説明

ジオマテリアルの機械的性質を改善する常在微生物によるinsitu炭酸カルシウム(CaCO3)析出

【解決手段】 尿素をアンモニアに加水分解する事が可能な常在微生物を含むジオマテリアルにおける炭酸カルシウム濃度を増加させるための方法。栄養源によりジオマテリアルを富化すること、アンモニアに加水分解され、ジオマテリアルのpHを増加させる尿素をジオマテリアルに添加すること、およびジオマテリアルにカルシウムイオン源を添加することを含む方法。尿素の加水分解により得られる炭酸イオンは炭酸カルシウムを形成するためカルシウムイオンと結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は尿素を加水分解する微生物を用いたジオマテリアルのセメント形成の分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント結合は多孔質マテリアルの隙間に溶解鉱物成分が沈着・堆積し、結合マテリアルを形成すべくマテリアルを互いに固着させる一連の作用である。実際には、セメント結合は砂岩と石灰岩のような堆積岩が形成される地質学的プロセスである。砂岩と石灰岩は主にカルサイトセメントの析出を介し形成される。
【0003】
カルサイトは可溶性が低く最も安定した炭酸カルシウムの多形である。炭酸カルシウムのその他の多形はアナゴライトとバテライトである。炭酸カルシウムの過飽和状態の溶液は準安定性の多形バテライトに自発的に転移する不安定なアモルファス炭酸カルシウムとし析出する。バテライトからカルサイトへの転移は水の存在下で急速に起こり、ほぼすべてのバテライトが24時間以内にカルサイトに転移する。土壌中、カルサイトは隣接した土壌粒との隙間を埋め、固化した砂または砂岩を形成すべく土壌粒子とともに固化する。土壌粒子とともに固化することに加え、炭酸カルシウムの微粒子は土壌マトリクスにおける隙間を減らし土壌のせん断に対する抵抗性を増加させる。
【0004】
土壌中に天然に存在する多くの微生物、特にBacillus属、Sporosarcina属、Sporolactobacillus属、Clostridium属、およびDesulfotomaculum属のようなBacillacae科のバクテリアは水の存在下で尿素(NHCOを以下の反応によりアンモニウムと炭酸イオンに加水分解することができる。
【0005】
(NHCO + 2HO → 2NH + CO2−
NHイオンの生成は局所pHを上昇させ、カルシウムイオンの存在下、核生成部位を利用し、炭酸イオンはカルシウムイオンと自発的に反応し、以下の反応により炭酸カルシウムを形成する。
【0006】
Ca2+ + CO2− → CaCO
炭酸カルシウムが自発的にともに土壌粒子を固化する安定な多形カルサイトを形成するため、微生物セメント結合は多岐に渡る用途に有用であると考えられてきた。Kucharskiは米国特許出願第2008/0245272号において微生物バイオセメンテーションが組み立て、安定化、および擁壁、堤防、およびトンネルの補強などの土木工学への応用に、液状化の恐れがある地震多発地帯において安定化させる砂として、採掘により破壊された地面に支持体を提供するため、尾鉱ダムの強度を増し侵食を防ぐため、および塵粒子を固着させるため、といったような鉱業への応用、道路および滑走路のような「即席の」舗道をつくるといったような建築業への応用、風化するモルタルおよび石造建築の保存、修復、および強化といったような修復工事への応用、重金属、繊維、および放射性元素などの汚染物質の安定化や除去、および侵食の抑制のような環境分野での応用、および固化したバイオフィルターへのバクテリアの固定化を含むフィルターの作成といったような他の用途に利用可能であることを開示している。
【0007】
Kucharskiは岩、砂、土、または粘土といったスターティングマテリアルと特定量の(1)ウレアーゼを産生する外因性の微生物、(2)尿素、および(3)カルシウムイオンを混合することによりセメントを形成する方法について開示している。しかしながら、Kucharskiの方法にはいくつかの不利な点が存在し、Kucharskiの応用法でいくつかにおいては対処がなされている。
【0008】
不利な点の一つとして、上記の3つの構成成分をスターティングマテリアルに注入するとカルサイト形成はそのような状況において急速に起こることにより、カルサイト形成とその結果生じるセメント結合がスターティングマテリアルに3つの成分を注入したポイント、またはそれに近い部位に集中して起こる傾向があるということがある。この問題に関してはWhiffinらが「Microbial Carbonate Precipitation as a Soil Improvement Technique」Geomicrobiology Journal、24:417〜423(2007)において考察している。Kucharski応用法の共同発明者の一人でもあるWhiffinは薬剤とバクテリアの同時の注入がカルサイトの急速な生成の原因となり、注入ポイント近位で系が目詰まりする結果となることを開示している。Whiffinはバクテリアおよび薬剤がマテリアルの目詰まりを起こすことなくスターティングマテリアルに注入可能となるプロセスを開示している。しかしながら420ページの表5において、Whiffinは59.2kg CaCO/mの平均カラム量が得られたのにもかかわらず、注入点から100cmの地点で平均の2倍以上の値でカラム中の炭酸カルシウムの分布が非常に不均一であったことを示している。このように、例え目詰まりが回避されたとしてもWhiffinの方法ではスターティングマテリアルの至る所でカルサイトが不均等に分布するという結果となり、よって、スターティングマテリアルのあらゆる部位で不均等な強化がなされるという結果となる。
【0009】
Kucharskiの方法の2つ目の不利な点はKucharskiにより0072項に考察がなされているスターティングマテリアルへの添加後に生じる微生物のロスである。Kucharskiはこの問題はセメント結合に先立ちスターティングマテリアルに微生物を定着させることにより対処可能であることを開示している。このように0072項に述べられているようにKucharskiの方法には(1)スターティングマテリアルに微生物を添加すること、(2)スターティングマテリアルに微生物を定着させること、および(3)その後、尿素とカルシウムイオンとともに定着させた微生物を加えスターティングマテリアルと混合するという逐次段階が含まれる。
【0010】
Kucharski法の3つ目の不利な点として必然的にKucharskiの方法では利用する微生物種の数に限りがあり、通常は一種類の微生物種のみを利用する事にある。土壌のような自然環境には複雑な生態学的な枠組みの中に数多くの微生物種が存在する。1種類または数種のみの微生物培養の注入は注入以前に存在した生態学的な枠組みを崩壊させることとなる。さらにはスターティングマテリアルに注入した微生物は局所環境に適応している既存の生物に対しその生存競争面において不利な立場にあり、結果として注入微生物の大部分が失われることとなる。
【0011】
その上、異なる微生物は異なる至適pH値でカルサイトを生産することができるため、pHおよび他の環境因子はスターティングマテリアルに注入される特定の微生物によって至適化がなされる必要がある。
【0012】
Kucharskのこれらの不利な点は多くの応用において実用的ではない方法であることを開示している。したがって、先行技術の不利な点を克服する微生物バイオセメンテーション法の開発が必須である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
事実上、土壌と岩のような全てのジオマテリアル、または帯水層にあるような天然水に存在するバクテリアのような常在尿素加水分解微生物を利用した実社会での応用を実用的で有用にすることが可能な微生物バイオセメンテーションのプロセスは予期せず発見された。このように、一実施形態では、本発明はジオマテリアルにおいて炭酸カルシウム濃度を増加させる方法である。本方法の本実施形態によると、ジオマテリアル中の炭酸カルシウム濃度はジオマテリアル中の尿素溶解微生物の成長を促進させること、およびジオマテリアル中の尿素溶解微生物に尿素とカルシウムイオン源を供給することにより増加する。尿素は尿素溶解微生物によりアンモニウムと炭酸イオンに転換され、そして、その炭酸イオンは炭酸カルシウムを形成するためカルシウムイオンと結合する。
【0014】
好ましい実施形態においてはジオマテリアルにおける微生物の成長はジオマテリアルに高尿素濃度および高pHの状況下において生存可能な微生物の成長を支える栄養源を添加することにより促進される。この成長はジオマテリアルに炭素源と常在のアルカリ性耐性の尿素溶解微生物の成長を促す尿素の添加により促進される。ジオマテリアル中の微生物による炭酸カルシウムの産生はカルシウムイオン源を土壌に添加する事により促進され、ジオマテリアルをセメント結合させるのに働くカルサイトを自発的に形成する。この方法では外因性の尿素加水分解微生物がジオマテリアルに添加されないことが望ましい。外因性の微生物の添加がなされない事で故意にジオマテリアルに添加する生物の影響に言及する事ができるようになる。微生物はあらゆる場所に存在するため、例えばジオマテリアルを用い働く作業員個人の手に存在するような外因性の微生物はジオマテリアルに不注意に添加される可能性があるものと理解されている。そのような不慮の外因性微生物の添加は回避が不可能ではなくとも困難である汚染物質として考えられており、したがってジオマテリアルに添加するまたは添加しない外因性の微生物について言及する場合、外因性の微生物の意図的な添加のみが検討される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「ジオマテリアル」という用語は地質学的に由来した材料を意味し、例として土壌と岩が含まれる。
【0016】
「反応物」という用語は本方法に従いジオマテリアルに添加される材料を個別または全体的に指すのに用いられる。
【0017】
「常在」という用語は微生物がその地域、または環境が起源である事、およびそこに生息している事、または自然に発生する事を意味し、その地域や環境に外部から添加された微生物を除く。ただし十分に時間的な隔たりがある過去においてその地域や環境に外部から加えられその地域や環境に適応したような微生物はこれに含まれない。利用のために、微生物が少なくとも一週間前に添加されるならば、その微生物は常在であると考える。同様に、一週間以内に加えられた場合、外因性のものとして考える。
【0018】
本発明を実施する場合、外因性の微生物がジオマテリアルに添加されないことが好ましが、本方法の各段階が実行される限りは、本方法の各段階を実施する事に加え、外因性の微生物の利用する事は本方法の範囲内であると考える。
【0019】
ジオマテリアルの微生物はカルサイト以外の炭酸カルシウム形態を通常直接産生するが、そのような炭酸カルシウムのその他の形態は間接的であれ直接的であれ、水の存在下、約60℃以下の周囲温度で自発的にカルサイトに変わる。したがって、特に明記しない限りまたは前後関係に必要とされない限りここに用いられる「炭酸カルシウム」と「カルサイト」という用語は土壌中の微生物により生産された産物に言及するものである。
【0020】
今回開示される方法は先行技術の不利な点の多くを克服するものである。本方法はバクテリアがカルシウムと尿素源とともに注入される時、迅速なカルサイトの産生により生じる先行技術の方法に付随する注入箇所での目詰まりの問題を回避する。本方法は同様に注入箇所またはその近位におけるカルサイトの迅速な産生によるジオマテリアル中でのカルサイト産物の不均等配分の問題もまた回避する。目詰まりおよび不均一なカルサイト産物の問題はバクテリアの均一な移送および土壌表面へのバクテリアの付着に関する問題に関連する。細胞表面の特性、キャリアー溶液のイオン強度、流量、ファンデルワールス力、および土壌マトリクスでの土壌の隙間の形状などを含んだ多くの要因がバクテリアの移送から土壌粒子への付着にまで影響を及ぼす。加えて、本方法ではジオマテリアルの中で保護されなければならない単一、またはそれ以上の選択された外因性の微生物の成長を必要としないため、本方法に必要な薬剤を混合する前にジオマテリアルに微生物を定着させておく必要がない。有限数の微生物種が用いられる先行技術とは対照的に、本方法のもうひとつの長所は数多くの多様な尿素加水分解微生物種が利用される点にある。したがって本方法では単一または数種の特定の微生物種が好むよう環境を操作する必要がない。また、本方法において用いる微生物集団は常在のものであるため、本方法で使用する微生物は局所環境に適しており、既にジオマテリアルに存在する微生物に関して競争面において不利な立場にはない。
【0021】
既存の方法に内在する不利な点を克服することに加え、本方法はバイオセメントの形成において単純でより強固な方法を提供するものである。本方法はどのようなジオマテリアルにおいても施行することが可能であり、微生物の培養を必要とせず、施行前にジオマテリアルに微生物を定着させるようなステップを要しない。
【0022】
本方法において利用される栄養源はエネルギーと炭素源、望ましくは微量ミネラル源とビタミン源を微生物に提供する、任意の化合物や化合物の組み合わせである。適した栄養源の例とし単糖類と、二糖類と、オリゴ糖類と、でんぷんとセルロースのような多糖類などの炭水化物、有機酸、または脂肪族化合物と、芳香族化合物と、アミノ酸などのようなそれらの塩類、カザミノ酸、脂肪族化合物と芳香族炭化水素などの炭化水素、脂肪酸またはケト酸とヒドロキシ酸のような置換酸、グリセロールとマンニトールのような糖アルコール、クエン酸のような多重官能性酸、ピリジン、プリン、ピリミジン、バイオマス加水分解物、糖液、イースト抽出物、トウモロコシ浸出液、ペプトン、トリプトン、ソイトン、養分培養液と乳清のような産業廃棄物が挙げられる。適した栄養源は糖液である。その他、好ましい栄養源として酢酸ナトリウムのような酢酸塩がある。特に好ましい実施形態として、糖液と酢酸塩が栄養源として組み合わせて使用される。
【0023】
本方法で利用されるカルシウム源はジオマテリアルへの添加、またはジオマテリアルに存在する微生物の反応により得られる任意のカルシウムイオン源である。従って、カルシウム源はカルシウム塩のようなカルシウムイオンの無機または有機の任意のカルシウム源である可能性がある。好ましいカルシウム源は塩化カルシウムである。他の好ましいカルシウム源としては硝酸カルシウムがある。
【0024】
尿素は様々な形態で提供される。できれば尿素は水溶液として提供されるのが望ましい。
【0025】
水存在下においてバテライト型炭酸カルシウムのカルサイトへの転移が生じるが、ジオマテリアルに元々含まれるような少しの水でも十分であるためジオマテリアルに水を加える必要がない。しかしながら必要に応じ、水が添加される可能性がある。例えば本方法で利用される反応物を供給するための移送媒体としてそのような水が添加される可能性がある。
【0026】
本方法で用いられる互いに連結した細孔、または破砕構造を持ち、その中に尿素を加水分解することができる微生物集団を含むジオマテリアルは多様に提供される可能性がある。例えばジオマテリアルは岩、陸源性、化学的・生化学的、または有機的な堆積岩のような典型的な堆積岩である可能性がある。本方法において好ましい堆積岩の例として礫岩と、角礫岩と、砂岩と、シルト岩と、頁岩と、石灰岩と、石膏と、苦灰岩と亜炭とが含まれる。岩に変わるものまたは岩と組み合わせた他の例として、ジオマテリアルが層を成していない未固結、または部分的に固結した(例えば泥炭のような有機物を含有または含有しない、砂利と、砂と、沈泥と、粘土)土壌のような多孔性媒体、または堆積物である可能性がある。本方法のジオマテリアルはまた破砕火成または変成岩である可能性もある。互いにつながった細孔を持つ火山岩もまた本方法のジオマテリアルとして使用される可能性がある。
【0027】
上記に挙げた様なジオマテリアルには多種多様な適切な微生物が含まれるため、ジオマテリアルに存在する可能性のある特定の微生物の固有性を同定することは必要ではない。しかしながら、特定のジオマテリアルに存在する可能性のある特定の微生物を記述することが有用となる可能性がある。ウレアーゼはアンモニアまたは窒素化合物の濃度に関係なく発現するため、本発明の方法に好ましい微生物は構成的にウレアーゼを発現する可能性がある。そのような生物にはSporosarcinapasteurii、Sporosarcinaureae、およびPseudomonas aeruginosaのようなバクテリアが含まれる。本発明の方法に適切な他の微生物は尿素が存在する条件下のみでウレアーゼを発現する微生物である。尿素が存在する条件下のみでウレアーゼを発現するバクテリアの例としてProteus vulgarisがある。ジオマテリアルにはこれまで単離または特性が明らかにされていない尿素を加水分解することが可能な多くのバクテリアが存在するため、ここで記載した生物はその例となる。ジオマテリアルに存在する他の多くの既知の微生物属、およびこれまで知られてさえいないおそらくは同様の尿素加水分解能を有する系統発生上の微生物群は本方法で用いられる好ましい常在の微生物の中に本質的に含まれる。
【0028】
ジオマテリアルに尿素を加水分解する微生物が含まれるかどうかを同定するのに適した様々な試験が存在する。そのような試験のひとつはCLOテスト(カンピロバクター様菌テスト(Campylobacter−like organism test))として知られている迅速ウレアーゼテストであり、Helocobacter pyloriの迅速な診断方法として医学分野で利用されているものである。テストの原理はH.pyloriが持つ尿素からアンモニアと重炭酸塩への転移を触媒するウレアーゼ酵素の分泌能を利用したものである。テストはジオマテリアルのサンプルを尿素とフェノールレッドなどのpHに対し敏感な指示薬を含む培地に静置することにより行う。もしサンプルがウレアーゼを含むのであれば培地中の尿素はアンモニアに変化し、培地のpHを上昇させ黄色(陰性)から赤色(陽性)に試料の色が変化する。
【0029】
本方法に従い反応物は同時にまたは順番に添加される可能性がある。好ましい実施形態において、本方法はジオマテリアルで微生物の成長を促す栄養源の添加によりジオマテリアルを強化した「富化段階」を用いる。必要に応じ、ジオマテリアルにおいて尿素溶解微生物の成長を特に促進させるため富化段階の間に尿素が添加される可能性がある。選択的に富化段階においてカルシウムイオン源を添加する、または添加しない可能性がある。ジオマテリアルに添加する栄養源の濃度はジオマテリアル中で微生物の成長を促進させるのに十分である濃度であり、添加した特定の栄養源に主に依存し変化する。糖液が栄養源として利用される場合、糖液の好ましい濃度は栄養源容量に対し約0.005容量%〜0.05容量%の間であると考えられる。しかしながら添加された糖液の濃度がジオマテリアルの微生物の成長を促進させるのに十分であるならば、濃度がそれよりも低いまたは高い糖液がジオマテリアルに添加される可能性がある。同様に、酢酸ナトリウム濃度の好ましい範囲は10mM〜150mMである。しかしながら糖液と同様にそれより低いまたは高い濃度の酢酸ナトリウムが利用される可能性がある。
【0030】
上記のように尿素は栄養分とともに添加される可能性がある。尿素が富化段階の間に添加される場合、以降の処理段階の間に追加の尿素を添加する必要がない可能性がある。尿素が富化段階において含まれたかどうかに関係なく、尿素を富化段階に続く「処理段階」において添加することが好ましい。処理段階において尿素は望ましくは添加栄養分とともにジオマテリアルに添加される。アンモニアを産生する尿素の加水分解はpHを上昇させ、高濃度の尿素またはアンモニア存在下、または高いpHにおいては生育しないバクテリアの成長を妨げる。ジオマテリアルに添加される尿素の濃度はジオマテリアルのセメント結合に必要とされる程度を産生するのに十分な炭酸塩を産生するのに十分である位の濃度である。ジオマテリアルに添加する尿素濃度の好ましい範囲は250mM〜2mMの間である。尿素濃度が250mMより低く、たとえば50mMと同程度、またはそれ以下で用いられる可能性がある。しかしながら目的値までのpH上昇および炭酸イオンの産生は遅くなる。例えば最高2000mMまたはそれ以上のような2mM以上の尿素濃度もまた利用される可能性がある。好ましい尿素濃度は250mM〜333mMの間である。
【0031】
処理段階の一部において、炭酸カルシウムを形成させるため、カルシウムイオン源を尿素と同時、または尿素に続き添加し、尿素の加水分解の結果産生される炭酸イオンと反応させる。添加するカルシウムイオン濃度は変わる可能性があり、より低い濃度であればセメント結合のプロセスはより遅いものとなり、より高濃度であればセメント結合のプロセスはより早まる結果となる。少なくともカルシウムイオン濃度が約10mMとなるようカルシウムイオン源を添加する。カルシウムイオンの至適濃度は尿素濃度より高くないが、必要に応じそれ以上となる可能性がある。例えばジオマテリアルに添加されるカルシウムイオン濃度が最高2000mMまたはそれ以上となる可能性がある。至適カルシウムイオン濃度は約250mMである。望ましくは尿素と、栄養素と、カルシウムイオンとのうちの1若しくはそれ以上、ジオマテリアルに添加する事によって処理段階を繰り返し追加して実施される可能性があり、高いpHにおいて生き残ることができる尿素溶解バクテリアをさらに選択する。
【0032】
必須ではないが、尿素と、栄養源と、カルシウムイオンとのうちの1若しくはそれ以上添加することにより、2回またはそれ以上、望ましくは5回以上、より望ましくは10回、処理段階が反復して実施されることが望ましい。これらの反応物の少なくとも2つ、望ましくは3つ全ての反応物がそれぞれの繰り返しにおいて添加されるのが最も理想的である。継続的な繰り返しでより早くpHが上昇する事が明らかとなっており、ジオマテリアル内の微生物集団がますます独占的に尿素溶解性の高pH環境下で生存可能な微生物構成となることが考えられる。さらに反復処理を追加することでますますカルサイトが産生され、ジオマテリアルのセメント結合の性質が高められる。
【0033】
本方法の好ましい実施形態が連続した富化段階および処理段階を含む事を述べたが、本方法で富化段階および処理段階を切り離した段階とする必要はない。必要に応じ、尿素溶解微生物の成長を促進させ、尿素溶解微生物に尿素を加水分解させ、炭酸イオンを産生させ、炭酸カルシウムを形成させるため炭酸イオンをカルシウムイオンと結合させるため、栄養源と、尿素源と、カルシウム源とがジオマテリアルに添加される可能性がある。必須ではないが、尿素と、栄養源と、カルシウムイオンとのうちの1若しくはそれ以上の添加の切り返しが2回またはそれ以上、望ましくは5回以上、より望ましくは10回、反復して実施されることが望ましい。これらの反応物の少なくとも2つ、望ましくは3つ全ての反応物がそれぞれの繰り返しにおいて添加されるのが最も理想的である。
【0034】
ジオマテリアル内の微生物を利用可能にする反応物として、その反応物はジオマテリアルに任意の方法で添加される可能性がある。例えば反応物が、例えば水溶液のようなものの中でジオマテリアルの中若しくは上にフラッシング、若しくは注入することにより、またはジオマテリアルの上若しくは中に反応物を噴霧、滴下、若しくは散水するといったような方法により圧力下で添加される可能性がある。
【0035】
本発明を下記の非限定的な実施例でさらに説明する。以下に記述する全ての濃度は特に明記のない限り%w/wとする。
【0036】
実施例1−土壌サンプルからのCaCOの析出
土壌サンプルはステンレス製オーガーを用いワシントン州のLowerダムの約5マイル南にあるSnake川の岸から30cm、60cm、90cm、および150cmの深さより収集した。収集したサンプルは漏出を防止するため底は密閉されているが上部は空気にさらされるままとなる30mlのベクトン・ディッキンソンシリンジに直接入れた。サンプルは氷上でアイダホ州、Moscowのアイダホ大学環境バイオテクノロジー研究所に輸送した。全てのサンプルは地下水面下から収集し、初期pH値および温度測定はAcorn(登録商標)pH6シリーズメーター(Oakton Instruments社、イリノイ州、Vernon Hills)を用い行った。サンプルは処理を開始するまで4℃で保存し、収集から14時間以内に処理した。水は土壌サンプルを収集した場所の隣接した地域のSnake川から収集し、輸送のため氷上で保存し、使用する間4℃で保存した。
【0037】
土壌サンプルはpH7.0で蒸留水1リットルあたり1.0%糖液(Granma’s Molasses、亜硫酸塩無添加、Motts USA社、ニューヨーク州、Rye Brook)と170mM酢酸ナトリウム(CHCOONa・3HO)(Research Organics社、オハイオ州、Cleveland)との組み合わせの炭素栄養源とさらに250mM尿素(Thermo Fisher Scientific社、マサチューセッツ州、Waltham)と250mM CaCl・2HO(試薬、EMD Chemical社、ニュージャージー州、Gibbstown)と、12.2mM NHCl(Thermo Fisher Scientific社)と、0.1g Bactoイースト抽出物(Bacto Dickenson社、ニュージャージー州、Franklin Lakes)とを含む富化培溶液で7日間処理し、続いてpH7.0で蒸留水1リットルあたり50mM酢酸ナトリウムと、50mM CaClと、333mM尿素と、12.2mM NHClと、0.1gイースト抽出物とを含むバイオミネラル化した培地で72時間間隔を空け7日間で3回処理した。
【0038】
ネガティブコントロールは同時に処理した。コントロールサンプルはpH7.4で蒸留水1リットルあたり8gのNaCl、0.2gのKCl、1.44gのNaHPOを含む滅菌リン酸緩衝食塩水で処理した。
【0039】
その後、CaCOのパーセンテージを下記のように決定した。各々の深度から収集した無処理の土壌サンプルを含むコントロールシリンジと下記の処理を施した処理シリンジは有機物および不完全に化学結合した炭酸カルシウムを除去するため約5細孔容積の50mM NaClで洗い流した。各カラムの表層から約5mmの土壌を除去し、土壌表面において析出し、蓄積している可能性のある炭酸塩を取り除くべく破棄した。それから土壌サンプルをオーブンに入れ121℃で24時間乾燥させ、重さを量り、炭酸カルシウムを溶解させるため約5細孔容積の1M HClで洗い流し、その後ナノピュア水で洗浄し、再度24時間乾燥させた。土壌サンプルを再度計量し、質量の違いは処理サンプルの炭酸カルシウムの質量に起因するものであった。
【0040】
処理を行ったサンプルのCaCOの平均濃度は2.8%w/wであった。
【0041】
実施例2−低濃度の添加栄養分を用いた土壌サンプルからのCaCOの析出
0.1%糖液と50mM酢酸ナトリウムの組み合わせを炭素栄養源とし処理した土壌サンプルを使用した事以外、実施例1において行った実験を繰り返し行った。処理を行ったサンプルのCaCOの平均濃度は2.2%w/wであった。
【0042】
実施例3−単一炭素源を用いた土壌サンプルからのCaCOの析出
糖液を欠き、150mM酢酸ナトリウムのみを炭素栄養源として用い処理した土壌サンプルを使用した事以外、実施例1において行った実験を繰り返し行った。処理を行ったサンプルのCaCOの平均濃度は1.8%w/wであった。
【0043】
実施例4−単一炭素源を用いた土壌サンプルからのCaCOの析出
酢酸ナトリウムを欠き、0.5%糖液のみを炭素栄養源として用い処理した土壌サンプルを使用した事以外、実施例1において行った実験を繰り返し行った。処理を行ったサンプルのCaCOの平均濃度は0.92%w/wであった。特定の栄養源または栄養源の組み合わせが本方法を最適化するため利用される可能性があるが、実施例1から4の研究は本方法がジオマテリアルの中の微生物により利用可能などのような栄養源を使用してもうまく実施することができることを示す。
【0044】
実施例5−様々な濃度のカルシウムイオンを用いた土壌サンプルからのCaCOの析出
実施例1の研究をSnake川の岸から地下水面下46cmと、90cmと、150cmとの深度で収集した土壌サンプルを用い繰り返し行った。pH7.0で蒸留水1リットルあたり50mMまたは250mMのCaClと、0.5%糖液と、170mM酢酸ナトリウムと、333mM尿素と、12.2mM NHClと0.1g Bactoイースト抽出物との組み合わせを含む約1.05の細孔容積の富化培地を72時間各カラムに添加した。その後、約1.05の細孔容積のpH7.0で蒸留水1リットルあたり50mMまたは250mMのCaCl、170mM酢酸ナトリウム、333mM尿素、12.2mM NHClと0.1gイースト抽出物を含むバイオミネラル化した培地により1から3日間間隔を空け7回処理した。
【0045】
ネガティブコントロールは同時に処理した。コントロールカラムは50または250mM CaClのいずれかを含むが尿素を欠く約1.05の細孔容積の富化培地で処理した。追加のネガティブコントロールとして約1.05の細孔容積のSnake川から採取した水で処理し、他のサンプルと同じ方法で処理した。
各々のサンプルのCaCOのパーセンテージはそれから実施例1と同様に測定した。結果を下の表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、より高いカルシウム濃度を培地に用いれば本方法に従い処理した土壌サンプルにおいてより多いカルサイトを産生した。尿素を省く事以外、本方法に従い処理したサンプルと同様の方法で処理したコントロール土壌サンプルではカルサイトまたは炭酸カルシウムの他の形態は検出されなかった。カルサイトまたは他の形態の炭酸カルシウムはSnake川から収集した水においても検出されなかった。炭酸カルシウムは尿素と塩化カルシウムを含んだ培地で処理した常在の微生物を含む土壌を含むカラムでのみで検出され、よって、カルサイトが処理前の土壌に既に存在していた可能性、または、微生物の尿素加水分解以外の他のいくつかのプロセスにより析出した可能性が除外された。
【0048】
上記の発明の様々な変更形態が当事者によりなされるのは明らかである。そのような変更形態は続く請求項の範囲内に含まれるよう意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオマテリアル中の炭酸カルシウム濃度を上昇させる方法であって、
尿素をアンモニアに加水分解可能な常在微生物を含むジオマテリアルを取得する工程と、
前記ジオマテリアルに栄養源を添加する工程であって、これにより前記ジオマテリアル内で微生物の成長を促進させるものである、前記栄養源を添加する工程と、
前記ジオマテリアルに尿素を添加する工程であって、これにより前記ジオマテリアル内で尿素および高pH耐性の微生物の成長を促進させるものである、前記尿素を添加する工程と、
前記ジオマテリアルにカルシウムイオン源を添加する工程であって、これにより前記カルシウムイオンと、前記尿素溶解微生物による尿素の加水分解により産生されたアンモニウムとの組み合わせが、前記ジオマテリアル中の炭酸カルシウムの産生を促進させるものである、前記カルシウムイオン源を添加する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記栄養源を添加する工程は、前記尿素を添加する工程および前記カルシウムイオン源を添加する工程に先立って実行されるものである方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記栄養源を添加する工程は、前記尿素を添加する工程と実質的に同時に実行されるものである方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、前記カルシウムイオン源を添加する工程は、前記栄養源および前記尿素を添加する工程と実質的に同時に実行されるものである方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記微生物によって産生される前記炭酸カルシウムは、カルサイトである方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記栄養源、前記尿素、及び前記カルシウム源のうちの1若しくはそれ以上は、前記ジオマテリアルに多数回添加されるものである方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記ジオマテリアルは、土壌と岩とから成る群から選択されるものである方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、外因性の微生物は、前記ジオマテリアルに添加されないものである方法。

【公表番号】特表2013−505705(P2013−505705A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523592(P2012−523592)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/001569
【国際公開番号】WO2011/016823
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(512026569)ユニバーシティ オブ アイダホ (2)
【Fターム(参考)】