説明

スイッチング磁場分布を減少した極薄酸化膜を有するパターン化垂直磁気記録媒体

【課題】スイッチング磁場分布を減少した極薄酸化膜を有するパターン化垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】パターン化垂直磁気記録媒体は、同心トラックに配置された離散的データアイランドにパターン化されたCo合金記録層を有し、狭いスイッチング磁場分布(SFD)を示す。ディスクは、基板と、基板上のNiTa合金平坦化層と、平坦化層上の非磁性Ru含有下地層と、酸化物が無いCo合金磁気記録層と、Ru含有層とCo合金磁気記録層との間の極薄酸化膜とを含む。酸化膜は、Ta酸化物、Co酸化物およびTi酸化物から選択された酸化物であってもよく、不連続膜と考えられる極薄である。平坦化層および極薄酸化膜により、Co合金記録層の成長均一性が向上するので、データアイランドを有するパターン化ディスクではSFDが大幅に減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は一般に、パターン化垂直磁気記録媒体、例えば磁気記録ハードディスク・ドライブ用のディスクに関し、より詳しくは、磁気記録特性を改良したデータアイランドを有するパターン化ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
パターン化磁気記録媒体を有する磁気記録ハードディスク・ドライブは、データ密度を増加するように提案されている。従来の連続磁気記録媒体において、磁気記録層は、ディスクの全面にわたる連続層である。ビットパターン化媒体(BPM)とも呼ばれるパターン化媒体では、ディスク上の磁気記録層を、同心データトラックに配置された小さい分離データアイランドにパターン化する。BPMディスクは、磁化方向が記録層に平行であるまたは記録層の面内にある水平磁気記録ディスクであってもよいけれども、磁化方向が記録層に垂直であるまたは記録層の面外にある垂直磁気記録ディスクは、垂直媒体のデータ密度が増加する可能性があるために、BPMに適した選択であろう。パターン化データアイランドの磁気分離を行うために、アイランド間の空間の磁気モーメントを破壊または実質的に減少して、これらの空間を本質的に非磁性にする。代わりに、アイランド間の空間に磁性材料がないように媒体を製造してもよい。
【0003】
ナノインプリント・リソグラフィ(NIL)は、BPMディスク上に所望のパターンのアイランドを形成するように提案されている。NILは、所望のナノスケール・パターンを有するマスタテンプレートまたは型によってインプリントレジスト層を変形させることに基づいている。マスタテンプレートを、電子ビームツールなどの高分解能リソグラフィツールによって製造する。パターン化されるべき基板は、磁気記録層と、連続層として上に形成された任意の必要な下地層とを有するディスク・ブランクであってもよい。次に、ポリメチル・メタクリレート(PMMA)のような熱可塑性重合体などのインプリントレジストを基板にスピンコートする。次いで、重合体を、そのガラス転移温度を超えて加熱する。その温度で、熱可塑性レジストは粘性を帯び、比較的高圧でテンプレートからのインプリンティングによってインプリントレジスト上にナノスケール・パターンが再生される。いったん重合体を冷却すると、テンプレートをインプリントレジストから除去して、逆ナノスケール・パターンの窪みおよび空間をインプリントレジスト上に残す。熱可塑性重合体の熱硬化の代替案として、紫外線(UV)光によって硬化可能な重合体、例えばMolecular Imprints、Inc.から入手できるMonoMatをインプリントレジストとして使用することができる。次いで、パターン化インプリントレジスト層をエッチマスクとして使用して、下部の磁気記録層に所望のパターンのアイランドを形成する。
【0004】
BPMの開発にとって重要な問題は、スイッチング磁場分布(SFD)、即ち保磁力のアイランド間のばらつきが、隣接するアイランドを上書きすることなく個々のアイランドの正確なアドレス指定能力を保証するのに十分狭い必要があるということである。理想的には、SFD幅はゼロであり、これは全ビットが同じ書込み磁場強度で切り換わることを意味する。アイランドの磁気異方性のばらつきの原因となる、磁性材料の組成および結晶方位のばらつきを含む内因性寄与だけでなく、アイランドの大きさ、形状および間隔のばらつき、および隣接するアイランド間の双極子相互作用を含む、SFDへの外因性寄与もある。さらに、磁気アイランドの大きさが縮小するにつれてSFDが拡大して(即ち、保磁力のビット間のばらつきが増大して)、BPMの達成可能なビット面密度が制限されることが分かっている。
【0005】
必要なのは、狭いSFDを有するパターン化垂直磁気記録媒体である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】タガワ(Tagawa)ら著、「高密度記録性能と粒子保磁力分布との間の関係(Relationships between high density recording performance and particle coercivity distribution)」、IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS、VOL.27、NO.6、1991年11月、4975−4977
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Co合金記録層および狭いSFDを有するパターン化垂直磁気記録媒体と、ディスク内蔵のディスク・ドライブとに関する。ディスクは、基板と、基板上の軟磁性材料のオプションの軟下地層(SUL)と、基板またはオプションのSUL上の平坦化層と、平坦化層上の非磁性Ru含有下地層と、酸化物を含有しないことが好ましいCo合金の垂直磁気記録層と、非磁性Ru含有下地層とCo合金の垂直磁気記録層との間の極薄酸化膜とを含む。垂直磁気記録層は、同心トラックに配置された離散的アイランドにパターン化されている。オプションのNiW合金シード層を、Ru含有下地層の下でかつRu含有下地層と接触して平坦化層上に設置してもよい。平坦化層は、好ましくは20nmを超える厚さを有するNiTa合金であることが好ましいが、オプションのSULが基板と平坦化層との間に存在する場合、平坦化層は、約2〜10nmの厚さを有することができる。極薄酸化膜は、1.5nm以下の厚さを有する、Ta酸化物、Co酸化物およびTi酸化物から選択された酸化物であってもよい。この厚さの形態では、酸化膜の厚さを不連続膜の「平均」厚さと考えることができるので、Co合金の垂直磁気記録層を堆積させる表面は、Ru含有下地層と極薄酸化膜のクラスタまたは領域との両方であってもよい。平坦化層および極薄酸化膜により、Co合金記録層の成長均一性が向上するので、本発明によるデータアイランドを有するBPMではSFDが大幅に減少する。
【0008】
本発明の性質および利点をさらに十分理解するために、添付図面と併せて以下の詳細な説明を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ビットパターン化媒体(BPM)を有する垂直磁気記録ディスク・ドライブの平面図であり、先行技術による同心円形データトラックに配置されたパターン化データアイランドを示す。
【図2】データアイランドの詳細配置を示す先行技術のBPMディスクの拡大部分の平面図である。
【図3A】先行技術によるディスクをエッチングして平坦化する各種段階におけるBPMディスクの断面図である。
【図3B】先行技術によるディスクをエッチングして平坦化する各種段階におけるBPMディスクの断面図である。
【図3C】先行技術によるディスクをエッチングして平坦化する各種段階におけるBPMディスクの断面図である。
【図4】本発明による構造を有するデータアイランドを示すディスク基板の一部分の断面図である。
【図5A】磁気スイッチングにおける先行技術によるデータアイランドと本発明によるデータアイランドとの比較を示す。
【図5B】磁気スイッチングにおける先行技術によるデータアイランドと本発明によるデータアイランドとの比較を示す。
【図6】Co80Pt10Cr10の記録層を有する異なるデータアイランドに対する記録層厚さに応じた異方性(K)のグラフであり、本発明によるデータアイランドに対する膜成長均一性の向上を示す。
【図7】熱アシスト記録(TAR)システム用の空気軸受スライダ、および本発明によるデータアイランドを有するTARディスクの一部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、パターン化媒体磁気記録ディスク200を有するパターン化媒体磁気記録ディスク・ドライブ100の平面図である。ドライブ100は、磁気記録ディスク200を回転させるドライブモータとアクチュエータ130とを支持するハウジングまたはベース112を有する。アクチュエータ130は、剛性アーム131を有しかつ矢印133で示すようにピボット132の周りで回転するボイスコイルモータ(VCM)回転アクチュエータであってもよい。ヘッドサスペンション組立体は、アクチュエータアーム131の端部に取り付けられた一端を有するサスペンション135と、サスペンション135の他端に取り付けられた空気軸受スライダ120などのヘッドキャリアとを含む。サスペンション135により、スライダ120をディスク200の表面に非常に近接して維持することができ、ディスク200が矢印20の方向に回転する際にディスク200によって生成される空気軸受上でスライダ120が「縦揺れ」および「横揺れ」することができる。磁気抵抗読取りヘッド(図示せず)および誘導書込みヘッド(図示せず)は通常、当業界で周知のように、スライダ120の終端上に一連の薄膜および構造としてパターン化された統合読み書きヘッドとして形成されている。スライダ120は通常、複合材料、例えばアルミナ/炭化チタン(Al/TiC)の複合物で形成されている。1つのディスク面のみを、それに関連するスライダおよび読み書きヘッドと共に図1に示すが、通常、スピンドルモータによって回転するハブ上には複数のディスクが積み重ねられ、それらディスクは、各ディスクの各面に関連する別個のスライダおよび読み書きヘッドを有する。
【0011】
パターン化媒体磁気記録ディスク200は、ハードまたは剛性ディスク基板と基板上の磁化可能材料の離散的データアイランド30とを含む。データアイランド30は、半径方向に間隔を置いた円形トラック118に配置されており、ディスク200の内径および外径に近い少数のアイランド30および代表的なトラック118のみを図1に示す。アイランド30は円形を有するものとして示してあるが、アイランドは、他の形状、例えば、全体的に長方形、卵形または楕円形を有してもよい。ディスク200が矢印20の方向に回転する際に、アクチュエータ130の動きにより、スライダ120の終端上の読み書きヘッドは、ディスク200上の異なるデータトラック118にアクセスすることができる。
【0012】
図2は、先行技術による1種類のパターンにおけるディスク基板の表面上のデータアイランド30の詳細配置を示すディスク200の拡大部分の平面図である。データアイランド30は、磁化可能記録材料を含み、トラック118a〜118eで示すように、半径方向または横トラック方向に間隔を置いた円形トラックに配置されている。トラックは通常、固定トラック間隔TSだけ等間隔で配置されている。トラックにおけるデータアイランド間の間隔は、トラック118aにおけるデータアイランド30aと30bとの間の距離ISで示され、隣接するトラックは、トラック118aおよび118bで示すように距離IS/2だけ互いにずれている。各アイランドは、ディスク200の平面に平行な横寸法Wを有し、アイランドの形状が円形である場合、Wは直径である。アイランドは、他の形状、例えば、全体的に長方形、卵形または楕円形を有してもよく、その場合、寸法Wは、非円形アイランドの最小寸法、例えば長方形アイランドのより小さい側であるとみなされる。隣接するアイランドは、非磁性領域または空間で分離されており、その空間は横寸法Dを有する。Dの値は、Wの値よりも大きくてもよい。
【0013】
図2に示すようなBPMディスクは、磁化方向がアイランドにおける記録層に垂直であるまたは記録層の面外にある垂直磁気記録ディスクであってもよい。パターン化データアイランド30の必要な磁気分離を行うために、アイランド30間の領域または空間の磁気モーメントを破壊または実質的に減少して、これらの空間を本質的に非磁性にする必要がある。「非磁性」という用語は、誘電体などの非強磁性材料、または印加磁場が無い状態で実質的な残留モーメントがない材料、または読み書きに悪影響を及ぼさないようにアイランド30の下にはるかに十分窪ませた溝内の磁性材料で、アイランド30間の空間を形成することを意味する。非磁性空間は、磁性材料が無い状態、例えば、磁気記録層またはディスク基板内の溝または窪みであってもよい。
【0014】
図3Aは、BPMディスクを形成するリソグラフィパターン化およびエッチングの前の先行技術によるディスク200を示す断面図である。ディスク200は、通常スパッタリングによって代表的な層を堆積させる略平面202を有する基板201である。ディスク200を、垂直な(即ち、基板面201に略垂直な)磁気異方性を有する記録層(RL)とそのRLの下のオプションの軟磁性下地層(SUL)とを有する垂直磁気記録ディスクとして示す。オプションのSULは、ディスク・ドライブ書込みヘッドからの書込み磁場のための磁束戻り経路(flux return path)としての機能を果たす。
【0015】
ハードディスク基板201は、任意の市販のガラス基板であってもよいが、NiP表面コーティングを有する従来のアルミニウム合金、または代替基板、例えばケイ素、カナサイト(canasite)または炭化ケイ素であってもよい。SULの成長用の接着層または開始層(OL)は、基板面202上に堆積された、約2〜10nmの厚さを有するAlTi合金または同様な材料であってもよい。
【0016】
SULは、透磁材料、例えば、CoNiFe、FeCoB、CoCuFe、NiFe、FeAlSi、FeTaN、FeN、FeTaC、CoTaZr、CoFeTaZr、CoFeB、およびCoZrNbの合金で形成することができる。SULは、例えばAlまたはCoCrなどの導電膜の、非磁性膜によって分離された複数の軟磁性膜で形成された積層または多層SULであってもよい。SULは、例えばRu、IrまたはCr、またはそれらの合金の、反強磁性結合を介在させる層間膜によって分離された複数の軟磁性膜で形成された積層または多層SULであってもよい。SULの厚さは、約5〜50nmの範囲にあることができる。
【0017】
離散的磁気アイランド内のRLは、コバルト白金(CoPt)またはコバルト白金クロム(CoPtCr)合金のようなコバルト(Co)合金であってもよい。Co合金の結晶性C軸をRLの平面に垂直であるように誘導する成長促進下地層(UL)上でCo合金RLを成長させるので、RLは、強い垂直磁気結晶異方性を有する。ULは、RuまたはRu合金層であってもよい。NiWまたはNiWCr合金層などのシード層(SL)をSUL上に堆積させて、Ru含有ULの成長を促進することができる。オプションのSULが存在する場合、ULおよびSLは、SULおよびRLの透磁膜間の磁気交換結合を遮断する交換遮断層(EBL)としての機能も果たす。
【0018】
RL上には保護被膜(OC)が堆積されている。OCは、水素添加および/または窒素添加されることもできる、DLCなどのスパッタリング蒸着アモルファス炭素であってもよい。OCに使用できる他の材料には、炭化ケイ素および炭化ホウ素などの炭化物と、窒化ケイ素(SiN)、窒化チタンおよび窒化ホウ素などの窒化物と、TiO、ZrO、Al、Cr、Ta2OおよびZrO−Yなどの金属酸化物と、これらの材料の混合物とがある。
【0019】
図3Aのディスクは、例えばナノインプリンティング方法によってリソグラフィパターン化されている。ナノインプリンティングでは、マスタテンプレートを、例えば直接電子ビーム書込みによって製造して、所望のパターンのデータアイランドおよび非磁性領域を得る。インプリントレジスト(即ち、熱可塑性重合体)の薄膜を、ディスク上にスピンコートする。次に、所定のパターンを有するマスタテンプレートをインプリントレジスト膜と接触させて、テンプレートとディスクを一緒に押圧して熱を加える。インプリントレジスト重合体を、そのガラス転移温度を超えて加熱すると、テンプレート上のパターンはレジスト膜に押圧される。冷却後、マスタテンプレートをディスクから分離して、パターン化レジストをRL上に残す。次いで、パターン化インプリントレジストをエッチマスクとして使用する。反応性イオンエッチング(RIE)またはイオンミリングを使用して、インプリントレジスト内のパターンを下部のディスクに転写し、データアイランドおよび非磁性領域を形成することができる。
【0020】
図3Bは、リソグラフィパターン化およびエッチングの後のディスク200の断面図である。エッチングの後、RL材料を有する隆起ランド30と溝または窪み32とを、基板面202の上に形成する。本質的にランド30の高さでもある、窪み32の典型的な深さは約4〜50nmの範囲にあり、窪みの典型的な幅は約4〜50nmの範囲にある。図3Bに示すように、窪み32内にRL材料がないようにRL材料をすべて除去する深さまでエッチングを行うことが好ましい。エッチングでは、少量のEBL材料を除去してもよい。通常、窪み32の下面の下にEBL材料の層がある。
【0021】
図3Cは、窪み32の中およびランド30の上端の上の第2のオプションの保護被膜34の堆積の後、および窪み32への充填材料36の堆積および化学機械研磨(CMP)の後の図3Bのエッチングされたディスク200の断面図である。オプションの第2の保護被膜34は、RL上端の直上にあるOCに使用されるような材料のうち1つの材料で形成してもよい。充填材料36は、SiOまたは高分子材料、またはCuのような非磁性金属であってもよい。CMPにより、実質的に平坦化されたディスク面が得られる。従来の液体潤滑剤(図示せず)の層を、例えばスピンコーティングによってディスク200の表面上に堆積させることができる。
【0022】
この発明のパターン化垂直媒体において、データアイランドは、基板上に平坦化層(PL)と、Co合金RLの下に極薄酸化膜とを有する。これにより、Co合金RLの成長の均一性が実質的に向上し、SFDが大幅に減少する。図4は、1つのデータアイランドを有するSULの一部分を示すディスクの一部分の断面図である。PLは、NiTa合金であることが好ましく、約5〜40nmの範囲の厚さを有する、NiTa100−x(ここで、xは約50〜70原子百分率の範囲にある)であることが好ましい。Ru含有下地層(UL)のためのシード層(SL)をPL上に堆積させる。SLは、NiW合金であることが好ましく、約2〜20nmの範囲の厚さを有する、Ni100−x(ここで、xは約80〜95原子百分率の範囲にある)であることが好ましい。ULをSL上に堆積させる。ULは、Ruであることが好ましいが、約5〜30nmの範囲の厚さを有する、Ta、SiOまたはTiOなどの酸化物がドープされたRuまたはRuCrのようなRu合金であってもよい。RLは、Co合金であり、約4〜15nmの範囲の厚さを有する、CoPtCr合金であることが好ましい。従来の連続磁気記録ディスク用の粒状Co合金磁気層は通常、粒度を減少させるSiOのような酸化物を含むけれども、この発明において、Co合金RLは、酸化物が無く、できるだけ大きい粒度を有することが好ましい。
【0023】
この発明では、RLの堆積の前に、極薄酸化膜をRLの下でUL上に堆積させる。酸化膜は、TaのようなTa酸化物であることが好ましいが、約0.1〜1.5nmの範囲の厚さを有する、Ti酸化物またはCo酸化物であってもよい。酸化膜は、1.5nm以下、好ましくは1.0nm以下の極薄である。この厚さの形態では、厚さを不連続膜の「平均」厚さと考えることができるので、Co合金RLを堆積させる表面は、ULのRuまたはRu合金材料と酸化膜のクラスタまたは領域との両方であってもよい。Ta酸化膜を、Taターゲットからスパッタ蒸着によって堆積させてもよい。ターゲットが導通している場合、DCスパッタリングを容易に使用することができる。一方、ターゲットが絶縁体または高抵抗ターゲットである場合、RFスパッタリングが好ましい形態である。代わりに、適量の酸素を含有するスパッタガス混合物を用いてTaの反応性スパッタリングによってTaをその場で成長させることができる。
【0024】
図5Aおよび図5Bは、非パターン化全磁性膜に対する核生成磁場の改良を示す。図5Aは、ガラス基板上に[NiTa−5nm/NiW−8nm/Ru−10nm/Co80Pt10Cr10−10nm]の構造を有する全膜核生成磁場を示すのに拡大した円形領域付きのカー角度ヒステリシスループを示す。図5Bの拡大領域では、RuのULとCoPtCrのRLとの間に0.3nmのTa膜を有する、図5Aの場合と同じ構造に対して、はるかに鋭い核生成磁場を示す。図5Bにおけるより鋭い遷移は、膜反転を核にするのに必要なより狭い範囲の印加磁場を示す。換言すれば、通常反転を妨げることによってより広い範囲の印加磁場を必要とするこれらの膜の構造上の欠陥などのピンニング場所がより少ない。これは、極薄Ta膜をRLの下で使用する場合、CoPtCr合金の結晶化度の質の成長向上の結果である。図5Bに示す向上は、BPMで個々のデータアイランドとして形成される場合、RL合金に存在する欠陥/ピンニング場所がより少ないという理由でRL層がより優れたスイッチング特性を有することを意味する。図5Bは、図5Aよりも鋭い遷移を有する媒体を示す。
【0025】
図6は、Co80Pt10Cr10のRLを有する異なる連続薄膜システムに対するRL厚さに応じた磁気異方性(K)のグラフであり、本発明による膜成長均一性の向上を示す。曲線Aは、[Ta−2nm/NiW−9nm/Ru−7nm/Co80Pt10Cr10−10nm]の構造を有する薄膜の場合であり、約2〜16nmのRL厚さの範囲にわたって約20%のKの変動を示す。曲線Bは、[NiTa−5nm/NiW−8nm/Ru−10nm/Ta−0.3nm/Co80Pt10Cr10−10nm]の構造を有する本発明による薄膜の場合であり、同じRL厚さの範囲にわたってわずか約8%のKの変動を示す。Ta層とNiTa平坦化層(PL)との置換および酸化膜により、CoPtCr層の成長の均一性が大幅に向上する。曲線Cは、曲線Bの場合の構造と同一の本発明による薄膜の場合であるが、NiTaのPLの厚さを5nmから30nmに増加している。Kの変動は、同じのRL厚さの範囲にわたって約8%から約6%に減少している。従って、より厚いNiTaのPL(SULを使用しない場合、20nmを超える厚さが好ましい)を用いて、膜成長均一性を向上させることができる。SULが存在する場合、このPLの厚さを2〜10nmの範囲にまで大幅に減らすことができる。
【0026】
スイッチング特性および膜成長均一性を向上させた結果、本発明によるデータアイランドを有するBPMではSFDが大幅に減少する。図6における曲線Aの場合のような構造を有するアイランドを有するBPMの場合、固有SFDが630Oeで測定された。(図6における曲線Bの場合のような)本発明による構造を有するアイランドを有するBPMの場合、固有SFDが450Oeで測定された。固有SFDは、(非特許文献1)に記載される方法によって測定される。
【0027】
誘導書込みヘッドがデータをアイランドに単独で書込む、従来の磁気記録用に、BPMを有する垂直磁気記録ディスクは主に提案されている。しかし、垂直BPMディスクは、熱アシスト記録(TAR)とも呼ばれるヒートアシスト記録用にも提案されている。TARシステムにおいて、近接場変換器(NFT)を有する光導波路は、レーザーなどの放射源から熱を当てて、ディスク上の磁気記録層の局所領域を加熱する。放射は、局所的に磁性材料をそのキュリー温度の近くまたはキュリー温度を超えるまで加熱して、書込みが誘導書込みヘッドによって行われるのに十分な保磁力を低下させる。この発明の改良BPMは、TARディスク・ドライブ用の垂直BPMディスクにも適用できる。
【0028】
従って、図1は、読み書きヘッドを支持する空気軸受スライダ120および垂直BPMディスク200を有する従来の磁気記録システムを示す。図7は、TARシステム用の空気軸受スライダ120’およびTARディスク200’の一部分の断面図(但し、非常に小さい特徴を示すのが難しいので正確な縮尺で描かれていない)を示す。空気軸受スライダ120’は、(ヨーク54および書込みポール52を有する)書込みヘッド50と、読取りヘッド60と、シールドS1およびS2とを支持する。TARディスク200’では、ヒートシンク層21を、アイランド30および非磁性領域32の下に設置する。アイランド30は、図4におけるアイランドのような、この発明によるアイランドであってもよい。ヒートシンク層21は、Cu、Au、Agや他の適当な材料または金属合金のような熱良導体である材料で形成されている。層19は、熱がヒートシンク層21にあまり急速に分散されないように熱流を制御するのに役立つ、ヒートシンク層21とアイランド30との間の熱レジスト層(例えば、MgOまたはSiOの層)であってもよい。TARディスク200’は、オプションのSULを含んでもよい(存在する場合、ヒートシンク層21の下に設置される)。SULが存在しない場合、EBLの必要はない。スライダ120’は、ディスク200’に面する空気軸受面(ABS)を有する。また、スライダ120’は、レーザー70と、ミラー71と、光導波路またはチャネル72と、ABSで出力を有するNFT74とを支持する。
【0029】
コイル56によって書込み電流を向けると、書込みポール52は、データアイランド30のうち1つに向けられた矢印80で示すように磁束をデータアイランド30に向ける。矢印付き破線17は、戻りポール54に戻る磁束戻り経路を示す。TARディスク200’がスライダに対して方向23に移動するときに、NFT74は、波形矢印82で示すように近接場光をデータアイランド30に向ける。NFTにおける電荷振動は、データアイランド30を加熱すると同時に、データアイランドが書込みポール52から書込み磁場に露出される。これにより、データアイランド内の磁気記録材料の温度が、そのキュリー温度の近くまたはキュリー温度を超えるまで上昇し、それにより材料の保磁力が低下し、書込み磁場によってデータアイランドの磁化を切り換えることができる。この発明によるデータアイランドをTARディスク・ドライブで使用すると、Co合金の異方性磁場は、従来の書込みヘッドからの書込み磁場よりもかなり高い、約15〜100kOeとし得る。例えば、50kOeの異方性磁場を有するCo50Pt50のような高異方性Co合金を使用することができる。Co合金層の組成を変えて、キュリー温度を調整することができる。
【0030】
好適な実施形態を参照して本発明を詳細に示して説明しているけれども、本発明の趣旨と範囲から逸脱することなく形態および詳細の種々の変更を行うことができることを当業者は理解するであろう。従って、開示された発明は、単なる例示と考えられ、添付の特許請求の範囲に指定の範囲だけに限定されるべきである。
【符号の説明】
【0031】
19 層、21 ヒートシンク層、30 データアイランド、32 窪み、34 保護被膜、36 充填材料、50 書込みヘッド、52 書込みポール、54 ヨーク、56 コイル、60 読取りヘッド、70 レーザー、71 ミラー、72 光導波路、74 NFT、100 パターン化媒体磁気記録ディスク・ドライブ、112 ハウジング、118 トラック、120,120’ スライダ、130 アクチュエータ、131 剛性アーム、132 ピボット、135 サスペンション、200、200’ ディスク、201 基板、202 平面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上の平坦化層と、
前記平坦化層上の非磁性Ru含有下地層と、
コバルトおよび白金を含む合金の垂直磁気記録層と、
前記非磁性Ru含有下地層と前記垂直磁気記録層との間の酸化膜と、
を含み、
前記垂直磁気記録層が複数の離散的アイランドにパターン化されている、
パターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記酸化膜は、Ta酸化物、Co酸化物およびTi酸化物から選択された酸化物を含む、
請求項1に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記酸化膜は1.5nm未満の厚さを有する、
請求項1に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記酸化膜は、前記非磁性Ru含有下地層上の酸化物クラスタの不連続膜であり、
前記垂直磁気記録層は、前記非磁性Ru含有下地層および前記酸化物クラスタと接触している、
請求項3に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記平坦化層は、NiおよびTaを含む合金を含む、
請求項1に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記平坦化層は、20nmを超える厚さを有する、
請求項1に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記非磁性Ru含有下地層の下でかつ前記非磁性Ru含有下地層と接触する、前記平坦化層上のNiW合金シード層をさらに含む、
請求項1に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記垂直磁気記録層の合金は、酸化物が無い合金である、
請求項1に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
前記垂直磁気記録層の合金は、Crをさらに含む、
請求項1に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
前記平坦化層下かつ前記基板上に軟磁性材料の軟下地層(SUL)をさらに含む、
請求項1に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項11】
前記平坦化層は、2nm以上かつ10nm以下の厚さを有するNiおよびTaを含む合金を含む、
請求項10に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項12】
前記SULは、CoFe、CoNiFe、NiFe、FeCoB、CoCuFe、FeAlSi、FeTaN、FeN、FeTaC、CoTaZrおよびCoZrNbの合金からなる群から選択された材料で形成されている、
請求項10に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項13】
前記SULは、非磁性膜によって分離された複数の透磁膜の積層物である、
請求項10に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項14】
前記積層物における前記非磁性膜は、前記積層物における前記透磁膜の反強磁性結合を与える、
請求項13に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項15】
前記パターン化垂直磁気記録媒体は、磁気記録ディスクであり、
前記離散的アイランドは、前記基板上で複数の略同心円形トラックに配置されている、
請求項1に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項16】
請求項15に記載のパターン化垂直磁気記録媒体と、
前記離散的アイランドにおける前記垂直磁気記録層を磁化する書込みヘッドと、
前記離散的アイランドにおける前記垂直磁気記録層を読取る読取りヘッドと、
を含む、
磁気記録ディスク・ドライブ。
【請求項17】
前記基板と前記離散的アイランドとの間にヒートシンク層をさらに含む請求項15に記載のパターン化垂直磁気記録媒体と、
前記離散的アイランドにおける前記垂直磁気記録層に磁場を加える書込みヘッドと、
近接場光を前記離散的アイランドに当てて前記離散的アイランドにおける前記垂直磁気記録層を加熱する光データチャネルおよび近接場変換器と、
前記アイランドにおける前記垂直磁気記録層を読取る読取りヘッドと、
を含む、
熱アシスト記録(TAR)型磁気記録ディスク・ドライブ。
【請求項18】
基板と、
前記基板上のNiおよびTaを含む合金を含む平坦化層と、
前記平坦化層上の非磁性Ru含有下地層と、
コバルトおよび白金を含む、酸化物が無い合金の垂直磁気記録層と、
前記非磁性Ru含有下地層と前記垂直磁気記録層との間の酸化膜であって、Ta酸化物、Co酸化物およびTi酸化物から選択された酸化物を含み、1.5nm以下の厚さを有する酸化膜と、
を含み、
複数の同心トラックに配置された複数の離散的アイランドに前記垂直磁気記録層がパターン化されている、
パターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項19】
前記酸化膜は、前記非磁性Ru含有下地層上の酸化物クラスタの不連続膜であり、
前記垂直磁気記録層は、前記非磁性Ru含有下地層および前記酸化物クラスタと接触している、
請求項18に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項20】
前記非磁性Ru含有下地層の下でかつ前記非磁性Ru含有下地層と接触する、前記平坦化層上のNiW合金シード層をさらに含む、
請求項18に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項21】
前記平坦化層は、20nmを超える厚さを有する、
請求項18に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。
【請求項22】
前記平坦化層下かつ前記基板上に軟磁性材料の軟下地層(SUL)をさらに含み、
前記平坦化層は、2nm以上かつ10nm以下の厚さを有する、
請求項18に記載のパターン化垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−195046(P2012−195046A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−42611(P2012−42611)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(503116280)エイチジーエスティーネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】