説明

ジブクレーンの上部フレーム免震支持構造

【課題】地震発生時に上部フレームからジブへ伝達される荷重を効率良く低減し得るジブクレーンの上部フレーム免震支持構造を提供する。
【解決手段】旋回台9と上部フレーム11の前支柱11Fとの間に、地震発生時の水平面内における旋回台9と前支柱11Fとの間の相対変位を減衰吸収可能な水平方向変位吸収手段19を介装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジブクレーンの上部フレーム免震支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、図4及び図5は港湾等に配備されるジブクレーンの一例を示すものであって、該ジブクレーン1は、港湾2における岸壁3に、図4の紙面と直交する方向へ延びるレール4を敷設し、該レール4に沿って転動自在な走行車輪5が配設された走行装置6を基台7の脚部7aに取り付け、該基台7上にマスト8を立設し、該マスト8の上端に、旋回台9を旋回自在に配設し、該旋回台9に、ジブ10を起伏自在に取り付けると共に、前支柱11Fと後支柱11Rとを有する上部フレーム11を立設し、更に前記旋回台9に、吊荷用フック12を吊り下げる吊荷用ワイヤロープ13を巻上げ下げするための巻上装置14と、前記ジブ10の起伏用ワイヤロープ15を巻上げ下げするための起伏装置16とを設置してなる構成を有している。
【0003】
前記上部フレーム11の前支柱11Fは、前記吊荷用フック12に吊荷を吊り下げた際に、前記ジブ10を倒伏させる方向へ作用する荷重を圧縮荷重として受けるようになっており、又、前記上部フレーム11の後支柱11Rは、前記吊荷用フック12に吊荷を吊り下げた際に、前記ジブ10を倒伏させる方向へ作用する荷重を引張荷重として受けるようになっている。
【0004】
ところで、近年、日本各地において大きな地震が発生しており、なかでも、平成7年1月に発生した兵庫県南部地震の際には、工場や港湾施設において、クレーンの大きな被害が発生しており、又、近未来において、東海地震や関東地震の発生が心配されていることから、クレーンの耐震性を向上することが研究され、さまざまな制振構造や免震構造が開発されている。
【0005】
尚、クレーンの免震構造の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1があり、該特許文献1に開示されるものでは、走行レール上を走行可能な脚部を免震化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−8719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示されるもののように、走行レール上を走行可能な脚部を免震化した場合、大地震の発生時には、簡単な構造で、クレーンの安定性を高めつつ地震の揺れを効率良く吸収し、ロッキング現象の発生に伴う脱輪、並びに走行レールのスパンの広がりによる脚部の股裂きを伴う脱輪や脚部の座屈等を防止する上で有効であるが、図4及び図5に示されるジブクレーン1のように、旋回台9の前方へ長く張り出すジブ10が起伏してその傾斜角度が変化するものの場合、基台7の脚部7aのみの免震では必ずしも充分であるとは言えず、ジブ10を支持する上部フレーム11に何らかの形で免震化を施す必要があることが、本発明者等の研究により明らかとなった。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、地震発生時に上部フレームからジブへ伝達される荷重を効率良く低減し得るジブクレーンの上部フレーム免震支持構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、旋回台に、ジブを起伏自在に取り付けると共に、該ジブを倒伏させる方向へ作用する荷重を圧縮荷重として受ける前支柱と、前記荷重を引張荷重として受ける後支柱とを有する上部フレームを立設してなるジブクレーンの上部フレーム免震支持構造であって、
前記旋回台と前支柱との間に、地震発生時の水平面内における旋回台と前支柱との間の相対変位を減衰吸収可能な水平方向変位吸収手段を介装したことを特徴とするジブクレーンの上部フレーム免震支持構造にかかるものである。
【0010】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0011】
前述の如く構成すると、旋回台と前支柱との間に介装された水平方向変位吸収手段によって、地震発生時の水平面内における旋回台と前支柱との間の相対変位が減衰吸収され、旋回台の前方へ長く張り出すジブが起伏してその傾斜角度が変化するジブクレーンの上部フレームに伝わる加速度を低減させることが可能となる。
【0012】
前記ジブクレーンの上部フレーム免震支持構造においては、通常運転時には荷重を支持して前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位の発生を拘束し且つ前記旋回台に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位減衰吸収を機能させるトリガー手段を備えることができ、このようにすると、通常運転時には、トリガー手段が荷重を支持して前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位の発生を拘束しているため、ジブクレーンをより安定した状態で支持する上で有効となる一方、地震等の大きな振動の発生時において、前記ジブクレーンに作用する水平方向加速度が設定値以上となると、前記トリガー手段が塑性変形し、前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位減衰吸収が機能する形となる。
【0013】
又、前記ジブクレーンの上部フレーム免震支持構造においては、前記水平方向変位吸収手段の上面にジブ長手方向と直交する方向へ延びる水平前支持ピンを介して前支柱の下端を枢着すると共に、前記旋回台の上面にジブ長手方向と直交する方向へ延びる水平後支持ピンを介して後支柱の下端を枢着し、該水平後支持ピンと後支柱との間に、前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位減衰吸収に伴う水平後支持ピンに対する前記後支柱のズレを吸収可能な調心手段を設けることができ、このようにすると、前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位減衰吸収に伴って、水平後支持ピンに対し前記後支柱がずれたとしても、そのズレは、水平後支持ピンと後支柱との間に設けられた調心手段により吸収されるため、前記旋回台と後支柱との間に無理な力が作用する心配がない。
【発明の効果】
【0014】
本発明のジブクレーンの上部フレーム免震支持構造によれば、地震発生時に上部フレームからジブへ伝達される荷重を効率良く低減し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例における水平方向変位吸収手段及びトリガー手段を示す要部拡大側正面図である。
【図2】トリガー手段として適用可能な鋼棒ダンパーを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例における調心手段を示す要部拡大正面図である。
【図4】ジブクレーンの一例を示す概略側面図である。
【図5】ジブクレーンの一例を示す概略正面図であって、図4のV−V矢視相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1〜図3は本発明の実施例であって、図中、図4及び図5と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図4及び図5に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特徴とするところは、図1に示す如く、旋回台9と上部フレーム11の前支柱11Fとの間に、地震発生時の水平面内における旋回台9と前支柱11Fとの間の相対変位を減衰吸収可能な水平方向変位吸収手段19を介装した点にある。
【0018】
本実施例の場合、前記水平方向変位吸収手段19は積層ゴム支承20を用い、該水平方向変位吸収手段19としての積層ゴム支承20は、図1に示す如く、多数のゴム板と鋼板とを交互に積層した積層ゴム本体20aを、上フランジ20bと下フランジ20cとで挟持してなる構成を有しており、前記旋回台9の上面に、前記積層ゴム支承20の下フランジ20cを固定すると共に、前記積層ゴム支承20の上フランジ20b上面に、前支持ブラケット17を固定し、該前支持ブラケット17と、前記前支柱11Fの前下端ブラケット11Faとの間に、ジブ10(図4参照)の長手方向と直交する方向へ延びる水平前支持ピン18を挿通することにより、前記前支柱11Fの下端を水平方向変位吸収手段19としての積層ゴム支承20の上面に枢着するようにしてある。
【0019】
又、本実施例の場合、通常運転時には荷重を支持して前記水平方向変位吸収手段19による旋回台9と前支柱11Fとの間の相対変位の発生を拘束し且つ前記旋回台9に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して前記水平方向変位吸収手段19による旋回台9と前支柱11Fとの間の相対変位減衰吸収を機能させるトリガー手段21を備え、該トリガー手段21は、前記旋回台9から上方へ張り出す連結ブラケット22と前記積層ゴム支承20の上フランジ20bから下方へ張り出す連結ブラケット23とをつなぎ且つ前記旋回台9に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時の剪断力で破断されるシヤピン24によって構成してある。但し、前記トリガー手段21としては、図1に示すようなシヤピン24を用いる代わりに、図1中、仮想線で示す如く、前記積層ゴム支承20の中心部に鉛ダンパー20dを、前記上フランジ20bと下フランジ20cとをつなぐように設けたり、或いは、図2に示す如く、前記積層ゴム支承20の積層ゴム本体20aを挟持する上フランジ20bと下フランジ20cとの間を連結するように取り付けられたU字状の鋼材からなる鋼棒ダンパー25によって構成することもできる。尚、前記トリガー手段21に関しては、前記シヤピン24、前記鉛ダンパー20d、前記鋼棒ダンパー25のうちのいずれか一種類のみを選定しても良いが、複数種類のものを組み合わせて用いることも勿論可能である。
【0020】
一方、図3に示す如く、前記旋回台9の上面に、後支持ブラケット26を固定し、該後支持ブラケット26と、前記後支柱11Rの後下端ブラケット11Raとの間に、ジブ10(図4参照)の長手方向と直交する方向へ延びる水平後支持ピン27を挿通することにより、前記上部フレーム11の後支柱11Rの下端は前記旋回台9の上面に枢着されているが、前記水平後支持ピン27と後支柱11Rとの間に、前記水平方向変位吸収手段19による旋回台9と前支柱11Fとの間の相対変位減衰吸収に伴う水平後支持ピン27に対する前記後支柱11Rのズレを吸収可能な調心手段28を設けるようにしてあり、該調心手段28としては、例えば、図3に示すような、前記後支持ブラケット26と水平後支持ピン27との間に介装される球面ブッシュ29、或いは自動調心軸受等を用いることができる。
【0021】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0022】
通常運転時には、トリガー手段21としてのシヤピン24が荷重を支持して、前記水平方向変位吸収手段19としての積層ゴム支承20による旋回台9と上部フレーム11の前支柱11Fとの間の相対変位の発生を拘束しているため、ジブクレーン1は安定した状態で支持される。
【0023】
これに対し、地震等の大きな振動の発生時において、前記ジブクレーン1に作用する水平方向加速度が設定値以上となると、前記トリガー手段21としてのシヤピン24が剪断力で破断され、前記旋回台9と前支柱11Fとの間に介装された水平方向変位吸収手段19としての積層ゴム支承20によって、地震発生時の水平面内における旋回台9と前支柱11Fとの間の相対変位が減衰吸収され、旋回台9の前方へ長く張り出すジブ10(図4参照)が起伏してその傾斜角度が変化するジブクレーン1の上部フレーム11に伝わる加速度を低減させることが可能となる。
【0024】
ここで、前記水平方向変位吸収手段19としての積層ゴム支承20による旋回台9と前支柱11Fとの間の相対変位減衰吸収に伴って、水平後支持ピン27に対し前記後支柱11Rがずれたとしても、そのズレは、水平後支持ピン27と後支柱11Rとの間に設けられた(図3の例では、後支持ブラケット26と水平後支持ピン27との間に介装された)調心手段28としての球面ブッシュ29により吸収されるため、前記旋回台9と後支柱11Rとの間に無理な力が作用する心配がない。
【0025】
こうして、地震発生時に上部フレーム11からジブ10へ伝達される荷重を効率良く低減し得る。
【0026】
尚、本発明のジブクレーンの上部フレーム免震支持構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、ジブを起伏用ワイヤロープの巻上げ下げにより起伏させるものに限らず、スクリューロッドとナットの組合せによりジブを起伏させるものにも適用可能なこと、等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0027】
又、前記水平方向変位吸収手段としては、前記積層ゴム支承の代わりに、下フランジプレート表面に下ガイドレールを取り付け、該下ガイドレールに対し、リニアボールベアリングを介して下ガイドブロックをスライド自在に嵌装すると共に、上フランジプレート表面に、前記下ガイドレールと直交する方向へ延びる上ガイドレールを取り付け、該上ガイドレールに対し、リニアボールベアリングを介して上ガイドブロックをスライド自在に嵌装し、前記下ガイドブロックと上ガイドブロックの背面同士を、ゴムシム等の緩衝材を介して一体に固着してなる転がり支承を用いるようにしたり、或いは、鋼板からなる下フランジプレートの表面に、樹脂コーティング層が形成されたステンレス板を一体化して支持材を形成すると共に、鋼板からなる上フランジプレートの表面に、フッ素樹脂層が形成された鋼板を天然ゴムシート等の振動吸収材を介して一体化することにより滑り材を形成し、前記支持材上に滑り材を、前記樹脂コーティング層とフッ素樹脂層とが当接するよう載置してなる滑り支承を用いるようにしたり、或いは、上下フランジプレート間に複数枚の皿バネを積層したものを用いることができる。
【0028】
更に又、前記トリガー手段としては、前記シヤピン、前記鉛ダンパー、前記鋼棒ダンパー等の代わりに、二枚のプレートを面接触させ、通常運転時には二枚のプレート間の互いの摩擦力により荷重を支持して前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位の発生を拘束し且つ前記旋回台に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には前記摩擦力による荷重の支持が開放されて前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位減衰吸収を機能させるようにしたものを用いることもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 ジブクレーン
9 旋回台
10 ジブ
11 上部フレーム
11F 前支柱
11Fa 前下端ブラケット
11R 後支柱
11Ra 後下端ブラケット
17 前支持ブラケット
18 水平前支持ピン
19 水平方向変位吸収手段
20 積層ゴム支承
20a 積層ゴム本体
20b 上フランジ
20c 下フランジ
20d 鉛ダンパー
21 トリガー手段
24 シヤピン
25 鋼棒ダンパー
26 後支持ブラケット
27 水平後支持ピン
28 調心手段
29 球面ブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回台に、ジブを起伏自在に取り付けると共に、該ジブを倒伏させる方向へ作用する荷重を圧縮荷重として受ける前支柱と、前記荷重を引張荷重として受ける後支柱とを有する上部フレームを立設してなるジブクレーンの上部フレーム免震支持構造であって、
前記旋回台と前支柱との間に、地震発生時の水平面内における旋回台と前支柱との間の相対変位を減衰吸収可能な水平方向変位吸収手段を介装したことを特徴とするジブクレーンの上部フレーム免震支持構造。
【請求項2】
通常運転時には荷重を支持して前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位の発生を拘束し且つ前記旋回台に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位減衰吸収を機能させるトリガー手段を備えた請求項1記載のジブクレーンの上部フレーム免震支持構造。
【請求項3】
前記水平方向変位吸収手段の上面にジブ長手方向と直交する方向へ延びる水平前支持ピンを介して前支柱の下端を枢着すると共に、前記旋回台の上面にジブ長手方向と直交する方向へ延びる水平後支持ピンを介して後支柱の下端を枢着し、該水平後支持ピンと後支柱との間に、前記水平方向変位吸収手段による旋回台と前支柱との間の相対変位減衰吸収に伴う水平後支持ピンに対する前記後支柱のズレを吸収可能な調心手段を設けた請求項1又は2記載のジブクレーンの上部フレーム免震支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−37574(P2011−37574A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186214(P2009−186214)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000198363)IHI運搬機械株式会社 (292)
【Fターム(参考)】