなどの造影、又は放射線治療などの目的に適切な金属イオンとして、常磁性金属、重金属、放射性金属同位体の放射性金属の金属イオンを用いることが好ましい。より具体的には、原子番号21ないし29、31、32、37ないし39、42ないし44、49、又は57ないし83から選択される元素の金属イオンが好ましい。また、MRI造影剤として本発明のキレート化合物を使用する場合に適切な金属イオンとしては、原子番号21ないし29、42、44、57ないし71から選択される元素の金属イオンが挙げられる。正のMRI剤の調製に用いるためにより好ましい金属は、原子番号24(Cr)、25(Mn)、26(Fe)、63(Eu)、64(Gd)、66(Dy)、又は67(Ho)であり、負のMRI剤の調製に用いるためにより好ましい金属は、原子番号62(Sm)、65(Tb)、又は66(Dy)である。最も好ましくは、原子番号25(Mn)、26(Fe)、又は64(Gd)の元素であり、特にMn(II)、Fe(III)、又はGd(III)が好ましい。
【0038】
また、放射性同位体を含む本発明の化合物又はキレート化合物は、シンチグラフィー用造影剤として用いることができる。該化合物に組み込む目的に用いられる放射性同位体としては、67Ga、81mKr、99mTc、111In、123I、131I、133Xe、201Tlが挙げられるが、これらは1例であり、特に限定されることはない。
【0039】
また、陽電子を放出する核種を1個以上持つ本発明の化合物又はキレート化合物は、PET法の造影に用いてもよい。より具体的には、上述キレート化合物の他に陽電子を放出する核種を本発明の化合物に組み込んだ化合物を該造影剤として好ましく用いることができる。該化合物に組み込む目的に用いられる好ましい該核種としては11C,13N,15O,18Fが挙げられる。より好ましい核種は11C,18Fである。
【0040】
本発明の化合物又はキレート化合物は1以上の不斉中心を有するが、この場合、不斉中心に基づく光学活性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する。純粋な形態の任意の立体異性体、任意の立体異性体の混合物、又はラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含される。また、本発明の化合物はオレフィン性の二重結合を1個又は2個以上有する場合があるが、その配置はE又はZのいずれであってもよく、両者の混合物として存在していてもよい。本発明の化合物は互変異性体として存在する場合もあるが、任意の互変異性体、又はそれらの混合物は本発明の範囲に包含される。さらに、本発明の化合物は塩を形成する場合があり、遊離形態の化合物又は塩の形態の化合物が水和物又は溶媒和物を形成する場合もあるが、このような場合も本発明の範囲に包含される。塩の種類は特に限定されず、酸付加塩又は塩基付加塩のいずれであってもよい。
【0041】
本発明の化合物もしくはキレート化合物又はその塩はリポソームの膜構成成分として用いることができる。本発明の化合物もしくはキレート化合物又はその塩を用いてリポソームを調製する場合、本発明の化合物もしくはキレート化合物又はその塩の使用量は、膜構成成分の全質量に対して10から90質量%程度、好ましくは10から80質量%、さらに好ましくは20から80質量%である。本発明の化合物もしくはキレート化合物又はその塩は膜構成成分として1種類を用いてもよいが、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
リポソームの他の膜構成成分としては、リポソームの製造に通常用いられている脂質化合物をいずれも用いてもよい。例えば、Biochim. Biophys. Acta, 150(4), 44 (1982)、Adv. In Lipid. Res., 16(1), 1 (1978)、RESEARCH IN LIPOSOMES (P. Machy, L. Leserman著、John Libbey EUROTEXT社)、「リポソーム」(野島、砂本、井上編、南江堂)等に記載されている。脂質化合物としてはリン脂質が好ましく、特に好ましいのはホスファチジルコリン(PC)類である。ホスファチジルコリン類の好ましい例としては、eggPC(卵由来のPC)、ジミリストイルPC(DMPC)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジステアロイルPC(DSPC)、ジオレイルPC(DOPC)等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
リポソームの膜構成成分として好ましい例としては、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリン(PS)との組み合わせを挙げることができる。ホスファチジルセリンとしては、ホスファチジルコリンの好ましい例として挙げたリン脂質と同様の脂質部位を有する化合物が挙げられる。ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンとを組み合せて用いる場合、PCとPSの好ましい使用モル比はPC:PS=90:10から10:90の間であり、さらに好ましくは、30:70から70:30の間である。
【0044】
本発明のリポソームとして好ましい別の例としては、膜構成成分としてホスファチジルコリンとホスファチジルセリンとを含み、さらにリン酸ジアルキルエステルを含むリポソームが挙げられる。リン酸ジアルキルエステルのジアルキルエステルを構成する2個のアルキル基は同一であることが好ましく、それぞれのアルキル基の炭素数は6以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましい。好ましいリン酸ジアルキルエステルの例としては、ジラウリルフォスフェート、ジミリスチルフォスフェート、ジセチルフォスフェート等が挙げられるが、これらに限定されることはない。この態様において、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの合計質量に対するリン酸ジアルキルエステルの好ましい使用量は1から50質量%までであり、好ましくは1から30質量%であり、さらに好ましくは1から20質量%である。
【0045】
ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リン酸ジアルキルエステル、及び本発明の化合物を膜構成成分として含むリポソームにおいて、上記成分の好ましい質量比はPC:PS:リン酸ジアルキルエステル:本発明の化合物が5〜40質量%:5〜40質量%:1〜10質量%:15〜80質量%の間で選択することができる。
本発明のリポソームの構成成分は上記4者に限定されず、他の成分を加えることができる。その例としては、コレステロール、コレステロールエステル、スフィンゴエミリン、FEBS Lett. 223, 42 (1987); Proc. Natl. Acad. Sci., USA 85, 6949 (1988)等に記載のモノシアルガングリオキシドGM1誘導体、Chem. Lett. 2145 (1989); Biochim. Biophys. Acta 1148, 77 (1992)等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim. Biophys. Acta 1029, 91 (1990); FEBS Lett. 268, 235 (1990)等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0046】
本発明のリポソームは、当業者が利用可能ないかなる方法で製造してもよい。製造法の例としては、先に挙げたリポソームの総説成書類の他、Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 9, 467 (1980)、"Liposomes" (M. J. Ostro編、MARCELL DEKKER、INC.)等に記載されている方法を利用できる。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これらに限られるものではない。本発明のリポソームのサイズは、上記の方法で作成できるサイズのいずれであってもよいが、通常は平均が400 nm以下であり、200 nm以下が好ましい。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラ又はマルチラメラなどのいずれの形態でもよい。また、リポソームの内部に適宜の薬物や他の造影剤の1種又は2種以上を配合することも可能である。
【0047】
本発明のリポソームを造影剤として用いる場合には、好ましくは非経口的に投与することができ、より好ましくは静脈内投与することができる。例えば、注射剤や点滴剤などの形態の製剤を凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用時に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ等輸液、緩衝液など)に溶解ないし再懸濁して用いることができる。本発明のリポソームを造影剤として用いる場合、投与量はリポソーム中の化合物含有量が従来の造影剤の化合物含有量と同程度になるように適宜決定することが可能である。
【0048】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、動脈硬化、若しくはPTCA(経皮的冠動脈形成術)後の再狭窄等の血管疾患においては、血管の中膜を形成する血管平滑筋細胞が異常増殖を起こすと同時に内膜に遊走し、血流路を狭くすることが知られている。正常の血管平滑筋細胞が異常増殖を始めるトリガーはまだ完全に明らかにされていないが、マクロファージの内膜への遊走と泡沫化が重要な要因であることが知られており、その後に血管平滑筋細胞がフェノタイプ変換(収縮型から合成型)をおこすことが報告されている。
【0049】
本発明のリポソームを用いると、泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋に対して規定の造影剤となる化合物を選択的に取り込ませることができる。その結果、病巣と非疾患部位とをコントラストをつけて造影することが可能である。従って、本発明の造影剤は、特に血管疾患のMRI造影に好適に使用でき、例えば、動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄等の造影を行うことができる。
【0050】
また、例えば J. Biol. Chem., 265, 5226 (1990)に記載されているように、リン脂質よりなるリポソーム、特にPCとPSから形成されるリポソームが、スカベンジャーレセプターを介してマクロファージに集積しやすいことが知られている。従って、本発明のリポソームを使用することにより、本発明の化合物をマクロファージが局在化している組織又は疾患部位に集積させることができる。本発明のリポソームを用いると、公知技術であるサスペンジョン又はオイルエマルジョンを用いる場合に比べて、より多くの規定の化合物をマクロファージに集積させることが可能である。
【0051】
マクロファージの局在化が認められ、本発明のリポソームで好適に造影可能な組織としては、例えば、血管、肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、腎臓上皮を挙げることができる。また、ある種の疾患においては、疾患部位にはマクロファージが集積していることが知られている。こうした疾患としては、腫瘍、動脈硬化、炎症、感染等を挙げることができる。従って、本発明のリポソームを用いることにより、これらの疾患部位を特定することができる。特に、アテローム性動脈硬化病変の初期過程において、スカベンジャーレセプターを介して変性LDLを大量に取り込んだ泡沫化マクロファージが集積していることが知られており〔Am. J. Pathol., 103, 181(1981); Annu. Rev. Biochem., 52, 223(1983)〕、このマクロファージに本発明のリポソームを集積化させてMRI造影をすることにより、他の手段では困難な動脈硬化初期病変の位置を特定することが可能である。
【0052】
本発明のリポソームを用いた造影方法は特に限定されない。例えば、通常のMRI造影剤を用いた造影方法と同様にして水のT1/T2緩和時間の変化を測定することにより造影を行うことができる。また、適宜、適切な金属イオンを用いることで、シンチグラフィー造影剤、X線造影剤、光像形成剤、超音波コントラスト剤としても使用することも可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。なお、下記の実施例中の化合物番号は上記に示した化合物例の番号に対応している。
合成例1:化合物205を以下のスキームに従ってアドニトール(アドニット)より合成した。文献既知[Xieら、Tetrahedron:Asymmetry、1993、4、973]の手法によりアセトニド保護をしたAを得た。縮合剤存在下12−ブロモドデカン酸を作用させてB205を得た。アセトニドを脱保護し、ベンジリデン保護を経て塩化パルミトイルを作用させてC205を得た。ベンジリデン基を脱保護し、塩化ステアリルを作用させてD205を得た。化合物D205と特開2007−91640号公報にて開示されている方法にて合成したキレート配位子部分EとをO−アルキル化条件にて連結を行って化合物F205を得た。
【0054】
これ以降の合成法は特開2007−91640号公報にて開示されている方法に従った。化合物F205を酸性条件下t−ブチルエステルの脱保護を行って化合物205を合成し、さらに塩化ガドリニウムを作用させて錯体205-Gdを得ることができた。
Mass(ESI):m/z 1964(M―Na)-
下記スキーム中、t-Buは3級ブチル基を示す。
【0055】
【化3】

【0056】
合成例2:化合物103を以下のスキームに従って合成した。化合物Aを塩基性条件下にて処理して化合物B103を合成した。化合物B103のアセトニド基を脱保護し、パルミチン酸エステル化およびベンジルエーテルの脱保護を行って化合物D103に変換した。D103のヒドロキシ基と化合物Eのカルボキシ基を連結させて化合物F103をえた。酸性条件下t−Buエステルの脱保護を行って化合物103に変換し、さらに塩化ガドリニウムを作用させて錯体103-Gdを得ることができた。
Mass(ESI):m/z 1890(M―Na)−。
【0057】
【化4】

【0058】
合成例3:化合物304を以下の経路に従って合成した。化合物Aに塩化12−ブロモドデカノイルを作用させてエステルB304を得た。B304のアセトニドを脱保護し、塩化パルミトイルを作用させてパルミチン酸テトラエステルD304をえた。これ以降の合成法は特開2007−91640号公報にて開示されている方法に従った。化合物J304と別途合成したキレート配位子部分Eとの連結を行って化合物F304を得た。酸性条件下t−ブチルエステルの脱保護を行って化合物304を合成し、さらに塩化ガドリニウムを作用させて錯体304-Gdを得ることができた。
Mass(ESI):m/z 1912(M―Na)−。
下記スキーム中、t-Buは3級ブチル基を示す。
【0059】
【化5】

【0060】
合成例4:化合物403を以下のスキームに従って合成した。化合物Aに1、1'−カルボニルジイミダゾール及び10−ブロモデカノールを作用させて炭酸エステルB403を得た。以降は上記化合物と同様に、塩化パルミトイルを用いた高級カルボン酸エステル化、炭酸カリウム存在下でのアルキルブロミドのエステル化、酸性条件での脱保護、錯体化を行い化合物403および錯体403−Gdに変換した。Mass(ESI):m/z 1914(M―Na)-
下記スキーム中、t-Buは3級ブチル基を示す。
【0061】
【化6】

【0062】
試験例1:溶解性試験
下記に示すガドリニウム錯体をそれぞれ1mMになるように秤量し、クロロホルム/メタノール(1/1)混合溶媒を1 mL加え、その際の溶解性(室温25℃)を調べた。その結果、本発明の化合物は比較化合物1と比べて均一な溶液となり、リポソーム製剤化するための優れた特性を有していることが明らかとなった。
【0063】
【表8】

【0064】
【化7】

【0065】
試験例2:リポソームの作成
J. Med. Chem., 25(12), 1500 (1982) に記載の方法に従い、ジ・パルミトイル PC(フナコシ社製、No.1201-41-0225)、ジ・パルミトイル PS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)、ガドリニウム錯体を下記の濃度比でナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、0.9%生理食塩水(光製薬社製、No512)を適当量加え、超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1mW)を氷冷下5分実施した後にリポソーム調製器(セントラル科学社製)を用いて粒子径85から120nmのリポソーム分散液を調製した。
【0066】
【表9】

【0067】
試験例3:マウス3日間連続投与毒性試験
ICRマウス雄6週齢(日本チャールスリバー)を購入し、1週間の検疫期間の後、クリーン動物舎内(空調:へパフィルター クラス1000、室温:20℃〜24℃ 湿度:35%〜60%)で1週間馴化した。その後、MTD(最大耐量)値を求めるため、尾静脈より被験化合物のマウス血清懸濁液を投与した。被験化合物のマウス血清懸濁液は、生理食塩水(光製薬社製)又はグルコース溶液(大塚製薬社製)のいずれかを溶媒として投与した。次に求められたMTD値をもとに、その1/2量の被検化合物を3日間、尾静脈より3日間連続で投与した(n=3匹とする)。症状観察は各投与後6時間までとし、神経毒性を観察後に剖検を行ない、主要臓器について所見を取った。結果を下記に示す。本発明の化合物は低毒性であり、神経毒性も示さないことが確認できた。従って、本発明の化合物は造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。
【0068】
【表10】

【0069】
試験例4:病巣モデル動物のMRI撮像実験
MRI撮像実験は特開2005−170807号公報にて開示されている手法に従って行うことが出来る。具体的には、ウサギ体重1kgあたり40mgの403-Gdを使用してリポソーム製剤を調製し、大動脈弓部に病巣が形成されている12ヵ月齢のWHHLウサギの耳下静脈より投与すれば、核磁気共鳴トモグラフィーにより動脈硬化巣を明瞭に描出できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

[式中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に炭素原子8〜30個のアルキル基又は炭素原子8〜30個のアルケニル基を示し;X1及びX2はそれぞれ独立に単結合、−O−、又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又は炭素原子1〜3個のアルキル基を示す)を示すが、X1及びX2が同時に単結合を示すことはなく;X3、X4、X5、X6、及びX7はそれぞれ独立に−O−又は−N(Z2)−(Z2は水素原子又は炭素原子1〜3個のアルキル基を示す)を示し;nは1〜10の整数を示し;Lは2価の連結基(Lは炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、フッ素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する酸素原子は0〜9個、窒素原子は0〜4個、フッ素原子は0〜8個、及び硫黄原子は0〜2個であり、さらにLを構成する炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は1〜20個である)を示す]で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
3が−O−である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
4、X5、X6、及びX7が−O−である請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
2が−O−又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又は炭素原子1〜3個のアルキル基を表す)である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
Lが炭素原子1〜12個のアルキレン基又は−(CH2CH2Y)mCH2CH2−(mは1〜6の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、mが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい)で表される連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
Lが炭素原子1〜12個のアルキレン基で表される連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
Lが−T1−CO−(T1は炭素原子1〜14個のアルキレン基又は一般式−(CH2CH2Y)u(CH2h−(uは1〜6の整数を示し、hは0〜2の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、uが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい))で表される連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項8】
Lが−T2−X7CO−(X7は−O−又は−N(Z4)−(Z4は水素原子又はメチル基)を示し、T2は炭素原子1〜14個のアルキレン基を示す)で表される連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項9】
Lが主鎖に3〜20員環構造を少なくとも一つ含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項10】
1、R2、R3、及びR4がそれぞれ独立に炭素原子10〜22個の直鎖状のアルキル基若しくは炭素原子10〜22個の直鎖状のアルケニル基、又は炭素原子10〜22個の分岐鎖状のアルキル基若しくは炭素原子10〜22個のアルケニル基である請求項1ないし9のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の化合物及び金属イオンからなるキレート化合物又はその塩。
【請求項12】
金属イオンが原子番号21ないし29、31、32、37ないし39、42ないし44、49、又は57ないし83から選択される元素の金属イオンである請求項11に記載のキレート化合物又はその塩。
【請求項13】
金属イオンが原子番号21ないし29、42、44、又は57ないし71から選択される常磁性元素の金属イオンである請求項11に記載のキレート化合物又はその塩。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソーム。
【請求項15】
ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む請求項15に記載のリポソーム。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のリポソームを含む造影剤。
【請求項17】
血管疾患の造影に用いるための請求項16に記載の造影剤。
【請求項18】
泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項16又は17に記載の造影剤。
【請求項19】
マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影のための請求項16ないし18のいずれか1項に記載の造影剤。
【請求項20】
マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項19に記載の造影剤。
【請求項21】
マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項19に記載の造影剤。

【公開番号】特開2009−78999(P2009−78999A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249098(P2007−249098)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】