説明

ジブロモマロンアミドの組成物および殺生剤としてのその使用

2,2−ジブロモマロンアミドおよび2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドを含む殺生物組成物、ならびに水性系および水含有系における微生物の制御のためのその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本件は、米国仮出願整理番号第61/246,191号(2009年9月28日出願)(その全部を参照により本明細書に組入れる)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、殺生物組成物、ならびに水性系および水含有系における微生物を制御するためのその使用方法に関する。該組成物は、2,2−ジブロモマロンアミドおよび2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドを含む。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
水系は、繁殖に好適な場所を藻類、バクテリア、ウイルス、および菌類(これらの幾つかは病原体である可能性がある)に対して与える。そのような微生物汚染は種々の問題(例えば美観的な不快さ,例えばスライムがある緑色の水、深刻な健康リスク,例えば菌類、バクテリアまたはウイルスの感染、ならびに機械的な問題,例えば詰まり、設備の腐食、および伝熱の低下)を起こす可能性がある。
【0004】
殺生剤は、水性系および水含有系における消毒、および微生物の生育の制御のために一般的に用いる。しかし、全ての殺生剤が広範囲の微生物および/または温度に対して有効であるわけではなく、幾つかは他の化学処理添加剤と非親和性である。加えて、幾つかの殺生剤は長い十分な期間の微生物制御を与えない。
【0005】
これらの欠点の幾つかは、より大量の殺生剤の使用により解決可能であるが、この選択肢はそれ自体の問題をもたらす。例えば増大するコスト、増大する廃棄物、および殺生剤が処理される媒体の所望の特性と干渉することの増大する可能性である。加えて、より大量の殺生剤を用いても、多くの商業用殺生物化合物は、有効な制御を与えることができない。これは、特定種の微生物に対する活性の弱さ、またはこれらの化合物に対する微生物の耐性に起因する。
【0006】
水系の処理のために殺生剤組成物を与えることは当該分野で顕著に有利であり、これは以下の利点の1つ以上を与える:より低濃度での増大する効果、処理される媒体中での物理的条件および他の添加剤との親和性、広いスペクトルの微生物に対する有効性、ならびに/または、短期間および長期間の両者の微生物の制御を与える能力。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の簡単な要約
一側面において、本発明は、殺生物組成物を提供する。該組成物は、水性系または水含有系における微生物を制御するために有用である。該組成物は:2,2−ジブロモマロンアミド、および2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドを含む。
【0008】
第2の側面において、本発明は、水性系または水含有系における微生物を制御する方法を提供する。該方法は、系を、有効量の本開示で記載する殺生物組成物で処理することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
上記の通り、本発明は、殺生物組成物および微生物の制御においてこれを用いる方法を提供する。該組成物は:2,2−ジブロモマロンアミド、および2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドを含む。驚くべきことに、本開示で記載する2,2−ジブロモマロンアミドと2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドとの特定質量比での組合せが、水性媒体または水含有媒体における微生物制御に用いる場合に相乗的であることを見出した。すなわち、組合せ物質は、その個別の性能に基づいて予測されるのと比べて改善された殺生物特性をもたらす。相乗性は、所望の殺生物特性を実現するために用いるべき物質の量の低減、よって工業プロセス水における微生物の生育に起因する問題の低減を、環境的な影響および材料コストの潜在的な低減とともに可能にする。
【0010】
水性系および水含有系における微生物に対する全体的な有効性に加え、本発明に係る2,2−ジブロモマロンアミドおよび2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドの組合せはまた、中性近傍からアルカリ性のpHでの加水分解に対して、単独で作用する場合の2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド成分よりも耐性である。よって、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドは酸性条件下で安定であるが、中性から塩基性の溶液中で急速な加水分解を受けることが知られている。消滅の程度は、pH6(本質的に中性)からpH8.9(若干塩基性)になるときに約450倍で増大する。Exnerら,J.Agr.Food.Chem.,1973,21(5),838−842(“Exner”)を参照のこと。pH8では、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドの半減期は2時間である(Exner,表1)。pH11.3では、該半減期は僅か25秒であり、本質的に瞬間的な分解である(Exner,第839頁,左欄)。従って、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドが、アルカリ水系における長期の微生物制御のための魅力的な殺生剤であることは稀である。
【0011】
本明細書の目的について、「微生物」の意味としては、これらに限定するものではないが、バクテリア、菌類、藻類、およびウイルスが挙げられる。語句「制御」および「制御する」は、その意味を、微生物の生育または増殖の阻害、殺微生物、消毒および/または防腐を包含しこれらに限定ないように広く解釈すべきである。
【0012】
用語「2,2−ジブロモマロンアミド」は、下記化学式:
【0013】
【化1】

【0014】
で表される化合物を意味する。
【0015】
本発明の組成物の2,2−ジブロモマロンアミドは市販で入手可能である。2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドもまた、例えばThe Dow Chemical Companyより、市販で入手可能である。両物質はまた、当業者によって周知技術を用いて容易に調製できる。
【0016】
幾つかの態様において、本発明の組成物における2,2−ジブロモマロンアミドの2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドに対する質量比は約100:1〜約1:20である。
【0017】
幾つかの態様において、2,2−ジブロモマロンアミドの2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドに対する質量比は約70:1〜約1:10である。
【0018】
幾つかの態様において、2,2−ジブロモマロンアミドの2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドに対する質量比は約40:1〜約1:5である。
【0019】
幾つかの態様において、2,2−ジブロモマロンアミドの2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドに対する質量比は約31:1〜約1:1である。
【0020】
本発明の組成物は種々の水性系および水含有系における微生物を制御するために有用である。このような系の例としては、これらに限定するものではないが、塗料およびコーティング、水性エマルション、ラテックス、接着剤、インク、顔料分散体、家庭用および工業用の洗浄剤、洗剤、食器用洗剤、ミネラルスラリー、ポリマーエマルション、コーキングおよび接着剤、テープジョイントコンパウンド、消毒剤、殺菌剤、金属作動流体、構造物、パーソナルケア製品、テキスタイル流体(例えばスピン仕上)、工業プロセス水(例えば、油田水、パルプおよび紙の水、冷却水)、油田機能性流体(例えば、掘削泥水および破砕流体)、ならびに燃料が挙げられる。好ましい水性系は、洗剤、パーソナルケア、家庭用および工業用の製品、塗料/コーティング、ならびに工業プロセス水である。特に好ましくは、金属作動流体、ミネラルスラリー、ポリマーエマルション、および工業プロセス水である。
【0021】
本発明の幾つかの態様において、試験すべき水性系または水含有系はpH5以上を有する。好ましい態様において、pHは7以上である。更に好ましい態様において、pHは8以上である。
【0022】
当業者は過度の実験なく、微生物制御を与えるための任意の特定用途において用いるべき組成物の有効量を容易に決定できる。例として、好適な活性物質濃度(2,2−ジブロモマロンアミドおよび2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドの両者の合計)は、典型的には、少なくとも約1ppm、代替として少なくとも約3ppm、代替として少なくとも約7ppm、代替として少なくとも約10ppm、または代替として少なくとも約100ppm(水性系または水含有系の総質量基準)である。幾つかの態様において、活性物質濃度の好適な上限は、約1000ppm、代替として約500ppm、代替として約100ppm、代替として約50ppm、代替として約30ppm、代替として約15ppm、代替として約10ppm、または代替として約7ppm(水性系または水含有系の総質量基準)である。
【0023】
組成物の成分は、水性系または水含有系に別個に添加でき、または添加前に前もってブレンドできる。当業者は、適切な添加方法を容易に決定できる。組成物は、他の添加剤,例えば、これらに限定するものではないが界面活性剤、イオン性/ノニオン性のポリマー、ならびにスケールおよび腐食の防止剤、酸素捕捉剤、ならびに/または追加の殺生剤、とともに系中で使用できる。
【0024】
以下の例は、本発明を例示するが、その範囲の限定を意図しない。特記がない限り、本開示で用いる比、パーセント、部等は質量基準である。
【0025】

例1
生育阻害アッセイを用いたDBMAL、DBNPA、および組合せの評価
この例のアッセイは、希薄ミネラル塩媒体中でのバクテリアの集団の生育の防止における殺生剤の効果を測定する。媒体は(mg/l単位で)以下の成分を含有する:FeCl3.6H2O(1);CaCl2・2H2O(10);MgSO4・7H2O(22.5);(NH42SO4(40);KH2PO4(10);K2HPO4(25.5);酵母抽出物(10);およびグルコース(100)。全成分を脱イオン水に添加した後、媒体のpHを7.5に調整する。フィルター滅菌後、アリコートを100μl量で滅菌マイクロタイタープレートウエルに分配する。次いで、2,2−ジブロモマロンアミド(「DBMAL」)および/または「殺生剤B」の希釈物を、マイクロタイタープレートに添加する。下記に示す活性成分の組合せを準備した後、各ウエルに100μlの細胞懸濁液(約1×106細胞毎ミリリットルのPseudomonas aeruginosa,Klebsiella pneumoniae,Staphylococcus aureus,およびBacillus subtilisの混合物を含有する)を接種する。各ウエルにおける媒体の最終的な総体積は300μlである。本開示で記載するように準備したら、各活性物質の濃度は25ppm〜0.195ppmである(表1に示す通り)。得られるマトリクスは、各活性物質の8つの濃度および種々の比における活性物質の64の組合せの試験を可能にする。
【0026】
【表1】

【0027】
対照(示さず)は、殺生剤添加なしの媒体を含有する。マイクロタイタープレートを準備した直後、各ウエルについての光学密度(OD)読みを600nmにて測定し、次いでプレートを37℃で24時間インキュベートする。インキュベート時間後、プレートを穏やかに撹拌した後、OD値を収集する。t(0)でのOD値をt(24)値から差し引いて、生じた生育(またはその不足)の総量を決定する。これらの値を用いて、各殺生剤および64の組合せの各々の存在に起因する生育の阻害%を算出する。生育の90%阻害を、下記等式での相乗指数(SI)値算出のための閾値として用いる。
【0028】
相乗指数=MDBMAL/CDBMAL+MDBNPA/CDBNPA
式中、
DBMAL:DBNPAとの組合せで使用した場合にバクテリア生育を約90%阻害するのに必要なDBMALの濃度
DBMAL:単独で使用した場合にバクテリア生育を約90%阻害するのに必要なDBMALの濃度
DBNPA:DBMALとの組合せで使用した場合にバクテリア生育を約90%阻害するのに必要なDBNPAの濃度
DBNPA:単独で使用した場合にバクテリア生育を約90%阻害するのに必要なDBNPAの濃度
【0029】
SI値は以下のように解釈する:
SI<1:相乗的な組合せ
SI=1:相加的な組合せ
SI>1:拮抗的な組合せ
【0030】
例において、溶液中の殺生剤の量は、溶液1リットル当たりのmg(mg/l)で測定する。溶液密度は約1.00であるため、mg/l測定値は質量ppmに対応する。従って両単位は例において互換的に使用できる。
【0031】
表2は、DBMAL、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(「DBNPA」)、およびこれらの組合せについての生育阻害アッセイ結果を示す。約90%の生育をもたらすDBMALおよびDBNPAの最小濃度は、それぞれ12.5ppm(CDBMAL)および3.13mg/l(CDBNPA)である。
【0032】
【表2】

【0033】
表3は、生育阻害アッセイで相乗性であることが見出されるDBMALおよびDBNPAの比を示す。データは、相乗性が31:1〜1:1(DBMAL:DBNPA)の範囲の比で観測されることを示す。
【0034】
【表3】

【0035】
例2
殺アッセイを用いたDBMAL、DBNPA、および組合せの評価
この例は、水性系にて高pHで用いる場合に本発明の組成物が急速な殺生物および長期の微生物制御を与える能力を示す。
【0036】
滅菌人工冷却塔水(0.2203gのCaCl2,0.1847gのMgSO4,および0.2033gのNaHCO3、1L水中、約pH8.5)を、Pseudomonas aeruginosa ATCC 10145で、約106-7CFU/mLにて汚染させる。次いで、この汚染させた水のアリコートを、DBMAL、DBNPA、またはこれらの組合せで試験する。30℃で1時間、3時間、24時間、および48時間の培養後、アリコート中の生存バクテリアを、連続希釈法を用いて計数する。全てのアリコートに毎日P.aeruginosa ATCC 10145を約105-6CFU/mLで再接種する。表4は、1時間〜48時間の接触時間中の、9.9ppm活性物質量レベルでの、DBMAL、DBNPA、および各DBNPA/DBMAL組合せのlog殺生物を纏める。種々の組合せは、DBNPAおよびDBMAL単独と比べて、速い殺生物(3時間)および長期持続効果(24時間および48時間)の両者を示す。
【0037】
【表4】

【0038】
本発明をその好ましい態様に関して説明してきたが、これは本開示の精神および範囲の中で改変可能である。従って本件は、本開示の一般原理を用いる本発明の任意の変更、使用または適合を網羅することを意図する。更に、本件は、本発明が属する分野における公知または慣用の実施の範囲内となり、特許請求の範囲の限定の範囲内となるような本開示からの逸脱を網羅することを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,2−ジブロモマロンアミドおよび2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドを含む、殺生物組成物。
【請求項2】
2,2−ジブロモマロンアミドの2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドに対する質量比が、約100:1〜約1:20である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
2,2−ジブロモマロンアミドの2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドに対する質量比が、約31:1〜約1:1である、請求項1〜2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
塗料、コーティング、水性エマルション、ラテックス、接着剤、インク、顔料分散体、家庭用洗浄剤、工業用洗浄剤、洗剤、食器用洗剤、ミネラルスラリー、ポリマーエマルション、コーキング、接着剤、テープジョイントコンパウンド、消毒剤、殺菌剤、金属作動流体、構造物、パーソナルケア製品、テキスタイル流体、工業プロセス水、油田機能性流体、または燃料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
pHが5以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
水性系または水含有系における微生物の生育を制御する方法であって、水性系または水含有系を有効量の請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物で処理することを含む、方法。
【請求項7】
水性系または水含有系が、塗料、コーティング、水性エマルション、ラテックス、接着剤、インク、顔料分散体、家庭用洗浄剤、工業用洗浄剤、洗剤、食器用洗剤、ミネラルスラリー、ポリマーエマルション、コーキング、接着剤、テープジョイントコンパウンド、消毒剤、殺菌剤、金属作動流体、構造物、パーソナルケア製品、テキスタイル流体、工業プロセス水、油田機能性流体、または燃料である、請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2013−505959(P2013−505959A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531095(P2012−531095)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/050349
【国際公開番号】WO2011/038321
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】