説明

ジオポリマー硬化体用離型剤、成形されたジオポリマー硬化体の製造方法

【課題】ジオポリマー法を用いて得られるジオポリマー硬化体を、型枠から良好に脱型することができ、該硬化体の表面性の低下を防止できるジオポリマー硬化体用離型剤、及び成形されたジオポリマー硬化体の製造方法の提供。
【解決手段】ジオポリマー法によって得られるジオポリマー硬化体を型枠から脱型するための離型剤であって、ワックスを主成分とし、ジオポリマー硬化体用組成物を硬化させる際の養生温度よりも10℃以上高い融点を有する前記ワックスを水を含む溶媒に分散又は溶解してなる、ノニオン性又はアニオン性組成物であることを特徴とするジオポリマー硬化体用離型剤;前記ジオポリマー硬化体用離型剤を付着させた型枠に、ジオポリマー硬化体用組成物を充填し、前記ワックスの融点よりも10℃以上低い温度で養生して硬化させた後、型枠を脱離させて、成形されたジオポリマー硬化体を製造する、成形されたジオポリマー硬化体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオポリマー法を用いて得られるジオポリマー硬化体の型枠脱型時に用いることができるジオポリマー硬化体用離型剤、及び該ジオポリマー硬化体用離型剤を用いた、成形されたジオポリマー硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、砂利、砂等の骨材と、セメントと、水とをコンクリートミキサー等で混合・攪拌し、これを木材や金属からなる型枠内に充填し、硬化させ、型枠を脱離させることにより得られる。
コンクリートを容易に型枠から脱離させることを目的として、離型剤が用いられる。コンクリート用離型剤は、第一に離型性が良いことが必須条件であり、且つ、コンクリート二次製品(硬化体)の生産性がよいことも求められる。即ち、コンクリートの付着による二次製品表面の肌荒れや割れ(欠落)の防止、型枠自体の汚れや錆の低減が求められている。これらの要求を満たすコンクリート用離型剤としては、一般に、鉱物油系離型剤、脂肪酸系離型剤、界面活性剤系離型剤等が用いられている。
【0003】
現在上記のようなコンクリート用のセメントとしては、一般にポルトランドセメント(JIS A 5210)が用いられている。ポルトランドセメントは、炭酸カルシウム(CaCO)を主成分とする石灰石を乾燥した後、焼成することにより得られる。この過程で酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO)とに分解することにより、ポルトランドセメント製造時には、多量の二酸化炭素を大気中に排出することとなり、二酸化炭素排出による地球温暖化問題の観点から、ポルトランドセメントを用いないコンクリート代用品が検討されている。
例えば、特許文献1には、ポルトランドセメントを用いないコンクリート代用品として、アルカリで活性化されて重合固化するフィラーと、アルカリ活性剤と、骨材とを原料とするジオポリマー硬化体用組成物、及びそれを硬化してなるジオポリマー硬化体(ジオポリマーコンクリート)が開示されている。このジオポリマー硬化体は、化学的に安定で強度が高く、且つ、産業廃棄物からなるフィラーを用いた場合には廃棄物の有効活用ができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−239446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたようなジオポリマー硬化体におけるジオポリマー法による硬化反応過程は、ケイ酸カルシウムの水和反応により硬化する従来のポルトランドセメントとは全く異なる。具体的には、(1)石炭灰(フライアッシュ)等のアルカリ活性フィラーからのAl、Si等の溶出、(2)溶出したイオンとモノマーとの縮合、(3)モノマーの重縮合によるポリマー構造の形成、の3つの反応がほぼ同時に起こり、ジオポリマー硬化体が形成される。ジオポリマー硬化体では、上記のような硬化反応時の温度依存性が高い。そのため、より短時間で高強度のジオポリマー硬化体を得ることを目的として、80℃程度の養生条件下にて硬化反応が行われる。
ジオポリマー硬化体の製造においては、80℃程度の養生条件下にて硬化反応を行うため、反応中のジオポリマー硬化体用組成物は溶液化し、流動性が大きくなる。そのため、従来の融点の低い離型剤では、型枠内壁に塗布した離型剤がジオポリマー硬化体用組成物内に分散してしまうため、良好な離型性が得られないという問題がある。
また、ジオポリマー硬化体の製造では、アルカリ活性剤として、高アルカリを示すナトリウムやカリウム等のアルカリ水酸化物を使用するため、一時的にジオポリマー硬化体用組成物がアルカリ性となる。そのため、例えば、カチオン性界面活性剤を使用することにより、酸性を示す離型剤を用いると、該離型剤がジオポリマー硬化体用組成物と接触することにより、イオン性の違いから、離型性の低下や表面における硬化不良等に起因する硬化体外観不良等の表面性の低下を引き起こすという問題もある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、ジオポリマー法を用いて得られるジオポリマー硬化体を、型枠から良好に脱型することができ、ジオポリマー硬化体の表面性の低下を防止できるジオポリマー硬化体用離型剤、及び該ジオポリマー硬化体用離型剤を用いた、成形されたジオポリマー硬化体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ワックスを主成分とし、ジオポリマー硬化体を硬化させる際の養生温度よりも10℃以上高い融点を有する前記ワックスを、水を含む溶媒に分散してなるノニオン性又はアニオン性組成物をジオポリマー硬化体用離型剤として用いることにより、離型剤の離型性が向上し、ジオポリマー硬化体を容易に脱型することができ、且つ、ジオポリマー硬化体の表面性の低下を防止できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の特徴を有するジオポリマー硬化体用離型剤、及び該ジオポリマー硬化体用離型剤を用いた、ジオポリマー硬化体の製造方法を提供するものである。
(1)ジオポリマー法によって得られるジオポリマー硬化体を型枠から脱型するための離型剤であって、ワックスを主成分とし、ジオポリマー硬化体用組成物を硬化させる際の養生温度よりも10℃以上高い融点を有する前記ワックスを、水を含む溶媒に分散又は溶解してなる、ノニオン性又はアニオン性組成物であることを特徴とするジオポリマー硬化体用離型剤。
(2)前記ワックスが、ポリエチレンワックスであることを特徴とする前記(1)のジオポリマー硬化体用離型剤。
(3)前記ノニオン性又はアニオン性組成物のpHが6〜12であることを特徴とする前記(1)又は(2)のジオポリマー硬化体用離型剤。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかのジオポリマー硬化体用離型剤を付着させた型枠に、ジオポリマー硬化体用組成物を充填し、前記ワックスの融点よりも10℃以上低い温度で養生して硬化させた後、型枠を脱離させて、成形されたジオポリマー硬化体を製造することを特徴とする成形されたジオポリマー硬化体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、ジオポリマー硬化体とは、ジオポリマー法を用いて得られる硬化体であれば特に限定されるものではないが、例えば、後述するジオポリマー硬化体用組成物を型枠に充填し、加熱養生して硬化させることにより得られるものが挙げられる。ここで、ジオポリマー法とは、石炭灰、高炉スラグ、下水焼却汚泥、メタカオリンなどのSiやAlを含有するアルカリに活性な非晶質物質とアルカリ水溶液との反応により生じるアルミノケイ酸塩ポリマーの硬化体を得る手法をいう。
【0009】
≪ジオポリマー硬化体用離型剤≫
本発明のジオポリマー硬化体用離型剤(以下、単に「離型剤」ということがある。)は、ワックスを主成分とし、ジオポリマー硬化体用組成物を硬化させる際の養生温度よりも10℃以上高い融点を有する前記ワックスを水を含む溶媒に分散してなるノニオン性又はアニオン性組成物である。
【0010】
本発明におけるワックスは、ジオポリマー硬化体用組成物を硬化させる際の養生温度よりも10℃以上高い融点を有するものである。離型剤に含有されるワックスがジオポリマー硬化体を硬化させる際の養生温度よりも10℃以上高い融点を有することで、加熱養生時に離型剤が溶融や流動して、ジオポリマー硬化体用組成物内に分散することがなく、離型剤として型枠表面に留まるため、良好な離型性が得られる。なお、ジオポリマー硬化体用組成物については後述する。
ワックスの融点は、ジオポリマー硬化体用組成物を硬化させる際の養生温度よりも10℃以上高いものであれば特に限定されるものではなく、ポリマー硬化体用組成物の組成に応じて決定される硬化及び成形時の養生温度を鑑みて、適宜決定することが好ましい。より具体的には、ジオポリマー硬化体用組成物を硬化する際の養生温度としては、一般に80℃程度の温度が用いられるため、一般の養生温度においてジオポリマー硬化体を硬化させる場合、ワックスは90℃以上の融点を有することが好ましく、100℃以上の融点を有することがより好ましく、120℃以上の融点を有することがさらに好ましく、130℃以上の融点を有することが特に好ましい。ワックスが高い融点を有することで、加熱養生時の温度選択の自由度が増大するため好ましい。
ワックスは、一般に、石油ワックス、動植物ワックス、鉱物ワックス、合成ワックス等に分類されるが、90℃以上の高融点を有するものは合成ワックスを主成分とするものに限られるのが実情である。
【0011】
そのため、本発明におけるワックスは、合成ワックスを含むことが好ましい。
合成ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、脂肪酸アミドワックス、脂肪酸ビスアミドワックス等が挙げられるが、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等の炭化水素系合成ワックスであることが好ましく、ポリエチレンワックスであることがより好ましい。これらの合成ワックスは、単独ないし、組み合わせて使用することができる。
さらに、本発明におけるワックスとしては、上記合成ワックスに、パラフィンワックス、マイクロワックス、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋等の石油ワックス、動植物ワックス、鉱物ワックスを混合し使用してもよいが、ワックス中の合成ワックス比率が60%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0012】
本発明におけるノニオン性又はアニオン性組成物は、上記のようなワックスを水を含む溶媒に分散又は溶解してなるものである。
ワックス自体は常温で固体であるが、ノニオン性又はアニオン性組成物を水を含む溶媒に分散又は溶解し、分散体又は溶液とすることにより、ノニオン性又はアニオン性組成物からなる離型剤の型枠への塗布性を向上できる。水を含む溶媒としては、特に限定されるものではないが、水が好ましい。
本発明におけるノニオン性又はアニオン性組成物は、ワックスに加えて、ワックスを溶媒に分散又は溶解させるために必要なその他の成分を含有することができる。
その他の成分としては、通常のワックス分散体に用いられる、ノニオン性又はアニオン性の界面活性剤、水溶性高分子化合物等を用いることができ、これらは単独ないしは数種類を組み合わせて用いることができる。次にそれらの例を示すが、その他の成分はこれに限定されるものではない。
アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸類及びその塩、酸化ワックス塩、ロジン酸石鹸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルフェノールスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、高級アルコール硫酸エステル塩、脂肪酸多価アルコール硫酸エステル塩、脂肪酸アニリド硫酸エステル塩、脂肪酸モノアルカノールアミド硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
水溶性高分子化合物としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、化工デンプン、アラビアガム、アルギン、シクロデキストリン、プルラン、カゼイン、ゼラチン、リグニン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸塩、スチレン−無水マレイン酸共重合体、オレフィン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
なかでも、本発明のノニオン性又はアニオン性組成物は、少なくともアニオン性界面活性剤を含有することが好ましい。
【0013】
ノニオン性又はアニオン性組成物のpHは、6〜12であることが好ましく、7〜11であることがより好ましい。pHが上記範囲内であるノニオン性又はアニオン性組成物を離型剤として用いることにより、得られるジオポリマー硬化体の表面性低下を特に防止することができる。
ノニオン性又はアニオン性組成物中の合成ワックスを含む不揮発分の割合は、ノニオン性又はアニオン性組成物全体に対し、10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましく、22〜35質量%であることがさらに好ましく、30質量%であることが最も好ましい。不揮発分を上記範囲内とすることにより、該離型剤を型枠に薄く塗布した際にも、離型性を有するワックスが型枠に十分量付着するため好ましい。
【0014】
上記のようなノニオン性又はアニオン性組成物としては、例えば、アニオン性ポリエチレンワックス水分散体「ポリロンL−618」、「ポリロンL−787」、「ポリロンL−788」(いずれも商品名、中京油脂社製)、アニオン性ステアリン酸アミド/パラフィンワックス水分散体「EA−100」(商品名、中京ヨーロッパ社製)等が好適なものとして挙げられる。
【0015】
本発明では、ノニオン性又はアニオン性組成物を離型剤として用いることにより、後述するジオポリマー硬化体用組成物中のアルカリ活性フィラー、アルカリ活性剤等が含有するアルカリ金属イオンと、離型剤とが反応することがなく、ジオポリマー硬化体用組成物と、離型剤とが型枠内で接触した場合にも、離型剤の離型性が損なわれず、良好な離型性を発揮することができる。
【0016】
≪成形されたジオポリマー硬化体の製造方法≫
本発明の成形されたジオポリマー硬化体の製造方法は、上記ジオポリマー硬化体用離型剤を付着させた型枠に、ジオポリマー硬化体用組成物を充填する工程と、前記合成ワックスを主成分とするワックスの融点よりも10℃以上低い温度で加熱して養生させた後、型枠を脱離させる工程と、を含む。
【0017】
まず、ジオポリマー硬化体用離型剤を付着させた型枠に、ジオポリマー硬化体用組成物を充填する。
型枠としては、コンクリート型枠として従来用いられているものと同様の木材や、鋼等の金属からなるものを用いることができる。
離型剤を型枠の内壁表面に付着させる方法は特に限定されるものではなく、離型剤を噴霧する、離型剤を刷毛等を用いて塗布する等の方法により行うことができる。離型剤の付着量は特に限定されるものではなく、型枠の内壁表面が全て覆われる程度であればよい。なお、型枠に離型剤を付着させた後、5分程度型枠を静置し、離型剤を軽く乾燥させた後に、後段のジオポリマー硬化体用組成物を充填することが好ましい。
【0018】
次に、離型剤を付着させた型枠に、ジオポリマー硬化体用組成物を充填する。
本発明においてジオポリマー硬化体用組成物としては、ジオポリマー法により硬化し、硬化体が得られるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、アルカリ活性フィラーと、アルカリ活性剤と、骨材とを原料とし、ミキサー等で練り混ぜたものが挙げられる。
アルカリ活性フィラーは、アルカリ活性剤で活性化されて重合固化する性質を有する粉末をいい、たとえば、フライアッシュ、クリンカアッシュ等の石炭灰;高炉スラグ、下水焼却汚泥等のガラス成分を含む産業廃棄物が好ましいものとして挙げられる。
アルカリ活性剤としては、アルカリ活性剤と、骨材とを練り混ぜるための溶液であって、珪酸ナトリウム溶液、珪酸カリウム溶液、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液等が挙げられる。また、これらにメタ珪酸ナトリウム粉末やシリカ粉末を溶解させて用いることも好ましい。アルカリ活性剤のアルカリ量/水量のモル比は、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましい。
骨材は、コンクリートやモルタルに一般的に用いられる骨材を用いることができ、天然骨材であっても人工骨材であってもよく、軽量骨材であっても、普通骨材であっても、重量骨材であってもよい。これらは得られるジオポリマー硬化体の用途に応じて適宜選択することができる。
本発明において、型枠にジオポリマー硬化体用組成物を充填する方法は特に限定されるものではなく、一般的に用いられる装置等を用いて行うことができる。
【0019】
次いで、本発明のジオポリマー硬化体用離型剤が主成分として含有するワックスの融点よりも、10℃以上低い温度で養生して硬化させた後、型枠を脱離させ、成形されたジオポリマー硬化体(以下、「ジオポリマー成形体」ということがある。)を製造する。
養生温度は、前記ワックスの融点よりも10℃以上低い温度であり、たとえば、ワックスの融点が90℃である場合は、養生温度は80℃以下となり、ワックスの融点が100℃である場合は、養生温度は90℃以下となる。養生温度は、ワックスの融点よりも10℃以上低い限りは特に限定されるものではなく、用いるジオポリマー硬化体用組成物の組成、養生時間等に応じて適宜決定すればよい。
型枠を脱離させる方法は特に限定されるものではなく、手動で脱離してもよく、公知の装置等を用いて脱離してもよい。
【0020】
本発明の成形されたジオポリマー硬化体の製造方法により得られるジオポリマー成形体は、本発明の離型剤を用いることで、得られるジオポリマー成形体の型枠からの離型性が向上する。その結果として、ジオポリマー成形体の型崩れや表面割れ等の表面性の低下を防ぐことができ、ジオポリマー成形体の歩留まりを高くすることができる。また、ジオポリマー成形体に用いる型枠に、ジオポリマー硬化体用組成物が剥離不可能な状態で付着する現象(面付き)を防ぐことができるため、型枠を再利用することができ、コストの低減を図ることができる。
さらに、本発明の成形されたジオポリマー硬化体の製造方法では、ジオポリマーを用いているため、従来のセメントを用いたコンクリートやモルタルのように二酸化炭素の発生がなく、環境への負荷が低い。
【実施例】
【0021】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
フライアッシュ(四電ビジネス社製「ファイナッシュ」)27質量部、水酸化カリウム(ナガオ社製)10質量部、シリカ粉末(東ソー・シリカ社製「AQ」)1質量部、細骨材及び粗骨材(御津砕石工業所製)60質量部を、モルタルミキサーにより練り混ぜ、ジオポリマー硬化体用組成物を得た。
鋼製型枠の内壁表面に、表1に示す離型剤を噴霧により10〜30g/mで塗布し、5分間静置して離型剤を乾燥させた後、上記により得られたジオポリマー硬化体用組成物を型枠内に充填し、80℃で6時間、加熱養生を行った。その後、型枠の脱離を行い、得られたジオポリマー成形体及び型枠の外観を以下の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0023】
[外観評価]
○:成形体の表面に割れや欠けがなく良好であり、型枠への付着もない。
△:成形体の表面に割れや欠けが生じ、一部型枠に付着している。
×:成形体の表面に大きな割れや欠けが生じ、型枠に完全に面付きしている。
××:成形体が完全に型枠に接着しており、型枠から脱離することができない。
【0024】
【表1】

【0025】
表1中、R−1〜R−13はそれぞれ以下の離型剤を示す。
R−1:アニオン性ポリエチレンワックス水分散体「ポリロンL−618」(商品名、中京油脂社製)(主成分融点 138℃、組成成分 アニオン・ノニオン、pH10.5、分散体中不揮発分 30質量%)
R−2:アニオン性ポリエチレンワックス水分散体「ポリロンL−787」(商品名、中京油脂社製)(主成分融点 102℃、組成成分 アニオン・ノニオン、pH10.5、分散体中不揮発分 31質量%)
R−3:アニオン性ポリエチレンワックス水分散体「ポリロンL−788」(商品名、中京油脂社製)(主成分融点 105℃、組成成分 アニオン・ノニオン、pH10.5、分散体中不揮発分 31質量%)
R−4:アニオン性ステアリン酸アミド/パラフィンワックス水分散体「EA−100」(商品名、中京ヨーロッパ社製)(主成分融点 90℃、組成成分 アニオン、pH8.0、分散体中不揮発分 22質量%)
R−5:鉱物油「パネロール E−1改」(商品名、ダイセキ社製)(主成分融点 常温にて液体)
R−6:界面活性剤/鉱物油混合物「ファインモールドW」(商品名、中京油脂社製)(主成分融点 常温にて液体)
R−7:アニオン性合成ワックス水分散体「リケイ剤 D−526」(商品名、中京油脂社製)(主成分融点 80℃、組成成分 アニオン、pH9.5)
R−8:ノニオン性シリコーンオイル水分散体「リケイ剤 P−748」(商品名、中京油脂社製)(主成分 常温にて液体、組成成分 ノニオン、pH7.0)
R−9:アニオン性シリコーンオイル水分散体「リケイ剤 H−264」(商品名、中京油脂社製)(主成分 常温にて液体、組成成分 アニオン、pH10.0)
R−10:マイクロワックス溶剤分散体「リケイ剤 639」(商品名、中京油脂社製)(主成分融点 86℃)
R−11:ノニオン性カルナバワックス水分散体「セロゾール 524」(商品名、中京油脂社製)(主成分融点 83℃、組成成分 ノニオン、pH6.0)
R−12:ノニオン性パラフィンワックス水分散体「セロゾール R−226」(商品名、中京油脂社製)(主成分融点 67℃、組成成分 ノニオン、pH7.0)
R−13:カチオン性合成ワックス水分散体「リケイザイW M−381」(商品名、中京油脂社製)(主成分融点 92℃、組成成分 カチオン、pH5.5)
【0026】
上記の結果から、本発明に係る試験例1〜4の離型剤を用いた場合、試験例5〜13の離型剤を用いた場合に比べて、型枠から良好に脱離することができ、得られた成形体は割れや欠けがなく表面性が良好であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のジオポリマー硬化体用離型剤は、建設、土木等の分野で広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオポリマー法によって得られるジオポリマー硬化体を型枠から脱型するための離型剤であって、ワックスを主成分とし、ジオポリマー硬化体用組成物を硬化させる際の養生温度よりも10℃以上高い融点を有する前記ワックスを水を含む溶媒に分散又は溶解してなる、ノニオン性又はアニオン性組成物であることを特徴とするジオポリマー硬化体用離型剤。
【請求項2】
前記ワックスが、ポリエチレンワックスであることを特徴とする請求項1に記載のジオポリマー硬化体用離型剤。
【請求項3】
前記ノニオン性又はアニオン性組成物のpHが6〜12であることを特徴とする請求項1又は2に記載のジオポリマー硬化体用離型剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のジオポリマー硬化体用離型剤を付着させた型枠に、ジオポリマー硬化体用組成物を充填し、前記ワックスの融点よりも10℃以上低い温度で養生して硬化させた後、型枠を脱離させて、成形されたジオポリマー硬化体を製造することを特徴とする成形されたジオポリマー硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2012−86537(P2012−86537A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237821(P2010−237821)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(596000154)中京油脂株式会社 (13)
【出願人】(591047327)大和クレス株式会社 (17)
【Fターム(参考)】