説明

ジャケット構造体と杭の接合方法と接合用材料

【課題】海中での作業が少なく単純である、ジャケット構造体と基礎杭の接合方法を提供する。
【解決手段】外挿管の下端よりも上の位置には、円周方向に滑り止め材を取り付け、滑り止め材よりも上の位置から、基礎杭の外周を巻きつけシートによって包囲する。滑り止め材より上の位置において、外挿管の外周を、定着バンドによって、巻きつけシートを外周から締め付けて固定する。巻きつけシートの下縁付近において、基礎杭の外周を、絞りワイヤを絞ることによって、巻きつけシートを外周から締め付けて固定する。巻きつけシートと外挿管と基礎杭とで包囲された空間に充填材を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水域に設置して構造物を建設するジャケット構造体と杭の接合方法と接合用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水上に構造物を構築する場合に、ジャケット構造体を使用するのが一般的である。
ここで、ジャケット構造体1とは、図5に示すように、鉛直に配置した外装管a群の間を斜材bや水平材cで結合した立体鋼管トラス構造体である。
工場で製作したジャケット構造体1を、海底に設置した鋼管の基礎杭2と結合固定し、ジャケット構造体1を構築する。
このジャケット構造体1の上に、他の構造物を構築する。
その場合の、ジャケット構造体1と基礎杭2との接合方法については、特許文献1で開示されている。
【0003】
この方法では、まずジャケット構造体の鋼管である外挿管の下端よりも上の位置には、円周方向に滑り止め材を溶接して取り付ける。
そして、滑り止め材よりも上の位置から、基礎杭の外周を巻きつけシートによって包囲し、滑り止め材より上の位置で、バンドによって、巻きつけシートを外周から締め付けて固定する。
一方、巻きつけシートの下縁付近では、基礎杭の外周を、バンドによってシートを外周から締め付けて固定する。
こうしてシートの上は外装管に、下は基礎杭に締め付けて固定し、その状態で、外挿管と基礎杭との間に充填材を充填して行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−256416号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した特許文献記載の発明にあっては、次のような問題点があった。
<1> 巻きつけシートの、外挿管への取り付けは、ジャケット構造物を基礎杭に据え付けた後に、潜水夫によって海中で行っていた。
<2> そのために巻きつけシートの両端の面接着材が海中では接着が困難であり、完全に接着していない部分から、充填したモルタルの漏洩が生じる可能性があった。
<3> 海中における潜水作業によって、定着用バンドを締め付ける作業もまた容易ではなく、その管理も困難であった。
<4> 巻きつけシートのすべての取り付け作業が、潜水夫による海中での作業なので、潜水夫の潜水時間が長くなり、取り付け精度や安全性に問題があった。
<5> ジャケット構造体の外装管の下端部と、巻き付けたシートが挟まれたり接触する可能性があり、その場合にはシートが破損してモルタルが漏えいすることも考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するために、本発明のジャケット構造体と杭の接合方法は、水中に構造物を構築するためのジャケット構造体を、水底に設置した基礎杭の頭部に接合するに際し、ジャケット構造体の脚を構成する外挿管を、水底に設置した、外挿管の内径よりも外径の小さい基礎杭に嵌合して接合する方法であって、外挿管の下端よりも上の位置には、円周方向に滑り止め材を取り付け、滑り止め材よりも上の位置から、基礎杭の外周を巻きつけシートによって包囲し、滑り止め材より上の位置において、外挿管の外周を、定着バンドによって、巻きつけシートを外周から締め付けて固定し、巻きつけシートの下縁付近において、基礎杭の外周を、絞りワイヤを絞ることによって、巻きつけシートを外周から締め付けて固定し、巻きつけシートと外挿管と基礎杭とで包囲された空間に充填材を充填して行う、ジャケット構造物と基礎杭の接合方法を特徴としたものである。
【0007】
また本発明のジャケット構造体と杭の接合用材料は、水中に構造物を構築するためのジャケット構造体を、水底に設置した基礎杭の頭部に接合するに際し、ジャケット構造体の脚を構成する外挿管を、水底に設置した、外挿管の内径よりも外径の小さい基礎杭に嵌合して接合する場合に使用する接合部材であって、外挿管の下端よりも上に、円周方向に取り付けた滑り止め材よりも上の位置から、基礎杭の外周までを包囲する巻きつけシートによって構成し、巻きつけシートを外挿管の外周に取り付けた場合に、滑り止め材より上に位置する、定着バンドと、巻きつけシートの下縁付近において、基礎杭の外周を包囲する位置に位置する絞りワイヤによって構成した、ジャケット構造物と基礎杭の接合部材を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のジャケット構造体と杭の接合方法と接合用材料は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 巻きつけシートの取り付けなどの作業は陸上で行うから、丁寧で精度の高い作業を行うことができる。
<2> 海中での潜水夫の作業時間が大幅に減少するために、安全性が向上する。
<3> 巻きつけシートの取り付けなどの作業の精度が向上するから、モルタルなどの漏洩が生じることがない。
<4> 巻きつけシートの内側に補強布を取り付けておけば、巻きつけシートがジャケットや基礎杭に当たって破損する可能性が低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のジャケット構造体と杭を接合する接合用材料の実施例の説明図。
【図2】巻きつけシートをジャケット構造体の外挿管に取り付けた状態の説明図。
【図3】巻きつけシートを巻き付けた外挿管の実施例の説明図。
【図4】巻きつけシートを下して杭の周囲を包囲した状態の説明図。
【図5】一般のジャケット構造体と杭の接合方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0011】
<1>外挿管と基礎杭。(図5)
ジャケット構造体1とは、鋼管で構成した鉛直材である外挿管11の間を、斜材や水平材で結合した立体鋼管トラス構造体である。
一方、基礎として使用する基礎杭2は、外挿管11の内径よりも外径の小さい鋼管などを水底に打設して構成する。
そして、ジャケット構造体1を構成する外挿管11を、基礎杭2の頭部に嵌合し、外挿管11と基礎杭2の間の隙間にモルタルを充填して、ジャケット構造体1と基礎杭2とを一体化するものである。
【0012】
<2>滑り止め材。(図1)
外挿管11の外周には、下端よりも上の位置に、円周方向に一周する状態で滑り止め材12を取り付ける。
滑り止め材12としてはたとえば鉄筋を溶接して利用できるが、鉄筋以外の材料、あるいは不連続の材料を使用することもできる。
この滑り止め材12が外挿管11の外周に円周方向に取り付けてあることによって、後述する、巻きつけシート3を外挿管11に取り付けた場合に、巻きつけシート3がモルタルなどの重量で滑り落ちることを阻止することができる。
【0013】
<3>巻きつけシート。(図1)
巻きつけシート3は、展開した状態では長方形のシートである。
この巻きつけシート3は、ジャケットの外挿管11の滑り止め材12より上の位置から、基礎杭2の周囲に至るまでの範囲を、筒状に包囲することができる。
材料としては、例えばポリエステルのシートを使用する。
巻きつけシート3の長方形の両端縁、すなわち長方形の短辺には、帯状の面接着体31を取り付ける。
この面接着体31は、巻きつけシート3の一端では外面に、他端では裏面に取り付けることによって、巻きつけシート3を外挿管11や基礎杭2の外周に巻きつけたときに、仮止めとして、簡単に接着させておくことができる。
また、巻きつけシート3の一方の縁には、複数個所に巻き取りベルト32を取り付ける。
これは、後述するように、外挿管11を基礎杭2の外周に嵌合する前に、巻きつけシート3を巻き上げためのものであり、紐条の材料であれば使用できる。また巻きつけシート3の内側には補強布37を取り付けておくこともできる。
【0014】
<4>絞りワイヤ。
長方形の巻きつけシート3の外側には、長手方向の縁に近い位置に、長手方向の縁と平行に全長にわたって、絞りワイヤ33を取り付ける。
絞りワイヤ33の脱落を防ぐために、適当な位置にワイヤ通し33aを配置して、その中を貫通させておく。あるいは、巻きつけシート3の外面に長い袋状の絞りワイヤ挿通袋を取り付けてもよい。
この絞りワイヤ33は、巻きつけシート3を筒状に形成した場合にその外周に一周させるだけでもよいが、図の実施例では外周を2周させた状態を示している。
【0015】
<5>定着バンド。
前記したように、巻きつけシート3の一方の縁に近い位置に、絞りワイヤ33を取り付けてある。
さらに長手方向の他方の縁と近い位置に、巻きつけシート3の全長にわたって、縁と並行に定着バンド34を取り付ける。
定着用バンド34は、図の実施例では鋼製の幅広、長尺の帯状体を示しているが、その材料に限定する必要はなく、巻きつけシート3を外挿管11の外に巻き付けて取り付けることができる材料なら利用することができる。
この定着バンド34の位置を確保するために、巻きつけシート3の外面にはベルトを通すような縦方向の挿入帯34aを取り付けておく。
薄い鋼板製の定着バンド32を使用する場合には、専用の締め付け具によって端部を巻き取って締め付け状態で定着することができる。
【0016】
<6>巻きつけシートの取り付け。
上記で説明した巻きつけシート3を、陸上において外挿管11の外周に取り付ける。(図2)
そのために、まず外挿管11の外周に、外挿管から突設している滑り止め材12より上まで巻きつけシート3を巻きつける。
巻きつけシート3の取り付け位置は、巻きつけシート3の定着バンド34が滑り止め材12のすぐ上方に来るような位置である。
その際に、面接着体31で仮止めし、さらに定着バンド34より上の位置に、定着バンド34と平行に上紐35を配置しておけば、まず上紐35で巻きつけシート3を仮固定する。
その後に定着バンド34を専用の工具で緊張して定着することによって、巻きつけシート3の上縁を、滑り止め材12より上の位置において、外挿管11の外周に確実に取り付けることができる。
筒状に外挿管11の外周に位置した巻きつけシート3の裾部分には、絞りワイヤ33を、ワイヤ通し33aを通して緩く巻き付けておく。
そして、絞りワイヤ33の端部の間は仮止め用のロープ37で緩く繋いでおく。
さらに巻きつけシート3の裾部分には、全長にわたって下紐36を通しておく。この下紐36は、巻きつけシート3の基礎杭2への取り付けの際に、絞りワイヤ33の滑り止め、として機能する。
【0017】
<7>巻きつけシートの巻き上げ。
上記の状態は、外挿管11の下端に筒状に巻きつけシート3が巻き付けてあり、筒状にぶら下がったままである。
そのために、基礎杭2への嵌合に際して巻きつけシート3が巻き込まれて破断する可能性がある。
そこで巻きつけシート3を、下から、すなわち絞りワイヤ33側から、いったん巻き上げて折りたたむ。
そして袋状に折り畳んだ巻きつけシート3を、その上縁に取り付けた巻き取りベルト32によって縛りつける。(図3)
その結果、巻きつけシート3を鉢巻状に外挿管11の外周に巻き付けて固定することができる。
以上の作業は陸上での作業である。
【0018】
<8>ジャケットの据え付け。(図3)
次に、上記の巻きつけシート3によって外挿管11と基礎杭2を包囲する方法について説明する。
前記したように、まず水底に基礎杭2を設置する。
その後、ジャケット構造体1をクレーンなどで吊り下ろし、ジャケット構造体1を構成する中空の外挿管11を、外挿管11の内径よりも外径の小さい基礎杭2の頭部に嵌合する。
その場合に、外挿管11の下端より上の位置には、帯状に折りたたんだ巻きつけシート3が、巻き取りベルト32で固定して取り付けてある。
【0019】
<9>巻きつけシートの開放。
外挿管11の下端が、基礎杭2の外周に位置した状態で、巻き取りベルト32の拘束を解除する。
すると、巻きつけシート3は絞りワイヤ33などの重量で自然に垂れ下がって基礎杭2の周囲を筒状に包囲する。
この状態では、巻きつけシート3の下部は、海中に位置する。
【0020】
<10>シートの巻き付け。(図4)
潜水夫によってまず下紐36を絞って、基礎杭2の外周から締め付けて、絞りワイヤ33の滑り止めとして機能させる。
次いで、巻きつけシート3の裾を回っている絞りワイヤ33を緊張して、巻きつけシートを基礎杭2の外周に巻き付ける。
その場合に、巻きつけシート3の裾の部分に緩く巻き付けた絞りワイヤ33の両端の間にチェンブロックなどの市販の締め付け具を介在させ、そのハンドルを往復動させることで、絞りワイヤ33を引き締めて、巻きつけシート3の裾部が、基礎杭2の外周を締め付ける状態で取り付ける。
この作業は海中での作業となるが、単に工具のハンドルを往復動させるだけの単純な作業だから、汚濁して視界ゼロの海中でも確実に作業を行うことができる。
【0021】
<10>充填材の注入。
外挿管11の一部に、セメントミルクなどの充填材5の充填口13を設ける。
その充填口13から充填材を注入して硬化させる。
その結果、周囲を巻きつけシート3によって完全に包囲した、外挿管11と基礎杭2の間の隙間に充填材を充填して、ジャケット構造体1と基礎杭2とを強固に一体化することができる。
【符号の説明】
【0022】
1:ジャケット構造体
11:外挿管
12:滑り止め材
2:基礎杭
3:巻きつけシート
31:面接着体
32:巻き取りベルト
33:絞りワイヤ
34:定着バンド
35:上紐
36:下紐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に構造物を構築するためのジャケット構造体を、水底に設置した基礎杭の頭部に接合するに際し、
ジャケット構造体の脚を構成する外挿管を、水底に設置した、外挿管の内径よりも外径の小さい基礎杭に嵌合して接合する方法であって、
外挿管の下端よりも上の位置には、円周方向に滑り止め材を取り付け、
滑り止め材よりも上の位置から、基礎杭の外周を巻きつけシートによって包囲し、
滑り止め材より上の位置において、外挿管の外周を、定着バンドによって、巻きつけシートを外周から締め付けて固定し、
巻きつけシートの下縁付近において、基礎杭の外周を、絞りワイヤを絞ることによって、巻きつけシートを外周から締め付けて固定し、
巻きつけシートと外挿管と基礎杭とで包囲された空間に充填材を充填して行う、
ジャケット構造物と基礎杭の接合方法
【請求項2】
水中に構造物を構築するためのジャケット構造体を、水底に設置した基礎杭の頭部に接合するに際し、
ジャケット構造体の脚を構成する外挿管を、水底に設置した、外挿管の内径よりも外径の小さい基礎杭に嵌合して接合する場合に使用する接合部材であって、
外挿管の下端よりも上に、円周方向に取り付けた滑り止め材よりも上の位置から、基礎杭の外周までを包囲する巻きつけシートによって構成し、
巻きつけシートを外挿管の外周に取り付けた場合に、
巻きつけシートの上縁付近において、滑り止め材より上に位置する定着バンドと、
巻きつけシートの下縁付近において、基礎杭の外周を包囲する位置に位置する絞りワイヤによって構成した、
ジャケット構造物と基礎杭の接合部材。
【請求項3】
巻きつけシートの中間位置において、
巻きつけシートの全円周に沿って、
中間ベルトを複数組、取り付け、
この中間ベルトを締め付けることによって、
巻きつけシートの一部の間隔を縮めることを特徴とする、
請求項1.2に記載のジャケット構造物と基礎杭の接合方法と接合部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−12436(P2011−12436A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156875(P2009−156875)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】