説明

ジヒドロピラン化合物の製造方法

【課題】アルデヒド類とジエン化合物とのヘテロディールスアルダー反応による、高収率でかつ経済性に優れたジヒドロピラン化合物の製造方法の提供。
【解決手段】スルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物からなる固体ルイス酸触媒の存在下に、アルデヒド化合物と共役ジエン化合物を環化付加反応させることを特徴とする一般式(III)


で示されるジヒドロピラン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ルイス酸触媒を用いたアルデヒドと共役ジエン化合物とのヘテロディールス-アルダー反応により5,6-ジヒドロ-2H-ピラン環を有する化合物(以下、ジヒドロピラン化合物と称す。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジヒドロピラン化合物は医・農薬品や香料などの重要な原料である。また、いくつかのジヒドロピラン化合物はそれ自身が香料としても用いられている。ジヒドロピラン化合物は、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類とイソプレンや2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンなどの共役ジエン化合物とのヘテロディールス-アルダー反応により製造できることが知られている。しかしながら、このヘテロディールス-アルダー反応は実用的な収率でジヒドロピラン化合物を得ようとすると、グリオキシル酸エステルやトリクロロアセトアルデヒドのような反応性の高いアルデヒドの使用が必要であった。
【0003】
その改良方法として、ルイス酸触媒を用いてアルデヒド類と共役ジエンを反応させる方法に関する提案がある。例えば、ベンズアルデヒドとイソプレンとをシクロヘキサンやトルエンなどの炭化水素溶媒中で、無水塩化アルミニウムなどのルイス酸触媒の存在下に環化付加反応して目的物を得る方法が挙げられる。しかし、この方法では収率50%以下の低い値でしか目的物である4-メチル-6-フェニル-5,6-ジヒドロ-2H-ピランを得ることは出来ない(非特許文献1)。
【0004】
また、アルデヒド類とジエン化合物を塩化アルミニウムまたは四塩化錫から選択されるルイス酸触媒および脂肪族または芳香族ニトロ化合物を助触媒とし5,6-ジヒドロ-2H-ピラン化合物を得る提案がなされている(特許文献1)。本特許文献中、例えば、実施例1に記載のベンズアルデヒドとイソプレンから4-メチル-6-フェニル-5,6-ジヒドロ-2H-ピランを得る反応では、ベンズアルデヒドに対し多量のルイス酸触媒と助触媒(40mol%の塩化アルミニウムと40mol%の2-ニトロプロパン)を用いながら、ベンズアルデヒド基準の収率は僅かに50%を超える程度である。加えて、四塩化錫や塩化アルミニウムのようなルイス酸触媒は毒性および腐食性が高く、環境負荷の観点から改善が望まれている。
【0005】
更なる改良法として、アルデヒド類と共役ジエン化合物とをルイス酸触媒の存在下に反応させる際に脂肪族エステル類のようなルイス酸を溶解させる働きを持つ化合物(特許文献2)、ピリジンのような塩基(特許文献3)、更にはルイス酸を溶解させる働きを持つ化合物と塩基を共使用(特許文献4)することによりジヒドロピラン化合物を改善された収率で得る方法が提案されている。しかしながら、反応系にルイス酸触媒に加え助触媒と称される成分を多量に添加するこれら提案の処方は実用的でなく、生成物の精製を著しく煩雑にするものである。また、先述の提案の方法に比べてジヒドロピラン化合物の収率は改善されてはいるものの、十分とは言い難い。したがって、これら提案の方法は依然として課題を残したものと言わざるを得ない。
【0006】
近年、スカンジウム(III) パーフルオロオクタンスルフォネートなどの希土類金属化合物を触媒として用い、ヘテロディールス-アルダー反応を行う方法(非特許文献2および非特許文献3)が報告されている。触媒性能はスカンジウム金属を有する錯体が特異的に高く、アルデヒド類と共役ジエンの組み合わせ及び使用溶媒に影響を受けるが、ヘキサン溶媒中でスカンジウム(III) パーフルオロオクタンスルフォネートはヘテロディールス-アルダー反応を促進し、室温下、24時間の反応により90%を超える高い収率でジヒドロピラン化合物を与えることが報告されている。しかしながら、スカンジウムが希少金属で、触媒が高価であることから、工業的な使用に適するものではない。
【特許文献1】特公平6-99419号公報
【特許文献2】特開平10-338687号公報
【特許文献3】特開平10-109980号公報
【特許文献4】特開平11-29564号公報
【非特許文献1】Comprehensive Organic Synthesis, vol.5, P.431, Pergamon Press 1991
【非特許文献2】New Journal of Chemistry,1995,vol.19,707
【非特許文献3】Bull.Chem.Soc.,Jpn.,70,No.6(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明においては、アルデヒド類とジエン化合物のヘテロディールス-アルダー反応において、高収率でかつ経済性に優れたジヒドロピラン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を続けた結果、アルデヒド類とジエン化合物のヘテロディールス-アルダー反応によるジヒドロピラン化合物の製造において、ポリアルミノキサン化合物の有する特異な-Al-O-Al-O-鎖構造へ置換基として特定のアミド基を導入した触媒の存在下に反応を行うことで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1) スルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物からなる固体ルイス酸触媒の存在下に、一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1は水素原子またはC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基、アルキル基で置換されていても良いC3〜C20のシクロアルキル基、若しくはアルキル基あるいはアルコキシ基で置換されていても良いC6〜C20のアリール基の炭化水素基を示す。)
で示されるアルデヒド化合物と一般式(II)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R2, R3, R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子、C1〜C10アルキル基、C2〜C10のアルケニル基、C6〜C10のアリール基、C1〜C10のアルコキシ基、C6〜C10のアリールオキシ基、ハロゲン原子を表し、R2とR5が結合して炭素環を形成していても良い。)
で示される共役ジエン化合物を環化付加反応させることを特徴とする一般式(III)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R1, R2, R3, R4, R5は前記と同じ。)
で示されるジヒドロピラン化合物の製造方法。
【0016】
(2) 前記固体ルイス酸触媒が、一般式(IV)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基若しくはC6〜C20のアリール基の炭化水素基を表し、R6、R7が炭化水素基の場合にハロゲン原子、水酸基またはC1〜C8の炭化水素基で置換されていても良い。oおよびpは正の整数を示し、o + p≧2である。)
で示されるアルミノキサン構造を有するポリアルミノキサン化合物と一般式(V)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、R8およびR9はそれぞれ独立してハロゲン原子またはハロゲン原子を含有するC1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基若しくはアリール基の炭化水素基を示し、R8とR9が結合して炭素環を形成していても良い。)
で示されるスルホンイミド化合物との反応により調製される化合物で、シクロヘキサノンと等量接触させた際にカルボニル基の13C-NMRのケミカルシフトを低磁場シフトさせ、そのピークが211.8ppm〜212.8ppmの間に存在することを特徴とするスルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物からなる固体ルイス酸触媒である(1)に記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。
【0021】
(3) 前記固体ルイス酸触媒が、アルキルアルミニウム化合物の共存下に、一般式(IV)
【0022】
【化6】

【0023】
(式中、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基若しくはC6〜C20のアリール基の炭化水素基を表し、R、R7が炭化水素基の場合にハロゲン原子、水酸基またはC1〜C8の炭化水素基で置換されていても良い。oおよびpは正の整数を示し、o + p≧2である。)
で示されるアルミノキサン構造を有するポリアルミノキサン化合物と一般式(V)
【0024】
【化7】

【0025】
(式中、R8およびR9はそれぞれ独立してハロゲン原子またはハロゲン原子を含有するC1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基若しくはアリール基の炭化水素基を示し、R8とR9が結合して炭素環を形成していても良い。)
で示されるスルホンイミド化合物との反応により調製される化合物で、シクロヘキサノンと等量接触させた際にカルボニル基の13C-NMRのケミカルシフトを低磁場シフトさせ、そのピークが211.8ppm〜212.8ppmの間に存在することを特徴とするスルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物からなる固体ルイス酸触媒である(1)に記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。
【0026】
(4) 前記アルキルアルミニウム化合物が、一般式(VI)
【0027】
【化8】

【0028】
(式中、R10、R11およびR12はそれぞれ独立してC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基、C6〜C20のアリール基などの炭化水素基、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基またはアリロキシ基を示す。また、R10、R11およびR12の内、最低一つは炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基である。)
で示される化合物である(3)に記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。
【0029】
(5) 前記スルホンイミド化合物がビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミド、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド及びシクロヘキサフルオロプロパン-1,3-ビス(スルホニル)イミドの中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(2)または(3)に記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。
【0030】
(6) 前記スルホンイミド変性ポリアルミノキサン化合物に含まれるアルミニウムに対するスルホンイミド化合物のモル比が、0.2〜1mol/molの範囲にあることを特徴とする(2)または(3)に記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、マイルドな条件下に種々のジヒドロピラン化合物を高い収率で生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0033】
本発明に用いる固体ルイス酸触媒の出発原料となるポリアルミノキサン化合物とは、一般式(IV)
【0034】
【化9】

【0035】
(式中R6, R7,o, pは前記の定義に同じである。)
で示されるアルミノキサン構造を有する有機金属ポリマーである。
【0036】
本発明の一般式(IV)で示されるアルミノキサン構造中の置換基R6、R7としては、具体的に示すと、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、アミル基、イソアミル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-オクチル基、イソオクチル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基などを挙げることができる。アルケニル基としてはビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、シクロペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などを挙げることができ、一部または全部の水素原子がハロゲン原子で置換されたものでよい。ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素およびヨウ素である。これらの中でより好ましくはメチル基、エチル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、フッ素または塩素である。また、ポリアルミノキサン化合物は単種で用いても良く、混合物で用いても良い。
【0037】
本発明の固体ルイス酸触媒の出発物質として好ましいポリアルミノキサン化合物は、例えば一般式(IV)のR6、R7が共にメチル基であるポリメチルアルミノキサン、一般式(IV)のR6、R7が共にイソブチル基またはn-オクチル基であるポリイソブチルアルミノキサンまたはポリn-オクチルアルミノキサン、一般式(I)のR6がメチル基、R7がイソブチル基、n-ヘキシル基あるいはn-オクチル基でo/pの比が1〜10の範囲にあるポリアルミノキサン化合物である。
【0038】
本発明の固体ルイス酸触媒の出発物質となるポリアルミノキサン化合物の構成単位 -(R6)AlO-と-(R7)AlO-の結合はブロック的あるいはランダム的またはそれらの混在した結合となっていてもよい。また、本発明のポリアルミノキサン化合物は線状構造あるいは環状構造およびそれらの混在した構造であってよい。
【0039】
本発明のスルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物は、前記ポリアルミノキサン化合物とスルホンイミド化合物の反応により調製されるものであり、本発明の一般式(V)
【0040】
【化10】

【0041】
(式中、R8およびR9はそれぞれ独立してハロゲン原子またはハロゲン原子を含有するC1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基若しくはアリール基の炭化水素基を示し、R8とR9が結合して炭素環を形成していても良い。)
で示されるスルホンイミド化合物の置換基であるR8、R9としては、具体的に示すと、フッ素、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、n-ヘプタフルオロプロピル基、イソヘプタフルオロプロピル基、n-ノナフルオロブチル基、イソノナフルオロブチル基、sec-ノナフルオロブチル基、tert-ノナフルオロブチル基、テトラフルオロビニル基、ペンタフルオロプロペニル基、ヘプタフルオロブテニル基、ノナフルオロペンテニル基、ヘキサフルオロシクロペンテニル基、ノナフルオロシクロへキシル基などを挙げることができる。これらの中でより好ましくは、フッ素、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基である。スルホンイミド化合物の中で好ましいものを具体的に挙げると、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミド、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、シクロヘキサフルオロプロパン-1,3-ビス(スルホニル)イミドである。また、スルホンイミド化合物は単種で用いても良く、混合して用いても良い。
【0042】
本発明に係る固体ルイス酸触媒は、触媒量で基質を活性化する。ヘテロディールス-アルダー反応に用いるアルデヒド化合物の活性化はルイス酸化合物のカルボニル酸素への配位による。したがって、用いたルイス酸触媒がどの程度カルボニル基を活性化するのか評価することが重要である。
【0043】
本発明では、固体ルイス酸触媒のルイス酸性を評価する方法として、シクロヘキサノンのカルボニル炭素の13C-NMRによるケミカルシフト値を利用した。一般的に知られているように、ルイス酸化合物はカルボニル酸素の非共有電子対に配位し、カルボニル炭素の電子密度を低下させる。言い換えれば、カルボニル基の活性化であり、NMRにおけるケミカルシフト値を低磁場シフトさせる。具体的には、ルイス酸化合物とシクロヘキサノンを等量混合し、重クロロホルム溶媒中で室温下に13C-NMR測定を行う方法を採った。
【0044】
ポリアルミノキサン化合物とスルホンイミド化合物の反応に際して、反応の均質性増大および反応性の制御を目的としてアルキルアルミニウム化合物を共存させても良い。すなわち、ポリアルミノキサン化合物はアルキルアルミ二ウム化合物が共存しない場合、高会合状態となり溶媒溶解性の低下が低下し、スルホンイミド化合物によるポリアルミノキサン化合物の均質な変性ができず、触媒性能の低下をもたらす。従って、アルキルアルミ二ウム化合物の適度な量の共存は、ポリアルミノキサン化合物とスルホンイミド化合物の均質な反応を容易にし、触媒性能の高い触媒調製を可能とする。
【0045】
ポリメチルアルミノキサンは塩化アルミニウム相当のルイス酸性を有することが知られている。そのため、上述非特許文献1に示されるように、ヘテロディールス-アルダー反応によるジヒドロピラン化合物が50%程度の収率で得られるものと想定した。しかし、比較例2に示すように、ベンズアルデヒドと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンとの反応による目的物は全く得られなかった。シクロヘキサノンとポリメチルアルミノキサンの等量接触した溶液を重クロロホルム中で13C-NMR測定したところ、シクロヘキサノン自身の211.9ppmから211.8ppmにカルボニル炭素ピークが僅かに高磁場シフトする結果を得た。このNMR測定結果は意外なものであったが、ポリメチルアルミノキサンの嵩高い構造による遮蔽効果が一因の可能性がある。これらの結果は、ポリメチルアルミノキサンではルイス酸性が弱く、ヘテロディールス-アルダー反応を進行させるほど十分にアルデヒド化合物を活性化できないことを示している。
【0046】
一方、比較例1に用いたジメチルアルミニウムスルホニルアミド(Me2AlNTf2)はベンズアルデヒドと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンの目的ジヒドロピラン化合物を全く与えなかった。このMe2AlNTf2とシクロヘキサノンの等量接触においては、212.8ppmにシクロヘキサノンのカルボニル炭素のピークを示す。この結果は、強すぎるルイス酸性を有する触媒は逆に反応抑制作用を呈し、アルデヒド化合物との強すぎる結合が原因であるものと推察される。
【0047】
本特許に係る固体ルイス酸触媒(ポリメチルアルミノキサンとビストリフルオロメタンスルホンイミドの反応生成物。実施例1記載を例示。)を用いた場合、驚いたことにシクロヘキサノンのカルボニル炭素は211.8ppm〜212.8ppmの間にピーク(212.4ppm)を示し、適度なルイス酸性を有することが示された。すなわち、ポリメチルアルミノキサンより強く、Me2AlNTf2よりもルイス酸性の弱い固体ルイス酸触媒の創製が重要で、シクロヘキサノンを用いて触媒のヘテロディールス-アルダー反応促進性能を規定することができ、シクロヘキサノンのカルボニル炭素の13C-NMRのケミカルシフト値を211.8ppm〜212.8ppmの間にシフトさせる触媒こそが本発明に係る固体ルイス酸触媒である。このような適度なルイス酸性を示す理由の一つは、アルミノキサン独特の嵩高い分子構造に起因するものと発明者らは考えている。
【0048】
共存してよいアルキルアルミニウム化合物は、一般式(VI)
【0049】
【化11】

【0050】
(式中、R10、R11およびR12はそれぞれ独立してC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基、C6〜C20のアリール基などの炭化水素基、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基またはアリロキシ基を示す。また、R10、R11およびR12の内、最低一つは炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基である。)
で表すことができる。
【0051】
一般式(VI)中のR10、R11およびR12としては、具体的に示すと、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソピルピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、アミル基、イソアミル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-オクチル基またはイソオクチル基などのアルキル基、フェニル基またはトリル基などのアリール基などを挙げることができ、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素のハロゲン原子、メトキシ基またはエトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基などのアリロキシ基を挙げることができる。
【0052】
このようなアルキルアルミニウム化合物の具体例として、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-n-プロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、ジメチルエチルアルミニウム、メチルジエチルアルミニウム、ジメチルイソブチルアルミニウム、メチルジイソブチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウム化合物を、トリフェニルアルミニウム、トリトリルアルミニウムなどのトリアリールアルミニウム化合物を、またジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライドなどの含ハロゲンアルキルアルミニウム化合物を挙げることができる。ここに挙げたアルキルアルミニウム化合物の中で好ましいものは、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミ二ウム、トリイソブチルアルミニウム、およびジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライドである。
【0053】
本発明の一般式(IV)で示されるアルミノキサン構造を有するポリアルミノキサン化合物に対し共存させるアルキルアルミニウム化合物の量論比は、ポリアルミノキサン化合物中のアルミニウムのモル数に対するアルキルアルミニウム化合物のモル数は0.01mol/mol〜1.0mol/molの範囲でよく、好ましくは0.1mol/mol〜0.6mol/molの範囲で、さらに好ましくは0.1mol/mol〜0.3mol/molの範囲である。
【0054】
本発明の固体ルイス酸触媒の製造方法は、特に制限されるものではないが、乾燥窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下においてポリアルミノキサン化合物の溶液にスルホンイミド化合物を添加反応する方法が一般的なものとして挙げられる。
【0055】
本発明の一般式(IV)で示されるアルミノキサン構造を有するポリアルミノキサン化合物と一般式(II)で示されるスルホンイミド化合物の反応に用いる量論比は、ポリアルミノキサン化合物中のアルミニウムのモル数に対するスルホンイミド化合物のモル数は0.2mol/mol〜1mol/molの範囲でよく、好ましくは0.4mol/mol〜0.9mol/molの範囲である。アルキルアルミニウム化合物共存下に当該固体ルイス酸触媒を調製する場合には、アルキルアルミニウム化合物とポリアルミノキサン化合物の全アルミニウムのモル数に対するスルホンイミド化合物のモル数で規定され、0.2mol/mol〜1mol/molの範囲でよく、好ましくは0.5mol/mol〜1.0mol/molの範囲である。
【0056】
13C-NMRにおけるシクロヘキサノンのカルボニル炭素のケミカルシフトを低磁場シフトさせ、そのピークが211.8ppm〜212.8ppmの間に存在させたスルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物を製造するには、一般式(IV)のポリアルミノキサンと一般式(II)で示されるスルホンイミド化合物を上述した量論比内で混合するだけでよい。上述した量論比を下回る場合、反応を効果的に促進させるためのスルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物使用量を増大させる必要がある。また、上述した量論比を上回る場合、未反応のスルホンイミド化合物がプロトン酸としてスルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物に配位吸着し固体ルイス酸触媒中へ残留する。このことは、ルイス酸性評価のために用いたシクロヘキサノンのカルボニル基の還元を導く。すなわち、生成ルイス酸触媒のルイス酸性の正確な評価妨げる、ヘテロディールス-アルダー反応の基質であるアルデヒド化合物の還元をも引き起こすため避けなければならない。
【0057】
ポリアルミノキサン化合物溶液あるいはアルキルアルミニウム化合物共存下にポリアルミノキサン化合物溶液とスルホンイミド化合物との反応は-40℃〜150℃の温度範囲で実施することが可能であり、好ましくは-30℃〜100℃の範囲で、より好ましくは-10℃〜60℃である。
【0058】
ポリアルミノキサン化合物を溶解およびスルホンイミド化合物と反応を行う溶媒としては、ポリアルミノキサン化合物と反応する反応性基を有しないものであればよく、具体的にはペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒、DMFなどの極性溶媒およびそれらの混合溶媒を用いることが好ましい。より好ましくはペンタン、ヘキサン、トルエン、キシレン、ジクロロメタンおよびそれらの混合溶媒である。
【0059】
固体ルイス酸触媒の調製は、ポリアルミノキサン化合物とスルホンイミド化合物との反応液を減圧下に乾固処理する方法または反応液中への低極性の脂肪族炭化水素系溶媒を貧溶媒として添加する方法が代表的なものとして挙げられる。添加する脂肪族炭化水素系溶媒としてはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどが好ましく、溶媒除去のし易さから低沸点のペンタン、ヘキサンがより好ましい。
【0060】
本発明に係る固体ルイス酸触媒は、酸触媒により反応が促進される種々の有機化合物の合成反応において優れた触媒性能を示す。具体的に代表的な反応例を挙げると、本特許に係るヘテロディールス-アルダー反応の他に、ディールス-アルダー反応、アルドール反応、エステル化反応、フリーデル-クラフツ反応、アセタール化反応、カルボニル基のアリル化反応、マイケル付加反応、ニトロ化反応などを挙げることができる。
【0061】
有機化合物の合成反応における本発明のルイス酸触媒使用量は特に制限されるものではない。ヘテロディールス-アルダー反応における通常の使用においては、原料アルデヒド化合物のモル数に対するルイス酸触媒中のアルミニウムのモル数で表現した場合0.01mol/mol〜10mol/molの範囲でよく、好ましくは0.05mol/mol〜5mol/mol、さらに好ましくは0.05mol/mol〜2mol/molの範囲である。
【0062】
本発明の固体ルイス酸触媒を用いたヘテロディールス-アルダー反応に適用可能なアルデヒド化合物は、一般式(I)
【0063】
【化12】

【0064】
(式中、R1は水素原子またはC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基、アルキル基で置換されていても良いC3〜C20のシクロアルキル基、若しくはアルキル基あるいはアルコキシ基で置換されていても良いC6〜C20のアリール基の炭化水素基を示す。)
で表すことができる。
【0065】
一般式(I)中のR1としては、具体的に示すと、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、アミル基、イソアミル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-オクチル基またはイソオクチル基などのアルキル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基などのアルケニル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基などを挙げることができる。
【0066】
アルデヒド化合物の具体例としては、アセトアルデヒド、プロピオアルデヒド、ブチルアルデヒド、ピバルアルデヒド、シクロプロピルアルデヒド、シクロペンチルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、ベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒド、4-ニトロアルデヒド、4-クロロベンズアルデヒドなどを挙げることができる。
【0067】
本発明の固体ルイス酸触媒を用いたヘテロディールス-アルダー反応に適用可能な共役ジエン化合物は、前記一般式(II)
【0068】
【化13】

【0069】
(式中、R2, R3, R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子、C1〜C10アルキル基、C2〜C10のアルケニル基、C6〜C10のアリール基、C1〜C10のアルコキシ基、C6〜C10のアリールオキシ基、ハロゲン原子を表し、R2とR5が結合して炭素環を形成していても良い。)
で表すことができる。
【0070】
一般式(II)の中のR2, R3, R4及びR5としては、具体的に示すと、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などのアルキル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基などのアルケニル基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基などを挙げることができ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられ、アリールオキシ基としてはフェノキシ基などを挙げることができる。
【0071】
共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン、1,3-ペンタジエン、イソプレン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエンなどが挙げられ、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロペンタジエンが好ましい。
【0072】
本発明において、アルデヒド化合物と共役ジエン化合物の使用比率は、アルデヒド化合物1モルに対し、共役ジエン使用量が0.1〜5モルの範囲で良く、好ましくは0.5〜3モルの範囲である。
【0073】
本発明における固体ルイス酸触媒を用いた反応は、無溶媒でも溶媒を用いても行うことができる。本発明で用いられる溶媒として、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレンなどの塩素系溶媒、更にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミドなどの含酸素系溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中で好ましいものはクロロベンゼン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレンなどの塩素系溶媒である。また、ここに挙げた溶媒は1種類のみで用いてもよく、2種類以上の溶媒を混合しても反応に用いることができる。
【0074】
溶媒の使用量は基本的に任意に使用することができるが、固体ルイス酸触媒およびアルデヒド化合物および共役ジエン化合物のそれぞれの濃度が低くなりすぎると反応速度が低下し、反応完結に要する時間が長くかかりすぎる。一般的には、例えば、アルデヒド化合物重量を基準にすると、5000重量%以下の使用量に抑えるのが良い。
【0075】
反応温度は用いる溶媒やアルデヒド化合物および共役ジエン化合物により適する範囲が変るが、一般には-80℃〜100℃の範囲で実施され、好ましくは-30℃〜50℃の範囲である。
【0076】
反応時間は5分〜30時間の範囲でよく、反応後の目的物は加水分解され、加水分解後に有機溶媒で有機層の抽出およびカラムクロマトグラフィーを用いて目的物を得ることが出来る。また、更なる精製を行うため、再結晶を実施しても良い。
【0077】
(実施例)
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。以下の反応は窒素ガス雰囲気下に行った。ジクロロメタン溶媒は水素化カルシウムにより乾燥し、蒸留したものを用いた。また、トルエン溶媒はケチルラジカルにより乾燥し、蒸留したものを用いた。
【実施例1】
【0078】
(1) ポリメチルアルミノキサン化合物(以下、TMAOと称す)の合成
撹拌装置を有する内容積2Lのセパラブルフラスコに、トリメチルアルミニウム(TMAL) 240.8g(3.34mol)、トルエン160.2gを入れた。この溶液に26℃で安息香酸のトルエン溶液500.1g(安息香酸 0.49mol)をゆっくりと添加した。この反応液に、安息香酸 85.5g(0.70mol)を26℃で粉体投入し、その後50℃で加熱熟成を1時間行った。この時、TMALと安息香酸の酸素原子のモル比は、1.40であった。反応液を80℃で2時間加熱し、その後60℃で6.0時間加熱することにより、ポリメチルアルミノキサン化合物のトルエン溶液を得た。得られた溶液は、ゲル状物のない透明な液体であった。反応液回収後に行ったAl分析結果より、Al原子基準で示す反応収率は定量的なものであった。得られた反応液のAl濃度は3.4Mであった。1H-NMR測定結果より、得られたポリメチルアルミノキサン化合物には、Al元素基準で15mol%のトリメチルアルミニウムを含んでいた。ウベローデ粘度計を用いて測定したポリメチルアルミノキサン化合物の溶液粘度は1.60cPであった。TMAOとシクロヘキサノンを等量混合し、重クロロホルム中で13C-NMRを測定したところ、シクロヘキサノンのカルボニル炭素のケミカルシフト値は212.4ppmであった。
【0079】
(2) 固体ルイス酸触媒(以下、MAO-NTf2と称す)の合成
【0080】
【化14】

【0081】
窒素雰囲気下、室温でTMAOのトルエン溶液 (濃度3.4M) 1.2mL(Al量4.08 mmol)にビストリフルオロメタンスルホンイミド(950.3mg, 3.38 mmol)のトルエン溶液(10ml)を30分かけて滴下した。さらに室温で17時間撹拌したところMAO-NTf2が沈殿した。沈殿した固体生成物をトルエンで三回洗浄した(10 ml ×3)。次いで、固体生成物を濾別し、減圧下で3時間乾燥しトルエンを留去した。その後、グローブボックスに入れ計量を行った。917.3mgのMAO-NTf2を得た。分析の結果、得られた917.3mgのMAO-NTf2には11.8wt%のAl原子が含まれていた。MAO-NTf2とシクロヘキサノンを等量混合し、重クロロホルム中で13C-NMRを測定したところ、シクロヘキサノンのカルボニル炭素のケミカルシフト値は212.4ppmであった。
【0082】
(3) ベンズアルデヒドと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンとのヘテロDiels-Alder反応
【0083】
【化15】

【0084】
窒素雰囲気下、MAO-NTf2(21.0 mg, Al量0.092 mmol, 18 mol%)のジクロロメタン(2ml)にベンズアルデヒド (53mg, 0.5 mmol)を加え、室温で30分撹拌した。ついで、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン (123mg, 1.5 mmol)を加えて室温で12時間攪拌した。その後、1Nの塩酸(2ml)を反応溶液に加えて有機層を分離し、水層を2mlのジクロロメタンにより二回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧下、濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製したところ、3,4-ジメチル-6-フェニル-5,6-ジヒドロ-2H-ピランを無色液体として収率75% (71mg, 0.38mmol) で得た。
【0085】
1H NMR(400MHz, CDCl3) δ1.62 (s, 3H), 1.72 (s, 3H), 2.10 (d, 1H, J = 16.6 Hz), 2.32 (dd, 1H J=11.7,16.6 Hz), 4.14 (d, 1H, J = 15.1 Hz),4.24 (d, 1H, J = 15.6 Hz),4.57(dd, 1H J=3.7,10.5 Hz), 7.20-7.42 (m, 5H);
13C NMR(100MHz, CDCl3) δ13.85, 18.30, 38.54, 70.43,76.30, 123.90, 124,55, 125.89, 127.37, 128.24,142.90;
IR (neat) 2914, 2808, 1452, 1385, 1103, 760, 715, 670 cm-1.
【0086】
(比較例1)
ベンズアルデヒドと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンとのヘテロDiels-Alder反応
【0087】
【化16】

【0088】
窒素雰囲気下、Me3Alのトルエン溶液(0.5 M)100mlにHNTf2のジクロロメタン溶液(0.5 M) 100mlをジクロロメタン4mlで希釈した後加え、室温で30分撹拌することでジメチルアルミニウムスルホニルアミド(Me2AlNTf2)を調製した[A. Marx and H. Yamamoto, Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39. 178参照]。Me2AlNTf2とシクロヘキサノンを等量混合し、重クロロホルム中で13C-NMRを測定したところ、シクロヘキサノンのカルボニル炭素のケミカルシフト値は212.8ppmであった。
これに室温下、ベンズアルデヒド(26mg, 0.25 mmol)を加えて室温で30分撹拌した。ついで、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン (62mg, 0.75 mmol)を加えて室温で12時間攪拌した。その後、1Nの塩酸(2ml)を反応溶液に加えて有機層を分離し、水層を2mlのジクロロメタンにより二回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧下、濃縮し、得られた粗生成物を1H NMR(400MHz, CDCl3)で分析したところ、3,4-ジメチル-6-フェニル-5,6-ジヒドロ-2H-ピランの生成は認められなかった。
【0089】
(比較例2)
ベンズアルデヒドと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンとのヘテロDiels-Alder反応
【0090】
【化17】

【0091】
窒素雰囲気下、実施例1で調製したTMAOのトルエン溶液(濃度3.4M) 30mlをジクロロメタン2mlで希釈した。これに室温下、ベンズアルデヒド(53mg, 0.5 mmol)を加えて室温で30分撹拌した。ついで、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン (123mg, 1.5mmol)を加えて室温で12時間攪拌した。その後、1Nの塩酸(2ml)を反応溶液に加えて有機層を分離し、水層を2mlのジクロロメタンにより二回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧下、濃縮し、得られた粗生成物を1H NMR(400MHz, CDCl3)で分析したところ、3,4-ジメチル-6-フェニル-5,6-ジヒドロ-2H-ピランの生成は認められなかった。
【実施例2】
【0092】
ベンズアルデヒドと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンとのヘテロDiels-Alder反応
窒素雰囲気下、実施例1で調製したMAO-NTf2(63.0 mg, Al量0.28 mmol, 56 mol%)のジクロロメタン溶液(2ml)にベンズアルデヒド (53mg, 0.5 mmol)を加え、室温で30分撹拌した。ついで、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン (123mg, 1.5 mmol)を加えて室温で12時間攪拌した。その後、1Nの塩酸(2ml)を反応溶液に加えて有機層を分離し、水層を2mlのジクロロメタンにより二回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧下、濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製したところ、3,4-ジメチル-6-フェニル-5,6-ジヒドロ-2H-ピランを収率82% (77mg, 0.41mmol) で得た。生成物のスペクトルは実施例1で得たものと一致した。
【実施例3】
【0093】
4-ニトロベンズアルデヒドと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンとのヘテロDiels-Alder
反応
【0094】
【化18】

【0095】
窒素雰囲気下、実施例1で調製したMAO-NTf2(21.0 mg, Al量0.092 mmol, 18 mol%)のジクロロメタン(2ml)に4-ニトロベンズアルデヒド (76mg, 0.5 mmol)を加え、室温で30分撹拌した。ついで、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン (123mg, 1.5 mmol)を加えて室温で12時間攪拌した。その後、1Nの塩酸(2ml)を反応溶液に加えて有機層を分離し、水層を2mlのジクロロメタンにより二回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧下、濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン:酢酸エチル=10:1)により精製したところ、3,4-ジメチル-6-(4-ニトロフェニル)-5,6-ジヒドロ-2H-ピランを無色固体として収率86% (100mg, 0.43mmol) で得た。
【0096】
1H NMR(400MHz, CDCl3) δ1.63 (s, 3H), 1.72 (s, 3H), 2.11 (d, 1H, J = 16.6 Hz), 2.20 (m, 1H), 4.16 (d, 1H, J = 15.6 Hz), 4.24 (d, 1H, J = 16.1 Hz),4.63(dd, 1H J=3.9, 10.3 Hz), 7.55 (d, 2H, J = 8.9 Hz), 8.21 (d, 2H, J = 8.9 Hz);
13C NMR(100MHz, CDCl3) δ13.86, 18.34, 38.44, 70.15, 75.18, 123.35, 124.65, 124.80, 126.39, 147.12,150.10;
IR (KBr) 2919, 2844, 1602, 1518, 1421, 1346, 1240, 1197, 850, 832, 671, 605 cm-1.
【実施例4】
【0097】
4-クロロベンズアルデヒドと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンとのヘテロDiels-Alder反応
【0098】
【化19】

【0099】
窒素雰囲気下、実施例1で調製したMAO-NTf2(21.0 mg, Al量0.092 mmol, 18 mol%)のジクロロメタン(2ml)に4-クロロベンズアルデヒド (70mg, 0.5 mmol)を加え、室温で30分撹拌した。ついで、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン (123mg, 1.5 mmol)を加えて室温で12時間攪拌した。その後、1Nの塩酸(2ml)を反応溶液に加えて有機層を分離し、水層を2mlのジクロロメタンにより二回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧下、濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製したところ、3,4-ジメチル-6-(4-クロロフェニル)-5,6-ジヒドロ-2H-ピランを無色液体として収率97% (108mg, 0.49mmol) で得た。
【0100】
1H NMR(400MHz, CDCl3) δ1.62 (s, 3H), 1.71 (s, 3H), 2.10 (d, 1H, J = 16.6 Hz), 2.20 (m, 1H), 4.15 (d, 1H, J = 15.6 Hz), 4.53 (dd, 1H J=3.9,10.3 Hz), 7.33 (s, 4H);
13C NMR(100MHz, CDCl3) δ13.82, 18.31, 38.47, 70.18, 75.54, 124.35, 124.60, 127.18, 126.43, 132.98,141.21;
IR (neat) 2918, 2857, 1602, 1493, 1450, 1384, 1240, 1092, 888, 821, 727, 610 cm-1.
【実施例5】
【0101】
4-クロロベンズアルデヒドとイソプレンとのヘテロDiels-Alder反応
【0102】
【化20】

【0103】
窒素雰囲気下、実施例1で調製したMAO-NTf2(21.0 mg, Al量0.092 mmol, 18 mol%)のジクロロメタン(2ml)に4-クロロベンズアルデヒド (70mg, 0.5 mmol)を加え、室温で30分撹拌した。ついで、0oCに冷却したイソプレン (204mg, 3.0 mmol)を加えて室温で12時間攪拌した。その後、1Nの塩酸(2ml)を反応溶液に加えて有機層を分離し、水層を2mlのジクロロメタンにより二回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧下、濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製したところ、4-メチル-6-(4-クロロフェニル)-5,6-ジヒドロ-2H-ピランを無色液体として収率95% (99mg, 0.48mmol) で得た。この際、粗生成物を1H NMRにより分析したところ、位置異性体である3-メチル-6-(4-クロロフェニル)-5,6-ジヒドロ-2H-ピランの生成は認められなかった。
【0104】
1H NMR(400MHz, CDCl3) δ1.74 (s, 3H), 2.11 (d, 1H, J = 17.1 Hz), 2.20 (m, 1H), 4.30 (d, 1H, J = 2.0 Hz), 4.32 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 4.52 (dd, 1H J=4.0,11.0 Hz), 5.51 (s, 1H), 7.34 (s, 4H);
13C NMR(100MHz, CDCl3) δ23.00, 37.28, 66.53, 75.13, 120.0, 127.33, 128.60, 131.91, 133,17, 141.28;
IR (neat) 2932, 2912, 1496, 1382, 1375, 1122, 1088, 1042, 822, 783 cm-1.
【実施例6】
【0105】
ヘプタナールと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンとのヘテロDiels-Alder反応
【0106】
【化21】

【0107】
窒素雰囲気下、実施例1で調製したMAO-NTf2(21.0 mg, Al量0.092 mmol, 18 mol%)のジクロロメタン(2ml)にヘプタナール (57mg, 0.5 mmol)を加え、室温で30分撹拌した。ついで、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン (123mg, 1.5 mmol)を加えて室温で12時間攪拌した。その後、1Nの塩酸(2ml)を反応溶液に加えて有機層を分離し、水層を2mlのジクロロメタンにより二回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧下、濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製したところ、3,4-ジメチル-6-ヘキシル-5,6-ジヒドロ-2H-ピランを無色液体として収率86% (84mg, 0.43mmol) で得た。
【0108】
1H NMR(400MHz, CDCl3) δ0.89 (t, 3H, J = 7.0 Hz), 1.24-1.35 (m, 8H), 1.42-1.45 (m, 2H), 1.52 (s, 3H), 1.63 (s, 3H), 1.81 (d, 1H, J = 15.6 Hz), 1.94 (dd, 1H J=12.2,15.6 Hz), 3.46 (m, 1H), 3.94 (d, 1H, J = 15.6 Hz), 4.03 (d, 1H, J = 16.3 Hz),
13C NMR(100MHz, CDCl3) δ13.82, 14.05, 18.36, 22.64, 25.47, 29.37, 31.83, 35.92, 36.73, 69.83,74.28, 123.56, 124.40;
IR (neat) 2928, 2857, 1457, 1384, 1107 cm-1.
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明に係る固体ルイス酸触媒はヘテロディールス-アルダー反応に高い触媒性能を示し、マイルドな条件下に種々のジヒドロピラン化合物を高い収率で生成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物からなる固体ルイス酸触媒の存在下に、一般式(I)
【化1】

(式中、R1は水素原子またはC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基、アルキル基で置換されていても良いC3〜C20のシクロアルキル基、若しくはアルキル基あるいはアルコキシ基で置換されていても良いC6〜C20のアリール基の炭化水素基を示す。)
で示されるアルデヒド化合物と一般式(II)
【化2】

(式中、R2, R3, R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子、C1〜C10アルキル基、C2〜C10のアルケニル基、C6〜C10のアリール基、C1〜C10のアルコキシ基、C6〜C10のアリールオキシ基、ハロゲン原子を表し、R2とR5が結合して炭素環を形成していても良い。)
で示される共役ジエン化合物を環化付加反応させることを特徴とする一般式(III)
【化3】

(式中、R1, R2, R3, R4, R5は前記と同じ。)
で示されるジヒドロピラン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記固体ルイス酸触媒が、一般式(IV)
【化4】

(式中、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基若しくはC6〜C20のアリール基の炭化水素基を表し、R6、R7が炭化水素基の場合にハロゲン原子、水酸基またはC1〜C8の炭化水素基で置換されていても良い。oおよびpは正の整数を示し、o + p≧2である。)
で示されるアルミノキサン構造を有するポリアルミノキサン化合物と一般式(V)
【化5】

(式中、R8およびR9はそれぞれ独立してハロゲン原子またはハロゲン原子を含有するC1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基若しくはアリール基の炭化水素基を示し、R8とR9が結合して炭素環を形成していても良い。)
で示されるスルホンイミド化合物との反応により調製される化合物で、シクロヘキサノンと等量接触させた際にカルボニル基の13C-NMRのケミカルシフトを低磁場シフトさせ、そのピークが211.8ppm〜212.8ppmの間に存在することを特徴とするスルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物からなる固体ルイス酸触媒である請求項1に記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記固体ルイス酸触媒が、アルキルアルミニウム化合物の共存下に、一般式(IV)
【化6】

(式中、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基若しくはC6〜C20のアリール基の炭化水素基を表し、R、R7が炭化水素基の場合にハロゲン原子、水酸基またはC1〜C8の炭化水素基で置換されていても良い。oおよびpは正の整数を示し、o + p≧2である。)
で示されるアルミノキサン構造を有するポリアルミノキサン化合物と一般式(V)
【化7】

(式中、R8およびR9はそれぞれ独立してハロゲン原子またはハロゲン原子を含有するC1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基若しくはアリール基の炭化水素基を示し、R8とR9が結合して炭素環を形成していても良い。)
で示されるスルホンイミド化合物との反応により調製される化合物で、シクロヘキサノンと等量接触させた際にカルボニル基の13C-NMRのケミカルシフトを低磁場シフトさせ、そのピークが211.8ppm〜212.8ppmの間に存在することを特徴とするスルホンイミド変成ポリアルミノキサン化合物からなる固体ルイス酸触媒である請求項1記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記アルキルアルミニウム化合物が、一般式(VI)
【化8】

(式中、R10、R11およびR12はそれぞれ独立してC1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基、C6〜C20のアリール基などの炭化水素基、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基またはアリロキシ基を示す。また、R10、R11およびR12の内、最低一つは炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基である。)
で示される化合物である請求項3に記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記スルホンイミド化合物がビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミド、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド及びシクロヘキサフルオロプロパン-1,3-ビス(スルホニル)イミドの中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2または3に記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記スルホンイミド変性ポリアルミノキサン化合物に含まれるアルミニウムに対するスルホンイミド化合物のモル比が、0.2〜1mol/molの範囲にあることを特徴とする請求項2または3に記載のジヒドロピラン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−215236(P2009−215236A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61130(P2008−61130)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(301005614)東ソー・ファインケム株式会社 (38)
【Fターム(参考)】