説明

ジクロロベンジジンに対する結合能を有する蛋白質およびその製造方法

【課題】 本発明は、細胞融合によりDCBに高い親和力を示す抗DCBモノクローナル抗体を提供することを課題とする。
【解決手段】 ジクロロベンジジンに対して特異的に結合することを特徴とするモノクロナール抗体により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境ホルモン特に3−3´−ジクロロベンジジン(以下「DCB」という)に対する抗DCBモノクローナル抗体に関するものである。さらには該抗体の生産をハイブリドーマを使用したり、組み換え大腸菌を使用したりして行い、得られた抗体を使用して競合的ELISA測定系を構築し、DCBの測定方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
環境中に存在するDCBを測定するには、ガスクロマトグラフィーにマススペクトル計やフーリエ変換計を連動させる方法、HPLC−マススペクル計を用いる方法が使用されてきた。その検出限界濃度は大気中で3μg/m3、水溶液中で0.05〜20μg/lとされている。これらの方法は測定装置に膨大な費用がかかり、簡便には測定ができない欠点がある。
簡便な測定方法の1つとして、免疫測定方法が報告されている(Francis W. Spierto et.al.,J. Anal. Toxicol., 11,31-35,1987)が、ラジオアイソトープを使用していること、測定感度がよくないこと、ポリクローナル抗体を使用しているため免疫に用いたキャリヤータンパク質とも反応する等の欠点があり、従来の機器分析に置き換わり得る方法ではない。
【0003】
そこで、環境ホルモンに対する抗体を作成し、ELISA法(Enzyme Linked Immuno Assay:酵素結合免疫吸着分析法)などで利用することにより、簡便にかつ一定の精度で環境ホルモンを検出しようという発明が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−319779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DCBは自然界にもともと存在する物質ではないが、アゾ系色素を合成する中間体として使用されるため、自然界に流出している物質である。DCBは比較的低い揮発性(低い大気中濃度)、水中における極めて短い残留性から、温室効果やオゾン層の破壊に関与しているとは考えられていないが、人体や動物への影響については、かなり強い発がん性及び環境ホルモン作用が認められている。特に、環境ホルモンとしての作用濃度は発ガン作用のそれよりはるかに低いことが知られており、環境下におけるDCB濃度の測定が必要とされている。
DCBは大気中や水中において、その短い半減期のせいからか極めて低い濃度でしか存在していない。一方、自然界に放出されたDCBは土壌と強い結合をして存在していることが知られているが、それにも関わらず、食品中におけるDCB汚染の程度はまだ測定されていないのが現状である。その一因として、測定系の問題点が挙げられていて、簡便に且つ安価に、再現性が良くて感度が良い測定系の開発が望まれていた。
上記背景技術で紹介したように、簡便かつ高感度の測定方法としてはELISA法などの抗体を利用した方法が有力であるが、DCBに対する抗体が存在していない。さらに、抗体利用をした測定法を実際に行うには、DCBに対する抗体の産生および量産が不可欠となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の問題点を解決すべく、細胞融合によりDCBに高い親和力を示す抗DCBモノクローナル抗体を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のモノクロナーム抗体は、DCBに対して特異的に、かつ強い結合能を有する。また、大量に産生することもできるため、ELISA法などで実際に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
DCBは分子量が小さいため、このままでは抗原とは成りえない。そこで、DCBに対する抗DCBモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、次のようにして作製する。
【0008】
(1)DCBとキャリアたんぱく質として、カブトガニのヘモシアニン(以下、KLH)との結合物(DCB-KLH)を調製する。DCB−KLH結合物は、公知の方法によって行うことができる。
例えば、活性化エステル法(A.E.KARU et al.:J.Agric.Food Chem.42 p.301−309(1994))、又は混合酸無水物法(B.F.Erlanger et al.:J.Biol.Chem.234 1090−1094(1954))等の公知の方法を用いることができる。
【0009】
(2)この結合物を抗原として動物に免疫する。
免疫法としてはフロイントのコンプリートアジュバンドを併用する手法を採用できる。免疫する動物としてはマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジなどが、抗体産生細胞としては脾臓、リンパ節、抹消血液が使用されるが、本発明ではマウスの脾臓細胞を使用した。本発明ではマウスを使った実施例を開示する。
【0010】
(3)免疫した動物の脾臓細胞とミエローマ細胞を融合し、ハイブリドーマを得る。
免疫した動物の脾臓細胞を単離し、ポリエチレングリコールを用いてミエローマ細胞と融合させる。その後、ヒポキサンチンアミノプテリンチミジン(HAT)培地で融合細胞(ハイブリドーマ)のみを選抜する。得られたハイブリドーマを限界希釈法でクローニングし、これらの中から、DCB−牛血清アルブミン(BSA)結合物を用いて抗DCBモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを単離する。
【0011】
(骨髄腫細胞)
ハイブリドーマを得るために使用する細胞融合用の骨髄腫細胞は特に限定されず、各種の哺乳動物の細胞株が利用可能である。好ましくは、抗体産生細胞の調製に用いた動物と同種の細胞株を使用するのがよい。
用いる細胞株(骨髄腫細胞)は、ある種の酵素が欠けているのが好ましい。なぜなら、細胞融合の作業の後、未融合細胞と融合細胞を選別しなければならないが、未融合の骨髄腫細胞が選択培地で生存できず、ハイブリドーマのみが増殖可能なような環境を利用するからである。
例えば8−アザグアニン抵抗性の細胞は、ヒポキサンチンアミノプテリンチミジン(HAT)培地中で生育できない性質を有するため、ハイブリドーマの選別に好んで用いられる。
【0012】
細胞融合に用いられるマウス骨髄腫細胞株の具体例を挙げれば、P3X63Ag8.653,PAI,P3−X63−Ag8,P3−X63−Ag8−UI,P3−NSI/1−Ag4−1,SP2/0−Ag14,FO,S194/5XXO,BU.1,MPC11−45.6.,TG.1.7等がある。
【0013】
(細胞融合技術)
細胞融合技術は、ケーラーとミルスタインの報告(Nature,495−497頁、1975年)を基本に行うことができる。哺乳動物の脾臓細胞と癌細胞であるミエローマ細胞を融合させた雑種細胞(ハイブリドーマのことである)は用いた脾臓細胞が産生する抗体産生能を有するとともに、癌細胞の増殖能をあわせ持つことから、多くの蛋白質やペプチド、低分子化合物に対する抗体の生産に用いられてきた。
【0014】
細胞融合は通常MEM、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)等の無血清培地中で、骨髄腫細胞と抗体産生細胞を混合(混合比は通常1:4−1:10)することにより行われる。融合促進剤としては平均分子量1000−6000のポリエチレングリコール(PEG)が使用され、その使用濃度は通常30−50%が採用されている。
【0015】
(ハイブリドーマの選別)
融合処理後の細胞は、10−15%ウシ胎仔血清(FCS)含有DMEMなどで適当に希釈し、遠心分離する。沈査をHAT培地等の選択培地に浮遊させ、96穴ウエルマイクロプレートに接種した後に、5%炭酸ガス培養装置で培養する。生育してくる細胞を収得することによってハイブリドーマを選別することができる。
【0016】
(抗DCB抗体を産生するハイブリドーマの抽出)
抗体産生ハイブリドーマの検索は、特に限定されない。例えばハイブリドーマの増殖した培養液を採取し、ジクロロベンジジン−BSAと反応させ、酵素、蛍光物質、発光物質などで標識した2次抗体を使用することによって抗DCBモノクローナル抗体の産生細胞を有するウエルを選択することができる。
抗体産生ハイブリドーマを含むことを確認した培養ウエル中の細胞を限界希釈法などによりクローニングを行い、抗DCBモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得ることができる。
【0017】
(4)抗DCBモノクロナール抗体の産生
得られたハイブリドーマを適切な培地中で培養することにより、その培養上清から抗DCBモノクローナル抗体を得ることができる。大量に生産する方法としてはハイブリドーマ作製時に用いた骨髄腫細胞の由来動物と同種の動物にプリスタン等の鉱物油を腹腔内投与後、ハイブリドーマを接種する。
接種後、動物を飼育し、適宜腹水を採取し、通常の抗体分離操作により抗DCBモノクローナル抗体を得る。また、無血清培地で培養し、通常の手法で抗DCBモノクローナル抗体を得ることもできる。
【0018】
このように本発明に使用される抗DCBモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを使用することで産生することができる。また、抗体生産ハイブリドーマから抗体の遺伝子を取り出せば、その抗DCBモノクローナル抗体の遺伝子を組み込んだ形質転換大腸菌を利用することでも産生することができる。
【実施例1】
【0019】
以下に、より具体的に実施例にて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
1.抗ジクロロベンジジンモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製
(1)抗原の調製:
本実施例ではアジピン酸をリンカーにしてDCBとKLHとを結合させる方法を用いた。すなわち、DCBに塩素化アジピン酸モノエチルエステルをピリジン下で反応させることによりアミド結合を形成させ、さらにその反応物をけん化することにより、末端にカルボキシル基を持ったDCB−アジピン酸縮合物を得た。さらにこの縮合物とKLHを公知の方法である活性化エステル法によって結合させることにより、DCB−KLH結合物を調製した。
DCB(Sigma社製)976mgと、アジピン酸モノエチルエステル(東京化成社製)を塩化チオニル(和光純薬製)により塩素化したもの668mgとをピリジン15mlに溶かし、室温で2時間撹拌して縮合反応をさせた。
【0021】
シリカゲル樹脂(富士シリシア社 BW-200)を用いたカラムクロマトグラフィーにより縮合物を精製後、けん化を行なった。けん化反応の詳細は以下の通りである。
DCB−アジピン酸モノエチルエステル縮合物314mgに対して水酸化ナトリウム312mgをテトラヒドロ葉酸・メタノール等量混合溶液12mlに溶かし、室温で一晩撹拌下で反応させた。
反応終了後、塩酸によりpHを3から4に調整し、溶媒を減圧乾燥により除去した後、反応生成物を酢酸エチルに溶解し、シリカゲル樹脂(富士シリシア社 BW-200)を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、ハプテンであるDCB−アジピン酸縮合物を得た。
【0022】
さらに、該縮合物とKLHとの結合は以下のように活性エステル法により行った。すなわち、20mgのKLH(Sigma社製)とハプテン10mgをホウ酸緩衝液(pH9.4)に撹拌しながら添加した。反応溶液に1-Ethyl-3-(3-dimethylamino propyl)-carbodiimide hydrochloride(EDC、和光純薬製)10mgとN-hydroxysuccinimide(NHS、和光純薬製)15mgを加え,室温で2.5時間撹拌反応した後、4℃で一晩撹拌反応させた。反応終了液を透析することによってDCB−KLH結合物を得た。
【0023】
(2)免疫脾臓細胞の調製:得られたDCB−KLH複合物50μgをフロイント−コンプリート−アジュバント(和光純薬製)0.2mlに乳濁化させ、BALB/C系マウスの腹腔内に投与した。以後、2週間の間隔で50μgのDCB−BSA抱合体フロイントーインコンプリートアジュバント溶液(和光純薬製)を4回同様に投与し、最後にDCB−KLH複合物のみを100μg投与し免疫を完了した。
4日後にマウスを麻酔下屠殺し、脾臓を摘出した。脾臓を細断した後、100メッシュのナイロン網でろ過し、脾臓の単離細胞を得た。
【0024】
(3) ハイブリドーマの調製:単離した免疫脾臓細胞に低張液(0.83%塩化アンモニューム)を加えて赤血球を溶血した後、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等の無血清培地で細胞を3回洗浄した。マウス骨髄腫細胞もDMEM等の無血清培地で3回洗浄した。
両細胞数を計測し脾臓細胞数と骨髄腫細胞数との比率を5:1の割合に混合後遠心をする。上清を捨て、沈殿した細胞を充分解きほぐし、PEG4,000(Sigma社)を培地とDMSOで希釈した50%溶液を1.0ml滴下して融合を行った。1分間混合した後、DMEM等の無血清培地5mlを5分間かけて添加した。
【0025】
さらにその混合液にDMEM等の無血清培地4mlとFCS2mlを加え800rpmで7分間遠心した。沈殿を15%FCS添加DMEMで2回洗浄した後、37℃で一晩放置した。
遠心して上清を捨てた後、ヒポキサンチン10−2M、アミノプテリン4x10−7Mおよびチミジン1.5x10−5Mを加えた(HAT)15%FCS添加DMEM培地を用いて細胞を再び浮遊させ、96ウエルマイクロプレートに200μlずつ分注した。
翌日に同一培地を100μl交換した後、3日毎に同一培地による培地交換を行い、細胞の増殖が認められるウエルを確認した。
【0026】
(4)抗体産生ハイブリドーマの検索:ハイブリドーマが増殖したウエルの液を採取し、DCB−BSA抱合体を結合させた別のウエルに添加し、間接ELISA法により抗DCBモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを検索した。
即ち、96ウエルマイクロプレートにDCB−BSA縮合体10μg/100μl/ウエルを分注し、37℃で1時間インキュベートしてウエルに吸着させた。洗浄後さらに非特異反応を除くために5%スキムミルク等のタンパク質溶液によりブロッキングを行った。このウエルに上記の細胞培養上清液を100μlずつ分注し抗原抗体反応を行った。
【0027】
0.05%Tween20含有リン酸緩衝食塩水(TPBS)で3回洗浄した後、パーオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体1000倍希釈液をウエルあたり100μl添加し、1時間インキュベート後にTPBSで洗浄した。
洗浄したウエルに0.02%過酸化水素溶液、オルトフェニレンジアミン0.4mg/ml含有クエン酸緩衝液を添加して発色反応を行った。20分後、プレートリーダーを用いて470nmの波長の吸光度を測定し、発色したウエルの細胞を採取した。
【0028】
(5)抗DCBモノクローナル抗体産生ハイブリドーマのクローニング:得られた抗体産生ハイブリドーマを限界希釈してウエルに分注した。抗体産生能を持ち、かつ細胞増殖したハイブリドーマについて同様なクローニング操作を3回繰り返して行うことにより、抗DCBモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを2株得た。
得られたハイブリドーマはジクロロベンジジンに対する抗ジクロロベンジジンモノクローナル抗体を産生する新規な細胞である。
尚、 本発明によって得られた抗DCBモノクローナル抗体2種類のサブクラスは、イムノタイピングキット(和光純薬製)により測定した結果、それぞれIgG2aとIgG2bであった。
【実施例2】
【0029】
抗DCBモノクローナル抗体の生産及びFabの調整
本発明において「抗体のフラグメント」とは、少なくとも一つの可変領域を含有する抗体フラグメントの意であり、本発明におけるモノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはFv、F(ab')2、Fab'あるいはFabを指す。
ここで、「F(ab')2」及び「Fab'」とは、イムノグロブリン(モノクローナル抗体)をタンパク質分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で処理することにより製造され、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを意味する。
【0030】
例えば、IgGをパパインで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されてVL(L鎖可変領域)とCL(L鎖定常領域)からなるL鎖、及びVH(H鎖可変領域)とCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)とからなるH鎖フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つの抗体フラグメントを製造することができる。
これら2つの相同な抗体フラグメントをそれぞれFab'という。また、IgGをペプシンで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の下流で切断されて前記2つのFab'がヒンジ領域でつながったものよりやや大きい抗体フラグメントを製造することができる。この抗体フラグメントをF(ab')2という。
【0031】
(1)抗DCBモノクローナル抗体の調製:実施例1で得られた抗体産生ハイブリドーマを15%FCS添加DMEMで37℃、炭酸ガス培養器で培養した。107個のハイブリドーマを血清を添加しないDMEM0.5mlに懸濁し、プリスタン(Sigma社製)で免疫反応を惹起したマウスの腹腔内に投与した。
その後10日後に腹水を採取し、抗DCBモノクローナル抗体含有溶液を得た。この腹水液からProteinA樹脂(アマシャム社)を用いて抗体の精製を行った。即ち、腹水液を、20mMリン酸緩衝液で平衡化したカラムに付与し、さらに20mMリン酸緩衝液で洗浄した後、吸着している抗体を100mMクエン酸緩衝液で溶出した。得られた抗体溶液はPBSに対して3回透析を行うことにより、精製IgG抗体をえた。
【0032】
(2)Fab断片化:上記の方法で得た精製抗DCBモノクローナル抗体をパパインで処理することによりFab断片化した。詳細を以下に示す。
精製IgG抗体を100mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に5mg/mlの濃度に調製し、そこに終濃度として50mMのシステインと1mMのEDTAを加えた。その混合液に精製IgG抗体10mgに対して0.1mgのパパインを加えよく撹拌後37℃で2時間反応させた。
その後、終濃度75mMのヨードアセトアミドを加えて反応をとめ、透析した。透析後の溶液をさらにProteinA樹脂を用いることにより、パパイン処理によって生じたFc断片を除去して、精製抗DCBモノクローナル抗体Fab断片を得た。
【実施例3】
【0033】
ELISA法によるジクロロベンジジンの測定方法:
得られた抗体を利用して酵素結合免疫吸着分析(ELISA:Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay)系を組む場合、生成した抗体をそのまま使用できるが、抗体の反応基を含有するフラグメント(Fv, Fab', Fab 等)を使用することもできる。Fabを使用する場合は抗体をそのまま使用する場合に比べて異種発現系の構築が容易であること、固相化抗原との反応におけるアビジティの影響を除くことができる等のメリットがあることが知られている。
【0034】
(1)間接ELISAによる反応:ジクロロベンジジン−BSA縮合体溶液(10μg/ml)を100μlずつウエルに添加し1時間反応し吸着させる。非特異的結合を除去するためにスキンミルク添加PBS溶液200μlを加え1時間反応してブロッキングする。
各ウェルに上記の方法により精製したFab断片を各種濃度に希釈した溶液を添加し37℃で1時間反応させる。TPBSで洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識したヤギ抗マウスFab抗体(PIERCE社製)の1000倍希釈液を加え37℃で1時間反応させる。
TPBSで洗浄後、0.02%過酸化水素、オルトフェニレンジアミン0.4mg/ml含有クエン酸緩衝液を添加して発色させた。20分後プレートリーダーを用いて470nmの波長で吸光度を測定し、固相化抗原に対する抗体の反応を調べた。
【0035】
(2)競合的ELISAによるDCBの定量:DCB−BSA複合体溶液(10μg/ml)を100μlずつウエルに添加し、1時間インキュベートすることによってDCB−BSA結合体をウエルに吸着させた。非特異的結合を除去するためにスキンミルク添加PBS溶液200μlを加えて、1時間の反応によってブロッキングした。
各ウエルに50μlの各種濃度のDCBを含有する20%DMSO溶液を加え、さらに実施例2で得られた抗DCBモノクローナル抗体IgG2a株のFab断片溶液を50μl添加して1時間インキュベートした。
【0036】
各ウエルをTPBSで3回洗浄し、1000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスFab抗体(PIERCE社製)100μlを加えて反応した。1時間後にウエルをTPBSで洗浄し、0.02%過酸化水素溶液、オルトフェニレンジアミン0.4mg/ml含有クエン酸緩衝液を添加して反応させた。20分後に、470nmの発色度合いをプレートリーダーを用いて測定した。
その結果を図1に示す。DCB濃度が0.5 ppbから5 ppmまで測定できることが判り、従来の測定方法と比べると、前処理なしにほぼ同等の感度が得られることが判った。なお、IgG2b株についても実験を行い、同様の結果が得られた。
【0037】
尚、DCB誘導体について、交差反応性を調べたところ、ベンジジンには弱い反応性を示したが,ビフェニル、コプラナーPCB#77、コプラナーPCB#126とは殆ど反応性を示さなかった。すなわち、本発明の抗DCBモノクローナル抗体IgG2a株のFab断片は、DCBに対して特異的に結合感度が高いことがわかる。
【実施例4】
【0038】
DCBの特異抗体のアミノ酸配列の決定及び大腸菌での発現
(1)抗DCBモノクローナル抗体のcDNAの取得:実施例1で得られたハイブリドーマからRNAを抽出し、逆転写PCRにより増幅し、さらにタンパク質発現ベクターに挿入することにより異種細胞での抗体タンパク質発現を行った。詳細を以下に示す。
15%FCSを含むDMEM培地でコンフルエント状態まで生育させた各ハイブリドーマを剥離、洗浄後、ISOGEN(ニッポンジーン社)を用いてハイブリドーマRNAを抽出した。抽出したRNAをOligoTex(dt)20super(タカラバイオ社)を用いてmRNAを精製し、得られたmRNAを鋳型にして逆転写酵素SuperScriptIIRT(インビトロジェン社)によってcDNAを合成した。
【0039】
その後、ヒューズらの報告(Science,1275−1281頁、1989年)にあるプライマー対を用いて、抗体cDNAの重鎖Fd領域と、軽鎖κ領域をEx-Taq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)を用いるPCRにより増幅した。
増幅したDNA断片は、アガロース電気泳動に供した後、QiaQuick Gel Extraction Kit(キアゲン社)により精製し、pGEM-T Easy Vector(プロメガ社)にサブクローニングした後、塩基配列を決定した。これを配列番号22、24、26および28に示す。配列番号はそれぞれ次のものを示す。配列番号22はIgG2a-κ重鎖、配列番号24はIgG2a-κ軽鎖、配列番号26はIgG2b-κ重鎖、配列番号28はIgG2b-κ軽鎖である。
【0040】
得られた塩基配列を、Genetyxソフトウェアを用いて推定されるアミノ酸配列に変換した。これを配列番号21、23、25および27に示す。配列番号はそれぞれ次のものを示す。配列番号21はIgG2a-κ重鎖を、配列番号23はIgG2a-κ軽鎖を、配列番号25はIgG2b-κ重鎖を、配列番号28はIgG2b-κ軽鎖をそれぞれコードするDNAである。
【0041】
推定アミノ酸配列をIg-BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)により解析し、相補性決定領域(CDR)の位置を決定した。これを配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18および20に示す。なお、配列番号2はIgG2a-κ重鎖のCDR1、配列番号4はIgG2a-κ重鎖のCDR2、配列番号6はIgG2a-κ重鎖のCDR3、配列番号8はIgG2a-κ軽鎖のCDR1、配列番号10はIgG2a-κ軽鎖のCDR2、配列番号12はIgG2a-κ軽鎖のCDR3、配列番号14はIgG2b-κ重鎖のCDR2、配列番号16はIgG2b-κ重鎖のCDR2、配列番号18はIgG2a-κ軽鎖のCDR1、配列番号20はIgG2a-κ軽鎖のCDR3である。IgG2b-κ重鎖のCDR1は配列番号2と、IgG2b−κ軽鎖のCDR2は配列番号10と同じである。
【0042】
また、上記の各CDRをコードするDNAを配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17および19に示す。配列番号1はIgG2a-κ重鎖のCDR1、配列番号3はIgG2a-κ重鎖のCDR2、配列番号5はIgG2a-κ重鎖のCDR3、配列番号7はIgG2a-κ軽鎖のCDR1、配列番号9はIgG2a-κ軽鎖のCDR2、配列番号11はIgG2a-κ軽鎖のCDR3、配列番号13はIgG2b-κ重鎖のCDR2、配列番号15はIgG2b-κ重鎖のCDR2、配列番号17はIgG2a-κ軽鎖のCDR1、配列番号19はIgG2a-κ軽鎖のCDR3をそれぞれコードするDNAである。IgG2b-κ重鎖のCDR1は配列番号1と、IgG2b−κ軽鎖のCDR2は配列番号9と同じである。
【実施例5】
【0043】
抗DCBモノクローナル抗体の異種発現:
実施例4で得られた抗DCBモノクローナル抗体のcDNA断片(Fd、κ各領域)を、宮下らの報告(Journal of Molecular Biology,1247−1257頁、1997年)に記載されている方法に準じ、大腸菌における抗体発現ベクターであるpARA7プラスミドのそれぞれ該当する領域に挿入した。
完成したプラスミドを大腸菌MC1061株に形質転換し、3mlのLB培地中で生育させた。OD600=0.2に達した培養液に0.2%のアラビノースを添加し25℃一晩の培養によりタンパク質発現を誘導した。実施例3で得られた間接ELISA法を用いて、大腸菌の培養上清液、大腸菌破砕液にDCBに特異的なFab抗体が発現していることを確認した。
言い換えると、精製した断片化DNAを大腸菌に組み込み、大腸菌による抗体フラグメントを生産できることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明のモノクローナル抗体を用いたジクロロベンジジンの測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロベンジジンに対して特異的に結合することを特徴とするモノクロナール抗体。
【請求項2】
重鎖Fd領域のアミノ酸配列に配列番号2と4と6を含み、軽鎖κのアミノ酸配列に配列番号8と10と12を含むことを特徴とする請求項1に記載のモノクロナール抗体。
【請求項3】
重鎖Fd領域のアミノ酸配列に配列番号2と14と16を含み、軽鎖κのアミノ酸配列に配列番号10と18と20を含むことを特徴とする請求項1に記載のモノクロナール抗体。
【請求項4】
重鎖Fd領域のアミノ酸配列が配列番号22であり、軽鎖κのアミノ酸配列が配列番号24であることを特徴とする請求項1に記載のモノクロナール抗体
【請求項5】
重鎖Fd領域のアミノ酸配列が配列番号26であり、軽鎖κのアミノ酸配列が配列番号28であることを特徴とする請求項1に記載のモノクロナール抗体
【請求項6】
請求項2乃至5のうちの1に記載したアミノ酸配列をコードするDNA。
【請求項7】
請求項1乃至5のうちの1に記載したモノクロナール抗体を切断して得られる前記モノクロナール抗体の一部であって、ジクロロベンジジンに対して特異的に結合する抗体フラグメント。
【請求項8】
請求項1乃至5のうちの1に記載したモノクロナール抗体を産生するハイブリドーマ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−60994(P2007−60994A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251439(P2005−251439)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会 2005年度(平成17年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】