説明

ジャムの製造方法

【課題】通電加熱によるジャムの製造方法において、pHと電気伝導率の両者を同時に適切な範囲に調整可能な方法を提供する。
【解決手段】少なくとも水と、果実類とを含む混合材料を、弱酸と、その弱酸の塩の存在下に通電加熱することを特徴とするジャムの製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ジャムの製造方法に関し、特にジャムを製造するとき果実類の形状、及びフレーバーが保持されるジャムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ジャムは、果実類、ショ糖、水などを混合した混合材料を容器に入れ、外部から加熱して作られている。この方法では外部から加熱しているため、容器内の壁の近くと中心付近では温度ムラが生じる。従って、加熱中は容器内の混合材料を撹拌して温度を均一にする必要がある。しかし、撹拌により果実類の形状が崩れてしまい、商品価値が損なわれることがある。この問題は、プレザーブスタイルのジャム(果肉片を原料とし、その原形を保持するようにしたジャム)で特に顕著になる。
【0003】
この問題を解決するため、特許文献1には、容器内の果実類を主体とする食品材料を容器壁面側からの伝熱により加熱しながら食品材料を撹拌する第1段目の加熱を行ない、さらに食品材料を通電加熱装置に移送して直接通電することにより抵抗発熱で食品材料を加熱する第2段目の加熱を行なう果実類の加熱処理方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001―145469号公報(請求項1、段落0038〜0041)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によれば、通電加熱することで撹拌工程を行わずに済み、固形の果肉を含む製品を製造する場合でも、固形果肉の崩れが少なくなる。
【0005】
ところで、通電加熱による食品の加工は、通電により生じるジュール熱を利用して行われる。このとき、加工される食品の電気伝導率が低すぎると、高電圧を印加しなければ通電できず、また電気伝導率高すぎるとジュール熱の発生が少なく、所望の温度まで昇温することができない。従って、加工される食品の電気伝導率を適切な範囲に調整することが必要である。一般に食品を通電加熱するときは、食品に含まれていてもよい電解質(塩)を1種類添加して電気伝導率を調整している。例えば特許文献1には、pH調整剤としてクエン酸ナトリウムを用いることが開示されている(段落0038〜0041)。
【0006】
一方、ジャムを製造する場合、ペクチンによるジャムのゼリー化が生じるのは一般にpH3.0〜4.0の範囲であるため、混合材料のpHをこの範囲に調整する必要がある。しかし、電解質を1種類だけ添加する方法では、電気伝導率とpHの両者を同時に適切な範囲に調整することは困難である。例えば、特許文献1のようにリンゴや苺のジャムの場合、クエン酸三ナトリウムだけで電気伝導率を高めると、pHが4.0を超えてしまい、この状態で通電加熱を行うと、通電加熱後にpHを調整するためにクエン酸を添加して撹拌する操作が必要になる。
【0007】
この発明は、通電加熱により撹拌工程を削減することにより果実等の形状が保持されるジャムの製造方法において、pHと電気伝導率の両者を同時に適切な範囲に調整可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決したこの発明に係るジャムの製造方法は、少なくとも水と、果実類とを含む混合材料を、弱酸と、前記弱酸の塩の存在下に通電加熱することを特徴とする。
【0009】
この製造方法では、混合材料に、弱酸および弱酸の塩の、いずれか一方を添加して通電加熱することが好ましい。
あるいは、弱酸と、弱酸の塩とを添加して通電加熱することが好ましい。この場合、弱酸と、弱酸の塩とを、混合材料に対する含有量が0.1〜5.0質量%で、混合材料のpHが3.0〜4.0の範囲となるように添加することができる。
【0010】
弱酸には、クエン酸、酢酸、酒石酸、およびリンゴ酸の内の少なくともいずれか1種を使用することが好ましい。本願で言う弱酸の塩には、クエン酸ナトリウム等のように既に塩になっている化合物のほか、混合材料中の果実類に含まれる弱酸に、重曹等の塩基性化合物を添加して生成させた塩も含まれる。
また、混合材料にさらに、単糖、2糖、糖アルコール、およびペクチンの内の、少なくともいずれか1種を加えてもよい。
さらに、通電加熱を開始した後、混合材料の温度が、少なくともペクチンが溶解する温度になったら、通電加熱を停止することもできる。また、この発明の製造方法は、プレザーブスタイルのジャムの製造に用いることが好ましい。
【0011】
なお、この発明でジャムというときは、農林水産省告示538号(平成16年3月15日)に示されたジャム類を意味する。すなわち、ジャムとは「果実、野菜または花弁(果実等)を砂糖類等とともにゼリー化するようになるまで加熱したもの」であり、特許請求の範囲にいう果実類は、この告示に言う果実等を意味する。
【0012】
また、ジャムには、マーマレード、ゼリーが含まれる。さらに、プレザーブスタイルとは、「ジャムのうち、いちごその他のベリー類の果実を原料とするものにあっては全形の果実、ベリー類以外の果実等を原料とするものにあっては5mm以上の厚さの果肉等の片を原料とし、その原形を保持するようにしたもの」をいう。ちなみに、同告示にはプレザーブスタイルの品質規格が示されており、「特級」の基準は「果実、果肉等の形及び量が適当で、果実、果肉等の大きさがそろっていること」とされ、「標準」の基準は「果実、果肉等の大きさがおおむねそろっていること」とされている。
【発明の効果】
【0013】
この発明では、弱酸と、この弱酸の塩の存在下で混合材料を通電加熱する。弱酸と、この弱酸の塩との組み合わせは緩衝作用を有するため、混合材料のpHが変化しにくい。さらに、弱酸と、この弱酸の塩の2種類の電解質が存在することにより、混合材料の電気伝導率を適正な範囲となる。混合材料に、弱酸と、弱酸の塩とを添加する方法にすれば、pHを一定の範囲、すなわちpH3.0〜4.0の範囲に保ちながら、容易に伝導率を適正な範囲に調整できる。これにより、pHと電気伝導率の両者を同時に適切な範囲に調整可能なジャムの製造方法を提供することができる。
【0014】
また、通電加熱では混合材料全体が均一に加熱されるため、加熱中に混合材料を撹拌する必要が無くなるので、果実類の形状を保持することができる。さらに、電気伝導率を調整することができるので、通電加熱処理に要する時間の調整が容易になる結果、ジャムの生産時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について、苺ジャムを製造する場合を例にして説明する。
【0016】
まず、準備工程として、少なくとも水と、果実類である苺と、弱酸としてクエン酸と、弱酸の塩としてクエン酸三ナトリウムを含む混合材料を調製する。この工程では、水に所定量のクエン酸とクエン酸三ナトリウムを入れて撹拌し、完全に溶解させた後、所定の大きさにカットした苺を加えることが好ましい。このようにすれば、苺を加えた後に撹拌する必要が無いので、撹拌により苺の形状が崩れることを防止できる。なお、クエン酸とクエン酸三ナトリウムとともに、ブドウ糖、果糖などの単糖、ショ糖、麦芽糖などの2糖、キシリトールなどの糖アルコールや、ペクチン、香料等の副原料をあわせて溶解させてもよい。
【0017】
ここで、混合材料に添加する弱酸と、弱酸の塩の量は、使用する果実類により異なる。適正な弱酸と弱酸の塩の添加量は、予備テストで混合材料のpHと、電気伝導率、または通電加熱で所定の温度に達するまでに要する時間を予め測定して決めておくことができる。通常は、弱酸と、弱酸の塩とは、混合材料に対する含有量が0.1〜5.0質量%で、混合材料のpHが3.0〜4.0の範囲となるように添加することが好ましい。苺の場合の調合例は、カットした苺1625g、クエン酸12.5g、クエン酸三ナトリウム25g、ショ糖(砂糖)500g、ペクチン20g、水317.5gの、合計2500g混合材料である。
【0018】
この混合材料は、少なくとも10時間、好ましくは12時間以上冷蔵庫に保管し、苺(すなわち果実類)に糖分を浸透させておくことが好ましい。
【0019】
次に、混合材料が所定のpH範囲にあることを確認した後、通電加熱装置に移す。通電加熱装置は、混合材料との接触面がほぼ同形同大となる2枚の対向する電極に交流電圧を印加可能で、混合材料の温度を測定する温度センサを備える装置であればよく、例えばヤナギヤ社製の通電加熱式豆腐製造装置mini−Jを用いることができる。
【0020】
通電加熱工程は、装置に通電して、混合材料の温度を温度センサで監視しながら、少なくともペクチンが溶解する温度まで加熱することにより行う。加熱している間、撹拌操作は行わない。少なくともペクチンが溶解する温度まで加熱したら、しばらくその温度に保ってもよいし、直ちに通電を止めて通電加熱工程を終了してもよい。
ここで、ペクチンが溶解する温度は40℃以上であり、この発明では、少なくともこの温度まで加熱する。ペクチンの溶解と同時に殺菌も行うときは、少なくとも75℃以上、より好ましくは85℃以上まで加熱する。
【0021】
この実施形態では、混合材料の電気伝導率を弱酸と弱酸の塩で調整しているので、通電加熱に要する時間を容易に調整することができる。例えば75℃まで加熱するために要する時間は、装置入量や容器の大きさによって多少異なるが、通常は5分〜30分以内と、極めて短時間にすることができる。また、温度センサで混合材料の温度を監視し、少なくともペクチンが溶解する温度、あるいは、殺菌のための温度等、あらかじめ設定した温度になったら、直ちに通電加熱を自動又は手動で停止する方法にすれば、さらに生産時間が短縮される。
【0022】
また、加熱時間が短縮されることにより、ジャムのフレーバーや色、食感の変化が抑制される。前記の調合例の苺を含む混合材料をヤナギヤ社製の通電加熱式豆腐製造装置で通電加熱した場合、85℃まで加熱するのに要する時間は約15分である。
【0023】
通電加熱工程を終了したら、品質確認のため、pHと糖度を測定する。
次に、混合材料を通電加熱装置から別の容器に移して冷却する。30〜40℃で粘度が増加し始めたとき、一度撹拌して、苺の果肉を全体に均一に分散させる操作を行ってもよい。この温度では、撹拌しても果肉の形状は崩れにくい。さらに冷却し、温度が10℃以下になり完全にゲル化した状態になったら、ガラス瓶などの容器に充填し、最終製品とする。
【0024】
以上の説明から明らかなように、この発明によれば撹拌操作はほとんど不要なので果肉が崩れにくく、果実類の形状を保持することが可能なジャムの製造方法が提供される。従って、この発明はプレザーブスタイルのジャムの製造に好適である。
【0025】
また、この発明は上記の実施形態に限定されず、種々変更して実施することができる。
例えば、クエン酸の多い果実類(レモンなどの柑橘類、梅、パイナップルなど) の場合、その果実由来の有機酸とその塩の濃度を水の量で調整し、混合材料のpHと電気伝導度を所望の値にすることによって、通電加熱することができる。この場合は、有機酸とその塩を添加する必要は無い。あるいは、混合材料に有機酸とその塩のいずれか一方を添加して、混合材料のpHと電気伝導度を所望の値にしてもよい。
【0026】
また、カットした果肉の代わりに、すりつぶした果肉や、果肉の搾汁を用いてもよい。さらに、果実類に含まれる有機酸の種類に応じて、弱酸として酢酸、酒石酸、あるいはリンゴ酸を用い、これらのナトリウム塩やカリウム塩と組み合わせた緩衝液を用いることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水と、果実類とを含む混合材料を、弱酸と、前記弱酸の塩の存在下に通電加熱することを特徴とするジャムの製造方法。
【請求項2】
前記混合材料に、前記弱酸および前記弱酸の塩の、いずれか一方を添加して通電加熱する請求項1に記載のジャムの製造方法。
【請求項3】
前記混合材料に、前記弱酸と、前記弱酸の塩とを添加して通電加熱する請求項1に記載のジャムの製造方法。
【請求項4】
前記弱酸と、前記弱酸の塩とを、前記混合材料に対する含有量が0.1〜5.0質量%で、前記混合材料のpHが3.0〜4.0の範囲となるように添加する請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記弱酸が、クエン酸、酢酸、酒石酸、およびリンゴ酸の内の、少なくともいずれか1種である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
通電加熱を開始した後、前記混合材料の温度が、少なくともペクチンが溶解する温度になったら、通電加熱を停止する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混合材料がさらに、単糖、2糖、糖アルコール、およびペクチンの内の、少なくともいずれか1種を含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ジャムがプレザーブスタイルのジャムである請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の製造方法。