説明

ジンクフィンガータンパク質と原核生物の転写因子とを含む人工転写因子の製造、及びその利用

本発明は、ジンクフィンガータンパク質と原核生物の転写因子を利用して、大腸菌の遺伝子発現を人為的に調節することのできる人工転写因子、及びそれを利用した形質転換大腸菌に関する。具体的には、ジンクフィンガードメインとエフェクタードメインとして大腸菌の転写因子とを含む人工転写因子を製造し、その人工転写因子ライブラリーを大腸菌に導入すると、大腸菌内因性転写因子の作用と関係なく人為的に、遺伝子の発現を効果的に調節することができ、様々な形質を有する大腸菌を誘導することができ、これにより、産業的に有用な特性を有する大腸菌のみを選択的に選別して利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジンクフィンガータンパク質と原核生物の転写因子を利用して、大腸菌の遺伝子発現を人為的に調節することのできる人工転写因子、及びそれを利用した形質転換大腸菌に関する。
【背景技術】
【0002】
ポストゲノム時代の到来とともに、多くの生命体の遺伝子情報に基づいて研究と分析が活発に行われている。そのうち、遺伝子の発現を人為的に調節できるシステムの開発と必要性は、焦眉の関心事となっており、盛んに研究されている分野の1つである。生物体あるいは細胞内で特定の遺伝子発現の増減を人為的に調節することができれば、これによる生物学的結果を分析することにより、特定の遺伝子の機能を解析したり、その遺伝子の生物学的役割を明らかにすることができる。それだけでなく、標的とする遺伝子の発現を適切に調節することができれば、これは遺伝子治療の手段として活用することができるであろう。また、自然界における生命体の特徴はその生命体が有する特定の遺伝子の発現有無とその程度によって決定されるので、遺伝子の発現を人為的に調節して所望の表現型を示す生物体を誘導することにより、所望の産業用微生物の開発にも応用することができる。
【0003】
近年、ジンクフィンガータンパク質を利用して遺伝子の発現を調節することができる可能性が出てきており、これに関する肯定的な研究結果が発表された。ジンクフィンガーは、真核生物で最もよく発見されるDNA結合タンパク質のDNA結合モチーフとして知られている。ジンクフィンガーは、配列特異的に特定の標的配列を認識することのできる活性を示すドメインであって、それ自体で転写リプレッサーとして作用する。それだけでなく、このジンクフィンガータンパク質をDNA結合ドメインとして利用し、転写活性化(又は、抑制)ドメインと連結することにより、新しい転写因子を作成することができる。
【0004】
近年、配列特異的ジンクフィンガーDNA結合ドメインを様々な種類の適切なエフェクタードメイン(活性化ドメイン又は抑制ドメイン)と融合して、転写因子の形で細胞で発現すると、標的遺伝子の発現を増加又は減少させることができるという研究が発表された(Liu, Q., Segal, D. J., Ghiara, J. B., and Barb as, C. F., III, 1997 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94, 5525-5530; Beerli, R. R., Segal, D. J., Dreier, B., and Barbas C. F., III, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95, 14628-14633; Beerli R.R., Dreier B. Barbas C.F.3rd, Positive and negative regulation of endogeneous genes by designed transcription factor, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000 Feb. 15:97(4), 1495-500)。
【0005】
ところが、既存の原核細胞の研究は、エフェクタードメインを利用することなく、ジンクフィンガードメインのみを転写因子として利用することによって、遺伝子発現を抑制する効果のみを期待することができ、その効果も微弱であった。様々な表現型をより効果的に得るためには、遺伝子発現の抑制だけでなく、活性化による様々な遺伝子発現の調節が必要である。
【0006】
そこで、本発明者らは、ジンクフィンガードメインライブラリーに、エフェクタードメインとして、原核生物であって産業的に有用な大腸菌の転写因子を融合することにより、大腸菌の遺伝子発現の抑制だけでなく活性化を行うことのできる新しい人工転写因子を開発し、それを大腸菌に導入した場合、大腸菌の遺伝子発現が人為的に調節されることによって、様々な表現型を有する形質転換大腸菌を作成できることを実験的に確認し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ジンクフィンガードメインとエフェクタードメインとして原核生物の転写因子とを融合することにより、遺伝子発現を人為的に活性化又は抑制することのできる人工転写因子の製造、並びにそれを利用した、様々な形質特異性を示す形質転換された大腸菌を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、1つ〜3つのジンクフィンガードメインとエフェクタードメインとして原核生物の転写因子とを含み、遺伝子発現を人為的に活性化又は抑制することのできる人工転写因子を提供する。前記エフェクタードメインとしての原核生物の転写因子は、大腸菌のCRP(カタボライト制御タンパク質(Catabolite Regulatory Protein)(又はサイクリックAMP受容体タンパク質)、あるいはその誘導体、例えば野生型CRP(CRP W、残基1−209)、CRP Del 137(残基137−190)、もしくはCRP Del 180(残基1−180)でもよい。
【0009】
また、前記ジンクフィンガードメインは、ヒトゲノムから同定されたもので、配列番号13〜64の配列によりコードされているジンクフィンガードメインからなる群から選択されるものである。
【0010】
また、前記人工転写因子は、遺伝子発現を活性化するためには、転写開始点から−80〜−30、好ましくは−67〜−50領域に挿入され、遺伝子発現を抑制するためには、転写開始点から−30より下流、好ましくは+24〜+41領域に結合される。
【0011】
さらに、本発明は、前記人工転写因子が導入されて様々な表現型を発現する形質転換された大腸菌を提供し、好ましくは、熱抵抗性を有する形質転換大腸菌、向上した成長速度を有する形質転換大腸菌、低温抵抗性を有する形質転換大腸菌、及び浸透圧抵抗性を有する形質転換大腸菌を提供する。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
DNA結合ドメイン−ジンクフィンガードメイン
ジンクフィンガードメインは、真核生物で最もよく見られるDNA結合タンパク質のDNA結合モチーフであって、酵母から高等植物及び人間に至る様々な種で見られる。ジンクフィンガードメインは、それ自体で遺伝子発現を抑制する転写リプレッサーとして作用することが知られている。従って、このようなジンクフィンガードメインにエフェクタードメイン(活性化又は抑制)を融合した場合、その融合タンパク質は、新しい転写因子であって、ジンクフィンガーが認識する標的遺伝子の発現を活性化又は抑制することができる。
【0014】
本発明のジンクフィンガードメインは、Cys2−His2型のジンクフィンガードメインであって、通常、3つ以上並んでジンクフィンガータンパク質を構成する。1つのジンクフィンガードメインは3つあるいは4つの塩基からなる標的配列を認識することができるため、いくつかのジンクフィンガードメインの適切な再配列及び連結により、9−10塩基の標的配列を選択的に認識することのできる配列特異的ジンクフィンガーを作成することができる。本発明においては、ヒトゲノムのジンクフィンガードメインを1つ〜3つ並べて、本発明で開発された新しい転写因子のDNA結合ドメインとして利用する。本発明のジンクフィンガードメインは、ヒトゲノムから同定されたジンクフィンガードメインである。本発明の新しい転写因子のエフェクタードメインの機能を確認するために、レポータープラスミド上の5’−GCG GCG GGG−3’配列を標的として認識することのできる試験ジンクフィンガータンパク質を作成して利用した。ジンクフィンガーとして5’−GCG−3’を認識するZFP1と5’−GGG−3’を認識するZFP2を利用して、N−末端からエフェクタードメイン−ZFP2−ZFP1−ZFP1、C−末端からなる試験転写因子を作成して利用した。
【0015】
エフェクタードメイン
一般に、原核生物の転写因子は、転写の活性化及び抑制の2つの機能を同時に有する。転写の活性化及び抑制の機能は、転写因子が結合するゲノム配列上の位置によって異なる。一般に、転写開始点から−80〜−30に転写因子が結合した場合は遺伝子発現を活性化し、−30より下流に結合した場合は遺伝子発現を抑制することが知られている。
【0016】
本発明は、原核生物である大腸菌で作用可能な転写因子を開発するためのもので、真核生物のように活性化と抑制のためのそれぞれの異なるドメインを必要とするのではなく、活性のよい1つのエフェクタードメインを利用することにより、転写の活性化及び抑制の2つの機能を同時に得ることができる。
【0017】
また、野生型転写因子だけでなく、実際に遺伝子発現を抑制又は活性化する転写因子内部の転写調節活性化ドメインのみをエフェクタードメインとして利用することができる。
【0018】
本発明においては、原核細胞生物の転写因子をエフェクタードメインとして利用することができる。具体的には、大腸菌の普遍的な転写因子であるCRP(カタボライト制御タンパク質)とその誘導体をエフェクタードメインとして利用することができる。CRPは、大腸菌ゲノムの100個以上のプロモータに作用し、その遺伝子の発現を調節する転写因子としてよく知られている。CRPは、209個のアミノ酸からなり、2つのドメインからなる。すなわち、CRPは、CRPの二量化物(dimerization)とcAMPとの相互作用に関与するN−末端ドメインと、DNAとの相互作用に関与するC−末端ドメインとからなる。さらに、CRPは、転写を活性化する3種類の活性化ドメイン、例えばAR1(残基156−164)、AR2(残基19、21、96、及び101)、並びにAR3(残基52、53、54、55、58)を含む。このうち、AR1が転写活性において最も好ましく利用される活性化ドメインである(Busby, S., Ebright, R. H., J Mol Biol., 293, 1999, 199-213; Rhodius, V. A., West, D. M., Webster, C. L., Busby, S. J., Savery N., J.Nucleic Acids Res., 25, 326-332, 1997; Rhodius, V. A., Busby, S. J., J. Mol. Biol., 299, 295-310, 2000; Wagner, R., Transcription regulation in prokaryotes., 199-207, 211-217. Oxford University Press. Oxford., 2000)。
【0019】
本発明におけるCRPは、エフェクタードメインとしての機能のみ必要とされ、転写因子のDNA結合ドメインとしてはジンクフィンガードメインが利用されるため、CRPのDNA結合ドメインは不要である。従って、DNA結合ドメインが除去されているCRPを含むCRP誘導体、又はAR1部分を含むCRP誘導体を、エフェクタードメインとして利用することができる。好ましくは、次の3種類をエフェクタードメインとして利用することができる:野生型CRPとしてCRP W(残基1−209)、CRP誘導体としてCRP Del 137(残基137−190)及びCRP Del 180(残基1−180)。
【0020】
ペプチドリンカー
様々なリンカーを使用して前記DNA結合ドメイン同士を連結し、又は前記DNA結合ドメインとエフェクタードメインとを連結することもできる。本発明は、自然界に存在するジンクフィンガータンパク質でジンクフィンガードメインを連結するリンカーを使用することができる。前記自然界に存在する典型的なリンカーとしては、Thr−Gly−(Glu−Gln)−(Lys−Arg)−Pro−(Tyr−Phe)がある。本発明においては、ジンクフィンガードメイン同士、並びにジンクフィンガードメインとエフェクタードメインとを連結するために、Thr−Gly−Glu−Lys−Pro−Tyrを利用することができる。
【0021】
レポータープラスミド
本発明においては、人工転写因子の遺伝子発現調節能力を確認するために、2つのレポータープラスミド、すなわち遺伝子発現の活性化を確認するためのレポータープラスミドpEGFP−Aと、遺伝子発現の抑制を確認するためのレポータープラスミドpEGFP−Rとが作成される。各レポータープラスミドは、大腸菌内因性(endogenous)転写因子の活性により、本発明の転写因子の能力が影響を受けるか否かを確認するために、大腸菌内因性転写因子であるlacIにより調節されるtacプロモータを利用して改変した。tacプロモータの改変は、各レポータープラスミドのtacプロモータの隣接領域に、本発明の試験転写因子が標的として結合できる配列5’−GCG GCG GGG−3’を挿入することにより完成した。すなわち、前述のように、原核生物の転写因子は、転写開始点からの結合位置によって能力(活性化又は抑制)が異なるので、転写開始点から適切な位置に試験転写因子の結合配列を挿入することにより、レポータープラスミドのプロモータを完成した。
【0022】
本発明の具体例において、試験転写因子の遺伝子発現活性化能力を確認するためのレポータープラスミドのプロモータは、転写開始点から−67〜−50領域に5’−GCG GCG GGG−3’を2コピー挿入して完成した。試験転写因子の遺伝子発現抑制能力を確認するためのレポータープラスミドのプロモータは、転写開始点から+24〜+41領域に5’−GCG GCG GGG−3’を2コピー挿入して完成したが、これは図3に示す通りである。
【0023】
レポーター遺伝子は、遺伝子発現の確認及び定量が容易な向上した緑色蛍光特性を有するGFP誘導体(Clontech Laboratories, Inc.、CA)を利用した。GFP誘導体の発現は、励起後に、共焦点顕微鏡又は蛍光分光光度計を利用して蛍光放出を測定することにより検出することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、ジンクフィンガードメイン及び原核生物由来のカタボライト制御タンパク質をエフェクタードメインとして利用した人工転写因子に関するものである。本発明のジンクフィンガードメインは、真核生物に由来するものであるが、原核生物においても活性を有することができる。更に、本発明の人工転写因子は、様々な原核生物のカタボライト制御タンパク質をエフェクタードメインとして利用することにより、様々な原核生物の活性を調節することができる。具体的には、本発明の転写因子が導入された場合、大腸菌内因性転写因子の作用とは関係なく遺伝子の発現を活性化又は抑制することにより、使用者所望の表現型を示す様々な形質転換大腸菌を誘導することができ、これにより、今まで明らかになっていない遺伝子の機能を分析したり、所望の有用な特性、例えば熱抵抗性、低温抵抗性、浸透圧抵抗性、及び著しく向上した成長速度を有する形質転換大腸菌を誘導することができる。従って、本発明は様々な産業で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の人工転写因子を利用して大腸菌で様々な形質転換を誘導する発明の概略図であり、円形はジンクフィンガードメインを示し、四角形はエフェクタードメインを示す。
【図2】図2は、大腸菌のカタボライト制御タンパク質(又はサイクリックAMP受容体タンパク質(CRP))の機能を確認するために作成した試験転写因子に使用したジンクフィンガータンパク質とその配列を図式的に示すものでり、各ジンクフィンガータンパク質が認識する配列を各ジンクフィンガーの下に示す。
【図3】図3は、本発明の人工転写因子のエフェクタードメインとしてCRPの機能を確認するために図2の試験転写因子のジンクフィンガータンパク質が認識する特定の配列をtacプロモータの上下流に挿入して作成したレポータープラスミドのフラグメントを示すものであり、人工転写因子の遺伝子発現活性化能力を確認するためのレポータープラスミドpEGFP−Aを示す。
【図4】図4は、本発明の人工転写因子のエフェクタードメインとしてCRPの機能を確認するために図2の試験転写因子のジンクフィンガータンパク質が認識する特定の配列をtacプロモータの上下流に挿入して作成したレポータープラスミドのフラグメントを示すものであり、遺伝子発現抑制能力を確認するためのレポータープラスミドpEGFP−Rを示す。
【図5】図5は、試験転写因子がpEGFP−Aの向上した緑色蛍光特性を有するGFP誘導体(EGFP)レポーター遺伝子の転写を活性化することを共焦点顕微鏡で確認した写真である。
【図6】図6は、図5の試験転写因子により活性化されたレポーター遺伝子発現の活性化程度を数値化したグラフである。
【図7】図7は、図5の試験転写因子により抑制されたレポーター遺伝子発現の活性化程度を数値化したグラフである。
【図8】図8は、pEGFP−RでIPTGにより発現が活性化されているレポーター遺伝子が試験転写因子により発現が抑制されることを数値化したグラフであり、 図9は、CRP Del 180をエフェクタードメインとして利用して作成した人工転写因子により選別された熱抵抗性を有する大腸菌の写真である。
【図9】図10は、熱抵抗性が最もよい大腸菌であるT2の50℃での成長曲線を示す。
【図10】図11は、CRP Del 180をエフェクタードメインとして利用して作成した人工転写因子により成長が向上した大腸菌の37℃、LB培地での成長速度を示す。
【図11】図12は、CRP Del 180をエフェクタードメインとして利用して作成した人工転写因子により成長が向上した大腸菌の37℃、M9培地での成長速度を示す。
【図12】図13は、CRP Del 180をエフェクタードメインとして利用して作成した人工転写因子により選別された低温抵抗性を有する大腸菌の写真である。
【図13】図14は、低温抵抗性が最もよい大腸菌であるCT1と対照群の成長曲線を示す。
【図14】図15は、CRP Del 180をエフェクタードメインとして利用して作成した人工転写因子により選別された浸透圧抵抗性を有する大腸菌の写真である。
【図15】図16は、pACYC184プラスミドの開裂地図を示す。
【図16】図17は、pUC19プラスミドの開裂地図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、下記の実施例及び実験例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、下記の実施例及び実験例は本発明の例示にすぎず、本発明の権利範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
試験転写因子の製造
本発明の転写因子の機能を確認するために、レポータープラスミド上の5’−GCG GCG GGG−3’配列を標的として認識することのできる試験ジンクフィンガードメインは、次のジンクフィンガードメインを利用して作成した。ジンクフィンガーとしては、5’−GCG−3’を認識するZFP1及び5’−GGG−3’を認識するZFP2を利用した。エフェクタードメインとしては、CRP W(配列番号1)、並びにCRP誘導体であるCRP Del 137(残基137−190、配列番号3)及びCRP Del 180(残基1−180、配列番号5)を利用した。融合した各エフェクタードメインによって3種類の試験転写因子を作成して、エフェクタードメインとしてCRP Wを利用した場合はZFP−CRP Wと命名し、エフェクタードメインとしてCRP Del 180を利用した場合はZFP−CRP Del 180と命名し、エフェクタードメインとしてCRP Del 137を利用した場合はZFP−CRP Del 137と命名した。前記転写因子は、N−末端からエフェクタードメイン−ZFP2−ZFP1−ZFP1、C−末端からなる(図2参照)。
【0028】
前記エフェクタードメインは、大腸菌から単離してPCRで増幅した後、NcoIとEcoRIを利用して発現プラスミドにクローニングした。その後、合成されたそれぞれのジンクフィンガードメインを、順にXmaIとEcoRIを利用してAgeIとEcoRIで切断されたエフェクタードメインがクローニングされた発現プラスミドに連結した。
【0029】
また、前記試験転写因子のジンクフィンガーであるZFP1は、ヒトゲノム配列から選別され、配列番号9のヒト核酸配列によりコードされている。さらに、前記試験転写因子のジンクフィンガーであるZFP2も、ヒトゲノム配列から選別され、配列番号11のヒト核酸配列によりコードされている。
【実施例2】
【0030】
レポータープラスミドの製造
遺伝子発現の活性化及び抑制を確認するための各レポータープラスミドとしては、pACYC184(New England Biolabs, Inc.、USA、図16)を改変して使用した。レポータープラスミドは、レポーター遺伝子としての向上した緑色蛍光特性を有するGFP誘導体(EGFP)遺伝子、tacプロモータ遺伝子、及び試験転写調節因子の標的認識配列をPCRで増幅し、pACYC184に挿入することにより作成した。遺伝子発現活性化を確認するためのレポータープラスミドであるpEGFP−Aは、転写開始点から−67〜−50領域に試験転写因子の標的配列である5’−GCG GCG GGG−3’を2コピー挿入することにより作成した(図3参照)。また、試験転写因子の遺伝子発現抑制能力を確認するためのレポータープラスミドとしてのpEGFP−Rのプロモータは、転写開始点から+24〜+41領域に試験転写因子の標的配列である5’−GCG GCG GGG−3’を2コピー挿入することにより作成した(図4参照)。pEGFP−Aレポータープラスミドの核酸配列は配列番号7であり、pEGFP−Rレポータープラスミドの核酸配列は配列番号8である。
【0031】
実験例1:エフェクタードメイン機能の確認
本発明の転写因子の機能が、大腸菌(E.coli MG1655 K−12 Blattner laboratory)内因性転写因子であるlacIリプレッサーの影響を受けず、遺伝子の発現を人為的に活性化又は抑制できるか否かを確認するために、下記のような実験を行った。
【0032】
前記試験転写因子、すなわち前記実施例1で製造したZFP−CRP W、ZFP−CRP Del 180、及びZFP−CRP Del 137を、遺伝子発現の活性化を確認する場合には前記実施例2で製造されたpEGFP−Aレポータープラスミド内に、そして遺伝子発現の抑制を確認する場合には前記実施例2で製造されたpEGFP−Rレポータープラスミド内に導入し、1mMのIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加した場合と添加しない場合とに分けて、本発明の転写因子によるレポーター遺伝子の発現を活性化又は抑制するか否かを実験した。前記レポータープラスミド内では、緑色蛍光特性を有するGFP誘導体遺伝子により、その蛍光程度からレポータープラスミドの発現程度を観察することができ、この観察は共焦点顕微鏡により行われた。
【0033】
更に、本発明の試験転写因子によるレポーター遺伝子発現の活性化率又は抑制率を求めた。具体的には、活性率は、前記実施例1で製造された試験転写因子をコードしていない対照群のプラスミドが導入された普通の細胞でのレポーター遺伝子の発現量を求め、この値で試験転写因子をコードしているプラスミドが導入された細胞でのレポーター遺伝子の発現量を割って数値化した。一方、抑制率は、前記実施例1の試験転写因子をコードしていない対照群のプラスミドが導入された普通の細胞でのレポーター遺伝子の発現量を求め、これを試験転写因子をコードしているプラスミドが導入された細胞でのレポーター遺伝子の発現量で割って数値化した。
【0034】
前記実験の結果、本発明の試験転写因子のレポーター遺伝子の転写活性は、図5に示す通りであった。図5の「ベクターなし」とは、レポータープラスミドと試験転写因子をコードしているプラスミドの両方とも導入されていない野生型大腸菌を意味し、「空ベクター」とは、試験転写因子をコードしているプラスミドは導入されず、レポータープラスミドのみ導入された大腸菌を意味する。ZFP−CRP Wは、エフェクタードメインとして野生型CRPが融合した試験転写因子をコードしているプラスミドとレポータープラスミドが導入された大腸菌を示し、ZFP−CRP Del 180は、エフェクタードメインとしてCRP誘導体のうちCRP残基1−180が融合した試験転写因子をコードしているプラスミドとレポータープラスミドが導入された大腸菌を示し、ZFP−CRP Del 137は、エフェクタードメインとしてCRP誘導体のうちCRP残基137−190が融合した試験転写因子をコードしているプラスミドとレポータープラスミドが導入された大腸菌を示す。図5に示すように、野生型CRP Wよりも、CRP誘導体であるCRP Del 180及びCRP Del 137をエフェクタードメインとして有する転写因子が、レポーター遺伝子の発現の活性化にさらに優れていることを確認することができた。また、IPTGにより既に発現が活性化されているレポーター遺伝子の発現が、試験転写因子によりさらに強く活性化され、ZFP−CRP Del 180とZFP−CRP Del 137はそれぞれ2倍、3倍に、EGFPの発現を活性化することを確認することができた(図5のA〜E及び図6参照)。
【0035】
また、IPTGを添加しないことによって発現が抑制されているレポーター遺伝子の発現は、本発明の試験転写因子により、pEGFP−Aのレポーター遺伝子の発現が活性化され、ZFP−CRP Wは2倍、ZFP−CRP Del 180とZFP−CRP Del 137はそれぞれ3倍、4倍に、EGFPの発現が活性化されることを確認することができた(図5のF〜J及び図7参照)。
【0036】
一方、レポーター遺伝子を抑制するか否かは、図8に示すように、pEGFP−RでIPTGにより発現が活性化されているレポーター遺伝子が試験転写因子により発現が抑制されることを確認することができ、ZFP−CRP Del 180とZFP−CRP Del 137はそれぞれ約1.5倍、2倍に、レポーター遺伝子の発現を抑制することを確認することができた。
【0037】
従って、前記実験の結果をまとめると、本発明の試験転写因子は、大腸菌内因性転写リプレッサーであるlacIタンパク質と関係なく、レポーター遺伝子の発現を効果的に調節することができる。
【0038】
実験例2:転写因子ライブラリーの作成
ジェンバンク(GenBank)データベース検索結果から選別されたヒトゲノムの26種類のジンクフィンガードメインを合成し、pUC19(New England Biolabs. Inc.、USA、図17参照)にクローニングした。本発明者らは、転写因子発現プラスミドにエフェクタードメインとしてCRP誘導体であるCRP Del 137とCRP Del 180をそれぞれクローニングして融合したエフェクタードメインによって、2種類の異なる転写因子ライブラリーを作成した。転写因子ライブラリーの作成は前記試験転写因子の作成と同様の方法で行われた。すなわち、エフェクタードメインがクローニングされた発現プラスミドをAgeIとEcoRIで切断する。異なるジンクフィンガードメインがクローニングされたpUC19を同量で混ぜた後、XmaIとEcoRIで切断した。前記AgeIとEcoRIで切断された、エフェクタードメインがクローニングされた発現プラスミドと、前記XmaIとEcoRIで切断されたジンクフィンガードメインとを連結して、エフェクタードメインと1つのジンクフィンガードメインとからなるライブラリーを作成した。その後、上記と同様の方法で、エフェクタードメインと1つのジンクフィンガードメインがクローニングされた発現プラスミドをAgeIとEcoRIで切断し、XmaIとEcoRIで切断されたジンクフィンガードメインと連結して、第2のジンクフィンガードメインを連結した。最後に、上記と同様の方法で、3つのジンクフィンガードメインとエフェクタードメインとからなる転写因子ライブラリーを作成した。
【0039】
ジェンバンクデータベース検索結果から選別されたヒトゲノム配列から選別された26種類のジンクフィンガードメインZ1〜Z26を以下に示す:
Z1は配列番号13の核酸配列によりコードされている;
Z2は配列番号15の核酸配列によりコードされている;
Z3は配列番号17の核酸配列によりコードされている;
Z4は配列番号19の核酸配列によりコードされている;
Z5は配列番号21の核酸配列によりコードされている;
Z6は配列番号23の核酸配列によりコードされている;
Z7は配列番号25の核酸配列によりコードされている;
Z8は配列番号27の核酸配列によりコードされている;
Z9は配列番号29の核酸配列によりコードされている;
Z10は配列番号31の核酸配列によりコードされている;
Z11は配列番号33の核酸配列によりコードされている;
Z12は配列番号35の核酸配列によりコードされている;
Z13は配列番号37の核酸配列によりコードされている;
Z14は配列番号39の核酸配列によりコードされている;
Z15は配列番号41の核酸配列によりコードされている;
Z16は配列番号43の核酸配列によりコードされている;
Z17は配列番号45の核酸配列によりコードされている;
Z18は配列番号47の核酸配列によりコードされている;
Z19は配列番号49の核酸配列によりコードされている;
Z20は配列番号51の核酸配列によりコードされている;
Z21は配列番号53の核酸配列によりコードされている;
Z22は配列番号55の核酸配列によりコードされている;
Z23は配列番号57の核酸配列によりコードされている;
Z24は配列番号59の核酸配列によりコードされている;
Z25は配列番号61の核酸配列によりコードされている;
Z26は配列番号63の核酸配列によりコードされている。
【0040】
実験例3:新しい転写因子を利用した様々な形質転換大腸菌の誘導
前記実験例2で作成された転写因子ライブラリーを大腸菌に導入し、特定の条件下で所望の表現型を示す大腸菌を誘導して選別した。所望の表現型を示す大腸菌から転写因子を単離して確認した後、これを大腸菌に再導入して同一の表現型が誘導されるか否かを確認することにより、転写因子による特定の表現型の誘導を確認した。
【0041】
3−1.熱抵抗性を有する形質転換大腸菌の誘導
高い温度での異種タンパク質(heterologous protein)の大量発現は、その溶解度を増加させる。従って、大腸菌において熱衝撃応答(heat shock response)に関する理解は、産業用微生物の開発において重要な課題である。1つの態様においては、転写因子ライブラリーを大腸菌に導入し、エフェクタードメインとしてCRP Del 180を利用して作成した人工転写因子が導入された大腸菌を、55℃で2時間熱衝撃を加え、LBプレートにプレーティングし、37℃で培養した。培養後に成長したコロニーから熱抵抗性を有する大腸菌を選別した。
【0042】
選別された大腸菌から転写因子を単離し、DNA配列分析により転写因子を確認し、これを再導入し、熱抵抗性が誘導されるか否かを確認することにより、転写因子の活性を確認した。大腸菌の成長曲線は、100mlのLB培地、50℃で大腸菌の成長パターンを観察し、約1時間30分間隔で大腸菌サンプルを取り、分光光度計の600nmで光学密度(Optical Density; OD)を測定して求めた。
【0043】
前記実験の結果は図9に示す通りである。図9の左側の写真は熱衝撃を加えていない大腸菌の対照群の写真であり、右側の写真は55℃で2時間熱衝撃を加えた後の大腸菌の生存率を示す写真であり、Cは人工転写因子がコードされていない対照群のプラスミドが導入された普通の大腸菌を示し、T1、T2、T3は異なる人工転写因子により熱抵抗性を有する大腸菌を示す。図9に示すように、熱衝撃が加えられていない条件下では、全ての大腸菌がコロニーを形成したが、55℃の熱衝撃が加えられた条件下では、野生型大腸菌の場合は、成長が阻害されるのに対し、本発明のCRP Del 180をエフェクタードメインとして利用して作成された転写因子が導入された大腸菌の場合は、熱衝撃がある条件でもよく成長することを確認することができた。図9の上段の三角形は5倍に希釈した細胞濃度を示す。
【0044】
その中でT2の転写因子が、熱衝撃がある条件で最もよく成長させることを確認し、その50℃での成長曲線を図10に示す。前記熱抵抗性が最もよいT2の転写因子は次の通りである:
T1=CRP 1〜180a.a+Z23+Z11+Z19
T2=CRP 1〜180a.a+Z13+Z2+Z23
T3=CRP 1〜180a.a+Z9+Z4+Z11
3−2.向上した成長速度を有する形質転換大腸菌の誘導
宿主細胞の速い成長速度は生産性を向上させるので産業的に非常に有用である。従って、本発明においては、エフェクタードメインとしてCRP Del 180を利用し、前記実験例2で作成された転写因子ライブラリーを導入して、最適な成長温度である37℃で向上した成長速度を有する大腸菌を誘導、選別した。
【0045】
転写因子ライブラリーを大腸菌に導入し、100mlのLB培地及びM9培地で37℃で継代培養(7日間24時間間隔で新しい100mlの培地に1mlずつトランスファー)し、ストリーキング又は希釈し、プレーティングすることにより、コロニーを得た。100mlのLB培地及びM9培地、37℃で各コロニーの成長パターンを確認して、最終的に向上した成長速度を有する大腸菌を選別した。選別された大腸菌から転写因子を単離し、DNA配列分析により転写因子を確認し、これを再導入し、成長速度が向上するか否かを確認することにより、転写因子による成長速度の向上を確認した。
【0046】
前記実験の結果は図11及び図12に示す通りであり、図11は37℃、LB培地で成長速度を確認した結果を示し、図12は37℃、M9培地で成長速度を確認した結果を示し、Cは人工転写因子がコードされていない対照群のプラスミドが導入された普通の大腸菌を示し、RG#32は人工転写因子により向上した成長速度を有する大腸菌を示す。図11に示すように、人工転写因子がコードされていない大腸菌の場合は、培養後15時間以降は成長速度が増加しなくなり、本発明の転写因子が導入された大腸菌の場合は、培養後50時間まで持続的に成長した。これにより、大腸菌の生産性が著しく向上することを確認することができた。
【0047】
RG#32=CRP1−180a.a+Z26+Z7
前述のように、本発明の人工転写因子のDNA結合ドメインであるジンクフィンガータンパク質は、真核細胞だけでなく、原核細胞においても活性を示すことを確認することができ、また本発明の人工転写因子のエフェクタードメインとして利用したCRPの場合、シゲラのCRPと同じ配列を有し、様々な原核細胞にそのようなファミリータンパク質が存在するので、大腸菌だけでなく、様々な原核細胞で遺伝子の発現を調節することにより、様々な表現型を誘導できると期待される。
【0048】
3−3.低温抵抗性(低温衝撃(cold shock)に対する抵抗性)を有する形質転換大腸菌の誘導
低い温度での標的タンパク質の過剰発現はタンパク質の溶解度及び安定性を向上させるので、低温抵抗性を有してよく成長する大腸菌は産業用微生物として大きな価値がある。従って、低温衝撃に対する抵抗性を有する形質転換大腸菌を誘導するために、下記のような実験を行った。本実験においては、エフェクタードメインとしてCRP Del 180を利用し、前記実験例2で作成された転写因子ライブラリーを導入して、低温でも成長が可能な大腸菌を誘導、選別した。
【0049】
前記実験例2で得られた人工転写因子ライブラリーを大腸菌XL1−Blue(Sambrook and Rusell、2001)に導入し、LBプレートにプレーティングし、15℃で培養し、成長したコロニーから低温抵抗性を有する大腸菌を選別した。選別された大腸菌から転写因子を単離し、DNA配列分析により転写因子を確認し、これを再導入し、低温抵抗性が誘導されるか否かを確認することにより、転写因子の活性を確認した。
【0050】
大腸菌の成長曲線は、100mlのLB培地、15℃で大腸菌の成長パターンを観察し、約5時間間隔で大腸菌サンプルを取り、分光光度計の600nmで光学密度(OD)を測定して求めた。対照群として、100mlのLB培地、最適な成長温度である37℃で大腸菌の成長パターンを観察した。
【0051】
前記実験の結果は図13に示す通りであり、図13において、Cは人工転写因子がコードされていない対照群のプラスミドが導入された普通の大腸菌を示し、CT1及びCT2は異なる人工転写因子により低温抵抗性を有する大腸菌を示し、図13の上段の三角形は5倍に希釈した細胞濃度を示す。対照群の場合は、全ての大腸菌がコロニーを形成したが、15℃の低温条件下では、野生型大腸菌の場合は、成長が阻害されたのに対し、本発明のCRP Del 180をエフェクタードメインとして利用して作成された転写因子が導入された大腸菌の場合は、低温でもよく成長することを確認することができた。
【0052】
その中でCT1及びCT2の転写因子が導入された大腸菌が、低温で最もよく成長することを確認し、CT1の15℃での成長曲線を図14に示す。前記低温抵抗性を有するCT1及びCT2の転写因子は次の通りである:
CT1=CRP 1〜180a.a+Z19+Z6+Z22
CT2=CRP 1〜180a.a+Z15+Z4+Z2
3−4.浸透圧抵抗性(高塩濃度に対する抵抗性)を有する形質転換大腸菌の誘導
発酵時に過度な熱の発生を伴う浸透圧の増加は、微生物における標的タンパク質の発現時にその生産性を阻害する。従って、浸透圧抵抗性を有してよく成長する大腸菌は産業用微生物として非常に有用である。本実験においては、浸透圧抵抗性を有する大腸菌を選別するために、高塩濃度の0.6M Naclが添加された最小A培地(10.5g/lのK2HPO4、4.5g/lのKH2PO4、1g/lの(NH42SO4、0.5g/lのクエン酸ナトリウム2H2O、10ml/lの20%のグルコース、1ml/lの1M MgSO47H2O)を利用した。エフェクタードメインとしてCRP Del 180を利用し、前記実施例2の転写因子ライブラリーを大腸菌XL1−Blue(Sambrook and Rusell、2001)に導入し、プレーティングし、37℃で培養し、成長したコロニーから浸透圧抵抗性を有する大腸菌を選別した。選別された大腸菌から転写因子を単離し、DNA配列分析により転写因子を確認し、これを再導入し、浸透圧抵抗性が誘導されるか否かを確認することにより、転写因子の活性を確認した。
【0053】
前記実験の結果は図15に示す通りである。図15において、左側の写真は浸透圧がかかっていない最小A培地での成長を確認した大腸菌(対照群)の写真であり、右側の写真は浸透圧がかかった最小A培地での大腸菌の生存率を示す写真であり、写真において、Cは人工転写因子がコードされていない対照群のプラスミドが導入された普通の大腸菌を示し、OT1、OT2、OT3、OT4は異なる人工転写因子が導入された大腸菌であって、浸透圧抵抗性を有する大腸菌である。また、図15の上段の三角形は5倍に希釈した細胞濃度を示す。
【0054】
図15に示すように、最適な成長条件下では、全ての大腸菌がコロニーを形成したが、浸透圧の条件下では、野生型大腸菌の場合は、成長が阻害されるのに対し、本発明のCRP Del 180をエフェクタードメインとして利用して作成された転写因子が導入された大腸菌の場合は、浸透圧の条件でもよく成長することを確認することができた。浸透圧抵抗性を有するOT1、OT2、OT3、OT4の人工転写因子は次の通りである:
OT1=CRP 1〜180a.a+Z24+Z2+Z2
OT2=CRP 1〜180a.a+Z8+Z4+Z19
OT3=CRP 1〜180a.a+Z5+Z23+Z17
OT4=CRP 1〜180a.a+Z9+Z24+Z23
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の人工転写因子を原核生物に導入して形質転換させると、導入された人工転写により様々な原核生物の遺伝子発現を活性化又は抑制することができ、使用者所望の表現型を示す様々な形質転換大腸菌を誘導することができ、産業に有用なカスタマイズされた大腸菌を提供することができる。また、今まで明らかになっていない遺伝子の機能を分析したり、所望の有用な特性を有する形質転換大腸菌を誘導することができる。代表的な例として、熱抵抗性、低温抵抗性、浸透圧抵抗性、及び向上した成長速度を有する形質転換大腸菌を誘導することができ、産業に非常に有用に利用することができる。
【0056】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ〜3つのジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、原核生物の転写因子とを含み、遺伝子発現を人為的に活性化又は抑制する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項2】
前記原核生物の転写因子が、大腸菌のCRP(カタボライト制御タンパク質)(又はサイクリックAMP受容体タンパク質)あるいはその誘導体である、請求項1に記載の人工転写因子ポリペプチド。
【請求項3】
前記CRPが、配列番号1の核酸配列によりコードされている野生型CRP(CRP W、残基1−209)であり、前記CRP誘導体が、配列番号3の核酸配列によりコードされているCRP Del 137(残基137−190)、又は配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180(残基1−180)である、請求項2に記載の人工転写因子ポリペプチド。
【請求項4】
前記ジンクフィンガードメインがヒトゲノムから同定されたものである、請求項1に記載の人工転写因子ポリペプチド。
【請求項5】
前記ジンクフィンガードメインが下記のジンクフィンガードメインからなる群から選択されたものである、請求項4に記載の人工転写因子ポリペプチド:
Z1:配列番号13の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z2:配列番号15の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z3:配列番号17の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z4:配列番号19の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z5:配列番号21の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z6:配列番号23の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z7:配列番号25の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z8:配列番号27の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z9:配列番号29の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z10:配列番号31の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z11:配列番号33の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z12:配列番号35の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z13:配列番号37の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z14:配列番号39の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z15:配列番号41の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z16:配列番号43の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z17:配列番号45の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z18:配列番号47の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z19:配列番号49の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z20:配列番号51の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z21:配列番号53の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z22:配列番号55の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z23:配列番号57の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z24:配列番号59の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z25:配列番号61の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン、
Z26:配列番号63の核酸配列によりコードされているジンクフィンガードメイン。
【請求項6】
遺伝子発現を活性化するために、転写開始点から−67〜−50領域に挿入されている、請求項1に記載の人工転写因子ポリペプチド。
【請求項7】
遺伝子発現を抑制するために、転写開始点から+24〜+41領域に挿入されている、請求項1に記載の人工転写因子ポリペプチド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の人工転写因子が導入されて形質転換された大腸菌。
【請求項9】
前記大腸菌が、熱抵抗性、低温抵抗性、又は浸透圧抵抗性及び向上した成長速度を有するものである、請求項8に記載の形質転換された大腸菌。
【請求項10】
Z13(配列番号37)、Z2(配列番号15)、及びZ23(配列番号57)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、熱抵抗性を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項11】
Z23(配列番号57)、Z11(配列番号33)、及びZ19(配列番号49)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、熱抵抗性を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項12】
Z9(配列番号29)、Z4(配列番号19)、及びZ11(配列番号33)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、熱抵抗性を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の人工転写因子が導入されて熱抵抗性を有する形質転換大腸菌。
【請求項14】
Z26(配列番号63)及びZ7(配列番号25)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、向上した成長速度を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項15】
請求項14に記載の人工転写因子が導入されて向上した成長速度を有する形質転換大腸菌。
【請求項16】
Z19(配列番号49)、Z6(配列番号23)、及びZ22(配列番号55)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、低温抵抗性を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項17】
Z15(配列番号41)、Z4(配列番号9)、及びZ2(配列番号15)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、低温抵抗性を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の人工転写因子が導入されて低温抵抗性を有する形質転換大腸菌。
【請求項19】
Z24(配列番号59)、Z2(配列番号15)、及びZ2(配列番号15)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、浸透圧抵抗性を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項20】
Z8(配列番号27)、Z4(配列番号19)、及びZ19(配列番号49)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、浸透圧抵抗性を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項21】
Z5(配列番号21)、Z23(配列番号57)、及びZ17(配列番号45)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、浸透圧抵抗性を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項22】
Z9(配列番号29)、Z24(配列番号59)、及びZ23(配列番号57)のジンクフィンガードメインと、エフェクタードメインとしての、配列番号5の核酸配列によりコードされているCRP Del 180とを含む、浸透圧抵抗性を有する人工転写因子ポリペプチド。
【請求項23】
請求項19〜22のいずれか1項に記載の人工転写因子が導入されて浸透圧抵抗性を有する形質転換大腸菌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2010−506906(P2010−506906A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533228(P2009−533228)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/KR2006/005493
【国際公開番号】WO2008/050935
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(304051285)コリア アドバンスト インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (32)
【Fターム(参考)】