説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】加工性にすぐれ、空気入りタイヤのサイドウォール等の加硫成形材料として好適に使用し得るジエン系ゴム組成物であって、発熱量を増加させることなく、高弾性率を有し、かつ耐疲労性にすぐれた加硫成形品を与え得るものを提供する。
【解決手段】天然ゴムおよび/またはブタジエンゴム90〜20重量%およびビニル・シスブタジエンゴム10〜80重量%からなるジエン系ブレンドゴム100重量部当り、モノメタクリル酸亜鉛4〜8重量部を配合してなるジエン系ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、タイヤサイドウォール部の加硫成形材料などとして好適に用いられるジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックバス用スチールラジアルタイヤのサイドトレッドは、駆動トルクを路面に伝える役割を担っているため、高弾性率と同時にすぐれた耐疲労性が要求される。かかる要求に対しては、サイドウォール部に天然ゴムとブタジエンゴムとのブレンド物を主体とするゴム組成物を用い、ブタジエンゴムとしてビニル・シスブタジエンゴム(VCR)を配合する方法が用いられている。
【0003】
一方、自動車業界ではタイヤの低燃費化が求められており、下記特許文献1に示されるようにタイヤのサイドウォールの発熱(ヒステリシスロス)を低減することで、燃費を改善することが知られているが、VCRを配合した場合低発熱性が十分ではないという問題がある。また、シリカを配合することにより発熱量を抑え、弾性率を改善することが可能ではあるものの、加工性が悪化してしまうといった問題がある。
【特許文献1】特開2006−124487号公報
【0004】
本出願人は先に、高弾性で、加工性が良好で、発熱が低い、サイドウォール部に用いられるゴム組成物として、(A)共役ジエン単位の含有量が30重量%以下のエチレン性不飽和ニトリル−共役ジエン系共重合体100重量部にエチレン性不飽和カルボン酸の金属塩20〜120重量部を配合した組成物10〜30重量部、(B)天然ゴム10〜30重量部、(C)ポリブタジエンゴム20〜60重量部、(D)シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含むポリブタジエンゴム15〜45重量部並びに(E)これらのゴム成分の総量100重量部に対して、(i)カーボンブラック20〜50重量部及び(ii)有機過酸化物1〜4重量部を含んでなるタイヤ用ゴム組成物を提案している。しかるに、かかるゴム組成物より得られる加硫成形品は、所期の目的は達成されるものの、なお耐疲労性の点でのさらなる改善が求められている。
【特許文献2】特開2006−199864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加工性にすぐれ、空気入りタイヤのサイドウォール等の加硫成形材料として好適に使用し得るジエン系ゴム組成物であって、発熱量を増加させることなく、高弾性率を有し、かつ耐疲労性にすぐれた加硫成形品を与え得るものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、天然ゴムおよび/またはブタジエンゴム90〜20重量%およびビニル・シスブタジエンゴム10〜80重量%からなるジエン系ブレンドゴム100重量部当り、モノメタクリル酸亜鉛4〜8重量部を配合してなるジエン系ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るジエン系ゴム組成物は、加工性にすぐれており、またその加硫成形品は低発熱性および高弾性率を有し、かつ耐疲労性にすぐれているため、空気入りタイヤ、特にトラックバスラジアルタイヤのサイドウォール等の加硫成形材料として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴムおよび/またはブタジエンゴム90〜20重量%、好ましくは80〜30重量%およびビニル・シスブタジエンゴム10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%からなるジエン系ブレンドゴムが用いられる。ビニル・シスブタジエンゴムは、高シスポリブタジエンゴムと高結晶性シンジオタクチックポリブタジエン樹脂の複合体(シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンで変性したシス‐1,4‐ポリブタジエン:VCR)であり、これは市販品、例えば宇部興産製品UBEPOL-VCR412、UBEPOL-VCR617、UBEPOL-VCR450、UBEPOL-VCR800などをそのまま用いることができる。ビニル・シスブタジエンゴムのブレンド割合が、これより少ないブレンドゴムが用いられると、耐疲労性が悪化するようになり、一方これより多いブレンドゴムが用いられると発熱量が増加するようになるため好ましくない。
【0009】
モノメタクリル酸亜鉛は、メタクリル酸が亜鉛に対して配位結合しているものと考えられ、〔CH(CH3)=CHCOO〕2Znで表わされるジメタクリル酸亜鉛とは区別される。実際には、モノメタクリル酸亜鉛として市販されているサートマー社製品SR709等をそのまま用いることができる。また、モノメタクリル酸亜鉛の合成例としては、塩基過剰でメタクリル酸と酸化亜鉛とを反応させて得られた、例えば60重量%のモノメタクリル酸亜鉛と30重量%のジメタクリル酸亜鉛、10重量%の酸化亜鉛とからなる混合塩が挙げられる。
【特許文献3】特表平11−512776号公報
【0010】
モノメタクリル酸亜鉛は、ジエン系ブレンドゴム100重量部当り4〜8重量部、好ましくは5〜7重量部の割合で用いられる。モノメタクリル酸亜鉛の配合割合がこれよりも少ないと、弾性率が低下するようになり、一方これ以上の割合で用いられると、加工性が悪化するようになるので好ましくない。ここでモノメタクリル酸亜鉛は、酸化亜鉛と併用することなく亜鉛化合物として単独で用いることもできるし、亜鉛化合物の合計量が8重量部以内であれば、酸化亜鉛等との併用も可能である。
【0011】
以上の必須成分よりなるジエン系ゴム組成物には、さらに充填剤としてシリカを併用することなくカーボンブラックが配合される。ここで、充填剤としてシリカを用いると、発熱量を抑え、弾性率を改善するといった効果を奏するものの、加工性が悪化してしまうようになる。カーボンブラックは、一般にはSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF等のファーネスカーボンブラックが、ジエン系ブレンドゴム組成物100重量部当り、80重量部以下、好ましくは70〜30重量部の割合で用いられる。カーボンブラックがこれより多い割合で用いられると、発熱量が増加し、加工性も悪化するようになる。
【0012】
ジエン系ゴム組成物中には、さらにゴムの配合剤として一般的に用いられている配合剤、例えばジエン系ゴムの種類に応じて硫黄等の加硫剤、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系等の加硫促進剤、タルク、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸、パラフィンワックス、アロマオイル等の加工助剤、老化防止剤、可塑剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0013】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、用いられたジエン系ゴム、加硫剤、加硫促進剤の種類およびその配合割合に応じた加硫温度で加硫され、図1に示されるように空気入りタイヤのサイドウォール6を形成する。
【実施例】
【0014】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0015】
実施例1
天然ゴム(TSR20) 30重量部
ビニル・シスブタジエンゴム(宇部興産製品UBEPOL-VCR412) 70 〃
カーボンブラック(三菱化学製品N550) 50 〃
モノメタクリル酸亜鉛(サートマー社製品SR709) 6 〃
老化防止剤(住友化学製品アンチゲン6C) 1 〃
プロセスオイル(昭和シェル石油製品デソレックス3号) 10 〃
硫黄(鶴見化学工業製品金華印油入微粉硫黄、硫黄分95%) 1.5 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーNS-P) 1 〃
以上の各成分の内、加硫促進剤と硫黄を除く各成分を3L密閉型ミキサで5分間混練し、150℃に達したとき放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄を加え、オープンロールで混練し、ジエン系ゴム組成物を得た。
【0016】
実施例2
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が4重量部に変更され、さらに酸化亜鉛(正同化学工業製品酸化亜鉛3種)1.5重量部が用いられた。
【0017】
実施例3
実施例1において、ビニル・シスブタジエンゴム量が20重量部に変更され、さらにブタジエンゴム(日本ゼオン製品NIPOL BR1220)50重量部が用いられた。
【0018】
比較例1(標準例)
実施例1において、ビニル・シスブタジエンゴムの代わりにブタジエンゴム(NIPOL BR1220)が同量用いられ、またモノメタクリル酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛(酸化亜鉛3種)3重量部が用いられた。
【0019】
比較例2
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛(酸化亜鉛3種)3重量部が用いられた。
【0020】
比較例3
比較例1において、カーボンブラック量が25重量部に変更され、さらにシリカ(UNITED SILICA INDUSTRIAL社製品ULTRASIL VN-3G)25重量部およびシランカップリング剤(デグッサ社製品Si-69)2重量部が用いられた。
【0021】
比較例4
実施例1において、ビニル・シスブタジエンゴムの代わりにブタジエンゴム(NIPOL BR1220)が同量用いられた。
【0022】
比較例5
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が3重量部に変更されて用いられた。
【0023】
比較例6
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が9重量部に変更されて用いられた。
【0024】

比較例7
実施例1において、ビニル・シスブタジエンゴム量が5重量部に変更され、さらにブタジエンゴム(NIPOL BR1220)65重量部が用いられた。
【0025】
比較例8
実施例1において、天然ゴム量が10重量部に、またビニル・シスブタジエンゴム量が90重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0026】
以上の各実施例および比較例で得られたジエン系ゴム組成物を用いて加工性についての評価が行われた。また、各ジエン系ゴム組成物を150℃で30分間加硫して加硫ゴム試験片を得、得られた加硫ゴム試験片について、動的粘弾性および耐疲労性の測定を行った。
加工性:JIS K6200準拠;ムーニー粘度ML1+4(100℃)を測定し、標準例で得られた値
を100とする逆数を指数として示した
(この値が大きい程加工性にすぐれていることを示している)
動的粘弾性:JIS K6394準拠;東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメータを用い、初
期歪10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、20℃における貯蔵弾性
率(E’)および損失正接(tanδ)を測定し、標準例で得られた値を100と
する指数(tanδについてはその逆数)で示した
(E’の指数が大きいほど弾性が大きく、またtanδの指数が大きい程発
熱量が抑えられていることを示している)
耐疲労性:JIS K6260準拠;亀裂が入るまでの屈曲回数を測定し、標準例で得られた
値を100とする指数で示した
(この値が大きい程耐疲労性にすぐれていることを示している)
【0027】
加工性 E’ tanδ 耐疲労性
実施例1 105 105 105 105
〃 2 100 105 105 105
〃 3 100 105 100 100
比較例1 100 100 100 100
〃 2 100 105 95 105
〃 3 95 105 105 100
〃 4 105 95 105 95
〃 5 110 95 100 100
〃 6 95 110 110 100
〃 7 100 100 100 95
〃 8 105 110 95 105
【0028】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 各実施例では、所定量のビニル・シスブタジエンゴムおよびモノメタクリル酸亜鉛を用いることにより、加工性を悪化させることなく、発熱量を抑えた上で、高い貯蔵弾性率および耐屈曲疲労性を達成している。
(2) 標準例である比較例1と比較して、ブタジエンゴムの代わりにビニル・シスブタジエンゴムを用いると、貯蔵弾性率および耐疲労性は改善されるものの、発熱量が増加する(比較例2)。
(3) 標準例と比較して、カーボンブラックの半量をシリカで置き換えると、貯蔵弾性率および低発熱性は改善されるものの、加工性が悪化する(比較例3)。
(4) 標準例と比較して、モノメタクリル酸亜鉛が本発明で規定する割合で用いられても、ブタジエンゴムの代わりにビニル・シスブタジエンゴムが用いられないと、加工性および低発熱性は改善されるものの、貯蔵弾性率および耐疲労性が悪化する(比較例4)。
(5) 標準例と比較して、ブタジエンゴムの代わりにビニル・シスブタジエンゴムが用いられても、モノメタクリル酸亜鉛が本発明で規定する割合より少ないと、加工性は改善されるものの、貯蔵弾性率が悪化する(比較例5)。
(6) 標準例と比較して、ブタジエンゴムの代わりにビニル・シスブタジエンゴムが用いられても、モノメタクリル酸亜鉛が本発明で規定する割合より多いと、低発熱性および貯蔵弾性率は改善されるものの、加工性が悪化する(比較例6)。
(7) 標準例と比較して、ブタジエンゴムの一部にビニル・シスブタジエンゴムが用いられても、その配合量が本発明で規定する割合より少ないと、モノメタクリル酸亜鉛が本発明で規定する割合で用いられても耐疲労性が悪化する(比較例7)。
(8) 標準例と比較して、ビニル・シスブタジエンゴムが本発明で規定する割合より多く用いられると、モノメタクリル酸亜鉛が本発明で規定する割合で用いられても、貯蔵弾性率、加工性および耐疲労性は改善されるものの、発熱量が増加する(比較例8)。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】空気入りタイヤの要部断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ベーストレッド
2 ベルトクッション
3 上部軟質ビードフィラー
3’ 下部硬質ビードフィラー
4 キャップトレッド
5 ベルト
6 サイドウォール
7 インナーライナー
8 ベルトエッジクッション
9 カーカス
10 チェーファー
11 リムクッション
12 ビードコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムおよび/またはブタジエンゴム90〜20重量%およびビニル・シスブタジエンゴム10〜80重量%からなるジエン系ブレンドゴム100重量部当り、モノメタクリル酸亜鉛4〜8重量部を配合してなるジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
ビニル・シスブタジエンが高シスポリブタジエンゴムと高結晶性シンジオタクチックポリブタジエン樹脂との複合体である請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
さらに充填剤として、シリカを併用することなくカーボンブラックが用いられた請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項4】
モノメタクリル酸亜鉛と共に酸化亜鉛ZnOが、モノメタクリル酸亜鉛との合計量が8重量部以下となるように併用された請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項5】
タイヤサイドウォール部の加硫成形用ゴム材料として用いられる請求項1、2、3または4記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5記載のジエン系ゴム組成物から加硫成形されたサイドウォール部を有する空気入りタイヤ。
【請求項7】
トラックバスラジアルタイヤとして用いられる請求項6記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242574(P2009−242574A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90595(P2008−90595)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】