説明

ジニトリル化合物の製造および分離方法

本発明は、ジニトリル化合物の製造および分離方法に関する。特に、不飽和モノニトリルのヒドロシアン化に由来する媒質からのジニトリル化合物の製造および分離方法に関する。本発明は、ジニトリル化合物を含む媒質を蒸留塔に送り、中間の画分として精製されるジニトリル、塔の下部の画分として除去される重質化合物(重質留分)および上部の画分として回収される不飽和モノニトリルを含む軽質化合物(軽質留分)を回収することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジニトリル化合物の製造および分離方法に関する。
【0002】
本発明は、特に、不飽和モノニトリルのヒドロシアン化に由来する媒質からのジニトリル化合物の製造および分離方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アジポニトリルのようなジニトリル化合物は、多くの化合物の製造において重要な化学中間体である。アジポニトリルは、特に、ポリアミドなどのポリマーの製造で使用される、さまざまなモノマーの合成における化学中間体である。
【0004】
そのうえ、工業的に使用されるジニトリル化合物の合成方法は、例えばブタジエンなどの、ジオレフィンの2段階のヒドロシアン化を行うことからなる。
【0005】
第1段階では、合成により不飽和モノニトリルを生じさせることができる。不飽和モノニトリルは、第2段階で出発物質として使用され、シアン化水素分子との反応によってジニトリルに変換される。一般に、これらの2段階は、これらの段階の間に、例えば触媒系の流動のような、さまざまな流動の変化を伴って逐次行われる。しかしながら、別々に独立して行うことが可能である。
【0006】
第2段階から生じる反応媒質には、生成されたジニトリル、未反応のモノニトリルおよび触媒系、並びにさまざまな副産物を含む。
【0007】
これらの方法は、一方では触媒系を、もう一方ではジニトリルを、モノニトリルから分離するために、この反応媒質を処理する段階からなり、そしてモノニトリルは有利には再利用される。
【0008】
触媒系の分離は、一般に、沈降分離および/または炭化水素のような抽出溶媒を用いた液−液抽出による分離によって得られる。
【0009】
モノニトリルとジニトリルを含む有機相は蒸留段階で処理されて、モノニトリルを、一方でジニトリルから、もう一方で重質化合物(重質留分)から分離する。この蒸留段階は、現行の方法では2つの蒸留塔からなる;第1塔では、モノニトリルなどの、ジニトリルよりも低い沸点を有する生成物が分離され、塔頂部で回収される;ジニトリルを含む重質留分は、ジニトリルを蒸留することが可能である第2蒸留塔に送られ、ジニトリルは塔頂部で回収される。
【0010】
比較的長時間、ジニトリル化合物を高温に保つこの方法には、いくつかの不利な点がある。
【0011】
ジニトリル化合物を高温に保つことは、ジニトリルの分解から生じる副産物の生成を助長する。このようにして、アジポニトリルの場合では、1つの副産物である、イミノシアノシクロペンタン(ICCP)が特に生成される。この副産物は、アジポニトリルから分離するのが困難である。加えて、アジポニトリルの、例えばヘキサメチレンジアミンのような他の化合物への変換工程の際に、副産物は、分離するのが困難な他の化合物に変換され得る。このようにして、アジポニトリルからヘキサメチレンジアミンへの水素化の間、ICCPはアミノメチレンシクロペンタンアミド(AMCPA)に変換される。これらの不純物は、ポリアミドのようなポリマーの製造方法、特にヘキサメチレンジアミンが織編用糸の製造に使用される場合には受け入れられない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的の1つは、特に、生成されるジニトリル化合物の回収と抽出の間、副産物の生成を制限し最小限にすることを可能にする新規なジニトリル化合物の製造および分離方法を提供することにより、これらの不利な点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の主題は、不飽和モノニトリルのヒドロシアン化に由来する媒質からジニトリル化合物を製造および分離するに当たり、
・ジニトリル化合物を含む前記媒質を塔の理論段の高さで蒸留塔に送り、
・塔頂部でジニトリル化合物より低い沸点を有する化合物を回収し、
・ジニトリル化合物を含む前記媒質を送る棚段と比べて塔の低位置にある理論段からジニトリル化合物を含む中間留分を回収し、
・塔底部でジニトリル化合物より高い沸点を有する生成物を回収する、
よりなることを特徴とする、ジニトリル化合物の製造および分離方法である。
【0014】
本発明の1つの特徴によると、塔底部の温度は200℃未満、好ましくは140℃〜190℃である。かかる塔底部の温度は、特にジニトリルの熱分解による、副産物の生成を制限することができる。用語“塔底部の温度”は、塔のボイラー内の液体相の温度および前記ボイラーの内壁温度、という意味に理解される。
【0015】
ジニトリルを含む中間留分は還流を伴わずまたは還流を伴って有利に回収される。還流比は、回収される留分の1〜6重量%であり得る。還流は、前記留分の回収時と同じ高さまたは異なる高さで塔に導入され得る。
【0016】
本発明の他の特徴によれば、本発明の方法によって製造されるジニトリル化合物は、以下の一般式(I):
NC−R−CN (I)
(ここで、R基は、炭素原子2〜10個を含む飽和炭化水素基を表す)
の化合物である。
【0017】
本発明の好ましいジニトリル化合物は、アジポニトリル、メチルグルタロニトリルおよびエチルスクシノニトリルからなる群から選択される。
【0018】
蒸留は、分離されるジニトリル化合物の性質に応じて適した圧力、好ましくは1kPa〜5kPaの圧力下で行われる。
【0019】
本発明の蒸留を、棚段塔、充填塔または分割塔のような、任意の適した装置で行なうことができる。塔の理論段数は、処理される化合物の性質により決定される。一般に、理論段数6〜20と示されている塔は、本発明に適している。
【0020】
ジニトリル化合物を含む中間留分は、液体状態または蒸気状態において蒸留塔から有利に回収される。塔頂部で集められた蒸気状態の留分は、ヒドロシアン化方法の場合には、媒質中に存在する不飽和モノニトリルを含む。
【0021】
本発明の方法は、ジニトリル化合物の熱分解から生じる非常に少ない量の副産物を含むジニトリル化合物を回収することができる。このようにして回収されたジニトリルは、例えば一方ではアジポニトリルを、もう一方ではメチルグルタロニトリルまたはエチルスクシノニトリルのような、生成される他のジニトリルを回収する蒸留によって、分離される。
【0022】
さらに、本発明の方法は、単一の蒸留塔を使用して、非常に低濃度の不純物を含むジニトリル化合物を得ることができる。すなわち、一続きに配置される2つの塔からなる現行のプラントと比べて資本コストや操業コストが削減される。
【0023】
他の利点または詳細は、例示目的でのみ挙げた本発明の方法の実施例の記載に照らしてより明確となる。添付の図面に関しては、図1は従来技術のジニトリル分離プラントのブロック線図を表し、図2は本発明のジニトリル分離プラントの具体例のブロック線図を表す。
【実施例】
【0024】
比較例1
図1を参照するに、ニッケル、トリトリルホスフェートおよびルイス酸(ZnCl2)の有機金属錯体を含んでいる触媒系の存在下で、ペンテンニトリルのヒドロシアン化によるアジポニトリルの製造工程から生じる混合物を、給送位置1から、充填剤を含み理論段数6を示す第1蒸留塔2に送る。塔底部の温度は161℃であり、運転圧力は2kPaである。
【0025】
上部の画分5を、還流4を伴って回収する。回収された画分5は、アジポニトリルよりも低い沸点、または、より広義には、媒質中に存在するジニトリルよりも低い沸点を示す生成物を含む。下記の表Iで示されるように、この上部の画分は、主に、ジニトリルに変換されなかったペンテンニトリルからなる。
【0026】
塔底部にある液体は、ボイラーを含むループ7で循環する。下部の画分6を、塔2の底部で、またはこの循環から回収する。
【0027】
この画分6を第2蒸留塔8に送る。図示された例において、塔8は塔2と同様である。塔底部の温度は164℃で、圧力は2kPaである。
【0028】
画分6を塔8の中間段の高さに送る。アジポニトリルを含むジニトリルは、還流10を伴って上部の画分9の形で回収される。
【0029】
アジポニトリルや他に存在するジニトリルより高い沸点を有する化合物は、下部の画分11の形で回収される。塔2と同様に、塔底部にある液体は循環ループでボイラーを有する12を循環する。
【0030】
下記の表Iに、さまざまな画分の組成物を示す。
【0031】
混合物、特にアジポニトリルおよびジニトリルの滞留時間は、塔2および8での滞留時間の合計である。
【0032】
第2塔8の上部の画分9でのICCP濃度は、0.08重量%である。
【0033】
【表1】

【0034】
用語“重質化合物(重量留分)”は、アジポニトリルよりも高い沸点を有する化合物を意味する。
【0035】
例2
図2を参照するに、例1に相当する混合物を給送位置13から充填蒸留塔14の中間段に送る。この塔は、理論段数6を示し、塔底部の温度164℃、圧力2kPaの下で作動する。
【0036】
存在するジニトリル、特にアジポニトリルより低い沸点を有する化合物を、塔14の頂部で、還流16を伴って上部の画分15の形で回収する。この上部の画分15の組成物は下記の表IIに示され、特に未反応のペンテンニトリルを含む。
【0037】
存在するジニトリル、特にアジポニトリルより高い沸点を有する化合物を、塔14の底部で、ボイラーを含むループ18を通じた塔底部での液体の循環を伴って画分17の形で回収する。ループ18で循環させる前に、画分17を有利に濃縮することができる。
【0038】
処理する混合物を送る給送位置13と比べて低位置にある中間段からの回収による画分19中で、アジポニトリルを含むジニトリルを回収する。
【0039】
下記の表IIに、さまざまな画分の組成物を示す。
【0040】
混合物、特にアジポニトリルを含むジニトリルの滞留時間は、例1の塔8で観察されるものと同程度の長さである。このようにして、本発明の方法は、この化合物の例1で観察されるよりも短い蒸留塔内滞留時間で、アジポニトリルを含むジニトリルを分離して回収することを可能にする。これは本発明の方法では塔2での滞留時間を排除しているためである。
【0041】
本発明の方法は、ICCPを0.04重量%含むジニトリルを回収することができる。
【0042】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来技術のジニトリル分離プラントのブロック線図を表す。
【図2】本発明のジニトリル分離プラントの具体例のブロック線図を表す。
【符号の説明】
【0044】
1、13 給送位置
2、8、14 蒸留塔
4、10、16 還流
5、6、9、11、15、19、17 画分
7、12、18 ループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和モノニトリルのヒドロシアン化に由来する媒質からジニトリル化合物を製造および分離するにあたり、
・ジニトリル化合物を含む前記媒質を蒸留塔に送り、
・塔頂部で、ジニトリル化合物よりも低い沸点を有する化合物を回収し、
・ジニトリル化合物を含む前記媒質の給送位置と比べて塔の低位置にある理論段からジニトリル化合物を含む中間留分を回収し、および
・塔底部で、ジニトリル化合物よりも高い沸点を有する生成物を回収する、
よりなることを特徴とする、ジニトリル化合物の製造および分離方法。
【請求項2】
前記塔底部の温度は200℃未満、好ましくは140℃〜190℃であることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記中間留分の回収が還流を伴わずに行われることを特徴とする請求項1または2の方法。
【請求項4】
前記中間留分の回収が、中間留分の1〜6重量%の還流比で行われることを特徴とする請求項1または2の方法。
【請求項5】
前記ジニトリル化合物は、一般式(I):
NC−R−CN (I)
(ここで、R基は、炭素原子2〜10個を含む飽和炭化水素基を表す)
の化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1の方法。
【請求項6】
前記ジニトリル化合物は、アジポニトリル、メチルグルタロニトリルおよびエチルスクシノニトリルからなる群から選択されることを特徴とする請求項5の方法。
【請求項7】
1kPa〜5kPaの圧力下で行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1の方法。
【請求項8】
前記蒸留塔は、棚段塔、充填塔または分割塔であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−528616(P2006−528616A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520867(P2006−520867)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001972
【国際公開番号】WO2005/019160
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(598051417)ロディア・ポリアミド・インターミーディエッツ (14)
【Fターム(参考)】