説明

ジルコニウム又はハフニウム、及びマンガン含有りん酸塩

【解決手段】 全原子に対し、Zr又はHfを1原子%以上15原子%以下、Mnを0.01原子%以上5原子%以下、アルカリ土類金属元素を3原子%以上35原子%以下、及びPを5原子%以上20原子%以下の割合でそれぞれ含有することを特徴とするりん酸塩。
【効果】 本発明のジルコニウム又はハフニウムとマンガンとを添加したりん酸塩は、キセノン原子の共鳴線発光の147nmなど、真空紫外領域の光で励起したとき、効率良く波長500〜600nmの緑から橙の領域の蛍光を示し、水銀を用いない陰極線ランプ、液晶表示用バックライトなどの蛍光体、さらに、半導体製造工程など真空紫外光を用いる工業的装置における真空紫外光の監視表示などへの展開が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特徴的な蛍光特性を有するジルコニウム又はハフニウム及びマンガン含有りん酸塩に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニウム(Zr)やハフニウム(Hf)は、蛍光体において、CaZrO3などの形で発光元素を添加する母結晶となったり(特許文献1:特開平8−283713号公報参照)、Euと共にアルミン酸塩系の母結晶に添加して蛍光の残光を長くする効果を付与したり(特許文献2:特開平8−73845号公報参照)、Ceと共に希土類元素のオキシ塩化物やオキシ臭化物に添加して、放射線励起の蛍光体の変換効率を向上させたり(特許文献3:特開平11−349939号公報参照)するといった機能を有することが知られている。
しかし、それ自体では能動的光特性を示さない単なる透明結晶にジルコニウム又はハフニウムのみが少量成分として添加された系については、蛍光などの特性はほとんど検討がなされていないのが現状である。
【0003】
【特許文献1】特開平8−283713号公報
【特許文献2】特開平8−73845号公報
【特許文献3】特開平11−349939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、真空紫外領域の光で励起したとき可視領域の蛍光を発するジルコニウム又はハフニウム及びマンガン含有りん酸塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、全原子に対し、Zr又はHfを1原子%以上15原子%以下、Mnを0.01原子%以上5原子%以下、アルカリ土類金属元素を3原子%以上35原子%以下、及びPを5原子%以上20原子%以下の割合でそれぞれ含有するりん酸塩が、真空紫外領域の波長で励起した際に、ピーク波長500〜600nm、特に510〜590nmの緑から橙の領域の発光を呈し、その輝度は大きく、蛍光体として有用であることを見出した。
【0006】
なお、近年プラズマディスプレイパネルや水銀を使用しない希ガス放電ランプへの応用をめざして、真空紫外領域で励起される蛍光体の研究開発が行われており、本発明者は、アルカリ土類金属又は希土類元素のりん酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩などを母結晶として、ジルコニウム又はハフニウムを添加することで、真空紫外励起下で近紫外域の発光を呈する蛍光体が得られることを見出している(特願2004−113704号参照)。さらに、本発明者は、上記のような母結晶に、ジルコニウム又はハフニウムに加えて所定量のマンガンを添加したものが、真空紫外領域の波長で励起した際に、可視領域の発光を呈し、母結晶の種類によって決まる発光ピーク波長は青色から赤色の幅広い領域に広がることも見出している(特願2004−113755号、同2004−260758号参照)が、さらなる応用のためには、発光強度の向上が望まれており、本発明はかかる点からなされたものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記のりん酸塩を提供する。
(1)全原子に対し、Zr又はHfを1原子%以上15原子%以下、Mnを0.01原子%以上5原子%以下、アルカリ土類金属元素を3原子%以上35原子%以下、及びPを5原子%以上20原子%以下の割合でそれぞれ含有することを特徴とするりん酸塩。
(2)アルカリ土類金属元素全体の50原子%以上がカルシウムであることを特徴とする(1)記載のりん酸塩。
(3)蛍光体材料用である(1)又は(2)記載のりん酸塩。
(4)130〜220nmの真空紫外光による励起によって、500〜600nmの緑から橙の領域の蛍光を発することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載のりん酸塩。
【発明の効果】
【0008】
本発明のジルコニウム又はハフニウムとマンガンとを添加したりん酸塩は、キセノン原子の共鳴線発光の147nmなど、真空紫外領域の光で励起したとき、効率良く波長500〜600nmの緑から橙の領域の蛍光を示し、水銀を用いない陰極線ランプ、液晶表示用バックライトなどの蛍光体、さらに、半導体製造工程など真空紫外光を用いる工業的装置における真空紫外光の監視表示などへの展開が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るりん酸塩は、全原子に対し、Zr又はHfを1原子%以上15原子%以下、Mnを0.01原子%以上5原子%以下、アルカリ土類金属元素を3原子%以上35原子%以下、及びPを5原子%以上20原子%以下の割合でそれぞれ含有するりん酸塩である。
【0010】
ここで、本発明のりん酸塩に用いられる母結晶としては、粉末X線回折によって同定される組成式が、Mg227、Ca3(PO42、CaZr(PO42、SrMgP27、BaZr(PO42、Ba7Zr(PO46などのアルカリ土類金属含有りん酸塩が好適に選択できる。
【0011】
本発明のZr又はHf及びMn含有りん酸塩は、上記母結晶にZr又はHf及びMnを添加・固溶して得られるものであるが、上記の母結晶は、構成元素の価数と結晶中での結合距離の点からみて、Zr又はHf、並びにMnの両方を均一にある程度の量を含有したり、固溶しやすいうえ、構造上、Zr又はHfのみ含有する場合に観測される紫外発光のエネルギーをMnに伝達して可視発光させる効率の点からも有利である。これらの母結晶を構成するアルカリ土類金属元素は、1種単独で又は2種以上の元素の組み合わせであってもよい。
【0012】
本発明においては、上記母結晶にZr又はHfを全原子の1原子%以上15原子%以下、好ましくは3原子%以上12原子%以下添加する。さらに、Mnを全原子の0.01原子%以上5原子%以下、好ましくは0.1原子%以上2原子%以下添加する。Zr又はHfの添加量が全原子の1原子%未満であると、発光の励起に寄与する真空紫外光の吸収が十分でなく、発光が弱くなり、またMnの添加量が全原子の0.01原子%未満であると蛍光発光を実質的に観測できなくなる。一方、Zr又はHfが15原子%、Mnが5原子%を超えて添加、置換を増やしても励起エネルギーが発光に寄与しないまま近くの原子を伝っていくうちに失われる度合いが多くなる。また、ZrとHfの中では、資源量の豊富さと価格の点からZrがより好ましい。
【0013】
本発明のりん酸塩に含まれるアルカリ土類金属及びりんの割合については、アルカリ土類金属は、全原子の3原子%以上35原子%以下であり、好ましくは4原子%以上25原子%以下である。アルカリ土類金属の割合が3原子%未満であると、発光に寄与しない化合物が生じやすく、35原子%を超えると、結果的に後述するりんの量が少なくなる。なお、結晶を構成する元素の結合距離の観点から、アルカリ土類金属全体の50原子%以上、特に60原子%以上がカルシウムであるものが好ましい。上限は特に制限されず、100原子%がカルシウムであってもよい。
【0014】
また、りんの含有量は全原子の5原子%以上20原子%以下であり、好ましくは10原子%以上20原子%以下である。りんの含有量が5原子%未満であると、りん酸イオンを形成しない、独立した酸素原子が多く含まれることとなり、そのような系では発光が弱くなる。また、りんを20原子%を超えて含有するということは、りんが形式上の5価でない低い原子価、つまり亜りん酸基や次亜りん酸基として存在しなければ実現せず、そのような場合、化学的安定性の点でも不利であるし、発光も実際に弱まる。
なお、上記各元素の含有割合は、試料を分解して溶液とした後、ICP発光分光法等による定量に基づき求めることができる。
【0015】
次に、本発明のりん酸塩の製造方法について述べる。
本発明の製造方法は特に制限されないが、原料として、アルカリ土類金属、ジルコニウム又はハフニウム、及びマンガンの各元素を含む酸化物、炭酸塩、蓚酸塩などの粉体と、りん酸、りん酸アンモニウム等のりんを含む原料を混合して、800℃以上1800℃以下、特に850℃以上1500℃以下で30分以上24時間以下、特に1時間以上8時間以下の条件下で加熱して反応させる方法が最も一般的で適用範囲が広く、本発明においてもこれを好適に採用することができる。この場合、金属元素については、目標組成に応じて計量、混合するのが好ましいが、りん酸基の原料は、当量以上2倍程度までの範囲で目標組成より多めに混合することも有効である。また、反応を促進するため、アルカリ金属ふっ化物、ほう酸などの融剤等を加えても良い。
【0016】
また、上記の原料の一部に代えて、上記各金属元素の1種以上を含むりん酸塩を用い、必要に応じて他の原料を混合して、上記温度範囲内及び時間で加熱し、反応させる方法も好ましく用いることができる。
【0017】
更に、本発明のりん酸塩を構成する金属元素の一部又は全部を含む水溶性化合物を溶液の形でりん酸基を含有する水溶性化合物と反応させて沈殿を生成し、これを乾燥又は焼成して脱水することにより目的とするりん酸塩を合成したり、中間体として用いたりするのも有効な方法である。
【0018】
粉体同士を混合する場合、混合方法については特に制限されないが、乳鉢、流動混合機、傾斜回転式混合機などを用いて行うことができる。
【0019】
加熱反応を行う雰囲気としては、大気、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気など母結晶の種類に応じて選択できるが、一般的には窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気が、Mnを2価の状態に保ち易いので好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0021】
[出発物質の合成]
(1)蓚酸マンガン
以下の合成に用いる蓚酸マンガンは、塩化マンガン水溶液と蓚酸アンモニウム水溶液の混合によって沈殿を生成し、濾別、乾燥したものを用いた。
(2)カルシウム・マンガン炭酸塩
カルシウム・マンガン炭酸塩は、目標組成に従って塩化カルシウムと塩化マンガンを溶解した水溶液に、CaとMnの合計モル数の2倍モル数の炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)水溶液を加えて沈殿を生成し、乾燥することにより得た。
(3)りん酸ジルコニウム
酸化塩化ジルコニウム(ZrOCl2・8H2O、試薬特級)193.4gを純水900cm3に溶解し、これに蓚酸(H224・2H2O、試薬特級)151.3gを純水1400cm3に溶解した液を加え、ここへさらに撹拌下259gの75%りん酸水溶液を加え、濃アンモニアを加えて液のpHを約2に調節した後、水浴で85℃に加熱し、撹拌しながら15時間反応させた。得られた沈殿を濾別、乾燥して、りん酸ジルコニウムを得た。
(4)りん酸水素カルシウム
りん酸水素カルシウム(CaHPO4)は、水酸化カルシウムを水中に分散させ、ここにやや過剰のりん酸を加え、撹拌して反応させて生成し、濾別、乾燥したものを用いた。
【0022】
[実施例1]
カルシウム・マンガン炭酸塩4.05g、りん酸ジルコニウム12.21gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、窒素ガスを毎分0.7dm3(標準状態)流した電気炉中で1200℃まで加熱し、3時間保ってから同じ窒素気流中で冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。得られた試料の組成は、
(Ca0.93Mn0.07)Zr(PO42
で表され、粉末X線回折のパターンはCaZr(PO42にほぼ一致した。組成式から計算するとZrは全原子の8.3原子%、Mnは0.58原子%、Caは7.8原子%、Pは16.7原子%である。
【0023】
[実施例2]
炭酸カルシウム(試薬99.99%CaCO3、和光純薬工業(株)製)3.89g、
蓚酸マンガン0.173g、酸化ジルコニウム(ZrO2)(TZ−0、東ソー(株)製)4.93g、及びりん酸水素二アンモニウム((NH42HPO4、試薬特級)11.09gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、窒素ガスを毎分0.7dm3(標準状態)流した電気炉中で1200℃まで加熱し、3時間保ってから同じ窒素気流中で冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。得られた試料の組成は、
(Ca0.973Mn0.027)Zr(PO42
で表され、粉末X線回折のパターンはCaZr(PO42にほぼ一致した。組成式から計算するとZrは全原子の8.3原子%、Mnは0.22原子%、Caは8.1原子%、Pは16.7原子%である。
【0024】
[比較例1]
炭酸カルシウム3.60g、酸化アルミニウム(Al23)(タイミクロンTM−DA、大明化学工業(株)製)4.08g、酸化珪素(SiO2)(1−FX、龍森製)4.81g、蓚酸マンガン0.256g、酸化ジルコニウム0.099g、及びふっ化ナトリウム(試薬特級NaF、和光純薬工業(株)製)0.067gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、窒素ガスを毎分0.7dm3(標準状態)流した電気炉中で1200℃まで加熱し、4時間保ってから同じ窒素気流中で冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。得られた試料の組成は、
(Ca0.9Mn0.04Zr0.02Na0.04)Al2Si28
で表され、組成式から計算するとZrは全原子の0.15原子%、Mnは0.31原子%、Caは6.9原子%であり、Pは含まれていない。
【0025】
[比較例2]
酸化イットリウム(Y23)(信越化学工業(株)製4N品)2.26g、酸化アルミニウム3.82g、ほう酸(試薬特級H3BO3、和光純薬工業(株)製)、蓚酸マンガン0.395g、及び酸化ジルコニウム0.308gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、窒素ガスを毎分0.7dm3(標準状態)流した電気炉中で1100℃まで加熱し、3時間保ってから同じ窒素気流中で冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。得られた試料の組成は、
(Y0.8Mn0.1Zr0.1)Al3(BO34
で表され、組成式から計算するとZrは全原子の0.50原子%、Mnは0.50原子%であり、Ca、Pは含まれていない。
【0026】
[比較例3]
りん酸水素カルシウム8.17g、炭酸カルシウム1.60g、ふっ化カルシウム(試薬特級CaF2、和光純薬工業(株)製)1.56g、蓚酸マンガン0.160g、酸化ジルコニウム0.123g、及びふっ化ナトリウム0.084gを用いた以外は比較例2と同様の操作を行い、粉状の試料を得た。得られた試料の組成は、
(Ca0.96Mn0.01Zr0.01Na0.025(PO43
で表され、組成式から計算するとZrは全原子の0.10原子%、Mnは0.10原子%、Caは22.9原子%、Pは14.3原子%である。
【0027】
[蛍光に関する測定]
実施例1,2及び比較例1〜3で合成された下記の各試料について、分光計器(株)製真空紫外域吸光・蛍光測定装置を用い、147nmの光で励起したときの蛍光スペクトルを測定した。
実施例1:(Ca0.93Mn0.07)Zr(PO42
実施例2:(Ca0.973Mn0.027)Zr(PO42
比較例1:(Ca0.9Mn0.04Zr0.02Na0.04)Al2Si28
比較例2:(Y0.8Mn0.1Zr0.1)Al3(BO34
比較例3:(Ca0.96Mn0.01Zr0.01Na0.025(PO43
【0028】
図1に、実施例1,2及び比較例1〜3で得られた試料について、147nmの光で励起したときの発光スペクトルチャートを示す。縦軸は、実際の発光強度(エネルギー)に比例するように記してある。図中の数字1,2が実施例1,2を、数字3〜5が比較例1〜3にそれぞれ対応している。りん酸塩でない比較例1,2、及びCaとPを含むもののZrの含有量が少ない比較例3に比べて、実施例の発光は明らかに強い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1,2及び比較例1〜3の試料を147nmの光で励起したときの蛍光発光スペクトルのチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全原子に対し、Zr又はHfを1原子%以上15原子%以下、Mnを0.01原子%以上5原子%以下、アルカリ土類金属元素を3原子%以上35原子%以下、及びPを5原子%以上20原子%以下の割合でそれぞれ含有することを特徴とするりん酸塩。
【請求項2】
アルカリ土類金属元素全体の50原子%以上がカルシウムであることを特徴とする請求項1記載のりん酸塩。
【請求項3】
蛍光体材料用である請求項1又は2記載のりん酸塩。
【請求項4】
130〜220nmの真空紫外光による励起によって、500〜600nmの緑から橙の領域の蛍光を発することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のりん酸塩。

【図1】
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