説明

ジエチレントリアミン型金属キレート構造を有する高級脂肪酸トリエステル及びアミド誘導体

【課題】溶解性等に優れ、血管疾患などの病巣選択的なリポソーム造影剤に適した化合物を提供する。
【解決手段】下記の一般式(I)[R1〜R3はアルキル基又はアルケニル基を示し;X1及びX2は単結合、−O−、又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又はアルキル基を示す)を示し;X3〜X6は−O−又は−N(Z2)−(Z2は水素原子又は低級アルキル基を示す)を示し;nは1〜10の整数を示し;Lは2価の連結基(Lは炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、フッ素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される原子により構成される。)を示す]で表される化合物又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエチレントリアミン型金属キレート構造を有する高級脂肪酸エステル及びアミド誘導体に関する。本発明はさらに該化合物、該化合物を含むキレート化合物、又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソーム及び該リポソームを含む造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非侵襲的な動脈硬化の診断法としては、主にX線血管造影法が挙げられる。しかしながら、この方法は水溶性のヨード造影剤で血液の流れを造影する方法であるため、病変組織と正常組織との区別がつけにくい。そのため、狭窄が50%以上進んだ病巣しか検出することができず、虚血性疾患の発作が発症する前に病巣を検出することが困難である。
【0003】
上記以外の診断法として、近年、動脈硬化巣プラーク中に多く動態分布される造影剤を用いて核磁気共鳴トモグラフィー(MRI)により疾患を検出する方法が報告されている。しかしながら、該造影剤として報告されている化合物はいずれも診断法に用いることには問題がある。例えば、ヘマトポルフィリン誘導体(特許文献1参照)は皮膚への沈着・着色の欠点が指摘されており、また、脂質に富んだプラークに集積するとの報告があるパーフルオロ側鎖を有するガドリニウム錯体(非特許文献1参照)は、脂肪肝・腎臓上皮・筋組織の腱などの生体における脂質豊富な組織、器官への集積が危惧されている。
【0004】
化合物の観点からは、2個の脂肪酸エステルを有するフォスファチジルエタノールアミン(PE)とジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)をアミド結合した化合物が知られており(例えば、非特許文献2)、この化合物のガドリニウム錯体のリポソームに関する報告(非特許文献3)もある。しかし、この錯体は難溶解性であるためにリポソーム化の際の操作性が悪く、また、生体内での蓄積性や毒性における懸念がある。
【0005】
別に報告されている1個の高級脂肪酸エステル基を疎水性基として導入したガドリニウム錯体(特許文献2参照)は良好な溶解性を有しており、リポソーム製剤化にも利用できる。しかしながら、該錯体のリポソームへの導入量は低濃度に止まるという問題がある。上記刊行物に開示された錯体はいわゆる楔形分子であるために、シリンダー型分子より構成されるリポソームとの相溶性が低いことがその理由であると類推される。
【特許文献1】米国特許第4577636号明細書
【特許文献2】特願2005-283461号明細書
【非特許文献1】サーキュレーション(Circulation), 109, 2890 (2004)
【非特許文献2】ポリメリック マテリアルズ サイエンス アンド エンジニアリング(Polymeric Materials Science and Engineering), 89, 148 (2003)
【非特許文献3】インオーガニカ キミカ アクタ(Inorganica Chimica Acta), 331, 151 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、病巣選択的な造影のためのリポソーム造影剤に適した化合物であって、特に溶解性及びリポソーム膜構成成分との相溶性に優れた化合物を提供することにある。また、本発明の別の課題は、該化合物を含むMRI造影剤及びシンチグラフィー造影剤などの造影剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の課題を解決すべく研究を行った結果、下記の一般式(I)で表されるジエチレントリアミン型金属キレート構造を有する高級脂肪酸トリエステル及びアミド化合物が高い水溶性を有しており、しかも造影剤としてのリポソームの構成成分として優れた性質を有していることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の一般式(I):
【化1】

[式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に8〜30個の炭素原子からなる置換基を有していてもよいアルキル基又は8〜30個の炭素原子からなる置換基を有していてもよいアルケニル基を示し;X1及びX2はそれぞれ独立に単結合、−O−、又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又は炭素原子1〜3個からなるアルキル基を示す)を示すが、X1及びX2が同時に単結合を示すことはなく;X3、X4、X5、及びX6はそれぞれ独立に−O−又は−N(Z2)−(Z2は水素原子又は炭素原子1〜3個からなる低級アルキル基を示す)を示し;nは1〜10の整数を示し;Lは2価の連結基(Lは炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、フッ素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する酸素原子は0〜9個、窒素原子は0〜4個、フッ素原子は0〜8個、及び硫黄原子は0〜2個であり、さらにLを構成する炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は1〜20個である)を示す]で表される化合物又はその塩を提供するものである。
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、X3が−O−である上記化合物又はその塩X4、X5、及びX6が−O−である上記化合物又はその塩;Lが炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される2価の連結基である上記化合物又はその塩が提供される。
【0010】
本発明の別の好ましい態様によれば、X2が−O−又は−N(Z1)−であり(Z1は水素原子又は炭素原子1〜3個からなる低級アルキル基を表す)、Lが炭素原子1〜12個のアルキレン基、又は−(CH2CH2Y)mCH2CH2−(mは1〜6の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、mが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい)で表される連結基である上記化合物又はその塩;X2が−O−又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又は炭素原子1〜3個からなる低級アルキル基を表す)である上記化合物又はその塩;Lが−(CH2CH2Y)mCH2CH2−(mは1〜6の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、mが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい)で表される連結基である上記化合物又はその塩;Lが−(CH2CH2O)lCH2CH2−(lは1〜6の整数を示す)で表される連結基である上記化合物又はその塩;Lが−T1−CO−(T1は炭素原子1〜14個のアルキレン基又は一般式−(CH2CH2Y)u(CH2h−(uは1〜6の整数を示し、hは0〜2の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、uが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい))で表される連結基である上記化合物又はその塩;Lが−T2−X7CO−(X7は−O−又は−N(Z4)−(Z4は水素原子又はメチル基)を示し、T2は炭素原子1〜14個のアルキレン基を示す)で表される連結基である上記化合物又はその塩; Lが主鎖に3〜20員環構造を少なくとも一つ含む上記化合物またはその塩; R1、R2、及びR3がそれぞれ独立に10〜22個の炭素原子からなる直鎖状のアルキル基若しくは10〜22個の炭素原子からなる直鎖状のアルケニル基、又は10〜22個の炭素原子からなる分岐鎖状のアルキル基若しくは10〜22個の炭素原子からなる分岐鎖状のアルケニル基である上記化合物又はその塩が提供される。
【0011】
また、本発明により上記いずれかの化合物及び金属イオンからなるキレート化合物又はその塩が提供される。この発明の好ましい態様によれば、金属イオンが原子番号21-29、31、32、37-39、42-44、49、又は57-83に相当する元素の金属イオンである該キレート化合物又はその塩;金属イオンが原子番号21-29、42、44、又は57-71に相当する常磁性元素の金属イオンである該キレート化合物又はその塩が提供される。
【0012】
別の観点からは、本発明により、上記の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソームが提供され、その好ましい態様によれば、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む該リポソームが提供される。
また、本発明により、上記のリポソームを含む造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記の造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記の造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記の造影剤が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の観点からは、上記造影剤の製造のための上記の化合物、キレート化合物、又はそれらいずれかの塩の使用;造影法であって、上記の化合物、キレート化合物、又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソームをヒトを含む哺乳類動物に投与した後に造影する工程を含む方法;血管疾患の病巣の造影方法であって、上記の化合物、キレート化合物、又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソームをヒトを含む哺乳類動物に投与した後に造影する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化合物、キレート化合物、及びこれらいずれかの塩は、造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有しており、この化合物を含むリポソームを用いて造影することにより血管の病巣を選択的に造影できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1、R2、及びR3はそれぞれ独立に8〜30個の炭素原子からなるアルキル基又は8〜30個の炭素原子からなるアルケニル基を表す。該アルキル基又はアルケニル基は直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる基のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐鎖状が好ましく、また互いに架橋構造を有しない場合がより好ましい。R1、R2、及びR3は同一でも異なっていてもよいが、同一である方が好ましい。R1、R2、及びR3を構成する炭素原子の数は8〜25個がより好ましく、10〜22個が最も好ましい。R1、R2、及びR3がアルケニル基を表す場合、その二重結合はE若しくはZ配置又はそれらの混合物のいずれであってもよく、二重結合が複数ある場合にもそれぞれの二重結合について同様である。二重結合がビシナル2置換である場合はZ配置が好ましい。また、二重結合の位置及び個数は特に規定されない。R1、R2、及びR3が示すアルキル基又はアルケニル基は置換基を有していてもよいが、無置換であってもよい。R1、R2、及びR3が示すアルキル基又はアルケニル基は無置換であることが好ましい。
【0016】
本明細書において、ある官能基について「置換又は無置換」又は「置換基を有していてもよい」という場合には、その官能基が1又は2以上の置換基を有する場合があることを示しているが、特に言及しない場合には、結合する置換基の個数、置換位置、及び種類は特に限定されない。ある官能基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。本明細書において、ある官能基が置換基を有する場合、置換基の例としては、ハロゲン原子(本明細書において「ハロゲン原子」という場合にはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素のいずれでもよい)、アルキル基(本明細書において「アルキル基」という場合には、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、環状アルキル基にはビシクロアルキル基などの多環性アルキル基を含む。アルキル部分を含む他の置換基のアルキル部分についても同様である)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が挙げられる。
【0017】
1及びX2はそれぞれ独立に単結合、−O−、又は−N(Z1)−を表す。ただし、X1及びX2の両者が同時に単結合を示すことはない。Z1は水素原子、又は炭素原子1〜3の低級アルキル基を表すが、Z1は水素原子又はメチル基であることが好ましい。X3は−O−又は−NZ2−を表す。Z2は水素原子、又は炭素数1〜3個の低級アルキル基を表すが、Z2は水素原子又はメチル基であることが好ましい。X1、X2、X3が表す好ましい態様としては、X1、X2、X3のうち少なくとも1つが−O−を表す場合であり、X3が−O−を表す場合が最も好ましい。
【0018】
4、X5、及びX6はそれぞれ独立に−O−又は−N(Z2)−を表す。Z2は水素原子、又は炭素数1〜3個からなるアルキル基を表すが、Z2は水素原子又はメチル基であることが好ましい。X4、X5、及びX6が表す好ましい態様としては、X4、X5、及びX6のうち少なくとも1つが−O−である場合であり、X4、X5、及びX6の全てが−O−である場合が最も好ましい。
nは1〜10の整数を表す。好ましくはnは1〜4であり、最も好ましくはnは1である。
【0019】
Lは2価の連結基を示すが、Lは炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、フッ素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する酸素原子は0〜9個、窒素原子は0〜4個、フッ素原子は0〜8個、及び硫黄原子は0〜2個であり、さらにLを構成する炭素原子、酸素原子、窒素原子、フッ素原子、及び硫黄原子の総原子数は1〜20個である。Lは主鎖(主鎖とはX2とX3とを最短個数で結ぶ原子団をいう)が炭素原子鎖であるか、又は主鎖が炭素原子と窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子とを任意に組み合わせた原子鎖で構成される二価の連結基である。ヘテロ原子として好ましくは窒素原子及び酸素原子であり、最も好ましくは酸素原子である。Lは炭素原子及び水素原子のみで構成されていてもよい。
【0020】
Lを構成する炭素原子及びヘテロ原子の総数は1〜20個であるが、5〜20個が好ましく、8〜18個がより好ましい。Lが炭素原子及びヘテロ原子を含む場合、Lを構成する酸素原子は0〜9個、窒素原子は0〜4個、フッ素原子は0〜8個、硫黄原子は0〜2個の間である。Lを構成するヘテロ原子のうち、好ましい酸素原子数は1〜7個、より好ましくは1〜5個である。好ましい窒素原子数は0〜3個、より好ましくは0〜2個である。好ましいフッ素原子は0〜4個、硫黄原子数は0〜1個である。Lの主鎖としてより好ましくは、炭素原子に対し、酸素原子又は窒素原子が一定の割合以上で含まれている場合である。好ましい割合はLの主鎖、X2、及びX3に含まれるヘテロ原子数の和をj、Lの主鎖に含まれる炭素原子数をkとしたとき、kをjで割った商が3以下の場合であり、より好ましくは当該商が2以下の場合である。
【0021】
Lで表される2価の連結基において、Lを構成する原子は上述の主鎖への置換基として含まれていてもよい。該置換基の種類、個数、及び置換位置は特に限定されず、2個以上の置換基が存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。ただし、Lを構成する炭素原子及びヘテロ原子の総数は置換基を有する部分構造を含めたは20個を超えないものとする。置換基の例としては、アルキル基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、エーテル基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アゾ基、又はイミド等が挙げられるが、これらに限定されない。置換基として好ましくは、アルキル基、オキソ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エーテル基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニル基、又はカルバモイル基であり、より好ましくはアルキル基、オキソ基、又はヒドロキシル基である。
【0022】
Lは直鎖状、分岐鎖状、環状又はそれらの組み合わせのいずれでもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。また、該連結基は飽和の基であっても、不飽和結合を含む基であってもよい。Lが不飽和結合を含む基である場合、不飽和結合の種類、位置、及び個数は特に規定されない。
Lの好ましい例として、アルキレン構造、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造、ポリグリセリン構造、ポリグリコール酸構造、ポリ乳酸構造、ポリエチレンアミン構造、ポリペプチド構造、又はそれらの任意の組み合わせなどを挙げることができる。より好ましくはアルキレン構造、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造、ポリエチレンアミン構造、又はそれらの任意の組み合わせであり、さらに好ましくはアルキレン構造、ポリエチレングリコール構造、ポリエチレンアミン構造、又はそれらの任意の組み合わせである。具体的には、Lは1〜12個の炭素原子からなるアルキレン基、又は−(CH2CH2Y)mCH2CH2−(mは1〜6の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子又はメチル基を示す)を示し、mが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい)で表される連結基であることが好ましく、−(CH2CH2Y)mCH2CH2−で表される連結基であることがより好ましく、−(CH2CH2O)lCH2CH2−(lは1〜6の整数を表す)で表される連結基であることが最も好ましい。m及びlは、好ましくは2〜6であり、さらに好ましくは2〜4である。
なお、本明細書においてLで表される連結基を化学式(一般式)で表す場合には、左端がX2,右端がX3に連結するものとする。
【0023】
Lの別の好ましい例として、−T1−C(=O)−(T1は炭素数1〜14のアルキレン基、又は一般式−(CH2CH2Y)u(CH2h−(uは1〜6の整数を示し、hは0〜2の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子又はメチル基を示す)を表し、uが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい))で表される連結基、−T2−X7CO−(X7は−O−又は−N(Z4)−(Z4は水素原子又はメチル基)を示し、T2は炭素原子1〜14個のアルキレン基を示す) で表される連結基、または−T1−SO3−で表される連結基が挙げられる。
1またはT2で表されるアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜6個である。uは、好ましくは2〜5であり、さらに好ましくは2〜4である。hは好ましくは0である。
【0024】
Lのさらに別の好ましい例として、主鎖に環構造を含む連結基が挙げられる。該環構造における環の員数は、3〜20が好ましく、3〜10がより好ましく、3〜6がさらに好ましい。該環構造は炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される原子により構成されてよいが、炭素原子、水素原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される原子により構成される場合が好ましく、より好ましくは炭素原子及び水素原子;炭素原子、水素原子及び酸素原子;または炭素原子、水素原子及び窒素原子で構成される場合である。
【0025】
該環構造の好ましい例として、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、ナフタレン、エポキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、フラン、ピラン、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾール、ピロール、ピリジン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン、チオフェン、チオピラン又はそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。より好ましくはシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、エポキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン又はそれらの任意の組み合わせであり、さらに好ましくはシクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン、エポキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、アジリジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。また該環構造は縮環構造、架橋構造、スピロ構造などの2以上(好ましくは2〜4、より好ましくは2)の環からなるものであってもよい。Lの主鎖に含まれる好ましい環は、単環であることが最も好ましい。
【0026】
以下に本発明の化合物の好ましい例を示すが、本発明の化合物はこれらの例に限定されることはない。下記の表中、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示し、Prはプロピル基を示す。
【0027】
【化2】

【0028】
【表1】


【0029】
【表2】


【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
【表6】



【0034】
【表7】

【0035】
以下に、本発明の化合物の一般的な合成法について説明するが、本発明の化合物の合成法はこれらに限定されるものではない。本発明の化合物の部分構造である長鎖脂肪酸は、通常市販されているものを使用してもよく、あるいは用途に応じて適宜合成してもよい。合成により入手する場合には、例えばRichard C. Larock著、Comprehensive organic transformations(VCH)に記載の方法により、対応するアルコールやアルキルハライド等を原料として用いることができる。
【0036】
前記の長鎖脂肪酸は、ペンタエリスリトール誘導体と縮合してトリアシル化合物とした後、ジエチレングリコール、ジエタノールアミン、ジエチレントリアミンなどのα、ω―ジオール又はジアミン、α−アミノ−ω−アルコール、ω−ヒドロキシカルボン酸、ω−ヒドロキシスルホン酸、1−イミダゾリジル蟻酸ω−ヒドロキシエステル、ω−アミノカルボン酸等とカップリングしてトリアシル−ω−アルコール又はアミンへと導くことができる。この際、必要な場合には保護基を用いることもできるが、この場合の保護基とは、例えば、T. W. Greene & P. G. M. Wuts著、Protecting groups in organic synthesis(John Wiley & Sons, Inc.)に記載のものを適宜選択して用いることができる。
【0037】
上記のトリアシル−ω−アルコール又はアミン化合物は、金属配位能を有するポリアミン誘導体と連結することで本発明の化合物が合成できる。その方法は、例えば、Bioconjugate Chem., 10, 137 (1999)に記載の手法に準じて合成することができる。もっとも、これらの方法は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明のキレート化合物は上述の化合物及び金属イオンからなるキレート化合物である。金属イオンの種類は特に限定されないが、MRI、X線、超音波コントラスト、陽電子放出断層撮像法(PET)、若しくはシンチグラフィーなどの造影、又は放射線治療などの目的に適切な金属イオンとして、常磁性金属、重金属、放射性金属同位体の放射性金属の金属イオンを用いることが好ましい。より具体的には、原子番号21ないし29、31、32、37ないし39、42ないし44、49、又は57ないし83から選択される元素の金属イオンが好ましい。また、MRI造影剤として本発明のキレート化合物を使用する場合に適切な金属イオンとしては、原子番号21ないし29、42、44、57ないし71から選択される元素の金属イオンが挙げられる。正のMRI剤の調製に用いるためにより好ましい金属は、原子番号24(Cr)、25(Mn)、26(Fe)、63(Eu)、64(Gd)、66(Dy)、又は67(Ho)であり、負のMRI剤の調製に用いるためにより好ましい金属は、原子番号62(Sm)、65(Tb)、又は66(Dy)である。最も好ましくは、原子番号25(Mn)、26(Fe)、又は64(Gd)の元素であり、特にMn(II)、Fe(III)、又はGd(III)が好ましい。
【0039】
本発明の化合物又はキレート化合物は1以上の不斉中心を有するが、この場合、不斉中心に基づく光学活性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する。純粋な形態の任意の立体異性体、任意の立体異性体の混合物、又はラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含される。また、本発明の化合物はオレフィン性の二重結合を1個又は2個以上有する場合があるが、その配置はE又はZのいずれであってもよく、両者の混合物として存在していてもよい。本発明の化合物は互変異性体として存在する場合もあるが、任意の互変異性体、又はそれらの混合物は本発明の範囲に包含される。さらに、本発明の化合物は塩を形成する場合があり、遊離形態の化合物又は塩の形態の化合物が水和物又は溶媒和物を形成する場合もあるが、このような場合も本発明の範囲に包含される。塩の種類は特に限定されず、酸付加塩又は塩基付加塩のいずれであってもよい。
【0040】
また、陽電子を放出する核種を1個以上持つ本発明の化合物又はキレート化合物は、PET法の造影に用いてもよい。より具体的には、上述キレート化合物の他に陽電子を放出する核種を本発明の化合物に組み込んだ化合物を該造影剤として好ましく用いることができる。該化合物に組み込む目的に用いられる好ましい該核種としては11C,13N,15O,18Fが挙げられる。より好ましい核種は11C,18Fである。
【0041】
本発明の化合物又はその塩はリポソームの膜構成成分として用いることができる。本発明の化合物又はその塩を用いてリポソームを調製する場合、本発明の化合物又はその塩の使用量は、膜構成成分の全質量に対して10から90質量%程度、好ましくは10から80質量%、さらに好ましくは20から80質量%である。本発明の化合物は膜構成成分として1種類を用いてもよいが、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
リポソームの他の膜構成成分としては、リポソームの製造に通常用いられている脂質化合物をいずれも用いてもよい。例えば、Biochim. Biophys. Acta, 150(4), 44 (1982)、Adv. In Lipid. Res., 16(1), 1 (1978)、RESEARCH IN LIPOSOMES (P. Machy, L. Leserman著、John Libbey EUROTEXT社)、「リポソーム」(野島、砂本、井上編、南江堂)等に記載されている。脂質化合物としてはリン脂質が好ましく、特に好ましいのはホスファチジルコリン(PC)類である。ホスファチジルコリン類の好ましい例としては、eggPC(卵由来のPC)、ジミリストイルPC(DMPC)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジステアロイルPC(DSPC)、ジオレイルPC(DOPC)等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
リポソームの膜構成成分として好ましい例としては、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリン(PS)との組み合わせを挙げることができる。ホスファチジルセリンとしては、ホスファチジルコリンの好ましい例として挙げたリン脂質と同様の脂質部位を有する化合物が挙げられる。ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンとを組み合せて用いる場合、PCとPSの好ましい使用モル比はPC:PS=90:10から10:90の間であり、さらに好ましくは、30:70から70:30の間である。
本発明のリポソームとして好ましい別の例としては、膜構成成分としてホスファチジルコリンとホスファチジルセリンとを含み、さらにリン酸ジアルキルエステルを含むリポソームが挙げられる。リン酸ジアルキルエステルのジアルキルエステルを構成する2個のアルキル基は同一であることが好ましく、それぞれのアルキル基の炭素数は6以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましい。好ましいリン酸ジアルキルエステルの例としては、ジラウリルフォスフェート、ジミリスチルフォスフェート、ジセチルフォスフェート等が挙げられるが、これらに限定されることはない。この態様において、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの合計質量に対するリン酸ジアルキルエステルの好ましい使用量は1から50質量%までであり、好ましくは1から30質量%であり、さらに好ましくは1から20質量%である。
【0043】
ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リン酸ジアルキルエステル、及び本発明の化合物を膜構成成分として含むリポソームにおいて、上記成分の好ましい質量比はPC:PS:リン酸ジアルキルエステル:本発明の化合物が5〜40質量%:5〜40質量%:1〜10質量%:15〜80質量%の間で選択することができる。
本発明のリポソームの構成成分は上記4者に限定されず、他の成分を加えることができる。その例としては、コレステロール、コレステロールエステル、スフィンゴエミリン、FEBS Lett. 223, 42 (1987); Proc. Natl. Acad. Sci., USA 85, 6949 (1988)等に記載のモノシアルガングリオキシドGM1誘導体、Chem. Lett. 2145 (1989); Biochim. Biophys. Acta 1148, 77 (1992)等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim. Biophys. Acta 1029, 91 (1990); FEBS Lett. 268, 235 (1990)等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0044】
本発明のリポソームは、当業者が利用可能ないかなる方法で製造してもよい。製造法の例としては、先に挙げたリポソームの総説成書類の他、Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 9, 467 (1980)、"Liposomes" (M. J. Ostro編、MARCELL DEKKER、INC.)等に記載されている方法を利用できる。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これらに限られるものではない。本発明のリポソームのサイズは、上記の方法で作成できるサイズのいずれであってもよいが、通常は平均が400 nm以下であり、200 nm以下が好ましい。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラ又はマルチラメラなどのいずれの形態でもよい。また、リポソームの内部に適宜の薬物や他の造影剤の1種又は2種以上を配合することも可能である。
【0045】
本発明のリポソームを造影剤として用いる場合には、好ましくは非経口的に投与することができ、より好ましくは静脈内投与することができる。例えば、注射剤や点滴剤などの形態の製剤を凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用時に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ等輸液、緩衝液など)に溶解ないし再懸濁して用いることができる。本発明のリポソームを造影剤として用いる場合、投与量はリポソーム中の化合物含有量が従来の造影剤の化合物含有量と同程度になるように適宜決定することが可能である。
【0046】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、動脈硬化、若しくはPTCA(経皮的冠動脈形成術)後の再狭窄等の血管疾患においては、血管の中膜を形成する血管平滑筋細胞が異常増殖を起こすと同時に内膜に遊走し、血流路を狭くすることが知られている。正常の血管平滑筋細胞が異常増殖を始めるトリガーはまだ完全に明らかにされていないが、マクロファージの内膜への遊走と泡沫化が重要な要因であることが知られており、その後に血管平滑筋細胞がフェノタイプ変換(収縮型から合成型)をおこすことが報告されている。
【0047】
本発明のリポソームを用いると、泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋に対して規定の造影剤となる化合物を選択的に取り込ませることができる。その結果、病巣と非疾患部位とをコントラストをつけて造影することが可能である。従って、本発明の造影剤は、特に血管疾患のMRI造影に好適に使用でき、例えば、動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄等の造影を行うことができる。
【0048】
また、例えば J. Biol. Chem., 265, 5226 (1990)に記載されているように、リン脂質よりなるリポソーム、特にPCとPSから形成されるリポソームが、スカベンジャーレセプターを介してマクロファージに集積しやすいことが知られている。従って、本発明のリポソームを使用することにより、本発明の化合物をマクロファージが局在化している組織又は疾患部位に集積させることができる。本発明のリポソームを用いると、公知技術であるサスペンジョン又はオイルエマルジョンを用いる場合に比べて、より多くの規定の化合物をマクロファージに集積させることが可能である。
【0049】
マクロファージの局在化が認められ、本発明のリポソームで好適に造影可能な組織としては、例えば、血管、肝臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、腎臓上皮を挙げることができる。また、ある種の疾患においては、疾患部位にはマクロファージが集積していることが知られている。こうした疾患としては、腫瘍、動脈硬化、炎症、感染等を挙げることができる。従って、本発明のリポソームを用いることにより、これらの疾患部位を特定することができる。特に、アテローム性動脈硬化病変の初期過程において、スカベンジャーレセプターを介して変性LDLを大量に取り込んだ泡沫化マクロファージが集積していることが知られており〔Am. J. Pathol., 103, 181(1981); Annu. Rev. Biochem., 52, 223(1983)〕、このマクロファージに本発明のリポソームを集積化させてMRI造影をすることにより、他の手段では困難な動脈硬化初期病変の位置を特定することが可能である。
【0050】
本発明のリポソームを用いた造影方法は特に限定されない。例えば、通常のMRI造影剤を用いた造影方法と同様にして水のT1/T2緩和時間の変化を測定することにより造影を行うことができる。また、適宜、適切な金属イオンを用いることで、シンチグラフィー造影剤、X線造影剤、光像形成剤、超音波コントラスト剤としても使用することも可能である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
上記に構造を示した化合物204を以下のスキームに従って文献既知[Org. Syntheses Coll. Vol., 4, 679 (1963)]に記載されたモノベンザルペンタエリスリトール(化合物A)を出発物質として合成した。化合物Aの2個のヒドロキシ基をフィタン酸と縮合剤EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ)プロピルカルボジイミド塩酸塩)を用いて縮合しジエステル化合物Bを得た[日本化学会編、第4版実験化学講座第22巻258ページ(丸善)]。続いて化合物Bのベンジリデン基を接触還元法により除去後[Hanessian et al, Synthesis, 396 (1981)]、1個のヒドロキシ基をオレイン酸エステル化した(化合物C)。もう1個のヒドロキシ基と8−ヒドロキシオクタン酸と縮合反応させ、ω−ヒドロキシエステル化合物D204に変換した。
【0052】
これ以降の合成法は特願2005-283461号明細書にて開示されている方法に従った。化合物Dと別途合成したキレート配位子部分Eとの連結を行って化合物F204を得た。酸性条件下t−ブチルエステルの脱保護を行って化合物204を合成し、さらに塩化ガドリニウムを作用させて錯体204-Gdを得ることができた。
Mass(MALDI−TOF):m/z (α−cyano−4−hydroxycinnamic acid) 1740(M―Na)-
下記スキーム中、Phはフェニル基を示し、t-Buは3級ブチル基を示し、Meはメチル基を示す。
【0053】
【化3】

【0054】
また、Lがエーテル結合で連結されている化合物206を以下のスキームに従って合成した。化合物CをSchmidtらの方法[Euro. J. Org. Chem., 19, 3979 (2004)]に従い、ルイス酸存在下ブロミドを作用させて化合物G206を合成した。化合物G206のヒドロキシ基と化合物Eのカルボキシ基を縮合させて化合物Hを得た。酸性条件下、t−Buエステルの脱保護を行って化合物206を合成し、さらに塩化ガドリニウムを作用させて錯体206-Gdを得ることができた。
Mass(MALDI−TOF):m/z (α−cyano−4−hydroxycinnamic acid) 1774(M―Na)-
【0055】
【化4】

【0056】
合成例3:R1、R2、及びR3が同一の置換基で、かつLとX3がカルボン酸エステルとして連結されている化合物304は以下の経路に従って合成した。市販のビス(ヒドロキシメチル)−3−ブロモ−1−プロパノールに塩化パルミトイルを作用させてトリエステルIを得た。Iを12-ヒドロキシドデカン酸セシウム塩と公知の手法で反応させ[文献;J. Org. Chem. 1981,46,4321-4323]、テトラエステルJ304に変換した。
【0057】
これ以降の合成法は特願2005-283461号明細書にて開示されている方法に従った。化合物J304と別途合成したキレート配位子部分Cとの連結を行って化合物F304を得た。酸性条件下t−ブチルエステルの脱保護を行って化合物304を合成し、さらに塩化ガドリニウムを作用させて錯体304-Gdを得ることができた。
Mass(MALDI−TOF):m/z (α−cyano−4−hydroxycinnamic acid) 1658(M―Na)-
下記スキーム中、Phはフェニル基を示し、t-Buは3級ブチル基を示し、Meはメチル基を示す。
【0058】
【化5】

【0059】
合成例4:R1、R2、及びR3が同一の置換基で、かつLとX3が炭酸エステルとして連結されている化合物407は以下のスキームに従って合成した。文献公知[Euro. J. Org. Chem., 19, 3979 (2004)]の手法で得たKに、1、1'−カルボニルジイミダゾール及びジオールを作用させて炭酸エステルL407を得た。以降は上記化合物と同様に、光延反応、酸性条件での脱保護、錯体化を行い407−Gdに変換した。
Mass(MALDI−TOF):m/z (α−cyano−4−hydroxycinnamic acid) 1636(M―Na)-
下記スキーム中、Phはフェニル基を示し、t-Buは3級ブチル基を示し、Meはメチル基を示す。
【0060】
【化6】

【0061】
試験例1:溶解性試験
下記に示すガドリニウム錯体をそれぞれ1mMになるように秤量し、クロロホルム/メタノール(1/1)混合溶媒を1 mL加え、その際の溶解性(室温25℃)を調べた。その結果、本発明の化合物は比較化合物1と比べて均一な溶液となり、リポソーム製剤化するための優れた特性を有していることが明らかである。
【0062】
【表8】

【0063】
【化7】

【0064】
試験例2:リポソームの作成
J. Med. Chem., 25(12), 1500 (1982) に記載の方法に従い、ジ・パルミトイル PC(フナコシ社製、No.1201-41-0225)、ジ・パルミトイル PS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)、ガドリニウム錯体を下記の濃度比でナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、0.9%生理食塩水(光製薬社製、No512)を適当量加え、超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1mW)を氷冷下5分実施した後にリポソーム調製器(セントラル科学社製)を用いて粒子径85から120nmのリポソーム分散液を調製した。
【0065】
【表9】

【0066】
試験例3:マウス3日間連続投与毒性試験
ICRマウス雄6週齢(日本チャールスリバー)を購入し、1週間の検疫期間の後、クリーン動物舎内(空調:へパフィルター クラス1000、室温:20℃〜24℃ 湿度:35%〜60%)で1週間馴化した。その後、MTD(最大耐量)値を求めるため、尾静脈より被験化合物のマウス血清懸濁液を投与した。被験化合物のマウス血清懸濁液は、生理食塩水(光製薬社製)又はグルコース溶液(大塚製薬社製)のいずれかを溶媒として投与した。次に求められたMTD値をもとに、その1/2量の上記化合物103−Gdを3日間、尾静脈より3日間連続で投与した(n=3匹とする)。症状観察は各投与後6時間までとし、神経毒性を観察後に剖検を行ない、主要臓器について所見を取った。結果を下記に示す。本発明の化合物は低毒性であり、神経毒性も示さないことが確認できた。従って、本発明の化合物は造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。
【0067】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

[式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に8〜30個の炭素原子からなる置換基を有していてもよいアルキル基又は8〜30個の炭素原子からなる置換基を有していてもよいアルケニル基を示し;X1及びX2はそれぞれ独立に単結合、−O−、又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又は炭素原子1〜3個からなるアルキル基を示す)を示すが、X1及びX2が同時に単結合を示すことはなく;X3、X4、X5、及びX6はそれぞれ独立に−O−又は−N(Z2)−(Z2は水素原子又は炭素原子1〜3個からなる低級アルキル基を示す)を示し;nは1〜10の整数を示し;Lは2価の連結基(Lは炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、フッ素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する酸素原子は0〜9個、窒素原子は0〜4個、フッ素原子は0〜8個、及び硫黄原子は0〜2個であり、さらにLを構成する炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は1〜20個である)を示す]で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
3が−O−である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
4、X5、及びX6が−O−である請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
2が−O−又は−N(Z1)−(Z1は水素原子又は炭素原子1〜3個からなる低級アルキル基を表す)である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
Lが炭素原子1〜12個のアルキレン基又は−(CH2CH2Y)mCH2CH2−(mは1〜6の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、mが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい)で表される連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
Lが−(CH2CH2Y)mCH2CH2−(mは1〜6の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、mが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい)で表される連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
Lが−(CH2CH2O)lCH2CH2−(lは1〜6の整数を示す)で表される連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項8】
Lが−T1−CO−(T1は炭素原子1〜14個のアルキレン基又は一般式−(CH2CH2Y)u(CH2h−(uは1〜6の整数を示し、hは0〜2の整数を示し、Yは−O−又は−N(Z3)−(Z3は水素原子、メチル基又はフェニル基を示す)を示し、uが2以上のとき複数のYは同一でも異なっていてもよい))で表される連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項9】
Lが−T2−X7CO−(X7は−O−又は−N(Z4)−(Z4は水素原子又はメチル基)を示し、T2は炭素原子1〜14個のアルキレン基を示す)で表される連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項10】
Lが主鎖に3〜20員環構造を少なくとも一つ含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項11】
1、R2、及びR3がそれぞれ独立に10〜22個の炭素原子からなる直鎖状のアルキル基若しくは10〜22個の炭素原子からなる直鎖状のアルケニル基、又は10〜22個の炭素原子からなる分岐鎖状のアルキル基若しくは10〜22個の炭素原子からなるアルケニル基である請求項1ないし10のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の化合物及び金属イオンからなるキレート化合物又はその塩。
【請求項13】
金属イオンが原子番号21ないし29、31、32、37ないし39、42ないし44、49、又は57ないし83から選択される元素の金属イオンである請求項12に記載のキレート化合物又はその塩。
【請求項14】
金属イオンが原子番号21ないし29、42、44、又は57ないし71から選択される常磁性元素の金属イオンである請求項12に記載のキレート化合物又はその塩。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソーム。
【請求項16】
ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む請求項15に記載のリポソーム。
【請求項17】
請求項15又は16に記載のリポソームを含む造影剤。
【請求項18】
血管疾患の造影に用いるための請求項17に記載の造影剤。
【請求項19】
泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項17又は18に記載の造影剤。
【請求項20】
マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影のための請求項17ないし19のいずれか1項に記載の造影剤。
【請求項21】
マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項20に記載の造影剤。
【請求項22】
マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項20に記載の造影剤。

【公開番号】特開2007−191464(P2007−191464A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303863(P2006−303863)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】