説明

スイッチドリラクタンスモータ

【課題】 所望のトルクを維持しながら、簡単な構成で、通電切換時の磁気吸引力を低減し、モータの騒音を低減すること。
【解決手段】 ロータ(10)の突極(14;14a;14b)に、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう形状、または、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう線を一辺とし、反回転方向側かつ内周側に向かって延びる形状の、ロータの材質に比べて弱い磁性となる弱磁性部分(15;15a;15b)を形成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主に特定の回転方向に回転されるスイッチドリラクタンスモータに関し、例えば、電気自動車の動力源として利用できる。
【0002】
【従来の技術】スイッチドリラクタンスモータ(以下、SRモータと称する)は、一般に、円筒状に配置されコイルが巻回された複数の極部を有するリング状のステータと、該ステータの内側に回転可能に配設され、前記極部に対向する突極を備えたロータとを備えている。通常、ロータは単に磁性体である鉄板を積層して構成した鉄心である。このコイル及び極部が電磁石として働き、ロータの突極を吸引する。通電するコイルをロータの回転と共に切換えることによってロータを定常的に回転させる。
【0003】この種のSRモータは、例えば、特開昭48−77314号公報、特開昭61−203847号公報、USP3,956,678等に開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】SRモータは、コイル励磁によるロータ、ステータの極の磁極間に作用する磁気吸引力を利用してトルクを発生させるものであるが、回転時の振動が大きい。これは、通電一周期において、径方向の磁気吸引力がロータ回転に伴い増大し、通電切換時に最大となった吸引力が急に無くなるため、径方向の振動がロータ、ステータ双方に発生して、それが伝播するためである。
【0005】上記したUSP3,956,678に開示される技術は、SRモータの始動時に回転方向を定めるために、突極のロータの回転方向側に複数のスリットゾーンを設けたものである。これによれば、通電切換時の磁気吸引力を下げることができるが、トルクも著しく下がってしまうため、具合が悪い。
【0006】それゆえ、本発明は当該スイッチドリラクタンスモータにおいて、所望のトルクの発生を維持しつつ、簡単な構成にて通電切換時の磁気吸引力を下げることを、その課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために講じた本発明の技術的手段は、当該スイッチドリラクタンスモータにおいて、ロータの突極に、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう形状、または、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう線を一辺とし、反回転方向側かつ内周側に向かって延びる形状の、ロータの材質に比べて弱い磁性となる弱磁性部分を形成したことである。
【0008】上記した手段において、弱磁性部分を、ロータの突極に刻まれた溝または穴により形成することができる。
【0009】また、更に、弱磁性部分を、ロータの突極に刻まれた溝または穴及び該溝又は穴を貫通する非磁性の高電気抵抗部材で構成することができる。
【0010】また、更に、弱磁性部分は、ロータの突極の反回転方向側の部分に設けることが望ましい。
【0011】また、ロータを複数の板を積層した構造とし、弱磁性部分を、ロータの突極に刻まれた溝又は穴及び該溝又は穴を貫通する非磁性の高電気抵抗部材として、複数の板を貫通するようにしても良い。
【0012】上記した手段によれば、コイルを通電することによりロータの突極とステータの極部との間に磁気吸引力が発生して、ロータが回転し、複数のコイルの通電を切換えることにより、ロータの回転が継続される。
【0013】ここで、ロータの回転方向側の突極端部とステータの極部の端部が重なる(対向する)までの段階では、磁力線が両端部に集中し、トルク、磁気吸引力は弱磁性部分の有無にほぼ無関係となる。ロータの回転に伴い、ロータの突極がステータの極部に重なり、突極と極部の対向面積の増大に伴って、磁気吸引力が増加するが、磁気吸引力の増加に寄与する磁束の増加が弱磁性部分により制限される。これにより、ロータ反回転方向側の突極端部とステータの極部の端部が重なった段階では、ロータの突極内を通る磁力線が弱磁性部分に遮られて、磁気吸引力の増加が抑えられる。一方、ロータを回転させようとする力(トルク)は、主にロータの回転方向側の突極端部とステータの極部の端部との間の磁気吸引力により得られるので、弱磁性部分による上記した磁気吸引力増加の抑制はSRモータのトルクを著しく減少させるものではない。
【0014】したがって、所望のトルクの発生を維持しつつ、簡単な構成にて通電切換時の磁気吸引力を下げることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明に従ったSRモータの実施の形態を図面に基づき、説明する。
【0016】本実施形態では、SRモータ1は極部11aを12極、突極14を8極夫々備える構成の形態を示し、図1及び図2は本発明の第1実施形態を示す。図1において、SRモータ1は、円環状の電磁鋼板の積層により形成され、その内周に径方向内方に互いに夫々対向するように等間隔に突出し且つ、軸方向に延びる6対の極部11aを有するステータ11を有している。尚、ステータ11は、その外周部をハウジングの内孔に焼きばめにより固定されている。互いに対向する各対の極部11aは、2対づつを組にして各組の極部11aにコイル13が夫々巻回され、3相構造になっている。
【0017】ステータ11内に電磁鋼板の積層により形成されるロータ10が配設されている。ロータ10は、その軸心に中央孔を有し、該中央孔にその両端にて図示しないサイドハウジングに軸受を介して回転可能に支持される、回転軸12が嵌合固定されている。これにより、ロータ10は、ステータ11内を回転軸12と一体に回転可能となっている。更に、ロータ10は、径方向外方に互いに逆方向に等間隔に突出し且つ、軸方向に延びる4対の突極14を有している。これら各突極14は、図1に示されるように、ロータ10の回転に応じて、各極部11aに対向する際、両者間に所定の隙間を保つ。本実施形態では、ロータ10は図1において反時計方向に回転し、ロータ10の各突極14に、反回転方向である時計回り方向側にロータ10の材質に比べて弱磁性部分15が設けられている。
【0018】図2に示すように、この弱磁性部分15は、各突極14bに形成された、反回転方向である時計回り方向側かつ径方向外方側の点Eから回転方向である反時計方向側の点Fに向かう長円形状の溝15bによって構成される。尚、溝15bは、長円形状の他にも、楕円形状であっても良い。
【0019】図3は本発明の第2実施形態を示す。この実施形態では、弱磁性部分15は、反回転方向側かつ径方向外方側の点Eから回転方向側かつ径方向内方側の点Fへ向かう線を一辺Dとし、反回転方向側且つ径方向内方側へ向かって延びる三角形状の穴15aによって構成される。尚、穴15aは図示のように角を丸くしておいてもよい。
【0020】尚、本発明は、上記した2つの実施形態に限られるものではなく、反回転方向側かつ径方向外方側から回転方向側かつ径方向内方側へ向かう線を一辺とし、反回転方向側且つ径方向内方側へ向かって延びておれば、どんな形状であっても構わない。また、反回転方向側かつ径方向外方側から回転方向側かつ径方向内方側へ向かう線は直線であることが望ましいが、完全に直線でなくてもよく、曲線等に変えてもよい。
【0021】上記した実施形態において、溝15b及び穴15aは他の部分に比べ、磁性が弱くなり、弱磁性部分15として働く。尚、この溝15b及び穴15a非磁性の高電気抵抗部材を貫通させるようにしてもよい。
【0022】以下、上記した本実施形態の作用を従来例と比較して説明する。
【0023】上記した構成において、コイル13を通電することにより、ロータ10の突極14とステータ11の極部11a間に磁気吸引力が発生し、この吸引力の分力によりロータ10に突極14を極部11aに対向させるようにトルクが作用する。このトルクは、複数のコイル13の通電を切換えることにより、継続してロータ10に作用し回転が継続される。
【0024】図4及び図5にロータ角度と回転トルクの関係、ロータ角度と磁気吸引力の関係を夫々示す。ここで、ロータ角度は、極部11aが隣合う2つの突極14の丁度中間にある点を0°としている。突極14が極部11aと完全に向かい合う点が22.5°となる。尚、図4及び図5中、実線は従来技術(穴なし)を、また点線は本発明(穴あり)を示す。
【0025】図4及び図5に示すように、ロータ10の突極14の回転方向側端部とステータ11の極部11aの端部が重なり、弱磁性部分15がステータ11の極部11aに重なる(対向する)までは、突極14は弱磁性部分15に遮られることがないため、トルク及び磁気吸引力はロータ10の回転に伴い増大する。尚、図4に示すようにトルクは上記したようにロータ10の突極14に作用する磁気吸引力の分力で生じるため、弱磁性部分15がステータ11の極部11aに重なる(対向する)前にピークが生じ、徐々に低下する。
【0026】ロータ10の回転に伴い、ロータ10の突極14とステータ11の極部11aの対向面積の増大に伴って、図5に示すように、磁気吸引力が増加するが、磁気吸引力の増加に寄与する磁束の増加が弱磁性部分15により制限される。これにより、ロータ10の反回転方向側の突極端部とステータ11の極部11aの端部が重なった段階では、ロータ10の突極14内を通る磁力線が弱磁性部分15に遮られて、磁気吸引力の増加が抑えられ、通電切換時の磁気吸引力は従来の約5000kgfから約4250kgfに低下される。一方、トルクは、主にロータ10の回転方向側の突極端部とステータ11の極部の端部との間の磁気吸引力の分力により得られ、また弱磁性部分15は、図2及び図3に示されるように、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう形状、または、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう線を一辺とし、反回転方向側かつ内周側に向かって延びる形状を呈しているので、突極14を極部11aに対向させるように作用する上記磁気吸引力の分力に寄与する磁束を大きく制限しないので、弱磁性部分による上記した磁気吸引力増加の抑制によりトルクは著しく減少せず、穴なし(弱磁性部分なし)の従来技術に比し、数%減少するに留められる。尚、トルクは図4において、通電範囲内の面積で表される。
【0027】上記したように、ロータ10の突極14に、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう形状、または、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう線を一辺とし、反回転方向側かつ内周側に向かって延びる形状の、ロータの材質に比べて弱い磁性となる弱磁性部分15を形成することで、所望のトルクの発生を維持しつつ、コイル13の通電切換時の磁気吸引力を減少させることができる。よって、SRモータの重量増加及びコスト増大を招く、コイル13の巻数増加によるトルク増大を図らなくても、必要なトルクを得られると同時に、通電切換時の最大磁気吸引力を低下させ、通電切換時の磁気吸引力の大きな変化(最大→0)に起因する振動に基づく騒音の発生を低減することができる。図6に、弱磁性部分を有していない従来技術とい本発明に従ったSRモータの回転数と騒音の関係を示す。図6から明らかなように、使用領域全域にわたり本発明によれば騒音を低減できることがわかる。簡単な構成にて通電切換の直前の磁気吸引力を下げることができる。尚、図6に示す騒音測定時のモータ入力は両者に差は少なく、本発明によるトルクの減少が少ないことを確認している。
【0028】尚、上記した実施形態では、弱磁性部分15を、ロータ10の突極14に刻まれた溝15a又は穴15bとしているが、この形状は、製造も簡単であり、コストアップの心配もない。
【0029】また、上記実施形態において、弱磁性部分15を、ロータ10の突極14に刻まれた溝15a又は穴15b及び該溝又は穴を貫通する非磁性の高電気抵抗部材で構成すると、鉄板を積層して形成されるロータ10の強度を高めることができる。また、高電気抵抗部材により、ロータ10の回転アンバランスを修正することもできる。尚、高電気抵抗部材を用いれば、ロータ10に生じる渦電流の影響を抑えることができる。
【0030】尚、上記した実施形態では、6対の極部を有するステータと、4対の突極を有するロータとを備えたスイッチドリラクタンスモータに本発明を適用したが、3対の極部を有するステータと、2対の突極を有するロータとを備えたスイッチドリラクタンスモータ等の他のタイプにも適用することは可能である。
【0031】
【発明の効果】以上の如く、SRモータの重量増加、コスト増大、効率低下なしに、振動及び騒音の低減を図ることができる。
【0032】更に、反回転方向側かつ径方向外方側から回転方向側かつ径方向内方側へ向かう線を一辺とし、反回転方向側且つ径方向内方側へ向かって延びる形状とすることで、トータルトルクを殆ど変えずに通電切換時の磁気吸引力だけを大幅に低下させることができ、通電切換時の磁気吸引力の大きな変化に起因する振動に基づく騒音の発生を低減することができる。尚、弱磁性部分をロータの突極に刻まれた溝又は穴とすることで、コストを増大することなく、上記効果を得ることができる。
【0033】更に、弱磁性部分を、ロータの突極に刻まれた溝又は穴及び該溝又は穴を貫通する非磁性の高電気抵抗部材とすると、より安定した性能が得られる。
【0034】また、更に、ロータを複数の磁性体からなる板を積層した構造とし、弱磁性部分をロータの突極に刻まれた溝又は穴及び該溝又は穴を貫通する非磁性の高電気抵抗部材とし、高電気抵抗部材を複数の板を貫通させるようにすれば、ロータの強度を高めることができると共に、ロータの回転アンバランスの修正も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従ったスイッチドリラクタンスモータの第1の実施形態の構成図である。
【図2】図1に示す第1の実施形態のロータの正面図である。
【図3】本発明に従ったスイッチドリラクタンスモータの第2の実施形態のロータの正面図である。
【図4】本発明に従ったスイッチドリラクタンスモータと従来技術の、ロータ角度に対する回転トルクの関係を示す特性図である。
【図5】本発明に従ったスイッチドリラクタンスモータと従来技術の、ロータ角度に対する磁気吸引力の関係を示す特性図である。
【図6】本発明に従ったスイッチドリラクタンスモータと従来技術の、モータ回転数に対する騒音の関係を示す特性図である。
【符号の説明】
1 SRモータ
10 ロータ
11 ステータ
11a 極部
12 回転軸
13 コイル
14、14a、14b 突極
15 弱磁性部分
15a 穴
15b 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】 径方向内方に互いに夫々対向するように突出し且つ、軸方向に延びる複数個の対の極部を有するステータと、該ステータ内に回転可能に配設されると共に、径方向外方に突出して前記極部と所定の隙間を保ちながら対向可能で且つ、軸方向に延びる複数個の対の突極を有するロータと、前記各対のステータポール部に巻回される複数個のコイルとを備え、主に特定の回転方向に回転されるスイッチドリラクタンスモータにおいて、前記ロータの突極に、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう形状の、ロータの材質に比べて弱い磁性となる弱磁性部分を形成したことを特徴とするスイッチドリラクタンスモータ。
【請求項2】 前記弱磁性部分は、前記ロータの突極に刻まれた溝であることを特徴とする請求項1に記載のスイッチドリラクタンスモータ。
【請求項3】 前記弱磁性部分は、前記ロータの突極に刻まれた溝及び該溝を貫通する非磁性の高電気抵抗部材であることを特徴とする請求項1に記載のスイッチドリラクタンスモータ。
【請求項4】 径方向内方に互いに夫々対向するように突出し且つ、軸方向に延びる複数個の対の極部を有するステータと、該ステータ内に回転可能に配設されると共に、径方向外方に突出して前記極部と所定の隙間を保ちながら対向可能で且つ、軸方向に延びる複数個の対の突極を有するロータと、前記各対のステータポール部に巻回される複数個のコイルとを備え、主に特定の回転方向に回転されるスイッチドリラクタンスモータにおいて、反回転方向側かつ外側から回転方向側かつ内周側に向かう線を一辺とし、反回転方向側かつ内周側に向かって延びる形状の、ロータの材質に比べて弱い磁性となる弱磁性部分を形成したことを特徴とするスイッチドリラクタンスモータ。
【請求項5】 前記弱磁性部分は、前記ロータの突極に刻まれた穴であることを特徴とする請求項4に記載のスイッチドリラクタンスモータ。
【請求項6】 前記弱磁性部分は、前記ロータの突極に刻まれた穴及び該穴を貫通する非磁性の高電気抵抗部材であることを特徴とする請求項4に記載のスイッチドリラクタンスモータ。
【請求項7】 前記弱磁性部分は、前記ロータの突極の反回転方向側に設けたことを特徴とする請求項1または4に記載のスイッチドリラクタンスモータ。
【請求項8】 前記ロータは複数の板を積層して形成され、前記高電気抵抗部材が、前記複数の板を貫通していることを特徴とする請求項3または6に記載のスイッチドリラクタンスモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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