説明

スクリーニング方法、及び、スクリーニング装置

【課題】生理活性物質と特異的に結合される化合物をより正確に選別する。
【解決手段】所定時間経過毎に、活性測定処理S10を行いつつ、結合量測定処理S20及び洗浄処理S30を繰り返す。すべての化合物についての測定終了後に、更に活性測定処理を行い、得られた複数の活性値Kに基づいて、結合量データの補正を行う補正処理を実行する。この補正処理により補正された結合量データに基づいて、生理活性物質Dと特異的に結合する化合物Aを選別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の化合物の中から、1の生理活性物質と特異的に結合するものを選別するスクリーニング方法、及び、スクリーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質などの生理活性物質と所定の化合物との相互作用を測定する装置として、様々なバイオセンサーが提案されている。そのうち、エバネッセント波を利用した測定装置の1つとして、表面プラズモンセンサーが知られている(特許文献1参照)。一般的に、表面プラズモンセンサーは、プリズムと、このプリズムの一面に配置され生理活性物質が固定される金属膜と、光ビームを発生させる光源と、光ビームをプリズムに対して、プリズムと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、界面で全反射した光ビームの強度を検出する光検出手段と、を備え、光検出手段の検出結果に基づいて、生理活性物質に関する測定を行うものである。そして、この表面プラズモンセンサーによる測定では、金属膜の上に固定化された生理活性物質に対して化合物溶液を供給すると共に、金属膜の化合物溶液が供給されている側と逆側の面へ光ビームを入射し、その反射光から得られる屈折率の情報に基づいて、生理活性物質と化合物溶液中の化合物との相互作用が測定される。
【0003】
上記の表面プラズモンセンサーは、金属膜上での化合物間の微細な結合状態を精度よく検出することができるため、特定の生理活性物質を金属膜に固定し、この生理活性物質に対して特異的に結合可能か否かを指標として、大量の化合物を選別する大規模なスクリーニングに好適である。
【0004】
大量の化合物を選別するために、固定された1の生理活性物質を何度も使用して異なる化合物との間で測定が行われる場合がある。この場合、1の化合物を供給して生理活性物質と化合物との結合量の測定が行われ、その後洗浄が行われて前の化合物を除去し、次の化合物が供給される。この測定−洗浄という測定洗浄プロセスが繰り返されて、特異的結合が認められる化合物が選別される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
【特許文献1】特許第3294605公報 ところで、生理活性物質の活性は、上記の測定−洗浄が繰り返されている間、一定ではなく変化していると考えられ、この活性変化を考慮して選別を行う必要がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、生理活性物質と特異的に結合される化合物をより正確に選別することの可能なスクリーニング方法、及び、スクリーニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載のスクリーニング方法は、固定された生理活性物質へ化合物を供給し、前記生理活性物質と前記化合物との結合量を測定し、前記生理活性物質へ供給された前記化合物を前記測定後に洗浄するという測定洗浄プロセスを、1つの生理活性物質について異なる複数の化合物毎に繰り返して行うことにより、特定の化合物を選別するスクリーニング方法であって、最初の前記測定洗浄プロセスの開始前から最後の前記測定洗浄プロセスの終了後までに少なくとも2回、前記生理活性物質の活性値を検出する活性測定を行い、前記活性測定により得られた前記生理活性物質の活性値に基づいて、前記生理活性物質の活性変化を示す活性変化関係を求め、前記活性変化関係に基づいて前記生理活性物質と前記化合物との結合量を補正して補正後結合量を求め、前記補正後結合量に基づいて、前記生理活性物質に対する特定の化合物を選別するものである。
【0008】
本発明のスクリーニング方法では、最初の測定洗浄プロセスの開始前から最後の測定洗浄プロセスの終了後までに少なくとも2回、生理活性物質の活性値を検出する活性測定を行う。この活性測定により、その活性測定時における生理活性物質の活性値が検出される。生理活性物質の活性値は、経時と共に、また、測定洗浄プロセスを繰り返す度に、変化する。そこで、検出された活性値に基づいて、生理活性物質の活性変化を示す活性変化関係を求める。活性変化関係は、生理活性物質の経時変化であってもよいし、測定洗浄プロセスの回数に応じた変化であってもよい。
【0009】
この活性変化関係に基づいて生理活性物質と前記化合物との結合量の補正を行う。そして、補正により得られた補正後結合量に基づいて、生理活性物質に対する特定の化合物を選別する。
【0010】
本発明によれば、生理活性物質の活性変化に着目し、この活性変化を考慮して生理活性物質と化合物との結合量を補正するので、生理活性物質と特異的に結合される化合物をより正確に選別することができる。
【0011】
請求項2に記載のスクリーニング方法は、前記活性測定を、少なくとも最初の前記測定洗浄プロセスの開始前と、最後の前記測定洗浄プロセスの終了後に行うこと、を特徴とする。
【0012】
生理活性物質の活性は、経時、測定洗浄プロセスの繰り返しにより低下することが考えられる。そこで、最初の測定洗浄プロセスの開始前に活性測定を行うことにより、最も活性値の高い生理活性物質の活性値を得ることができる。また、最後の測定洗浄プロセスの開始後に活性測定を行うことにより、最も活性値の低い生理活性物質の活性値を得ることができる。したがって、当該生理活性物質の活性値は、この2点の間にあると予想でき、活性変化関係をより正確に求めることができる。
【0013】
請求項3に記載のスクリーニング方法は、前記活性変化関係が、前記活性値の経時変化を示すものであり、測定開始前の前記活性値を新規活性値KN、当該測定が行われた時間の活性値を活性値KT、測定により得られた結合量を測定結合量S、とすると、前記補正後結合量Hを、H=S/(KT×KN)で求めること、を特徴とする。
【0014】
上記のようにして、経時に応じた生理活性物質の活性値により、結合量を補正して補正後結合量を求めることができる。
【0015】
請求項4に記載のスクリーニング装置は、生理活性物質が固定され、前記生理活性物質上に液体を貯留可能な液溜め部の形成された測定チップと、前記液溜め部へ化合物を供給し、前記生理活性物質と前記化合物との結合量を測定した後に前記生理活性物質へ供給された前記化合物を洗浄する測定洗浄プロセスを1つの生理活性物質について異なる複数の化合物毎に繰り返して行う測定洗浄手段と、最初の前記測定洗浄プロセスの開始前から最後の前記測定洗浄プロセスの終了後までに少なくとも2回、前記生理活性物質の活性値を検出する活性測定手段と、前記活性測定手段により検出された前記生理活性物質の活性値に基づいて、前記生理活性物質の活性変化を示す活性変化関係を求める活性変化関係算出手段と、前記活性変化関係に基づいて前記生理活性物質と前記化合物との結合量を補正して補正後結合量を求める結合量補正手段と、前記補正後結合量に基づいて、前記生理活性物質に対する特定の化合物を選別する選別手段と、を備えている。
【0016】
本発明のスクリーニング装置は、測定チップを供えている。測定チップには、生理活性物質が固定されており、この生理活性物質上に液体を貯留可能な液溜め部が形成されている。液溜め部は、キュベット方式で液体を貯留するのものでも、流路が構成されて液体が流入・流出されるものでもよい。
【0017】
スクリーニングは、測定洗浄手段によって液溜め部へ化合物を供給し、生理活性物質と化合物との結合量を測定した後に前記生理活性物質へ供給された前記化合物を洗浄する測定洗浄プロセスを1つの生理活性物質について異なる複数の化合物毎に繰り返すことにより行われる。
【0018】
活性測定手段では、最初の測定洗浄プロセスの開始前から最後の測定洗浄プロセスの終了後までに少なくとも2回、生理活性物質の活性値を検出する。検出された生理活性物質の活性値に基づいて、活性変化関係算出手段により生理活性物質の活性変化を示す活性変化関係を求める。活性変化関係は、前述のように、生理活性物質の経時変化であってもよいし、測定洗浄プロセスの回数に応じた変化であってもよい。
【0019】
そして、活性変化関係に基づいて、結合量補正手段により生理活性物質と化合物との結合量を補正して補正後結合量を求め、選別手段により、補正後結合量に基づいて、生理活性物質に対する特定の化合物を選別する。
【0020】
上記スクリーニング装置によれば、生理活性物質の活性変化に着目し、この活性変化を考慮して生理活性物質と化合物との結合量が補正されるので、生理活性物質と特異的に結合される化合物をより正確に選別することができる。
【0021】
請求項5に記載のスクリーニング装置は、前記液溜め部へ供給された液体を回収する回収手段をさらに備えている。
【0022】
このように、回収手段を備えることにより、液溜め部へ活性測定試料を供給して生理活性物質反応させた後、反応後の活性測定試料を回収し、回収した活性測定試料を用いて活性値を測定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上記構成としたので、生理活性物質と特異的に結合される化合物をより正確に選別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0025】
本実施形態のスクリーニング装置としてのバイオセンサー10は、金属膜の表面に発生する表面プラズモンを利用して、生理活性物質Dと化合物との相互作用を測定する、いわゆる表面プラズモンセンサーである。本実施形態では、このバイオセンサー10を、生理活性物質Dと特異的に結合する化合物を大量の化合物Aの中から選別するために使用される。
【0026】
図1に示すように、バイオセンサー10は、トレイ保持部12、搬送部14、容器載置台16、液体吸排部20、光学測定部54及び制御部60を備えている。
【0027】
トレイ保持部12は、載置台12A及びベルト12Bを含んで構成されている。載置台12Aは、矢印Y方向に架け渡されたベルト12Bに取り付けられており、ベルト12Bの回転により矢印Y方向に移動可能とされている。載置台12A上には、2枚のトレイTが位置決めして載置される。トレイTには、センサースティック40が8本収納されている。センサースティック40は、生理活性物質Dが固定されるチップであり、詳細については後述する。載置台12Aの下には、センサースティック40を後述するスティック保持部材14Cの位置まで押し上げるための押上機構12Dが配置されている。
【0028】
センサースティック40は、図2及び図3に示すように、誘電体ブロック42、流路部材44、及び、保持部材46、で構成されている。
【0029】
誘電体ブロック42は、光ビームに対して透明な透明樹脂等で構成されており、断面が台形の棒状とされたプリズム部42A、及び、プリズム部42Aの両端部にプリズム部42Aと一体的に形成された被保持部42Bを備えている。プリズム部42Aの互いに平行な2面の内の広い側の上面には、金属膜57が形成されている。誘電体ブロック42は、いわゆるプリズムとして機能し、バイオセンサー10での測定の際には、プリズム部42Aの対向する互いに平行でない2つの側面の内の一方から光ビームが入射され、他方から金属膜57との界面で全反射された光ビームが出射される。
【0030】
金属膜57の表面には、図4に示すように、リンカー層57Aが形成されている。リンカー層57Aは、生理活性物質Dを金属膜57上に固定化するための層である。
【0031】
プリズム部42Aの両側面には、上側の端辺に沿って保持部材46と係合される係合凸部42Cが形成されている。また、プリズム部42Aの下側には、側端辺に沿って図示しない搬送用レールと係合されるフランジ部42Dが形成されている。
【0032】
図3に示すように、流路部材44は、6個のベース部44Aを備え、ベース部44Aの各々に4本の円筒部材44Bが立設されている。ベース部44Aは、3個のベース部44A毎に、立設された円筒部材44Bのうちの1本の上部が連結部材44Dによって連結されている。流路部材44は、軟質で弾性変形可能な材料、例えば非晶質ポリオフィレンエラストマーで構成されている。
【0033】
ベース部44Aには、図5及び図6に示すように、底面側に略S字状の2本の流路溝44Cが形成されている。流路溝44Cは、端部の各々が1の円筒部材44Bの中空部と連通されている。ベース部44Aは、底面が誘電体ブロック42の上面と密着され、流路溝44Cと誘電体ブロック42の上面との間に構成される空間と前記中空部とで、液体流路45が構成される。1個のベース部44Aには、2本の液体流路45が構成される。各々の液体流路45において、円筒部材44Bの上端面に液体流路45の出入口43が構成される。
【0034】
ここで、2本の液体流路45のうち、1本は測定流路45Aとして用いられ、他の1本は参照流路45Rとして用いられる。測定流路45Aの金属膜57上には生理活性物質Dが固定され、参照流路45Rの金属膜57上には生理活性物質Dが固定されない状態で測定が行われる。測定流路45A及び参照流路45Rには、図5に示すように、各々光ビームL1、L2が入射される。光ビームL1、L2は、ベース部44Aの中心寄りに配置されるS字の屈曲部分に照射される。以下、流路45Aにおける光ビームL1の照射領域を測定領域E1、流路45Rにおける光ビームL2の照射領域を参照領域E2という。参照領域E2は、生理活性物質Dの固定された測定領域E1から得られるデータを補正するための測定を行う領域である。
【0035】
保持部材46は、長尺とされ、上面部材47及び2枚の側面板48が蓋状に構成された形状とされている。側面板48には、誘電体ブロック42の係合凸部42Cと係合される係合孔48C、及び、光ビームL1、L2の光路に対応する部分に窓48Dが形成されている。保持部材46は、係合孔46Cと係合凸部42Cとが係合されて、誘電体ブロック42に取り付けられる。なお、流路部材44は、後述するように保持部材46と一体成形されており、保持部材46と誘電体ブロック42の間に配置される。
【0036】
上面部材47には、流路部材44の円筒部材44Bに対応する位置に、受部49が形成されている。受部49は、図4に示すように、略円筒状とされ、中空の下部分に円筒部材44Bが配置されている。また、前記中空の円筒部材44Bよりも上側に、出入口43と連通する凹部49Aが構成されている。凹部49Aには、ピペットチップ50が挿入される。
【0037】
保持部材46は、流路部材44よりも硬質の材料、例えば、晶質ポリオフィレンで構成されている。
【0038】
ピペットチップ50は、図6に示すように、略錐筒状とされ、先端部51、本体部52、及び保持部53で構成されている。先端部51は円筒状とされ、挿入方向の最先端に液体を吐出または吸入する開口51Aが構成されている。本体部52は、先端部51より外周が大径の錐筒状とされ、先端部51との間に外周段差部52Aが構成されている。外周段差部52Aは、先端部51側が小径のテーパー状とされている。保持部53は、本体部52よりも外周が大径とされ、本体部52との間に保持段差部53Aが構成されている。保持段差部53Aは、不図示の保持孔の構成された上面板を有するピペットチップストッカにピペットチップ50を保持する際に用いられる部分である。
【0039】
受部49の凹部49Aは、流路部材44側の第1内壁部49B及び、第2内壁部49Cで囲まれて構成されている。第1内壁部49Bは、ピペットチップ50の挿入方向Zが、ピペットチップ50の先端部51よりも僅かに長く、先端部51の外径よりも僅かに大径とされ、先端部51に沿った形状とされている。
【0040】
第2内壁部49Cは、第1内壁部49Bとの間の内周段差部49D、内周段差部49Dと隣接する中央内壁部49E、最上部の上部内壁部49Fで構成されている。内周段差部49Dは、第1内壁部49Bから連続され、ピペットチップ50の外周段差部52Aに沿って上方が大径となるテーパー状とされている。中央内壁部49Eは、内周段差部49Dと連続され、ピペットチップ50の上方が大径となるテーパー状とされている。上部内壁部49Fは、中央内壁部49Eと連続され、ピペットチップ50の上方がさらに大径となるテーパー状とされている。
【0041】
保持部材46と流路部材44とは、同一金型内で異材料同士を組み合わせて成形する、いわゆる二色成形法(ダブルモールド)によって一体成形されている。
【0042】
図1に示すように、バイオセンサー10の搬送部14は、上部ガイドレール14A、下部ガイドレール14B、及び、スティック保持部材14C、を含んで構成されている。上部ガイドレール14A及び下部ガイドレール14Bは、トレイ保持部12及び光学測定部54の上部で、矢印Y方向と直交する矢印X方向に水平に配置されている。上部ガイドレール14Aには、スティック保持部材14Cが取り付けられている。スティック保持部材14Cは、センサースティック40の両端部の被保持部42Bを保持可能とされていると共に、上部ガイドレール14Aに沿って移動可能とされている。スティック保持部材14Cに保持されたセンサースティック40の係合溝42Eと下部ガイドレール14Bとが係合され、スティック保持部材14Cが矢印X方向に移動することにより、センサースティック40が光学測定部54上の測定部56に搬送される。また、測定部56には、測定時にセンサースティック40を押さえる押さえ部材58が備えられている。押さえ部材58は、図示しない駆動機構によりZ方向に移動可能とされ、測定部56に配置されたセンサースティック40を上側から押圧する。
【0043】
容器載置台16には、アナライト溶液プレート17、バッファー液ストック容器18、廃液容器19が載置されている。アナライト溶液プレート17は、マトリクス状に区画されており、各種のアナライト溶液がストックされている。バッファー液ストック容器18は、複数の容器で構成されており、複数種類の異なる屈折率のバッファー液がストックされている。バッファー液ストック容器18には、後述するピペットチップ50を挿入可能な開口Kが形成されている。廃液容器19は、複数の容器で構成されており、バッファー液ストック容器と同様にピペットチップ50を挿入可能な開口Kが形成されている。
【0044】
液体吸排部20は、図1に示すように、ヘッド24、及び、吸排駆動部26を含んで構成されている。ヘッド24は、図示しない搬送レールに沿って矢印Y方向(図1参照)に移動可能とされている。また、ヘッド24は、ヘッド24内部の図示しない駆動機構により、鉛直方向(矢印Z方向)にも移動可能とされている。
【0045】
ヘッド24での液体流路45への液体の供給は、2本のピペットチップ50を1つの液体流路45の2つの開口へ各々挿入し、一方のピペットチップ50から液体を吐出させると共に、他方のピペットチップ50で液体流路45中の液体を吸引することにより行われる。
【0046】
なお、本実施形態においてはセンサースティック40への液体供給はピペットチップCPにより行われるが、ピペットチップの代わりに、一端が上記各溶液プレートに接続され、他端がセンサースティック40に接続可能とされたインジェクションチューブを設け、送液ポンプにより液体の供給を行ってもよい。
【0047】
光学測定部54は、図7に示すように、光源54A、第1光学系54B、第2光学系54C、受光部54D、信号処理部54Eを含んで構成されている。光源54Aからは、発散状態の光ビームLが出射される。光ビームLは、第1光学系54Bを介して、2本の光ビームL1、L2となり、測定部56に配置された誘電体ブロック42の測定領域E1と参照領域E2に入射される。測定領域E1及び参照領域E2において、光ビームL1、L2は、金属膜50と誘電体ブロック42との界面に対して種々の入射角成分を含み、かつ全反射角以上の角度で入射される。光ビームL1、L2は、誘電体ブロック42と金属膜50との界面で全反射される。全反射された光ビームL1、L2も、種々の反射角成分をもって反射される。この全反射された光ビームL1、L2は、第2光学系54Cを経て受光部54Dで受光されて、各々光電変換され、光検出信号が信号処理部54Eへ出力される。信号処理部54Eでは、入力された光検出信号に基づいて所定の処理が行なわれ、測定領域E1の測定データG1及び参照領域E2の参照データG2が求められる。この測定データG1、参照データG2が制御部60へ出力される。
【0048】
制御部60は、バイオセンサー10の全体を制御する機能を有し、図7に示すように、光源54A、信号処理部54E及びバイオセンサー10の図示しない駆動系と接続されている。制御部60は、図8に示すように、バスBを介して互いに接続される、CPU60A、ROM60B、RAM60C、メモリ60D、及びインターフェースI/F60Eを有し、各種の情報を表示する表示部62及び、各種の指示、情報を入力するための入力部64と接続されている。
【0049】
メモリ60Dには、バイオセンサー10を制御するための各種プログラムや、各種データが記憶されている。
【0050】
また、制御部60には、活性測定部63が接続されている。活性測定部63は、生理活性物質Dの活性値Kを測定するための部分である。光学測定部54の上部には、液体流路45から回収された活性測定試料を注入して、活性測定を行うための活性測定試料回収容器13が配置されている。この活性測定試料回収容器13に回収された活性測定試料の蛍光度を計測することにより、生理活性物質Dの活性値Kが計測される。
【0051】
活性値Kは、経時や測定洗浄ステップの繰り返しにより、低下する。図16には、p38kinaseに対する阻害剤(SB203580)の結合量が、測定洗浄ステップの繰り返しにより低下していくデータが示されている。1〜44回の測定洗浄ステップを繰り返したところ、1回目の活性値Kを100とすると、44回目では81.5%にまで低下していることがわかる。そこで、本実施形態では、この生理活性物質Dの活性値K低下を考慮して、スクリーニングを行う。
【0052】
次に、本実施形態のバイオセンサー10でのスクリーニングについて説明する。
【0053】
本実施形態では、1本のセンサースティック40の各々の液体流路45に1種類の生理活性物質Dが固定されている。スクリーニングでは、センサースティック40に配された液体流路45に、異なる種類の化合物溶液YAを供給して結合量の測定を行い、その後洗浄処理を行って生理活性物質Dから化合物Aを除去し、次の化合物溶液YAを供給して結合量の測定を行い、その後洗浄処理を行うという、測定洗浄プロセスが複数回(N回)繰り返される。
【0054】
そして、最初の測定洗浄プロセスが開始される前から、最後の洗浄プロセスが終了した後までの間に少なくとも2回、生理活性物質Dの活性測定が行われる。本実施形態では、最初の測定洗浄プロセスが開始される前、最初の測定洗浄プロセスが開始されてから所定時間経過毎、最後の洗浄プロセスが終了した後に活性測定を行うこととする。
【0055】
センサースティック40が測定部56へ搬送され、入力部64から測定開始の指示が入力されると、制御部60では、図9に示すスクリーニング処理が実行される。
【0056】
スクリーニング処理では、まず、ステップS10で、活性測定処理が行われる。活性測定の方法としては、酵素活性を測定する方法及びレセプター活性を測定する方法を挙げることができる。
【0057】
酵素活性の測定原理については蛋白質、酵素の基礎実験法(堀尾武一、山下仁平)第IV章に記載されている。また、検出方法としては(1)分光学的測定法、(2)蛍光法(3)電極法、(4)発光法等があり、例えば新生化学実験講座 蛋白質 V、酵素免疫測定法 第3版、エンザイムイムノアッセイ 生化学実験法等に記載されている方法等も使用することができる。
【0058】
例えば、蛍光法により酵素活性を測定する場合には、酵素に特異的な基質(酵素による分解物のみが蛍光を発する基質)を反応させ、分解物の蛍光測定を行うことにより酵素活性を測定することができる。
【0059】
分光学的測定法により酵素活性を測定する場合には、基質と生成物との間に分光学的性質の差があることを利用して、その時間的変化を測定し、酵素反応の初速度を求めることで酵素活性を測定することができる。
【0060】
電極法により酵素活性を測定する場合には、自動滴定装置を利用した方法で、酵素反応を含めて化学反応に伴って生成される酸あるいは塩基による試料溶液のpH変化を電気的に検出することで酵素活性を測定することができる。
【0061】
発光法により酵素活性を測定する場合には、抗体ないし抗原に酵素標識しておき、抗原抗体反応後、酵素に特異的な化学発光基質(酵素による分解物のみが化学発光する基質)を反応させ、分解物の化学発光測定することで酵素活性を測定することができる。
【0062】
レセプター活性を測定する場合には、支持体上に固定されている1種類以上のレセプターまたはリガンドと抗原標識されたリガンドまたはレセプターを含む検体とを接触させた後に、支持体上に固定されている1種類以上のレセプターまたはリガンドに結合した抗原標識されたリガンドまたはレセプターと、該抗原に対する抗体(例えば、検出のための酵素で標識した抗体など)とを接触させて抗原抗体反応を行い、これにより結合した抗体の存在を検出することにより、検体中のリガンドまたはレセプターを検出することができる。
【0063】
本実施形態では、上記の内、分解物の蛍光測定を行うことにより酵素活性を測定することとする。活性測定処理は、図10に示すように、ステップS12で、活性測定試料供給信号が出力される。これにより、ヘッド24が駆動され、バッファー液等容器18に収容されている活性測定試料がピペットチップCPによって液体流路45へ供給される。次に、ステップS13で、この処理が行われている活性測定時間Tを記憶する。この活性測定時間Tは、活性測定処理が実行される毎にT0、T1、T2…として記憶される。ステップS14で、所定時間経過するまで待機する。ここでの所定時間は、酵素により活性測定試料中の基質が分解されるのに必要な時間である。所定時間経過後に、ステップS15で、活性測定試料回収信号が出力される。これにより、液体流路45中の活性測定試料が回収される。この回収は、ヘッド24の2本のピペットチップCPを液体流路45へ差し込み、一方のピペットチップCPからバッファー液を注入すると共に、他方のピペットチップCPから活性測定試料を吸引し、吸引した活性測定試料を活性測定試料回収容器13へ注入することにより行われる。そして、ステップS16で、活性測定部63へ活性値Kの計測指示信号が出力される。これにより、活性測定部63では、回収された活性測定試料の蛍光度が計測され、計測結果が活性値Kとして制御部60へ出力される。制御部60では、ステップS17で活性値Kの入力が行われるまで待機し、入力が行われれば、ステップS18で、入力された値をステップ13で記憶された時間に対応させてメモリ60Dに記憶する。
【0064】
上記活性測定処理により、ある時間における生理活性物質Dの活性値Kが記憶される。
【0065】
次に、図9のステップS20の、結合量測定処理が行われる。結合量測定処理では、図11に示すように、まず、ステップS22で、化合物溶液YAの供給指示信号が出力される。これにより、ヘッド24が駆動され、化合物溶液プレート17に収容されている1の化合物溶液YAがピペットチップCPによって液体流路45へ供給される。次に、ステップS23で、測定データG1、参照データG2を取得し、ステップS24で測定データG1を参照データで補正して結合量データG3を求める。そして、ステップS25で、結合量データG3を、得られた時間に対応させてメモリ60Dに記憶する。
【0066】
上記結合量測定処理により、1つの化合物Aについての結合量データG3が測定された時間と共に記憶される。
【0067】
次に、図9のステップS30の、洗浄処理が行われる。洗浄処理は、図12に示すように、まず、ステップS32で、バッファー液の流入指示信号が出力される。これにより、ヘッド24が駆動され、バッファー液等プレート18に収容されているバッファー液が一方のピペットチップCPによって液体流路45へ供給されると共に、他方のピペットチップCPによって吸引され、液体流路45中をバッファー液が流れる。次に、ステップS33で、所定量のバッファー液が供給されたがどうかを判断する。ここでの所定量は、化合物Aを生理活性物質Dから解離させるために十分な量であり、バッファー液の流入時間により規定してもよい。所定量のバッファー液が供給されたと判断されれば、ステップS34でバッファー液の供給停止信号を出力する。これにより、バッファー液の供給が停止され、液体流路45の洗浄が終了する。
【0068】
上記洗浄処理により、生理活性物質Dから化合物Aが除去され、次の化合物溶液YAでの測定が可能な状態となる。
【0069】
次に、図9のステップS40で、N回目の結合量測定処理が終了したかどうか、すなわち、1の生理活性物質Dに対して繰り返し行われる測定洗浄ステップがすべて終了したかどうかを判断する。まだ、すべての測定洗浄ステップが終了していない場合には、ステップS42で、先の活性測定処理から所定時間経過したかどうかを判断する。ここでの所定時間は、活性測定処理が実行される予め定められた時間間隔である。所定時間が経過していれば、ステップS10へ戻り活性測定処理を再度実行する。所定時間が経過していなければ、ステップS20で、次の化合物Aについて結合量測定処理を行う。
【0070】
ステップS40で、すべての測定洗浄ステップが終了していると判断された場合には、ステップS44で、さらに活性測定処理を行う。ここでの活性測定処理は、ステップS10で実行された図10に示す活性測定処理と同様に行われる。
【0071】
ステップS50で、補正処理を行う。補正処理は、得られたすべての化合物Aと生理活性物質Dとの結合量データG3を、生理活性物質Dの活性値Kとの関係で補正するものである。
【0072】
補正処理は、図13に示すように、ステップS52で、メモリ60Dに記憶された生理活性物質Dの活性値Kを読み出し、ステップS54で、測定時間と生理活性物質Dとの間の関係を示す近似直線を算出する。例えば、図14に示すように、1〜N回目の活性測定で活性値K1〜KNが得られたとすると、近似直線Mは、最小二乗法等により求めることができる。ここでの近似直線Mは、活性値Kの経時変化を示す活性変化関係となる。
【0073】
次に、ステップS56で、各化合物Aについて得られた結合量データG3を、近似直線Mに基づいて補正して、補正後結合量データHG3を算出する。補正後結合量データHG3は、最初の活性測定の測定時間T0における活性値を活性値K0、当該結合量データG3が得られた時間の活性値を活性値KT、とすると、式1で求めることができる。
【0074】
HG3 = G3/(KT/K0) …(式1)
ステップS58で、各化合物Aについての補正後結合量データHG3を記憶して本処理を終了する。このようにして、結合量データG3を補正することにより、他の化合物Aとの関係で相対的により正確な結合量を求めることができる。
【0075】
次に、図9に示すステップS60で、選別処理を行う。選別処理は、図15に示すように、ステップS62で、メモリ60Dから補正後結合量データHG3を読み出し、ステップS63で、読み出された補正後結合量データHG3が予め設定された閾値よりも補正後結合量データHG3が大きいかどうかを判断する。補正後結合量データHG3が閾値よりも大きい場合には、ステップS64で、当該化合物Aを候補化合物として抽出する。ステップS65で、次の化合物Aがあるかどうかを判断し、次の化合物が有る場合には、ステップS62へ戻って上記処理を繰り返す。次の化合物Aがない場合には、すべての化合物Aについての選別が終了したため、本処理を終了する。
【0076】
本実施形態によれば、補正後結合量データHG3に基づいて、生理活性物質Dと特異的に結合される化合物Aを選別するので、より正確な選別を行うことができる。
【0077】
なお、本実施形態では、活性測定処理を、1つの生理活性物質Dについて、まず最初の結合量測定処理の前に行い、その後所定時間経過毎に行い、さらに、最後の結合量処理の後に行ったが、活性測定処理は、1つの生理活性物質Dについて、少なくとも2回行い、2回の活性値Kに基づいて活性変化関係を求めてもよい。ただし、より正確な活性変化関係を得るため、少なくとも最初の結合量測定処理の前、及び、最後の結合量処理の後に行うことが好ましい。
【0078】
また、活性変化関係は、必ずしも近似直線でなくてもよく、複数回の活性測定から得られた活性値Kに基づく曲線であってもよい。
【0079】
また、本実施形態では、経時による活性変化で結合量データG3を補正したが、測定洗浄プロセスの回数に応じた活性変化関係を求め、この活性変化関係に基づいて結合量データG3を補正してもよい。
【0080】
なお、本発明の実施形態では、バイオセンサーとして、表面プラズモンセンサーを一例として説明したが、バイオセンサーとしては、表面プラズモンセンサーに限定されるものではない。その他の例えば、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した光学的測定技術など、あらゆるバイオセンサーを用いた場合に、本発明を適用することができる。
【0081】
また、全反射減衰を利用する他のバイオセンサーとしては、漏洩モード検出器をあげることができる。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、表面プラズモン共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射光の減衰を検出することにより、前記センサ面上の反応を測定することができる。
【実施例】
【0082】
次に、上記実施形態で説明したバイオセンサー10を用いて実際にスクリーニングを行った実施例について説明する。
【0083】
(1)測定チップ(センサースティック)の作成
金属膜57として50nmの金が蒸着された誘電体ブロック42をModel−208UV−オゾンクリーニングシステム(TECHNOVISION INC.)で30分間処理した後、エタノール/水(80/20:容量比)で溶解した16−ヒドロキシ−1−ヘキサデカンチオールの1.0mM溶液を金属膜に接触するように添加し、25℃で1時間表面処理を行った。その後、エタノールで5回、エタノール/水混合溶媒で1回、水で5回洗浄を行った。
【0084】
次に、16−ヒドロキシ−1−ヘキサデカンチオールで被覆した表面に10重量(質量)%のエピクロロヒドリン溶液(溶媒:0.4M水酸化ナトリウム及びジエチレングリコールジメチルエーテルの1:1混合溶液)を接触させ、25℃の振盪インキュベーター中で4時間反応を進行させた。その後、表面をエタノールで2回、水で5回洗浄した。次に、25重量%のデキストラン(T500,Pharmacia)水溶液40.5mlに4.5mlの1M水酸化ナトリウムを添加し、その溶液をエピクロロヒドリン処理表面上に接触させた。次に振盪インキュベーター中で、25℃で20時間インキュベートした。表面を50℃の水で10回洗浄した。続いて、ブロモ酢酸3.5gを27gの2M水酸化ナトリウム溶液に溶解した混合物を上記デキストラン処理表面に接触させて、25℃の振盪インキュベーターで16時間インキュベートした。表面を水で洗浄し、その後同様のブロモ酢酸処理をさらに1回繰り返した。
(2)蛋白質の固定化
以下に示す手順で、(1)で作成したヒドロゲル被覆測定チップにp38MAPキナーゼ(CALBIOCHEM社製、#559324)を固定化した。
【0085】
まず、酢酸バッファー(pH5.5)を用いて、p38MAPキナーゼ100μg/ml、および化合物1 10μMを含む蛋白質溶液を調製する。ランニングバッファーは、以下の組成とした:50mMリン酸バッファー(pH7.2)/150mM NaCl/3.4mM EDTA。
【0086】
まず、ヒドロゲル被覆チップに、ランニングバッファーを添加し、ベースラインをとる。次に、1−エチル−2,3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(400mM)とN−ヒドロキシスクシンイミド(100mM)との混合液を添加し、15分間静置後、ランニングバッファーで洗浄する。次に、作成した蛋白質溶液を添加し20分間静置後、PBSバッファー(pH7.4)で洗浄する。更に、エタノールアミン・HCl溶液(1M,pH8.5)を添加し、15分静置後、ランニングバッファーで3回洗浄する。最初のベースラインからの信号変化分をp38MAPキナーゼの固定量(RU)とする。p38MAPキナーゼの固定量は3400RUであった。
(3)化合物の結合測定
蛋白質を固定化した測定チップを、表面プラズモン共鳴測定装置にセットし、化合物1の結合測定を以下のようにして行った。ここで、化合物1は、p38MAPキナーゼの活性を阻害することが知られている化合物である。
【0087】
以下の組成のランニングバッファーを作成する:50mMリン酸バッファー(pH7.2)/150mM NaCl/3.4mM EDTA/DMSO 5容量%。
【0088】
次に、ランニングバッファーに化合物1が10μMになるように溶解する。次に、ヒドロゲル被覆チップにランニングバッファーを添加し、ベースラインをとる。次に、調製した化合物溶液を添加して2分間静置後の信号変化分を、各化合物の結合量(RU)とする。最後にランニングバッファーを添加して、30秒、3回洗浄する。
【0089】
この操作を、同一の蛋白固定表面に対して、44回繰り返し行った。測定結果を図17に示す。1回目の結合量が14.1RU、44回目が11.5RUであり、この間、結合量が約18%低下している。
【0090】
【化1】

〔実施例2〕
(1)蛋白の活性測定
実施例1で作成したp38MAPキナーゼを固定化した表面について、実施例1に記載されている化合物1の結合測定を行う前と44回測定後の2回、以下の方法で固定化されたp38MAPキナーゼの活性を測定した。
【0091】
p38MAPキナーゼを固定した表面と固定していない表面を実施例1の方法で作成する。それぞれにKinase Assay Buffer (50 mM Tris HCl buffer pH7.4, 20μM Myelin basic protein, 10 μM ATP, 20 mM MgCl2)を50μl加える。同時に、p38MAPキナーゼを25 ng, 50 ng, 100 ng, 200 ng用意し、それぞれに50 μl のKinase Assay Bufferを加えて以下同様の手順を行い、校正用として用いる。Kinase Assay Bufferを添加後、室温で1時間インキュベーションし、反応液を96ウエルプレートに移す。各ウエルにKinaseGlo Reagent (Promega社)を50 μl加え、室温で10分インキュベーションした後、LAS1000 (富士写真フイルム)にて残存ATP依存性の発光を測定する。蛋白を固定していない表面の発光をバックグランドとし、固定化したp38MAPキナーゼの発光量を算出する。
【0092】
実施例1の方法でSPR測定により算出したp38MAPキナーゼ固定量、前記の固定化したp38MAPキナーゼの発光量を用いて、校正用p38MAPキナーゼの活性を100%とした場合の、固定化したp38MAPキナーゼの活性を算出した。
(計算式)
固定化したp38MAPキナーゼの活性(%)=(固定化したp38MAPキナーゼの発光量/固定化したp38MAPキナーゼの固定量と同一量に相当する校正用p38MAPキナーゼの発光量)×100
結合測定を行う前と44回測定後の2回の各々における活性p38MAPキナーゼの活性に基づいて、各測定時における結合量を校正するための校正直線を求め、この校正直線に基づいて、結合量の校正を行うことができる。
【0093】
化合物1の結合測定を行う前のp38MAPキナーゼの活性は45%、44回測定後のp38MAPキナーゼの活性は35%であった。この間、活性が約22%低下しており、実施例1の化合物1の結合量の低下の度合いとほぼ一致することがわかった。
これらのことから、蛋白同一固定表面で繰り返し化合物結合量を行う場合、化合物結合測定前後の蛋白の活性を測定し、その低下の度合いで化合物の結合量の補正を行うことが極めて有効であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本実施形態にかかるバイオセンサーの全体斜視図である。
【図2】本実施形態にかかるセンサースティックの斜視図である。
【図3】本実施形態のセンサースティックの分解斜視図である。
【図4】本実施形態のセンサースティックの1の液体流路部分の断面図である。
【図5】本実施形態のセンサースティックの測定領域、参照領域へ光ビームが入射している状態を示す図である。
【図6】(A)〜(C)は本実施形態にかかる液体供給部を構成するピペット部の側面図である。
【図7】本実施形態にかかるバイオセンサーの光学測定部付近の概略図である。
【図8】本実施形態にかかる制御部とその周辺の概略ブロック図である。
【図9】本実施形態のスクリーニング処理のフローチャートである。
【図10】本実施形態の活性測定処理のフローチャートである。
【図11】本実施形態の結合量測定処理のフローチャートである。
【図12】本実施形態の洗浄処理のフローチャートである。
【図13】本実施形態の補正処理のフローチャートである。
【図14】本実施形態の測定時間と活性値との関係を示すグラフである。
【図15】本実施形態の選別処理のフローチャートである。
【図16】測定回数と活性値との関係を示すグラフである。
【図17】実施例における、測定回数と蛋白質の活性値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
10 バイオセンサー
45 液体流路
54 光学測定部
60D メモリ
60 制御部
63 活性測定部
D 生理活性物質
E1 測定領域
E2 参照領域
G1 測定データ
G2 参照データ
G3 結合量データ
HG3 補正後結合量データ
K 活性値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された生理活性物質へ化合物を供給し、前記生理活性物質と前記化合物との結合量を測定し、前記生理活性物質へ供給された前記化合物を前記測定後に洗浄するという測定洗浄プロセスを、1つの生理活性物質について異なる複数の化合物毎に繰り返して行うことにより、特定の化合物を選別するスクリーニング方法であって、
最初の前記測定洗浄プロセスの開始前から最後の前記測定洗浄プロセスの終了後までに少なくとも2回、前記生理活性物質の活性値を検出する活性測定を行い、
前記活性測定により得られた前記生理活性物質の活性値に基づいて、前記生理活性物質の活性変化を示す活性変化関係を求め、
前記活性変化関係に基づいて前記生理活性物質と前記化合物との結合量を補正して補正後結合量を求め、
前記補正後結合量に基づいて、前記生理活性物質に対する特定の化合物を選別するスクリーニング方法。
【請求項2】
前記活性測定を、少なくとも最初の前記測定洗浄プロセスの開始前と、最後の前記測定洗浄プロセスの終了後に行うこと、を特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記活性変化関係は、前記活性値の経時変化を示すものであり、測定開始前の前記活性値を新規活性値KN、当該測定が行われた時間の活性値を活性値KT、測定により得られた結合量を測定結合量S、とすると、前記補正後結合量Hを、
H=S/(KT/KN)
で求めること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
生理活性物質が固定され、前記生理活性物質上に液体を貯留可能な液溜め部の形成された測定チップと、
前記液溜め部へ化合物を供給し、前記生理活性物質と前記化合物との結合量を測定した後に前記生理活性物質へ供給された前記化合物を洗浄する測定洗浄プロセスを1つの生理活性物質について異なる複数の化合物毎に繰り返して行う測定洗浄手段と、
最初の前記測定洗浄プロセスの開始前から最後の前記測定洗浄プロセスの終了後までに少なくとも2回、前記生理活性物質の活性値を検出する活性測定手段と、
前記活性測定手段により検出された前記生理活性物質の活性値に基づいて、前記生理活性物質の活性変化を示す活性変化関係を求める活性変化関係算出手段と、
前記活性変化関係に基づいて前記生理活性物質と前記化合物との結合量を補正して補正後結合量を求める結合量補正手段と、
前記補正後結合量に基づいて、前記生理活性物質に対する特定の化合物を選別する選別手段と、
を備えたスクリーニング装置。
【請求項5】
前記液溜め部へ供給された液体を回収する回収手段をさらに備えた請求項4に記載のスクリーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−3030(P2008−3030A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175076(P2006−175076)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】