説明

ジャガイモ加工品の製造方法

【課題】
調味液中で長時間煮込んでも煮崩れし難く、かつ、表面部と内部の硬さに差が少なく自然な食感を呈するため、商品価値の高い煮込み料理を製することができる、ジャガイモ加工品の製造方法を提供する。
【解決手段】
剥皮したジャガイモを、0.2〜0.8%のマグネシウム塩水溶液で接液処理した後、1.0〜6.0%のマグネシウム塩水溶液中で加熱処理することを特徴とするジャガイモ加工品の製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煮崩れを起こし難く優れた食感のジャガイモ加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
おでんは秋から冬場において需要が高まり、近年はコンビニエンスストアー等の重要商材になっている。その中でもジャガイモは大根等と並び野菜の具材として人気が高く、多くの店舗が導入を図っているが、煮崩れが発生し易く、特に長時間高温の調味液に浸したまま店頭販売を行なうような場合には、おでんの煮汁を混濁させ見栄えを悪くする等の問題を発生させていた。
【0003】
このような問題を解決するための従来技術としては、特許文献1に開示された、特定濃度のカルシウム塩の水溶液中でジャガイモを加熱処理する方法等が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−58002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法では、ジャガイモの煮崩れは防止できるものの、ジャガイモの表面部のみが硬くなる傾向があり、食感に違和感を生ずる場合があるという問題があった。このため、調味液に浸して長時間煮込んでも煮崩れし難く、かつ自然な食感を有するジャガイモ加工品は得られていないのが実情である。
【0006】
そこで本発明の目的は、調味液中で長時間煮込んでも煮崩れし難く、かつ、表面部と内部の硬さに差が少なく自然な食感を呈するため、商品価値の高い煮込み料理を製することができる、ジャガイモ加工品の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ね本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、剥皮したジャガイモを、0.2〜0.8%のマグネシウム塩水溶液で接液処理した後、1.0〜6.0%のマグネシウム塩水溶液中で加熱処理することを特徴とするジャガイモ加工品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のジャガイモ加工品の製造方法によれば、調味液中で長時間煮込んでも煮崩れし難く、かつ、表面部と内部の硬さに差が少なく自然な食感を呈するジャガイモ加工品を容易に製造することができる。したがって、製造したジャガイモ加工品は、おでん等の煮込み料理の具材として好適に使用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明において「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味するものとする。
【0011】
本発明においてジャガイモは、食用のあらゆる品種を用いることが可能であるが、特に、男爵芋やさやか等の品種であれば、ほくほく感があり旨みもあり好ましい。
【0012】
本発明の実施に際しては、まず原料のジャガイモを用意し、剥皮及び芽取りを行なう。使用するジャガイモのサイズに特定はないが、一個当たりの質量で70〜120g目安のジャガイモを揃えることが好ましい。これは、ジャガイモの大きさをある程度揃えておくことで、製造するジャガイモ加工品の食感を均一にし易いからである。
ジャガイモの剥皮及び芽取りは、手作業により、あるいは機械により行なうことができるが、剥皮については、ジャガイモの褐変を防止する観点からスチームピーラーを用いることが好ましい。
【0013】
次に、剥皮及び芽取り済みのジャガイモについて、マグネシウム塩水溶液による接液処理を行なう。ここで「接液処理」とは、ジャガイモの表面全体がマグネシウム塩水溶液と接触した状態となるように処理することをいい、例えば、マグネシウム塩水溶液にジャガイモを浸漬するか、あるいはジャガイモの表面全体にマグネシウム塩水溶液を噴霧する方法等を採用することができる。
また、マグネシウム塩は、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム等を任意に用いることができるが、ジャガイモ加工品の風味に影響を及ぼし難い塩化マグネシウムを用いることが好ましい。
【0014】
接液処理に使用するマグネシウム塩水溶液のマグネシウム塩濃度は、0.2〜0.8%が好ましく、0.4〜0.7%がより好ましい。0.2%未満では煮崩れを防止する効果に乏しく、一方、0.8%を超えるとジャガイモが硬くなる傾向があるからである。
かかる接液処理の時間は12時間〜24時間であることが好ましい。接液処理時間が12時間に満たない場合は、ジャガイモ加工品が煮崩れし易くなる傾向があり、また、24時間を超えるとジャガイモ加工品が硬くなる傾向があるからである。
【0015】
尚、マグネシウム塩水溶液には、食塩、糖類、しょう油、グルタミン酸ソーダ、各種だし汁等の任意の調味料等を含有させてもよい。例えば、L−アスコルビン酸ナトリウムを添加しておけば、ジャガイモの褐変を防止することができるため好ましい。
【0016】
次に、接液処理済みのジャガイモをマグネシウム塩水溶液中で加熱処理する。使用するマグネシウム塩水溶液のマグネシウム塩濃度は1.0〜6.0%に調整する必要があるが、2.0〜5.0%としておけばより好ましい。1.0%に満たない場合は、ジャガイモが煮崩れを起こし易くなり、一方6.0%を超えると硬くなる傾向があるからである。また、加熱の程度は、一般に液温約90〜100℃で1時間程度行なえばよい。
【0017】
尚、かかる加熱処理に使用するマグネシウム塩水溶液についても、前記の接液処理に使用するマグネシウム塩水溶液と同様に、各種の調味料等を含有させておくことが可能である。このように、調味料を含有させたマグネシウム塩水溶液を使用することにより、製造するジャガイモ加工品を下味付きのものとすることができる。
また、前記の調味料を含有させたマグネシウム塩水溶液とジャガイモとを、一緒に耐熱性のある容器に充填密封し、その容器ごと加熱処理すれば、ジャガイモ加工品を下味が付けられた容器詰めの製品として製造することができる。
【0018】
本発明の方法により得られるジャガイモ加工品は、調味液に浸して長時間煮込んでも煮崩れし難く、かつ、自然な食感を有するものであるが、これは、マグネシウムイオンがジャガイモに深く浸透し、ジャガイモの細胞壁に含まれるペクチンに作用して細胞壁を強化するためであると推察される。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を説明する。尚、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【0020】
〔実施例1〕
1個当たり70〜120gのジャガイモを用意し、スチームピーラーを用いて剥皮した後手作業で芽取りを行った。得られた剥皮済みのジャガイモを塩化マグネシウム濃度0.5%の水溶液に15時間浸漬することにより接液処理を行なった。
次に、市販のおでんのたれに同量の清水を加えて希釈し、さらに塩化マグネシウムを添加して塩化マグネシウム濃度3.0%の加熱処理用調味液を調製した。得られた加熱処理用調味液15gと接液処理済みのジャガイモ3個を、ポリアミド(外層)とポリエチレン(内層)の2層シートにより形成された袋体に充填しバキュームシールした。
次いで、得られた袋詰めのジャガイモを90℃の熱湯に60分間浸漬して加熱処理を行ない、その後、ジャガイモの品温が10℃以下になるまで約1時間冷水に浸漬して冷却し、ジャガイモ加工品を製造した。
【0021】
製造したジャガイモ加工品について、袋体を開封して取り出し、おでんのたれに同量の清水を加えて希釈し液温を90℃まで昇温させた調味液に浸漬して保温した。保温後3時間を経過した後に調味液からジャガイモ加工品を取り出し観察したところ、煮崩れは認められずきれいな外観を保っていた。また、試食したところ、自然な食感で風味も良好であった。
【0022】
〔比較例1〕
実施例1と同様のジャガイモを用意し、実施例1と同様の方法で剥皮及び芽取りを行った。得られた剥皮済みのジャガイモを乳酸カルシウム濃度0.3%の水溶液に15時間浸漬することにより接液処理を行なった。
次に、市販のおでんのたれに同量の清水を加えて希釈し、さらに乳酸カルシウムを添加して乳酸カルシウム濃度2.0%の加熱処理用調味液を調製した。得られた加熱処理用調味液15gと接液処理済みのジャガイモ3個を、実施例1と同様の袋体に充填しバキュームシールした。
次いで、得られた袋詰めのジャガイモを、実施例1と同様の方法により加熱処理及び冷却処理を行なってジャガイモ加工品を製造した。
【0023】
製造したジャガイモ加工品について、袋体を開封して取り出し、おでんのたれに同量の清水を加えて希釈し液温を90℃まで昇温させた調味液に浸漬して保温した。保温後3時間を経過した後に調味液からジャガイモ加工品を取り出し観察したところ、煮崩れは認められなかったが、試食したところ、ジャガイモ加工品の表面部のみに硬さが感じられ不自然な食感であった。
【0024】
〔試験例1〕
ジャガイモの接液処理又は加熱処理に使用する塩化マグネシウム水溶液又は調味液の濃度が、ジャガイモ加工品の外観及び食感に与える影響について試験した。
【0025】
1.サンプルの製造
ジャガイモの接液処理又は加熱処理に使用する塩化マグネシウム水溶液又は調味液の塩化マグネシウム濃度を、表1に示すように各々変更し、その他は実施例1と同様の方法により、表1に示す13種類のジャガイモ加工品のサンプルを製造した。
尚、サンプルdは実施例1の方法により製造したジャガイモ加工品と同等品である。
【0026】
2.試験方法
13種類のジャガイモ加工品のサンプルについて、各々袋体を開封して取り出し、おでんのたれに同量の清水を加えて希釈し液温を90℃まで昇温させた調味液に浸漬して保温した。保温後3時間を経過した後に調味液からジャガイモ加工品を取り出し、外観を観察し、また試食により食感を評価した。評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1より、ジャガイモの接液処理に使用する塩化マグネシウム水溶液の濃度は0.2〜0.8%(サンプルb〜f)が好ましく、0.4〜0.7%(サンプルc〜e)であればより好ましいことが理解される。
また、ジャガイモの加熱処理に使用する塩化マグネシウムを含有する調味液の塩化マグネシウム濃度は1.0〜6.0%(サンプルi〜l)が好ましく、2.0〜5.0%(サンプルj、k)であればより好ましいことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥皮したジャガイモを、0.2〜0.8%のマグネシウム塩水溶液で接液処理した後、1.0〜6.0%のマグネシウム塩水溶液中で加熱処理することを特徴とするジャガイモ加工品の製造方法。