説明

ジナフトフラン単位を有するπ共役電子系ポリアリーレンエチニレン及びその製造方法

【課題】有機EL素子を構成する高分子蛍光体層に好適に使用することができるπ共役電子系ポリアリーレンエチニレン及びこれを構成するジナフトフラン誘導体を提供する。
【解決手段】主鎖が、特定式で表される繰り返し単位を含むことを特徴とするジナフトフラン誘導体と芳香族ジアセチレン化合物との重縮合反応により高分子量化して製造される、ポリアリーレンエチニレン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジナフトフラン単位を主鎖に有し、蛍光特性を示すπ共役電子系ポリアリーレンエチニレン及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、主鎖に特定の繰り返し単位を含むことをポリアリーレンエチニレンおよびその製造方法並びにポリアリーレンエチニレンを構成する前駆体となるジナフトフラン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖にπ共役電子系を有する高分子化合物は、導電性、蛍光性及び耐熱性に優れ、しかもエレクトロルミネッセンス特性を示すことから、いわゆる有機EL素子(Organic Light Emitting Diode)を構成する高分子蛍光体層に使用することができる。このような主鎖にπ共役電子系を有する高分子化合物としては、例えばポリアリーレン、ポリアリーレンエチニレン、ポリアリーレンビニレン等がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
共役系高分子の側鎖に光学活性(キラル)アルキル基が導入されて、円偏光発光を示すポリパラフェニレン、ポリパラビフェニレンが開示されている。このポリパラフェニレン化合物等は、主鎖型液晶性が発現されるとともに、主鎖にらせん構造が誘起されるものであるが、その蛍光特性については十分であるとはいえない(特許文献2)。
【0004】
ところでジナフトフランは、固体酸存在下、市販されている1、1’−ビ−2−ナフトールの脱水反応により、効率よく製造することができる(非特許文献1)。現在、このジナフトフランは、機能性高分子材料の原料として使用されていない。唯一、リチウムによる開環反応と続くリン酸化反応により非対称な金属配位子へと変換され、有機合成反応に用いられている(非特許文献2)。
【0005】
ジナフトフランの芳香環上が置換されたジナフトフラン誘導体としては、以下のものが開示されている。例えば、非特許文献2には、2、7-ジヒドロナフタレンを原料に採択し、ジナフトフラン骨格の7、7‘位にアルキルオキシ基を置換基に有するジナフトフランが製造できることが開示されている(非特許文献3)。
【0006】
また、出発原料としてビナフトールを採択し、これを臭素化し、さらに臭素をシアノ基に変換して酸触媒により閉環と加水分解を同時に行うことによって、ナフトフラン骨格の6、6‘位の双方にカルボキシル基を導入したことが開示されている。上記の製造方法により得られた2つのカルボキシル基を有するジナフトフラン化合物は、超分子化合物の製造原料として利用されている(非特許文献4)。
【0007】
しかしながら、ジナフトフランを出発物質として採択し、ナフトフラン化合物骨格の6、6‘位の双方に官能基を導入した製造例としては、わずかに唯一、カルボキシル基のみに限られているにすぎないものであり、他の官能基についての製造例についてはまったく開示されていない。
【0008】
このジナフトフラン化合物は、蛍光特性を有し、その芳香環の所定の位置に官能基を導入し、導入した官能基を反応性基として使用することで、主鎖に特定の繰り返し単位を含むポリアリーレンを製造することができる。ポリアリーレンは、π共役電子系を有する高分子化合物であり、有機EL素子(Organic Light Emitting Diode)を構成する高分子蛍光体層に好適に使用することができることが期待される。
【0009】
なお、本件特許出願人は、本件発明に関連する文献公知発明として、以下の技術文献を開示する。
【特許文献1】特開2005−255778号公報
【特許文献2】特開2004−109707号公報
【非特許文献1】ジャーナルケミカルソサエティ・パーキントランス 1、1997年 9 1391(A. Arienti, F. Bigi, R. Maggi, P. Moggi, M. Rastelli, G. Sartori, A. Trere, J. Chem, Soc., Parkin Trans. 1, 1997, 9, 1391.)
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・オーガニックケミストリー、71(17)、6522-6529: 2006年(Journal of Organic Chemistry、71(17)、6522〜6529; 2006)
【非特許文献3】テトラヘドロン・レターズ,45(15),3067〜3070;2004年(Tetrahedron Letters,45(15)、3067~3070;2004)
【非特許文献4】イノーガニック・ケミストリー (Inorganic Chemistry, 41(5), 1033〜1035; 2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、有機EL素子(Organic Light Emitting Diode)を構成する高分子蛍光体層に好適に使用することができるπ共役電子系ポリアリーレンエチニレンを提供することにある。また、本発明の課題は、上記π共役電子系ポリアリーレンエチニレンを構成する特定の繰り返し単位の製造原料となるジナフトフラン化合物誘導体を提供することにある。さらに、本発明の課題は、安価であり、きわめて入手容易なジナフトフラン化合物を出発原料とし、特定の繰り返し単位を含む上記π共役電子系ポリアリーレンエチニレンを簡易に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ジナフトフラン化合物を出発原料として採択し、このジナフトフラン化合物をハロゲン化したジナフトフラン化合物誘導体を基本原料とした特定の繰り返し単位を基本骨格に採択することによりπ共役電子系ポリアリーレンエチニレンを製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、以下の技術的事項から構成される。すなわち、
[1] 主鎖が、以下の一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)中、Xは、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基及び水素原子の群から選ばれるいずれかであり、Zは、芳香族基を含んでいても良く、置換基を有していてもよい炭素数2ないし30の二価の置換基である。nは、3ないし1000である。)
で表される繰り返し単位を含むことを特徴とするポリアリーレンエチニレン。
[2] 主鎖が、以下の一般式(2)
【化2】

上記一般式(2)中、Yは、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基及び水素原子の群から選ばれるいずれかであり、Zは、芳香族基を含んでいても良く、置換基を有していてもよい炭素数2ないし30の二価の置換基である。nは、3ないし1000である。)
で表される繰り返し単位を含むことを特徴とするポリアリーレンエチニレン。
[3] 前記一般式(1)及び(2)中、Zは、以下の一般式で表される群から選ばれることを特徴とする[1]又は[2]に記載のポリアリーレンエチニレン。
【化3】

(A、E、G、Lは、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアルコキシ基及び水素原子の群から選ばれるいずれかであり、Mは、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の二価の置換基である)。
[4] 前記一般式(2)中、Yは、水素原子であり、Zは、芳香族ジエチニル基であることを特徴とする[2]に記載のポリアリーレンエチニレン。
[5] 分子構造が、以下の一般式(3)
【化4】

(上記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方は、ハロゲン原子であり、他の一方は、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、及び水素原子の群から選ばれるいずれかである。)
で表されることを特徴とするジナフトフラン誘導体。
[6] 前記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方のハロゲン原子は、臭素原子又はヨウ素原子であることを特徴とする[5]に記載のジナフトフラン誘導体。
[7] 前記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方のハロゲン原子は、臭素原子又はヨウ素原子であり、他の一方は、アシル基であることを特徴とする[6]に記載のジナフトフラン誘導体。
[8] 前記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方のハロゲン原子は、臭素原子又はヨウ素原子であり、他の一方は、アルキル基であることを特徴とする[6]に記載のジナフトフラン誘導体。
[9] 前記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方のハロゲン原子は、臭素原子又はヨウ素原子であり、他の一方は、水素原子であることを特徴とする[6]に記載のジナフトフラン誘導体。
[10] [8]に記載のジナフトフラン誘導体の製造方法であって、以下の工程、
(a)ビナフトールをジハロゲン化し、ジハロビナフトールとする工程、
(b)前記ジハロビナフトールを脱水反応により、ジハロジナフトフランとする工程、
(c)前記ジハロジナフトフランを酸塩化物と反応させ、ジアシルジハロジナフトフランとする工程、
(d)前記ジアシルジハロナフトフランの水素添加により、ジアルキルジハロナフトフランとする工程
を含むことを特徴とするジナフトフラン誘導体の製造方法。
[11] [8]に記載のジナフトフラン誘導体の製造方法であって、
以下の工程、
(a) ビナフトールを脱水反応によりジナフトフランとする工程、
(b)前記ジナフトフランをジハロゲン化し、ジハロジナフトフランとする工程、
(c)前記ジハロジナフトフランを酸塩化物と反応させ、ジアシルジハロジナフトフランとする工程、
(d)前記ジアシルジハロナフトフランの水素添加により、ジアルキルジハロナフトフランとする工程
を含むことを特徴とするジナフトフラン誘導体の製造方法。
[12] [1]ないし[4]のいずれか1に記載のポリアリーレンエチニレンの製造方法であって、[5]に記載のジナフトフラン誘導体と、
以下の一般式(4)
【化5】

(上記一般式(4)中、Zは、芳香族基を含んでおり、置換基を有していてもよい炭素数2ないし30の二価の置換基である。)で表される芳香族ジアセチレン化合物との重縮合反応により高分子量化することを特徴とするポリアリーレンエチニレンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機ELを構成する高分子蛍光体層に要求される蛍光特性等の諸物性に優れたπ共役電子系ポリアリーレンエチニレンを提供することができる。さらに本発明によれば、上記π共役電子系ポリアリーレンエチニレンの前駆体となる蛍光特性に極めて優れたジナフトフラン誘導体を提供することができる。ジナフトフラン誘導体に電子供与基であるアルキル基、電子求引基であるアシル基の官能基を容易に導入でき、有機溶媒への溶解性を付与すると同時に、ジナフトフラン環上の電子状態、さらには発光波長を変えることができる。また、本発明によれば、上記π共役電子系ポリアリーレンエチニレン及びその前駆体となるジナフトフラン誘導体を簡易なプロセスのみにより製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
<ポリエチレンアリーニレンについて>
本発明のポリアリーレンエチニレンは、その主鎖が、以下の一般式(1)及び(2)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とするπ電子共役系高分子化合物である。
【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

上記の一般式(1)及び(2)から明らかなように本発明のポリアリーレンエチニレンの繰り返し単位は、ジナフトフラン誘導体を基本骨格に有している。
【0017】
まず、一般式(1)においては、その基本骨格の3位と3‘位に炭素−炭素間の三重結合を含んだアセチレン系の置換基Zを有し、さらに、6位と6‘位に置換基Xを有するものである。同様に、一般式(2)においては、ジナフトフランの基本骨格の3位と3‘位に置換基Yを有し、さらに、6位と6‘位に炭素−炭素間の三重結合を含んだアセチレン系の置換基Zを有するものである。本発明のポリアリーレンエチニレンは、主鎖にこのような繰り返し単位を有しているので、ジナフトフラン骨格に由来するπ電子系が、さらにアセチレン系の置換基Zによって拡大することになり、これによって蛍光特性等の諸物性の向上を図ることができる。
【0018】
本発明のポリアリーレンエチニレンの繰り返し単位を表す一般式(1)中、Xは、ジナフトフラン化合物誘導体のπ電子共役系の電子密度を変化させることができる置換基であり、かつ溶媒に対する溶解性等の諸物性を向上させるために付加されている置換基である。このような観点から置換基Xは、繰り返し単位の電子密度を変化させることができるものであれば、特に制限されるものではないが電子供与効果を有する置換基や電子求引効果を有する置換基を適宜採択することができる。すなわち、必要とされる蛍光特性等の諸物性に応じて置換基を採択して、ポリアリーレンエチニレンを製造することができる。
【0019】
置換基Xは、ポリアリーレンエチニレンの製造がしやすい観点から、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基及び水素原子の群から選ぶことができる。特に、製造のし易さの観点から、炭素数1ないし15のアシル基又は炭素数1ないし15のアルキル基が好ましい。このように本発明のポリアリーレンエチニレンにおいては、置換基Xをそれぞれ電子供与又は電子求引性のものを採択することができるので発光波長および発光強度のファインチューニングに適している。
【0020】
置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等が含まれる。アルキル基としては、直鎖状又は分岐状の、例えば炭素数1ないし30、好ましくは炭素数6ないし20、より好ましくは炭素数10ないし18のアルキル基が挙げられる。具体例としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクラデシル基等が挙げられる。
【0021】
シクロアルキル基としては、例えば、炭素数3ないし8のシクロアルキル基が挙げられ、具体例として、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。これらシクロアルキル基は、置換基を有していてもよく、シクロアルキル基に置換する置換基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
アリール基としては、例えば炭素数6ないし15のアリール基が挙げられ、具体例としてはフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。これらのアリール基は置換基を有していても良く、置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子などが挙げられ、これら置換基は該アリール基上に複数置換されていてもよい。
【0023】
置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基としては、ジナフトフラン骨格の電子密度を低下させることができるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、具体例として、アセチル基、プロパノイル基、ヘキサノイル基、ラウロイル基、ステアリル基等が挙げられる。これらの置換基の中でも、製造時における溶解性の観点から、適度なアルキル鎖長を有するヘキサノイル基、ラウロイル基が好ましい。
【0024】
本発明のポリアリーレンエチニレンの繰り返し単位を表す一般式(1)中、Zは、炭素−炭素間の三重結合を含んだアセチレン系の置換基を表す。繰り返し単位に、置換基Zを有することによってジナフトフラン化合物誘導体のπ電子共役系が拡大される。置換基Zとしては、ジナフトフラン化合物誘導体のπ電子共役系を拡大させることができる置換基であれば特に制限されるものではないが、安定したπ電子共役系を形成することができることから炭素−炭素間の三重結合を含んだアセチレン系の置換基が好ましい。他にも、炭素−炭素間の二重結合を含んだ置換基であってもよい。具体的には、4、4’−フェニルジエチニル基、3、3’−ビフェニルジエチニル基等を例示することができる。
【0025】
次に、本発明のポリアリーレンエチニレンの繰り返し単位を表す一般式(2)について説明する。上記一般式(2)中、Yは、ジナフトフラン化合物誘導体のπ電子共役系の電子密度を変化させることができる置換基であり、かつ溶媒に対する溶解性等の諸物性を向上させるために付加されている置換基である。置換基Yは、前述した置換基Xと同様に考えることができる。一般式(2)中、置換基Zも一般式(1)で説明した通りである。
【0026】
<ジナフトフラン誘導体>
本発明のポリアリーレンエチニレンの繰り返し単位を構成するジナフトフラン誘導体について説明する。本発明においてジナフトフラン化合物誘導体は、以下の一般式(3)で表されることを特徴とする。
【0027】
【化8】

【0028】
上記一般式(3)で表されるジナフトフラン誘導体は、本発明のポリアリーレンエチニレンの原料となる化合物である。このジナフトフラン化合物誘導体は、後述する縮合反応によりポリアリーレンエチニレンの一部を構成する。
【0029】
まず、上記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方は、ハロゲン原子である。すなわち、ジナフトフランの3位と3’位の、一方の置換基である置換基Yがハロゲン原子であるときは、ジナフトフランの6位と6’位の置換基Xが、他の一方の置換基となる。置換基Xは、アシル基、アルキル基等の置換基となる。一方、ジナフトフランの3位と3’位の置換基Yがアシル基、アルキル基等の置換基であるときは、置換基Yが他の一方の置換基となる。そして、ジナフトフランの6位と6’位の置換基Xは、一方の置換基となり、これがハロゲン原子となる。上記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方のハロゲン原子は、ジナフトフラン骨格に容易に付加することができる原子であり、かつ反応後に構築されるジハロナフトフラン誘導体に適度な反応性を付与するためのものである。ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を挙げることができる。上記ハロゲン原子の中でも、適度な反応性と製造のし易さの観点から、臭素又はヨウ素原子が好ましく、最も好ましくは、臭素原子である。
【0030】
また、上記一般式(3)中において、他の一方は、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、及び水素原子の群から選ばれるいずれかである。
【0031】
<ジナフトフラン誘導体の製造方法>
本発明においてジナフトフラン誘導体の製造方法について説明する。ジナフトフラン誘導体の製造方法は、(a)ないし(d)工程を含んでなるものである。
ジナフトフラン誘導体の製造方法は、目的とするジナフトフラン誘導体によりそれぞれ製造ルートが異なるものである。大別すると、出発原料である(a)1,1'―ビ−2−ナフトールを最初にジハロゲン化し、(b)その後1,1'―ビ−2−ナフトールに存在する2つの水酸基を脱水縮合してジハロナフトフランとし、その後の各種反応を行うルートを採用する製造方法と、その製造工程の順序入れ替えて、出発原料である1,1'―ビ−2−ナフトールを最初に2つの水酸基を脱水縮合してジハロナフトフランとし、その後ハロゲン化して、ジハロナフトフランとし、その後の各種反応を行うルートを採用する製造方法がある。具体的には、ジナフトフランの6位と6’位の置換基Xをハロゲン原子とし、その3位と3’位に置換基Yに置換基を導入する場合には、最初にジハロゲン化を行い、置換基Xを導入した後、その脱水縮合によりジナフトフラン骨格を形成し、最後に親電子芳香族置換反応により置換基Yを導入する。また、ジナフトフランの3位と3’位の置換基Yをハロゲン原子とし、その6位と6’位に置換基Xを導入する場合には、脱水縮合してジナフトフラン骨格を構築したあと、ジハロゲン化することで置換基Yを導入するものである。6位と6’位への置換基Xの導入は脱水縮合前又は置換基Yの導入後に行う。
【0032】
上記これらいずれの製造方法においても、1,1'―ビ−2−ナフトールから、ジハロジナフトフランを製造することができ、その後いずれのルートにおいても各種反応を適用することができる。なお、上記製造方法において、ナフトールに存在する水酸基の脱水縮合は、酸触媒による脱水縮合反応により行う。酸触媒としては、特に制限されるものではなく、ゼオライト、リン酸等通常の脱水縮合反応において使用できるものを適宜使用することができる。上記ゼオライトとしては、例えば東ソー株式会社製のゼオライトHSZ−360を例示することができる。また、ジハロゲン化反応においては、通常の条件で行うことができ、具体的には、臭素の塩化メチレン溶液に1,1'―ビ−2−ナフトールを加えて、ジハロゲン化を行う。なお、臭素溶液に換えて、N−ブロモスクシミド(NBS)の塩化メチレン溶液を採用してもよい。また、ヨード基の導入は、過ヨウ素酸カリウムとヨウ化カリウムとの反応で行うことができる。
【0033】
上記製造方法においても、ジハロジナフトフランを製造した後は、目的とするジナフトフラン誘導体に必要な反応を適宜行い、ジナフトフラン誘導体を製造する。本発明のジナフトフラン誘導体においては、前述したように、一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方は、ハロゲン原子であるので、この反応性が極めて高いハロゲン原子を使用して各種反応を行う。例えば、一般式(3)中、X、Yのうち他の一方の置換基にアシル基を導入して、ジアシルジナフトフランとする場合には、X、Yのうち他の一方のハロゲン原子と酸塩化物を塩化メチレンや1,2―ジクロロエタン等の溶媒存在下において、反応させてジアシル化を行う。
【0034】
上記ジアシル化反応を行った後、生成されるジアシルナフトフランを更にジアルキルジナフトフランとすることができる。すなわち、上記ジアシル化後のジアシルジナフトフランのアシル基を還元し、アルキル基とすることができる。アシル基のアルキル化反は、酸触媒及びパラジウム触媒/炭素を使用して、水素添加法により還元することに行うことができる。
【0035】
ニトロ基を導入する場合には、硝酸と硫酸との反応により導入することができ、また水酸基とアルコキシ基の導入は、2,6−ジヒドロキシナフタレンの酸化カップリング反応により製造された1,1'―ビ−2−ナフトール誘導体を原料に用いることにより製造可能である。
【0036】
<ポリエチレンアリーニレンの製造方法>
次に、本発明のポリエチレンアリーニレンの製造方法について説明する。本発明のポリエチレンアリーニレンは、図1に示すように、前述したジハロジナフトフラン誘導体とアセチレン又は以下一般式で表されるジアセチレン化合物を触媒存在下、薗頭カップリング重合反応を行い、高分子量化することにより製造することができる。以下に薗頭カップリング重合反応の一例を示した反応スキームを示す。
【0037】
【化9】

【0038】
上記薗頭カップリング重合反応において、使用できる触媒としては、カップリング反応に使用される触媒であれば、特に制限されるものではないが、例えば第2級又は第3級のアミン化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等のパラジウム化合物及びヨウ化銅等を例示することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
(3,3’-ジブロモジナフトフランの製造)
三方コック、セプタムを付し、減圧加熱乾燥した50mL二口ナスフラスコに、ジナフトフラン(268mg、1.0 mmol),塩化メチレン(3.0 mL) を加えた。この溶液に−78度で、臭素(3.0mmol)の塩化メチレン溶液(1.5 mL)溶液を15分かけて滴下し、さらに30分攪拌した。その後、塩化メチレン(6.0 mL)を加え、室温まで昇温し、3.0時間攪拌した。この反応溶液をチオ硫酸ナトリウム水溶液に滴下することで反応を停止させた後、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを加え乾燥させた。乾燥剤をろ去したのち、溶媒を留去し、粗生成物を白色固体として、収率94モル%で得た。
以下にH―NMR、IR、元素分析の測定結果を示す。なお、H―NMR測定には、日本分光製AL-300を使用し、測定条件は、テトラメチルシランを基準物質として0.1%含む重クロロホルムに溶解し、室温にて行った。IR測定には、日本分光製FT-IR4100を、元素分析測定にはYANAKO製CHNコーダーMT―5をそれぞれ使用した。
【0041】
H―NMR δ(300 MHz, CDCl3): 7.70(2H, t, J = 6.9Hz, C6,6’), 7.79 (2H, t, J = 6.9Hz, C7,7’), 8.18(2H, s,C4,4’), 8.52(2H, d, J = 8.4 Hz, C5,5’), 9.09(2H,d, J = 8.4 Hz,C8,8’) ppm.IRν(neat): 1249, 1047 cm-1. C20H10Br2Oに対する計算値: C, 56.38%; H, 2.37%. 実測値, C, 56.12%; H,2.38% 。上記測定結果より、3,3’-ジブロモジナフトフランを製造したことを確認した。
【0042】
(実施例2)
(6,6’-ジブロモジナフトフランの製造)
ジムロー冷却器を付し、減圧加熱乾燥した30mLナスフラスコの中に、6,6’-ジブロモ-1,1’-ビナフトール(426 mg, 1.0mmol)、東ソー製ゼオライトHSZ-360(1 .0g), 1,2-ジクロロベンゼン(1.0 ml)を加え、180℃で4.0時間攪拌した。クロロホルムを加え、ゼオライトをろ去した。ろ液を留去し、生成物と1,2-ジクロロベンゼンの混合物を得た。得られた混合物をヘキサンに再沈澱することで、粗生成物を茶色固体として収率84モル%で得た。この粗生成物をクロロホルムにより再結晶して薄茶色針状結晶を収率12モル%で得た。以下に、H―NMRおよび元素分析の測定結果を示す。なお、1H―NMRの測定は、実施例1と同様にして行った。
【0043】
H―NMR δ(300 MHz, CDCl3): 7.82(2H, d, J = 9.0 Hz,C7,7’), 7.88 (4H, s, C3,3’, 4,4’), 8.23 (2H, s, C5,5’),8.92(2H, d, J = 9.0 Hz, C8,8’) ppm. IRν(neat): 1574, 1238, 1070 cm-1. C20H10Br2Oに対する計算値: C, 56.38%; H, 2.37%. 実測値:C, 56.12%; H, 2.39%。上記測定結果より、6,6’-ジブロモジナフトフランを製造したことを確認した。
【0044】
(実施例3)
(6,6’−ジブロモ−3,3’−ジヘキサノイルジナフトフランの製造)
三方コック、セプタムを付し、減圧加熱乾燥した30mL二口ナスフラスコに、6,6’-ジブロモジナフトフラン(43 mg, 0.1 mmol),塩化ヘキサノイル(49 mg, 0.3 mmol)、1,2-ジクロロエタン(2 ml) を加えた。さらに、塩化アルミニウム(80mg, 0.6 mmol)を加え、室温で15時間かき混ぜた。その後、反応溶液を1.0M 水酸化ナトリウム水溶液に滴下することで反応を停止し、クロロホルムを用いて抽出した。有機層を飽和食塩水により洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加え乾燥させた。乾燥剤をろ去したのち、溶媒を留去し、粗生成物を赤色固体として収率100モル%で得た。シリカゲルクロマトグラフ(溶離液:クロロホルム)により単離を行うことで、純粋な生成物を収率51モル%で得た。以下に、H―NMR、IR及び元素分析の測定結果を示す。各種測定は、実施例1と同様にして行った。また、13C―NMR測定には、日本分光製AL-300を使用し、測定条件は、テトラメチルシランを基準物質として0.1%含む重クロロホルムに溶解し、室温にて行った。
【0045】
1H-NMR δ(300 MHz, CDCl3): 0.96(6H, t, J = 6.9 Hz, -CO-CH2CH2CH2CH2CH3), 1.38-1.56 (8H, m, -CO-CH2CH2CH2CH2CH3), 1.87 (4H, quint, J = 6.9 Hz, -CO-CH2CH2CH2CH2CH3), 3.14 (4H, t, J = 6.9 Hz, -CO-CH2CH2CH2CH2CH3), 7.82(2H, d, J = 9.0 Hz, C8,8’), 8.17 (2H, s, C5,5’), 8.80(2H, d, J = 9.0 Hz, C7,7’), 8.91(2H, s, C4,4’) ppm. 13C-NMR δ(75 MHz, CDCl3): 14.0, 22.6, 24.2, 31.5, 42.0, 114.5, 120.7, 121.2, 126.2, 127.1, 129.0, 129.7, 130.1, 135.8, 153.5, 202.9 ppm. IRν(neat): 2955, 2929, 2870, 1683, 1237, 1082 cm-1. C32H30Br2O3に対する計算値: C, 61.75%; H, 4.86%. 実測値, C, 61.46%; H, 4.65%.
【0046】
上記測定結果より、6,6’-ジブロモ-3,3’-ジヘキサノイルジナフトフランを製造したことを確認した。
【0047】
(実施例4)
(6,6’-ジブロモ-3,3’−ジヘキサノイルジナフトフランと1,4-ジエチニルベンゼンとの薗頭カップリング重合によるポリアリーレンエチニレンの製造)
三方コック、セプタムを付し、減圧加熱乾燥した30mL二口ナスフラスコに、6,6’-ジブロモ-3,3’−ジヘキサノイルジナフトフラン(62 mg, 0.1 mmol), 1,4-ジエチニルベンゼン(13mg, 0.1 mmol)、ヨウ化銅(I)(2.8 mg, 0.015mmol), トリエチルアミン(1 mL) を加え室温でよくかき混ぜた。その後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(12mg,0.01 mmol)を加え、70℃にて24時間かき混ぜた。その後、反応混合物をメタノール/クロロホルム(体積比1:1)溶液に滴下することで反応を停止した。1M塩酸で中和後、吸引ろ集することで茶色固体を得た。得られた固体を30 mLのジメチルスルホキシドに加え、一部を溶解させた。これを吸引ろ集することで、不溶分を除去し、アセトンを用いて再沈澱を行うことにより、薄黄色固体を収率56モル%で得た。
以下にIRの測定結果を示す。なおIR測定は、実施例1、実施例3と同様にして行った。
【0048】
IR ν(neat): IRν(neat): 2962, 2923 2099, 1636, 1261 cm-1.
【0049】
上記測定結果より、ポリアリーレンエチニレンを製造したことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のπ共役電子系高分子化合物は、その優れた蛍光特性により、有機EL素子を構成する高分子蛍光体層に好適に使用することができる。したがって、本発明のπ共役電子系高分子化合物及びその製造方法は、ディスプレイ技術及び液晶ディスプレイのバックライト等の照明技術分野の技術革新に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のポリエチレンアリーニレンの製造方法の概要を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖が、以下の一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)中、Xは、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基及び水素原子の群から選ばれるいずれかであり、Zは、芳香族基を含んでいても良く、置換基を有していてもよい炭素数2ないし30の二価の置換基である。nは、3ないし1000である。)
で表される繰り返し単位を含むことを特徴とするポリアリーレンエチニレン。

【請求項2】
主鎖が、以下の一般式(2)
【化2】

上記一般式(2)中、Yは、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基及び水素原子の群から選ばれるいずれかであり、Zは、芳香族基を含んでいても良く、置換基を有していてもよい炭素数2ないし30の二価の置換基である。nは、3ないし1000である。)
で表される繰り返し単位を含むことを特徴とするポリアリーレンエチニレン。
【請求項3】
前記一般式(1)及び(2)中、Zは、以下の一般式で表される群から選ばれることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリアリーレンエチニレン。
【化3】

(A、E、G、Lは、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアルコキシ基及び水素原子の群から選ばれるいずれかであり、Mは、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の二価の置換基である)。
【請求項4】
前記一般式(2)中、Yは、水素原子であり、Zは、芳香族ジエチニル基であることを特徴とする請求項2に記載のポリアリーレンエチニレン。
【請求項5】
分子構造が、以下の一般式(3)
【化4】

(上記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方は、ハロゲン原子であり、他の一方は、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1ないし30のアシル基、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、及び水素原子の群から選ばれるいずれかである。)
で表されることを特徴とするジナフトフラン誘導体。
【請求項6】
前記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方のハロゲン原子は、臭素原子又はヨウ素原子であることを特徴とする請求項5に記載のジナフトフラン誘導体。
【請求項7】
前記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方のハロゲン原子は、臭素原子又はヨウ素原子であり、他の一方は、アシル基であることを特徴とする請求項6に記載のジナフトフラン誘導体。
【請求項8】
前記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方のハロゲン原子は、臭素原子又はヨウ素原子であり、他の一方は、アルキル基であることを特徴とする請求項6に記載のジナフトフラン誘導体。
【請求項9】
前記一般式(3)中、X、Yのうちいずれか一方のハロゲン原子は、臭素原子又はヨウ素原子であり、他の一方は、水素原子であることを特徴とする請求項6に記載のジナフトフラン誘導体。
【請求項10】
請求項8に記載のジナフトフラン誘導体の製造方法であって、以下の工程、
(a)ビナフトールをジハロゲン化し、ジハロビナフトールとする工程、
(b)前記ジハロビナフトールを脱水反応により、ジハロジナフトフランとする工程、
(c)前記ジハロジナフトフランを酸塩化物と反応させ、ジアシルジハロジナフトフランとする工程、
(d)前記ジアシルジハロナフトフランの水素添加により、ジアルキルジハロナフトフランとする工程
を含むことを特徴とするジナフトフラン誘導体の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載のジナフトフラン誘導体の製造方法であって、以下の工程、
(a) ビナフトールを脱水反応によりジナフトフランとする工程、
(b)前記ジナフトフランをジハロゲン化し、ジハロジナフトフランとする工程、
(c)前記ジハロジナフトフランを酸塩化物と反応させ、ジアシルジハロジナフトフランとする工程、
(d)前記ジアシルジハロナフトフランの水素添加により、ジアルキルジハロナフトフランとする工程
を含むことを特徴とするジナフトフラン誘導体の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のポリアリーレンエチニレンの製造方法であって、請求項5に記載のジナフトフラン化合物誘導体と、
以下の一般式(4)
【化5】

(上記一般式(4)中、Zは、芳香族基を含んでおり、置換基を有していてもよい炭素数
2ないし30の二価の置換基である。)で表される芳香族ジアセチレン化合物との重縮合反応により高分子量化することを特徴とするポリアリーレンエチニレンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−215425(P2009−215425A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60325(P2008−60325)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 第56回高分子討論会 〔主催者名〕 社団法人 高分子学会 〔開催日〕 平成19年9月19日
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】